第1 |
審査会の結論
別紙に掲げる各文書(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,災害廃棄物安全評価検討会(以下「本件検討会」という。)第12回の議事録を除き,その全部を不開示とした各決定について,諮問庁がなお不開示とすべきとしている文書については,本件検討会第5回ないし第7回及び第12回の会議録音データを開示すべきである。 |
1 |
審査請求の趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成23年11月14日付け環廃産発第111114001号(諮問第47号),平成23年12月28日環廃産発第111228001号(諮問第155号),平成24年2月10日環廃産発第120210003号(諮問第208号)及び平成24年6月7日付け環廃産発第210607011号(諮問第366号)により環境大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った各不開示決定又は一部開示決定(以下,併せて「原処分」という。)について,取消しを求める。 |
(ア) |
原処分について,処分庁は,当該処分の通知書において,「本件検討会第5回ないし第7回(諮問第47号)及び第12回(諮問第366号)の会議録音データの内容は,放射性物質により汚染された(おそれのある)災害廃業物の処理を円滑に実施するため,また災害廃棄物の処分方法の技術的な検討を行うため,非公開のデータ等も含め,可燃廃棄物の焼却方法や焼却灰の埋立方法,これらの施設の満たすべき要件などの議論(諮問第47号)又は試験,調査結果等を基にした議論(諮問第366号)が録音されており,これらを公にすることは,委員による率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあることから」,「議論の録音内容が公にされることで,発言内容が過大に,広く訴えられること等により,処理方針に基づく市町村等による災害廃棄物の処理事業の適正な遂行に支障をおよぼすおそれがある」等と説明している。 |
(イ) |
しかしながら,非公開データ(特許等に関わるもの,プライパシーに関わるもの等)があれば部分的に不開示とし,その他は開示すべきである。また,政策決定に関わる会議は原則として公開であるべきであって,非公開でないと率直な意見の交換が出来ない委員は国の検討会の委員として不適格と考えるべきである。そもそも録音されている回については全て議事録が開示されており,録音データを開示できないとする理由にはならない。ICRP(国際放射線防護委員会)もPublication 111で徹底的な公開と住民の関与が不可欠であると勧告しており,徹底的な公開と住民の関与こそが,「事業の適切な遂行」を促す,というのが民主主義におけるコンセンサスであり,世界がチェルノブイリから学んできたことである。議論の内容が公開されないことにより,放射性物質により汚染された(おそれのある)災害廃棄物を処理・処分する地域の住民の不安が増しているのが現実であり,事実多くの自治体から受け入れを拒否されている。
したがって会議録音データは,非公開データ(特許等に関わるもの,プライバシーに関わるもの等)を除き,開示されるべきである。 |
(ア) |
原処分について,処分庁は,当該処分の通知書において,「当該文書は作成・取得しておらず,不存在のため,不開示とした」と説明している。 |
(イ) |
しかしながら,第5回から第8回までの会議録音データの請求については,環廃産発第111114001号にて,録音していることを認めている。議事要旨を作成するためにも,その後の行政における実務においても録音をしていないことは実務上ありえない。録音していないとすれば実務を適切に遂行していないことになるからである。開示対象文書に該当しないと判断したのだとすれば,環廃産発第111114001号と矛盾するし,そもそも業務のために録音するものであるから開示対象とすべきである。ICRP(国際放射線防護委員会)もPublication 111で徹底的な公開と住民の関与が不可欠であることを勧告しており,徹底的な公開と住民の関与こそが,「事業の適切な遂行」を促す,というのが民主主義におけるコンセンサスであり,世界がチェルノブイリから学んできたことである。
したがって会議録音データは,非公開データ(特許等に関わるもの,プライバシーに関わるもの等)を除き,開示請求の対象文書として取扱い,開示されるべきである。 |
(2) |
意見書の記載(諮問第47号及び同155号)
