答申本文
諮問庁 | : | 防衛大臣 |
諮問日 | : | 平成23年 3月16日(平成23年(行情)諮問第105号) |
答申日 | : | 平成24年 3月26日(平成23年度(行情)答申第565号) |
事件名 | : | 調査結果通知書等の一部開示決定に関する件 |
答 申 書
別紙1に掲げる①ないし⑤の各文書(以下,併せて「本件請求文書」という。)の開示請求につき,別紙2に掲げる文書1ないし文書6(以下,併せて「本件対象文書」という。)を特定し,その一部を不開示とした決定について,本件対象文書を特定したことは妥当であり,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分は,不開示とすることが妥当である。
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件請求文書の開示請求に対し,平成22年10月25日付け防官文第13239号により防衛大臣(以下,「防衛大臣」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消し及び全部開示の決定を求める。
異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書1ないし意見書3によれば,おおむね次のとおりである。
ア |
文書1は本物か疑わしい。防衛省における公益通報の処理及び公益通報者の保護に関する訓令(以下「訓令」という。)14条によれば,「機関等公益通報責任者(海上幕僚長等)は,調査が終了したときは,調査結果を直ちに防衛大臣に報告するとともに,防衛省公益通報管理者(官房長)に通知するものとする。」とされている。一方,訓令15条によれば,「内部窓口は,調査が完了したときは,調査結果を遅滞なく公益通報者に通知するものとする。」とされている。そして,訓令14条で必要とされるのは,「報告」,「通知」であり,「決裁」,「承認」ではないのだから,防衛大臣等の「決裁」,「承認」を経てから,訓令15条の「通知」を行う必要はなく,訓令14条の「報告」,「通知」からほとんど時間的間隔を空けずに訓令15条の「通知」がなされるのが自然と言える。
公益通報の調査結果がまとまったのは,平成19年10月5日頃である。ところが,文書1の起案日は同年12月4日となっており,2か月近く間が空いている。上記のように,防衛大臣等の「決裁」,「承認」を経てから,訓令15条の「通知」を行う必要はなく,訓令14条の「報告」,「通知」からほとんど時間的間隔を空けずに「通知」がなされるのが自然であると言えるところ,2か月も間が空くことについて合理的理由は見当たらず,文書1は本物かどうか疑わしい。
|
イ |
文書2及び文書3の賠償額及び求償額等の金額は開示されるべきである。賠償額は報道等で明らかになっているはずであり,求償額はおおむねそれに金利相当額を加えた金額であるから,秘匿する必要はない。
|
ウ |
文書2及び文書3は,「調査結果通知書(海幕総第8034号。平成19年12月4日)」の添付書類「調査結果について」(以下「添付書類」という。)の1枚目の下から2行目に言う「過去の事例」としては不適切である。添付書類の1枚目の下から2行目には,「文献,過去の事例等から,求償権の行使は行政官庁の裁量で行うという考え方があり」とある。そうすると,「過去の事例」とは,「国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条2項の求償権が発生したにもかかわらず,防衛庁(当時。以下同じ。)が裁量により行使しなかった事例」と解するのが自然である。ところが,文書2及び文書3の事例は求償権が行使された事例である。百歩譲って,「過去の事例」として,裁量権に基づく検討の結果,求償権を行使した事例を含むとしても,文書2及び文書3の事例は例として不適切である。文書2及び文書3を読む限り,歳入徴収官等は求償権の発生後,裁量的判断を経ることなく,直ちに行使したことがうかがえるからである。この点,諮問庁は,文書2の事例においては,求償債権を履行延期(分割払い)にするかどうかについて,防衛庁が裁量権を行使したのだと反論することが予想される。しかし,この反論は成り立たない。①それは,求償権を行使した上で,求償債権の支払方法について,防衛庁が一定の判断を働かせたというものにすぎず,求償するかしないかについて裁量権が行使された事例としては不適切である。②その点はおくとしても,履行遅延は債権管理法24条の場合に限り,財務大臣との協議等を経て行わなければならないものであり(同法38条),行政庁のフリーハンド(裁量)で行えるようなものではない。③しかも,同法28条により,裁判上の和解手続によるとすれば,相手方の同意が必要であり,行政庁の一方的裁量によることはできない。以上述べた点を全ておくとしても,文書2及び文書3の事例は,公益通報の調査結果に係る求償事案とかけ離れており,同事案の処理に当たって参考にされた「過去の事例」とは考えられない。現に,検討結果をまとめた文書4では,文書2及び文書3は全く引用されていない。処分庁は,本当の「過去の事例」を提出すべきである。もし,添付書類の記述の方が誤りだったというのであれば,率直に認めるべきである。
|
エ |
添付書類の1枚目の下から2行目に言う「過去の事例」に関する文書として,「リスト東京訴訟」判決確定後の求償事案に関する文書を開示すべきである。いわゆる情報公開開示請求者リスト事案(以下「リスト事案」という。)において,リストに載せられた約140名のうち,国家賠償訴訟を提起した者は2名である。1人は東京の作家(リスト東京訴訟)であり,もう1人は新潟の弁護士(リスト新潟訴訟)である。このうち,前者については,平成16年2月に東京地裁において,国に10万円の賠償を命ずる判決が言い渡され,原告・被告ともに控訴せず確定した。そして,判決において,リストを作成・配布した3等海佐の行為が「明らかに故意」と認定されたことから,内部部局歳入徴収官は,当該者に対して求償権を行使した。なお,この際,内部部局は,「求償権が発生した以上,行使に当たって裁量の余地はない」という判断(財政法8条に基づく正しい法解釈)をしている。そして,調査結果にて問題となっている求償事例は,「リスト新潟訴訟」に関するものである。「リスト東京訴訟」に係る求償事案と「リスト新潟訴訟」に係る求償事案とは全く同一の事件に端を発するものであるから,後者を処理するに当たって参考となる「過去の事例」として,前者に勝るものはないはずである。どうして海上幕僚監部は「リスト東京訴訟」に係る求償事案を「過去の事例」として参考にせず,わざわざ全く異なる文書2及び文書3の事例を参考にしたのか。しかも,文書4を読む限り,「リスト新潟訴訟」に係る求償事案を処理するに当たり,「リスト東京訴訟」に係る求償事案が参考にされたことがうかがえる。文書2及び文書3は全く引用されていない一方でである。処分庁は,添付書類の1枚目の下から2行目に言う「過去の事例」に関する文書として,「リスト東京訴訟」判決確定後の求償事案に関する文書を開示すべきである。
