諮問庁 経済産業大臣
諮問日 平成24年 2月 7日(平成24年(行情)諮問第33号)
答申日 平成24年11月 6日(平成24年度(行情)答申第280号)
事件名 下請代金支払遅延等防止法違反の申告に係る特定法人に対する調査の内容等の不開示決定(存否応答拒否)に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論
 特定日付けで中小企業庁へ提出された特定法人に対する下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」という。)違反に対する申告につき,①どのような内容の調査が行われたのか及び②その調査により,どういう結果となったのか,その詳細を確認できる文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,妥当である。

第2  審査請求人の主張の要旨
 審査請求の趣旨
 行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成23年11月1日付け平成23・10・17公開九州第1号により,九州経済産業局長(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。

 審査請求の理由
(1)  処分庁は,原処分において,「法5条2号イ及び6号イに該当するため不開示とした」と説明している。

(2)  しかしながら,原処分は,次の理由により,同号には該当しないものと認められる。
 行政文書不開示決定通知書に記載されている開示請求を行った行政文書の名称において,利益を害するおそれがあるとされる特定法人の法人名,法人所在地が記載されており,特定法人に立入調査が実施され,公開対象となる行政文書の存在が推測できる。
 担当局による適切な立入調査が行われ,不法行為が確認できないとした健全な調査結果を不開示とする根拠はなく,そこには公にできない不十分な立入調査の実態や特定法人の重大な不法行為が存在したのではないかと誤解を生じさせ,不開示決定は逆の効果となり,法5条2号イには該当しない。

 担当局は,特定法人に対し,立入調査を事前に告知し,関係資料を立入調査日までに準備するよう求め,任意で用意された資料を基に調査を行ったとしており,事前に告知した以上の調査を行っておらず,強制力もないため,任意で提示されない資料に対しての調査は行っていないと説明している。
 特定法人に限らず,調査対象となる法人等又は個人に対し,同様の立入調査が実施されていることが考えられ,法5条6号イに該当する事務が存在しないため,同号には該当しない。

第3  諮問庁の説明の要旨
 事案の概要
 審査請求人の行った本件対象文書の開示請求に対し,処分庁は不開示(存否応答拒否)とする原処分を行ったところ,その取消しを求める審査請求が行われたものである。

 審査請求に係る行政文書の概要
(1)  本件対象文書について
 本件対象文書は,特定日付けで中小企業庁に提出された特定法人の下請法違反の申告に係る当該法人に対する調査の内容及びその詳細な結果を確認できる文書である。

(2)  前提となる事実
 下請法では,下請取引の公正化を図るとともに下請事業者の利益を保護することを目的として,親事業者の下請事業者に対する禁止行為等を定めており,中小企業庁及び公正取引委員会は,下請事業者などから提供された情報や自ら探知した事実等を検討し,親事業者がこれら禁止行為等を行っている疑いが認められた場合には,下請法違反被疑事件として必要な調査を行い,処理している。
 処理とは,違反行為の有無を明らかにするための一連の調査活動により,中小企業庁が採った措置等であり,「公正取引委員会への措置請求」(以下「措置請求」という。),「指導」,「警告」及び「不問」の4つがある。
 このうち,措置請求については,違反の程度が重大であると認められる親事業者に対して行われる行政指導である勧告をするよう公正取引委員会に求めることである。中小企業庁では,平成16年4月の改正下請法施行以降,措置請求を行ったものについては,その旨を公表している。また,公正取引委員会でも,同月以降,当該親事業者に対し勧告を行った旨を公表している。
 他方,「指導」及び「警告」については,違反の程度が比較的軽微である又は違反のおそれがあると認められる親事業者に対し行っている行政指導であり,当該親事業者に対する指導及び警告の内容は一切公表していない。

 原処分及びその理由
 処分庁は,本件対象文書については,その存否を答えることにより法5条2号イ及び6号イに掲げる不開示情報を明らかにすることとなることから,法8条に基づき不開示とする旨の原処分を行った。その原処分において,不開示とした理由は,次のとおりである。
 本件対象文書については,その存否を答えることにより,特定法人に対する行政機関の立入検査の有無が把握されることになる。特定法人に対して立入検査が行われたという事実は,公にすることにより,当該法人において違法又は不当な行為があったという誤解が生じ,いわゆる風評被害により取引先からの受注が減るおそれがある等,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあり,法5条2号イの不開示情報に該当する。
 また,当該情報は,公にすることにより,立入検査の対象事業者の選定の傾向が推測され,事業者の証拠隠滅を容易にするおそれがある等,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあり,法5条6号イにも該当する。
 したがって,本件対象文書は,その存否を答えるだけで,法5条2号イ及び同条6号イに該当する不開示情報を開示することとなるため,法8条に基づき,本件対象文書の存否を明らかにせず,不開示とした。

 審査請求人の主張についての検討
 審査請求人は,本件対象文書について,法5条2号イ及び6号イに該当しないため,原処分を取り消し,開示すべきであると主張しているため,以下,具体的に検討する。
(1)  法5条2号イ該当性について
 中小企業庁は,下請法の運用に関し,措置請求を行った事件に限り,その旨を公表し,他方,指導又は警告を行った事件及び不問とした事件については,事件の有無を含めて一切公表しないこととしている。したがって,本件対象文書の存否を応答するだけで,経済産業局及び中小企業庁の当該法人に係る下請法違反被疑行為に対する調査の有無及び当該法人が指導又は警告を受けたか否かが明らかになり,法5条2号イに規定する当該法人の信用低下を招くなど,その権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものであることから,法8条に基づき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否することが妥当である。