本件検討会では,福島県内のがれきだけでなく,岩手県,宮城県などのがれきの処理方法についても検討を行い,国は広域処理の安全性の根拠として示している。
しかしながら,この検討会は非公開であり,当事者である被災地及び受け入れ側の自治体の参加もなく,議事録も公表されていない。
本事件だけでなく,これまでに本件検討会の全ての会の議事録と第5回以降については,議事録が不存在とされたため会議録音の開示請求を行ってきた。議事録と会議録音の請求に対して,開示・不開示決定は以下のように変遷してきた。議事録は4回までは存在(開示),会議録音は第7回までは存在(不開示)していたが,その後はいずれも作成すらしていないと環境省は主張している。 |
表 請求文書,開示不開示の別およびその理由
請求文書 |
開示・不開示
決定
|
不開示の理由 |
実施回数 |
文書種類 |
1~4 |
議事録 |
開示 |
- |
5~8 |
議事録 |
不開示 |
不存在 |
5~7 |
会議録音 |
不開示 |
・委員の率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ
・発言内容が過大に,広く訴えられること等により,処理方針に基づく市町村等による産業廃棄物の処理事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ |
8 |
会議録音 |
不開示 |
不存在 |
9~11 |
議事録 |
不開示 |
不存在 |
会議録音 |
不開示 |
不存在 |
2012年1月には東日本大震災に関連する政府の重要会議のうち「原子力災害対策本部」,「緊急災害対策本部」,「被災者生活支援チーム」で議事録も議事概要も作成されていなかったことが大きな問題となり,岡田副総理の指示によりほかの重要会議についても点検され,10の会議で議事録が作成されていなかったことが分かった。
しかし,本件検討会はこの際の点検の対象になっていなかったのか,議事概要で十分とされたのか,その後も議事録作成が行われた形跡がなく,事実,開示請求に対して「作成・取得しておらず,不存在」であった。
がれきの広域処理の受け入れを表明した東京都,神奈川県,島田市(静岡県)などで,大きな反対の声が上がっており,被災地と一部の地域の間に亀裂が生じているように見える。このことからも,岩手県,宮城県のがれきの汚染の程度がどれくらいで,それを焼却し,灰を最終処分した時にどのような課題があるのか,それをどう克服できるのかできないのかについて検討している本件検討会が,被災地の復興にとって当然「重要会議」である。
本事件より後に開示請求した会議録音について不開示とされた理由として,不開示決定書に下記の理由が記載されている。
・ |
委員の率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ |
・ |
発言内容が過大に,広く訴えられること等により,処理方針に基づく市町村等による災害廃棄物の処理事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ |
1つ目の理由は意味が不明で,これで不開示にできるのであればどんな会議も不開示となるから,不開示の理由たり得ない。そもそも第1回から第4回までの議事録は開示されている。第5回以降にどのような違う事情があるのか具体的な理由が必要である。
2つ目は,当事者の参加や公開どころか,議事録の公開すらない不透明さに象徴される政策決定手続が「適正な遂行に支障を及ぼす」根本的な原因となっていると考えるべきである。
ICRP (国際放射線防護委員会)は,その勧告(Publication 111)で,意志決定過程の正確な記録と公開,決定への当事者の関与が必要だ,と指摘している。これは福島県内でのみ必要なものではなく,放射線防護に関する意志決定には欠かすことができない点である。
会議の公開,正確な議事録の作成と公表は,そのほんの入り口にすぎず,作成・開示して当然のものである。
(以下,諮問第155号のみ)
なお,環境省は「録音データを参考としなくとも議事要旨の作成は可能であったことから,録音もやめることとした。」と述べているが,ICレコーダによる録音には費用は要さないこと,会議中のメモだけでは後から発言を確認することが出来ないことから,環境省が主張するような理由で録音をやめることはそもそも業務を執行していないことになるし,個人的にでも録音してあるのであれば開示すべきである。
ちなみに災害廃棄物広域処理の広報には9億円(平成23年度),15億円(平成24年度)の税金を投じていながら,数万円の速記録外注に費用が掛かるから作成しない,というのは理由にならない。
