答申本文
諮問庁 | : | 防衛大臣 |
諮問日 | : | 平成17年 8月16日(平成17年(行情)諮問第352号) |
答申日 | : | 平成21年 1月22日(平成20年度(行情)答申第421号) |
事件名 | : | 北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究に係る文書の不開示決定(存否応答拒否)に関する件 |
答 申 書
防衛庁(現防衛省。以下同じ。)による北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究(平成17年4月16日付け特定新聞紹介)に係る文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,妥当である。
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成17年5月18日付け防官文第4032号により防衛庁長官(現防衛大臣。以下同じ。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。
既に防衛庁長官が国会答弁において,その存在を認めており,存否応答拒否の理由は存在しない。
本件に係る開示請求は,「防衛庁による北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究(平成17年4月16日付け特定新聞紹介)」の開示を求めるものである。これに対し,当該請求に該当する行政文書の存在の有無を明らかにするだけで,法5条3号に規定する不開示情報を開示することとなるため,法8条及び法9条2項の規定に基づき,原処分を行ったところ,当該決定に対して異議申立てが提起されたものである。
開示請求者は,平成17年4月16日(土曜日)付け特定新聞の記事の複写物を開示請求書に添付して本件開示請求を行っており,当該新聞記事の報道の内容によれば,「北朝鮮ミサイル基地への攻撃 93年,94年に防衛庁研究」との見出しから始まるものであった。
よって,開示請求者が開示を求めるものは,防衛庁が1993年,1994年当時,北朝鮮のミサイル基地を攻撃するために研究した内容等が記載されている行政文書であると認識したところである。
しかしながら,当該請求に該当する行政文書については,その存在の有無を明らかにすることにより,防衛庁・自衛隊がどのような事態に備えているのかあるいは備えていないのかが明らかとなり,これにより,不当な目的を持った者等からの我が方の企図の裏をかいた働き掛けを容易にし,ひいては我が国の安全が害されるおそれがあるほか,我が国周辺諸国に無用の疑念を抱かせ,我が国に対する態度を硬化させるなど,他国との信頼関係が損なわれるおそれがある。
したがって,本件に係る開示請求については,当該請求に該当する行政文書の存在の有無を明らかにするだけで,法5条3号に規定する不開示情報を開示することと同様の効果が生じることから,法8条の規定に基づき,存否の応答を拒否したところである。
異議申立人は,「既に防衛庁長官が国会答弁においてその存在を認めており,存否応答拒否の理由は存在しない」として原処分の取消しを主張するが,平成17年4月15日衆議院安全保障委員会における防衛庁長官の国会答弁の趣旨は,「防衛庁・自衛隊は,我が国の防衛という任務遂行の観点から,平素より種々の研究をしているが,それらはあくまでも部内の研究であり,研究項目・研究内容については,事柄の性質上,答弁を差し控えさせていただいている」というものであり,具体的にどのような研究をしていたか否かについて明らかにしたものではないところ,本件請求に係る研究の存否について述べたものではない。
以上のことから,異議申立人の主張は当たらない。
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
⑤ |
平成19年2月14日
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諮問庁の職員(防衛省運用企画局事態対処課先任部員ほか)からの口頭意見陳述の聴取
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⑥ |
同年2月27日
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委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議
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⑦ |
同年4月17日
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委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議
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⑨ |
同年11月11日
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諮問庁の職員(防衛省運用企画局事態対処課事態対処研究室長ほか)からの口頭説明の聴取及び審議
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本件開示請求は,防衛庁による北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究(平成17年4月16日付け特定新聞紹介)に係る文書の開示を求めるものである。
諮問庁は,本件対象文書の存在の有無を明らかにするだけで法5条3号に規定する不開示情報を開示することとなるため,存否の応答を拒否した原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の特定及び存否応答拒否について検討する。
本件開示請求書に添付された特定新聞の記事を確認したところ,「防衛庁長官は,衆議院安全保障委員会で,防衛庁が1993,94年に北朝鮮のミサイル基地を攻撃することができるか研究していたことを明らかにした」旨報じられていることが認められる。諮問庁は,本件請求が特定の新聞報道を引用したものであるため,開示請求者が開示を求めるものは,防衛庁が1993年,1994年当時,北朝鮮のミサイル基地を攻撃するために研究した内容等が記載されている行政文書であると認識し,これを本件対象文書として特定したと説明する。
このような諮問庁の開示請求に係る文書の特定は,本件開示請求書において,請求文書として「防衛庁による北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究(平成17年4月16日付け特定新聞紹介)」と記載されているところ,当該新聞記事を踏まえて行われているものと認められることから,妥当である。
また,本件対象文書が存在しているか否かを答えることは,防衛庁が北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究を実施していたという事実の有無(以下「本件存否情報」という。)を明らかにする結果を生じさせるものと認められる。
ア |
諮問庁は,本件対象文書の存否を明らかにすることで,防衛庁・自衛隊がいかなる事態に備えているのか又は備えていないのかが明らかとなり,これにより,不当な目的を持った者等からの我が方の企図の裏をかいた働き掛けを容易にし,ひいては我が国の安全が害されるおそれがあるほか,我が国周辺諸国に無用の疑念を抱かせ,我が国に対する態度を硬化させるなど,他国との信頼関係が損なわれるおそれがあるなど,法5条3号の不開示情報を開示することと同様の効果を生じさせる旨説明する。
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イ |
