諮問庁:防衛大臣
諮問日:平成21年9月8日(平成21年(行情)諮問第431号)
答申日:平成22年3月30日(平成21年度(行情)答申第643号)
事件名:海上幕僚監部総務部総務課が海幕総第5039号を作成する過程で収集した資料等の不開示決定(不存在)に関する件
答 申 書
第1 審査会の結論
別紙に掲げる7文書(以下,併せて「本件対象文書」という。)のうち,文書5以外の本件対象文書につき,これを保有していないとして不開示とした決定は,妥当であり,また,文書5につき,行政文書に該当しないとして不開示とした決定は,妥当である。
第2 異議申立人の主張の要旨
1 異議申立ての趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成21年4月13日付け防官文第4947号により防衛大臣(以下「防衛大臣」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。
2 異議申立ての理由
(1)異議申立書
ア 文書1ないし文書4について
これらはいずれも,防衛省に対する公益通報を受けて,防衛省が行った調査の過程で収集された資料である。
公益通報を受けた調査を始め,およそ行政官庁において法令違反の疑いがある事実に関する調査を行う場合には,おおむね以下のような手順が踏まれる。
1 下資料を収集する(この際,多くの場合,関係者に対する聞き取り調査が行われ,供述調書,答申書,陳述書等々名称は様々であるが,供述録取書面としてまとめられる。)。
2 1を基に事実を認定する。
3 認定した事実を調査報告書(調査結果)の形でまとめる。
こうした手法は,事故調査の類のみならず,民事訴訟,刑事訴訟,はたまた歴史書の執筆等,およそ事実を認定した上で文書化する作用において,広く用いられている。
このような手法が広く用いられる理由は,大きく分けて2つあると考えられる。
第一に,調査報告書等の執筆が容易になるからである。すなわち,調査担当者が事件に関する情報をすべて頭に叩き込んで記憶を基に調査報告書等を作成しようとしても,記憶を喚起するのに難儀するであろうし,最悪の場合忘却してしまうかもしれない。それよりも関係者の供述録取書面等,事件に関する下資料(一次資料)を収集した上で,それを参照しながら調査報告書等を執筆した方がはるかに容易なのは自明であろう。
第二に,調査報告書等の記述の正確性が担保できるからである。すなわち,関係者の供述等,事件に関する情報を基に調査担当者が調査報告書等をまとめる場合,中間に調査担当者が介在するため,調査担当者の知覚・記憶・表現・叙述の各段階で誤りが混入するおそれがある。関係者の供述録取書面等,事件に関係する下資料(一次資料)を収集した上で,それを引用しつつ調査報告書等を作成すれば,そのような誤りを可及的に回避でき,万一誤りが混入した場合でも,調査報告書等の文面と下資料(一次資料)の文言を比較することによって,どの段階で誤りが混入したのかを容易に検証することができる。
防衛省・海上自衛隊の公益通報に係る調査担当者は,関係者の供述録取書面等,事件の下資料(一次資料)を一切収集することなく,事件に関する情報を直接頭に叩き込んだ上で,それを頭の中で再構成して紙面に吐き出すという手法で調査結果を作成したのであろうか。上述のようにそれは極めて困難であり,また,仮に本当にそのような手法で調査結果がまとめられたとしても,そのような調査結果の記述の正確性には到底信を置くことができない。
以上述べたように,下資料が一切存在しないというのは不自然であるが,これに加えて各公益通報に係る調査結果の記述からも,下資料の存在が読み取れる。
1 海幕総第5039号(19.7.13)(以下「調査結果ア」という。)
・ 関係者に対する聞き取り調査を録取した書面(「調査結果について」1頁2行目及び3行目)
・ 帳簿等の写し(「調査結果について」1頁3行目)
平成19年7月17日,本件公益通報に係る調査担当者は,特定法律事務所において特定弁護士に対し,帳簿類を示しつつ,説明を実施した。これは調査委員会において帳簿類の写しを入手していたことを示しており,当該写しは,行政機関の職員が職務上・・・取得した文書(法2条2項)に当たる。
2 海幕総第8034号(19.12.4)(以下「調査結果イ」という。)
・法務室職員に対するヒアリング調査の結果を録取した書面(「調査結果について」1頁10行目ないし20行目)
3 海幕総第9577号(20.11.27)(以下「調査結果ウ」という。)
・ 特定団体の帳簿類の写し(「調査結果」1頁4行目及び5行目)(なお,防衛省・海上自衛隊は,これらの写しをとっていないと主張するかもしれないが,そうすると,帳簿類を調査するために,新宿区市ヶ谷の防衛省から特定機関に繰り返し通ったということになり,不自然である。)
・ O元1佐・K元1佐・M元1佐・S2佐に対する事情聴取の結果を録取した書面(「調査結果」1頁7行目ないし17行目)
4 海幕総第287号(21.1.14)(以下「調査結果エ」という。)
・ 海上幕僚監部情報公開室担当者に対する事実確認の結果を録取した書面(「調査結果」1頁5行目及び6行目)
これらに加え,調査結果アの作成に当たっては,平成19年8月24日に調査委員が特定法律事務所において公益通報者に対する聞き取りを行っており,その際に調査委員の1人である特定1等海佐は,「S3佐に対する質問事項」と書かれたメモを参照しながら,公益通報者に質問し,公益通報者の回答をノートに記録していた。これらのメモ及び回答が記録されたノートの該当頁も「(調査結果を)作成する過程で収集した資料」に当たる(なお,防衛省・海上自衛隊は,ノートは私物であり,開示の対象とならないと説明するかもしれないが,その理屈は通用しない(最決平成20年6月25日参照))。
また,調査結果ウの作成に当たっては,平成20年10月15日に調査委員が防衛省8階で公益通報者に対する聞き取りを行っており,その際に調査委員は,公益通報者に質問し,公益通報者の回答をノートに記録していた。この回答が記録されたノートの該当頁も「(調査結果を)作成する過程で収集した資料」に当たる。
以上のように,防衛省・海上自衛隊は,「調査結果アないし調査結果エ」の下資料(関係者の供述を録取した書面・帳簿類の写し・メモ・ノート等)を保有しているはずであるから,開示すべきである。
