答申本文
諮問庁 | : | 内閣総理大臣 |
諮問日 | : | 平成19年 9月19日(平成19年(行情)諮問第441号) |
答申日 | : | 平成21年 7月22日(平成21年度(行情)答申第147号) |
事件名 | : | 平成18年度の内閣官房報償費に関する内閣官房報償費出納管理簿等の不開示決定に関する件 |
答 申 書
平成18年度の内閣官房長官の支出に係る内閣官房報償費に関する別表に掲げる6文書(以下「本件対象文書」という。)のうち,文書1につき,その全部を不開示とした決定については,妥当である。また,文書2ないし文書6につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定については,そのうち,文書4ないし文書6については妥当であり,文書2及び文書3については,諮問庁がこれを保有していないとして不開示とすべきとしていることは,妥当である。
本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,同19年6月11日付け閣総第359号により内閣官房内閣総務官(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という)について,その取消しを求めるというものである。
審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書によると,おおむね以下のとおりである。
平成19年6月11日付けをもって原処分が行われており,当該処分に係る開示決定等通知書の3においては,文書2ないし文書6(対象期間は平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)については,「存否を明らかにしない行政文書」として不開示とされているところ,その存否を明らかにした上で,その開示を求める。
ア |
不開示とした行政文書について
経理を行うに当たり,支出関係書類が存在することは当然のことである。行政文書開示決定等通知書には,これを不開示とする理由が記載されているが,不開示としなければならない理由がよく分からない。このようなものに支出しているのだから開示できないというように,具体的に記載されたい。具体性がなく,単に「機動的に使用する経費」,「事務の円滑かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれ」,「他国等との信頼関係が損なわれるおそれ」及び「他国等との交渉上不利益を被るおそれ」とつづられているが,全くその根拠が不明である。
また,内閣官房報償費の支出は海外関係の支出ばかりであるのかも分からない。国内関係の支出と海外関係の支出とに分類し,支出項目を分類する必要がある。
支出内容を適切に分類し,不開示とする部分は納得できる程度の情報開示が必要である。
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イ |
存否を明らかにしないで開示請求を拒否した行政文書について
法8条を根拠とする開示請求の拒否を行っているということは,飲食費,交際費及び寄付金の類の支出があるということであると思われる。したがって,この処置は隠ぺいである。
たとえ交際費であっても,どうしても機密にしなければならないものもあるかもしれないが,その場合には,その部分を不開示とすれば済む。これらの文書には,機密にする必要がないものが含まれている可能性が高く,海外の高官等に渡しているお土産代金もあるかもしれないが,国内の官僚,国会議員等に関係する飲食費,交際費もあるかもしれない。
これらの文書の存否を答えるだけで不開示情報は開示されない。そもそも,これは開示する必要のある情報である。
法5条では行政文書の開示義務が規定されており,法6条では部分開示が規定されている。これらの文書が具体的にどの部分に該当するのか分からず,飲食費等の支出明細書の存否を明らかにできない理由が不明である。開示請求者が納得できる理由を示し,そのような理由がなければ,これらの支出明細書を開示すべきである。
預金通帳についてその存在を明らかにしない理由も理解できない。普通は預金通帳が存在する。預金通帳の存否を明らかにするだけで,いかなる不開示情報の開示につながるのか。
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文書2ないし文書6は,平成19年6月11日付け閣総第359号により,その存否を明らかにしないで開示請求が拒否された,別表に掲げる文書である。
以下,文書2ないし文書6の法8条該当性について述べる。
内閣官房報償費は,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じ,その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費である。
