答申本文
諮問庁警察庁長官
諮問日平成19年 4月 9日(平成19年(行情)諮問第167号)
答申日平成20年11月 5日(平成20年度(行情)答申第308号)
事件名警察関係に係る平成11年度総理府一般会計証明書類の不開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論
 「平成11年度総理府一般会計証明書類 警察関係すべて(既に請求済みの分を除く)」の開示請求につき,文書の特定が不十分であり,不適法であるとして不開示とした決定は,妥当である。

第2  異議申立人の主張の要旨
 異議申立ての趣旨
 本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」又は「情報公開法」という。)3条の規定に基づく本件開示請求に対し,平成18年11月9日付け平18警察庁甲情公発第4-6号により警察庁長官(以下「諮問庁」又は「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「本件決定」という。)について,その取消しを求めるものである。

 異議申立ての理由
 異議申立人が主張する異議申立ての理由は,異議申立書及び意見書の記載によれば,おおむね以下のとおりである。なお意見書には,それに係る関係資料等が添付されている。

(1)  異議申立書
 本件決定は,「行政文書開示請求書の「請求する行政文書の名称等」の記載内容では,行政文書の特定が不十分であると認められるため不開示とした」とするが,2006年11月2日付けで処分庁に提出した「ご通知」に記載しているとおり,会計検査院事務総長あての「行政文書開示請求書」(2005年12月26日付け)において,「請求する行政文書の名称等」を「平成11年度総理府一般会計証明書類 警察関係すべて(既に請求済みの分を除く)」として請求したが,これは,同日,異議申立人が会計検査院を訪問し,前記趣旨の行政文書の開示をしたい旨を申し出ると,同院の職員らが,①当該文書は,「行政文書1件」として「行政文書ファイル」に記載されていること,②ゆえに,開示請求手数料も1件300円で構わないことを確認した上,③「行政文書開示請求書」の「行政文書の名称等」を,「平成11年度総理府一般会計証明書類 警察関係すべて(既に請求済みの分を除く)」とすることを求め,④「平成17年12月28日付」で受け付けたもので,以上の①から④の事実経過に照らし,「行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」(情報公開法4条1項)が満たされていることは明らかである。
 また,本件決定は,「本件開示請求については,対象となる行政文書が著しく大量であって,請求に応じた場合,警察庁の業務に支障を及ぼし,ひいては国民一般に不利益をもたらすこと,及びその態様は開示請求権の本来の目的を著しく逸脱していることから,社会通念上妥当と認められる範囲を超えており,権利の濫用と認められるため不開示とした」とするが,申立人はいたずらに,諮問庁の業務に支障を及ぼし,ひいては国民一般に不利益をもたらすことを目的として開示請求を行っているわけではなく,その態様も前記のとおり,情報公開法の手続に忠実で,開示請求権の本来の目的を著しく逸脱していたり,社会通念上妥当と認められる範囲を超えていたりはしていないから,権利の濫用に当たらないことは明らかである。「情報公開法」(総務省行政管理局編集・財務省印刷局発行)も,「行政機関の事務を混乱,停滞させることを目的とする等開示請求権の本来の目的を著しく逸脱したような開示請求は,権利の濫用として請求を拒否できるものと考えられる。なお,開示請求の対象となる行政文書が著しく大量であることにより事務の遂行に著しい支障が生じるおそれがあっても,前述のように行政機関の事務を停滞,混乱させることを目的とする等の場合を除き,単に事務処理上対応が困難という場合は,処理期限の特例(法11条)により対処するものであって,権利の濫用に該当しない」(100ページ)としている。
 本件決定は,理由がないから直ちに取り消し,当該行政文書を開示しなければならない。