|
オ |
文書5及び文書6を廃棄したとする諮問庁の説明は不自然である。この点について,防衛省情報公開・個人情報保護室の担当官が,開示実施の際に,異議申立人に説明したところによれば,「これらの文書は保存期間1年未満の文書であり,文書4が完成した際に廃棄されたのではないか」とのことであった。しかし,この説明は不自然である。なぜなら,第1に,平成18年5月の段階では,「リスト新潟訴訟」がいつ確定するか,ひいてはいつ求償権行使の問題が現実化するか分からなかったのであるから,「リスト新潟訴訟」が最高裁の上告棄却により確定する時期を予想した上で,それを超える文書の保存期間を設定するのが自然である。そうすると,1年未満というのは短すぎる(現に,「リスト新潟訴訟」は,地裁判決から高裁判決まで,高裁判決から最高裁決定まで,それぞれ約1年を要している。)。第2に,少なくとも,同年12月の段階では,文書5及び文書6の写しが海上幕僚監部に存在していた(本件が内閣府情報公開・個人情報保護審査会(以下「審査会」という。)に諮問された場合には,審査会にその根拠を提示する予定である。)。第3に,「資料」及び「意見具申」の内容は,添付書類を読む限り,求償権の行使は行政官庁の裁量で行うものだという内容でなければおかしいが,文書4にはそのようなことは全く書かれていない。すなわち,「資料」及び「意見具申」に係る文書(以下「具申書等」という。)は,文書4と内容が重複するものではなく,文書4が完成したからといって不要になるようなものではないから,後者が完成したから前者が廃棄されたという説明は不自然である。処分庁は,具申書等を隠しているのであれば,正直に提出すべきである。もし,添付書類の記述の方が誤りであり,求償権の行使は行政官庁の裁量で行うものだという内容の具申書等が存在しないというのであれば,率直に認めるべきである。
|
ア |
理由説明書の3(1)(後記第3の3(1))について
|
(ア) |
当該部分においては,要するに,文書1は本物であるという趣旨が述べられている。しかし,文書1には不審な点が多い。
|
(イ) |
第1の不審な点は,文書1が公益通報に対する調査結果であるにもかかわらず,合議先として,調査担当者である海上幕僚監部警務管理官の1等海佐(以下「特定1等海佐」という。)が含まれていないということである。すなわち,本件公益通報に関しては,平成19年7月25日頃,調査担当者である海上幕僚監部総務部総務課の2等海佐(以下「特定2等海佐」という。)は,公益通報者の代理人弁護士に対して,「当部課に法的知見を持った人材がいないので,法的知見を持った人材を調査グループに含める可能性がある」旨,電話にて話している。そして,調査担当者に指定されたのが特定1等海佐である。特定1等海佐は同年8月,代理人弁護士の事務所にて行われた通報者に対する事情聴取において質問の大部分を行うなど,調査において中心的な役割を果たしているにもかかわらず,合議先として特定1等海佐が含まれていないのは不自然である。
|
(ウ) |
第2の不審な点は,文書1は平成19年10月5日頃起案され,防衛大臣の決裁を受けているはずなのに,調査結果通知書の起案日と合議・供覧先がこれと一致していないというところである。
|
① |
平成19年10月5日,特定2等海佐は公益通報者の代理人弁護士に対し,「調査が終わりました。大臣報告等がありますので,報告までにはもうしばらくかかります。」と電話。
|
② |
平成19年10月24日,特定2等海佐と公益通報者の代理人弁護士が電話にて会話。その際,特定2等海佐は「まだ大臣報告ができていない。」と発言。
|
③ |
平成19年11月30日,特定2等海佐と公益通報者の代理人弁護士が電話にて会話。その際,特定2等海佐は「現在,事務次官のところまでいっている。どうしても大臣の決裁のところで止まっており,我々としても早急に決裁をしてもらうべく催促を重ねている。来週中には何らかの回答ができると思う。」と発言。
|
以上の経緯からすると,次の点が不自然であると言える。それは,調査結果通知書の起案年月日は平成19年10月5日頃であるはずなのに,同年12月4日となっていること,また,決裁者は防衛大臣のはずなのに,海上幕僚監部総務部長専決となっており,事務次官以下,内部部局の高官が合議先又は供覧先となっているはずなのに,起案用紙上に表れていないこと。
(エ) |
第3の不審な点は,財政・会計に関する初歩的な理解を疑わせるような記述を含む文書に,海上幕僚監部の歳入徴収官である総務部長が押印している点である。すなわち,防衛省を始め,各省庁で管理する債権は国の債権,ひいては国民の債権であって,公務員の裁量で勝手に放棄・免除してはならないということは,多少なりとも財政・会計の知識のある者にとっては常識である。ところが,添付書類には「国の債権を行政官庁の裁量で行使しないことができる」という意味のことが繰り返し書かれている。そして,総務部長は海上幕僚監部の歳入徴収官である。歳入徴収官がこのような初歩的な誤りを犯すであろうか。このようなことも知らない人間が海上幕僚監部の歳入徴収官を務めているとすれば,海上自衛隊においては,国の債権を勝手に裁量により放棄するというようなことが日常的に行われているのではないか(仮に,総務部長が軍事の専門家であって,財政・会計の知識がないとしても,財政・会計の知識を有する部下を活用できていればまだよい。総務部長がその配下の経理課員等に問い合わせれば,国の債権を行政官庁の裁量で行使しないことができるなどというのが誤りであることは容易に分かったはずである。しかし,経理課長等は調査結果の合議先に含まれていない。仮に,文書1が本物だとすれば,総務部長は財政・会計の知識がないのみならず,こういう場合に誰に聞けばよいかさえも分からなかったことになる。)。
|
(オ) |
異議申立人は,処分庁が特定1等海佐,当時の防衛大臣及び内部部局の高官の恥を隠すため,文書1の改ざんを行ったのではないかと疑っている。すなわち,特定1等海佐は海上自衛隊の警務隊において要職を歴任し,現在は海上自衛隊の法律部門のナンバー2である海上幕僚監部法務室長を務めている。そして,内部部局は本来,「法律の専門家」(いわゆる「制服組」が「軍事の専門家」である一方で)として,制服組の法的誤りをチェックしなければならない立場にある。また,当時の防衛大臣は法律に詳しいと自称している人物である。このような面々が,求償債権を始め,国の債権を行政官庁の裁量で行使しないことができるなどという,法律の明文に180度反する誤りを犯したとなれば,これらの面々,ひいては防衛省のかなえの軽重が問われるので,それを隠すために文書1の改ざん等を行ったのではないかと疑っている。
