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【裁判所】 最高裁判所
【裁判年月日】 平成30年1月19日

【要旨】
  1. 政策推進費受払簿並びに出納管理簿及び報償費支払明細書のうちそれぞれ政策推進費の繰入れに係る記録部分が開示されても,政策推進費の繰入れがされた時期やその金額,政策推進費の前回の繰入時から今回の繰入時までの期間内における政策推進費の支払合計額等が明らかになるにすぎない。また,出納管理簿のうち月分計等記録部分及び報償費支払明細書のうち繰越記録部分が開示されても,内閣官房報償費の各月における支払合計額及び年度当初から特定の月の月末までの間の支払合計額のほか,年度末における残額が明らかになるにすぎない。  政策推進費の繰入れは,内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を区分する行為にすぎないから,その時期や金額が明らかになっても,その後関係者等に対してされた個々の支払の日付や金額等が直ちに明らかになるものではなく,また,一定期間における政策推進費又は内閣官房報償費全体の支払合計額が明らかになっても,その支払が1度にまとめて行われたのか複数回に分けて行われたのか,支払相手方が1名か複数名かなどについては明らかになるものではないことからすると,上記(1)のような内閣官房報償費に関する情報の性質を考慮しても,これによって内閣が推進しようとしている政策や施策の具体的内容,その支払相手方や具体的使途等を相当程度の確実さをもって特定することは困難であるというほかない。  そうすると,上記の文書及び記録部分に記録された情報は,これを公にすることにより,内閣官房において行う我が国の重要政策等に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるということはできず,また,これを公にすることにより,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断に相当な理由があるということはできない。  したがって,上記情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当しないというべきである。


  2. 報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分が開示された場合,その支払相手方や具体的使途が直ちに明らかになるものではないが,支払決定日や具体的な支払金額が明らかになることから,前記(1)のような内閣官房報償費に関する情報の性質を考慮すれば,当該時期の国内外の政治情勢や政策課題,内閣官房において対応するものと推測される重要な出来事,内閣官房長官の行動等の内容いかんによっては,これらに関する情報との照合や分析等を行うことにより,その支払相手方や具体的使途についても相当程度の確実さをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられる。  そうすると,上記記録部分に記録された情報は,これを公にすることにより,内閣官房において行う我が国の重要政策等に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものと認められ,さらに,上記情報のうち我が国の外交関係や他国等の利害に関係する事項に関するものについては,これを公にすることにより,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断に相当な理由があるものと認められる。  したがって,上記情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当するというべきである。


  3. 山本裁判官の補足意見 情報公開法における部分開示に関しては,最高裁平成13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号530頁(以下「平成13年判決」という。)において説示された「独立一体的情報論」すなわち「『独立した一体的な情報』かどうかを基準として『これを更に細分化してその一部のみを非公開としその余の部分を公開しなければならないものとすることはできない。』とする議論」が引き合いに出されることが多い。原審においても,この検討が行われている。しかし私は,この独立一体的情報論については,第一に,その独立一体と捉える情報の範囲が論者あるいは立場によって異なるばかりか,第二に,情報公開の観点からの個々の情報の牽連性を十分に考慮できないという技術的な問題があることに加えて,第三に,そもそも不開示の範囲が無用に広がり過ぎるおそれがあるという情報公開法の本旨に反する本質的な問題があるように考えている。  最高裁平成19年4月17日第三小法廷判決・裁判集民事224号97頁のB裁判官の補足意見中に,「ある文書上に記載された有意な情報は,本来,最小単位の情報から,これらが集積して形成されるより包括的な情報に至るまで,重層構造を成すのであって・・・行政機関が,そのいずれかの位相をもって開示に値する情報であるか否かを適宜決定するなどということは,およそ我が国の現行情報公開法制の想定するところではない」とあるのは,あるいは,私が上記で述べたようなことを別の表現で指摘したものではないかと推察している。だから私は,ア・プリオリに,独立一体的情報はどこまでかという無用の議論をするのではなく,むしろ「一般的に,文書の場合であれば文,段落等を,図表の場合であれば個々の部分,欄等を単位として,相互の関係性を踏まえながら個々に検討していき,それぞれが情報公開法5条各号に該当するか否かを判断する。」ということで,必要かつ十分であると考えている。



【概要】
【上下級審判決】 【同一事案の答申】 【参考となる判決】 【添付文書】