諮問庁 国立大学法人京都大学
諮問日 令和5年6月27日(令和5年(独情)諮問第87号)
答申日 令和6年12月18日(令和6年度(独情)答申第63号)
事件名 今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォースに関する文書の一部開示決定に関する件

答 申 書


第1 審査会の結論

別紙の2(1)に掲げる23文書(以下,順に「文書1」ないし「文書23」といい,併せて「本件対象文書1」という。)並びに別紙の2(3)及び(4)に掲げる各文書(以下,順に「本件対象文書3」及び「本件対象文書4」といい,本件対象文書1及び別紙の2(2)に掲げる文書(以下「本件対象文書2」という。)と併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした各決定については,審査請求人が開示すべきとする部分を不開示としたことは,妥当である。


第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和5年2月17日付け京大総法情第80号及び同年6月26日付け同第80-2号により国立大学法人京都大学(以下「京都大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った各一部開示決定(以下,順に「原処分1」及び「原処分2」といい,併せて「原処分」という。)について,その取消しを求める。

2 審査請求の理由

審査請求人が主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書によると,おおむね以下のとおりである。なお,資料は省略する。

(1)審査請求書

審査請求の理由は以下の通り。

ア 開示請求に係る法人文書の一部が特定されず,開示されていないこと(以下「審査請求の理由 第1」という。)

(ア)文書14には,「メール審議での委員からの御意見等を踏まえ,報告書案を別添のとおり修正しました」との記載がある。

(イ)右記載によれば,当該メール審議において,委員が送信したメールが,少なくとも1通以上存在することは明らかである。

(ウ)しかし,原処分1通知書の「不開示とした部分とその理由」(以下,第2の2(1)において「不開示部分」又は「不開示理由」という。)及び「開示する法人文番の名称」においては,右メールが存在する旨の記載がなく,右メールは開示されていない。

(エ)右メールが,法2条2項にいう「法人文書」に当たること,開示請求書に記載した,「その他検討の過程が分かる文書」に該当することは明らかであるので,法5条柱書きに基づき,右メールを開示するよう求める。

イ 別紙の3(1)に掲げる本件対象文書1の不開示とした部分(以下,順に「不開示部分①」ないし「不開示部分④」といい,併せて「本件不開示部分1」という。)のうち不開示部分①について,法5条3号及び5条4号柱書きに該当しないこと(以下「審査請求の理由 第2」という。)

(ア)原処分1通知書に記載された不開示理由

京都大学は,不開示部分①には,「検討段階の案及び京都大学オープンコースウェアに関する検討中の情報が含まれており,これらは本学内部における審議,検討又は協議に関する情報であって」,「公にすることにより,無用な誤解や憶測を招くおそれがあり」,また「今後の同種の会議において率直な意見交換が困難になる等,会議に係る事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」ことから,「法第5条3号及び第5条4号柱書きに該当するものとして,不開示とする。」としている。

(イ)法5条3号にいう「不当に」に該当しないこと

a 「京都大学における法人文書の開示決定等に係る審査基準」(以下,第2の2(1)において「審査基準」という。)は,「「不当に」とは,審議,検討等途中の段階の情報を公にすることの必要性を考慮してもなお,適正な意思決定の確保等への支障が看過し得ない程度のものを意味する。予想される支障が「不当」なものかどうかの判断は,当該情報の性質に照らし,公にすることによる利益と不開示にすることによる利益とを比較衡量した上で判断する。」と定めている。

b 原処分1通知書は,不開示部分①について,公にすることにより,「無用な誤解や憶測を招くおそれ」がある,また「今後の同種の会議において率直な意見交換が困難になる」などと述べている。

c 前者は理由説明として不十分ながらも「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」(法5条3号)を,後者は「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」(法5条3号)を示そうとしたものだと思われる。

d しかし,これらの説明は,「審議,検討等途中の段階の情報を公にすることの必要性を考慮してもなお,適正な意思決定の確保等への支障が看過し得ない程度」に「不当」であることの説明とはなっていない。また,「公にすることによる利益と不開示にすることによる利益とを比較衡量した上で判断」したとも認められない。

e そもそも,本件タスクフォースでの検討は1月上旬に終了しており,意思決定の内容は,京都大学のウェブサイトにおいて,既に公表されている(2023年1月17日付け「今後の京都大学オープンコースウェアについて」)。

f 原処分1がなされたのは2月17日であり,当該情報を開示しても,当該意思決定そのものに影響が及ぶおそれはない。また,「今後の同種の会議において率直な意見交換が困難になる」蓋然性は小さい。したがって,「不開示にすることによる利益」は極めて小さく,少なくとも,当該情報を開示することが,「適正な意思決定の確保等への支障が看過し得ない程度」にまで「不当」ということはできないため,法5条3号には該当しない。