もし,下資料が一切存在しないというのであれば,①「調査結果イないし調査結果エ」の調査委員の1人である特定1等海佐は,自衛隊における司法警察活動を担う警務官であり,供述録取書面等の下資料を基に事実認定を行うという手法は理解していたはずなのに(刑事訴訟法317号,同320条ないし同328条参照),なぜ,公益通報に係る調査においては,わざわざそれとは異なる特異な手法を用いたのか。②防衛省・海上自衛隊においては,各種事故調査において下資料を基に事実認定を行うという手法を用いているのに(一例として,護衛艦「たちかぜ」いじめ自殺事件に係る民事訴訟における文書提出命令書を挙げておく。(同事件に係る事故調査において,海上自衛隊が「答申書」等,多数の下資料を収集していたことが分かる。)),なぜ,公益通報に係る調査においては,わざわざそれとは異なる特異な手法を用いたのかについて説明すべきである。
イ 文書5ないし文書7について
これらは,国家賠償法1条2項に基づく求償権の行使が行政官庁の裁量に委ねられていることの根拠として挙げられているものであり,ひいては求償権不行使という防衛省(海上幕僚監部)の施策の法的根拠となる(はずの)もの,ないし法的根拠が記されている(はずの)ものである。
調査結果イの記述によれば,以下の一連の歴史的事実があったはずである。
1 平成18年5月(いわゆる「リスト新潟訴訟」の地裁判決があった日)に海上幕僚監部法務室内で議論があり,求償債権の行使は行政官庁の裁量に委ねられているとの結論に達した(調査結果イ1頁下から5行目ないし9行目)。
2 1の結論を受けて,特定1等海佐は,求償権を行使しない方向で裁量権を行使しようと決意した。
3 2を受けて,特定1等海佐は,公益通報者及び特定民事法務官に求償権不行使という結論に沿った理論構成を命じた。
そして,同文書添付書類「調査結果について」1頁下から1行目及び2行目にある「求償権の行使に関しては,行政官庁の裁量で行うという考え方があり」という記述は,1の言い換えである。そして,求償権の行使に関しては,行政官庁の裁量で行うという考え方の根拠として挙げられているのが,「文献」,「過去の事例」及び「等」であるから,求償債権の行使は行政官庁の裁量に委ねられていることの根拠が「文献」,「過去の事例」及び「等」であるということになり,ひいては「文献」,「過去の事例」及び「等」には,求償権不行使という海上幕僚監部(防衛省)の施策の法的根拠が記されている(あるいは,これらそのものが法的根拠となる)はずである。
以上を前提に,文書5ないし文書7に係る処分庁の説明を検討していく。
i.文書5について
異議申立人は,情報公開請求書の中で,法2条2項1号該当を理由に不開示とする場合には,本当にそのようなことが書かれているのか検証できるよう,書名・著者名・頁を明らかにされたいと要望したが,処分庁はあっさり無視した。木で鼻をくくったような対応であり,改めて書名・著書名・頁の開示を求めたい。
なお,諮問庁は,市販の書籍の書名等を開示する法的義務はないなどと説明するかもしれないが,それはとんでもない誤りである。行政機関は主権者である国民に対する説明責任を負っており(法1条),国民から何かを問われたら,秘密情報に該当しない限り即答しなければならない。法は,文書化された情報についての開示のルールを定めたものにすぎず,もし,諮問庁が文書化されていない情報については,国民に対して知らせるも知らせないも我々の勝手だなどと考えているとすれば,思い上がりも甚だしいと言わざるを得ない。
逆に,市販の書籍の名称等を開示することにより失われる利益は,何かあるのであろうか。失われる利益など皆無であろう。速やかに開示すべきである。
なお,異議申立人は,「文献」は,特定1等海佐ら海上幕僚監部総務部総務課の面々によるねつ造ではないか,あるいは,文献は存在するものの,求償権の行使は行政官庁の裁量に委ねられているなどということは書かれておらず,特定1等海佐が誤読したのではないかという疑いを抱いている。すなわち,財政法8条によれば,国の債権は法律によらなければ免除してはならないこととされており,国家賠償法上の求償債権に関しては,かかる法律は存在しない。したがって,国家賠償法上の求償債権に関しては,裁量の余地なく必ず行使しなければならない。これは政府見解でもあり,(近藤正道参議院議員の質問主意書に対する内閣総理大臣答弁の「六について」参照)また,平成16年2月に「リスト新潟訴訟」と類似する東京の作家による国家賠償請求訴訟(「リスト新潟訴訟」)において国が敗訴した後,防衛庁(当時)は,この立場に立ってリストを作成・配布した3等海佐に求償している。すなわち,求償権の行使は,行政官庁の裁量に委ねられているという見解は,法律の明文・政府見解・行政実務のすべてに反するものであり,かかる内容の文献が存在するとは考えられない。異議申立人は,諮問庁は特定1等海佐らのねつ造・誤読が露見するのをおそれて「文献」の名称等を開示しないのではないかと考えている。ねつ造・誤読でないというのであれば,堂々と書名等を開示されたい。
ii.文書6について
諮問庁は文書不存在を主張しているが,調査結果イにおいて,求償権の行使は行政官庁の裁量に委ねられており,それは過去の事例により裏付けられるという趣旨のことを述べておきながら,今になって過去の事例は存在しないなどというのは矛盾である。過去の事例が存在するというのが誤りであったというのであれば,明確に誤りを認められたい。
なお,異議申立人は,諮問庁は過去に違法行為を行った隊員を救済すべく違法に求償債権を放棄したことがあり,そのことを調査結果イの中でうっかり書いてしまったのではないかと疑っている。特定1等海佐らは,法律に対する無知のため,過去の事例等から,求償権利の行使に関しては,行政官庁の裁量で行うなどと書くことが違法行為の自白を意味することに気付かず,うっかり書いてしまったのではないか。
iii.文書7について
処分庁は,関係者から聞き取った内容を指しており,よって文書不存在につき,不開示とするなどとしている。しかし,今まで述べてきたとおり,「文献」,「過去の事例」及び「等」は,いずれも求償権不行使という行政施策の法的根拠そのものないし法的根拠が記された媒体のはずであるが,言うまでもなく担当公務員がそういう意見を持っているというのは行政施策の法的根拠にならない。担当公務員がそういう意見を持っていることが問題なのではなく,その意見の法的根拠は何かが問題なのである。
