平成30年1月19日言渡
行政文書不開示決定処分取消請求事件

判      決
 上記当事者間の大阪高等裁判所行政文書不開示決定処分取消請求事件について,同裁判所が平成28年2月24日に言い渡した判決に対し,上告人から上告があった。よって,当裁判所は,次のとおり判決する。

主      文
 原判決中,報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分に関する部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。
 前項の取消部分に関する被上告人の請求を棄却する。
 上告人のその余の上告を棄却する。
 訴訟の総費用は,これを2分し,その1を上告人の負担とし,その余を被上告人の負担とする。

理      由
 上告代理人の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について
 1 本件は,被上告人が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成24年法律第42号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)に基づき,内閣官房内閣総務官に対し,平成21年4月1日から同年9月16日までの内閣官房報償費の支出に関する政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿,報償費支払明細書,領収書,請求書及び受領書(以下,これらを併せて「本件各文書」という。)の開示を請求したところ,これらに記録された情報が同法5条3号及び6号所定の不開示情報に当たるとして,本件各文書を開示しないとする決定(以下「本件決定」という。)を受けたため,本件決定のうち同月1日から同月16日まで(以下「本件対象期間」という。)の内閣官房報償費の支出に関する本件各文書以下「本件対象文書」という。)を不開示とした部分(以下「本件不開示決定部分」という。)の取消しを求める事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1)内閣官房は,内閣法(平成26年法律第22号による改正前のもの)12条1項に基づいて内閣に置かれており,内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務,内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務等をつかさどる(同条2項)ほか,国政上の重要事項についての総合調整,情報の収集及び分析,危機管理等に関する機能を担うものとされている(中央省庁等改革基本法8条2項)。内閣官房には内閣官房長官1人が置かれ(内閣法13条1項),内閣官房長官は,内閣官房の事務を統轄し,所部の職員の服務につき,これを統督するものとされている(同条3項)。
 (2)内閣官房報償費は,内閣官房の行う事務を円滑かつ効果的に遂行するために,当面の任務と状況に応じて機動的に使用することを目的とした経費として,毎年度予算措置が講じられているものである。
 本件対象期間における内閣官房報償費の取扱いについて定めた「内閣官房報償費の取扱いに関する基本方針」(平成14年4月1日内閣官房長官決定),「内閣官房報償費の執行にあたっての基本的な方針」(同21年4月1日取扱責任者内閣官房長官決定)及び「内閣官房報償費取扱要領」(同20年9月24日取扱責任者内閣官房長官決定)によれば,内閣官房報償費の執行は,政策推進費,調査情報対策費及び活動関係費の三つの目的類型ごとに,それぞれの目的に照らして行うものとされている。
 ア 政策推進費は,施策の円滑かつ効果的な推進のため,内閣官房長官としての高度な政策的判断により,機動的に使用することが必要な経費であり,内閣の重要政策の企画立案及び総合調整等に資するために使用される。具体的には,内閣官房長官が,重要政策の関係者等に対し,非公式に交渉や協力依頼等の活動を行う際に合意や協力を得るために支払う対価等として使用される。
 イ 調査情報対策費は,施策の円滑かつ効果的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るために必要とされる経費であり,情報収集等の対価や会合の経費等として使用される。
 ウ 活動関係費は,政策推進,情報収集等の活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これを支援するために必要な経費であり,具体的には,重要政策の関係者等に対する内閣官房長官の交渉,協力依頼,情報収集等の活動に際して必要となる経費,当該活動の相手方等に交付する謝礼,慶弔費等に使用される。
 (3)ア 内閣官房報償費については,取扱責任者である内閣官房長官が内閣官房会計担当内閣参事官に提出する請求書に基づき,国庫からの支出のために必要な手続が行われ,内閣官房長官の手元に移される。
 イ 政策推進費は,内閣官房長官が,国庫から支出された内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を区分した上で(以下,この行為を「政策推進費の繰入れ」という。),自ら出納管理を行い,直接相手方に支払うこととされている。
 内閣官房長官は,政策推進費の繰入れがされる都度並びに会計年度末及び内閣官房長官が交代する際に,政策推進費受払簿を作成し,その支払の管理を行っている。政策推進費受払簿には,第1審判決別紙2のとおり,作成日付及び金額(前回残額,前回から今回までの支払額,今回繰入前の残額,今回繰入額及び現在額計)が記録され,取扱責任者である内閣官房長官の記名押印及び取扱責任者が指名した事務補助者の記名押印がされている。
 ウ 調査情報対策費及び活動関係費については,内閣官房長官が事務補助者をその出納管理に当たらせることとされている。
 内閣官房長官は,調査情報対策費又は活動関係費の1件又は複数の支払に係る支払決定を行う都度,支払決定書を作成し,その支払の管理を行っている。内閣官房長官が指名した事務補助者は,支払決定書に基づき,調査情報対策費又は活動関係費の支払を行う。
 エ 内閣官房長官は,内閣官房報償費全体の出納管理のために,その指名した事務補助者をして出納管理簿に記録させ,自ら又は指名した内閣官房内閣総務官室の職員により,出納管理簿が適正に記録されているかどうかについて確認を行っている。出納管理簿は,月ごとの内閣官房報償費の出納の状況をまとめたもので,更に当該年度に係る累計額を記録して,内閣官房報償費全体を一覧することができるように作成される。出納管理簿は,国庫からの内閣官房報償費の支出(受領)があった際,政策推進費の繰入れの際又は調査情報対策費及び活動関係費の支払決定があった際に,その都度記録される。
 出納管理簿には,第1審判決別紙4のとおり,内閣官房報償費の出納に係る年月日,摘要(使用目的等),受領額,支払額,残額及び支払相手方等のほか,月分計(その月の受領額,支払額の各合計額)及び累計(その年度の受領額,支払額の各累計額及び当該年度の残額。ただし,出納管理簿を月ごとに作成する場合には,会計年度の年度当初から当該月の月末までの受領額,支払額の各累計額及び当該月の月末の残額)が記録され,内閣官房長官が月分計及び累計について確認をした趣旨の押印等がされている。
 オ 内閣官房報償費については,月ごとにその支出を目的類型別に分類し支出額を記録してまとめた報償費支払明細書が会計検査院に提出される。
 報償費支払明細書には,第1審判決別紙5のとおり,同明細書を提出した日付のほか,前月繰越額,本月受入額,本月支払額及び翌月繰越額(以下,これらが記録された部分を「繰越記録部分」という。)並びに取扱責任者である内閣官房長官の氏名が記録されており,さらに,政策推進費の繰入れ並びに調査情報対策費及び活動関係費の各支払に関する一覧表が記録されている。一覧表には,支払年月日,支払金額,使用目的(目的類型別の区分),取扱者名,備考及び支払金額についての合計額の各項目が設けられているが,このうち使用目的欄には具体的な使途等の記録はなく,支払相手方等の氏名又は名称の記録もない。
 (4)被上告人は,平成21年10月,情報公開法に基づき,内閣官房内閣総務官に対し,同年4月1日から同年9月16日までの内閣官房報償費の支出に関する本件各文書の開示を求めたところ,内閣官房内閣総務官は,同年12月14日付けで,被上告人に対し,本件対象期間における内閣官房報償費の支出に関する本件各文書(本件対象文書)について,同法5条3号及び6号所定の不開示情報が記録されているとしてこれを開示しないなどとする本件決定をした。
 3 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断して,本件対象文書のうち政策推進費受払簿,出納管理簿(調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分を除く。)及び報償費支払明細書に係る本件不開示決定部分の取消請求を認容すべきものとした。
 (1)政策推進費受払簿並びに出納管理簿及び報償費支払明細書のうちそれぞれ政策推進費の繰入れに係る記録部分が開示された場合,一定期間内における政策推進費の支払合計額が明らかになるものの,それ以上に政策推進費の支払相手方や具体的使途等の情報が明らかになるものではない。また,出納管理簿のうち月分計部分及び累計部分並びにそれぞれに対する内閣官房長官の確認印部分(以下「月分計等記録部分」という。)や報償費支払明細書のうち繰越記録部分がそれぞれ開示された場合,各月における内閣官房報償費の支払合計額等が明らかになるのみであり,それにより支払相手方や具体的使途が明らかになるわけではない。そうすると,上記の文書及び記録部分に記録された情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当しない。
 (2)報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分には,支払決定の日付,支払決定に係る金額,調査情報対策費及び活動関係費の別等が記録されているにすぎず,上記記録部分が開示されたとしても,支払相手方や具体的使途が明らかになることはないから,上記記録部分に記録された情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当しない。
 4 しかしながら,原審の上記3(1)の判断は是認することができるが,同(2)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 (1)内閣官房は,我が国の国政上の重要事項や内閣の重要政策に関する企画,立案及び総合調整,情報の収集及び分析,危機管理等をつかさどる機関であるところ,これらの事務を的確に行うために,内閣官房は,内閣官房長官によるその時々の政策的判断に基づき,内政上及び外政上の重要政策の関係者に対し非公式に交渉や協力依頼等を行い,あるいは,重要事項につき外部からの情報収集を行うなどの様々な活動に及ぶことがあり,内閣官房報償費は,そのような活動を円滑かつ効果的に遂行するために必要な経費について支出されるものということができる。
 そして,一般に,内閣の行う政策や施策は,我が国の内政及び外政の根幹に関わるものとして,絶えず関心が寄せられるものであり,取り分け内閣官房報償費の支出の対象となるような重要政策等に関しては,特に高度の関心が寄せられ,様々な手段により,これに関連する情報の積極的な収集,分析等が試みられる蓋然性があるものというべきである。
 重要政策等に関して内閣官房から非公式の協力依頼等を受けた関係者は,上記のような事柄の性質上,自らが関与するなどした事実が公にならないことを前提にこれに応じることが通常であると考えられる。そうすると,上記事実に関する情報又はこれを推知し得る情報が開示された場合には,当該関係者からの信頼が失われ,重要政策等に関する事務の遂行に支障が生ずるおそれがあるとともに,内閣官房への協力や情報提供等が控えられることとなる結果,今後の内閣官房の活動全般に支障が生ずることもあり得る。また,このような関係者等の氏名又は名称が明らかになると,これらの者への不正な働き掛けが可能となり,その安全が脅かされたり,情報が漏えいしたりすることによって,内閣官房の活動の円滑かつ効果的な遂行に支障が生ずるおそれもある。
 (2)そこで検討すると,政策推進費受払簿並びに出納管理簿及び報償費支払明細書のうちそれぞれ政策推進費の繰入れに係る記録部分が開示されても,政策推進費の繰入れがされた時期やその金額,政策推進費の前回の繰入時から今回の繰入時までの期間内における政策推進費の支払合計額等が明らかになるにすぎない。また,出納管理簿のうち月分計等記録部分及び報償費支払明細書のうち繰越記録部分が開示されても,内閣官房報償費の各月における支払合計額及び年度当初から特定の月の月末までの間の支払合計額のほか,年度末における残額が明らかになるにすぎない。
 政策推進費の繰入れは,内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を区分する行為にすぎないから,その時期や金額が明らかになっても,その後関係者等に対してされた個々の支払の日付や金額等が直ちに明らかになるものではなく,また,一定期間における政策推進費又は内閣官房報償費全体の支払合計額が明らかになっても,その支払が1度にまとめて行われたのか複数回に分けて行われたのか,支払相手方が1名か複数名かなどについては明らかになるものではないことからすると,上記(1)のような内閣官房報償費に関する情報の性質を考慮しても,これによって内閣が推進しようとしている政策や施策の具体的内容,その支払相手方や具体的使途等を相当程度の確実さをもって特定することは困難であるというほかない。
 そうすると,上記の文書及び記録部分に記録された情報は,これを公にすることにより,内閣官房において行う我が国の重要政策等に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるということはできず,また,これを公にすることにより,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断に相当な理由があるということはできない。
 したがって,上記情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当しないというべきである。
 (3)これに対し,報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分が開示された場合,その支払相手方や具体的使途が直ちに明らかになるものではないが,支払決定日や具体的な支払金額が明らかになることから,前記(1)のような内閣官房報償費に関する情報の性質を考慮すれば,当該時期の国内外の政治情勢や政策課題,内閣官房において対応するものと推測される重要な出来事,内閣官房長官の行動等の内容いかんによっては,これらに関する情報との照合や分析等を行うことにより,その支払相手方や具体的使途についても相当程度の確実さをもって特定することが可能になる場合があるものと考えられる。
 そうすると,上記記録部分に記録された情報は,これを公にすることにより,内閣官房において行う我が国の重要政策等に関する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものと認められ,さらに,上記情報のうち我が国の外交関係や他国等の利害に関係する事項に関するものについては,これを公にすることにより,国の安全が害され,他国等との信頼関係が損なわれ,又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあるとした内閣官房内閣総務官の判断に相当な理由があるものと認められる。
 したがって,上記情報は,情報公開法5条3号又は6号所定の不開示情報に該当するというべきである。
 5 以上によれば,報償費支払明細書のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る記録部分に係る本件不開示決定部分を取り消すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点に関する論旨は理由があり,原判決のうち上記記録部分に関する部分は破棄を免れず,同部分につき第1審判決を取り消し,これに係る被上告人の請求を棄却すべきである。他方,政策推進費受払簿,出納管理簿のうち政策推進費の繰入れに係る記録部分及び月分計等記録部分並びに報償費支払明細書のうち政策推進費の繰入れに係る記録部分及び繰越記録部分に係る本件不開示決定部分を取り消すべきものとした原審の判断は,是認することができ,これに関する上告人の上告は理由がなく,また,上告人のその余の上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,いずれも棄却することとする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官Aの意見がある。
 裁判官Aの意見は,次のとおりである。
 私は,本件において開示されるべき本件対象文書の範囲について,他の裁判官と結論を同じくするものである。しかしながら,この結論に至る過程において考えたことがあり,それは本来は受理決定又は不受理決定に付すべきものかもしれないが,その内容に鑑み,あえてここで申し述べておきたい。
 情報公開法における部分開示に関しては,最高裁平成13年3月27日第三小法廷判決・民集55巻2号530頁(以下「平成13年判決」という。)において説示された「独立一体的情報論」すなわち「『独立した一体的な情報』かどうかを基準として『これを更に細分化してその一部のみを非公開としその余の部分を公開しなければならないものとすることはできない。』とする議論」が引き合いに出されることが多い。原審においても,この検討が行われている。しかし私は,この独立一体的情報論については,第一に,その独立一体と捉える情報の範囲が論者あるいは立場によって異なるばかりか,第二に,情報公開の観点からの個々の情報の牽連性を十分に考慮できないという技術的な問題があることに加えて,第三に,そもそも不開示の範囲が無用に広がり過ぎるおそれがあるという情報公開法の本旨に反する本質的な問題があるように考えている。
 例えば,情報公開が求められている文書の中に,支出した①年月日,②相手方,③予算の区分についての情報があり,そのうち②については情報公開法5条各号に該当することが明らかである場合を考えてみたい。当然,②は不開示となるが,①も,③と突き合わせることによって②が合理的に推察できるのであれば,これも同条各号に該当するものと解されることから,やはり不開示にすべきものとなる。その結果,③は,仮に①が開示されていればこれと突き合わせることによりやはり②が合理的に推察できることとなって不開示の対象となったはずのものではあるが,その①が不開示となったことから,③だけでは同条各号に該当しないということであれば,③は開示すべきものとなる。
 ところが独立一体的情報論をこのようなケースに適用すれば,個々の情報のどれが情報公開法5条各号に該当するかという本来行われるべき解釈論を離れて,まずどこからどこまでの情報が独立一体的情報かという抽象的な議論が先行してしまいがちである。その結果,①から③までの関係性が個々に検討されることなく,およそその全てが全体として独立一体的情報として取り扱われることが概ね考えられる結末ではないかと思われるが,それでは,ここに掲げたような相互の情報又は事項の関係性を踏まえた分析的な法解釈をする余地がなくなってしまうという大きな問題がある。
 最高裁平成19年4月17日第三小法廷判決・裁判集民事224号97頁のB裁判官の補足意見中に,「ある文書上に記載された有意な情報は,本来,最小単位の情報から,これらが集積して形成されるより包括的な情報に至るまで,重層構造を成すのであって・・・行政機関が,そのいずれかの位相をもって開示に値する情報であるか否かを適宜決定するなどということは,およそ我が国の現行情報公開法制の想定するところではない」とあるのは,あるいは,私が上記で述べたようなことを別の表現で指摘したものではないかと推察している。だから私は,ア・プリオリに,独立一体的情報はどこまでかという無用の議論をするのではなく,むしろ「一般的に,文書の場合であれば文,段落等を,図表の場合であれば個々の部分,欄等を単位として,相互の関係性を踏まえながら個々に検討していき,それぞれが情報公開法5条各号に該当するか否かを判断する。」ということで,必要かつ十分であると考えている。