平成24年3月14日の参議院予算委員会で細野環境大臣は「これから全部しっかり公開をいたしますし,隠すようなものでも何でもないんです」(参議院の議事録より)と答弁している。これまで不開示だった第5回以降の録音データも含めて迅速に開示すべきである。
(1) |
異議申立人は,法に基づき,処分庁に対し,平成23年10月12日付け(諮問第47号),同年11月25日付け(諮問第155号),平成24年1月11日付け(諮問第208号)及び同年4月5日付け(諮問第366号)で本件対象文書の開示請求(本件各開示請求)を行い,処分庁は平成23年10月13日付け(諮問第47号),同年11月28日付け(諮問第155号),平成24年1月13日付け(諮問第208号)及び同年6月9日付け(諮問第366号)でこれを受理した。 |
(2) |
本件各開示請求に対し,処分庁は,諮問第47号については,第7回及び第8回議事録並びに第8回の録音データは作成・取得しておらず,不存在のため,また,第5回ないし第7回の録音データは,法5条5号及び6号柱書きに該当するため,不開示とする決定を平成23年11月14日付けで行った。また,諮問第155号及び同第208号については,当該文書は作成・取得しておらず,不存在のため,不開示とする決定を平成23年12月28日付け(諮問第155号)及び平成24年2月10日付け(諮問第208号)で行い,さらに,諮問第366号については,発言者名の入った第12回議事録(要旨ではない)については開示したが,第12回会議の録音データについては,法5条5号及び6号柱書きに該当するため,不開示とする決定を平成24年6月7日付けで行なった。 |
(3) |
これに対し異議申立人は,平成23年11月17日付け(諮問第47号),平成24年1月11日付け(諮問第155号),同年2月27日付け(諮問第208号)及び同年6月17日付け(諮問第366号)で処分庁に対して,上記第2の2(1)の記載のとおり,各異議申立て(以下,併せて「本件異議申立て」という。)を行い,処分庁はこれを受理した。 |
(4) |
処分庁は,本件異議申立てについて検討を行ったが,原処分を維持するのを相当と判断し,処分庁において本件異議申立てを棄却することにつき,情報公開・個人情報保護審査会に諮問するものである。 |
ア |
一方,検討会における議論の内容について,より透明性を高める観点から,開示請求時には作成・取得していなくても,事後的に作成することで公開可能な行政文書については,積極的な公開を求める声が高まってきた。 |
イ |
このため,諮問第47号の開示請求対象文書のうち,第7回の録音データは存在していたことから,同様に録音データが存在していた第5回及び第6回とともに委員に発言内容を確認し,議事録を作成することとし,第7回の発言者名の入った議事録(要旨ではない)については不開示決定を取り消し開示することとするものである。 |
(1) |
本件検討会とは,平成23年4月27日付け福島県内の災害廃棄物の当面の取扱いに関する原子力安全委員会の助言の中で,「災害廃棄物の処分の方針を決定するに当たっては,廃棄物の種類,発生量,汚染のレベル等を把握した上で,安全評価を行い,その結果を踏まえ,適切な管理方法を決定する必要がある」とされたことを踏まえ,この助言の中で指摘されている安全評価を行うことを目的として環境省が開催している検討会である。
本件検討会は,環境,廃棄物処理,放射線といった各分野に精通する有識者で構成されており,委員による率直な意見の交換や意思決定の中立性が不当に損なわれることのない意見の交換を確保するため,本件検討会は非公開とする一方,会議終了後に環境省職員による記者会見を行い,会議の内容について対外的な説明及び質疑応答を行うとともに,会議資料及び議事概要を公表しているところである。
第1回から第4回までは,この議事概要作成の参考として,念のため速記録を速記業者に外注して作成していたが,結果的に,当該速記録を使用しなくとも議事概要は作成できたこと,また,速記録の作成は外注であり別途費用が発生するといったことも踏まえて,第5回以降は速記録の作成を取りやめた。このため,異議申立人の求める第7回及び第8回検討会の議事録は作成・取得しておらず,不存在のため,法9条2号に基づき不開示決定したものである。
(諮問第47号及び同第366号)