「等」に該当するもの(「文献」及び「過去の事例」以外の求償権不行使という行政施策の法的根拠)が存在しないのであれば,明確に誤りを認められたい。
ウ おわりに
調査結果アないし調査結果エを見れば分かるように,諮問庁における公益通報に対する調査結果を記した文書は,根拠資料を一切添付・引用することなく,違法行為はなかったという結論のみを記すという特異なスタイルを採っている。
そして防衛省は,今回の下資料等開示請求に対して,全面不開示という対応に出た。これが,国民一般には情報開示できないが,公益通報者は利害関係人なので法の枠組みでは開示できない文書も存在するという意味であればよいが,諮問庁は,調査結果アないし調査結果エに係る公益通報者からの再三の下資料開示請求は無視し続けている。諮問庁の考え方は,公益通報に対しては,常に防衛省の無びゅうという結論を下す。それを国民や公益通報者が検証することは一切許さないというものらしい。諮問庁は,公益通報制度を組織の問題点を改善するための制度とは位置付けず,違法行為にお墨付きを与え,苦情を握りつぶすための制度と位置付けているらしい。そうでないと言うのであれば,本件情報公開請求に対し誠実に応えるべきである。また,公益通報者からの下資料提供請求に対しても誠実に応えるべきである。
(2)意見書1
ア 理由説明書で「公益通報者に対する通知文書を作成する過程において,関係者の供述調書等の下資料は一切収集していない」(2頁下から2行目及び3行目)としている点について
諮問庁はこのように説明する一方で,私的なメモ及びノートを作成・使用していたことは,事実上認めている。しかし,これが事実とすれば,情報公開制度を骨抜きにしかねないとんでもない話である。
理由は大きく分けて3つある。第一は形式的理由,すなわち,法2条,5条及び22条に違反する疑いがあるという点である。すなわち,行政庁が事故調査の類を行った場合の下資料は行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書(法2条)に当たるから,行成文書として管理・保存(法22条)し,公開しなければならない(法5条)ものである。諮問庁は,メモ・ノートについて,組織として利用していない,組織共用性がないなどとしているが(3頁5行目ないし7行目),組織共用性がないから,管理・保存・開示しなくてもいいのではなく,職務上作成し,又は取得した文書を組織として管理・保存・開示しないのはおかしい(違法である)と言うべきなのである。
第二は,実質的理由,すなわち,このようなことがまかり通れば,行政庁の意思決定過程を国民が検証するという情報公開制度の目的が潜脱されるおそれがあるという点である。すなわち,行政庁が都合の悪い内容が書かれた文書を行政文書の形で残さず,私的メモ・ノートの形で残し,私文書であることを理由に一切開示しないなどということを許すならば,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する(行政庁の意思決定過程を国民が追体験し,検証する)(法1条)は,不可能になるのである。
第三の理由は,以上のような理屈はおくとしても,現に防衛省・海上自衛隊の意思決定過程の検証が困難になっているという点である。すなわち,調査結果イの中で,特定1等海佐は,求償権の行使は,行政官庁の裁量に委ねられているなどという法律の明文(財政法8条),政府見解及び「リスト新潟訴訟」終結後の防衛省における事例に反するとんでもないことを書いた。これは法律の明文と真逆の明らかな誤りであるから,調査対象者が聞き取り調査の過程で本当にそのような発言をしたとは考え難い。むしろ,特定1等海佐が法律に対する無知のため,特定室長らの発言の意味を理解できず,特定室長らが言ってもいないことを調査結果イに書いた可能性は十分にある。どうしてこのような誤りが生じたのか,検証する必要性は高いが,諮問庁によれば,下資料は行政文書の形で残っていないので,検証するのは極めて困難な状況となっている。
では,どうすればいいのか。諮問庁は直ちに特定1等海佐らが作成したメモ・ノートを開示すべきである。この点,諮問庁は,私的メモ・ノートだから開示する必要はないと主張するかもしれない。確かに,行政庁の中には私的メモ・ノートの類は開示しないという運用をしているところもある(防衛省の文書管理に係る内部規則にもそのような記述がある。)。しかし,それは,同一内容の行政文書が存在していることが前提のはずである。本件においては,諮問庁によれば,公益通報者に対する通知文書を作成する過程において,関係者の供述調書等の下資料は一切収集していない(存在しない)(2頁下から2行目及び3行目)というのであるから,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する(行政庁の意思決定過程を国民が追体験し,検証する)(法1条)ためには,特定1等海佐らが作成したメモ・ノートは,非代替的なものであり,直ちに開示されるべきである。諮問庁が組織共用性がないというのであれば,直ちに当該メモ・ノートを取得し,組織共用化した上で開示すべきである。
イ 理由説明書3頁10行目ないし14行目について
異議申立人が指摘したのは,調査結果イではなく,宿舎プール金に係る調査結果アである。
故意の誤読による文書隠ぺいは,諮問庁の常とう手段である。情報公開・個人情報保護審査会の委員におかれては,諮問庁に厳重注意するとともに,異議申立書の該当部分に関しては,諮問庁側の反論が一切無かったものとみなし,全面開示を答申されたい。
ウ 法に基づく開示請求権の適用対象は行政文書であり,開示請求者の求める文献に係る書名,著者名,頁などの情報の開示を認めたいとする異議申立人の主張は当を得ないものであるとしている点について(理由説明書3頁21行目ないし23行目)