(2)  意見書
 異議申立人は,特定大学法学部法律学科在学中の特定年からジャーナリストとして活動している。主要な取材対象は「聖域となりがちな組織」であり,具体的には,裁判所,検察庁,弁護士会,警察,防衛省,会計検査院,記者クラブ,大企業などが挙げられる。特定月刊誌の特定年月号の記事を始めとして,警察の裏金作りを追及する記事をいくつも取材,執筆している。前記記事発表後,特定都道府県警察の幹部らに対し,裏金相当額を特定都道府県へ返還するよう求める住民訴訟が起こされた。原告は著述業の特定人,代理人は特定市民オブズマンの弁護士の4人である。特定年月日,特定都道府県警察の幹部らは裏金作りを認め,裏金相当額を特定都道府県へ返還することとなった。特定新聞,特定年月日夕刊の記事のとおりである。
 このように警察の裏金作りはゆゆしき問題である。しかし,警察庁を頂点とする警察組織は,問題が発覚するたびに,シラを切り通すか,それがかなわないとなると,反省する振りだけして,裏金作りを続けている。特定週刊誌特定年月日号でも,異議申立人は,「警察が「偽札」で裏金作りを告発」という記事を取材,執筆した。同記事にあるとおり,「約1万枚の開示書類を警察庁情報公開室で閲覧した際に発見した」文書が証拠である。開示書類が増えれば増えるほど,裏金作りが露呈する可能性は高まる。本件不開示決定に関し,諮問庁が理由にならない理由を並べるのは,これを恐れているからである。諮問庁は,「補充理由説明書」で「仮に本件開示請求に応じた場合,国民一般に不利益をもたらす」などとおためごかしを言うが,不開示決定により警察の裏金作りを検証できない現状のほうが,はるかに「国民一般に不利益をもたらし」ている。
 諮問庁は「補充理由説明書」の「3 作業に必要となる期間について」で,「ア 過去に異議申立人からなされた,平成8年度の警視庁に係る証明書類(機動隊を除く。)及び同年度の愛知県警察に係る証明書類の開示請求においては,対象文書約11万枚を開示するための作業に,作業の種類によって異なる(読込み作業,マスキング作業の場合述べ6時間程度など)が,毎日,警察庁の担当職員が従事した結果,延べ人員にして約1,200名が当該作業に従事し,1年11か月を要した」などと,さも大事業であったかのごとくけん伝している。仮に諮問庁がいう作業人員や作業時間を信じるとしても,その大半は証明書類から裏金作りが露呈しないよう,慎重なチェックやマスキングを行うことへ投入されている。本来,警察が裏金作りなどしていなければ,不必要な人員と時間である。しかも,これだけ慎重なチェックやマスキングを心掛けても,ミスが発生し,特定週刊誌で取り上げたような裏金作りが露呈するのが現実である。
 異議申立人は,前記対象文書約11万枚を1人で閲覧し,特定週刊誌記事を執筆した。異議申立人は諮問庁に対し,「雑誌編集者やジャーナリスト,弁護士らも補助者として閲覧に参加させて欲しい」と要求したが,拒否された。そればかりか,「昼休みは閲覧を中止してもらう。(閲覧を監視する)自分達も昼食を食べなければならないから」などと言うこ息な嫌がらせまで受けた。諮問庁が進んで閲覧に協力すれば,数十万枚でも数百万枚でも,今よりずっと効率的に作業が可能である。
 最後にくれぐれも情報公開・個人情報保護審査会(以下「審査会」という。)が警察の不正に荷担することがないようお願いする。万一,そのようなことがあれば,審査会も警察と同様,世間から厳しい批判を浴びることとなる。長年,取材で官同士のかばい合いを見ているので,どうしても付言しないわけにはいかない。き憂であれば,おわびする。

第3  諮問庁の説明の要旨
 理由説明書
(1)  異議申立てに係る行政文書について
 本件異議申立てに係る行政文書は,警察庁及び各都道府県警察に設置された国の会計機関が作成し,又は取得した文書である。
 本件開示請求事案については,法12条1項の規定に基づき,警察庁長官が会計検査院事務総長と協議の上,移送を受けたものであり,本件異議申立てに係る行政文書の枚数は,210万5,955枚となっている。