|
イ |
理由説明書の3(2)(後記第3の3(2))について
特に異論はない。
|
ウ |
理由説明書の3(3)(後記第3の3(3))について
|
(ア) |
諮問庁は,「海上自衛隊においては,国民に損害を与え,国が被害者に対して賠償を行った自衛隊員の不法行為で,国賠法1条2項の要件が満たされると判断した事例は全て求償しており,調査結果にて記述されている「過去の事例」とは,これらの事例を指すものであり,異議申立人が言うところの求償権が発生したにもかかわらず,裁量により行使しなかった事例は存在しないため,異議申立人の主張は当たらない。」としている。これは,平成21年(行情)答申第643号における諮問庁の説明とほぼそのまま(「防衛省」を「海上自衛隊」に変えただけ)であるが,これに3つの観点から反論したいと考える。
第1は,他の文書の記述から「過去の事例」は文書2及び文書3の事例とは別の事例を指すと推理される観点。第2は,添付書類の「過去の事例」を諮問庁が言うような意味に解釈するのは文理上困難であるという観点。そして,第3は,そもそも「リスト新潟訴訟」の一審判決が出された平成18年5月11日,海上幕僚監部法務室において求償権を裁量により行使しないことができるかどうかなどという議論がなされた事実はなく,裁量により行使しないことができる根拠として文書2及び文書3が引っ張り出された事実もないという観点である。
|
① |
異議申立人は,添付書類にて記述されている「過去の事例」とは,文書4で引用されている制服警察官による強盗殺人事件等の事例を指し,また,調査結果にて記述されている「文献」とは,文書4の注釈で引用されている9つの文献ではないかと考えている。というのは,添付書類の作成に当たり,文書4が唯一参照された行政文書であったか,少なくとも最も重要な行政文書であったと考えられ,文書4と調査結果とは論理構成が似通っている上,特徴的な誤り及び特徴的な表現が共通しているからである。
|
② |
文書4の重要性
添付書類にて引用されている行政文書は,文書4のほか,具申書等であるが,具申書等は,諮問庁の説明によれば,平成18年の段階で既に廃棄されていたということであり,添付書類の起案者は自らの目で確認していない。すなわち,文書4は,添付書類を起案するに当たり,唯一参照された行政文書であったか,少なくとも最も重要な行政文書であったと推察される。起案者が文書4を机の脇に置いて,これを参照しながら添付書類を起案したことは想像に難くない。
逆に,添付書類に文書4の内容が全く反映されていないとすれば不自然である。すなわち,処分庁によれば「リスト新潟訴訟」に係る求償阻止工作文書は,文書4以外に現存していないのであり,具申書等は廃棄されたと言う。すなわち,処分庁は,文書4に求償阻止工作に係る情報が整理・集約されており,これさえあれば「リスト新潟訴訟」における求償阻止工作の跡をたどることができると考え,文書4だけを残していると思われるのである。このような情報価値の高い文書が添付書類の内容に全く反映されていないとすれば逆に不自然である。そして,添付書類の中で,文脈上,文書4が反映される箇所としては,添付書類の1枚目の下から1行目及び2行目及びその言い換えである同7行目及び8行目以外にはあり得ない。
|
③ |
論理構成の類似性
添付書類の1枚目の下から1行目及び2行目には「文献,過去の事例等から,求償権の行使に関しては,行政官庁の裁量で行うという考え方があり」と記載されている。一方,文書4は,9つの文献と制服警察官による強盗殺人事件等の「過去の事例」を引用しつつ,「リストを作成・配布した3等海佐に故意・重過失はない。よって,求償権は行使すべきではない。」という結論を導くという流れになっている。すなわち,文書4と添付書類はともに「文献,過去の事例に照らし,求償権は行使すべきではない。」という流れであり,論理構成が酷似している。 |
④ |
特徴的な誤り
「リストを作成・配布した3等海佐に故意・重過失はない。」のであれば,そもそも求償権は発生せず,行使の余地はないはずであるが,文書4には「求償権の行使には慎重な対応が必要と思料する」と記載されており,また,「判決で国が損害賠償を命ぜられた,原告のプライバシー侵害について,それを意図したもの(悪意)ではなかったので,求償には及ばないと思料する」と記載されている。「及ばない」は古語においては「不可能だ」の意味で使われていたことがないわけではないが,現代語においては「必要がない」の意味でしか使わないから,文書4の起案者及び合議・供覧を受けて押印した海上幕僚監部首席法務官らは,求償権は発生しているが,行使する必要はないと理解していたことがうかがえる。その上で「求償権の行使は,行政官庁に委ねられており」,「文献,過去の事例等から,求償権の行使に関しては,行政官庁の裁量で行うと言う考え方があり」としているから,添付書類の起案者らは,判決文が加害公務員の故意・重過失を認定していないと解釈することが裁量権の行使であると理解していることがうかがえる。すなわち,調査結果の起案者らもまた「求償権の発生の問題」と「行使の問題」を混同しているのである。これは単なる偶然であろうか。 |
⑤ |
特徴的な表現
添付書類には「求償権の行使は,行政官庁に委ねられており,判決が国に賠償を命じたものであっても,公務員である個人に求償を求めるのは慎重に検討すべきである」とあり,これは,添付書類の1枚目の下から1行目及び2行目の「文献,過去の事例等から,求償権の行使に関しては,行政官庁の裁量で行うという考え方があり」の言い換えである。一方,文書4の2枚目の12行目ないし15行目には「求償権の行使には,十分な検討がなされねばならず,それは単に防衛庁の行政事務にとどまらず,国の行政機関全体の賠償・求償事務に影響を与えることになりかねないため,慎重な対応が必要と思料する」とある。文書4と添付書類とは全体的に酷似しているのみならず,「求償権の行使」,「慎重」,「検討」といった単語が共通している。これは単なる偶然だろうか。 |
⑥ |
まとめ
要するに,添付書類の起案者は,文書4を見ながら,それを要約して書いたのである。ただし,法律に対する無知のため,文書4を要約したつもりで「裁量」などという見当違いの言葉を使ってしまったのである。