最高裁判所第二小法廷










上告受理申立て理由書

平成28年4月28日

 申立人(一審被告。以下「一審被告」という。)は,次のとおり,上告受理申立ての理由を明らかにする。
 なお,略語は,本書面で新たに用いるもののほか,原判決の例による。

第1  はじめに
 事案の概要
 本件は,相手方(一審原告。以下「一審原告」という。)が,処分行政庁(内閣官房内閣総務官)に対し,情報公開法に基づき,平成21年4月1日から同年9月16日までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書の開示を請求したところ,処分行政庁が,これらの行政文書につき,その一部を開示し,その余を不開示とする決定(本件不開示決定)をしたことから,本件不開示決定のうち,同月1日から同月16日まで(本件対象期間)における内閣官房報償費の支払に係る領収書等,政策推進費受払簿,支払決定書,出納管理簿及び報償費支払明細書(本件対象文書)を不開示とした部分(以下「本件不開示決定部分」という。)の取消しを求める事案である。

 本件の争点
 本件の争点は,①政策推進費受払簿,②出納管理簿のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る各項目の記載を除いた部分並びに③報償費支払明細書(以下「本件3文書」という。)に情報公開法5条3号及び6号の不開示情報が記録されているか否か,出納管理簿及び報償費支払明細書について同法6条1項本文による部分開示をすべきか否かである。

 原判決の要旨
 原判決は,本件不開示決定部分に関して,①政策推進費受払簿,②出納管理簿のうち調査情報対策費及び活動関係費の各支払決定に係る各項目の記載を除いた部分並びに③報償費支払明細書に記録された情報は,いずれも情報公開法5条3号及び6号の不開示情報には該当しないとして,一審被告の控訴に基づいて第一審判決を変更し,これらの情報に係る本件不開示決定部分を取り消し,その余の一審原告の請求を棄却するとともに,一審原告の控訴を棄却した。
 上記情報に係る本件不開示決定部分の取消しに関する原判決の理由の要旨は,次のとおりである。
(1)  政策推進費受払簿について
 政策推進費受払簿が開示されたとしても,そのことにより,特定の政策推進費の支払日や支払額,ひいては,その支払相手方等や支払目的が事実上特定ないし推測されるという関係にはない。また,政策推進費が支払われたことと特定の期間における内政・外政の状況等とを照合,分析することにより,政策推進費の使途や支払相手方等について臆測を呼んだとしても,このような臆測のみによって,関係者等の信頼が損なわれるなどして,内閣の事務の適正な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとまでは認められない。したがって,政策推進費受払簿に記録された情報は,情報公開法5条3号及び6号の不開示情報に該当しない(以上につき,原判決40,41ページ)。

(2)  出納管理簿に記録された情報のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る各部分を除いたものについて
 出納管理簿に記録された政策推進費の繰入れに係る各項目については,上記(1)と同様である。また,出納管理簿の月分計欄及び累計欄に記録された内容が明らかになったとしても,これによって,特定の月における内閣官房報償費の合計受領額,合計支払額及び残額(月分計欄)あるいは,年度当初から特定の月までの内閣官房報償費の合計受領額,合計支払額及び残額(累計欄)が明らかになるにすぎず,これにその当時の内政・外政の状況等を照合,分析するなどしたとしても,一定の政策課題との関係が明らかになるとか,ひいては,支払の目的や相手方等が特定ないし推測されるものとは認められないし,また,これらについて様々な臆測を呼んだとしても,このような臆測のみによって,関係者等の信頼が損なわれるなどして,内閣の事務の適正な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとまでは認められない。
 したがって,上記各部分は,情報公開法5条3号及び6号の不開示情報に該当しない(以上につき,原判決42,43ページ)。

 出納管理簿の各出納に関する記録内容は,それぞれ内閣官房報償費の出納という社会的に有意な一つの事実に関連した情報を形成しており,また,出納管理簿の月分計欄及び累計欄のそれぞれについても,各月あるいは年度当初から特定の月までの内閣官房報償費の合計受領額,合計支払額及び残額を内閣官房長官が確認したことに関する社会的に有意な一つの事実に関連した情報を形成しているから,出納管理簿に記録された情報については,個別の入出金に関する記録,月分計欄に関する記録及び累計欄に関する記録が,それぞれ独立した一体的な情報を構成する。
 したがって,出納管理簿については,調査情報対策費及び活動関係費の各出金に係る部分を除いて,情報公開法6条1項に基づく部分開示をすべきである(以上につき,原判決44,45ページ)。

(3)  報償費支払明細書について
 報償費支払明細書のうち,政策推進費受払簿から転記した部分及び支払明細書繰越記載部分については,上記(1)及び(2)アと同様である。
 また,報償費支払明細書のうち,調査情報対策費及び活動関係費について記録された部分は,これが開示されたとしても,これらに係る領収書等,支払決定書及び出納管理簿とは異なり,各支払決定の年月日及び金額が明らかになるにすぎず,報償費支払明細書の記載からは,当該支払決定が複数件まとめて行われたかどうかは明らかとならないし,支払決定日は,役務提供日と一致するとも限らないから,報償費支払明細書の開示により支払の目的や相手方等が特定ないし推測されるとは認められない。また,これらについて様々な臆測を呼ぶことがあったとしても,このような臆測のみによって,関係者等の信頼が損なわれるなどして,内閣の事務の適正な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとまでは認められない。
 したがって,報償費支払明細書に記録された情報は,情報公開法5条3号及び6号の不開示情報に該当しない(以上につき,原判決46ページ)。