(2)  不開示決定をした理由について

 開示請求に係る行政文書の特定が不十分であることについて
 法4条1項2号は,開示請求は,「行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」を記載した書面を提出してしなければならないことを規定している。個別具体の開示請求事案における行政文書の特定は,個別の判断になるところ,例えば,「「○○(行政機関又はその下部組織)の保有する行政文書」のように記載された開示請求についても,行政文書の範囲は形式的,外形的には一応明確ではあるものの,一般的には,行政組織の活動は多種多様であってそのすべてに係る行政文書を請求しているとは考え難いことや保有する行政文書の量等に照らして,本法の開示請求権制度上は,特定が不十分であると考えられる(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」34頁)」とされている。
 本件の開示請求書は,「平成11年度総理府一般会計証明書類 警察関係すべて(既に請求済みの分を除く)」という記載であり,本件異議申立てに係る行政文書は210万5,955枚という極めて膨大な量であること,また,その態様は,121の会計機関において12種類の計算書等のいずれかの形で作成された文書として,細かく区分されるものであることなどに照らし,行政文書の特定が不十分であることから,法4条2項に基づき,異議申立人に対し,平成18年1月23日付け,同年2月6日付け,同月20日付け,同年3月6日付け及び同年9月6日付けで文書により,また,再三にわたり口頭により補正を依頼するとともに,本件異議申立てに係る行政文書に記載されている情報の概要等を教示してきた。さらに,同人の依頼に基づき,同人の請求に係る別件開示請求事案において開示決定等の期限の特例規定の適用中であった行政文書の一部において例外的に開示決定をし,閲覧等を行うなど,補正の参考となる情報の提供に努めたものの,同人が開示請求書の不備を補正することはなかった。
 よって,開示請求に係る行政文書の特定が不十分であるため不開示とした。

 開示請求権の濫用について

(ア)  開示請求に応じた場合,警察庁の業務に支障を及ぼし,ひいては国民一般に不利益をもたらすことについて
 本件異議申立てに係る行政文書は210万5,955枚という極めて膨大な量に及び,また,個人の氏名,生年月日,住所,年齢,職業,職務の級,所得額,金融機関口座番号等,個人に関する情報であって特定の個人を識別することができる情報,捜査又は警衛・警護等の警察活動に関し,活動した月日,場所,活動の内容,捜査活動に伴う装備資器材の名称等,公にすることにより,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報等が記載されていることから,仮に開示請求に応じた場合は,全文書について,法5条各号該当性の判断のため慎重な検討が必要となり,警察庁の事務が停滞・混乱し,その業務の遂行に多大な支障を及ぼし,ひいては国民一般に不利益をもたらすこととなり,社会通念上妥当と認められる範囲を超えており,権利の濫用と認められるため不開示とした。
 なお,法11条は,開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため,開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生じるおそれがある場合の開示決定等の期限の特例について規定している。仮に,開示請求に応じた場合の開示決定等のために必要となる期間を試算すると,開示決定等は早くても開示請求時から約25年後の平成43年となるところ,開示決定等がこのように長期間経過後となる事態は,およそ法が予定しているものとは解されない。
(イ)  開示請求の本来の目的を著しく逸脱していることについて
 法1条は,法の目的について規定しており,国民主権の理念にのっとり,「行政文書の開示を請求する権利につき定めること等」を手段として,「行政機関の保有する情報の一層の公開を図る」ことを第一次的な目的とし,「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」ことを高次の目的とするものであるとされている(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」11頁)。
 異議申立人は,本件開示請求の目的は,保存期間が満了した文書を破棄させないことにある旨を主張しており,また,同人は,過去,本件異議申立てに係る行政文書に比べ少量の文書に係る同種請求事案において,対象文書のうちわずかな文書のみの閲覧又は写しの交付を受けるにとどまるなど,210万5,955枚という極めて膨大な量の本件異議申立てに係る行政文書のすべての文書の閲覧又は写しの交付を想定していないことは明らかである。これは,開示請求権の本来の目的を著しく逸脱しており,社会通念上妥当と認められている範囲を超えており,権利の濫用と認められるため不開示とした。
 補充理由説明書
(1)  本件開示請求に応じた場合に必要となる作業量について
 本件異議申立てに係る行政文書は,210万5,955枚という極めて膨大な量である。また,その態様は,警察庁及び各都道府県警察に設置された121の国の会計機関において,12種類の計算書等のいずれかの形で作成され,約2,600の行政文書ファイルにまとめられた行政文書の集合物である。