これまた情報公開制度を骨抜きにしかねない恐るべき主張である。仮に行政庁に文献の記載に基づき,かくかくの施策を実施することとした。しかし,その文献が何であるかは一切言えないなどと主張することを認めれば,行政庁の意思決定過程を国民が検証することは不可能になってしまう。しかもまともな文献であればまだしも,いかがわしい文献であったり,架空の文献であったりしたらどうか。また,文献自体は確かなものであっても,行政庁側が誤読していた場合はどうか。国民生活が目茶苦茶になってしまうだろう。そのうち諮問庁は,文献の記載により,憲法9条が侵略戦争を禁止していないことが明らかとなった。しかしその文献が何であるかは一切言えないなどといって侵略戦争を始めるのではないか。
しかも諮問庁は,法に基づく開示請求権の適用対象は行政文書であり,開示請求者の求める文献に係る書名,著者名,頁などの情報の開示を求めたいとする異議申立人の主張は当を得ないものであるなどとしているが,では,書名,著者名,頁などの情報を情報公開制度以外の枠組みで開示しているのかと言うと,そんなことはなく,隠ぺいし続けている。公益通報者による再三の情報提供要求も無視し続けている。
本件のように,行政文書で文献を引用しつつ,具体的記述がない場合には,当該文献の該当記述がそのまま行政文書の内容を構成しているものとみなし,法5条の類推適用により書名,著者名,頁などの情報が開示されるべきである。
エ 防衛省が国家賠償法1条2項の要件が満たされていると判断した事例は,すべて求償しており・・・「過去の事例」とは,これらの事例を指すものであるとしている点について(理由説明書3頁下から5行目ないし8行目)
この記述は支離滅裂である。求償したりしなかったりしているのであればともかく,すべて求償しているのであれば,むしろ求償債権の行使に裁量の余地がない(財政法8条及び政府見解そのまま)ことの根拠になるのではないか。
あるいは,諮問庁は,判決文の解釈,すなわち判決が公務員の故意又は重過失を認定しているか,あるいは軽過失を認定しているのかの解釈が行政官庁の裁量に委ねられていると言いたいのであろうか。
しかし,そうだとすれば,それは二重の意味でとんでもない誤りである。
第一に,判決の解釈は客観的に行うべきであって,行政官庁に裁量の余地は無い。仮に行政官庁が司法判断を好き勝手に解釈してもよいということになれば,三権分立が骨抜きになってしまう(極端な例であるが,法務大臣が死刑判決を実はこの判決は死刑を命じていないのだと解釈して,死刑執行を回避することが許されるであろうか。)。そもそも諮問庁は,行政裁量論というものがどういう場面で働くのか分かっているのであろうか。行政裁量論が適用されるのは,①財源・資源が有限であり,適正に配分されなければならない場面において,②国民と直接に接し,資源の適正配分に係る判断の基礎となる情報を豊富にもっている行政庁が,③社会福祉国家理念の下で,国民の利益のために裁量権を行使するという場面である。ところが,求償権行使の場合は,①財源・資源が有限であり,適正に配分されなければならないというような場面ではないし,②求償債権行使に当たって必要な情報はすべて判決文の中にあり,行政庁に情報が集中しているという場面ではない上,③求償債権を行使しなければ,国庫,ひいては国民に損失が生じるから,社会福祉国家理念の下で,国民の利益のために裁量権を行使する場面でもない。すなわち,求償権の行使は,行政裁量論が適用されるよう場面では全くないのである。
第二に,諮問庁が判決文の解釈,すなわち判決が公務員の故意又は重過失を認定しているか,あるいは軽過失を認定しているのかの解釈が行政官庁の裁量に委ねられていると考えているのだとすれば,求償権発生の問題と行使に当たっての裁量の余地の問題を混同していると言わざるを得ない。上記の考え方によれば,行政庁が判決が公務員の軽過失を認定していると判断した場合には,そもそも求償債権は発生しないのであって,発生した求償権の行使が行政官庁の裁量に委ねられるのではない。
オ 理由説明書4頁の記述について
これは,き弁である。「等」が公益通報の内容が通報対象事実に当たるかどうかを判断するために参考とした情報であるということと,「等」が求償権不行使という行政施策の法的根拠そのもの又は法的根拠が記された媒体を指すということは別次元の話であり,両者は両立する。
カ 下資料は一切収集していないとしている点について(理由説明書2頁下から2行目)
これが不自然だというのは異議申立書で述べたとおりであるが,中でも特に不自然なのは特定団体(権利能力無き財団)における横領疑惑に係る調査結果ウについてである。
調査結果ウにおいて調査委員会は,事務局員らによる横領の事実はないとの結論を出したが,このように言い切るためには以下のような計算が不可欠である。
1 特定団体のあるべき資産総額(最後に作成された貸借対照表(平成3年)で明らかにされた資産総額に,それ以降の各年度の黒字・赤字の金額を合算した金額)を算出する。
2 特定団体の現存する資産総額(預金通帳等の残高と手持ちの現金の総計)を算出する。
3 1と2の間に差額がないことを確認する。
特定1等海佐らは,かかる複雑な計算を暗算でやったのであろうか。
海幕総務課長は,決裁の際に横領の事実はないとする計算根拠について説明を求めなかったのであろうか。仮に総務課長が説明を求めたとして,特定1等海佐らはすべて口頭で説明し,総務課長は納得したわけであろうか。
(3)意見書2
ア 下資料が存在しないことによる不都合
JR福知山線脱線事故に係る事故調査の件は,①調査結果をまとめる過程で収集・利用されたはずの資料が行政文書として残されていない,②そのために調査の透明性が担保されなくなっているという点で原処分と状況が極めて類似している。
本件に関して②をふえんして言うと以下のとおりである。
① どのような情報が集められたのか,どのような情報に基づいて結論が出されたのか全く分からない。
② 公益通報者の言い分と収集した証言等の情報との間にそごがなかったのか,あったとしてどのような思考過程でどちらが採用されたのか,全く分からない。
③ 各調査結果には誤りが多く含まれているが(一例を挙げれば,財政法8条の明文に反する。「国家賠償法上の求償権の行使は,行政官庁の裁量に委ねられている」等),その誤りがどこに混入したか全く分からない。
④ JR福知山線脱線事故に係る事故調査の件のように,事故調査の過程で不当な圧力等があったのかなかったのか全く分からない。