また,検討会の会議録音データは,議事概要作成の参考として,ICレコーダに録音していたものであり,その内容は,放射性物質により汚染された(おそれのある)災害廃棄物の処理を円滑に実施するため,また,災害廃棄物の処分方法の技術的な検討を行うため,非公開のデータ等も含め,可燃物の焼却方法や焼却灰の埋立方法,これらの施設の満たすべき要件などの議論が録音されており,これらを公にすることは,委員による率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあることから,法5条5号に該当するとともに,災害廃棄物の処理方針の取りまとめを目的としている本件検討会の議論の録音内容が公にされることで,発言内容が過大に,広く訴えられること等により,処理方針に基づく市町村等による災害廃棄物の処理事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号柱書きに該当するため,不開示としたものである。
なお,これらの録音データについては,議事概要作成に当たって結果として使用されず,なくても議事概要を作成することができたことから,第8回以降は録音デー夕の録取についても取りやめることとした。このため,第8回検討会の録音データは作成・取得しておらず,不存在のため,不開示としたところである
(諮問第155号及び同第208号)
また,同検討会の会議録音データについては,第5回から第7回における録音データが保存されている。当該録音データも議事要旨を作成する際の参考とするため,ICレコーダに録音していたが,当該録音データを参考としなくとも議事要旨の作成は可能であったことから,以後,録音もやめることとした。このため,異議申立人の求める第9回検討会(諮問第155号)及び第10回・第11回検討会(諮問第208号)の議事録及び録音データは,作成・取得しておらず,不存在のため,法9条2号に基づき不開示決定したものである。 |
(2) |
諮問第47号の補充理由説明書による追記
一方,本件検討会における議論の内容について,より透明性を高める観点から,開示請求時には作成・取得していなくても,事後的に作成することで公開可能な行政文書については,積極的な公開を求める声が高まってきた。このため,公にすることで国民の信頼を得,説明責任を果たす観点からも録音データの存在している第7回については議事録を開示することとするものである。
なお,第8回検討会の録音データは存在せず,議事録は今後も作成・取得する予定はなく,不存在のため,法9条2号に基づく不開示決定を維持する。 |
(3) |
検討会の会議録音データには,語気や語調,言い間違い,発言に対するほかの委員の非公式な反応等も含めて記録されており,これを公にすることは,率直な意見交換や意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれや,発言内容が過大に,広く訴えられること等により,処理方針に基づく市町村等による災害廃棄物の処理事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,各委員に対して事後に発言内容の確認を行った議事録とは,異なるものである。したがって,検討会の録音データの不開示決定を維持する。 |
3 |
異議申立人の主張
上記第2の1及び2(1)の記載のとおり。 |
4 |
異議申立人の主張についての検討
異議申立人は,不開示決定を取消し,開示とする決定を求めていることから,その主張について検討する。 |
ア |
会議の公開について
異議申立人は,政策決定に関わる会議は,原則として公開であるべきであって,非公開でないと率直な意見の交換ができない委員は,国の検討会の委員として不適格と考えるべきであると主張する。
しかし,本件検討会においては,災害廃棄物の処理方針のとりまとめに向けた様々な技術的な検討を行う中で,非公開のデータ等についても取り扱うものであるとともに,議論の中で各委員から様々な仮説や提案が述べられている。これらの議事を公にすることは,委員による率直な意見交換や意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとともに,発言内容が過大に,広く訴えられること等により,処理方針に基づく市町村等による災害廃棄物の処理事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,非公開とするに足る理由を有していると考えられる。
したがって,会議を非公開としなければ率直な意見の交換ができない委員は,国の検討会の委員として不適格であるとする異議申立人の主張は当たらない。なお,本件検討会は非公開としているが,会議終了後に環境省職員による記者会見を行い,会議の内容について対外的な説明及び質疑応答を行うとともに,会議資料及び議事概要を公表することで,その透明性を確保しているところである。 |
イ |
録音データの開示について
異議申立人は,そもそも録音されている回については議事録が開示されており,録音データを開示できないとする理由にはならないと主張する。