(2)  作業の概要について

 本件異議申立てに係る行政文書は,8,000冊以上の簿冊に編てつされて会計検査院に保管されていることから,これらをすべて警察庁に搬入した上で,作成した会計機関及び文書の種類等に基づき分類し,マスキング作業を行うために,電子データへの読み込み作業を行う。

 本件異議申立てに係る行政文書について,法5条1号に該当すると思料される情報(個人の氏名,生年月日,住所,年齢等)が定型的に記載された部分のマスキング作業を行う。

 法5条各号該当性の判断のため,各都道府県警察等に対して意見照会するとともに,警察庁内部部局においてもその是非を検討する。

 当該意見照会結果及び検討結果に基づき,法5条各号該当部分のマスキング作業を行う。

 請求人の閲覧等に供するため,マスキングの状態を確認する。

(3)  作業に必要となる期間について

 過去に異議申立人からされた,平成8年度の警視庁に係る証明書類(機動隊を除く。)及び同年度の愛知県警察に係る証明書類の開示請求においては,対象文書約11万枚を開示するための作業に,作業の種類によって異なる(読み込み作業,マスキング作業の場合延べ6時間程度など)が,毎日,警察庁の担当職員が従事した結果,延べ人員にして約1,200名が当該作業に従事し,1年11か月を要した。

 前記アにおける作業実績に基づき,本件異議申立てに係る行政文書約210万枚の開示作業に要する期間を試算すると,延べ人数にして約1万6,000名が開示事務に従事し,開示まで25年4か月を要することとなる。したがって,本件開示請求に係る開示決定は,異議申立人による別件開示請求のための作業終了後の平成21年9月より開始した場合,平成47年1月となることが見込まれる。

(4)  開示請求に応じた場合,警察業務の遂行に多大な支障を及ぼすことについて
 仮に本件開示請求に応じ,前記(2)の作業に長期にわたり従事した場合,警察庁においては,事務が停滞・混乱し,都道府県警察等においても,本件に係る作業により事務が停滞・混乱するとともに,以上のような警察庁における事務の停滞・混乱により警察庁の指揮監督業務が十分に行われず,これを受けて自らの事務が停滞・混乱する結果,警察業務の遂行に多大な支障を及ぼし,ひいては国民一般に不利益をもたらすこととなる。
 なお,以上に加え,仮に本件開示請求に応じ,以上のような作業に長期にわたり従事した場合,本件異議申立人以外の者による開示請求について長期にわたる特例延長の期間設定を余儀なくされるなど,異議申立人以外の者の情報公開制度の利用による「知る権利」を著しく侵害し,ひいては国民一般に不利益をもたらすこととなる。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

1)平成19年4月9日  諮問書の受理
2)同日  諮問庁から理由説明書を収受
3)同年6月13日  審議
4)同年7月11日  審議
5)同年8月8日  審議
6)同年9月13日  諮問庁職員(警察庁長官官房会計課監査室長ほか)からの口頭説明の聴取
7)同年9月21日  審議
8)同年9月28日  審議
9)同年10月12日  審議
10)同年10月19日  審議
11)同年11月16日  審議
12)平成20年1月18日  審議
13)同年2月1日  審議
14)同年2月8日  審議
15)同年2月29日  審議
16)同年7月11日  諮問庁から補充理由説明書を収受
17)同年7月25日  審議
18)同年8月29日  審議
19)同年9月19日  審議
20)同年9月26日  審議
21)同年10月1日  異議申立人から意見書を収受
22)同年10月3日  審議
23)同年10月24日  審議
24)同年10月31日  審議