 上告受理申立て理由の要旨
 原判決の判断には,次のとおり,情報公開法5条3号及び6号並びに同法6条1項について解釈適用の誤りがあり,これは,判決の結果に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反に当たる。この結果は,我が国の抱える内政外政の重要政策課題の解決等にも多大な影響を及ぼすものであるから,本件は民事訴訟法318条1項にいう「法令の解釈に関する重要な事項を含む」事件である。
(1)  情報公開法5条6号の解釈適用の誤り
 内閣官房の事務は,内閣の重要政策に関する総合調整及び情報の収集等であり,我が国の国益を左右する重要かつ特殊な性質を有する事務である。
 そのため,情報公開法5条6号にいう事務の適正な遂行に「支障を及ぼすおそれ」があるか否かも,上記のような内閣官房のつかさどる事務の性質から判断する必要がある。
 内閣官房報償費に係る事務は,大きく政策推進活動事務及び調査情報対策活動事務からなると考えられるが,いずれの事務についても,その究極的な目的は,内閣が取り扱う政策ないし施策(以下「政策等」という。)の円滑かつ効果的な推進にある。このような内閣官房報償費に係る事務の目的からすると,内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に実質的な支障を及ぼすか否かを検討するに当たっては,内閣において推進しようとしている政策等,更にはその推進のために行われている活動を阻害し得るような情報が当該文書に含まれているか否かという観点から,これを検討するのが相当である。
 内閣官房報償費に関して内閣官房長官が取り扱うのは,内政・外政に係る重要政策に関わる施策であり,政治的,社会的に極めて高い関心と様々な批判の対象となり得るものである。開示対象となる情報に支払相手方や具体的使途を識別し得るものが含まれている場合は,内閣官房報償費に係る活動が阻害されることは明らかであるが,そのようなものが含まれていないとしても,内閣官房報償費に係る事務の性質上,内閣官房報償費の支出に関する情報が明らかになることによって,内閣において推進しようとしている政策等,更にはその推進のために行われている活動を巡って様々な臆測と関心を巻き起こし,支払相手方や関係者と目された者がマスコミ等の注目を浴びるなどして困惑を覚えたり,萎縮したりする結果,これらの者からの協力,支持ないし理解が得られにくくなることも十分に考えられる。さらには,内閣において推進しようとしている政策方針に対抗して,これを妨害又は阻害しようとする動きを呼び起こしたり,活発化させたりすることも十分に予想される。そうなれば,内閣官房報償費に係る事務の本来の目的である施策の円滑かつ効果的な推進はおよそ期待できなくなる。
 しかも,内閣官房報償費の支出は,その取扱責任者である内閣官房長官自身が,自らの責任において,個別,具体的な事例ごとに,諸々の事情を考慮した上で,最も我が国の利益になるように,政策的,合目的的な裁量判断によって,その支出の要否や金額等を決定すべきものであって,内閣官房長官に広範な裁量権が認められている。仮に,支払相手方や具体的使途,支出の内容の一端が逐一公開されることとなった場合には,内閣官房長官においても,その内容を巡って様々な臆測を呼んだり,詮索されるなどして所期の政策等の円滑かつ効果的な推進が阻害される事態が生ずることを懸念して,必要な内閣官房報償費の支出を控えることを余儀なくされたり,その機動的な使用をなし得なくなることも十分に考えられる。
 内閣官房が取り扱う事務が国の重要政策に関する企画立案,総合調整等の事務であって,内閣官房報償費に係る支出が報道機関はもとより,他国においても極めて強い関心を持つ事項であることに鑑みると,当該行政文書に,内閣において推進しようとしている政策等,更にはそのための活動を阻害し得る情報が含まれているか否かを判断するに当たっては,当該行政文書の記載内容や一般人が通常入手し得る関連情報だけでなく,開示請求者や報道機関等が有している特殊な関連情報や専門的な情報機関が入手し得る関連情報も考慮して判断されるべきである。
 原判決が不開示情報が認められないと判断した各情報には,それ自体として,支払相手方や具体的使途を直ちに明らかにするものは含まれていない。しかしながら,上記各情報は,関連情報と照合・分析することによって,内閣官房報償費の支払相手方や具体的使途が容易に識別され得るものである。それだけでなく,当該情報の高度の政策性と重要性に鑑みれば,これらの情報が開示されることにより,内閣が推進しようとしている政策等,そのための活動について様々な臆測や推測が惹起され,その結果として,相手方や関係者の協力等が得られにくくなったり,これに対抗する活動を呼び起こすことになることが十分に考えられ,また,内閣官房長官においても内閣官房報償費の使用について慎重な対応を余儀なくされることになる。それでは,内閣官房報償費に係る事務の目的である施策の円滑かつ効果的な推進を図ることはできなくなる。原判決は,臆測や推測のみによっては事務の遂行等に具体的な支障を生ずるおそれがあるとは認め難いとするが,これは,内閣官房報償費に係る事務の性質や臆測等が協力者等に与える影響を正解しないものである。
 したがって,本件3文書を公にすることにより内閣官房報償費に係る事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれが認められないとした原判決の判断には,情報公開法5条6号の解釈適用を誤った違法がある(後記第2)。

(2)  情報公開法5条3号の解釈適用の誤り
 情報公開法5条3号の不開示情報に該当するか否かの判断には行政機関の長に広いの裁量が認められるのであり,裁判所は,行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理的なものとして許容される範囲内であるか否かという観点から審理・判断すべきであって,同号に該当する旨の行政機関の長の判断は,社会通念上合理的なものとして許容される限度を超えると認められる場合に限り,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったものとして違法となる。
 しかるに,原判決は,支払の目的や相手方等が特定ないし推測されるとは認められない,臆測のみによって内閣の事務の適正な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとまでは認められないなどとして,同号の不開示情報該当性が認められないと判断しており,実質的に同号所定の「おそれ」の有無の判断に関して,第一次判断権者による裁量権を尊重しないものとなっている。かかる原判決の判断には,同号の解釈適用を誤った違法がある(後記第3)。

(3)  情報公開法5条3号及び6号並びに同法6条1項の解釈適用の誤り
 部分開示の可否に関して,開示請求の対象となった行政文書に複数の独立した一体的な情報が記録されているとした原判決の判断には,情報公開法5条3号及び6号並びに同法6条1項の解釈適用を誤った違法がある(後記第4)。

第2  政策推進費受払簿,出納管理簿及び報償費支払明細書に記録された情報に情報公開法5条6号の不開示情報が認められないとした原判決の判断には,同号の解釈適用の誤りがあること
 情報公開法5条6号にいう「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」は,当該事務又は事業の性質に照らして判断されるべきこと
 情報公開法5条6号の不開示情報該当性を判断するに当たっては,「支障」は名目的なものでは足りず実質的なものであることが必要とされ,「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が要求されるところであるが,事務又は事業の適正な遂行に「支障を及ぼすおそれ」があるか否かは,当該事務又は事業の性質から判断すべき事柄である。
 そもそも情報公開法5条6号の不開示情報は,国の機関等が行う事務又は事業は,公共の利益のために行われるものであり,公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報については,不開示とする合理的な理由があることから設けられたものである(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」77ページ)。国の機関等が行う事務又は事業は広範かつ多種多様であって,全ての事項を列挙することはできないことから,情報公開法5条6号は,その性質上公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると考えられる典型的なものを例示的に列挙した上で,それ以外のものについては包括的に,「当該事務又は事業の性質」からみて,「事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」場合に不開示とすることができるものとした。
 このように,国の機関等が行う事務・事業には様々なものがあり,その性質も多種多様であるから,それらの性質に応じ,きめ細かく開示による事務・事業の遂行への支障をみていこうというのが情報公開法5条6号の趣旨であると考えられる。
 ここでいう事務又は事業の「性質」とは,当該事務又は事業の本質的性格,内在的性格をいうと解されている(前掲「詳解情報公開法」78ページ。「新・情報公開法の逐条解説(第6版)」108ページ)。
 ところで,国の機関等が行う事務又は事業の性質が高度の密行性・秘匿性を有するものである場合,当該事務・事業に関する情報を公にすることは,当該事務・事業の性質そのものと抵触し,事務・事業の存在それ自体を否定することになるのであるから,その遂行に支障を及ぼすことが実質的なものであることは明らかであるといえ,また,事務・事業の遂行に支障を及ぼす蓋然性も優に認められ,かつそのような事態を回避することは法的保護に値するものといえる。
 そうすると,情報公開法5条6号の不開示情報該当性の判断において,事務又は事業の性質として高度の密行性・秘匿性が認められるものは,事務又は事業の適正な遂行に「支障を及ぼすおそれ」があると解するのが相当であり,本件においても,事務の性質として高度の密行性・秘匿性が認められるか否かといった観点からこれを検討するのが相当である。

 内閣官房報償費に係る事務の性質は,本来秘匿性を有するものであること
(1)  国政における内閣官房の位置づけ
 国家の行政は,刻一刻と目まぐるしく変わる社会の状況に適時に,かつ適切に対応し,社会公共の秩序の維持と国民の福祉の実現に向けて,社会に存在する様々な利害を調整しつつ,統一的な方針の下に一定の政策等を立案・計画し,これを実行に移す活動であり,極めて動態的かつ形成的な国家作用である。
 その中でも,内閣官房は,内閣総理大臣の下,内閣を補佐する機関であり,国家行政の要として極めて重要な役割を果たしている。内閣官房は,閣議事項の整理その他内閣の庶務(内閣法12条2項1号),内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務(同項2号),閣議に係る重要事項に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務(同項3号),行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に関する事務(同項4号),行政各部の施策に関するその統一保持上必要な企画及び立案並びに総合調整に関する事務(同項5号),内閣の重要政策に関する情報の収集調査に関する事務(同項6号)をつかさどるほか,政令の定めるところにより,内閣の事務を助けるとされている(同条3項)。平成9年の行政改革会議の最終報告においては,国政全体を見渡した総合的,戦略的な政策判断と機動的な意思決定をなし得る行政システムを実現するために,内閣機能の強化を図る必要があるとの認識の下に,内閣官房の基本的な機能を,内閣の補助機関としての機能のほか,①国政の基本方針(内閣としての総合戦略)の企画立案,②新たな省間調整システムにおける最高・最終の調整,③情報,④危機管理及び⑤広報と位置づけており,これを受けた中央省庁等改革基本法においても,「内閣が日本国憲法の定める国務を総理する任務を十全に果たすことができるようにするため,内閣の機能を強化し,内閣総理大臣の国政運営上の指導性をより明確なものとし,並びに内閣及び内閣総理大臣を補佐し,支援する体制を整備すること」(中央省庁等改革基本法4条1号)が中央省庁等改革の基本方針として掲げられ,この方針にのっとった内閣法の改正,内閣府設置法の制定により,内閣補佐機能の強化が図られている。

(2)  内閣官房報償費の意義,内容について
 内閣官房報償費は,,歳出予算の目の区分の一つであり,内閣官房の事務を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じその都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費である。その中でも,内閣官房長官を取扱責任者とする内閣官房報償費は,内閣官房長官が内閣官房の事務を円滑かつ効果的に遂行するため,その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費である。この内閣官房報償費は,以下のとおり,政策推進費,調査情報対策費,活動関係費から成る。
 政策推進費
 政策推進費は,施策の円滑かつ効果的な推進のため,内閣官房長官としての高度な政策的判断により,機動的に使用することが必要な経費である。

 調査情報対策費
 調査情報対策費は,施策の円滑かつ効果的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るために必要な経費である。

 活動関係費
 活動関係費は,上記①及び②の活動を行うに当たり,これらの活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これらを支援するために必要な経費である。

(3)  内閣官房報償費の役割とその機密保護の必要性
 内閣官房報償費は,内政・外政に係る内閣の重要政策課題等の総合調整等という内閣官房のつかさどる事務を的確に行うため,極めて機密性の高い協力者の氏名等,協力者の特定につながる情報や具体的使途については秘匿されることを当然の前提として,情報収集・協力依頼のために使用されるものである。
 このように,協力者の氏名等,協力者の特定につながる情報や具体的使途が秘匿されることが情報収集・協力依頼の当然の前提とされるのは,利害関係が複雑に絡み合う内政・外政の重要政策課題の総合調整等を効果的に行うためには,我が国の進めようとする政策に対して必ずしも協力的でない組織や他国等に属する者からの協力や生きた情報を得ることが不可欠であるからである(乙第13号証2ないし4ページ)。
 そのため,協力者の特定につながる情報や具体的使途が明らかとなるような内閣官房報償費の支出に関する文書(本件対象文書)については,機密保護を確実なものとするため,総理大臣官邸において,極めて限られた事務補助者のみが入室できる施錠された部屋にある別途施錠された書庫内で厳重に管理,保管されているのである(同号証6ページ)。
 ちなみに,情報公開制度を異にするものの,諸外国においては,我が国の内閣官房報償費に相当する費用については,その全体について安全保障上問題がないと判断された場合にのみ総額を公表し,詳細な内訳は公表しないなどの取扱いがされている(資料1)。