⑤ 調査の過程で発覚した防衛省・海上自衛隊に不利な事実が隠ぺいされたとしても,全く読み取ることができない(なお,調査の過程で発覚した不利な事実の隠ぺいは防衛省・海上自衛隊の「お家芸」と言うべきものである。一例を挙げると,「護衛艦たちかぜいじめ自殺事件」に係る文書提出命令申立書に係る裁判所の決定である。この裁判で防衛省・海上自衛隊は,自殺は平成16年10月27日であるが,いじめた人間は同月1日に上官から厳しく注意されて以降,いじめや暴力行為をやめたので,自殺との因果関係はない旨の主張をしている。しかし,文書提出命令の結果,同月24日にいじめがあったことを示す資料を調査の過程で入手していたにもかかわらず,防衛省・海上自衛隊が隠ぺいしていたことが明らかとなった。)。
⑥ 証言等がないにもかかわらず,調査委員が勝手に書き加えたことがあったとしても,全く分からない(なお,異議申立人は,「国家賠償法上の求償権の行使は,行政官庁の裁量に委ねられている」云々は,調査委員の特定1等海佐が勝手に書き加えたことではないかと疑っている。)。
イ 問題意識が欠如している防衛省・海上自衛隊
JR福知山線脱線事故の件に関しては,国土交通省幹部が,常識的にこれでは議事録とは言えないとの感想を述べた上で,調査官の「備忘録」という位置付けだった録音テープについても情報公開の対象となり得る行政文書として保管するよう見直しを検討しているとのことである。
これに対し,防衛省海上自衛隊は,公益通報者に対する通知文書を作成する過程において,関係者の供述調書等の下資料は一切収集していないなどと威張っている状況であり,全く問題意識も罪悪感も感じていない。これは,防衛省・海上自衛隊が当初から①公益通報に対しては,調査の過程で不都合な情報が発覚すれば握りつぶし,防衛省・海上自衛隊の無びゅうという結論を出す,②それを国民に検証させないよう,下資料を残さないという方針の下に行動している(いわば「確信犯」)からである。
ウ 対策
本来,情報公開手続においては,情報公開請求の時点で存在する文書を公開すればよいのであり,新たに文書を作成・取得する必要はないのであるが,今回の防衛省・海上自衛隊のように,国民の検証を妨害する目的で行政文書として残すべきものを「私的メモ」の形で残した場合には,実質的には私的メモが作成された時点で行政文書があったものと同視し,私的メモの原本ないし写しを行政文書として取得した上で公開すべきである。
なお,防衛省・海上自衛隊は,私的メモは破棄したと主張するかもしれないが,それはうその可能性が高い。というのは,幹部海上自衛官には,勤務において気付いたことを「勤務録」というノートに残す習慣があり,多くの場合,勤務録はメモ帳も兼ねることから,特定1等海佐らは,入隊以来の勤務録を保存しており,その中に本件調査に係るメモも残されているはずだからである。
第3 諮問庁の説明の要旨
1 経緯
本件開示請求は,本件対象文書を求めるものであり,これに該当する行政文書を探索した結果,該当する行政文書を作成していない又は法2条2項1号に掲げる書籍であることから,不開示とする原処分を行ったところ,原処分の取消し及び全部開示の決定を求める異議申立てが提起されたものである。
2 不開示情報該当性について
(1)文書1ないし文書4について
防衛省における公益通報の処理及び公益通報者の保護に関する訓令15条に基づいて行った公益通報者に対する調査結果に関する通知文書を作成する過程で収集した資料については,これに該当する行政文書を作成しておらず,文書不存在につき不開示とした。
(2)文書5について
平成19年12月4日付け海幕総第8034号により調査結果を通知した公益通報事案において,公益通報の内容が通報対象事実に当たるかどうかを判断するために参考とした文献については,いずれも法2条2項1号に掲げる書籍であり,同項に規定する行政文書に当たらないため,不開示とした。
(3)文書6について
防衛省職員・自衛隊員が不法行為により国民に損害を与え,国が被害者に対して賠償を行った場合において,国家賠償法1条2項の要件が満たされていたにもかかわらず,裁量によって求償されなかった事例は過去になく,よって文書不存在につき不開示とした。
(4)文書7について
平成19年12月4日付け海幕総第8034号により調査結果を通知した公益通報事案において,公益通報の内容が通報対象事実に当たるかどうかを判断するために参考とした過去の事例等の「等」が指すものについて記した文書については,当該調査結果における「等」とは,関係者から聞き取った内容を指しており,よって文書不存在につき不開示とした。
3 異議申立人の主張について
(1)文書1ないし文書4について
異議申立人は,行政庁において法令違反の疑いがある事実に関する調査を行う場合には,通常,供述調書,答申書,陳述書など関係者に対する聞き取り調査の内容を記録した書面などの下資料を収集するものであるにもかかわらず,これらの下資料が一切存在しないとするのは不自然であり,さらに,調査結果報告書中の関係者に対する聞き取り調査,法務室職員にヒアリング調査を実施,決算書,元帳,預金通帳,領収書等の帳簿類の計上金額突合などの記述から,下資料の存在が読み取れると主張する。
また,公益通報者に対する聞き取りを行った際,質問事項を記載したメモを参照しながら公益通報者に質問をし,公益通報者の回答をノートに記録しており,これらメモ及びノートも調査結果通知書を作成する過程で収集した資料に当たると主張する。
しかしながら,公益通報者に対する調査結果に関する通知文書を作成する過程において関係者の供述調書等の下資料は一切収集していないことから,異議申立人の主張は当たらない。
また,異議申立人が(調査結果を)作成する過程で収集した資料に当たると主張する,公益通報者への聞き取りの際のメモ及びノートについては,それぞれ,調査委員がその聞き取りを行うために自ら用意したもの及び調査結果をまとめるために自らの作業用に作成したものを指していると推察されるが,それらはいずれも自身の職務遂行上の便宜のために作成し,かつ,組織として利用したことはなく,また,自らの判断のみによって廃棄するなど,組織共用性がないことから,法2条2項において当該行政機関の職員が組織的に用いるものと規定される行政文書には該当せず,よって,異議申立人の主張は当たらない。