第5  審査会の判断の理由
 本件開示請求について
 本件開示請求は,会計検査院事務総長に対し「平成11年度総理府一般会計証明書類 警察関係すべて(既に請求済みの分を除く)」の開示を求めるものであり,同総長は当該開示請求に対応する文書として,警察に係る平成11年度総理府一般会計証明書類のうち,既に開示請求を受け,警察庁に移送済みの警視庁関係書類を除く,その余の210万枚を超える文書のすべて(以下「本件請求文書」という。)につき,事案を諮問庁に移送している。
 移送された文書は,警察庁(警察大学校等の附属機関及び管区警察局,東京都警察情報通信部等の地方機関を含む。以下同じ。)並びに警視庁を除く道府県警察(方面)本部(以下「道府県警察」という。)に設置された国の121の会計機関(会計法13条等にいう会計機関,以下「121の会計機関」という。)が,会計検査院の検査を受ける会計機関として,警察庁及び道府県警察が個別に保有する行政文書の中から摘出して会計検査院に提出されたものであり,その複写を各会計機関が保有していたものである。
 本件開示請求について,異議申立人は,本件開示請求書において行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項が記載されており,また,権利濫用には当たらない旨主張する。
 これに対して,諮問庁は,本件開示請求書の記載では開示請求に係る行政文書の特定が不十分であり,また,本件請求は権利濫用でもあると説明していることから,まず,本件開示請求における文書特定の有無について判断する。

 本件開示請求における対象文書の特定の有無
 法4条1項2号は,開示請求書には「行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」が記載されていなければならないとしている。
 行政文書の包括的大量請求との関係でこの条項の意味を検討すると,例えば「特定行政機関の保有する行政文書のすべて」と記載された開示請求であっても,当該行政文書の範囲は形式的,外形的には一応明確ではある。しかしながら,一般に,行政組織の活動は多種多様であるのにそのすべてに係る行政文書を請求しているとは考え難いことに加え,そのような包括的請求を容認するならば,対象文書の量が膨大となり,請求者が閲覧・謄写を行うこと自体が困難となる一方,行政の事務遂行に支障を生じることが想定される。そのため前記のような包括的大量請求にあっては,情報公開法による開示請求制度上は,請求権行使の要件としての文書特定を欠くと考えられている。
 文書特定の概念は,開示請求制度の適正かつ円滑な運用のための機能的概念であることから,前記のような解釈は妥当であり,当審査会もその考え方に従いつつ,諮問庁の説明及び口頭説明を聴取した結果,並びに当審査会において事務局職員をして本件請求文書の保管状況を確認させ,さらには,その一部を抽出して調査した結果に基づいて,本件において対象文書が特定されていると認められるか否かにつき,以下に検討する。

(1)  本件請求文書の種類及び数量
 諮問庁の説明によれば,本件請求文書は,121の会計機関が作成し,又は取得した文書であり,その態様は各会計機関において12種類の計算書等のいずれかの形で作成された文書として細かく区分されるもので,その文書の種類は以下のとおりである。
 (ⅰ)支出計算書
 (ⅱ)支出証拠書類(月別)
 (ⅲ)前渡資金出納計算書
 (ⅳ)前渡資金証拠書類(月別)
 (ⅴ)歳入徴収額計算書
 (ⅵ)歳入金証拠書類(月別)
 (ⅶ)歳入歳出外現金出納計算書
 (ⅷ)債務負担額計算書
 (ⅸ)債権管理計算書
 (ⅹ)国有財産増減及び現在額計算書及び証拠書類
 (ⅹⅰ)国有財産無償貸付状況計算書及び証拠書類
 (ⅹⅱ)物品管理計算書
 これらのうち,月別と記載のあるものについては,月別に管理されており,各府県情報通信部及び各方面情報通信部においては,前渡資金出納計算書,前渡資金証拠書類(月別),歳入歳出外現金出納計算書及び債権管理計算書のみが作成され,東京都警察情報通信部及び北海道警察情報通信部においては,前渡資金出納計算書,前渡資金証拠書類(月別),歳入歳出外現金出納計算書,債権管理計算書及び物品管理計算書のみが作成されている。また,一部の文書については,当該機関において証明すべき歳入等がない等の理由により,文書が存在しない可能性がある。
 本件請求文書の総数は,段ボール箱にして約400箱分であり,8,000冊以上の簿冊に編てつされ,文書として210万枚を超える枚数である。
 また,本件請求文書から複写した文書は,警察庁及び道府県警察では,一部の争訟に係るものを除き既に保有していないところ,仮に警察庁及び道府県警察が個別に保有する平成18年度の行政文書ファイル管理簿(以下「ファイル管理簿」という。)に照合するとすれば,合計約2,600件に及ぶ行政文書ファイルにまとめられる文書である。