しかし,録音データには,語気や語調,言い間違い,発言に対する他の委員の非公式な反応等も含めて記録されており,これを公にすることは,率直な意見交換や意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれや,発言内容が過大に,広く訴えられること等により,処理方針に基づく市町村等による災害廃棄物の処理事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,各委員に対して事後に発言内容の確認を行った議事録とは,異なるものである。したがって,録音されている回の議事録が全て開示されていることをもって,検討会の録音データを開示できないとする理由にはならないという異議申立人の主張は当たらない。 |
ウ |
録音データの部分開示について
異議申立人は,録音データのうち非公開データ(特許等に関わるもの,プライバシーに関わるもの等)があれば部分的に不開示にし,その他は開示すべきであるとしていることから,これは法6条1項に基づく部分開示を求めているものと解釈できるので,その可能性について検討する。
部分開示は,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときに実施する。本件対象の録音データは,同時に多数の委員等の発言が一つのデータとして録音されており,不開示情報部分のみを区分して除くことは困難である。また,録音データの一部分の音声のみを取り除くための機器又はソフトウェアは,当省では保有していない。
したがって,録音データに含まれる不開示情報を容易に区分して除くことは困難であり,部分開示を実施すべきであるという異議申立人の主張は当たらない。 |
エ |
非公開による影響について
異議申立人は,議論の内容が公開されないことにより,放射性物質に汚染された(おそれのある)災害廃棄物を処理・処分する地域の住民の不安が増しているのが現実であり,事実多くの自治体から受け入れを拒否されていると主張する。
しかし,東日本大震災及び福島第一原発事故の発生直後より,放射性物質により汚染されたおそれのある災害廃棄物等の処理が停滞するおそれがあったことから,国民の生活に多大な支障を来すことのないよう,国の責任によって,一刻も早く災害廃棄物等の安全な処理方針をとりまとめることが社会的に要請されていたとの事情があり,このため,公開することについて了解が得られていないデータ等も取扱いながら,本件検討会において,速やかに議論を行ってきたところである。その結果得られた結論については,公開し得る十分な科学的根拠と併せて示すとともに,資料の作成や説明会等を通じて理解の促進に努めているところであり,実際,東京都や山形県,秋田県を始めとする複数の自治体において,災害廃棄物の処理を受け入れようとする動きが出てきている。以上のことから,本件検討会の議論の内容が公開されないこと自体が,自治体が受入れを拒否する理由になっているとの認識は当たらない。 |
以上のことから,本件各異議申立てに係る開示請求のうち,第8回検討会議事録及び第5回ないし第8回及び第12回検討会の会議録音データについては,非公開データ(特許等に関わるもの,プライバシーに関わるもの等)を除き,開示すべきとする異議申立人の主張には理由がないことから,不開示決定を維持することが妥当であり,本件異議申立ては棄却することとしたい。
なお,第7回検討会議事録については,前述のとおり不開示決定を取り消し,開示することとするものである。
(2) |
諮問第155号及び同第208号
異議申立人は,各不開示決定を取り消し,開示とする決定を求めていることから,その主張について検討する。
異議申立人は,議事要旨を作成するためにも,その後の行政における実務においても録音していないことは実務上あり得ず,録音していないとすれば実務を適切に遂行していないことになる,と主張する。
しかし,公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号)においては,行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程及び実績が把握できる文書の作成が求められているものの,録音データの取得・保存は求められていない。環境省においては,公文書等の管理に関する法律上の義務を果たすため,本件検討会の検討過程については,環境省行政文書管理規則第10条に基づき作成した議事要旨及び会議資料を公開しているが,2で述べたように,当該議事要旨の作成に当たっては,議事録及び録音データは特段必要としなかったことから,そもそも第9回ないし第11回検討会の議事録及び録音データはそもそも作成・取得していない。よって,録音していないことは実務上あり得ず,録音していないとすれば実務を適切に遂行していないという異議申立人の主張は当たらない。
