諮問庁:法務大臣
諮問日:平成22年3月29日(平成22年(行情)諮問第150号)
答申日:平成23年2月25日(平成22年度(行情)答申第551号)
事件名:東京拘置所内の死刑執行場の図面一式等の一部開示決定に関する件
答申書
第1 審査会の結論
以下の文書1ないし文書3(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,妥当である。
文書1 東京拘置所内の死刑執行場の図面一式
文書2 東京拘置所で運用されている死刑執行の手順を定めた内規
文書3 死刑執行指揮書(平成20年6月,東京拘置所で執行された死刑に関するもの)
第2 審査請求人の主張の要旨
1 審査請求の趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成21年10月23日付け東管総発第3945号により東京矯正管区長(以下「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。
2 審査請求の理由
(1)文書1(死刑執行場の図面一式)
死刑執行場の構造は,死刑の執行が法律にのっとって適正に行われているかを国民が知る上で,重要な情報である。執行に際しては,警備の人員が多数配置されていると承知しており,「刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と言うならば,そうした警備を厳重にすべきである。警備上の理由で国民の知る権利を制限するべきではなく,不開示決定には理由がない。
(2)文書3(死刑執行指揮書)
死刑執行指揮書の一部不開示の理由として,「身柄の異動,上訴等に関する申立ての経緯など特定個人を識別することができる情報」「個人の権利利益を害するおそれがある情報」などが説明されているが,標記文書の備考欄は全部不開示であり,当該不開示理由だけでは記載内容を推定できず,説明不足であり,不開示は相当でない。
3 意見書
文書1に関する不開示理由について,以下のとおり補足して反論する。
諮問庁は理由説明書において,死刑の執行場の図面について,外部からの攻撃,逃走の危険性を不開示理由として説明している。
しかし,審査請求人としては,死刑執行という極めて重大な行政権力の行使がどのような態様で行われているのかを一定程度,国民に開示するべきだという観点から,執行場の図面の開示を求めているのであり,拘置所内の他の施設との位置関係や,進入・逃走経路を類推させるような部分の開示までを求めているのではない。図面の全部開示が,諮問庁が指摘するような危険を伴うのならば,そうした部分を隠して開示すれば良いのであり,図面すべてを不開示とする理由にはならない。
例えば,死刑執行の態様を明らかにするという趣旨からすれば,執行に使用するロープの取り付け場所,開落式の踏み板の位置,踏み板から地下階の床までの高さなど,執行に直接関係する部分だけを開示するだけでも,国民に対する情報開示としては意味がある。逆に,そうした執行態様を正確に知ることなしに,絞首刑による死刑が現代社会において許容されるのかという重大な問題について国民が十分に考え,議論することは困難である。
また,諮問庁は理由説明書において,自己に対する死刑の執行を行うための施設の具体的形状,構造を承知した場合には,心情に多大な影響を及ぼし,発作的に自殺を図ったり,逃走を図るなどするおそれがあるとしている。
しかし,諮問庁が何を根拠にこうしたおそれがあるとしているのかが不明である。逆に,自らがどのように死を迎えるのかについて情報を与えられないことで不安に陥り,自殺や逃亡を図る死刑確定者がいないと言えるのか。例えば,米国においては,薬物注射等の執行場の映像がホームページ等で公開されている州が多数あるが,それによって自殺,逃走が増加しているというデータや指摘を審査請求人は聞いたことがない。こうした理由を不開示の根拠として挙げるのならば,実証的なデータを示すべきである。
第3 諮問庁の説明の要旨
1 理由説明書
(1)死刑執行に関する情報の取扱いの実情について