 情報通信技術が高度に発達した現代の情報化社会においては,政治,経済及び社会等のあらゆる分野において,膨大な情報が集積されている。そのため,一見,情報それ自体を見ると有意な情報とはいえないようなものであっても,他の集積された膨大な情報と照合し,分析することによって,新たに有意な情報が見いだされることが少なくない。殊に,本件3文書を含む内閣官房報償費の支出に関する情報については,仮にこれを公にした場合,極めて高度の政治性を有し,機微に触れる情報であるというその特殊性ゆえに,その使途等を特定するため,これに関連する膨大な情報が長期間にわたって集積され,これを基礎として精緻な分析・照合がされることが当然に予想されるところである。
 内閣官房においては,上記アで述べたとおり,我が国の進めようとする政策に対して必ずしも協力的でない組織や他国等に属する者からも協力ないし生きた情報を得る必要があるため,前記のような他の膨大な情報と照合,分析されることによって,協力者等が特定ないし推測され,その身に危険が生じるような事態が生じることは絶対に避けなければならない。
 しかしながら,原判決が開示すべきとした本件3文書が継続的に開示されることとなれば,内閣官房報償費の特殊性ゆえに,長期間にわたって,これに関連する膨大な情報と照合,分析されることが避けられず,その結果,協力者等が特定ないし推測されるおそれがある。そうでないとしても,そのように特定ないし推測されかねない立場に協力者を置くこと自体,協力者等をして政府に対する不信感や不満等を抱かせることとなり,ひいては協力者等から必要な協力,情報等が得られないこととなる結果,内閣官房の適正な事務の遂行に支障を及ぼすことが避けられないのである。

 内閣官房報償費に係る事務の内容と性質について
 前記のとおり,内閣官房報償費は,政策推進費,調査情報対策費及び活動関係費からなるが,このうち,活動関係費は,政策推進費及び調査情報対策費に係る活動を行うに当たり,これらの活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,これらを支援するために必要な経費である。そうすると,結局のところ,内閣官房報償費に係る事務は,政策推進活動事務及び調査情報対策活動事務に集約することができる。
 そのいずれの事務についても,その究極的な目的は,内閣が取り扱う政策等の円滑かつ効果的な推進にある。この点で,単に相手方との間の信頼関係ないし友好関係の維持増進を目的とする交際事務とは,その目的を大きく異にしているのであって,内閣官房報償費には,相手方との間の信頼関係や友好関係の維持増進を確保するにとどまらない,国家行政作用の本質に根ざした高次な目的がある。

 内閣官房報償費に係る事務に関する情報の情報公開法5条6号該当性の判断の枠組みについて
 上記3の内閣官房報償費に係る事務の性質に照らすと,内閣官房報償費に係る事務に関する情報について情報公開法5条6号所定の不開示事由があると認められるか否かは,かかる情報を公にすることにより,内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に実質的な支障を及ぼすおそれがあるか否かによって決定されることになると解するのが相当である。
 上記3で述べた内閣官房報償費に係る事務の目的からすると,内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に実質的な支障を及ぼすか否かを検討するに当たっては,単に対象となる文書に相手方を識別し得る情報が含まれているか否かという観点のみから検討するのでは足りないのであって,内閣において推進しようとしている政策等,更にはその推進のために行われている活動を阻害し得るような情報が含まれているか否かという観点からこれを検討するのが相当である。
 すなわち,少なくとも,対象となる行政文書に活動の相手方を識別し得るものが含まれている場合には,相手方との信頼関係や友好関係を損ない,推進しようとする施策に対する合意,協力又は理解,必要とする情報の提供や協力が得られにくくなり,その結果,内閣官房報償費に係る事務の目的である政策推進,調査情報対策の活動が阻害されることになることは明らかである。
 しかし,これにとどまらず,対象となる行政文書に具体的使途を識別し得るものが含まれている場合は,推進しようとしている政策等が推測されることになり,その目的とする施策の円滑かつ効果的な推進を期待することができなくなるから,この場合も実質的な支障が生ずるおそれがあることになる。
 さらに,内閣官房報償費に関して内閣官房長官が取り扱うのは,内政・外政に係る重要政策に関わる施策であり,政治的,社会的に極めて高い関心と様々な批判の対象となり得るものである。たとえ,開示の対象となる情報に支払相手方や具体的使途を識別し得るものが含まれていないとしても,内閣官房報償費に係る事務の性質上,内閣官房報償費の支出に関する情報が明らかになることによって,内閣において推進しようとしている政策等,更にはその推進のために行われている活動を巡って様々な臆測と関心を巻き起こし,支払の相手方や関係者と目された者がマスコミ等の注目を浴びるなどして困惑を覚えたり,萎縮したりする結果,これらの者からの協力,支持ないし理解が得られにくくなることも十分に考えられる。さらには,内閣において推進しようとしている政策方針に対抗して,これを妨害又は阻害しようとする動きを呼び起こしたり,活発化させることも十分に予想されるところである。そうなれば,内閣官房報償費に係る事務の本来の目的である施策の円滑かつ効果的な推進はおよそ期待できなくなるのである。
 しかも,内閣官房報償費の支出は,その取扱責任者である内閣官房長官自身が,自らの責任において,個別,具体的な事例ごとに,相手方の地位,立場及び国との関係,推進しようとする政策等の内容や緊急度等を考慮した上で,国の利益になるように,政策的,合目的的な裁量判断によって,その支出の要否や金額等を決定すべきものであって,内閣官房長官に広範な裁量権が認められているものである。その裁量は,都道府県知事の交際費と比較しても更に高度の政策性,合目的性を備えた裁量である。仮に,支払相手方や具体的使途,支出の内容の一端が逐一公開されることとなった場合には,内閣官房長官においても,その内容を巡って様々な臆測を呼んだり,その当否が詮索されるなどして所期の政策等の円滑かつ効果的な推進が阻害される事態が生ずることを懸念して,必要な内閣官房報償費の支出を控えることを余儀なくされたり,その機動的な使用をなし得なくなることも十分に考えられるのである。
 内閣官房が取り扱う事務が国の重要政策に関する企画立案,総合調整等の事務であって,内閣官房報償費に係る支出が報道機関はもとより,他国においても極めて強い関心を持つ事項であることに鑑みると,当該行政文書に,内閣において推進しようとしている政策等,その推進のための活動を阻害し得る情報が含まれているか否かを判断するに当たっては,当該行政文書の記載内容や一般人が通常入手し得る関連情報だけでなく,開示請求者や報道機関等が有している特殊な関連情報や専門的な情報機関が入手し得る関連情報も考慮して判断されるべきである。

 内閣官房報償費が使用される仮想の例及びその支出に関する文書を開示することによって生じる実質的な支障
 原判決においては,上記のような内閣官房報償費の使用に関する機密保護の重要性について必ずしも十分な理解が得られていなかったと考えられるため,内閣官房報償費が使用される仮想の例及びその支出に関する文書を開示することによって生じる支障について,より具体的なイメージを挙げれば,以下のとおりである(なお,これらのイメージは,内閣官房報償費の具体的な使途に係る情報を明らかにできない中で,本件対象文書(に記録された情報)の一般的類型的な性格とそれを開示することによって生じる支障に関するより十分な理解に資するべく作成した,飽くまでも仮想の例であることを,念のため申し添える。)。
(1)  想定1:特定の外交事案に関連した情報収集,協力依頼
 特定の重要事案を契機として我が国と某国との間で外交関係が悪化している場合において,内閣官房長官が,事態の打開に向けて,通常の外交ルートとは別に,その国の有力な政府関係者やその国の政府と立場を異にする者などの当該重要事案のキーパーソンや,そのキーパーソンと幅広い関係を築いている者と会合を行うことにより,その国の内情や対応の背景事情,今後の見通しについて情報収集をしたり,その者に対し,事態の打開に向けたその国に対する働きかけを依頼したりすることが仮想される。
 この場合において,相手方の氏名や属性等が明らかになると,相手方との信頼関係を損ない,その後,その相手方にその国の内情等に関する内々の情報提供を求めたり,働きかけ等を依頼することが一切できなくなったり,あるいは,相手方の属する国の当局による監視の強化や相手方の政治的ないし社会的な地位の失墜により,その相手方を通じた情報収集や働きかけが困難になるおそれがある。このことは,相手方の氏名や属性等そのものが明らかになるに至らなくとも,これらに結び付き得る情報が明らかになった場合も,全く同様に妥当する。
 とりわけ,相手方の属する国において自由主義,民主主義に基づく諸権利が制限されている場合,我が国への協力に伴うリスクがより大きくなることが想定され,政治的ないし社会的な地位が損なわれるだけではなく,当局からの監視・摘発を受けることなどによって,相手方の生活上の平穏が害されたり,相手方が身体拘束や加害行為を受け,最悪の場合には殺害されるおそれもある。
 また,相手方の氏名や属性等に係る事項ではなく,内閣官房長官と接触した日時,場所等の事項が開示された場合にも,相手方の関係者等,相手方に関する一定の情報を有している者が,自己の保有する情報(当該相手方の行動内容等)と照合,分析した結果,それが相手方に関する情報であることを突き止めるに至る危険性を否定できず,その場合,相手方の氏名や属性等が開示された場合と同様の支障が生じることになる。このことは,内閣官房長官と接触した日時,場所等そのものが明らかになるに至らなくとも,これらに結び付き得る情報が明らかになった場合も,全く同様に妥当する。
 このように,相手方の氏名や属性に関する情報が開示された場合はもちろん,それらの情報に結び付き得る情報が開示されることがあれば,我が国は情報提供者や協力者を秘匿できない国であるとして,他の事案に関する情報提供者,協力者からも信頼を損ない,協力を得られなくなる結果,今後の我が国の情報収集・協力依頼の活動に多大な支障を来すおそれがある。
 さらに,相手方の氏名や属性に関する情報でなくても,我が国が進めようとする外交政策を推測し得る情報が開示された場合,我が国の事態打開に向けた水面下の動きが察知されると,相手国や関係国により妨害ないし対抗措置が講じられ,我が国からの働きかけが不調になる,あるいは相手国の態度がより硬化することで,事態の打開が不可能となるおそれがある。

(2)  想定2:海外の邦人保護に関する情報収集
 我が国の国民が海外でテロ・犯罪組織により略取された事件が発生した場合において,内閣官房長官が,事件解決に向けた交渉等を迅速に行うため,通常の外交ルートとは別に,関係国の有力な政府関係者や当該組織の内部事情に精通した者などに対し,水面下で,人質の安否,所在や当該組織に関する情報を収集することが仮想される。
 この場合において,事件が未解決の時点で,協力の相手方の氏名や接触をした日付が明らかになると,相手方との信頼関係を損ない,その後,その相手方から内々の当該組織や人質の安否等に関する情報提供を依頼できなくなるおそれがある。
 また,当該組織において,開示情報を既に保有する他の情報等と照合・分析した結果,当該組織に我が国の人質解放に向けた動向を察知され,相手方を通じた情報収集が困難になるおそれがあるし,それにとどまらず,当該組織が立場を硬化させ,交渉可能性が失われ,当該人質が傷害あるいは殺害されるおそれがある。
 加えて,事件の継続中か,解決後かにかかわらず,当該組織による報復として,当該相手方が身体を拘束されたり,加害行為を受けて,最悪の場合,殺害されるおそれがある。
 さらに,事件が解決した後であっても,協力者である相手方の氏名等が明らかになると,同種の事案が発生した場合に,その相手方に情報提供を依頼できなくなるほか,我が国の対応方針・方法(いわゆる手の内)が推測されるため,他の犯罪・テロ組織がそれを悪用し,より巧妙かつ悪質な手口により同種事案を発生させるおそれがある。
 以上のことは,協力者である相手方の氏名等そのものが明らかになるに至らなくとも,これらに結び付き得る情報が明らかになった場合も,全く同様に妥当する。

