答申本文
諮問庁法務大臣
諮問日平成18年 4月 5日 (平成18年(行情)諮問第142号)
答申日平成18年 6月 2日 (平成18年度(行情)答申第108号)
事件名特定個人に係る明治五年式戸籍の不開示決定(行政文書非該当)に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論
 特定個人に係る明治五年式戸籍(以下「本件対象文書」という。)につき,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」又は「法」という。)の適用を受ける行政文書には該当しないことを理由に不開示とした決定(以下「本件決定」という。)は,妥当である。

第2  審査請求人の主張の要旨

 審査請求の趣旨
 本件審査請求の趣旨は,法3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成18年3月1日付け2庶文1第239号により東京法務局長(以下「処分庁」という。)が行った本件決定について,その取消しを求めるというものである。

 審査請求の理由
 審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)  審査請求書の記載

 審査請求人は,在野ながら学術研究を行う者である。

 牛込区市谷甲良町1番地より同区市谷柳町への地番変更については,新宿区,東京都公文書館及び国立公文書館において文書を捜したが,探し得る史料が現在存在しなかった。当然,民間においても同様である。
 この地名変更について,現在,民間で刊行されている書物において誤った記述が多く,その地にあった「試衛館跡地」(幕末史に登場する新選組の局長近藤勇が剣術を教えていた道場の跡地)について,「歴史標柱」(新宿区教育委員会)が建立された後も,本件対象文書の内容がつまびらかでないことから,論争の重大事項となっている。
 本件対象文書の内容については,東京都新宿区の地域史としては欠くことのできない事項である。また,近藤勇の道場の所在地を補強する重要史料となり得る。

 今回の請求は,次の2点についての記載事項証明である。

a.  第三大区小六区(あるいは八区)市谷甲良町1番より市谷柳町25番地へと地名が変更された記録のある文書

b.  特定個人に係る戸籍面

 上記については,原本からの謄写であれば,差し支えはない(昭和43年民事甲373号に沿った趣旨による。)。

 明治五年式戸籍については,平成13年及び17年に答申が出ている(平成13年諮問第12号に対する平成13年度答申第8号,平成16年(行情)諮問第723号に対する平成17年度(行情)答申第55号)。平成16年(行情)諮問第723号で諮られた請求者の請求趣旨は,「戸籍謄本も持参して,明治五年式戸籍(壬申戸籍)の閲覧を申し出たところ,「昭和43年3月29日付け民事甲第777号通達」(以下「局長通達」と略す。)を根拠に拒否されている。上記閲覧の目的は,審査請求人の祖父母・曽祖父母等のことを知るためのものである。全く関係のない他人の戸籍の閲覧ならいざ知らず,自分の先祖に関する閲覧まで拒否されることは全く不可解の一語に尽きる」というもので,戸籍法の戸籍公開制度から派生した自己都合による文書の公開から起因したものである。
 今回の審査請求人の請求趣旨は,上記の理由ではなく,局長通達の趣旨に沿った「学術研究」によるものである。

 そもそも明治五年式戸籍が非公開となった原因は,明治五年式戸籍には,明治4年8月に廃止された賤称が一部の戸籍に誤ってそのまま記載されたものがあると言われ,社会問題となったことが主因による。今まで個人所有の同様の文書を審査請求人が閲覧した経験上からも,実際に上記のとおり,差別を助長する当該記載内容を確認しており,そのためからも局長通達は妥当なものと考える。

 ただし,諮問庁は法務局で保管する必要性を次のように述べている。
 「本件対象文書は,何人もその記録に接することができないよう厳重な包装封印の下に保管されているが,これは,遠い将来における学術資料となり得るものとして保管されているのであって,現在においてはもちろん,近い将来においても,これを開封開示して他の目的で利用することは考えられない」
 つまり,学術資料としての価値により公開が約束されていることになる。