死刑執行について,国家の刑罰権の作用は,本来,刑の執行そのものに限られるのであって,それを超えて,国家機関が刑の執行に関する事実を公表することは,刑の執行を受けた者やその関係者に不利益や精神的苦痛を与えることとなりかねないこと,他の死刑確定者の心情の安定を損なう結果を招きかねないことなどの問題があるため,その事実の公表については,極めて慎重な考慮を要する。他方で,情報を公開することにより,刑罰権行使が適正に行われていることについて,国民の理解を得るとの要請もあり,可能な範囲で情報を公開する必要がある。これらの点を慎重に考慮した結果,法務省においては,平成10年11月以降,死刑の執行後に執行の事実及び執行を受けた者の人数だけを公表し,その他の情報は公表を差し控える取扱いを行ってきた。
平成19年12月7日の死刑執行に際し,法務省は,初めて,死刑を執行した者の氏名,生年月日,犯罪事実及び執行場所を公表したが,これは,当時,更なる情報公開の要請が高まっていることを踏まえ,上記のような問題をも含めた諸要素を慎重かつ総合的に検討した結果,死刑が適正に執行されていることについて国民の理解を得るために,必要な範囲で情報公開を進めることが重要であると考えたからである。
なお,刑事訴訟法476条において「法務大臣が死刑の執行を命じたときは,5日以内にその執行をしなければならない」と規定され,また,死刑の執行については,刑法11条及び刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律178条の規定により刑事施設内の刑場において執行する旨定められ,さらに,刑事訴訟法477条1項において「死刑は,検察官,検察事務官及び刑事施設の長又はその代理者の立会の上,これを執行しなければならない」と,同条2項において「検察官又は刑事施設の長の許可を受けた者でなければ,刑場に入ることはできない」と規定されるなど,死刑執行の密行の趣旨に基づき,関係者以外の立会いを認めず,非公開の原則を定めている。
(2)本件対象文書の不開示情報該当性について
本件対象文書は,文書1ないし文書3であり,処分庁は,文書1を法5条4号に該当するとして全部不開示とし,文書2を行政文書不存在のためとして不開示とし,文書3を同条1号,4号及び6号に該当するとして一部を不開示とする原処分を行っているところ,審査請求人は,当該不開示部分が,法が規定する不開示情報に該当しないとして,原処分の取消しを求めていることから,以下,当該不開示部分の不開示情報該当性について検討する。
ア 文書1について
刑事施設の責務の一つには,未決拘禁者・既決拘禁者を問わず,刑事施設内にその身柄を確実に収容して拘禁状態を確保することがあるが,これは裁判の執行の大前提をなすものであり,これが損なわれれば,例えば受刑者等であれば適正な刑の執行が不可能となる上,万が一にも逃走や身柄奪取等の事故が発生した場合には,国民に極めて大きな不安と動揺を与え,社会の治安の根幹を揺るがす結果となり,刑事施設の担う責務は果たされないこととなる。
したがって,刑事施設がその責務を果たすためには,自殺,逃走,外部から行われる身柄奪取や逃走の援助,外部からの侵入又は施設に対する攻撃等による施設機能の妨害や破壊及び刑の執行に対する妨害等を阻止する必要があり,とりわけ,死刑確定者については,その拘禁の趣旨,目的,特質ゆえに,死刑の執行に至るまでの間,厳重にその身柄の確保が行われなくてはならない。
また,死刑は最も重く,厳粛な刑であることから,刑事施設としては,死刑の執行に至るまでの間,単にその身柄を厳重に確保するだけでなく,死刑確定者に対し,精神の安静を保たせ,自己の犯した犯罪行為を反省悔悟し,心からしょく罪の意識を持つなど安心立命の心境に導いて,人間としての尊厳を保ちつつ刑の執行に至らせることが必要であり,その処遇に当たっては,他の被収容者以上に細心の注意を払う必要があるものである。
これらにかんがみ,刑事施設は,従来から,保安・警備に万全を尽くすよう努めるとともに,具体的な施設構造など保安警備体制に関する内部情報を外部に秘匿すべく努めてきたところであり,取り分け,被収容者の身柄を拘禁・収容している施設内の各室の壁の厚さや内部構造,施設内の各区域の使用目的や位置関係等についての情報は,対外的に秘匿する必要性が極めて高い情報である。
文書1は,建物建設等のために,設計図法の共通ルールに従い,一定の縮尺の下に作成された正確かつ詳細な設計図であるため,外部からの侵入経路はもとより,各施設の位置関係や壁等の形状,その他の保安警備に係る内部構造が詳細に記録されている。そのため,付近の航空写真やこれを基に作成された各種地図などと照合することにより,刑場のおおよその位置を特定することは可能であると考えられる。