確かに,特定国のミサイル基地に対する攻撃の研究が実施されたこととなる本件対象文書が仮に存在するとした場合には,当該国との軍事的な緊張関係をじゃっ起させたり,周辺諸国にも無用の疑念を抱かせるなど,我が国と他国との関係に悪影響を及ぼすおそれがあることを否定できず,また,仮に存在していないとした場合には,弾道ミサイル防衛に関して,防衛庁・自衛隊の備えがなく,弾道ミサイル攻撃を企てる相手方に対しての抑止効果が著しく減ぜられ,ひいては軍事的な行動を誘発させるおそれがあると認められる。
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ウ |
したがって,本件対象文書が存在しているか否かについては,国家安全保障上,極めて機微な性質の情報であると認められるとともに,これが明らかになれば,我が国の安全が害されるおそれ,他国との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があることから,法5条3号に規定する不開示情報に該当するものと認められる。
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ア |
しかしながら,異議申立人は,防衛庁長官は,国会答弁において,防衛庁による北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究の存在を認めている旨主張している。そうであるならば,本件対象文書を存否応答拒否した決定は,妥当とは言えないので,以下,防衛庁長官の国会における発言について検討する。
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イ |
本件開示請求書に添付された特定新聞の記事によると,異議申立人の言う国会答弁とは,平成17年4月15日の衆議院安全保障委員会における防衛庁長官の発言であると認められるところ,当審査会における当該日の国会会議録の確認結果によれば,防衛庁長官が「防衛庁が北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究を行っていた」と直接的に答弁している部分は見受けられない。
ただし,質疑者による「平成6年,94年の時点で,だれの指示で,何ゆえ防衛庁内でこういうものを研究されたのか,きょう明らかにしていただきたいと思います」との質問に対して,防衛庁長官が「私は,いろいろな研究,これは自衛隊としてはやってはいけないことということも一つあろうかと思います。しかし,国を守るために研究する,このことは研究である限り許されることではないか,こういうふうに思っておりますけれども,そういう前提のもとに申し上げれば,防衛局長,統幕議長の指示のもと,当時の防衛局,統合幕僚会議事務局を中心に実施したもの,このように聞いております。しかしながら,それはあくまでも部内の研究であります。研究項目,研究内容などにつきましては,事柄の性質上,明らかにすること,このことは差し控えさせていただきたい,このようにお願いする次第でございます」と答弁していることが認められる。
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ウ |
当該発言について,諮問庁は,防衛庁・自衛隊は,我が国の防衛という任務遂行の観点から,平素より種々の研究をしているが,それらはあくまでも部内の研究であり,研究項目・研究内容については,事柄の性質上,答弁を差し控えさせていただいているというものであり,具体的にどのような研究をしていたか否かについて明らかにしたものではない旨説明する。
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エ |
一見したところでは,防衛庁長官の当該発言は,異議申立人が主張するように,本件開示請求にある北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究を含む何らかの研究の存在を認めたものとも解する余地もあるし,他方,諮問庁が説明するとおり,個々具体の研究の存在までは明らかにされておらず,単に一般的な種々の研究を実施したことのみを認めたものと解することも可能であることから,以下,当該発言の趣旨について検討する。
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(3) |
国会答弁における防衛庁長官の当該発言の趣旨について
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ア |
当審査会において諮問庁から口頭説明を聴取し,当該発言に係る国会答弁参考資料の提示を受け,これを確認したところによれば,当初,防衛庁長官は,「防衛庁は,我が国の平和と独立を守り,国の安全を保つという任務遂行の観点から,平素から各種の研究を実施。北朝鮮の弾道ミサイル「ノドン」の試射,核開発疑惑が問題となった平成5年(93年)から平成6年(94年)当時においても,任務遂行の観点から種々の研究を行ったことは事実。当時の各種研究については,防衛局長及び統幕議長の指示の下,当時の防衛局(防衛・警備,自衛隊の行動等を所掌),統合幕僚会議事務局を中心に実施したものと聞いている。しかしながら,それらはあくまでも部内の研究であり,研究項目,研究内容などについては,事柄の性質上,明らかにすることは差し控えたい」とする国会答弁参考資料を担当課に作成させ,本来は,このままの形で答弁する予定であったとのことであった。
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イ |
しかしながら,実際のところ,防衛庁長官は,このうち「防衛庁は,我が国の平和と独立を守り,国の安全を保つという任務遂行の観点から,平素から各種の研究を実施。北朝鮮の弾道ミサイル「ノドン」の試射,核開発疑惑が問題となった平成5年(93年)から平成6年(94年)当時においても,任務遂行の観点から種々の研究を行ったことは事実」の部分につき,明確に言及せずに答弁している。そのため,当初の意図と異なり,一般的な種々の研究のみならず,北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する個別具体の研究の存在をも認めたようにも解し得る発言になっているものと認められる。
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ウ |
質疑応答の結果が実際の答弁のまま残されている国会会議録では,上記イのとおり,防衛庁長官の発言の主題があいまいなため,北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究の存在を認めたとも認めていないとも解することができるが,当審査会における上記の国会答弁参考資料の確認結果を踏まえれば,主題が「平素から行っている各種の研究」であることが認められ,これに引き続き「研究項目,研究内容などについては,事柄の性質上,明らかにすることは差し控えたい」とされていることから,その発言の趣旨としては,本件開示請求書に記載された北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究の存在を具体的に明らかにしたものではないと解することが相当である。
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したがって,これらのことから判断すると,国会答弁における防衛庁長官の発言のみをもって,直ちに本件開示請求に係る個別具体の研究の存在が明らかにされたとまでは断定し難く,当該発言の趣旨を踏まえれば,防衛庁による北朝鮮のミサイル基地攻撃に関する研究が実施されたという事実は,いまだ何人にとっても明らかにされているとは言えず,よって,本件存否情報が本件開示請求時点において,公にされている情報であったとは認められない。
以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条3号に該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定については,当該情報は同号に該当すると認められるので,妥当であると判断した。
委員 名取はにわ,委員 北沢義博,委員 高橋 滋