(ウ)法5条3号にいう「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」に該当しないこと

a 審査基準は,「「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」とは,公にすることにより,外部からの圧力,干渉等の影響を受けることなどにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれをいい,適正な意思決定手続の確保を保護利益とするものである。」とし,「審議,検討等の場における発言内容が公になると,発言者やその家族に対して危害が及ぶおそれがある場合,本学内部の政策の検討がまだ十分でない情報が公になり,外部からの圧力により当該政策に不当な影響を受けるおそれがある場合」を例示している。

b 不開示部分には,今後の京都大学オープンコースウェアに関する意見交換の内容が記載されているものと思われるが,前述の通り既に方針が決定,公表されているのであって,「外部からの圧力,干渉等」により,当該意思決定そのものに不当な影響が加えられることはない。

c また,当該意見交換の内容は,不開示部分を開示することで「発言者やその家族に対して危害が及ぶおそれがある」ほど,深刻な内容であるとも思われない。

d 少なくとも,発言者のみ不開示とすれば,そのようなおそれは容易に取り除くことができるのであって,ほぼ全面的に不開示とした原処分1は,不当かつ違法である。

(エ)法5条3号にいう「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」には該当しないこと

a 前述の通り「無用な誤解や憶測を招くおそれ」は理由説明として不十分ながらも「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」を説明していると思われるところ,これに該当しないことを示す。

b 審査基準は,「「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」とは,未成熟な情報や事実関係の確認が不十分な情報等を公にすることにより,誤解や憶測を招き,不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれをいう。適正な意思決定を行うことそのものを保護するのではなく,情報が公にされることによる国民への不当な影響が生じないようにする趣旨である。」と定めている。

c 本件では,前述の通り,タスクフォースで決定された方針が既に公表されているのであって,不開示部分を公表しても,「未成熟な情報や事実関係の確認が不十分な情報等を公にすること」にはならず,それにより,「誤解や憶測を招」き,「不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ」があるとはいえない。

(オ)法5条4号柱書きに該当しないこと

a 審査基準は,法5条4号につき,「「支障」の程度は,名目的なものでは足りず実質的なものが要求され,「おそれ」の程度も単なる可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性があると認められるかどうかにより判断する。」と規定している。

b 原処分1通知書には,「今後の同種の会議において率直な意見交換が困難になる等,会議に係る事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」と書かれているが,そのような「支障」は名目的なもので,「おそれ」の程度も単なる可能性にすぎない。すなわち,実質的な支障を及ぼす,法的保護に値する蓋然性があるとは認められない。

c 少なくとも,発言者のみ不開示とすれば,そのようなおそれは容易に取り除くことができるのであって,ほぼ全面的に不開示とした原処分1は,不当かつ違法である。

ウ 不開示部分②について,法5条4号柱書きに該当しないこと(以下「審査請求の理由 第3」という。)

(ア)原処分1通知書に記載された不開示理由

京都大学は,不開示部分②の,「意見交換の内容が記載されている部分ならびに意見交換の内容を反映している部分には,京都大学オープンコースウェアの検討に資する率直かつ忌たんのない意見が含まれており」,「公にすることにより,今後の同種の会議において率直な意見交換が困難になる等,会議に係る事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから」,「法5条4号柱書きに該当するため,不開示とする。」とした。

(イ)しかし,そのような「支障」は名目的なもので,「おそれ」の程度も単なる可能性にすぎない。すなわち,実質的な支障を及ぼす,法的保護に値する蓋然性があるとは認められない。

(ウ)少なくとも,発言者のみ不開示とすれば,そのようなおそれは容易に取り除くことができるのであって,ほぼ全面的に不開示とした原処分1は,不当かつ違法である。

エ 不開示部分③について,法5条4号柱書きに該当しないこと(以下「審査請求の理由 第4」という。)

(ア)原処分1通知書に記載された不開示理由

京都大学は,不開示部分③には,「京都大学オープンコースウェアの検討過程にかかる本学の内部における意見交換に関する情報が記載されており」,「これを公にすることにより,今後の同種の意見交換において参加者が率直な意見を述べることを躊躇するなど,意見交換が円滑に実施されず,事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから」,「法5条4号柱書きに該当するため,不開示とする。」とした。