このように文書1と外部の地図等を組み合わせることにより,東京拘置所内における刑場の位置のみならず,敷地外の道路等との位置関係,距離等の概略が判明するほか,文書1には,刑場の出入口の位置,部材の材質及び壁の厚さ等が詳細に記載されていることから,その全部を開示した場合には,上記のように外部からの攻撃その他の異常事態をじゃっ起させ,又はその発生の危険性を高めるおそれがあり,法5条4号に該当する。
また,死刑確定者は,法務大臣の命令があれば執行を受ける立場にあり,それまでの間,自己の死を待つという極限的な状況に置かれているため,ささいなことでも大きな精神的動揺や不安,苦悩等に陥りやすい状態にあることから,自己に対する死刑の執行を行うための施設の具体的形状・構造を承知した場合には,死刑をより現実的,具体的,直接的に実感するなどして,その心情に多大な影響を及ぼすおそれがあり,その結果として,自暴自棄となって発作的に自傷・自殺を図ったり,又は職員に暴行を加えて逃走を図るなどし,来るべき死刑の執行を不能にさせ又は遅延させるなど刑の執行に支障が生じるおそれがある。
したがって,文書1の全部を不開示とした原処分は妥当である。
イ 文書2について
東京拘置所では,死刑を執行するに当たり,絞首の実行が絞罪器械図式(明治6年太政官布告第65号)の定めるところによるほか,執行準備作業,本人告知,隔離と警備,教誨,遺書作成,刑場連行,死亡の確認,遺体の処置等を通常行うことになるところ,それらは,書面をもってマニュアル化しなければできないようなものではなく,画一的・統一的になされなければならないという性質のものではないため,準備作業,連行時間,連行経路,告知時間,告知方法,警備人員,警備体制,関係職員の配置等については,そのときどきの諸事情等を勘案して,事案ごとに個別に計画し,関係職員に口頭で指示する等して実施しているところであり,文書2に該当する行政文書が必要となるものではなく,作成していない。
なお,念のため,東京拘置所職員をして,文書2に該当すると考えられる行政文書が存在しないか,内規を保管している書棚等を探索させたものの,存在は確認されなかった。
したがって,文書2を不開示とした原処分は妥当である。
ウ 文書3について
文書3に記載されている情報の内容については,執行事務規程(平成6年法務省刑総訓第228号大臣訓令)10条1項「法務大臣から死刑執行の命令があったときは,検察官は,死刑執行指揮書(様式第5号)により刑事施設の長に対し死刑の執行を指揮する」という規定を受け,様式が定められている。
文書3には,文書名,名あて人の職名,執行指揮者の所属する検察庁の庁名,職名,氏名及び印影,執行指揮日,執行日,被執行者の氏名,生年月日及び年齢,裁判の経過,執行命令受領の日,備考並びに取扱者としての職員(検察庁職員)の印影等が記録されているところ,処分庁が不開示とした部分は,執行指揮者の氏名及び印影,備考並びに取扱者としての職員の印影である。
まず,備考には,被執行者の勾留や上訴申立等の年月日及び内容が記載されているところ,これらは被執行者個人に関する情報であり,法5条1号に該当し,かつ,同号ただし書イないしハにも該当しない。また,当該情報は,被執行者についての機微にわたる情報であって,被執行者にとって一般的に他人に知られることを忌避する性質のものである。したがって,公にすることにより被執行者の権利利益を害するおそれがあるので,法6条2項による部分開示をすることもできない。
また,執行指揮者の氏名及び印影並びに取扱者としての職員の印影については,これらの情報が公にされることにより,死刑執行に関与した公務員やその家族等の関係者に中傷が加えられるなど当該公務員やその家族等の生活の平穏等が害されるおそれがあるほか,そのような事態の生じることを懸念して,死刑執行へ関与することとなる職員がその職務をちゅうちょすることも否定できず,事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,法5条6号に該当し,また,その結果として,適正な死刑の執行に支障が生じ,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあり,同条4号に該当する。
したがって,文書3の一部を不開示とした原処分は妥当である。
2 補充理由説明書
(1)文書1の特定の経緯及びその性質について
ア 特定について