なお,審査会は,添付書類に言う「文献」の提示を受けて確認したことがあるということであるが(平成21年度(行情)答申第643号),その「文献」が文書4にて引用された「文献」と一致するかどうかチェックされたい。両者が完全に一致するとすれば,それは偶然ではあり得ず,異議申立人の推理の正しさが裏付けられるはずである。
|
① |
諮問庁は,添付書類の「文献,過去の事例等から,求償権の行使に関しては,行政官庁の裁量で行うという考え方があり」という部分について,「国賠法1条2項の要件が満たされると判断した事例は全て求償しており,求償した事例が「過去の事例」である」という意味だと言いたいようである。しかし,そのような解釈は文理上無理であることは明らかである。この点について,審査会は,平成21年度(行情)答申第643号にて,当該記述について,「防衛省の裁量で求償権を行使しないことができると読める」,「防衛省は求償に関する関連法規の理解を誤っている」と指摘している。「文書」を「物品」と称して隠すなど,昨今の諮問庁による審査会に対する軽視・愚弄ぶりは目に余るものがあるが,今回も審査会の指摘など聞く耳を持たないということであろう。
|
② |
そもそも,文書2及び文書3を見て,海上幕僚監部法務室長らは「求償しない」という選択肢を思い立ったということであるが,求償した事例である文書2及び文書3を見て,どうして「求償しない」という選択肢を思い立ったのか。実は「求償しなかった」事例が多数あるのではないか。
|
③ |
また,文書2及び文書3の事例は故意・重過失の認定を受けて,即時に全額求償権が行使された事例であり,求償権の行使に当たって裁量が働いた事例ではない。あるいは,文書2及び文書3の事例では「事実認定に裁量を働かせた」,「故意・過失の認定に裁量を働かせた」と言いたいのかもしれないが,これらは裁判所の専権に属し,行政裁量の余地はないということで争いはないはずである。仮に,これらに行政裁量が認められるとすれば,裁判所は,裁量権逸脱・濫用にわたらない限り,それを覆せないということになるはずであり,また,加害公務員も求償訴訟において裁量権逸脱・濫用がない限り,故意・重過失の認定を争うことができないということになるはずであるが,そんな馬鹿なことはあり得ない。百歩譲って,調査結果においてだけは,裁量を法律用語とは異なる意味で用いたのだという主張を認めるにしても,その場合は「求償しなかった」事例を含め,防衛省における全ての国家賠償事案に係る文書が開示されなければおかしいはずである。
|
(エ) |
第3の観点
「求償権の行使に当たって,裁量の余地があるかどうか」という問題は,平成16年3月の「リスト東京訴訟」判決確定の際に,「財政法8条により裁量の余地はない」ということで決着している。だからこそ,内部部局は「リスト東京訴訟」判決確定後,リストを作成・配布した3等海佐に対して求償しているのである。したがって,同18年5月11日,海上幕僚監部法務室において,添付書類に言うような議論が行われたという事実はそもそもない。そして,議論自体が存在しないのであるから,「裁量により求償しないことができる」という根拠として文書2及び文書3が引っ張り出されたという事実もない。
|
(オ) |
まとめ
処分庁は,添付書類の記述が文書4の要約ミスであることを率直に認め,それを前提として文書を特定し,改めて開示されたい。
なお,「海上自衛隊においては,国賠法1条2項の求償権が発生したにもかかわらず,「裁量」により行使しなかった事例は存在しないため,異議申立人の主張は当たらない」という主張は,「リスト東京訴訟に関する文書が開示対象文書に含まれるはずである」という異議申立人の主張に対する反論に全くなっていない。海上自衛隊における求償事例だけが「過去の事例」であり,内局部局歳入徴収官が求償した「リスト東京訴訟」のケースはこれに含まれない」と言うかもしれないが,平成21年度(行情)答申第643号に係る諮問事件においては,諮問庁は防衛省全体の事例が「過去の事例」に含まれると言っていたではないか。いったいどちらが正しいのか。
|
エ |
終わりに
理由説明書の3(3)及び(4)(後記第3の3(3)及び(4))には,改めて執務室及び書庫を探索したが,不存在であることを確認したといった文言があるが,これは諮問庁が作成する理由説明書に決まり文句のように書かれてある言葉である。しかし,昨年,諮問庁が,問題の雑誌は「物品」であって「文書」ではないというき弁により文書を隠蔽しようとした件で,文書の存在が露見する前に作成された理由説明書にもそのようなことが書かれていた。こうした文言は決まり文句のように挿入されているだけで,実際には探索は実施されていないのではないか。
|
ア |
異議申立人は,意見書1にて,海上幕僚監部法務室においては,平成18年5月11日に,添付書類に言うような求償権の行使に当たって裁量の余地があるかどうかについての議論が行われた事実はないので,それを前提とした処分庁の文書の特定は根本的に誤っているという趣旨のことを述べたが,それを裏付ける文書が入手されたので追加的に意見を述べる。
|
イ |
別紙は,平成20年8月14日,リスト事案の実行犯に対して,防衛省が求償したことを朝日新聞が報じた際に,防衛省が作成した想定問答である。その3枚目の4行目ないし9行目には,「東京地裁判決では,作成及び配布が故意によるものであるとされており,故意性は明らかであることから,求償権を行使することとした。」と記載されている。すなわち,内部部局においては,平成16年3月の「リスト東京訴訟」に係る求償権行使の時点で,「故意が認定され,国賠法1条2項の求償権が発生した場合には,裁量の余地なく行使しなければならない」ということで結論が出ていたのである(仮に,内部部局がこれを「裁量事項」であると考えていたとすれば,「求償権発生後,即行使」という流れにはならず,「求償権発生後,裁量権者に移送し,裁量権者による判断後,求償権行使(又は不行使)」という流れになるはずである。)。
もし,添付書類が言うように,平成18年5月11日に「議論」があり,「防衛省の裁量により求償しないことができる」という「結論」に達し,その「結論」に基づき,内部部局に意見具申されていたとすれば,内部部局は「2年前に結論が出た議論を蒸し返すのか」と言って退けていたはずである。すなわち,添付書類に書かれていることは全くでたらめなのである。
|
ア |
異議申立人は,意見書1にて,海上幕僚監部法務室においては,平成18年5月11日に,添付書類に言うような求償権の行使に当たって裁量の余地があるかどうかについての議論が行われた事実はないので,それを前提とした処分庁の文書の特定は根本的に誤っているという趣旨のことを述べたが,それを裏付ける文書が入手されたので,追加的に意見を述べる。
|
イ |