 現在,当該文書は局長通達の趣旨により,行政機関の職員が組織的に用いるものとして行政機関が保有しているものではないことから,本件決定通知書第2項は平成17年度(行情)答申第55号あるいは平成13年度答申第8号に該当するものと思料され,審査請求人もその答申に賛同できる部分もある。しかし,今回の請求趣旨は「学術」を目的とした請求である。これは諮問庁の説明にのっとった趣旨による請求であり,前二件の答申の理由の不開示理由には該当せず,矛盾が発生する。
 今回の請求理由は,諮問庁の説明の趣旨に沿って,遠い将来における学術資料となり得るものとして保管されている行政文書を,学術を目的として当該戸籍簿の一部部分の開示請求をしたものである。現在,同文書を公開請求する方法が情報公開法にしか見当たらないための措置である。もちろん,当該文書を見なくとも判明させる手段を講じたことは言うまでもない。東京地区は昭和20年の空襲や時代的経過によって当事者が保有する資料のほとんどが失われている。当然,当該請求に至るまで,国立公文書館,東京都公文書館,新宿区教育委員会で当該文書に記載される必要項目を調査したが,発見には至らなかった。

 問題は「遠い将来」という一文となるが,昭和43年より明治五年式戸籍は法務局に移管され,包装封印されてから37年が経過している。この年度からは「遠い将来」という一文には疑問符も打たれるが,しかし,本件対象文書は,当時の牛込区によって明治22年(1889年)には改写され(現在残存する明治五年式戸籍から改写された除籍謄本から推定),除籍扱いとして114年の経過を見ており,「遠い将来」という一文に該当するものと思料する。また,廃棄年度で問うなら,当時,明治31年戸籍法によって明治五年式戸籍を改正原戸籍としていたので,実際の廃棄年度は昭和14年(1939年)となる。その年からの経過年度を比定してみても66年の経過となり,遠い将来と考えても不都合ではない。

 昭和43年当時の社会情勢は被差別部落問題が台頭した時期でもあり,局長通達は妥当と考える。しかし,その後,時代の経過によって,明治五年式戸籍の必要性は徐々に高まる気運に満ちており,現在の明治維新史及び初期近代史にとって,その必要性が注目される時期が到来している。諮問庁が述べた「遠い将来」の時期と考えてもよいのではないかとも考える。また,本年4月には「個人情報の保護に関する法律」が施行されたことも受け,個人情報の厳守が推進されたことも開示請求のきっかけである。
 ちなみに,明治五年式戸籍に登載されているすべての人物は,明治31年まで移記が遅れた地方自治体を含めても,登載者の99%以上が死亡しており,また,当時の本籍記載も「○○番屋敷」「○番」等,現在の住居表示及び法務局で管轄する地番とも一致しない。つまり,明治五年式戸籍について知識を有する者以外の者が見た場合,その意味を解することは困難を要する。
 なお,開示請求に係る人物についても,明治11年以前には戸主ではなく,死亡しているものと思われる。つまり,「個人情報保護法」にいう,生存している人物の情報ではあり得ない。

 今回の開示請求に係る東京法務局の不開示決定は,平成17年度(行情)答申第55号や平成13年度答申第8号を参考にしたものと推されるが,もし今回の開示請求が,本件決定通知書第2項と同様の内容として処理されたとしたら,諮問庁の説明の趣旨に反する行為であり,また,学術研究の必要を否定し,現在,明治五年式戸籍を保管する理由さえも否定することになりかねない。そのような前例を作ることは,社会的問題と捉えなければならない。

 上記について東京法務局の権限から考えても,地方局の関係及び他所への波及という観点から限界が感じられる。ただ,所有を認めたことについては敬意に値する行為と評価している。
 今回の開示請求については,法務省での解決以外はあり得ないと思料する。