なお,異議申立人は,平成19年12月4日付け海幕総第8034号により調査結果を通知した公益通報事案について,調査担当者が弁護士に対して帳簿類を示しつつ説明を実施したと主張するが,これについては,公益通報書を基に事実確認を実施したものであり,収集した資料を示しつつ説明を実施した事実はないことから,異議申立人の主張は当たらない。
(2)文書5について
異議申立人は,情報公開請求書の中で法2条2項1号に該当することを理由に不開示とする場合には,本当にそのようなことが書かれているのか検証できるよう,書名・著者名・頁を明らかにされたいと要望したが,処分庁によりあっさり無視されたため,木で鼻をくくったような対応であるとして,改めて書名・著者名・頁の開示を求めたいと主張する。
しかしながら,法に基づく開示請求権の対象は行政文書であり,開示請求者の求める文献に係る書名,著者名,頁などの情報の開示を求めたいとする異議申立人の主張は当を得ないものである。
(3)文書6について
異議申立人は,調査結果イにおいて,処分庁は求償権の行使は行政官庁の裁量に委ねられており,それは過去の事例により裏付けられるという趣旨のことを述べておきながら,今になって過去の事例は存在しないなどというのは矛盾していると主張する。
しかしながら,国民に損害を与え,国が被害者に対して賠償を行った防衛省職員・自衛隊員の不法行為で,処分庁である防衛省が国家賠償法1条2項の要件が満たされていると判断した事例は,すべて求償しており,調査結果イに記述されている過去の事例とは,これらの事例を指すものであり,異議申立人が開示請求した文書6でいうところの過去の事例(防衛省職員・自衛隊員が不法行為により国民に損害を与え,国が被害者に損害賠償を行った場合において,国家賠償法1条2項の要件が満たされていたにもかかわらず,裁量により求償されなかった事例)は,存在しないため,不存在と回答したものであり,異議申立人の主張は当たらない。
(4)文書7について
異議申立人は,調査結果イに記述されている文献,過去の事例等は求償権不行使という行政施策の法的根拠そのもの又は法的根拠が記された媒体のはずであると主張する。
しかしながら,ここで言う文献,過去の事例等とは,公益通報の内容が通報対象事実に当たるかどうかを判断するために参考とした情報を列挙したものであり,このうち,「等」は,関係者から聞き取った内容を指しており,特定の行政文書を指している訳ではないことから,開示請求に該当する行政文書は存在せず,よって異議申立人の主張は当たらない。
第4 調査審議の経過
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成21年9月8日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年10月6日 異議申立人から意見書1を収受
④ 平成22年1月29日 異議申立人から意見書2を収受及び審議
⑤ 同年2月4日 異議申立人及び代理人からの口頭意見陳述の聴取
⑥ 同月16日 諮問庁の職員(防衛省大臣官房文書課情報公開・個人情報保護室長ほか)からの口頭説明の聴取
⑦ 同年3月12日 審議
⑧ 同月26日 審議
第5 審査会の判断の理由
1 本件対象文書について
本件開示請求は,海上自衛隊が受けた4件の公益通報事案に係る別紙記載の本件対象文書を求めるものである。
諮問庁は,文書5を除く本件対象文書につき,これを不存在であるとし,文書5につき,行政文書に該当しないとして,原処分は妥当である旨説明することから,以下,本件対象文書の保有の有無及び行政文書該当性について検討する。
2 海上自衛隊における公益通報の事務処理要領について
諮問庁から提示を受けた,「防衛省における公益通報の処理及び公益通報者の保護に関する訓令」及び「海上自衛隊における公益通報の処理及び公益通報者の保護に関する達」によれば,公益通報対象事実に関する調査,公益通報者への通知及び是正措置等の実施に係る防衛省・海上自衛隊の規定は,おおむね以下のとおりである。
(1)海上自衛隊公益通報責任者(海上幕僚長。以下「責任者」という。)は,公益通報を受理したときは,当該公益通報について,調査の必要性を検討した上で,調査の必要性が認められない場合又は調査を行うことが相当でない特段の事情がある場合を除き,直ちに調査担当者を指定し,当該公益通報に係る通報対象事実について調査を行う。
(2)責任者は,必要があると認めるときは,調査委員会を設け当該通報対象事実を調査させることができる。
なお,防衛省公益通報管理者(大臣官房長。以下「管理者」という。)は,受理した公益通報に係る通報対象事実が重大な法令違反行為の事実である等と認めるときは,調査委員会を設け,当該通報対象事実を調査することができる。
(3)調査委員会は,当該公益通報に係る通報対象事実についての調査の過程で,当該通報対象事実が犯罪行為に該当する又は犯罪行為に該当するおそれが高いと認めるに至ったときは,直ちに責任者に報告するとともに,海上自衛隊警務隊に通報しなければならない。
(4)調査委員会は,調査が終了したときは,調査結果を責任者に報告するとともに,海上自衛隊公益通報窓口(海上幕僚監部総務部総務課。以下「海自窓口」という。)に通報する。また,責任者は,調査結果を妥当と認める場合,当該調査結果を防衛大臣に報告するとともに,管理者に通知する。
(5)海自窓口は,調査が終了したときは,調査結果を遅滞なく公益通報者に通知する。
(6)責任者は,調査の結果,通報対象事実があると認めるときは,速やかに通報対象事実の中止その他是正のために必要と認める措置及び再発の防止のために必要と認める措置等の実施を担当する部課等を指定し,是正措置等を採らせる。
3 文書5以外の本件対象文書の保有の有無について
(1)文書1ないし文書4について
当該文書は,海上自衛隊が受けた4件の公益通報事案について,公益通報者に通知した調査結果アないし調査結果エを作成する過程で,調査委員会が収集した資料一切であるが,諮問庁は,これを保有していないと説明する。
これに関し異議申立人は,調査結果アの説明に際しては,公益通報に係る調査担当者が特定弁護士に対して関連する帳簿類を提示しており,当該文書が該当する事実がある等主張する。
