【裁判所】 |
高松高等裁判所 |
【裁判年月日】 |
平成22年3月18日 |
【見出し】 |
行政文書不開示決定取消請求控訴事件 |
【要旨】
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情報公開法5条1号ただし書ロの規定は,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることがより必要であると認められる情報について,その開示を義務付けるものであり,「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため」とは,「人の生命,健康,生活又は財産」に現実に被害が発生している場合に限られず,これらの法益が侵害されるおそれがある場合も含むと解される。控訴人は,本件行政文書の開示により保護される利益として,基本調査成果図の公開が現在及び将来の国民が安心して豊かな生活を営むことができる経済社会の実現につながり,積極消極両面において公共の福祉が増大することを主張するが,控訴人が主張する上記利益は極めてあいまいで漠然としたものであって,本件全証拠によっても,本件行政文書が不開示とされることによって,これらの利益に関して現実に被害が発生し,又はこれらの利益に係る法益につき侵害のおそれがあると認めるには足りないから,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,本件行政文書を公にすることがより必要であると認めることはできない。
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「地番表示のない補正後の公図情報」でも、補正された公図中の筆界等には世界測地系の座標値が与えられており,これにより補正された公図中の筆界等を現地において復元することが可能である。そして,現在,座標値を有する航空写真等がインターネット等から簡単に入手し得る状況にあることにかんがみれば,当該座標値に対応する現地の航空写真上に補正された公図の筆界等を重ね合わせることも容易であると認められる。このような方法により,補正された公図上の街区と現況の街区との整合状況や街区内部の土地の占有状況を示す境界と補正された公図上の境界との整合状況を知ることが可能であり,これらが整合しない部分があれば,その部分について現況(占有状況)が公法上の境界(筆界)と一致していないことが推測されることになる。かかる事情は,当該土地の資産評価に影響を与え得るものであるから,地番表示のない補正後の公図情報から読み取ることができる情報も,個人の所有地の状況に関する情報として,個人の財産に関する情報に当たるというべきである。
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公図の補正方法が相似形変形又は回転に限定されていることからすれば,法務局に備え付けられている公図(何人もその全部又は一部の写しの交付を請求することができる。不動産登記法120条1項)と地番表示のない補正後の公図情報とを照合することにより,除去された地番を推測することも十分に可能であると認められる。
したがって,地番表示のない補正後の公図情報と公図及び登記事項証明書に記載された情報と照合することにより,地番表示のない補正後の公図情報に表示された土地の権利者の氏名等を識別することができることになるから,地番表示のない補正後の公図情報に表示された情報も,やはり個人識別情報に該当する。
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原判決が判示するとおり,①基本調査成果図の公図部分は,公図上の特定の筆界点を街区点に近づけるという補正が施されたものであって,法令の規定により公にされている公図と同一の情報ということはできないこと,②基本調査成果図上の筆界点には世界測地系による座標値という新たな情報が付加されており,公図と基本調査成果図の公図部分とでは情報の内容が異なること,③人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,本件行政文書を公にすることがより必要であるということはできないことに照らすと,本件行政文書のうち現況図記録部分を除いた部分の情報が同条1号ただし書イ又はロのいずれかに該当すると認めることはできない。なお,本件行政文書のうち現況図記録部分及び地番記録部分を除いた部分も,同様に同条1号ただし書イ又はロのいずれにも該当しない。
【概要】
本件は,控訴人(原告)が行政機関情報公開法に基づいてした、国土交通省が平成16年,17年度に発注した都市街区確認等調査業務の成果品のうち平成17年度変更特記仕様書第2条2(3)2)公図現況重ね図及び第2条5都市再生街区基本調査成果図の東京都23区に関するものの電磁的記録の開示請求について,国土交通大臣が開示しないととした決定に関し,原告が,上記決定のうち都市再生街区基本調査成果図の東京都23区に関するものの電磁的記録を開示しないこととした部分について,違法であるとして,その取消しを求める事案である。原審高松地判平成20年12月1日は、請求を棄却。そこで原告が控訴したのが本件である。控訴棄却。
【上下級審判決】
【同一事案の答申】
【参考となる判決】
【添付文書】