(2)  本件開示請求に応じるとした場合の諮問庁の事務量等

 法の規定
 法5条によると,処分庁は,開示請求があったとき,開示請求に係る行政文書に同条1号から6号までの各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならないとされていることから,処分庁としては,対象文書たる行政文書に不開示情報が記録されているか否かを逐一判断して,開示部分と不開示部分を区分すべきこととなる。
 不開示情報は,個人又は法人等の正当な利益,国の安全や公共の安全,行政事務の適正な遂行等の利益等を適切に保護するために法定されたものであり,これらは開示によって損なわれてはならないものである上,いったん誤った開示が行われた場合にはそれによる不利益を回復し難いことから,一つの行政文書の中に不開示部分があるか否かの判断及び不開示部分と開示部分との切り分けに関する判断は,守秘義務を負った公務員によって,文書に記載された情報の一つ一つについて慎重に行われることが想定されている。

 事務量等
 当審査会において諮問庁より提示を受けた本件請求文書の一部を任意に抽出してその内容を点検したところ,同文書中には,特定個人の所得額,利用金融機関口座,借入金,預金等の個人識別情報,法人作成の見積書,請求書,営業利益に係る書類等の法人情報,捜査又は警衛・警護等の警察活動に関する,活動年月日・場所・活動内容等,捜査活動に際しての装備資器材に係る名称等の公共安全情報等が数多く記載されていることが認められる。
 そのため,諮問庁の説明によれば,前記第3の2のとおり,本件請求文書の開示・不開示の判断に当たっては,その前提として,8,000冊以上に及ぶ簿冊を警察庁に搬入し,本件請求文書を作成機関,種類及び分冊された月等に分類し,開示・不開示の検討作業及びマスキング作業を効率的に行うために,当該文書のすべてを電子データ化する作業を行い,その後,不開示情報該当性の判断及び部分開示の可否について確認すべく,警察庁会計課が全国121の各会計機関との間で,約2,600件に及ぶ行政文書ファイルにまとめられる文書の1枚ごとに含まれる個人情報,法人情報,公共安全情報等についてその不開示情報該当性を個別に検討,照会する必要が生じ,このような検討,照会を要請された各会計機関は,必要に応じ,各文書に係る事務を担当する部局において当該検討をさせることとなる。同作業においては,例えば,対象文書に捜査活動に係る情報が記載されていた場合には,担当部局は当該捜査活動に係る事件について,当時の捜査状況をひも解きつつ現在の捜査状況等を分析して個別具体的に検討を行い,各会計機関はその結果について警察庁会計課に報告し,最終的には同課において不開示情報該当性を判断する必要がある。このような検討の結果,不開示とすべきと判断した部分については,個別にマスキング作業を進める必要があり,さらに,マスキング作業を終了した後,文書の閲覧に供するため,電子データを文書として印刷し,そのすべてについて再度確認作業を行う必要がある。
 これらの作業は,その性質上,守秘義務を負う職員自らが行う必要があり,過去に行われた同種事案(本件異議申立人による特定警察に限定した約11万枚の開示請求)についての作業実績として,約1年11か月を要していることを勘案すると,本件請求文書について開示実施をするまでに約25年を要することが見込まれるということである。
 前記諮問庁の説明は,作業手順の説明それ自体が法の規定に即し相応の合理性を有することに加え,過去における同種文書につき請求対象をより限定した開示請求事案に係る作業実績,更には当審査会において本件請求文書の一部につき抽出してサンプル調査した結果をも勘案するとき,十分に首肯できるものである。