以上のことから,第9回検討会(諮問第155号)及び第10回・第11回検討会(諮問第208号)の議事録及び会議の録音データは,非公開データ(特許等に関わるもの,プライパシーに関わるもの等)を除き,開示すべきとする異議申立人の主張には理由がないことから,不開示決定を維持することが妥当であり,本件異議申立ては棄却することとしたい。 |
当審査会は,本件諮問事件について,平成24年(行情)諮問第47号,同第155号,同第208号及び同第366号を併合し,調査審議を行った。
① |
平成24年2月16日 |
諮問の受理(諮問第47号) |
② |
同日 |
諮問庁から理由説明書を収受(諮問第47号) |
③ |
同年3月2日 |
審議(諮問第47号) |
④ |
同月5日 |
異議申立人から意見書を収受(諮問第47号) |
⑤ |
同年4月12日 |
諮問の受理(諮問第155号) |
⑥ |
同日 |
諮問庁から理由説明書の収受(諮問第155号) |
⑦ |
同年5月1日 |
異議申立人から意見書を収受(諮問第155号) |
⑧ |
同月21日 |
諮問庁から補充理由説明書を収受(諮問第47号) |
⑨ |
同日 |
諮問の受理(諮問第208号) |
⑩ |
同日 |
諮問庁から理由説明書を収受(諮問第208号) |
⑪ |
同年9月14日 |
諮問の受理(諮問第366号) |
⑫ |
同日 |
諮問庁から理由説明書を収受(諮問第366号) |
⑬ |
同月27日 |
審議(諮問第366号) |
⑭ |
同年10月11日 |
本件対象文書の見分及び審議(諮問第47号,同第155号,同第208号及び同第366号) |
⑮ |
同月31日 |
諮問庁の職員(環境省廃棄物・リサイクル対策部産業廃棄物課適正処理・不法投棄対策室長ほか)からの口頭説明の聴取(諮問第47号,同第155号,同第208号及び同第366号) |
⑯ |
同年11月29日 |
審議(諮問第47号,同第155号,同第208号及び同第366号) |
⑰ |
同年12月13日 |
諮問第47号,同第155号,同第208号及び同第366号の併合並びに審議 |
1 |
本件対象文書について
本件各開示請求は,別紙に掲げる各文書(本件対象文書)の開示を求めるものである。
処分庁は,本件対象文書のうち,第12回の議事録については開示したものの,第7回ないし第11回の議事録及び第8回ないし第11回の会議録音データについては,作成・取得しておらず不存在のため不開示とし,第5回ないし第7回及び第12回の会議録音データについては,法5条5号及び6号柱書きに該当するとして,不開示とする原処分を行った。
これらに対し,異議申立人は,原処分を取り消し,開示とする決定を求めているところ,諮問庁(処分庁)は,不開示とした本件対象文書のうち,第7回の議事録については,本件諮問(諮問第47号)後に,その全部を開示する変更決定(平成24年5月18日付け環廃産発第120518003号)を行ったが,その余の第8回ないし第11回の議事録及び録音データについては,保有しておらず,第5回ないし第7回及び第12回の録音データについては,法5条5号及び6号柱書きに該当するとして,それぞれ不開示を維持することが妥当としていることから,以下,諮問庁がなお不開示を維持すべきとする文書の保有の有無及び不開示情報該当性について検討する。 |
2 |
不開示維持文書の保有の有無及び不開示情報該当性について |
(1) |
第8回ないし第11回の議事録及び録音データの保有の有無について
諮問庁の説明は,①本件検討会においては,議事概要を作成・公表していることから,第1回から第4回までは,この議事概要作成の参考として,速記録を速記業者に外注していたが,当該速記録を使用しなくとも議事概要は作成できた,また,速記録の作成に別途費用が発生することから,第5回以降は速記録の作成を取りやめた,②さらに,第5回ないし第7回については,ICレコーダに録音していたが,それも議事概要作成に当たって使用されなかったため,第8回以降は録音データの録取についても取りやめた,というものである。
この諮問庁の説明を検討すると,本件検討会においては,当初,議事概要を作成する目的で,その参考とするために,速記録の作成を速記業者に外注していたとのことであるが,議事録の作成について,更に諮問庁に説明を求めたところ,本件検討会においては,当初から会議終了後に諮問庁職員(本件検討会の事務局)が記者クラブに対し,詳細な説明を行っており,会議資料についてもホームページで公開していたことから,議事概要を公表することで十分と考え,議事録を作成することは考えていなかったとの説明であった。