文書1については,審査請求人からの開示請求を受け,処分庁において東京拘置所に確認したところ,同拘置所は,該当し得る文書としては,国有財産台帳付属図面としての建物図(各階別の平面図)のうち,刑場が記載されている部分(1枚)及び同図面に添付されている参考資料(設計図である「東京拘置所新営(建築)第2期第1回工事(第1回変更)」の写しの一部9枚)の合計10枚のみを保有しており,それ以外には作成・保有しているものはなかったため,これらを対象文書として特定したものである。
イ 性質について
国は,国有財産法に基づき,国有財産の分類及び種類に従い,その台帳を備えなければならないとされている。
国有財産台帳は,国有財産法施行細則により,当該台帳に登録される建物等の図面を付属させなければならないものとされており,付属すべき図面は,国有財産台帳等取扱要領に定められており,建物については建物図(各階別の平面図)が挙げられている。
他方,参考資料は,上記法令等により添付を義務付けられているものではなく,業務の利便性を考慮し,当時の担当者が必要と考えられる範囲で参考添付したものと推察されるところ,今となっては当時の経緯の詳細について確認ができない状況であるが,本件では上記国有財産台帳付属図面としての建物図と一体のものと考え,対象文書として特定したものである。
ウ 平成13年度(行情)答申第10号の対象文書との差異について
東京拘置所新営工事は,法務省本省が発注をし,当該工事に係る設計図も本省において作成したものであるところ,一般に設計図は,建物管理の都合上,完成後一定の期間が経過した後には,当該建物を管理する庁へ移管するが,東京拘置所の新営工事においては,現在も一部工事が継続中であるほか,大規模な建替え工事であることから,平成22年10月1日現在,法務省本省において,同工事の設計図を引き続き保有している状況である。
したがって,東京拘置所においては,東京拘置所新営工事における設計図は取得・保有をしておらず,建物の管理上,設計図が必要となった場合には,該当する設計図を借り受ける,あるいは,本省の承諾を得た上で複写して一時的に保有することで対応しているものである。
上記イのとおり,上記参考資料が添付された当時の経緯は必ずしも明らかではないものの,担当者が業務の利便性を考慮し,法務省本省から借り受けて複写し,あるいは,写しの送付を受けたものを当該国有財産台帳付属図面の参考資料として添付したものと考えられる。
他方,平成13年度(行情)答申第10号において,「東京拘置所に新設中の死刑執行施設の設計図及び見取図」として特定された対象文書である「東京拘置所新営(建築)第2期第3回工事(第1回変更)」は,法務省本省の保有する文書に対する開示請求がなされた際のものであり,上記のとおり,当該文書は,東京拘置所において取得・保有されていないため,本件で特定した対象文書と差異が生じたものである。
エ 見取図又は絵図的な文書の存在の有無について
また,上記において説明した図面については,建物の中の刑場のいわば空間的なものに関する図面であり,死刑執行のための器具等を備え付けた全体の状態を示すものではない。そこで,建物の完成後,死刑執行のための器具等を取り付けた状態での刑場の見取図又は絵図的な文書があるかが問題となる。
この点,処分庁を通じて,東京拘置所に確認したところ,建物の完成後,東京拘置所では,死刑執行に必要な器具・装置等の製作,取付け作業等は,請負業者には行わせず,施設職員が直営で行っており,具体的には,当該施設の既存器具等や他施設のそれを参考としながら,個々の部品・材料ごとに分散して調達し,これらを加工するなどして器具・装置等(踏み板,絞縄を固定等するリング,絞縄を通す滑車等)を製作し,取付け作業を行っているが,取付けに当たり,設置後の刑場の見取図又は絵図的な行政文書は作成していないとのことであった。さらに,取付け後においても,開示請求時点に至るまで,このような見取図や絵図的な文書は作成していないとのことであった。
以上のことから,東京拘置所では,開示請求された「東京拘置所内の死刑執行場の図面一式」に該当する文書としては,文書1以外は保有していない。
(2)東京拘置所の刑場に関し報道機関へ公開した範囲について
平成22年8月27日,東京拘置所の刑場について,報道機関に対して取材の機会を設けたところであり,報道機関に対し公開を行った範囲について説明する。
報道機関に対しては,刑場の写真,見取図のほか,関連する資料を配布し,公開の意義や死刑確定者の生活や執行の方法について説明し,東京拘置所内の刑場の案内を行っており,具体的には,教誨室,前室,執行室,ボタン室及び立会室に案内した。