平成12年に提出された加藤公一衆議院議員の質問主意書及びそれに対する内閣総理大臣の答弁書(内閣衆質150号第53号。平成12年12月5日付け)(以下「国会答弁書」という。)がそれである。
要するに,国賠法1条2項により求償権が発生した場合,国は行使する義務を負うかとの質問に対し,内閣総理大臣が義務を負うと答えたものである。平成16年3月に「リスト東京訴訟」が確定した後,防衛庁は,リストを作成・配布した3等海佐に直ちに求償したが,これは同12年の段階で既にこのような内閣統一見解が出ていたことを踏まえると,合点がいく。すなわち,「リスト東京訴訟」判決は当該者の故意を認定したが,これにより求償権が発生した。そこで,防衛庁は,上記統一見解に従い,速やかに求償したというだけのことではないか。もし,添付書類が言うように,同18年5月11日に,上記アのような議論が行われ,防衛庁の裁量により求償しないことができるという結論に達し,その結果に基づき,内部部局に意見具申されていたとすれば,内部部局は,同12年の段階で既に裁量の余地なく行使しなければならないという上記統一見解が出ており,その立場に基づき,同16年に求償しているのに,何を言っているのかと退けていたはずである。すなわち,添付書類に書かれていることは全くでたらめなのである。
|
本件開示請求は,「海幕総第8034号(平成19年12月4日)に関し,以下の文書。①起案用紙(誰が起案し,誰が合議を受け,誰が決裁し,誰に供覧されたか分かるもの。(案)以下除く。),②添付書類1頁下から4行目に言う「資料」,③添付書類1頁下から3行目に言う「意見具申」に使用した文書,④添付書類1頁下から2行目に言う「過去の事例」,⑤添付書類2頁下から4行目及び5行目に言う「A3佐が,本件における求償権行使に関する検討をまとめた文書」(本件請求文書)の開示を求めるものであり,これに該当する行政文書として本件対象文書を特定した。
開示決定等に当たっては,平成22年10月25日付け防官文第13239号により,その一部が法5条1号及び6号の不開示情報に該当することから,当該部分及び不存在の部分を不開示とする原処分を行ったところ,本件異議申立てが提起されたものである。
加害者,被害者,損害賠償金額等に関する情報については,これを公にした場合,特定の個人を識別することができる又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあることから,法5条1号に該当するとともに,公にした場合,損害賠償事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,同条6号にも該当する。
なお,文書2については,原処分後に出された答申(平成22年度(行情)答申第401号)を踏まえ検討した結果,不開示とした部分のうち,1枚目の賠償額,一審判決及び二審判決で示された金額,元本金額,利息金額並びに合計金額については,これを公にしても,個人の権利利益を害するおそれはないと判断し,法5条1号に該当しないことから,開示することとした。
特定事件名に関する情報については,これを公にした場合,特定の個人を識別することができ,個人の権利利益を害するおそれがあることから,法5条1号に該当する。
(3) |
文書5及び文書6については,保存期間満了に伴い廃棄されており,不存在につき不開示とした。
|
(1) |
異議申立人は,文書1は本物か疑わしいと主張するが,特定した文書1は,平成19年7月26日付けで公益通報を受理し,同月31日以降実施した調査の結果に基づき作成した行政文書であり,異議申立人の主張は当たらない。
|
(2) |
異議申立人は,文書2及び文書3の賠償額・求償額等の金額は開示されるべきであるなどとして,原処分の取消しを主張するが,上記2(1)のとおり,文書2については,不開示とした部分のうち,1枚目の賠償額,一審判決及び二審判決で示された金額,元本金額,利息金額及び合計金額については,これを公にしても,個人の権利利益を害するおそれはないと判断し,法5条1号に該当しないことから,開示することとしたが,文書3については,訴訟手続によることなく,直接,国が賠償事故当事者と交渉し,和解した事案であり,賠償額,求償額等の金額に係る情報を公にした場合,特定の個人の権利利益を害するおそれがあるとともに,現在又は将来の同種事案について,賠償事故当事者との円滑な交渉を妨げるなど,損害賠償事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,不開示としたものであり,異議申立人の主張は当たらない。
|
(3) |
異議申立人は,文書2及び文書3は,添付書類の1枚目の下から2行目に言う「過去の事例」としては不適切であり,「過去の事例」に関する文書として,「リスト東京訴訟」判決確定後の求償権事例に関する文書を開示すべきなどとして,改めて適切な文書を特定し,これを全部開示することを主張する。
しかしながら,海上自衛隊においては,国民に損害を与え,国が被害者に対して賠償を行った自衛隊員の不法行為で,国賠法1条2項の要件が満たされていると判断した事例は全て求償しており,添付書類にて記述されている「過去の事例」とは,これらの事例を指すものであり,異議申立人が言うところの求償権が発生したにもかかわらず,裁量により行使しなかった事例は存在しないため,異議申立人の主張は当たらない。
なお,念のため,該当する文書がないか,改めて行政文書ファイル管理簿及び接受簿の確認並びに執務室及び書庫の探索を行ったが,確認できなかったところであり,いずれにせよ異議申立人の主張は当たらない。
|
(4) |
異議申立人は,文書5及び文書6について,これを廃棄したとする諮問庁の説明は不自然であるなどとして,改めて適切な文書を特定し,これを全部開示することを主張するが,本件異議申立てを受け,改めて行政文書ファイル管理簿及び接受簿の確認並びに関係者への聴取等を実施し,また,執務室及び書庫を探索したが,不存在であることを確認したため,異議申立人の主張は当たらない。
|
本件諮問後,諮問庁から,原処分にて不開示とした部分のうち,新たに開示する部分がある旨の申入れがあったことから,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,次のとおりである。
文書2の1枚目の賠償額,一審判決及び二審判決で示された金額,元本金額,利息金額及び合計金額を開示することについては,上記3(2)のとおりであるが,これに加えて,文書2の2枚目のうち,損害賠償金の部分についても開示する。
新たに開示する部分については,理由説明書にて開示するとした部分と併せ,別紙3の表のとおりである。
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