 開示ないし開示の方向へ向かう方途を導き出していただきたい。

(2)  意見書の記載

 法務省の理由説明書第1(本答申書第3の1)として,「保存期間が経過した後,廃棄処分されたが,市町村においては,これを閲覧に供していた」との記載が見受けられる。いかにも当時の市町村行政が脱法行為を行っていたような文言となっているが,実は閲覧に供していた市町村は,別に脱法行為を行ったわけではない。廃棄処分をされた戸籍は,戸籍としての行政が証明する機能を失うことにはなるが,行政文書であることには違いなく,戸籍法による戸籍の閲覧が認められていた当時,戸籍としてではなく,行政文書として公開する分には何ら問題はなかった(現在においても,廃棄された除籍謄本の処分方法を定める法律は存在しない。)。また,その場合,ここで指す行政文書の所蔵先は各市町村役場となるため,当時の所管先が定める法律で規制されない限り,諮問庁が脱法とする見識には非常な誤りが存在する。
 本来,この文書が封印保管された原因は,悪用する目的で閲覧した者が現われ,それを係員が拒否したことにより社会問題化したことである。この際,局長通達については批判しない。実際に,賤称に当たる記載を膨大な量の戸籍簿からその部位だけ抜き出す作業などかなりの労苦が必要とされるからだ。また,これは明治五年式戸籍に限らず,それ以降の戸籍にも登載されることが往々にあった。この問題は,決して明治五年式戸籍だけに該当させるべきものではない。
 ただ,この審査請求により,保管場所を明確にしたことは評価に値する。

 第2(本答申書第3の2)の部分についても若干の相違がある。審査請求人は,戸籍の原本を見ることを要しないとの文言を述べていたにもかかわらず,これでは戸籍簿原本を見せてほしいとの内容に受け取れる。今回の請求は第1義には,当時行政の行った内容が何らかの形で失われてしまった町名変更を調査するものであり,個人情報(ここにいう個人情報とは「個人情報保護法」の適用になるもの以外を指す。)については第2義の請求である。どちらについても学術研究者にとって本件対象文書が第1級史料であることには間違いない。

 第3(本答申書第3の3)に述べている件であるが,前に述べた記述は,江戸期町制史及び江戸期商業史を調査するのに必要な項目であり,関東大震災又は東京大空襲によって失われ,かつ生存者からの伝承が消えゆく時期が到来しており,この意味において必要性が問われている。これらについて,絶対拒否の姿勢を行うのは,法務省の権限で行うべきものではない。広くさまざまな省庁の意見を集め,各種議論を織り交ぜることが必要だと考える。
 また,「人権侵害の問題を生ずるおそれ」とは書いているが,法務省は机上論のみの見解で,具体的かつどのような場合に人権侵害が生じるのか述べていない。

 諮問庁は,審査請求人の行為を平成13年度答申第8号及び平成17年度(行情)答申第55号と「同様」と位置づけをしている。参考事項と述べるべきであるのに,このような文言で進行することに,記載した諮問庁担当に作為的な行動が見てとれる。つまり,この事例に詳しくない情報公開・個人情報保護審査会委員に,殊更,この文書の開示は危険であり,詐術を用いて審査請求人の意図をねじ曲げ,趣味の範囲による請求のように装う工作がうかがえる。審査請求人が意見書を提出せず,このような理由説明書を一読すれば,その機微も存じ上げない委員なら,同様の事案と捉え,不開示の答申を出すのは火を見るより明らかであり,まずは諮問庁に具体的かつ説得力のある理由説明書を再度求めたい。

 今回の事案は,審査請求人の知る学術関係者も多くが注目しており,また,門前払いと同様な行為を受けた歴史愛好者も不満を寄せている。たとえ最悪,不開示の答申であっても,前者のような単純な措置ではなく,もう少し掘り下げた形での答申を強く希望する。

 諮問庁についてやや誹謗めいた理由を述べたが,「国立公文書館に移管する等」という文言を含めた点については評価したい。たとえ反対側の立場にあっても,わずかでも可能性を考慮いただいた点は心に留めたい。

 元来,日本国憲法では「知る権利」というものが認められており,その論が発展してできた法が「情報公開法」だと考えている。今回の開示請求も,当時の行政が残した文書であり,この文書について開示を求める法が現在この法しかない以上,この法にのっとった形での請求を行っている。その点を考慮いただきたいと考える。

 昨年施行された「個人情報保護法」は「生存者」の個人情報について定めたものであり,今回知り得る事項によって,同法が定める「個人情報」に到達することは不可能であり,この点についての懸念は払拭している。