(3)  文書特定の有無
 前記(1)及び(2)で検討したところによれば,本件開示請求においては,対象となる行政文書を作成又は取得した会計機関の数が121に及び,当該機関が設置された警察庁及び道府県警察が個別に保有する行政文書から摘出され,警察事務に係る多種多様の不開示情報が随所に記載された約2,600件の行政文書ファイルにまとめられる210万枚を超える文書が請求の対象とされており,包括的かつ大量の行政文書の開示が求められている。そうすると,前記2の冒頭で述べたとおり,警察組織においてもその活動は多種多様であって,本件において個別に開示・不開示の検討を行うとすれば,行政事務に著しい支障が生じるおそれがあることが明らかであり,このような開示請求は,一般に,開示請求制度の適正かつ円滑な運用に沿うものではなく,社会通念上相当であるとして是認できる開示請求の範囲を著しく超えていると認められる。
 したがって,本件開示請求においては,法4条1項2号に規定する「行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」が記載されているとは認め難いことから,請求文書の特定が不十分であるとする諮問庁の判断は妥当である。
 なお,法は,一般的な大量請求に対しては,法11条に規定する期限の特例制度によって,開示請求日から60日以内に開示決定等できない行政文書について,「相当の期間内」,すなわち,行政機関が処理するに当たって必要とされる合理的な期間内に開示決定等を行うことで対応すべきと定めている。しかしながら,開示実施を行うまで約25年を要すると見込まれる本件開示請求については,処分庁が前記「相当の期間内」に本件請求文書について開示実施を行うことは不可能であると認められ,同規定に照らしても,本件開示請求自体,法の想定外のものであると認められる。

(4)  本件開示請求に係る行政文書ファイルについて
 本件請求文書は,前記1のとおり,警察庁及び道府県警察に設置された国の121の会計機関が,会計検査院の検査を受ける会計機関として会計検査院に提出したそれぞれの会計文書の集合物であるが,提出を受けた会計検査院において一つの行政文書ファイルにまとめられ,「文書ファイル名:平成11年度総理府一般会計証明書類 作成者:警察庁」として会計検査院のファイル管理簿に登載されているものである。そこで,本件開示請求は,行政文書ファイルを特定した請求として文書特定がされているか否かが問題となるので,次に検討する。

 対象文書の特定に関する法の定めを概観すると,法4条1項2号は,開示請求を行う場合は,「行政文書の名称その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項」を記載した書面を提出することを定めているところ,同号にいう「行政文書を特定するに足りる事項」とは,行政機関の職員が,当該記載から開示請求者が求める行政文書を他の行政文書と識別できる程度の記載があることを意味すると解されている。
 そして,法23条により,行政機関の長は,開示請求をしようとする者が容易かつ的確に,求める行政文書を指し示すことができるよう,行政文書の特定に資する情報の提供を行うこととされている。その一環として,行政機関の長は,行政文書ファイル管理簿等を一般の閲覧に供することとされていることから,一般には,当該ファイル管理簿上の行政文書ファイル名の引用やこれに更に限定を加える形の特定の仕方であれば,特定が不十分とは言えないとされている。

 行政機関の長が行政文書を管理するに当たっては,行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令(以下「法施行令」という。)16条1項に基づき,当該行政機関の事務及び事業の性質,内容等に応じた系統的な行政文書の分類の基準を定めることが要請されており,また, 行政文書ファイルは,法施行令13条2項1号において,能率的な事務又は事業の処理及び行政文書の適切な保存の目的を達成するためにまとめられた,相互に密接な関連を有する行政文書の集合物とされているところ,行政文書ファイルは,行政文書の分類の基準における小分類に属するものとされている(平成12年2月25日各省庁事務連絡会議申合せ「行政文書の管理方策に関するガイドラインについて」)。
 以上のことから,一つの行政文書ファイルにまとめられる行政文書の範囲については,行政機関の事務又は事業における利用保存等の便宜を考慮して判断すべきこととなる(同「行政文書の管理方策に関するガイドラインについて」)。