ア 各調査結果の調査過程等について,諮問庁から口頭説明を聴取した結果及び当審査会の事務局職員をして確認させた結果によれば,以下のとおりである。
①調査結果アの作成過程等について
1 上記事案については,海上幕僚監部人事教育部長を長とする調査委員会が設置され,調査委員として指定された人事教育部厚生課長他5名が佐世保基地に出張した上で,現地において関係者に対する聞き取り調査及び帳簿等の原本の確認を行った。
2 関係者に対する聞き取りでは,調査委員の一部がメモをとっていたが,じ後,調査対象者の供述調書等の作成または,調査対象者等から弁明書等の受領はしていない。
また,帳簿類等の確認に当たっては,その記載に異常を認めることができなかったことから,写し等の取得はしていない。異議申立人は,諮問庁の調査担当者が特定弁護士に対して帳簿類等を提示したと主張するが,提示した文書はいずれも受理した公益通報書であって,帳簿類等ではない。
なお,諮問庁は,従前提示を受けた文書は,調査結果イについてのものと説明していたが,異議申立人の主張するとおり,調査結果アについてのものである。
3 調査委員6名は,調査終了後,佐世保基地内で会議をし,通報対象事実を認めることができなかったことから,その場で調査結果をパソコンで作成した。
4 調査委員は,上記調査結果を調査委員長及び責任者に報告し,妥当であると認めて,当該結果を防衛大臣に報告するとともに,管理者に通知した。
5 海自窓口は,当該調査結果を公益通報者に通知した。
②調査結果イの作成過程等について
1 上記事案については,海上幕僚監部総務部副部長を長とする調査委員会が設置され,調査委員として総務部総務課長他3名が指定され,関係者に対する聞き取り調査が行われた。
2 2名の調査委員がメモを取りつつ,関係者に対する聞き取りを実施したが,通報対象事実を認めることができなかったことから,調査対象者の供述調書等は作成しておらず,また,調査対象者等から弁明書等の受領はしていない。
3 調査結果イの「調査結果について」は,聞き取りを実施した調査委員がメモに基づき作成し,各委員の了承を得た上で,調査委員長に報告した。
4 以後の事務処理については,上記①と同様である。
③調査結果ウの作成過程等について
1 上記事案については,海上幕僚監部総務部副部長を長とする調査委員会が設置され,調査委員として総務部総務課長他3名が指定され,海上自衛隊幹部学校等において,関係者に対する聞き取り調査及び帳簿類の原本の確認を行った。
2 調査委員による聞き取り調査の際には,メモを取っていたが,通報対象事実を認めることができなかったことから,調査対象者の供述調書等は作成しておらず,また,調査対象者等から弁明書等の受領はしていない。
帳簿類の確認に当たっては,その記載内容に異常を認めることができなかったことから,写し等をとることはしていない。
3 調査結果イの一部である「調査結果について」は,聞き取り及び帳簿等の確認を実施した調査委員がメモに基づき作成し,各委員の了承を得た上で,調査委員長に報告した。
4 以後の事務処理については,上記①と同様である。
④調査結果エの作成過程等について
1 上記事実については,海上幕僚監部総務部副部長を長とする調査委員会が設置され,調査委員として総務部総務課長他3名が指定され,関係者に対する聞き取り調査を行った。
2 調査委員による聞き取り調査の際には,メモを取っていたが,通報対象事実を認めることができなかったことから,調査対象者の供述調書等の作成はしておらず,また,調査対象者等から弁明書等の受領はしていない。
3 調査結果イの一部である「調査結果について」は,聞き取りを実施した調査委員がメモに基づき作成し,各委員の了承を得た上で,調査委員長に報告した。
4 以後の事務処理については,上記①と同様である。
⑤調査結果アないし調査結果エのいずれの事案においても,関係者に対する聞き取り調査を行った際,各公益通報に関して任命された調査委員の一部はメモを取っていたが,いずれの調査委員も調査結果を海自窓口に通知し,海自窓口が公益通報者に対し調査結果アないし調査結果エを通報した後,用済みとなった当該メモをシュレッダー等で破棄した。なお,念のため,調査関係部署の事務室の書庫等を探索したが,文書の存在を確認することができなかった。
⑥海上自衛隊における公益通報の制度においては,調査委員会は,調査結果を責任者に報告及び海自窓口に通知するにとどまり,公益通報対象事実があると認めた場合における,当該事実の中止その他是正のために必要と認める措置及び再発の防止のために必要と認める措置を採ることは,関係する部課等が実施することとなる。
また,調査の過程において,公益通報対象事実が犯罪行為に該当する又は犯罪行為に該当するおそれが高いと認めた場合,海上自衛隊警務隊に通報することとなっており,調査委員会による調査は,捜査機関による捜査ではないことから,各調査結果の作成に当たって,供述調書等を作成・取得せず,証拠物を確保することもしていない。
⑦「勤務録」は,幹部自衛官の教育訓練過程において,日々の勤務記録をとどめておくことが奨励されてはいるものの,かかる記録行為は義務ではなく,また,「勤務録」との表題が付されたノート類が各自衛官に官費支弁により支給されている事実はない。
本件に関し,上記調査結果イないし調査結果エの作成に関与した調査委員に確認したところ,いずれも,聞き取り調査の結果をメモしたのは「勤務録」ではないとのことであった。
なお,念のため,調査関係部署の事務室の書庫等を探索したが,当該文書の存在を確認することができなかった。
イ 調査結果アないし調査結果エを作成した各調査委員会が,関係者から聞き取った内容を記載したメモ類や,それを基に作成することが想定されている供述調書,あるいは,調査対象者等の弁明書,確認した帳簿類等の写し等を調査結果に添付することなく,簡略な調査結果のみを責任者及び管理者に報告し,その内容が妥当であると認められたとする諮問庁の説明は,公益通報に係る調査事案の適正な処理という観点からは,その手法の当否については疑問が残る。