 開示に向けた建設的な答申を求める。

第3  諮問庁の説明

 本件対象文書の性質
 本件開示請求に係る文書は,明治4年4月4日太政官布告により公布された戸籍法(明治5年2月1日施行)に基づき作成された戸籍(いわゆる壬申戸籍。以下「明治五年式戸籍」という。)である。
 明治五年式戸籍には,明治4年8月に廃止された賤称が誤って記載されているものもあり,人権侵害の問題を生ずるおそれがあったところ,明治五年式戸籍は,その後改製されて,改製原戸籍として市町村において保存され,保存期間が経過した後,廃棄処分されたが,市町村においては,これを閲覧に供していたところがあったため,社会問題となった。
 このため,法務省は,昭和43年,賤称等の記載の有無にかかわらず,明治五年式戸籍の閲覧を一切許さないものとする取扱いとした上,法的な廃棄手続を経たものは,法務局若しくは地方法務局又は市町村において厳重に包装封印して保管するよう指示をした(昭和43年3月29日付け民事甲第777号民事局長通達)。
 本件対象文書も,昭和44年4月,新宿区役所から移管された後,東京法務局板橋出張所書庫内に包装封印された上で保管されている。

 審査請求の経緯
 処分庁は,法による開示の対象となる行政文書は,行政機関の職員が組織的に用いるものとして行政機関が保有しているものであることを要するところ,本件対象文書は,これに該当しないとして,不開示決定をした。
 これに対して,審査請求人は,開示の対象である行政文書は,遠い将来における学術資料となり得るものとして保管されているのであり,本件開示請求は,学術研究を目的として当該戸籍簿の一部部分の開示請求を行ったものであるから,何らかの形で開示すべきであるとして,不服申立てに及んだものである。

 処分庁の判断の妥当性
 本件対象文書は,何人もその記録に接することができないよう厳重な包装封印の下に保管されているが,遠い将来における学術資料となり得るものとして保管されているのであって,現在においてはもちろん,近い将来においても,これを開封開示して他の目的で利用することは考えられない。
 したがって,処分庁の判断のとおり,本件対象文書は,行政機関の職員が組織的に用いるものとして行政機関が保有しているものではないことから,法による開示の対象となる行政文書には該当しない。
 なお,上記1で記述した人権侵害の問題を生ずるおそれがある本件対象文書の特殊性は,現在においてもなお変わりはないことから,国立公文書館に移管する等,一般の利用可能性を前提とした歴史資料とすることは,現段階では,考えられない。
 おって,過去の同様の事案について,情報公開審査会から同様の判断が示されている(平成13年度答申第8号,平成17年度(行情)答申第55号参照)。

 結論
 したがって,処分庁がした本件決定は適法である。

第4  調査審議の経過
 当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

 平成18年4月5日  諮問の受理
 同日  諮問庁から理由説明書を収受
 同年5月9日  審査請求人から意見書及び資料を収受
 同年5月31日  審議

第5  審査会の判断の理由

 明治五年式戸籍の性質,本件対象文書の保管状況等について
 明治五年式戸籍には,族称に係る記載があるほか,犯罪歴や,一部には誤って賤称まで記載されているものもあると言われており,これが公にされた場合には,今日なお人権侵害の問題を生じるおそれがあるものと認められる。
 また,同戸籍は,明治31年戸籍法等の規定による改製によって,改製原戸籍となり,あるいは除籍に移行した後,戸籍として必要な保存期間が経過したため,各市町村において法的な廃棄手続が取られ,それによって,戸籍本来の公証機能や役割は,既に喪失したものと認められる。
 このように,法的な廃棄手続が取られながら,物理的な廃棄処分が行われなかったのは,明治五年式戸籍の記載内容が当時の社会経済情勢を反映する重要な歴史的資料として遠い将来において学術資料となり得るものであり,閲覧禁止等の人権侵害を防止するための措置の徹底を求めつつ物理的な廃棄処分には反対する旨の強い社会的な要請があったことによるものと認められる。
 こうした社会的背景を踏まえ,法務省は,廃棄手続の取られた同戸籍については,賤称等の記載の有無にかかわらず,法務局若しくは地方法務局又は市町村において何人もこれを閲読できないよう厳重に包装封印して保管するよう指示しており(昭和43年3月29日付け民事甲第777号民事局長通達),以後,この取扱いが徹底されている。
 本件対象文書についても,昭和44年4月,新宿区役所から移管された後,東京法務局板橋出張所書庫内に包装封印されたままの状態で今日まで保管されているものであり,同法務局の業務のために利用された事実はないことが認められる。
 また,民事局長の通達によるこの措置は,その法的根拠は必ずしも明確とは言えないが,将来における歴史的資料となり得るものとして保管すべき適切な場所(機関)が他に見当たらないところから,法務省が戸籍に関する行政を所管していることにかんがみ,応急の措置として採られたものと言うことができる。