(3)  想定3:テロ事案が国内で発生した場合における情報収集
 我が国において,米国や仏国の同時多発テロ事件と同種の事案が発生した場合,事態の迅速な把握と収拾のため,内閣官房長官が,関係省庁等の通常のルートとは別に,関係国の有力な政府関係者や国内外のテロ・犯罪組織に精通した者などに対し,水面下で,当該事件を引き起こした(あるいは引き起こしたと推測される)組織に関する情報を収集することが仮想される。
 この場合において,事件が未解決のうちに,情報収集の相手方の氏名や接触をした日付が明らかになると,相手方との信頼関係を損ない,当該事案はもちろん,今後,当該組織が同種の事件を引き起こした場合においても,その相手方に内々の情報提供を依頼できなくなるおそれがある。
 また,当該組織において,その保有する他の情報等と照合,分析した結果,当該組織に我が国の情報収集等の動向が察知され,相手方を通じた情報収集が困難になったり,あるいは,当該組織がそれを逆手にとって,より巧妙かつ悪質な手口で事件を再発させたり逃亡・証拠隠滅を図ることにより,当該事案の事態の把握及び収拾に支障を来すおそれがある。
 さらに,当該事案を引き起こした組織の関係者が警察当局に身柄を拘束されているかどうかにかかわらず,相手方が密告者として当該組織による報復の対象となり,傷害又は殺害されるおそれがある。
 加えて,事件が解決した後であっても,情報提供の相手方の氏名等が明らかになると,相手方の属性(職業や社会的地位等)を分析することが可能となり,同種の事案が発生した場合における我が国の対応方針・方法(いわゆる手の内)が推測されるため,他のテロ・犯罪組織等がそれを悪用し,より巧妙かつ悪質な手口により同種事案を発生させるおそれがある。
 以上のことは,情報収集の相手方の氏名や接触をした日付そのものが明らかになるに至らなくとも,これらに結び付き得る情報が明らかになった場合も,全く同様に妥当する。

(4)  想定4:内閣の重要政策課題の実現に向けた企画立案・調整を行うための情報収集
 内閣の主要な政策課題は,国内外における様々な立場の関係者の利害得失が複雑に絡み合い,国民生活に極めて重大な影響を与えるものが多い。
 内閣では,こうした政策課題に的確かつ柔軟に対応していくため,事案によっては,対応方針を正式に決定する前などに,当該事案に係る合意形成の方針・手法(いわゆる「落としどころ」への持っていき方)を探るべく,内閣官房長官が,水面下で,様々な立場の関係者と意見交換を行い,その過程で,相手方が従来公の活動の場で表明している方針等の背景や譲歩可能な点について,情報を収集することが想定される。
 仮想の例として,例えば,次のような場合が考えられる。
 行政改革や規制改革の実行に当たっては,改革によるサービス向上を期待する利用者や事業者,従来の雇用が確保されないおそれがあるなどとして改革に反対する被雇用者やそれを支持する関係者,改革に伴う合理化により従前のサービスを受けられなくなることを危惧する利用者や地域関係者など,様々な立場の関係者の利害が錯綜していることが想定されるが,政府が改革の実現に向けた企画立案・調整を行うため,(水面下での接触を含め)関係者との意見交換を行う場合
 地方に大きな影響を与える国の重要政策については,国や地方公共団体,地域住民,その他の関係する団体等の間で大きく意見の相違があることが想定されるが,政府が政策の実現に向けた企画立案・調整を行うため,(水面下での接触を含め)関係者との意見交換を行う場合
 これらの場合において,意見交換や情報収集の相手方,接触した日時,場所等に関する情報が明らかになると,その相手方の信頼を損ない,その後,相手方に意見交換や情報提供を依頼できなくなるおそれがある。
 また,その相手方が団体・組織に所属している者である場合は,その団体・組織において,他の情報等との照合,分析をすることにより,相手方が意見交換や情報収集に応じていたことなどを知ることになり,「我々に黙って勝手に政府と裏取引をしていた(あるいは団体・組織の内情を流していた。)。」などと,事実と関係なく非難されたり,様々な臆測が世上に流布することにより,所属団体・組織における相手方の影響力や地位が損なわれるおそれがある。
 さらに,調整が難しい事案について,内閣官房長官が一部の関係者と水面下で接触していた事実が明らかになると,相手方の所属団体・組織を始め関係者全般が立場を硬化させることにより,その後,課題解決に向けて内閣が行う企画立案・調整がより困難になるおそれがある。
 また,場合によっては,相手方に自身の生命・身体の安全が損なわれるのではないかとの不安を生じさせ,その者からの協力が得られなくなるおそれがある。
 加えて,相手方の氏名や属性に関する情報でなくても,政府が進めようとする政策を推測し得る情報が開示された場合,政府の事態打開に向けた水面下の動きが察知され,当該政策に反対する者や団体・組織により妨害ないし対抗措置が講じられ,政府からの働きかけが奏功せず,あるいは関係者の態度が硬化することで,事態の打開が不可能となるおそれがある。
 以上のことは,意見交換や情報収集の相手方の氏名及び接触をした日付並びに進めようとする政策そのものが明らかになるに至らなくとも,これらに結び付き得る情報が明らかになった場合も,全く同様に妥当する。

 政策推進費受払簿に記録された情報(出納管理簿及び報償費支払明細書のうち政策推進費の繰入れに係る項目に記録された情報を含む。)について,内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがないと判断した原判決には,情報公開法5条6号の解釈適用の誤りがあること
(1)  原判決の判断
 原判決は,政策推進費受払簿が開示されたとしても,そのことにより,特定の政策推進費の支払日や支払額,ひいては,その支払相手方等や支払目的が事実上特定ないし推測されるという関係にはなく,また,政策推進費が支払われたことと特定の期間における内政・外政の状況等とを照合,分析することにより,政策推進費の使途や支払相手方等について臆測を呼んだとしても,このような臆測のみによって,関係者等の信頼が損なわれるなどして,内閣の事務の適正な遂行に支障を生じる具体的なおそれがあるとは認められないとして,情報公開法5条6号の不開示情報該当性を否定した(原判決40,41ページ)。
 政策推進費受払簿に関する上記の判断を前提として,出納管理簿に記録された政策推進費の繰入れに係る各項目,報償費支払明細書のうち政策推進費受払簿から転記した部分についても,情報公開法5条6号の不開示情報該当性は認められないと判示する(原判決42,45ページ)。

(2)  政策推進費受払簿に記録された情報の情報公開法5条6号該当性の判断の枠組みについて
 上記4で述べたように,政策推進費受払簿に記録された情報については,単に,支出の具体的な使途や相手方を識別し得るものが含まれているか否かといった観点だけでなく,内閣が取り扱う政策等の円滑かつ効果的な推進という政策推進費の目的からみて,内閣において推進しようとしている政策等又はその推進に向けた活動を阻害し得るものが含まれているか否かといった観点から検討すべきである。内閣において取り扱う政策等が有している高度の政策性とその重要性に鑑みれば,その推進をめぐる活動に関する情報が開示されることによる影響力は計り知れないものがあるから,政策等,その推進のための活動についての臆測や推測を惹起するに足りる程度のものがあれば,政策等,その推進のための活動を阻害し得ると評価できるのであって,しかも,政策推進費受払簿に記録された情報と,一般人が通常入手し得る情報,開示請求者や報道機関等が有している特殊な情報,更には専門的な情報機関が入手し得る情報といった他の関連情報との照合において阻害可能性が判断されるべきである。

(3)  政策推進費受払簿が開示された場合に生じる支障等
 政策推進費受払簿は,内閣官房長官が,内閣官房報償費から政策推進費として使用する額を区分する(繰り入れる)都度作成されるものであるところ,政策推進費受払簿には,日付(繰入日)とともに前回から今回までの支払額や今回繰入額等が記録されている。そのため,これが開示されると,今回繰入日及び今回繰入額のほか,前回繰入日から今回繰入日までの支払額が明らかとなるが,その記録自体からは,支払相手方が誰であり,当該政策推進費がいかなる使途のために用いられたかが直接判明するものではない。
 しかしながら,例えば,緊急性を有する案件が突発的に発生したような事例を想定すれば明らかなとおり,ある時期に繰り入れられた政策推進費が,繰入れに近接した時期に全額支払われる場合もあり,その場合には,政策推進費受払簿が開示されることによって個別の支払額とその支払時期が事実上特定ないし推測されることになる。
 すなわち,上記5に挙げた仮想例から明らかなとおり,政策推進費受払簿自体には,支払相手方や具体的使途の記録がないとしても,国内及び国外の政治情勢の推移,政策課題の緊急性並びに政策推進費の繰入れの間隔等次第では個々の政策推進費の支払時期及び支払額を事実上特定ないし推測することが可能であり,このように特定等された政策推進費の支払時期等と,その時々に生じていた政策課題及びその進展状況等とを照合することにより,その支払相手方や具体的使途が事実上特定ないし推測され得るものである。殊に,本件対象期間における政策推進費受払簿には,平成21年9月1日に国庫に対して内閣官房報償費として請求され,その数日後に入金された2億5000万円について,同月16日までの間に,政策推進費への繰入れが1回行われ,その繰入額の全額が繰入日からさしたる日数を経ずに全額支払われていることを示す記載がされている(乙第21号証2ページ,控訴審のC証人の証人尋問調書2,3ページ)。このため,前回繰入日から今回繰入日までの支払額等がそれぞれ明らかになった場合,その繰入れ間隔が短期間であるがゆえに,その時々に生じていた政策課題及びその進展状況と当該政策課題のキーパーソンの動向等との照合も容易であることから,政策推進費の支払相手方や具体的使途が事実上特定ないし推測される蓋然性があるのである。このような蓋然性があることは,控訴審の証人尋問において,前内閣官房内閣総務官であったC証人が,「例えば,官邸における総理番,長官番という記者等々については,総理や官房長官の動静について,ここで公表されていること(引用者注:官房長官等の日程として公表されているもの)以外についても,大変,多くのことを知っている場合がございます。そうした場合には,そのそれぞれの独自の取材の下で持っている情報と,今回の,例えば,政策推進費受払簿の情報等々と組み合わせる,あるいは,重ね合わせることによって,より推測の度合いが高まり,それが,事実上,報償費の支出案件ということに,特定まで行き着く場合もある」(証人尋問調書17ページ)と証言していることからも裏付けられるところである。本件対象文書については上記のような特殊性があるのであるから,このような特殊性は情報公開法5条6号の解釈適用に際しても十分に考慮されるべきである。
 また,仮に政策推進費の支払相手方や具体的使途が特定ないし推測されない場合であっても,上記のように,内閣官房報償費の具体的使途が国民の重大な関心事であることからすれば,政策推進費受払簿を公にすることにより,その支払相手方や具体的使途に関して様々な憶測がされることが容易に想定される。例えば,この内閣官房報償費はあの政治問題の解決や利害調整を図るために誰それに支払われたのではないかといった憶測が生じただけでも,支払相手方と目された者が社会的に批判を浴びる状況等を目の当たりにするなどして,たとえその臆測が正鵠を射たものでなかったとしても,協力者等をして,我が国には適切な情報管理が期待できないとの不信感を抱かせ,協力者等との信頼関係が破壊されるなどして,将来の情報収集・協力依頼に支障を来すことは想像に難くない。
 そもそも政策推進費は,施策の円滑かつ効果的な推進のため,内閣官房長官としての高度な政策的判断により,機動的に使用することが必要な経費である。内閣官房報償費の支出の対象は,国政の中枢を担う内閣官房長官において正に必要と考える重要な政策・施策の推進のための諸活動であるところ,内閣官房長官の活動それ自体が報道機関はもとより与野党,経済界,市場関係者更には各国からも注視されており,その動静,一挙手一投足が政治,経済,社会,外交に及ぼす影響は計り知れないものがある。その意味で,政策推進費に係る活動は,極めて機微にわたるものであり,高度の秘匿性が求められるものである。
 上記の支障を及ぼすおそれは決して抽象的なものではなく,過去にも,種々の政策について臆測(乙第13号証8,9ページ)が生じたように,現に,内閣官房報償費の使途については様々な推測や臆測がされているのであり,これに加え,政策推進費受払簿の開示によって支払額や支払時期に係る情報が事実上特定ないし推測された場合には,より確度の高い推測やもっともらしい臆測がされることになる。このことは,内閣官房報償費について具体的な使途が判明する文書が開示されていない現時点においてすら,情報交換の場を設けるだけでも相手方に過度に警戒されるなど,既に関係者の協力を得にくい状況が生じていること(乙第13号証9ページ)からも明らかである。