⑦ |
平成24年2月23日
|
委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議
|
本件開示請求は,別紙1に掲げる本件請求文書の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書を特定の上,文書1を全部開示し,文書2ないし文書4の記載の一部が法5条1号及び6号に該当するとして,当該部分を不開示とし,文書5及び文書6については保有していないとして,不開示とする原処分を行った。
これに対し,異議申立人は,原処分の取消し並びに文書特定が誤っている場合は適切な文書の特定及びその全部開示を求めており(なお,異議申立人は,文書4の特定については,不服を申し立てていないものと解される。),諮問庁は,原処分の不開示部分のうち,別紙3の表に掲げる部分(いずれも文書2の不開示部分の一部)については開示するとしつつ,文書5及び文書6について,これを保有していないとし,その余の不開示部分(以下「本件不開示部分」という。)については,法5条1号及び6号に該当するとして,なお不開示とすべきとする原処分を妥当とする。
以下,本件対象文書を見分した結果に基づき,本件対象文書の特定の妥当性,文書5及び文書6の保有の有無及び本件不開示部分の不開示情報該当性について検討する。
文書1は,本件請求文書のうち,別紙1の①(起案用紙(誰が起案し,誰が合議を受け,誰が決裁し,誰に供覧されたか分かるもの。(案)以下を除く。))に該当するものとして特定されたものであり,「リスト新潟訴訟」に係る公益通報に関する文書である。
ア |
当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところによれば,内部職員等から公益通報を受理し,公益通報に係る対象事実についての調査が完了したときは,訓令15条に基づき,調査結果を公益通報者に通知するものとされており,文書1は,公益通報者の代理人弁護士宛てに調査結果を通知するための文書について,決裁を受けるために用いられた起案用紙であるとのことである。
|
イ |
そこで,公益通報に係る事務手続等について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁の説明は,以下のとおりである。
|
① |
当該訓令は,公益通報者保護法に基づく防衛省における公益通報の処理及び公益通報者の保護等について必要な事項を定めたものであり,内部職員等から公益通報を受理した場合,これに基づき処理する。
|
② |
訓令3条は,防衛省における公益通報の処理及び公益通報者の保護に係る事務を総括するものを防衛省公益通報管理者(以下「管理者」という。)といい,官房長をもって充てるとしており,当該機関等における公益通報の処理及び公益通報者の保護に係る事務に責任を有する者を機関等公益通報責任者(以下「責任者」という。)といい,海上自衛隊における責任者は海上幕僚長としている。
|
③ |
責任者は,内部職員等から公益通報を受理したときは,調査の必要性が認められない場合を除き,直ちに調査担当者を指定し,当該公益通報に係る通報対象事実について調査を行い(訓令11条1項),調査が完了したときは,調査の結果を直ちに防衛大臣に報告するとともに,管理者に通知するものとされ(訓令14条),内部窓口は,調査結果を遅滞なく公益通報者に通知するものとされている(訓令15条)。
|
① |
本件公益通報に係る調査は,海上幕僚監部総務部副部長を長とし,特定1等海佐及び特定2等海佐らを調査委員とする海上幕僚監部内に設置された調査委員会にて行われた。調査委員会は,本件調査結果を海上幕僚長に報告するとともに,公益通報に係る海上自衛隊の窓口である海上幕僚監部総務課(訓令6条にて内部窓口に指定)に通報し,海上幕僚長は,本件調査結果を妥当と認め,防衛大臣に報告することとした。
|
② |
調査委員の特定2等海佐は,本件調査結果に基づき,「公務員職権濫用罪に係る隊員からの公益通報に関する調査結果について(報告)(海幕総第8033号。19.12.4)」を起案し,関係者の決裁を受けた。他方,海上幕僚監部総務課長らは,防衛事務次官及び管理者に対し,海上幕僚長が本件調査結果を防衛大臣に報告する予定である旨を説明した。
上記報告の決裁後,海上幕僚長は,上記報告の発出をもって本件調査結果を防衛大臣に報告するとともに,管理者に通知した。
|
③ |
上記②のとおり,訓令14条に基づく管理者への通知及び防衛大臣への報告を終えたことから,調査委員であり,かつ公益通報に係る内部窓口である海上幕僚監部総務課所属の特定2等海佐は,訓令15条に基づき,代理人弁護士宛ての調査結果通知書を起案し,同日付けで同総務課長の決裁を受けた。
|
なお,異議申立人は,上記第2の2(2)にて,文書1に合議先として調査委員の特定1等海佐が含まれていないのは不自然である旨主張するが,特定1等海佐は,公益通報に係る内部窓口として調査結果通知書を発出すべき海上幕僚監部総務課所属ではなく,また,調査結果通知書を起案する側の者であって,合議先ではないため,特定1等海佐の押印はない。
(ウ) |
なお,本件異議申立てを受け,改めて海上幕僚監部総務課の執務室及び書庫を入念に探索したが,文書1以外の文書を確認することができなかった。
|
(ア) |
当審査会事務局職員をして諮問庁から訓令の提示を受け,記載内容を確認させたところ,訓令の内容は,諮問庁の上記説明のとおりと認められ,上記イ(イ)①ないし③のとおり,訓令に基づき行われた手続についての説明に不自然・不合理な点は認められない。
また,探索の結果,文書1以外の文書を確認することができなかったとの説明にも不自然・不合理な点は認められない。
さらに,文書1を見分したところ,文書1に改ざんをうかがわせるような痕跡も認められない。
|
(イ) |
したがって,文書1は,本件請求文書のうち,別紙1の①に該当する文書であると認められることから,これを特定したことは妥当である。
|
文書2及び文書3は,本件請求文書のうち,別紙1の④に該当するものとして特定された文書である。
ア |
添付書類に記載されている「過去の事例」について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁の説明は,以下のとおりである。
|
(ア) |
文書2及び文書3を「過去の事例」としたのは,そもそも,当該部分の趣旨は,国賠法1条1項に基づく訴訟にて公務員に故意又は重過失が認定された場合でも,求償権の行使において,改めて故意又は重過失の有無について判断する必要があるということである。