ただし,既に理由説明書で説明したとおり,刑事施設内の内部構造等については極めて秘匿性が高い情報であるため,刑場までの案内に当たっては,具体的な施設内での刑場の位置関係や建物内の内部構造等については特定できないよう細心の注意を払うとともに,上記以外の場所には案内していない。また,撮影についても,テレビカメラ一台及びデジタルスチールカメラ一台に限りアングルなどを指定した上で認めたのみである。
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成22年3月29日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年4月22日 審議
④ 同年5月11日 審査請求人から意見書を収受
⑤ 同年9月30日 文書1及び文書3の見分及び審議
⑥ 同年11月30日 諮問庁から補充理由説明書を収受
⑦ 平成23年1月20日 審議
⑧ 同年2月23日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件対象文書は,文書1ないし文書3である。
処分庁は,文書1についてはその全部を法5条4号に該当するとして不開示とし,文書2については保有していないとして不開示とし,文書3についてはその一部を同条1号,4号及び6号に該当するとして不開示とする原処分を行った。
審査請求人は,原処分の取消しを求めているところ,諮問庁は処分庁と同旨の説明を行っていることから,文書1及び文書3の不開示部分の不開示情報該当性等並びに文書2の保有の有無について以下検討する。
2 不開示情報該当性等について
(1)文書1について
ア 特定の妥当性
行政文書開示請求書の請求する行政文書の名称等欄には,「東京拘置所内の死刑執行場の図面一式」と記載されており,処分庁は原処分において文書1を特定した上で,法5条4号に該当するとして全部不開示としている。
当審査会において文書1を見分したところ,国有財産台帳付属図面としての建物図(各階別の平面図)のうち,刑場が記載されている部分(1枚)及び同図面に添付されている参考資料(設計図である「東京拘置所新営(建築)第2期第1回工事(第1回変更)」の写しの一部9枚)の合計10枚から構成されていると認められる。
上記開示請求の趣旨にかんがみると,文書1以外に東京拘置所における死刑執行のための機器の全部を備えた死刑執行場の全ぼうを明らかにする文書(見取図ないし絵図的な行政文書を含む。)が存在するとすれば,これらの行政文書も開示請求の対象に含まれると考えるのが相当であるが,この点につき,諮問庁は以下のとおり説明する。
処分庁を通じて,東京拘置所に確認したところ,建物の完成後,東京拘置所では,死刑執行に必要な器具・装置等の製作,取付け作業等は,請負業者には行わせず,施設職員が直営で行っており,具体的には,当該施設の既存器具等や他施設のそれを参考としながら,個々の部品・材料ごとに分散して調達し,これらを加工するなどして器具・装置等(踏み板,絞縄を固定等するリング,絞縄を通す滑車等)を製作し,取付け作業を行っているが,取付けに当たり,設置後の刑場の見取図又は絵図的な行政文書は作成していないとのことであった。さらに,取付け後においても,開示請求時点に至るまで,このような見取図や絵図的な文書は作成していないとのことであった。
そこで検討すると,当該刑場における器具・装置等の取付け作業等が施設直営にて行われており,本件対象文書以外に該当する行政文書を開示請求時点に至るまで作成していない旨の諮問庁の上記説明には,刑事施設の中でも刑場というその特殊性を考慮すれば,特段不自然・不合理な点があるとまでは認められず,これを覆す事情も認められない。
また,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところによれば,原処分後である平成22年7月末に法務大臣による刑場の報道各社向けの公開についての指示がされたものの,東京拘置所において当該見取図又は絵図的な行政文書を保有していなかったことから,同年8月27日の報道各社向けの刑場公開における配布資料の一部として,法務省において見取図を作成することとなったとのことであり,本件開示請求(同21年10月5日)を受けて,処分庁が当該開示請求に該当するものとして文書1を特定したことは妥当であると言える。