そして,内閣官房報償費の使途に係る文書については,内閣官房報償費の具体的な使途に係る情報が機微にわたるものであることから,万が一の情報漏れを防ぐため内閣総理大臣官邸内において厳重に管理保管が行われており,さらに,会計検査に際しては,使途を明示し多数の者を介して行われる一般的な証明方法によることは適当ではないため,会計検査院から要求があったときに提出する簡易証明が特に認められている。
このような内閣官房報償費の性格にかんがみれば,仮に内閣官房報償費の使途に係る文書が部分的であっても公にされ,内閣官房報償費の使途に係る情報が明らかになった場合には,内政,外交等の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を及ぼすおそれがあり,法5条6号に該当する。
また,これを公にすることにより,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれもあることから,法5条3号にも該当する。
仮に文書2ないし文書6の存否に係る情報を明らかにすると,上記で述べた法5条3号及び6号に該当する不開示情報を明らかにすることとなるため,文書2ないし文書6は,法8条に基づき,その存否を明らかにしないこととするべきである。
(3) |
過去の情報公開・個人情報保護審査会答申等との関係
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なお,内閣官房報償費の使途に係る情報については,これを全部不開示とすることが妥当である旨は,既に情報公開・個人情報保護審査会の過去の答申(平成19年度(行情)答申第182号及び同第183号等)においても妥当として是認されているところであり,これら先例答申の判断を基礎付ける諸事情については,現在においても何ら変化していない。
また,内閣官房報償費の使途を明らかにできない旨は,国会においても政府として統一的に答弁しているところである。
以上より,原処分は維持されるべきであり,審査請求については,これを棄却するのが相当である。
原処分においては,文書2ないし文書6について,法8条に基づきその存否を明らかにせずに不開示としており,諮問庁においては,この判断を妥当として審査会に諮問した。
諮問庁において,改めて文書2ないし文書6の法8条該当性について考察した結果,文書2及び文書3については,その存否を明らかにしたとしても,直ちに法5条3号及び6号に該当する不開示情報を開示することにはならないとの判断に至り,その存否を明らかにした上で法9条2項により不開示とすることが妥当との結論を得た。
なお,文書4ないし文書6については,既に提出した理由説明書にあるとおり存否を明らかにしないことが妥当である。
内閣官房報償費については,「内閣官房報償費取扱要領」(内閣官房長官決定)上,出納管理簿,政策推進費受払簿及び支払決定書により支払管理を行うこととされており,預金通帳は取得する必要があるものとはされていないことから,内閣官房において預金通帳を取得しておらず保有していない。
なお,処分庁において,保管する文書の中に預金通帳が存在しないことを確認したところである。
原処分において,不開示とした行政文書は,「センター支出官が行う支払指図書(国庫金振替書)」及び「支出関係書類(開示請求書中,「9.現金出納簿の写し」及び「12.会計帳簿」に当たるもの)」である。
このうち,「支出関係書類(開示請求書中,「9.現金出納簿の写し」及び「12.会計帳簿」に当たるもの)」とは,具体的には「内閣官房報償費取扱要領」(開示決定済み)に定めた文書1である。
内閣官房報償費は,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じ,その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費である。
そして,文書1など内閣官房報償費の使途に係る文書については,内閣官房報償費の具体的な使途に係る情報が機微にわたるものであることから,万一の情報漏れを防ぐため,内閣総理大臣官邸内において厳重に管理保管が行われており,さらに,会計検査に際しては,使途を明示し多数の者を介して行われる一般的な証明方法によることは適当ではないため,会計検査院から要求があったときに証拠書類を提出する簡易証明が特に認められている。
このような内閣官房報償費の性格にかんがみれば,仮に内閣官房報償費の使途に係る文書が部分的であっても公にされ,内閣官房報償費の使途に係る情報が明らかになった場合には,内政,外交等の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号に該当する。
また,これを公にすることにより,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれもあるから,法5条3号にも該当する。
内閣官房報償費の使途に係る文書については,これを全面不開示とすることが妥当である旨は,既に審査会の過去の答申(平成19年度(行情)答申第182号及び同第183号等)においても妥当として是認されているところであり,これらの答申の判断を基礎付ける諸事情については,現在においても何ら変化していない。
また,内閣官房報償費の使途を明らかにできない旨は,国会においても政府として統一的に答弁しているところである。