(イ)しかし,そのような「支障」は名目的なもので,「おそれ」の程度も単なる可能性にすぎない。すなわち,実質的な支障を及ぼす,法的保護に値する蓋然性があるとは認められない。

(ウ)少なくとも,発言者のみ不開示とすれば,そのようなおそれは容易に取り除くことができるのであって,意見交換に関する情報についてほぼ全面的に不開示とした原処分1は,不当かつ違法である。

(エ)また,特に文書14について,「なお,総長への報告は」と「で行い」との間の不開示部分に「意見交換に関する情報」が含まれているとは考えがたい。

オ 不開示部分④について,法5条4号柱書きに該当しないこと(以下「審査請求の理由 第5」という。)

(ア)原処分1通知書に記載された不開示理由

京都大学は,不開示部分④は,「本学における内部の審議のために作成した資料であり,当該資料に記載された「データの個数/講義ID」及び「合計/動画数」並びにそれらの割合は,正式な調査等に基づいた数値ではなく」,「当該数値に関する注釈も含め,公にすることにより,無用な誤解や憶測を招くおそれがあり,今後の京都大学オープンコースウェアにかかる事務又は事業の適正な遂行に支障をおよぼすおそれがあることから」,「法5条4号柱書きに該当するため,不開示とする。」とした。

(イ)しかし,そのような「支障」は名目的なもので,「おそれ」の程度も単なる可能性にすぎない。すなわち,実質的な支障を及ぼす,法的保護に値する蓋然性があるとは認められない。

(ウ)また,文書2中の開示部分にも,「他資料との数字の差異は,同センターがリストを作成した時点での公開コンテンツ数,動画数を基づくため」との記載があり(「動画数を基づく」の「を」は原文ママ),数値が必ずしも正確ではないことは示されているので,「公にすることにより,無用な誤解や憶測を招くおそれがあ」るとはいえない。

(エ)さらに,京都大学は,2021年に,「OCWの公開数」についてのデータを公表しているところ,文書2には,「2022/8/24現在」との記載があるので,不開示部分に記載されている数値は,すでに公にされているデータとほぼ同じものと考えられ,不開示とする利益がない。

(2)意見書

ア 審査請求の理由 第1(特定漏れ)について

審査請求の理由 第1は,原処分1が開示請求に係る法人文書の一部を特定していないこと(特定漏れ)である。この件に関し,諮問庁は,「原処分1で特定した文書から漏れていることが本件審査請求を通じて判明した」として,令和5年6月26日付けで,「該当する文書38枚」について,新たに開示決定を行った。右決定により新たに特定された文書には,審査請求人が「審査請求の理由 第1」にて特定を求めたメールが含まれていたため,審査請求の趣旨に沿った決定が行われたものと評価する。

イ 審査請求の理由 第2(不開示部分①)について

審査請求の理由 第2は,不開示部分①が,法5条3号及び5条4号柱書きに該当しないことである。諮問庁は,審査請求人の主張には理由がないと判断しているが,審査請求人としては,以下の通り,諮問庁の主張は理由がないものと考える。

(ア)不開示部分①に含まれる情報

はじめに,不開示部分①に含まれる情報について,諮問庁の主張を整理する。

諮問庁は,不開示部分①には,以下の2種類の情報が記載されていると説明する。

(A)「タスクフォースの報告書に関する検討段階の内容」

(B)「今後の京都大学OCWに関連する組織構想,コンテンツ発信に係る基本方針」

一方,原処分1の通知書では,不開示部分①には,以下の2種類の情報が含まれているとされていた。

(Ⅰ)本タスクフォースにおける「検討段階の案」

(Ⅱ)京都大学OCWに関する「検討中の情報」

両者は若干異なる表現を用いているものの,(A)と(Ⅰ),(B)と(Ⅱ)がそれぞれ対応すると解せられる。すなわち,不開示部分①には,以下2種類の情報が含まれていると整理できる。

(a)本タスクフォースの報告書に関する検討段階の案ないし内容

(b)組織構想,コンテンツ発信に係る基本方針など,今後の京都大学OCWに関する検討中の情報

(イ)本タスクフォースの報告書に関する検討段階の案ないし内容について(上記(a))

上記(a)については,本タスクフォースでの検討が原処分1時までに終了しており,不開示部分を公にしても,本タスクフォースでの意思決定そのものに影響が及ぶおそれがないことを考慮する必要があるが,諮問庁の理由説明書は,上記(b)に関する説明を強調するばかりで,(a)についてほとんど触れていない。