イ 不開示情報該当性
(ア)法5条4号該当性について
東京拘置所は,他の刑事施設と同様に,死刑確定者や被告人等を多数収容し,適正かつ迅速な裁判の実現及び刑の適正な執行のため,被収容者の身柄の確実な拘禁状態の確保とともに必要な処遇を行うこと等を使命としており,同拘置所を含む刑事施設がその業務を適切に遂行する上で,被収容者の身柄の確実な拘禁状態を確保することは,最も基本的かつ重要な事項と考えられる。
このような刑事施設の業務の特殊性に加え,被収容者による逃走の危険性が常に内在していることや,刑事施設を攻撃し,被収容者の身柄の奪取や逃走の援助を企図する者の存在も否定し得ないこと,取り分け死刑確定者の身柄の確保及び刑の執行については,特に細心の配慮が必要であることなどを考慮すれば,刑事施設を管理する行政機関の長としては,外部や内部からの攻撃及び妨害,被収容者の身柄の奪取及び逃走援助並びに被収容者の逃走という異常事態の発生を未然に防止するよう努めることは当然のことと考えられる。
そして,刑事施設の保安警備に関連する情報や建物の位置関係,内部構造等に関する情報が,刑事施設への攻撃や逃走等を企図する者に取得された場合には,このような異常事態が生じる可能性が高くなるおそれがあることは否定できず,かかる事態の発生は,社会に極めて大きな不安と動揺をじゃっ起させるのみならず,刑の執行に重大な影響を及ぼすおそれがあるものと認められる。
当審査会において,文書1を見分したところ,文書1は,東京拘置所の刑場を含む建物全体につき,設計図法の共通の手法に従い,一定の縮尺の下に作成された正確かつ詳細な設計図であり,建物内の各室の配置,保安上重要な意味を有する外部との出入口の位置,建物の構造,部材の材質等が詳細に記載されていると認められる。
文書1は,上記のとおり,建物の構造,部材等について正確かつ詳細に記載されていることから,付近の航空写真やこれを基に作成された各種地図などと照合することにより,刑場のおおよその位置を特定することは可能であると考えられる。
このように文書1と外部の地図等とを組み合わせることにより,東京拘置所内における刑場の位置のみならず,敷地外の道路等との位置関係,距離等の概略が判明するほか,本件対象文書には,刑場の出入口の位置,部材の材質及び壁の厚さ等が詳細に記載されていることからすると,その全部を開示した場合には,上記のように外部や内部からの攻撃,妨害を企図する者がこれらの情報を利用し,効果的な攻撃,妨害方法を考案するなどし,現実に異常事態をじゃっ起させ,又はその発生の危険性を高めるおそれがあることは否定できない。
上記で述べた事情にかんがみれば,死刑確定者の心情に与える影響に関する論点について判断するまでもなく,文書1の記載内容は,これを公にすることにより,刑の執行に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があると認められ,法5条4号の不開示情報に該当し,不開示とすることが相当である。
(イ)部分開示の可否について
当審査会において見分したところ,文書1は,特定の目的のため,一体として機能する構造物である刑場を含む建物全体の設計図であり,出入口の位置,部材の材質及び壁の厚さ等の保安上重要な意味を有する記載のみならず,刑場を含む建物の形状を反映する床,壁の形状に関する情報が,一定の縮尺の下に全体にわたって記載されているので,法6条1項の「不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるとき」に当たらず,部分開示をすることはできない。
(2)文書2について
審査請求人は,審査請求書及び意見書において,文書2が存在しないことに対して特段不服は申し立てていないようにも解される。
しかしながら,意見書において原処分については不服がある旨の記載があることから,文書2について東京矯正管区における保有の有無につき,以下検討する。
諮問庁は,死刑の執行について,絞首の実行が絞罪器械図式(明治6年太政官布告第65号)の定めるところによるほか,執行準備作業,本人告知,隔離と警備,教誨,遺書作成,刑場連行,死亡の確認,遺体の処置等を通常行うことになるところ,それらは,書面をもってマニュアル化しなければできないようなものではなく,画一的・統一的になされなければならないという性質のものではないため,準備作業,連行時間,連行経路,告知時間,告知方法,警備人員,警備体制,関係職員の配置等については,そのときどきの諸事情等を勘案して,事案ごとに個別に計画し,関係職員に口頭で指示する等して実施しており,文書2に該当する行政文書が必要となるものではないとして,文書2は存在しない旨を説明する。