(4)  政策推進費受払簿に関する原判決の判断には,情報公開法5条6号の解釈適用の誤りがあること
 それにもかかわらず,原判決は,政策推進費受払簿を開示することにより臆測を呼ぶとしても,臆測のみによって,関係者等の信頼が損なわれるなどして内閣官房の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれはないなどとして,その不開示情報該当性を否定したものであって,政策推進費の具体的使途や支払相手方等について,様々な推測や憶測が現実にされている中で,仮に政策推進費受払簿が開示されると,これが根拠のない推測や臆測を補強する形で,内閣官房報償費の支払相手方と目された者が社会的に批判を浴びる状況等を協力者において目の当たりにするなどして,将来の情報収集・協力依頼に支障を来すおそれが生じ得ることを看過している。
 内閣官房を含めた政府は,その活動に関し,国民やマスコミ等からの注目を受ける立場であって,内閣官房報償費の使途は,単に臆測として流布しているだけではなく,複数の全国紙にその内容が掲載されるような場合も存在している。そのため,政策推進費受払簿の作成される年月日が実際の個々の支払の年月日と必ずしも一致するものではないとしても,仮に政策推進簿受払簿が開示された場合には,上記のような臆測がよりもっともらしく評価され,内閣官房報償費の支払相手方と目された者が大変な困惑を覚えたり,それまでの政治的立場によっては政治的に窮地に立たされたりすることは容易に想定できる。その結果,現に内閣官房に協力している者やこれから協力しようとする者をして内閣官房からの協力依頼に応じることをちゅうちょさせることとなり,必要な協力を得られなくなるなどして,内閣官房報償費に係る事務に支障を来すことは想像に難くない(乙第14号証22,23ページ)。
 すなわち,政治,経済,社会,外交の世界においては,情報の内容が定まっていないことの方がむしろ通常であり,そのような不確定な情報を前提として様々な動きが行われている。情報の内容,精度が不確定であればあるほど,臆測や思惑に基づいた様々な活動が招来されるのである。殊に,対象となる行政文書に記録された情報に内閣が推進しようとしている政策等が想定され得るものが含まれているとすれば,その内容の重要性に鑑み,ちまち臆測ないし推測が広まり,思惑に基づいた反応が様々な形でたちどころに現れるのである。そのような場合には,前述したように,本来秘匿を前提に協力,支持ないし理解を求めていた相手方や関係者が,政策推進費に係る情報の開示があったことを受け,態度を硬化させて今後の協力,支持ないし理解を拒絶したり,そこまでには至らなくても今後の動向を警戒して,協力,支持ないし理解に難色を示すことも十分に考えられる。また,内閣が進めようとしている政策等に対して,公然と又は秘密裏に対抗する動きも現れるであろうし,場合によっては支出者自身も予想だにしていなかった動きが現れることもあり得る。こうした動きが活発化する結果として,内閣において目指していた政策等の円滑かつ効果的な推進が不可能になる,あるいは円滑かつ効果的な推進に支障が生ずるといった事態は生じ得るのである。それだけでなく,政策推進費受払簿に関する情報が開示されるとなれば,支出責任者においても開示による影響をも当然に考慮しなければならないところ,臆測ないし推測に基づく影響を事前に予測して支出の可否を判断することはおよそ不可能であるから,結局,支出責任者において事後の影響を考えて,その支出を控えるといったことにもなりかねないのであって,それでは,政策推進費の本来の使用形態である機動性は失われることになるのである。
 一審被告は,内閣官房報償費の使途等に関して臆測がされること自体を問題としているものではなく,内閣官房報償費を受領した者は誰かなどといったことについて臆測されることが協力者等に与える心理的影響,ひいては内閣官房の事務の適正な遂行に及ぼす支障を問題としているのである。原判決は,臆測という言葉にとらわれるあまり,現実の社会において内閣官房報償費の支出に関する文書が公にされた場合に生ずるであろう臆測が協力者等に与える心理的影響,ひいてはそれにより不可避的に生ずる内閣官房の事務に及ぼす支障の評価を誤ったものといわざるを得ない。

(5)  小括
 以上によれば,本件対象期間の政策推進費受払簿を開示することにより,内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは明らかであるから,政策推進費受払簿に記録された情報は,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
 したがって,上記情報が同号の不開示情報に該当しないとした原判決には,同号の解釈適用の誤りがある。

 出納管理簿のうち月分計欄及び累計欄に記録された情報(報償費支払明細書のうち繰越記録部分及び一覧表の合計欄に記録された情報を含む。)について,内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがないと判断した原判決には,情報公開法5条6号の解釈適用の誤りがあること
(1)  原判決の判断
 原判決は,出納管理簿の月分計欄及び累計欄に記録された内容が明らかになったとしても,これによって,特定の月における内閣官房報償費の合計受領額,合計支払額及び残額(月分計欄)あるいは,年度当初から特定の月までの内閣官房報償費の合計受領額,合計支払額及び残額(累計欄)が明らかになるにすぎず,これにその当時の内政・外政の状況等を照合,分析するなどしたとしても,一定の政策課題との関係が明らかになるとか,ひいては,支払の目的や相手方等が特定ないし推測されるものとは認められないし,また,これらについて様々な臆測を呼んだとしても,このような臆測のみによって,関係者等の信頼が損なわれるなどして,内閣の事務の適正な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとまでは認められないとして,情報公開法5条6号の不開示情報該当性を否定した(原判決43ページ)。
 出納管理簿の月分計欄及び累計欄に記録された情報に関する上記の判断を前提として,報償費支払明細書の繰越記録部分(前月繰越額,本月受入額,本月支払額,翌月繰越額の記録部分)についても,同号の不開示情報該当性が認められないと判示する(原判決46,47ページ)。

(2)  出納管理簿のうち,月分計欄及び累計欄の不開示情報該当性
 後記第4の3のとおり,出納管理簿に記録された情報は,月単位又は年度単位の情報が一体となってその全体が「独立した一体的な情報」を成すものと解されるから,その一部に情報公開法5条6号の不開示情報該当性が認められる以上,月分計欄及び累計欄を含めた出納管理簿に記録された月単位又は年度単位の情報の全体について,これを公にすることにより内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすというべきである。
 この点はおくとしても,月分計欄には,受領や支払があった月ごとに当該月の受領額(国庫からの入金額),支払額(政策推進費への繰入額,調査情報対策費及び活動関係費の支払額)の各合計額が記録されているところ,これらの記録内容が開示されて明らかになれば,それを基礎として,ある月の上記各合計額と他の月のそれとの金額の推移や増減を対比することができ,これによって各月の支払の特徴を継続して分析し,また,当時の内政・外政の状況等を照合,分析することによって,特定の事案との関係が特定ないし推測される結果,内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。内閣官房報償費の具体的使途が報道機関等の重大な関心事であることからすれば,その検討のための上記照合及び分析も当然に精緻なものとなることが想定される。そうすると,それによって上記のように金額の推移や増減,各月の支払の特徴から一定の政策課題等との関係が特定ないし推測されることは,法的保護に値する程度の蓋然性をもって想定されるというべきである。
 また,累計欄には,年度当初から受領や支払のあった月の当該月末までの受領額,支払額の各合計額及び残額が記録されているから,これらの記録が開示されて明らかになった場合,年度当初から各月末までの各合計額が分かり,これを基礎に前後の月を比較することが可能となる。したがって,累計欄を公にした場合,上記の月分計欄の記録が明らかになった場合と同様の支障を及ぼすおそれがある。

(3)  小括
 以上によれば,出納管理簿のうち月分計欄及び累計欄に記録されている各情報は,これを公にすることにより内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすものであるから,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
 したがって,上記各情報が同号の不開示情報に該当しないとした原判決には,同号の解釈適用の誤りがある。

 報償費支払明細書のうち,調査情報対策費及び活動関係費に係る項目に記録された情報について,内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがないと判断した原判決には,情報公開法5条6号の解釈適用の誤りがあること。
(1)  原判決の判断
 原判決は,報償費支払明細書のうち,調査情報対策費及び活動関係費について記録された部分が開示されたとしても,支払の目的や相手方等が特定ないし推測されるとは認められないし,また,これらについて様々な臆測を呼ぶことがあったとしても,このような臆測のみによって,関係者等の信頼が損なわれるなどして,内閣の事務の適正な執行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとまでは認められないとして,情報公開法5条6号の不開示情報該当性を否定した(原判決46ページ)。

(2)  活動関係費のうち,慶弔費に関する部分の不開示情報該当性
 慶弔費の目的及び性質
 慶弔費は,内閣官房の行う情報収集・協力依頼に係る協力者等との信頼・協力関係の維持・円滑化を目的として,協力者等に対し,慶事や弔事が発生した年月日又はこれに近接した時期に支払われるものであり,慶弔費の金額を幾らとするかは,我が国と当該協力者等との関わり方や今後の協力関係の必要性等を斟酌して,個別に決定されるものである。
 このような慶弔費の性質上,慶弔費の支払相手方の氏名はもとより,慶弔費の金額や支払時期を公にすることは,およそ予定されていない。

 慶弔費に係る部分を公にすることにより,慶弔費の支払相手方との信頼関係を損なうおそれがあること
 報償費支払明細書を公にすることにより,慶弔費の支払時期が明らかになれば,慶弔費の支払決定は当該慶弔に近接した時期にされるものであるため,当該慶弔費の支払時期と政府に存在していた重要政策課題のキーパーソン等に関する慶弔の時期とを調査・照合することにより,その支払相手方が特定され,ひいては内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼす蓋然性がある。
 特定された内閣官房報償費の慶弔費の支払時期と政府に存在していた重要政策課題のキーパーソン等に関する慶弔の時期について調査・照合がされた場合には,特定の人物の慶弔時期と内閣官房報償費の慶弔費の支払時期が符合することが判明するなどして,その支払相手方が特定されるおそれがあり,特に,政府が長期間にわたって取り組んでいる重要政策課題の協力者等,多数回にわたって慶弔費の支払を受けている者については,偶然の一致とは考え難い上記符合が判明するなどして,慶弔費の支払相手方として特定されるおそれが極めて高い。このようにして特定の人物が慶弔費の支払相手方であると特定された場合,内閣官房報償費の支払相手方であると判明することは,必然的に政府の協力者等であることを示すものであるため,当該支払相手方が,政府と友好関係にない組織等に所属するときは,その所属する組織等から制裁を受けるなどして,当該支払相手方との信頼関係が破壊されることにより当該重要政策課題の解決に向けた活動が阻害されることはもとより,政府は情報提供や協力を受けた者に関する情報を秘匿することもできないとして,その他の協力者等全般との信頼関係も破壊されることとなるから,内閣官房による将来の情報収集・協力依頼の活動等の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは明らかである。