 本件請求文書については,会計検査院におけるファイル管理簿に基づく一つの行政文書ファイル名によって開示請求がされたものであるところ,これに対応する行政文書ファイル名は,同文書についての情報公開事務を遂行する立場にある警察庁のファイル管理簿には存在せず,前記認定のとおり,本件請求文書は,全国の121の会計機関がそれぞれ保有していた行政文書から摘出された約2,600に及ぶファイルにまとめられる文書であり,210万枚を超える多種多様の警察文書である。
 当該事実に照らすとき,本件請求文書は,前記法施行令に定める「能率的な事務又は事業の処理及び行政文書の適切な保存の目的を達成するためにまとめられた,相互に密接な関連を有する行政文書の集合物」と解することはできない。
 したがって,前記のとおり,請求文書の特定としては,一般には当該ファイル管理簿上の行政文書ファイル名を引用すれば足りると解されるものの,本件のように,他の行政機関において作成された行政文書が,当該他の行政機関(全国の121の会計機関)の所掌事務に係る文書であって,ファイル管理簿に照合するとすれば,合計約2,600件に及ぶファイルにまとめられるものであり,また,各文書は相互に密接な関連を有するとは認められず,しかもその分量が210万枚を超えるというような場合においては,法の規定の趣旨に照らし,当該他の行政機関において作成された行政文書ファイルは,請求文書を特定するものとしての本来の機能を有しているとは到底認められず,これに更に限定を加える形で特定をしない限り,請求文書の特定としては十分とは言えないと解される。

(5)  処分庁による補正の求め
 諮問庁の説明によれば,処分庁は,本件の開示請求書は,開示請求書の記載では対象行政文書の特定が不十分であると思料されたことから,法4条2項に基づき,異議申立人に対し,平成18年1月23日付け,同年2月6日付け,同月20日付け,同年3月6日付け及び同年9月6日付けの各文書並びに口頭及び架電により,文書の量が膨大であること,会計文書の性格,記載内容の概要及び作成経緯等を説明した上で,請求文書を作成機関,文書の種類,作成の時期等により絞り,請求文書を特定して請求するように補正を求めていることが認められる。
 さらに,処分庁は,同人の依頼に基づき,本件開示請求において文書の特定に資するため同人の請求に係る別件同種開示請求事案(本件異議申立人による特定警察に限定した約37万枚の開示請求)において開示決定等の期限の特例規定の適用中であった行政文書の一部において開示決定をし,開示の実施を行うなどの情報の提供に努めるなど,異議申立人の開示請求に対する主張に応じた対応を行ったことが認められる。これに対して,異議申立人が前記処分庁の補正の求めに応じた事実は認められず,本件請求文書全部の開示を求め続けたことが認められる。
 前記の補正の求めは,処分庁が行った教示の方法,情報の提供及び補正の求めの回数にかんがみれば,法4条2項の規定の趣旨に照らして相当であると認められる。
 前記のとおり,処分庁は異議申立人に対して,請求する文書を特定して請求するよう再三にわたり補正を求めたにもかかわらず,異議申立人は本件開示請求を変更しなかったため,文書不特定の不適法も是正されなかったものである。

 本件不開示決定の妥当性について
 以上のことから,本件開示請求につき,開示請求書の記載では文書の特定が不十分であり,また,開示請求権の濫用でもあることを理由に不開示とした決定については,開示請求書の記載では文書が特定できず,不適法であるところ,処分庁が補正を求めたにもかかわらず異議申立人が当該補正に応じなかったため,不適法は是正されなかったと認められることから,開示請求権の濫用の点について判断するまでもなく,妥当であると判断した。

(第2部会)
 委員 寳金敏明,委員 秋田瑞枝,委員 橋本博之