(2)  法5条6号イ該当性について
 経済産業局及び中小企業庁は,下請事業者などから提供された情報に関し,誰から,いつ,どのような内容の情報が寄せられたかといったことを秘密にしているだけではなく,「特定の申告があった事実」そのものを秘密にしているところ,本件対象文書の存否を応答するだけで,経済産業局又は中小企業庁に対して特定法人に関する申告が行われたか否かが明らかとなり,その結果,当該法人がその後の経済産業局又は中小企業庁による調査活動についての対策を講ずることなどにより,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあることから,法8条に基づき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否することが妥当である。
 以上のことから,本件開示請求文書の存否を応答するだけで,法5条2号イ及び6号イの不開示情報を開示することとなるため,法8条に基づき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否することが妥当である。

 結論
 以上のとおり,本件審査請求については何ら理由がなく,原処分の正当性を覆すものではない。
 したがって,本件審査請求については,棄却することとしたい。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
平成24年2月7日 諮問の受理
同日 諮問庁から理由説明書を収受
平成24年10月12日 審議
同年11月2日 審議

第5  審査会の判断の理由
 本件対象文書について
 本件対象文書は,特定日付けで中小企業庁に提出された特定法人の下請法違反の申告に係る特定法人に対する調査の内容及びその詳細な結果を確認できる文書である。
 処分庁は,本件対象文書の存否を答えるだけで,法5条2号イ及び6号イの不開示情報を開示することになるとして,その存否を明らかにせず,不開示とする原処分を行っており,諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の存否応答拒否の妥当性等について検討する。

 下請法について
(1)  下請法は,下請代金の支払遅延等を防止することによって,親事業者の下請事業者に対する取引を公正ならしめるとともに,下請事業者の利益を保護することを目的とする法律である(同法1条)。
 下請法では,親事業者の禁止行為(同法4条)が定められており,中小企業庁長官は,親事業者の同条違反の事実の有無について調査し,事実があると認めるときは,公正取引委員会に対し,同法の規定に従い適当な措置を採るべきことを求める(措置請求)ことができる(同法6条)とされている。
 また,中小企業庁長官は,下請事業者の利益を保護するため特に必要があると認めるときは,親事業者若しくは下請事業者に対し,その取引に関する報告をさせ,又はその事務所等への立入検査ができる(同法9条2項)とされている。

(2)  親事業者の下請法違反に対する中小企業庁の措置等について,諮問庁に確認したところ,次のとおりであった。
 中小企業庁長官による調査は,下請事業者からの申告等により行われるほか,下請法9条2項に基づき,無作為に抽出した親事業者又は下請事業者への年1回の定期的な書面調査によって行われ,同調査において親事業者の下請法違反のおそれが確認された場合は,当該事業者に対し,警告文書が発出(警告)され,更に立入検査が行われ,違反の事実が確認されれば,改善指導(指導)が行われる。

 「措置請求」は,違反の程度が重大であると認められる場合に行われ,「指導」及び「警告」は,内規によって定められている行政指導であり,違反の程度が比較的軽微である又は違反のおそれがあると認められる場合に行われ,当該内規によって,「措置請求」を行った場合は公表されるが,「指導」及び「警告」の場合は,一切公表されない。

 立入検査は,下請法違反のおそれがある場合に行われるが,下請事業者から申告があった場合には,そのおそれがあるものと認め,立入検査が行われ,検査の結果,違反の事実が確認されれば,書面による改善指導又は措置請求が行われるが,違反の事実が確認されなければ,不問となる。

 本件対象文書の存否応答拒否について
 本件対象文書は,特定法人の下請法違反の申告に係る特定法人に対する調査の内容及びその詳細な結果を確認できる文書であり,仮に,下請事業者からの申告があり,調査が行われたとしても,措置請求が行われなければ公表されないことから,本件対象文書の存否を答えることは,当該申告に基づく調査の有無(以下「本件存否情報」という。)を明らかにするものと認められる。
 本件存否情報は,特定法人に係る下請法違反の有無に関する情報であり,これを明らかにすると,特定法人において違法又は不当な行為があったとの憶測を招き,風評被害により取引先からの受注が減るおそれや特定法人の信用低下を招くなど,特定法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イの不開示情報に該当する。
 また,本件存否情報は,これを明らかにすると,申告に基づく経済産業局又は中小企業庁による事業者に対する調査の有無が明らかとなり,事業者が経済産業局又は中小企業庁による立入検査等の調査活動への対策を講じるなど,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあると認められることから,法5条6号イの不開示情報にも該当する。
 したがって,本件対象文書の存否を答えるだけで,法5条2号イ及び6号イの不開示情報を開示することとなるため,法8条の規定により,その存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否したことは妥当である。

 審査請求人のその他の主張について
 審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。

 本件不開示決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条2号イ及び6号イに該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定については,当該情報は同条2号イ及び6号イに該当すると認められるので,妥当であると判断した。














(第2部会)
委員 遠藤みどり,委員 池田綾子,委員 橋本博之