(3)  その余の各項目の情報公開法5条6号の不開示情報該当性
 上記以外の各項目については,支払相手方や個別具体的な使途は明らかにならないものの,これらが開示されれば,その支払日や具体的金額が明らかになり,これを基礎に各月の支払日や具体的金額を対比して,金額の推移や増減を分析し,これとその時々に生じていた政策課題等とを照合,分析することにより,その具体的使途や支払相手方が特定ないし推測され得るものである。
 仮に,具体的使途や支払相手方が特定等されなかったとしても,内閣官房報償費の性質上,その具体的使途や支払相手方について種々の臆測を呼ぶことは避けられないため,支払相手方と目された者が社会的に批判を浴びる状況等を協力者等において目の当たりにするなどして,協力者等をして,我が国には適切な情報管理が期待できないとの不信感を抱かせ,協力者等との信頼関係が破壊されるおそれがある。
 したがって,上記各項目部分の記録についても,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。

(4)  小括
 これらに加え,原判決は,報償費支払明細書の不開示決定を取り消す一方で,出納管理簿については調査情報対策費及び活動関係費に係る部分を除いたものの不開示決定を取り消しているが,報償費支払明細書を全部開示してしまうと,出納管理簿において不開示とされている調査情報対策費と活動関係費の支払日及び支出額が判明することとなり,出納管理簿においてこれらの不開示を相当とした趣旨が没却されることとなる。
 以上によれば,本件対象期間の報償費支払明細書の調査情報対策費及び活動関係費に係る各項目を開示することにより,内閣官房報償費に係る事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは明らかであるから,上記各項目に記録された情報は,情報公開法5条6号の不開示情報に該当する。
 したがって,上記情報が同号の不開示情報に該当しないとした原判決には,同号の解釈適用の誤りがある。

第3  原判決の判断には,情報公開法5条3号の解釈適用の誤りがあること
 情報公開法5条3号の要件該当性の判断の枠組みについて
(1)  情報公開法5条3号は,行政機関の長がした同号該当性に関する判断について,広い裁量権を認める趣旨の規定であること
 情報公開法5条3号は,「公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として定めている。
 ところで,「公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は国際交渉上不利益を被るおそれがある情報については,一般の行政運営に関する情報とは異なり,その性質上,開示・不開示の判断に高度の政策的判断を伴うこと,我が国の安全保障上又は対外関係上の将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められる。この種の情報については,司法審査の場においては,裁判所は,本号(引用者注:情報公開法5条3号)に規定する情報に該当するかどうかについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか(『相当の理由』があるか)どうかを審理・判断することが適当と考えられることから,このような規定としたところである。本号の該当性の判断においては,行政機関の長は,『おそれ』を認定する前提となる事実を認定し,これを不開示情報の要件に当てはめ,これに該当すると認定(評価)することとなるが,このような認定を行うに当たっては,高度の政策的判断や将来予測としての専門的・技術的判断を伴う。裁判所では,行政機関の長の第一次的判断(認定)を尊重し,これが合理的な許容限度内であるか否かという観点から審理・判断されることになる。」とされている(以上につき,総務省行政管理局編・詳解情報公開法62ページ。同内容を指摘するものとして,条解行政情報関連三法315,316ページ,新・情報公開法の逐条解説[第6版]94,95ページ)。
 このように,同号は,同号該当性に関して行政機関の長がした判断について広い裁量権を認める趣旨の規定であることから,当該行政機関の長の判断に違法があるかどうかについては,裁判所は,同号該当性に係る行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか(「相当の理由」があるか)どうかを審理の対象とし,これについて判断することになるのである。より具体的に言うと,「公にすることにより,(中略)他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ(中略)がある情報」に該当するか否かを認定するためにした前提事実の認定,それらの認定事実に係る不開示情報の要件への当てはめ及びその充足性を判断して不開示情報に該当するとの認定(評価)をしたことについて,それらが高度の政策的判断や将来予測として行政機関の長がした専門的・技術的判断を伴う裁量権の行使によるものであることから,裁判所は,これらについての行政機関の長の第一次的判断(認定)を尊重した上で,これが合理的な許容限度内であるか否かという観点から審理・判断すべきものである。

 情報公開法5条3号のおそれがあると「認めることにつき相当の理由がある」との文言は,在留期間の更新に関する出入国管理及び難民認定法21条3項の「法務大臣は,(中略)在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り,これを許可することができる」との文言を参考に立法されたものである(新・情報公開法の逐条解説[第6版]94,95ページ)。最高裁判所昭和53年10月4日大法廷判決(民集32巻7号1223ページ)は,この「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がある」かどうかの判断が法務大臣の広い裁量に委ねられることを前提に,「その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し,それが認められる場合に限り,右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法であるとすることができるものと解するのが,相当である。」と判示している。
 したがって,同号所定の「おそれ」があると「認めることにつき相当の理由がある」との文言についても,同判決の判示するところと同義に解すべきである。

(2)  情報公開法5条3号該当性に関する主張立証責任の在り方
 裁量処分について,行政機関の長が裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したことについての主張立証責任は,裁量処分の違法を主張する者がこれを負うとするのが判例の考え方であり,学説上もこのような考え方が有力である(条解行政事件訴訟法「第4版]245,246ページ)。その論拠は,「裁量処分は裁量の行使を誤っても不当となるにとどまるのが原則であり,違法の問題を生ずるのは裁量の範囲の逸脱又は濫用がある例外的な場合に限られるから,右例外的な場合であること(裁量の範囲の逸脱・濫用があること)は,原告が主張立証しなければならない」と理解されている(最高裁判所判例解説民事篇平成4年度424,425ページ)。
 これを本件についてみると,上述したように,情報公開法5条3号は,同号該当性に関して行政機関の長がした判断について広い裁量権を認める趣旨の規定であって,「公にすることにより,(中略)他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれ(中略)がある情報」に該当するか否かを認定するために,前提事実の認定,それらの不開示情報の要件への当てはめ及びその充足性を判断して不開示情報に該当するとの認定(評価)をするに際してそれぞれ行政機関の長がした高度の政策的判断や将来予測としての専門的・技術的判断を伴う裁量権の行使について,裁判所は,行政機関の長の第一次的判断(認定)を尊重した上で,これが合理的な許容限度内であるか否かという観点から審理・判断すべきことになるから,不開示情報該当性の判断に至る過程で行政機関の長が行った各段階における当該行政機関の長の裁量権の行使に逸脱・濫用があったことを基礎づける具体的事実について,一審原告がその主張立証責任を負うものと解すべきである。
 なお,一審被告は,一審原告が上記の主張立証を行うために必要な限度で,行政機関の長が認定した前提事実の内容,当該認定事実の同号の要件への当てはめ,その要件充足性の判断に基づく当該不開示情報に該当するとの認定(評価)の概略を明らかにする必要はあるが(これが不開示部分に係る情報を明らかにしない限度にとどまることは当然である。),このことは,上記の各事項について一審被告が主張立証責任を負うことを意味するものではなく,言わば立証の必要に基づくものにすぎない。

 原判決の判断には,情報公開法5条3号の解釈の誤りがあること
(1)  原判決は,情報公開法5条3号該当性に関する審理・判断の在り方に関し,「同法5条3号の文言及び趣旨に照らすと,同号該当性の判断には行政機関の長に一定の裁量が認められるのであって,行政機関の長が同号に該当するとして不開示決定をした場合には,裁判所は,当該行政文書に同号に規定する不開示情報が記録されているか否かについての行政機関の長の第一次的な判断を尊重し,その判断が合理的なものとして許容される範囲内であるかどうかを審理判断すべきであって,同号に該当する旨の行政機関の長の判断が社会通念上合理的なものとして許容される限度を超えると認められる場合に限り,裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったものとして違法となると解するのが相当である。」(原判決27ページ,第一審判決36ページ)と判示している。
 この判示内容からすると,情報公開法5条3号が規定する他国等との信頼関係が損なわれ,交渉上不利益を被るおそれがあると「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある」かどうかを審理する場合は,上記1(1)イで述べたとおり,処分行政庁の判断が全く事実の基礎を欠くか,又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くことにより,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるか否かという観点から司法審査がされるべきであり,これが認められる場合に限り,上記判断は裁量権の逸脱又は濫用があるものとして違法と評価されることになるはずである。

(2)  ところが,原判決は,本件不開示決定部分を公にすることによって,内閣の抱える政策課題や内閣官房報償費の使用目的及び支払相手方等について,様々な臆測を呼ぶこともあり得ることを肯定しながら,このような臆測のみによって内閣の事務の適正な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとまでは認められないとして(原判決43,45,46ページ),情報公開法5条3号の不開示情報該当性が認められない旨判断している。このような原判決の判断は,実質的には,当該行政文書に記録された他国等との信頼関係等に関する情報について,裁判所が同号所定の「おそれ」があると推認するに足りる具体的事情を個々の対象文書ないし支出に即して一審被告側で主張立証しなければならず,しかも,同号所定の「おそれ」の立証の程度として,抽象的な可能性では足りず,具体的な可能性があることを要するとの解釈を採用するものであり,この主張立証により上記の「おそれ」を推認するに至らない場合には,同号該当性が否定されることを意味するものである。
 しかしながら,そもそも,当該行政文書に記録された情報が同号所定の「おそれ」があるものと認められるかどうかも,行政機関の長の裁量に委ねられる事項であることは原判決も認めるところであり,この点について,一審被告側に裁判所をして確信をもって認定せしめる立証責任を課すことは,実質的に,上記の「おそれ」の有無の認定に関して行政機関の長に裁量権を認めず,判断代置的な司法審査を行うに等しいものである。しかも,対象文書の開示により,支払相手方や具体的な使途が特定されるおそれが抽象的にであれ存在するのであれば,非公表,非公開を当然の前提としてされた情報収集・協力依頼の前提が失われることが十分に想定されるから,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ等があると認めた処分行政庁の判断が明白に合理性を欠くものということは到底できないはずである。この点,最高裁判所平成19年5月29日第三小法廷判決(集民224号463ページ)も,情報公開法5条4号と同様の規定を設けている情報公開条例の非公開情報の該当性について,対象文書の記載を公にすることにより,「作成者を特定することが容易になる可能性も否定することができない」ことなどから,対象文書の「記載が公にされた場合,(中略)支障を及ぼすおそれがあると認めた上告人の判断が合理性を欠くということはできない」として非公開情報の該当性を肯定しているところである(なお,上記判決の事案は,滋賀県警本部が支出した捜査報償費等に係る個人名義の領収書のうち実名ではない名義で作成されたもの等の公開が請求されたという事案であって,本件と利害状況を同一にするものということができる。)。
 以上のとおりであり,原判決が実質的に採用したの情報公開法5条3号の解釈には,同号が「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある」と規定して,飽くまでもおそれがあるとの判断は行政機関の長においてされた判断について問題とし,そのおそれが具体的に存するかどうかを直接問題としない規定とされたことを看過した誤りがあるというほかない。

