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【審査会名】 情報公開・個人情報保護審査会(当初内閣府、平成28年4月から総務省に設置)
【答申年月日】 令和3年4月19日
【答申番号】 令和3年度(行情)答申 第 12号

【要旨】
  1. 【本件対象文書の法5条6号柱書き該当性に係る諮問庁の説明】【特定職員の聴取結果書に係る録音データ】【原発事故調査関係文書】本件対象文書の性質及び法5条6号柱書きに定める不開示情報該当性について,諮問庁は以下のとおり説明する。平成26年9月以降,聴取結果書について,開示の同意をヒアリング対象者本人から得たものは,準備が整ったものから順次公開する方針としており,本件対象文書のヒアリングに係る特定職員の聴取結果書については,一部箇所を除いて内閣府ホームページで公開している。一方で,本件対象文書によって表現・伝達される情報には,聴取結果書の公表によって既に公にされている文字情報に加えて,声質や話し方,発言内容に対する感情・ニュアンス等,そしてそこから読み取れるヒアリング対象者の性格や個人的特徴,身体状態等のプライバシーに影響を及ぼす情報も一体となって記録されており,既に公開されている聴取結果書とは異なるものである。仮にこのような追加的な情報を開示した場合,特定職員からヒアリングした際の前提条件を欠くことになるのみならず,今後の同種の調査において,事故等関係者が,情報公開請求により開示されたヒアリングの録音データの一部が断片的に取り上げられて評価され,自己に対するひぼう中傷が行われることや名誉が棄損されること等を恐れて率直な口述をせず,あるいは,事実を明らかにしないことなどの弊害が高い蓋然性で予想される。加えて,事故等関係者が,ヒアリングにおいて他の事故等関係者に言及する際には,言及する事故等関係者に将来的に迷惑がかかることを恐れて率直な口述をせず,あるいは,事実を明らかにしないことなどの弊害が高い蓋然性で予想される。ヒアリング実施者である行政機関が責任追及を行わず,ヒアリングの録音データの記録の不開示を方針として定めても,そのヒアリングの録音データが行政文書として開示されるのであれば,被聴取者のこれらの恐れがなくなることはないからである。このように,ヒアリングの録音データは,その性格上,公にした場合,行政機関による事故等の原因調査という公益上重要な業務の適正な遂行に重大な支障を及ぼす具体的なおそれがあると認められる。したがって,本件対象文書は法5条6号柱書きに定める不開示情報に該当する。


  2. 【録音データ公開の同意に係る諮問庁の説明】【原発事故調査関係文書】審査請求人は,「内閣府のホームページで公表されている特定職員の聴取結果書を見ると,・・・ヒアリングの結果(音声データを含む)の不開示を希望する旨は記されていない」ことなどを理由として,処分庁が「「特定職員は不開示を希望している」と立証できない限り,「開示は特定職員の意思に反する行為」「そうしたら信頼が失われる」と言え」ないと主張する。しかしながら,特定職員の聴取結果書については,内閣府のホームページで公開されているものの,録音データである本件対象文書は,本件ヒアリングにおける被聴取者にとって機微な情報であると認められる当該被聴取者の性格や個人的特徴,身体状態等のプライバシーに影響を及ぼす情報も一体となって記録されていると認められ,また,内閣官房の被聴取者本人への意向確認が聴取結果書の公開を念頭においたものであることを踏まえると,既に公開されている聴取結果書の被聴取者がそのような情報(聴取結果書に係る録音データ)の公開をも含め同意しているとまではいえないことから,審査請求人の主張は当たらない。なお,情報公開・個人情報保護審査会の過去の答申(平成27年12月22日(平成27年度(行情)答申第602号))においても,同様の判断が示されていることを念のため申し添える。


  3. 【本件対象文書に記載された情報に係る審査会の認定】【原則非公開で行うことが申し合わされていたヒアリング】【原発事故調査関係文書】 本件対象文書を見分したところ,本件対象文書は,本件ヒアリングに係る聴取結果書に記載された聴取者と被聴取者のやり取り等のもとになった録音データであり,本件ヒアリングにおける声質や話し方,発言内容に対する感情,ニュアンス等,そしてそこから読み取れる被聴取者の性格や個人的特徴,身体状態等のプライバシーに影響を及ぼす情報も一体となって記録されていると認められる。また,本件ヒアリングに係る聴取結果書は,内閣官房が公開を判断し,内閣府がそれを維持して,現時点では内閣府のウェブサイトに掲載されており,一部箇所を除いてその内容は公開されているところ,当審査会において,本件委員会のウェブサイトにおいて公開されている第2回委員会(平成23年7月8日開催)の議事録及び資料並びに平成24年5月31日付けの委員長メッセージを確認したところによれば,本件委員会において,ヒアリングの方法等について,真実の供述を得る等のため,原則非公開で行うこととするなどを申し合わせていることが確認でき,本件ヒアリングは,本件事故等関係者の任意の協力を得て非公開で行われたものであったとする諮問庁の説明を覆すに足りる事情は見当たらない。


  4. 【ヒアリングの録音データの法5条5号及び6号柱書き該当性について】【性格や個人的特徴,身体状態等の情報】【聴取結果書が既に公開されていることに関する考慮】本件ヒアリングが,甚大な被害等をもたらした本件事故について,様々な意見や議論がある原因等を究明するための調査・検証の一環として,本件事故等関係者に対して非公開で行われたものであることに鑑みると,本件ヒアリングにおける被聴取者の性格や個人的特徴,身体状態等のプライバシーに影響を及ぼす情報も一体となって本件対象文書に記録されていると認められる情報は,特定職員にとって通常他人に知られたくない機微な情報に当たると認められる。そうすると,本件ヒアリングに係る聴取結果書が,内閣府のウェブサイトにおいて一部を除き既に公開されていることを考慮しても,本件対象文書の一部でも公にした場合,特定職員からヒアリングした際の前提条件を欠くことになるのみならず,今後の同種の調査において,事故等関係者が,情報公開請求により開示されたヒアリングの録音データの一部が断片的に取り上げられて評価され,自己に対するひぼう中傷が行われることや名誉が棄損されること等を恐れて率直な口述をせず,あるいは,事実を明らかにしないことなどの弊害が予想される旨の諮問庁の説明は,これを否定することまではできない。したがって,本件対象文書を公にすると,行政機関による事故等の原因調査業務の性質上,当該業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められることから,本件対象文書は,法5条6号柱書きに該当し,同条5号について判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。


  5. 【法7条 裁量的開示】【原因調査業務に支障を及ぼすおそれがある情報等】【原発事故調査関係文書】審査請求人は,審査請求書において,法の開示規定を踏まえると,「被聴取者の意思」だけで開示・不開示が決まるものではなく,場合によっては法7条(公益情報の開示)も適用する形になっているなどと主張する。しかしながら,本件事故の重大性に鑑みると,その原因及び被害の原因を究明するための調査・検証の重要性はいうまでもないところ,本件対象文書には,行政機関による事故等の原因調査業務に支障を及ぼすおそれがある情報等が記録されていることからすると,これを開示することに,これを開示しないことにより保護される利益を上回る公益上の必要性があるとまでは認められないことから,法7条による裁量的開示を行わなかった処分庁の判断に裁量権の逸脱又は濫用があるとは認められない。



【概要】
【同一事案の判決】