「リスト新潟訴訟」では,国賠法1条1項に基づく訴訟において公務員の配布行為が原告のプライバシーを侵害したというべきとされたが,求償権行使の検討に当たっては,改めて当該公務員の故意又は重過失の有無を検討することが必要と考え,検討の結果,海上幕僚監部法務室において,当初の結論(求償権を行使する必要がないとするもの。)に至った。
本件においては,文書2及び文書3の考え方の枠組みを上記のようなものと理解し,検討作業を行ったことから,本件の検討過程において用いた「過去の事例」は文書2及び文書3となる。
文書2及び文書3が求償権を行使する旨の結論とされている点については,文書2及び文書3の結論と本件とは異なる事案における判断であると整理したのであって,文書2及び文書3の結論が本件の当初の結論と異なるからといって,「過去の事例」に当たらないことにはならないと考える。
|
(イ) |
異議申立人は,文書2及び文書3が「過去の事例」として不適切であり,また,「過去の事例」として「リスト東京訴訟」判決確定後の求償権事例に関する文書を開示すべきなどとして,改めて適切な文書を特定し,これを全部開示する旨主張する。
しかし,上記(ア)にて述べたように,求償権の行使に当たり,改めて故意又は重過失について検討したのは文書2及び文書3のみである。また,防衛省が国賠法1条2項の要件を満たしていると判断した場合は全て求償しており,求償しなかった事例はなく,異議申立人が定義する「求償権が発生したにもかかわらず,裁量により行使しなかった事例」(上記第2の2(1)ウ)自体が存在しないため,それについて記した文書は存在しない。
|
(ウ) |
なお,防衛省が国賠法1条2項の要件を満たしていると判断した場合に求償しなかった事例がないことについては,上記のとおりであるが,本件開示請求者にはその旨を教示した上で,開示請求の趣旨を確認したところ,関係する事例についての開示を求めるとの回答を得たことから,求償権の行使に当たり,改めて故意又は重過失について検討した文書2及び文書3の事例を「過去の事例」として特定したものである。
|
(エ) |
念のため,該当する文書の保有の有無について,改めて行政文書ファイル管理簿及び接受簿の確認並びに関係者への聴取等を実施するとともに,海上幕僚監部法務室の執務室及び書庫を入念に探索したが,理由説明書(上記第3の3(3))で述べたとおり,保有の事実を確認できなかった。
|
(ア) |
添付書類の「過去の事例」についての記述は,前後の文脈から,国賠法1条2項の要件を満たしても防衛省の裁量により求償しないことができるかのような表現ぶりであることは否めない。
求償権の行使に行政機関の裁量が認められないことは,国会答弁書から明らかであり,仮に,添付書類の上記表現がそのようなものであるとすれば,誤った解釈であるのは明らかである。
|
(イ) |
しかしながら,諮問庁の上記ア(ア)及び(イ)における「過去の事例」に係る説明を踏まえると,異議申立人が定義するところの「過去の事例」自体が存在せず,それについて記した文書が存在しないとする説明に不自然・不合理な点があるとまでは言えない。
また,探索及び関係者への聴取等の結果,該当する文書を確認できなかったと説明する以上,これを覆すに足りる事情も認められない。
|
(ウ) |
したがって,文書2及び文書3を,本件請求文書のうち,別紙1の④に該当する文書として特定したことは妥当である。
|
(1) |
文書5は,本件請求文書のうち,別紙1の②に該当する文書,文書6は同③に該当する文書として特定されたものであるが,その管理状況等について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁の説明は,以下のとおりである。
|
ア |
文書5及び文書6は,「リスト新潟訴訟」についての検討資料であり,いずれも1年未満の文書として管理していたが,保存期間満了に伴い,廃棄された。
|
イ |
海上自衛隊においては,行政文書の管理について,海上自衛隊行政文書管理規則(海上自衛隊達第10号)に基づき,文書の保存期間を1年未満,1年,3年,5年,10年,30年を基準として管理しているところ,文書5及び文書6のいずれも,随時発生し,短期に目的を終えるものとして,保存期間1年未満の文書として管理していた。
|
ウ |
本件異議申立てを受け,改めて行政文書ファイル管理簿及び接受簿の確認並びに関係者への聴取等を実施するとともに,海上幕僚監部法務室の執務室及び書庫を再度入念に探索したが,文書5及び文書6はいずれも既に廃棄されており,不存在であることを確認した。
|
ア |
文書5及び文書6が,現在も保有している文書4(平成18年10月2日付け)とさほど離れていない時期に作成され,内容的にも関連性を有すると思われる点を踏まえると,いずれも既に廃棄されたとする諮問庁の説明については,完全に疑義を払拭することはできない。
|
イ |
しかしながら,上記(1)アないしウを踏まえると,行政文書の管理についての諮問庁の説明に不自然・不合理な点があるとまでは言えず,また,関係者への聴取及び探索の結果,いずれも既に廃棄されたと説明することについても,その方法や範囲が不十分とは言えず,これを覆すに足りる事情も認められない。
|
ウ |
したがって,文書5及び文書6を保有していないとする諮問庁の説明は,これを是認せざるを得ない。
|
ア |
不開示情報について
文書2の不開示部分のうち,諮問庁がなお不開示とすべきとする部分には,自衛官である加害者の氏,階級及び現在の勤務先,自衛官である被害者の氏及び階級,事件の発生年月日,裁判所への提訴・控訴年月日及び和解年月日等に関する情報が記載されている。
当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,当該事件について,訴訟に係る公刊物等にて確認したが,当該事件に係る記載は確認されなかったとのことである。
|
(ア) |
上記アの不開示部分には,加害者及び被害者の氏等が記載されていることから,当該不開示部分は,全体として法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものであると認められる。
|
(イ) |
そこで,法5条1号ただし書該当性について検討すると,加害者及び被害者は公務員であるが,いずれも当該公務員に分任された職務の遂行の内容に係る情報であると認められず,「各行政機関における公務員の氏名の取扱いについて」(平成17年8月3日付け情報公開に関する連絡会議申合せ)における「職務遂行に係る情報」に該当するとは言えず,上記アを踏まえると,当該部分は,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているとは認められないので,同号ただし書イに該当しない。また,同号ただし書ロ及びハに該当する事情も存しない。