死刑を執行する際に必要となる事務としては,執行準備から遺体の処置等まで種々のものが想定されるが,その内容は,通常行うべきものは特段の規定がなくとも把握し得ると解される上,具体的な死刑執行に当たっては,死刑確定者の状況や施設の状況等に応じて,個別具体的に検討すべき事項も多いものと解される。そうすると,文書2は必要ではなく,むしろ画一的・統一的に行うべきものではないため,文書2は存在しないとの諮問庁の説明が,不自然であるとまでは言うことはできない。
また,諮問庁は東京拘置所職員をして,文書2に該当する行政文書の探索をさせ,その結果として存在しないことを確認したとのことであり,これを覆す特段の事情も認めることはできない。
したがって,文書2が存在すると認めることはできない。
(3)文書3について
ア 当審査会において文書3を見分したところ,文書3は,特定の死刑確定者に関して作成された2件の死刑執行指揮書であり,各死刑確定者の氏名,生年月日及び年齢等が記載されており,そのうち,死刑執行指揮者の氏名及び印影,備考欄並びに取扱者の印影のみが不開示とされていることが認められる。
処分庁は,文書3について法5条1号,4号及び6号に該当するとして,その一部を不開示とする原処分を行い,諮問庁も同旨の説明をしていることから,以下,当該不開示部分の不開示情報該当性につき検討する。
イ 個人に関する情報(以下「個人情報」という。)には,個人の内心,身体,身分,地位その他個人に関する一切の事項についての事実,判断,評価等すべての情報が含まれるものであり,個人に関連する情報全般を意味する以上,死刑執行指揮に係る情報も当然に死刑確定者に係る個人情報そのものである。
文書3には死刑確定者に係る情報が,当該死刑確定者の氏名,生年月日及び年齢などを含む形で記載されていることから,全体として,当該死刑確定者に係る法5条1号本文前段の情報に該当することは明らかである。
そして,原処分において不開示とされた部分に記載された当該死刑確定者に係る情報のうち,備考欄の個別の死刑執行が指揮されるに至るまでの刑事手続状況が克明にうかがえる情報について,広く一般に公にする法令・制度ないし実態があるとは認められず,その上,性質上,これらの極めて機微な情報につき公にすることが予定されているものと認めることはできない。また,不開示とされた部分のうち,死刑執行指揮者や取扱者の氏名等についても,当該死刑確定者がいかなる者によって執行を指揮されたのかという観点からは,死刑確定者個人に係る個人情報であり,同様に,広く一般に公にする法令・制度ないし実態があるとは認められず,その上,性質上,これらの極めて機微な情報につき公にすることが予定されているものと認めることはできない。
したがって,これらの情報は法5条1号ただし書イに該当するものとは認められず,同号ロ及びハに該当する事情も存しない。
次に,法6条2項の部分開示につき検討すると,文書3は上記のとおり全体として当該死刑確定者の個人に関する情報であって,そのうち特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分である氏名が既に開示されている以上,同項の部分開示を適用する余地はない。
したがって,当該不開示部分は,法5条1号に該当するので,同条4号及び6号について判断するまでもなく,不開示とすることが相当である。
3 審査請求人の主張について
審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の判断を左右するものではない。
4 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,文書1及び文書3の一部を法5条1号,4号及び6号に該当するとして,また,文書2を保有していないとして不開示とした決定については,文書1及び文書3の不開示部分は,同条1号及び4号に該当すると認められるので,同条6号について判断するまでもなく妥当であり,文書2は,東京矯正管区においてこれを保有しているとは認められないので,妥当であると判断した。
(第1部会)
委員 小林克已,委員 中村晶子,委員 村上裕章