答申本文
諮問庁内閣総理大臣
諮問日平成19年 2月 5日 (平成19年(行情)諮問第37号)
答申日平成19年 8月 7日 (平成19年度(行情)答申第182号)
事件名平成17年度の内閣官房報償費に係る支出負担行為即支出決定決議書等の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論
 以下の文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,妥当である。

 内閣官房報償費の平成17年度の総額が分かる資料(支出負担行為即支出決定決議書)(平成17年度の間に支出されたもの及びこの間に支出決定されたもの)

 内閣官房報償費支出関係書類(平成17年度の間に支出されたもの及びこの間に支出決定されたもの)

 内閣官房報償費支出関係書類(平成18年4月1日から同年9月26日の間に支出されたもの及びこの間に支出決定されたもの)

第2  審査請求人の主張の要旨

 本件審査請求の趣旨
 本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成18年10月23日付け閣総会第269号及び同第270号により内閣総務官が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。

 本件審査請求の理由
 審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書によると,おおむね以下のとおりである。
 平成18年10月23日付け閣総会第269号及び同第270号により,本件対象文書のうち,内閣官房報償費の支出内容が個々に分かる文書のすべてが不開示とされた。支出内容が一切不透明なまま,不開示の理由として,「事務の円滑かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれがある」,「他国等との交渉上不利益を被るおそれがある」といったことを述べても,支出内容が一切分からないため,審査請求人としては,当該決定が妥当であるか判断がつかない。
 場合によっては不開示もやむを得ないが,不開示の場合には,当該決定が妥当であるか判断がつく程度の開示が必要ではないか。また,不開示とする必要のないものについては開示することを求める。

第3  諮問庁の説明の要旨

 本件審査請求に係る文書
 本件審査請求に係る文書は,閣総会第269号及び同第270号において不開示とされた内閣官房報償費の支出関係書類(出納管理簿,支出決議書,報償費支払明細書,領収書等)である。
 以下,支出関係書類の不開示情報該当性について検討を加える。

 支出関係書類の不開示情報該当性について
 内閣官房報償費は,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じ,その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費である。
 そして,支出関係書類については,内閣官房報償費の具体的な使途に係る情報が機微にわたるものであることから,万一の情報漏れを防ぐため,総理大臣官邸内において厳重に管理保管が行われており,さらに,会計検査に際しては,使途を明示し多数の者を介して行われる一般的な証明方法によることは適当ではないため,会計検査院から要求があったときに証拠書類を提出する簡易証明が特に認められている。
 このような内閣官房報償費の性格にかんがみれば,仮に支出関係書類が部分的にであっても公にされ,内閣官房報償費の使途に係る情報が明らかになった場合には,内政,外交等の事務の円滑かつ効果的な遂行に重大な支障を及ぼすおそれがあり,支出関係書類は法5条6号に該当する。
 また,これを公にすることにより,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ,他国等との交渉上不利益を被るおそれもあるから,支出関係書類は法5条3号にも該当する。
 以上より,支出関係書類は全体として法5条3号及び6号に該当し,これを不開示とするべきである。

 過去の情報公開審査会(現情報公開・個人情報保護審査会。以下「審査会」という。)答申等との関係
 なお,内閣官房報償費の使途に係る文書については,これを全面不開示とすることが妥当である旨は,既に審査会の過去の答申(平成15年度(行情)答申第275号等。以下「先例答申」という。)においても正当として是認されているところであり,これらの先例答申の判断を基礎付ける諸事情については,現在においても何ら変化していない。
 また,内閣官房報償費の使途を明らかにできない旨は,国会においても政府として統一的に答弁しているところである。

 結語
 以上より,原処分は維持されるべきであり,審査請求については,これを棄却するのが相当である。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

 平成19年2月5日  諮問の受理
 同日  諮問庁から理由説明書を収受
 同年5月9日  審議
 同年6月18日  本件対象文書の見分及び諮問庁の職員(内閣官房内閣総務官ほか)からの口頭説明の聴取
 同年7月4日  審議
 同年8月3日  審議