|
(ウ) |
次に,法6条2項の部分開示の可否について検討すると,加害者及び被害者の氏及び階級は,一体として個人を識別することができることとなる記述であることから,部分開示の余地はない。また,その余の部分についても,これを開示すると,当該隊員の同僚や知人等,一定の範囲の者には,当該隊員を特定することができ,当該隊員にとって他者に知られたくない機微な情報が,それらの関係者に知られることになり,その結果,当該個人の権利利益が害されるおそれがあると認められるので,これらを部分開示することはできない。
|
(エ) |
したがって,当該不開示部分は,法5条1号に該当すると認められるので,同条6号について判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。
|
ア |
不開示情報について
文書3の不開示部分には,自衛官である加害者の所属,階級及び年齢,非公務員である被害者の住所,氏名,年齢及び職業,事故の発生年月日並びに賠償額等に関する情報が具体的に記載されている。
当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,当該事故については,上記第3の3(2)のとおり,訴訟手続によることなく,直接,国が賠償事故当事者と交渉し,和解した事案であるところ,念のため,インターネット等にて確認したが,公にされている事実は確認されなかったとのことである。
|
(ア) |
上記アの不開示部分には,被害者の氏名等が記載されていることから,当該不開示部分は,全体として法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものであると認められる。
|
(イ) |
そこで,法5条1号ただし書該当性について検討すると,上記不開示部分が公表されていると認めるべき事情は存しないことから,同号ただし書イに該当せず,同号ただし書ロ及びハに該当する事情も存しない。
|
(ウ) |
次に,法6条2項の部分開示の可否について検討すると,被害者の住所,氏名,年齢及び職業は,一体として個人を識別することができることとなる記述であることから,部分開示の余地はない。また,その余の部分についても,これを開示すると,被害者の同僚や知人等,一定の範囲の者には,被害者を特定することができ,被害者にとって他者に知られたくない機微な情報が,それらの関係者に知られることになり,その結果,当該個人の権利利益が害されるおそれがあると認められるので,これらを部分開示することはできない。
|
(エ) |
したがって,当該不開示部分は,法5条1号に該当すると認められるので,同条6号について判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。
|
文書4の不開示部分には,特定事件の関係者名に関する情報が記載されている。
当該不開示部分は,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものであると認められる。
当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,当該不開示部分については,部内のみにて使用していた呼称であるところ,念のため,訴訟に係る公刊物等にて確認したが,当該記述を示すような記載は確認されなかったとのことである。
そこで,法5条1号ただし書該当性について検討すると,当該不開示部分は,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているとは認められないので,同号ただし書イに該当せず,また,同号ただし書ロ及びハに該当する事情も存しない。
次に,法6条2項の部分開示の可否について検討すると,当該情報は一体として個人を識別することができることとなる記述であることから,部分開示の余地はない。
したがって,当該不開示部分は,法5条1号に該当し,不開示とすることが妥当である。
異議申立人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。
本件請求文書のうち,文書5及び文書6(別紙1の②及び③に該当する文書)については,保存期間満了(1年未満)により廃棄されたとのことであるが,「リスト新潟訴訟」の経緯に鑑みると,上記の保存期間の設定については,疑問の余地なしとはしない。今後,処分庁においては,行政文書の管理について,適切な対応が望まれる。
以上のことから,本件請求文書の開示請求につき,本件対象文書を特定し,文書1を全部開示し,文書2ないし文書4の記載の一部を法5条1号及び6号に該当するとして,また,文書5及び文書6を保有していないとして不開示とした決定については,本件対象文書を特定したことは妥当であり,諮問庁が同条1号及び6号に該当するとしてなお不開示とすべきとしている部分は,同条1号に該当すると認められ,同条6号について判断するまでもなく,不開示としたことは妥当であり,文書5及び文書6は,防衛省においてこれを保有しているとは認められないので,不開示としたことは妥当であると判断した。
委員 森田明,委員 大橋洋一,委員 中曽根玲子
海幕総第8034号(平成19年12月4日)に関し,以下の文書。
① |
起案用紙(誰が起案し,誰が合議を受け,誰が決裁し,誰に供覧されたかが分かるもの。(案)以下を除く。)
|
② |
添付書類「調査結果について」1頁下から4行目に言う「資料」
|
③ |
添付資料「調査結果について」1頁下から3行目に言う「意見具申」に使用した文書
|
④ |
添付資料「調査結果について」1頁下から2行目に言う「過去の事例」
|
⑤ |
添付資料「調査結果について」2頁下から4行目及び5行目に言う「A3佐が,本件における求償権行使に関する検討をまとめた文書」
|
文書1 |
調査結果通知書(海幕総第8034号。19.12.4)(案を除く。)
|
文書4 |
国賠法上の責任と求償権について(18.10.2海幕法・民・担)
|
文書5 |
添付書類「調査結果について」1頁下から4行目に言う「資料」
|
文書6 |
添付資料「調査結果について」1頁下から3行目に言う「意見具申」に使用した文書
|
番号 |
開示部分 |
1 |
1枚目の第2項の本文4行目の末尾から3文字目ないし12文字目の不開示部分 |
2 |
1枚目の第2項の表中の「東京地方裁判所」及び「東京高等裁判所」の「判決」欄の各1行目並びに「国側の支払額」欄直下の2行目ないし4行目の各不開示部分 |
3 |
2枚目の「区分」欄に記載された3箇所の「損害賠償金」に対応する「債権金額」欄の各不開示部分 |