以上のとおり,文書1に記載された情報は法5条3号及び6号に該当するため不開示とした処分庁の決定は妥当である。よって,原処分は維持されるべきであり,審査請求はこれを棄却するのが相当であると考える。
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
⑥ |
平成21年1月16日
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諮問庁の職員(内閣官房内閣総務官室職員ほか)からの口頭説明の聴取及び審議
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⑨ |
同年6月19日
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諮問庁から補充理由説明書を収受
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諮問庁は,開示請求書中,「9.現金出納簿の写し」及び「12.会計帳簿」に当たるものは,具体的には「内閣官房報償費取扱要領」に定めた文書1である旨説明するところ,当審査会に顕著な事実によれば,文書1には,上記「9.現金出納簿の写し」及び「12.会計帳簿」に該当する事項が記載されていることが認められる。
処分庁は,原処分において,文書1については,その全部を法5条3号及び6号に該当するとして不開示とし,文書2ないし文書6については,その存否について回答するだけで,法5条3号及び6号の不開示情報を開示することとなるとして,法8条に基づき,開示請求を拒否している。
これに対し,諮問庁は,文書1については,法5条3号及び6号による不開示を維持すべきとしており,文書2及び文書3については,その存否を明らかにしたとしても法5条3号及び6号の不開示情報を開示することにはならず,不存在を理由として不開示とする旨説明しており,文書4ないし文書6については,引き続き,存否応答拒否を維持すべきとしているので,以下,文書1の不開示情報該当性,文書2及び文書3の保有の有無並びに文書4ないし文書6の存否応答拒否の適否について検討する。
当該文書は,内閣官房報償費について,国の会計からの支出が完了し,取扱責任者である内閣官房長官の手元に渡ってから,内閣官房長官が自らの判断により支払を行う際に作成される文書であり,具体的には,内閣官房長官が国庫からの支払を受ける都度又は役務提供者等への支払を行う都度記帳される文書である。
諮問庁は,内閣官房報償費は,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じ,その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費であり,このような内閣官房報償費の性格にかんがみれば,仮に内閣官房報償費の使途に係る文書が部分的であっても公にされ,内閣官房報償費の使途に係る情報が明らかになった場合には,内政,外交等の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を及ぼすおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれもあるから,法5条3号及び6号に該当すると説明する。
また,諮問庁は,文書1など内閣官房報償費の使途に係る文書については,内閣官房報償費の具体的な使途に係る情報が機微にわたるものであることから,万一の情報漏れを防ぐため,内閣総理大臣官邸内において厳重に管理保管が行われており,さらに,会計検査に際しては,使途を明示し多数の者を介して行われる一般的な証明方法によることは適当ではないため,会計検査院から要求があったときに証拠書類を提出する簡易証明が特に認められているとも説明する。
文書1について,当審査会に顕著な事実は,以下のとおりである(平成19年度(行情)答申第182号及び第183号)。
当該文書には,内閣官房報償費の使途,支払相手方等に関し個別具体的な記載がされており,その内容が機微にわたることが認められ,その中には,公にすることにより,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があると考えられる情報も含まれていることが認められる。
また,当該文書については,仮に使途等に関する直接的な記載に係る部分を除いて開示したとしても,特定時期における文書の作成量が,当該時期における内閣官房報償費の三つの目的類型(政策推進費,調査情報対策費及び活動関係費)ごとの使用量や支払件数に応じているという状況から,当該時期の内政・外交状況と照らし合わせること等により,その使途を推測させることとなる事情が認められる。
上記諮問庁の説明及び当審査会に顕著な事実を併せ,総合的に勘案すれば,文書1を一部でも公にすることにより,内閣官房報償費の機動的な運用を損ない,その結果,事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,また,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があると認められることから,当該文書は,法5条6号柱書き及び3号の不開示情報に該当すると認められる。