第5  審査会の判断の理由

 本件対象文書について
 本件対象文書は,内閣官房報償費に係る平成17年度の支出負担行為即支出決定決議書並びに同年度及び平成18年4月1日から同年9月26日までの支出関係書類である。原処分においては,このうち,支出負担行為即支出決定決議書についてはそのすべてが開示され,一方,支出関係書類についてはそのすべてが不開示とされている。
 なお,内閣官房報償費とは,国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため,当面の任務と状況に応じ,その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費であり,具体的な使途が特定されない段階で国の会計からの支出が完了し,その後は基本的な目的を逸脱しない限り取扱責任者である内閣官房長官の判断で支払が行われるとともに,その使用は内閣官房長官という政治家による政治的な判断の下で決定されるという特殊な性格を有していることが認められる。

 不開示情報該当性について
 以下,原処分において不開示とされた内閣官房報償費の支出関係書類について,当審査会において当該文書を見分した結果に基づき,その不開示情報該当性を検討する。

(1)  支出関係書類の構成について
 当審査会において支出関係書類を見分したところ,当該文書は,内閣官房報償費について,国の会計からの支出が完了し,取扱責任者である内閣官房長官の手元に渡ってから,内閣官房長官が自らの判断により支払を行う際に作成される文書であり,具体的には,出納管理簿,支出決議書(政策推進費受払簿及び支払決定書に細分化される。),報償費支払明細書及び領収書等で構成されていることが認められた。
 なお,①出納管理簿は,内閣官房長官が国庫からの支払を受ける都度又は役務提供者等への支払を行う都度記帳される文書,②支出決議書のうち政策推進費受払簿は,内閣官房報償費のうち政策推進費(施策の円滑かつ効果的な推進のため,内閣官房長官としての高度な政策的判断により,機動的に使用することが必要な経費)について,その受払を記録する文書,③支出決議書のうち支払決定書は,内閣官房報償費のうち政策推進費以外の調査情報対策費(施策の円滑かつ効果的な推進のため,その時々の状況に応じ必要な情報を得るために必要な経費)及び活動関係費(政策推進費及び調査情報対策費に係る活動が円滑に行われ,所期の目的が達成されるよう,当該活動を支援するために必要な経費)について,役務提供者等への個々の支払の都度,当該支払の確認を行うための文書,④報償費支払明細書は,使途を目的別に分類した上で,毎月の支払額を記載した文書であり,計算証明のため会計検査院に提出されているもの,⑤領収書等は,役務提供者等への支払が行われる際に,支払の確認のため収受等を行っているものである。

(2)  不開示情報該当性について
 諮問庁は,内閣官房長官による優れて政治的な判断に基づき執行されるという内閣官房報償費の性格上,支出関係書類を公にすることでその具体的な使途が明らかとなれば,内閣官房報償費の機動的な運用を損ない,内政,外交等の円滑な遂行に重大な支障を及ぼすおそれがあるとともに,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあることから,当該文書は,法5条6号及び3号の不開示情報に該当し,万が一の情報漏れを防ぐため,総理大臣官邸内において厳重に管理・保管し,さらに,会計検査に際しては,他の経費と異なり,使途を明示し多数の者を介して行われる一般的な証明方法によることが適当でないとして,会計検査院から要求があったときに証拠書類を提出する簡易証明が特に認められていること等,極めて特殊かつ機微な情報として特別な取扱いを行っていると説明する。
 当審査会において,支出関係書類に含まれる個々の文書を見分し,精査したところ,これらの文書には,内閣官房報償費の使途,支払相手方等に関し個別具体的な記載がなされており,その内容が機微にわたることが認められ,その中には,公にすることにより,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があると考えられるものが認められた。
 また,これらの文書については,仮に使途等に関する直接的な記載に係る部分を除いて開示したとしても,特定時期における文書の作成量が,当該時期における内閣官房報償費の三つの目的類型(政策推進費,調査情報対策費及び活動関係費)ごとの使用量や支払件数に応じているという状況から,当該時期の内政・外交状況と照らし合わせること等により,その使途を推測させることとなる事情が認められた。
 上記諸事情及び当審査会の実際の見分に基づく検討を併せ,総合的に勘案すれば,内閣官房報償費の支出関係書類を一部でも公にすることにより,その機動的な運用を損ない,その結果,事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,また,他国等との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国等との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があると認められることから,当該文書は,法5条6号柱書き及び3号の不開示情報に該当すると認められる。

 本件一部開示決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号及び6号に該当するとして不開示とした決定については,不開示とされた部分は同条3号及び6号柱書きに該当すると認められるので,妥当であると判断した。

 (第2部会)

 委員 寳金敏明,委員 秋田瑞枝,委員 橋本博之