本件検討会は東日本大震災における災害廃棄物の処理について,その安全評価を行うことを目的とし,環境,廃棄物処理,放射線といった各分野に精通する有識者を構成員として,環境省が開催している検討会であり,その重要性に鑑みると,本件検討会において,議事録の作成は考えなかったとする諮問庁の説明には釈然としないものが残り,しかも,当初,外注までして作成していた速記録をあえて取りやめ,その後に担当職員が行っていた録音まで取りやめたということは,速記録,録音が議事概要を作成するためには必要がないことが分かったからだとの説明だけでは,にわかに納得することはできない。
しかし,速記録が存在する第1回ないし第4回,録音データが存在する第5回ないし第7回の議事録については,当初,存在していないとして不開示としていたが,その後,保有していた速記録や録音データから新たに議事録を作成し,公開していること,第1回ないし第7回会議と比べて第8回ないし第11回会議の議事内容に特に公開をためらわれるような事情がうかがえないことを勘案すると,第8回ないし第11回会議については,諮問庁がこれを保有しながら,あえて保有していないと説明するとは考え難く,保有していないとの説明自体が,不自然・不合理とまでは言えない。
したがって,第8回ないし第11回の議事録及び録音データについては,環境省において保有しているとは認められない。 |
(2) |
第5回ないし第7回及び第12回の録音データの不開示について
諮問庁は,本件検討会の第5回ないし第7回及び第12回(以下「本件各会議」という)の会議録音データの内容は,放射性物質により汚染された(おそれのある)災害廃棄物の処理を円滑に実施するため,また,災害廃棄物の処分方法の技術的な検討を行うため,非公開のデータ等も含め,可燃物の焼却方法や焼却灰の埋立方法,これらの施設の満たすべき要件などの議論が,語気や語調,言い間違い,発言に対する他の委員の非公式な反応等も含めて録音されており,これらを公にすることは,委員による率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあることから,法5条5号に該当するとともに,災害廃棄物の処理方針の取りまとめを目的としている本件検討会の議論の録音内容が公にされることで,発言内容が過大に,広く訴えられること等により,処理方針に基づく市町村等による災害廃棄物の処理事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号柱書きに該当すると説明する。
当審査会において本件対象文書を見分(聴取)したところ,本件対象文書は,平成23年8月10日(第5回),同月27日(第6回),同年9月25日(第7回)及び平成24年3月12日(第12回)にそれぞれ開催された本件各会議の内容を録音した電子データであると認められる。
これらの録音データを既に諮問庁のホームページ上で公開されている本件各会議の議事録(以下「本件各議事録」という。)と照らし合わせると,第6回分について冒頭の数分間とみられる部分が録音されていないことが認められるが,その余の録音データには,それぞれの会議の冒頭から最後までが録音されていると認められる,
当該録音データの不開示情報該当性を検討すると,当該録音データの内容は,多少の言い回しや表現振りなどの違いはあるものの,本件各議事録の記載内容とほぼ同一であり,当該議事録は当該録音データに基づき,逐語的に作成されたと認められ,また,当該録音データに録音された各発言者の語気や語調に,諮問庁が説明するようなおそれがあると認められるような部分は認められなかった。
また,録音データと本件各議事録の記載が異なる部分について,当審査会において確認したところ,確かに委員の明白な言い間違えなどを議事録において修正したものであると認められるが,諮問庁が説明するように,録音データの公表により当該部分の発言内容が公になると,委員による率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとは認められず,法5条5号の不開示情報に該当するとは言えない。また,災害廃棄物の処理方針の取りまとめを目的としている本件検討会の議論の録音内容が公にされることで,発言内容が過大に,広く訴えられること等により,処理方針に基づく市町村等による災害廃棄物の処理事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると見るべき発言も存在しないから,法5条6号柱書きに該当するとも認められない。