諮問庁は,内閣官房報償費は,「内閣官房報償費取扱要領」(内閣官房長官決定)上,出納管理簿,政策推進費受払簿及び支払決定書により支払管理を行うこととされており,預金通帳は取得する必要があるものとはされていないことから,内閣官房において預金通帳を取得しておらず保有していない旨説明する。
諮問庁から上記取扱要領の提示を受けて確認したところ,預金通帳を取得しなければならないとする規定は認められない。
また,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じ,その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費であるといった内閣官房報償費の特殊性にかんがみれば,処分庁において預金通帳を取得する必要性があるとまでは認め難く,また,当該取扱要領上,出納管理簿,政策推進費受払簿及び支払決定書により支払管理を行うこととされているとの諮問庁の上記説明を踏まえると,これを保有していないことによって,内閣官房報償費の支払事務の遂行に支障を及ぼすといった特段の事情も認められない。
さらに,処分庁がその保管する文書を探索したが,存在しないことが確認されたとの説明も踏まえれば,内閣総務官において文書2及び文書3を保有していないとする諮問庁の上記説明に,不自然,不合理な点はない。
したがって,内閣総務官において文書2及び文書3を保有しているとは認められない。
諮問庁は,文書4ないし文書6の存否を明らかにした場合,文書の名称自体が具体的な使途を示しているものであるため,その存否を明らかにするだけで内閣官房報償費の具体的な使途を明らかにすることになり,内政,外交等の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を及ぼすおそれ,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ等があることから,文書4ないし文書6の存否に係る情報は,法5条6号及び3号の不開示情報に該当する旨説明する。
この点について検討すると,文書4ないし文書6に係る開示請求は,内閣官房長官の管理・保管する内閣官房報償費のうち,特定期間における特定の具体的な使途に係るものに限定してその支出明細書の開示を求めるものであるから,これに該当する文書が存在するか否かを答えるだけで,内閣官房長官の手元において管理・保管されている内閣官房報償費が,特定の期間内に,飲食費,交際費及び寄付金のいずれの使途に使われているか否かを明らかにすることとなるところ,これらと特定の期間における内政・外交状況と照らし合わせることにより,内閣官房報償費のより具体的な使途を推測させることとなると認められる。
そして,内閣官房報償費は,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じ,その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費であり,具体的な使途が特定されない段階で国の会計からの支出が完了し,その後は基本的な目的を逸脱しない限り取扱責任者である内閣官房長官の判断で支払が行われるとともに,その使用は,内閣官房長官による政治的な判断の下で決定されるといった特殊性を有していることにかんがみると,特定の期間における内閣官房報償費の使途が推測されることとなれば,その機動的な運用を損ない,その結果,内政,外交等の円滑な遂行に支障を及ぼすおそれがあることは否定できないことから,文書4ないし文書6の存否に係る情報は,法5条6号柱書きの不開示情報に該当すると認められる。なお,当該存否情報の同条3号該当性については,検討するまでもない。
以上のことから,文書1につき,その全部を法5条3号及び6号に該当するとして不開示とした決定については,同条3号及び6号に該当すると認められるので,妥当であると判断した。また,文書2ないし文書6につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条3号及び6号に該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定については,そのうち,文書4ないし文書6については,当該情報は同条6号に該当すると認められるので,同条3号について判断するまでもなく,妥当であり,また,文書2及び文書3については,諮問庁がその存否を明らかにした上で,これを保有していないとして不開示とすべきとしていることについては,内閣総務官において文書2及び文書3を保有しているとは認められず,妥当であると判断した。
委員 寳金敏明,委員 秋田瑞枝,委員 橋本博之
文書1 |
内閣官房報償費出納管理簿 |
文書2 |
入金になった預金通帳の写し |
文書3 |
支出になった預金通帳の写し |
文書4 |
飲食費の支出明細書 |
文書5 |
交際費の支出明細書 |
文書6 |
寄付金の支出明細書 |