 行政文書該当性について
 情報公開法による開示請求の対象となる行政文書については,法2条2項により,「行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書等であって,当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして,当該行政機関が保有しているもの」と定義されている。
 本件対象文書については,既に法的な廃棄手続が取られ,戸籍本来の公証機能やその役割を喪失していることが認められるものの,東京法務局は,遠い将来における歴史的資料となり得る可能性があることから,上記通達に従い,これを保管しているのであるから,本件対象文書の保管自体が,同通達に基づく同法務局の業務として行われているものであることは否定できない。しかしながら,本件対象文書は,同法務局の職員を含め,何人も,その記載された情報に接することができないよう,厳重な包装封印の下に保管されているものであること,既に30年以上の間にわたり,戸籍事務その他の東京法務局の業務のために利用された事実がないばかりか,およそ何人の利用にも供された事実がないこと,さらに,今後も,本件対象文書が同法務局の業務に必要な文書として利用される可能性は全くない上,近い将来においてこれを開封開示し他の利用に供することは想定されず,引き続き何人の目にも触れないよう厳封保管をすべき状況にあることが認められる。
 以上のような本件対象文書及びその保管状況等の特殊性を考慮すれば,本件対象文書は,同法務局においてその業務に用いる文書として保有しているものとは言えず,「当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして,当該行政機関が保有している」文書には当たらないものと認められる。
 本件の審議の過程においては,本件対象文書を行政機関たる法務局が組織的に保管している以上,行政文書として法5条各号の適用を検討すべきではないか,あるいは,行政文書として取り扱われることが適当ではなく,かつ,歴史的資料としての見地から廃棄することも適当ではないと認められるならば,国立公文書館への移管を検討すべきではないかとの問題が提起された。しかし,本件対象文書を,将来はともかく,今直ちに,一般の利用可能性を前提とした上記の歴史的資料とすることは困難であり,また,行政文書非該当性を安易に認めるべきでないことはもちろんであるが,上記のような本件対象文書及びその保管状況等の特殊性を考慮すると,本件については,行政文書非該当とするのが最も適当であるとの結論に達した。
 審査請求人は,学術研究を行う者として,遠い将来における学術資料となり得るものとして保管されている行政文書について,学術を目的とした一部開示請求を行っているものであり,本件決定は,審査請求人の主張する学術研究の必要性を否定し,ひいては,本件対象文書を保管している理由さえ否定することになりかねないとして,本件対象文書の開示を求めている。しかし,法に定める開示請求制度は,何人に対しても等しく行政文書の開示請求を認めるものであり,開示請求の理由や利用目的を問うものではなく,行政文書該当性についても,利用目的のいかんにかかわりなく,統一的かつ客観的な判断が求められるものであるから,審査請求人の主張は採用することができない。

 本件決定の妥当性について
 以上のことから,本件対象文書につき,法2条2項に規定する行政文書に該当しないとして不開示とした本件決定については,本件対象文書は行政文書に該当しないと認められるので,妥当であると判断した。

 (第1部会)

 委員 矢崎秀一,委員 村上裕章,委員 吉岡睦子