しかし,当審査会が審議する対象事項としての文書の有無という観点から判断するに,供述調書は作成せず,弁明書の類は徴収せず,メモ類については調査報告書が完成し承認された時点で用済み廃棄し,帳簿類については調査委員が直接原本を確認し,その時点で特段不審な点が認められなかったために写し等を作成・保有しなかったため,調査に際して収集した資料を原処分時において保有していないとする諮問庁の説明は,防衛省・自衛隊における公益通報制度が,公益通報対象事実があると認められた場合においても,調査委員会自ら是正措置等を行うことはできず,当該事実に関係する部課等,または,海上自衛隊警務隊にじ後の措置等が委ねられているという簡易な調査手続にとどまることを踏まえれば,著しく不自然・不合理なものとまでは言えない。
したがって,防衛省において文書1ないし文書4を保有しているとは認められないと言わざるを得ない。
(2)文書6及び文書7について
調査結果イの一部には,「文献,過去の事例等から,求償権の行使に関しては,行政官庁の裁量で行うという考え方があり」と記載されている。
ア 文書6について
当該文書に係る開示請求は,上記調査結果イの一部の記載における「過去の事例」について記された文書を求めるものであるが,開示請求書には,その説明として,「防衛省・自衛隊員が不法行為により国民に損害を与え,国が被害者に賠償した場合において,国家賠償法1条2項の要件が満たされていたにもかかわらず,「裁量」により求償されなかった事例」と明記されている。
諮問庁は,調査結果イに記載されている事例とは,国が被害者に対して賠償を行った防衛省職員・自衛隊員の不法行為で,防衛省が国家賠償法1条2項の要件を満たしていると判断した場合は,すべて求償しており,当該事例とは,これらの事例を指すが,開示請求書にあるような国家賠償法1条2項の要件が満たされていたにもかかわらず,防衛省の裁量により求償しなかった事例はないと説明する。
確かに,諮問庁が説明するとおり,異議申立人は,諮問庁への開示請求書において,請求対象文書を「過去の事例」について記した文書の開示を請求しているのであり,意見書の中でも同様の主張をしていることにかんがみれば,海上自衛隊における調査結果イの国家賠償法1条2項の要件が満たされていても,防衛省の裁量により求償しないことができるかのような表現ぶり及びその前提となった関連法規の理解に若干の問題は認められるものの,異議申立人が定義する上記のごとき「過去の事例」自体が存在しないため,それについて記した文書も存在しないとする諮問庁の説明に不自然・不合理な点はない。
したがって,防衛省において文書6を保有しているとは認められない。
イ 文書7について
当該文書に係る開示請求は,上記調査結果イの記載における「等」が指すものについて記された文書を求めるものである。
諮問庁は,当該「等」が指しているものにつき,調査の過程で関係者である法務室員から聞き取った内容を指すと説明する。
上記諮問庁の説明に従えば,当該聴取内容が記載された文書は,上記(1)イのとおり,これを保有していないとする諮問庁の説明を是認せざるを得ない。
したがって,防衛省において文書7を保有しているとは認められない。
4 文書5の行政文書該当性について
当該文書に係る開示請求は,上記3(2)の調査結果イの記載のうち,「文献」を求めるものであり,諮問庁は,当該文献は,法2条2項1号に掲げる書籍に該当し,同項に規定する行政文書に当たらないため,不開示としたと説明する。
そこで,諮問庁の説明について検討すると,法2条2項1号の趣旨は,不特定多数の者に販売することを目的として発行されるものなど,一般に容易に入手・利用が可能なものは,それが写し等の形態で行政文書ファイルに編てつされている場合を除いては,開示請求権制度の対象とする必要がなく,対象とした場合には,図書館代わりの利用等制度の趣旨に合致しない利用が見込まれ,行政機関の事務負担の面からも問題が生じるおそれがあることから行政文書の定義から除外することであると解される。
当審査会において,当該文献の提示を受け確認したところ,いずれも出版社等により,不特定多数の者に販売することを目的として発行されており,一般に容易に入手・利用が可能な書籍であることが認められる。
したがって,文書5は,法2条2項1号に規定する書籍に該当することから,行政文書には該当しない。
5 異議申立人のその他の主張について
異議申立人はその他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。
6 本件不開示決定の妥当性について
以上のことから,文書5以外の本件対象文書につき,これを保有していないとして不開示とした決定については,防衛省において文書5以外の本件対象文書を保有しているとは認められず,妥当であり,また,文書5につき,法2条2項の行政文書に該当しないとして不開示とした決定については,文書5は行政文書に該当しないものと認められるので,妥当であると判断した。
(第2部会)
委員 寳金敏明,委員 秋田瑞枝,委員 橋本博之
(別紙)
文書1 海上幕僚監部総務部総務課が海幕総第5039号(19.7.13)を作成する過程で収集した資料一切に係る行政文書
文書2 海上幕僚監部総務部総務課が海幕総第8034号(19.12.4)を作成する過程で収集した資料一切に係る行政文書
文書3 海上幕僚監部総務部総務課が海幕総第9577号(20.11.27)を作成する過程で収集した資料一切に係る行政文書
文書4 海上幕僚監部総務部総務課が海幕総第287号(21.1.14)を作成する過程で収集した資料一切に係る行政文書
文書5 海幕総第8034号(19.12.4)添付書類「調査結果について」1ページ下から2行目に言う「文献」(「求償権の行使が行政官庁の裁量に委ねられている」旨が書かれている「文献」)(情報公開法第2条第2項1号該当を理由に不開示とする場合には,本当にそのようなことが書かれているのか検証できるよう,書名・著者名・頁を明らかにされたい)に係る行政文書
文書6 海幕総第8034号(19.12.4)添付書類「調査結果について」1頁下から2行目に言う「過去の事例」(防衛省職員・自衛隊員が不法行為により国民に損害を与え,国が被害者に賠償した場合において,国家賠償法1条2項の要件が満たされていたにもかかわらず,「裁量」により求償されなかった事例)について記した文書に係る行政文書
文書7 海幕総第8034号(19.12.4)添付書類「調査結果について」1ページ下から2行目に言う「等」が指すものについて記した文書に係る行政文書