 本件3文書について情報公開法5条3号の不開示情報該当性を否定した原判決の判断には,同号の解釈適用の誤りがあること
(1)  政策推進費受払簿に記録された情報の不開示情報該当性
 政策推進費受払簿のうち外交関係等に関する支出に係るものについては,処分行政庁が,その開示により,他国等との信頼関係が損なわれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると判断したことについて,これが社会通念上合理的なものとして許容される限度を超えるものとは到底いえない。このことは,既に情報公開法5条6号の不開示情報該当性に関して主張したところ(前記第2の6)に加えて,内閣官房報償費の支出に関する行政文書が開示されていない現時点においてすら,情報交換の場を設けるだけでも相手方に過度に警戒されるなど,既に関係者の協力を得にくい状況が生じていること(乙第13号証9ページ),情報公開制度を異にするものの,我が国の内閣官房報償費に相当する経費についてその使途等が公表されていない諸外国との関係では,内閣官房報償費の支出に関する文書である本件対象文書の一部でも公にすることは他国等との信頼関係を破壊するものと考えられること(乙13号証14ページ,資料1)からも明らかである。
 したがって,政策推進費受払簿のうち外交関係等に関する支出に係るものについては,同条3号の不開示情報に該当する。
 そうすると,上記情報が同号の不開示情報に該当しないとした原判決には,同号の解釈適用の誤りがある。

(2)  出納管理簿に記録された情報の不開示情報該当性
 既に情報公開法5条6号の不開示情報該当性に関して主張したところ(前記第2の7)からも明らかなとおり,出納管理簿に記録された情報で外交関係等の支出に係るものについては,処分行政庁がこれを開示することにより他国等との信頼関係が損なわれるおそれなどがあると判断したことに裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認め得る事由はないから,上記情報は,同条3号の不開示情報に該当する。
 したがって,上記情報が同号の不開示情報に該当しないとした原判決には,同号の解釈適用の誤りがある。

(3)  報償費支払明細書に記録された情報の不開示情報該当性
 報償費支払明細書に記録された情報のうち,外交関係等に係るものについては,上記(1)で政策推進費受払簿に記録された情報について述べたのと同様の理由により,処分行政庁においてこれを開示すると情報公開法5条3号に規定するおそれがあると認めた判断が,明白に合理性を欠き,社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるとは認められない。また,少なくとも,慶弔費に係る部分については,本件対象期間が限定されていることと相まって支払相手方が特定されるおそれがあるから,他国等との信頼関係が損なわれるおそれがあることは明らかである上,報償費支払明細書を全部開示すると,原判決が出納管理簿において不開示を相当とした調査情報対策費と活動関係費の支払日及び支払額が判明することとなるから,上記各部分について開示すると情報公開法5条3号に規定するおそれがあると認めた処分行政庁の判断が明白に合理性を欠くものということは到底できない。
 したがって,上記情報は同号の不開示情報に該当する。
 そうすると,上記情報の不開示情報該当性を否定した原判決の判断には,同号の解釈適用の誤りがある。

第4  出納管理簿に記録された情報について部分開示を認めた原判決には,情報公開法5条3号及び6号並びに同法6条1項の解釈適用の誤りがあること
 原判決の判断
 原判決は,出納管理簿に記録された情報については,①個別の入出金に関する記録(各入出金ごとに記録される年月日,摘要,受領額,支払額,残額,支払相手方等の部分),②月分計欄に関する記録(受領額,支払額,残額及び内閣官房長官の確認印の部分),③累計欄に関する記録(受領額,支払額,残額及び内閣官房長官の確認印の部分)が,同一の文書に記録された他の情報と区別されるそれぞれ独立した一体的な情報を成すものであると判示する(原判決44,45ページ)。

 「独立した一体的な情報」の捉え方
 「独立した一体的な情報」をどの範囲で捉えるかについては,当該情報が記録された記載部分の物理的形状,その内容,作成名義,作成目的,当該文書の取得原因等を総合考慮の上,不開示事由に関する情報公開法5条の定めの趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべきものと解される(最高裁判所判例解説民事篇平成13年度(上)372ページ参照)。

 出納管理簿に記録された情報について部分開示を認めた原判決には,情報公開法5条3号及び6号並びに同法6条1項の解釈適用の誤りがあること
 出納管理簿は,内閣官房報償費の入金及びいつ,いかなる目的でどの程度,誰に使用しているかを月単位でまとめた上で,当該会計年度に係る累計額を記録して,月単位,会計年度単位の内閣官房報償費の入出金状況を明らかにし,内閣官房長官において,内閣官房報償費の入出金状況及びその総計と残高がそれぞれ適正に記録されているかどうかを確認する目的で,内閣官房長官が指名した事務補助者が作成する文書である。内閣官房長官は,自ら出納管理簿に記録された内容の確認をするほか,内閣官房内閣総務官室の職員から指名した者をして,適正に記録されているか否かの確認を行わせる。
 一審被告の第一審における被告第6準備書面別紙4の出納管理簿の様式及び別紙5の出納管理簿のサンプル(ただし,金額は架空のものである。)をみれば,出納管理簿には,月単位の情報として,月間における各入金及び支払の事実とそれぞれの合計額,年度単位の情報として,年度内における合計額が一覧表の形式で記録されている。これらの内容について月単位又は年度単位で内閣官房長官が確認した旨の押印及び年度単位(取扱責任者である内閣官房長官の異動があった場合は,年度当初から当該異動時まで)で内閣官房長官が内閣官房内閣総務官室の職員から指名した者において出納管理簿が適正に記録されていることを確認し,その際に記録作成者が立ち会った旨の押印がされている(乙第13号証21ないし23ページ及び乙第14号証24,25ページ)。出納管理簿に記録された月単位の情報,又は年度単位の情報の全体をもって,作成目的である内閣官房報償費の入出金状況が明らかになるのである。
 このように,出納管理簿には,単に個々の入出金の事実に関する情報にとどまらず,月全体,あるいは年度全体としての入出金状況に関する情報が記録されており,出納管理簿のこれらの「記述等の部分」全体を一体として捉えることによって初めて,出納管理簿が月ごと,年度ごとの内閣官房報償費の入出金状況全体を一覧できる事項を記録したものであるとの意味内容が明らかとなり,入出金相互の関係が矛盾なく記録されているかどうか,これらの入出金の記録が月ごと,年度ごとの合計額の記録と整合するかどうかが,内閣官房長官の確認の対象とされることで,出納管理簿の作成の趣旨・目的が達せられるものである。
 そうすると,内閣官房報償費に係る月別,年度別の入出金状況を記録した情報は,それぞれ月単位,年度単位の個別の情報と一体となって初めて,その全体が「独立した一体的な情報」を成すものと解するのが相当であって,原判決のように,出納管理簿について,個々の入出金の事実に関する情報が記録された部分及びそれ以外の部分がそれぞれ独立した一体的な情報であると解することは誤りである。
 なお,出納管理簿の一覧表の受領額に係る各項目(国庫からの内閣官房報償費の支出に係る各項目)には,国庫から内閣官房報償費への入金に関する記録がされており,当該記録部分は既に開示されている請求書の記録と同内容のものであるから,当該記録部分は,情報公開法5条3号及び6号の不開示情報ではない。しかし,上記で述べたように,出納管理簿の一覧表は全体として一つのまとまりを有しており,上記各項目それ自体は独立した一体的な情報に当たるものではないから,これを部分開示すべき義務はない。

 小括
 以上によれば,出納管理簿に記録された情報について部分開示を認めた原判決は,情報公開法5条3号及び6号にいう「情報」の解釈適用を誤ったものであり,ひいては同法6条1項6条1項の解釈適用を誤った違法がある。

第5  報償費支払明細書を部分開示することはできないこと
 はじめに
 報償費支払明細書に記録された情報の不開示情報該当性については,前記第2の8及び第3の3(3)で述べたとおりである。この点をおくとしても,次のとおり,報償費支払明細書について部分開示をすることはできない。

 報償費支払明細書に記録された情報は,全体として「独立した一体的な情報」を成すものであること
 報償費支払明細書は,会計検査院に対し,内閣官房報償費の使用状況を報告するため,内閣官房長官が,内閣官房報償費を,いつ,いかなる使用目的(目的類型別の区分)でどの程度使用したかに加えて,前月からの繰越額,当月受入額・支払額の各合計額及び翌月への繰越額等を明らかにする目的で毎月ごとに作成される文書であり,毎月末に当該月の使用状況を取りまとめて作成されるものであるから,この点で,各項目についてその都度記載される出納管理簿とは作成の目的及び形態が異なる。
 報償費支払明細書には,月単位の情報として,前月繰越額,当月受入額,当月支払額及び翌月繰越額が記録され,当月支払額の内訳として各支払の事実とその支払合計額が一覧表の形式で記録されている(第一審判決別紙5・89ページ)。この報償費支払明細書に記録された情報の全体をもって,作成目的である内閣官房報償費の各月の出納状況が明らかになるのである。このように,報償費支払明細書には,単に個々の支払の事実に関する情報にとどまらず,文書作成の本来の目的である月全体としての収支状況に関する情報が記録されており,後者については,その内訳である一覧表も含めた全体の記載が一体となって一つのまとまりのある情報を形成しているのである。
 したがって,報償費支払明細書に記録された情報は,個々の支払状況等を記録した部分と月全体としての収支状況を記録した部分とが一体となって初めて,「独立した一体的な情報」を成すものと解するのが相当である。

 小括
 以上のとおり,報償費支払明細書について部分開示することはできない。

第6  結論
 以上のまとめ
 内閣官房は,内閣法12条1項に基づいて内閣に置かれている機関であって,内閣の重要政策に関する基本的な方針に関する企画及び立案並びに総合調整に関する事務等をつかさどる機関である(同条2項)。
 内閣官房が上記事務等を遂行する中では,内政・外政上の様々な事態に直面することが避けられず,そのような場合,内閣官房は,キーパーソンとなる人物から的確に情報を収集するとともに必要な協力を得るため,具体的使途や支払相手方等を明らかにすることを予定しない経費である内閣官房報償費を機動的に使用して事態の打開等を図る必要に迫られるのである。
 しかしながら,原判決中,一審被告敗訴部分に相当する情報,すなわち,協力者の特定につながり得る情報や内閣において推進しようとしている政策等,更にはその推進のために行われている活動を阻害し得るような情報が公にされるのであれば,内閣官房が,協力者との信頼関係を維持しつつ情報収集・協力依頼に係る活動を機動的かつ効果的に行うことに支障が生ずることは明らかである。
 したがって,原判決中,一審被告敗訴部分は,破棄されるべきである。
 なお,本件対象文書に係る内閣官房報償費の支出については,会計検査院の会計検査の結果,会計検査院から違法又は不当な支払であるとして指摘されたものは存在しない。

 本件は情報公開法5条3号及び6号並びに6条1項の解釈適用に関する重要な事項を含むものであること
 前記第2ないし第4で述べたとおり,原判決の情報公開法5条3号及び6号並びに6条1項の解釈適用の誤りは,判決の結果に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反に当たる。
 これに加えて,内閣官房報償費の支出に関する文書について一部開示すべきとした原判決の判断は,本件の個別事案に対する影響にとどまらず,内閣官房報償費に係る事務全般,ひいては,我が国の抱える内政外政の重要政策課題の解決等にも多大な影響を及ぼすものである。
 したがって,本件が法令の解釈に関する重要な事項を含むものであることは明らかである。

 結語
 よって,申立人は,御庁に対し,本件申立てを受理の上,原判決を破棄し,更に相当の裁判を求める。

以 上
「添付資料省略」