したがって,本件各会議の録音データについては,いずれも法5条5号及び6号柱書きに該当するとは認めらないことから,開示すべきである。 |
(1) |
第8回ないし第11回の議事録及び録音データを環境省において保有していないとの諮問庁の説明自体に不自然,不合理とまでは言えないことは,上記2(1)で判断したとおりであるが,これらを保有するに至らなかった経緯,事情については,看過し難い問題があるように思われる。 |
(2) |
この点に関する諮問庁の説明(口頭説明を含む。)は,①第1回から第4回までの会議については,速記業者に委託して速記録を作成し,その録音データの提供を受けていたが,第5回会議以降は,速記の外注をやめた,②その後,第7回会議までは,担当者が録音し,そのデータを保有したが,第8回会議以降は,担当者による録音もやめた,③本件検討会については,議事概要の作成を予定しており,その作成のための速記や録音であったところ,上記各時期に,議事概要作成のために速記,録音が必要でないことが順次明らかになったので,事務担当者の判断で,上記各時期にこれらをやめたものである,というものである。 |
(3) |
しかし,諮問自体が取下げで終わった平成24年(行情)諮問第14号事件及び本件各諮問事件において提示された経過文書によれば,次の各事実が認められる。 |
① |
第4回会議(平成23年7月14日開催)後の同月16日,第1回ないし第4回会議の議事録につき,法に基づく開示請求がなされた。 |
② |
平成23年9月26日に,第5回ないし第7回会議の議事録についても,法に基づく開示請求がなされた。 |
③ |
第8回会議は,平成23年10月10日に開催されたが,同月13日に,第7回及び第8回の議事録及び第5回ないし第8回の録音データにつき,法に基づく開示請求がなされた。 |
(4) |
諮問庁の上記(2)の説明は,速記も録音も,専ら議事概要作成のためであったというのであるが,そのためだけなら,①そもそも費用を要する外部速記まで必要だったのか,②第4回が終わるまで速記が不要であることが分からなかったのか,③第7回が終わるまで録音が不要であることが分からなかったのか等の疑問がある。
しかも,上記(3)のとおり,速記をやめた時期,録音をやめた時期は,いずれも,議事録,録音データにつき,法に基づく開示請求があった時点と,時間的に微妙な関係にあるのであって,これらをやめたことと開示請求がなされたこととの間には,何らかの関連があるのではないかとの疑念すら生ずるのである。 |
(5) |
その上,本件検討会における議論内容については,国民間に関心が高く,その内容を公開して,政府として説明責任を果たすことが重要であることは,本件諮問手続では,諮問庁も認めているのである。 |
(6) |
以上によれば,せっかく行っていた速記,録音を順次取りやめ,その結果,第8回ないし第11回会議については,議事概要しか残せないこととなったことは,それが開示請求に対する対応であったとの疑念をしばらく置くとしても,本件検討会の議事内容を保存することの重要性への認識が不足していたと言うべきであり,今後においては,会議ごとに議事内容保存の重要性の程度を見極めて,適切な保存を図ることが望まれる。 |
4 |
審査請求人のその他の主張について
審査請求人は,その他種々の主張をするが,いずれも上記当審査会の判断を左右するものではない。 |
5 |
本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,本件検討会第12回の議事録を除き,その全部を保有していない又は法5条5号及び6号柱書きに該当するとして不開示とした各決定について,諮問庁がなお不開示を維持すべきとする文書のうち,第8回ないし第11回の議事録及び録音データについては,環境省において保有しているとは認められず,不開示としたことは妥当であるが,本件各会議の録音データについては,法5条5号及び6号柱書きに該当するとは認められないので,開示すべきであると判断した。 |
委員 小林克已,委員 中村晶子,委員 村上裕章
別紙(本件対象文書)
1 |
災害廃棄物安全評価検討会第7回及び第8回の議事録並びに同第5回ないし第8回の会議録音データ(諮問第47号) |
2 |
災害廃棄物安全評価検討会第9回の議事録及び会議録音データ(諮問第155号) |
3 |
災害廃棄物安全評価検討会第10回及び第11回の議事録並びに会議録音データ(諮問第208号) |
4 |
災害廃棄物安全評価検討会第12回の議事録及び会議録音データ(諮問第336号) |