原処分1では,本タスクフォースの検討の結果をとりまとめた報告書(文書21)のドラフト版にあたる文書(文書13,文書15及び文書18)が,不開示部分①に該当することのみをもって6ページにわたりほぼ全部不開示とされているが,これらの文書は上記(a)に該当するところ,これらを一部不開示とした具体的な理由は説明されていないと評価できる。

(ウ)組織構想,コンテンツ発信に係る基本方針など,今後の京都大学OCWに関する検討中の情報について(上記(b))

上記(b)については,諮問庁の説明に不正確な点がある。具体的には,諮問庁が,「(今後の組織編制,人員配置や予算確保等の機微な内容に関する)審議事項についての最終的な意思決定がなされたものではなく……基本方針に則して,現在も学内で検討を継続している」などと主張する点についてである。

まず,諮問庁の説明は,今後の京都大学OCWに係る全ての情報について最終的な意思決定が行われていないかのような印象を与えかねないものであるが,理由説明書において,「終局的な意思決定に対する誤解や憶測を招」くと主張する箇所があることに鑑みると,「終局的な意思決定」が一部存在すること自体は,諮問庁においても争いがないものと考えられる。

すなわち,本タスクフォースにおける議論は,令和5年1月5日までに終了しており,検討の結果は最終版の報告書として取りまとめられ,総長に報告され,同月17日の部局長会議において右報告書が提出されるとともに,同日付で京都大学ウェブサイトにおいて「基本方針」が公表されていることに鑑みると,今後の京都大学OCWの基本的な方針に関する検討作業は既に終了していると見るべきであり,もはや検討途上にあるとはいえない。

争点は,本タスクフォースの行った終局的な意思決定が及んでいる情報の範囲である。

諮問庁は,「組織改編,人員配置や予算確保等」に関する情報は「現在も学内で検討を継続している」などと説明しており,そのような情報の全部について終局的な意思決定が及んでいない旨を述べたものと解される。

他方,審査請求人は,仮に京都大学内部でそのような情報に関する検討が一部継続しているとしても,右検討にあたっては,本タスクフォースの行った終局的な意思決定の影響が相当程度及んでいるはずだ,と考えている。

すなわち,①本タスクフォースが,京都大学の理事・副学長や研究科長など,組織において上位の地位を占める者で構成されていたことや,②教育推進・学生支援部長や総務部広報課長など,実務を担当する事務職員も多数会議に陪席していたことに鑑みると,本タスクフォースの報告書等に記載された案ないし方向性が,今後の検討によって覆される余地はないものと考える。

つまり,検討が一部継続しているとしても,本タスクフォースの取りまとめた報告書等によって相当程度方向付けられたうえでの検討であると考えられ,不開示部分を公にした場合に京都大学での意思決定に不当な影響が及ぶ蓋然性は,存在しないか,極めて小さいと評価できる。

そのため,諮問庁のいう「今後の本学の意思決定がゆがめられるおそれ」及び「率直な意見の交換が妨げられ,又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」なるものは,極めて抽象的であると言わざるを得ない。

以上は,平成24年度(行情)答申第419号・答申選24―16「第5 2(2)」,平成23年度(行情)答申第175号・答申選23―12「第5 3(3)」の趣旨に徴しても明らかというべきである。

なお,仮に,「組織改編,人員配置や予算確保等」に関する情報の全部について終局的な意思決定が及んでいないと判断される場合は,不開示とされる情報の範囲が争点となる。

すなわち,意思決定前の情報を一律に全て不開示とすることは適当ではなく,個別具体的に,開示することによって適正な意思決定に支障を及ぼすおそれの有無及び程度を考慮し,不開示とされる情報の範囲が画される必要がある。

しかし,原処分1では,「今後のOCWコンテンツ発信に係る基本方針(案)」と題する文書(文書7,文書10,文書17及び文書23)及び「今後のOCWについて(案)」などと題する文書(文書4,文書6,文書9,文書11,文書12,文書16,文書22)が,文書名や作成者名以外,ほぼ全て墨塗りとされた状態で開示されているから,処分庁は自らが意思決定前の情報だと考える情報が含まれる部分を一律に不開示としたと推測され,妥当でない。

(エ)「本タスクフォースの内容が公開されないことを期待して発言した構成員や関連部署等との関係で信頼関係を損ない……京都大学OCWの今後の運営等に際して,関係者等から京都大学OCW運営に不可欠な動画の提供等の適切な協力が得られず,京都大学OCWの運営等自体が立ち行かなくなるなどの悪影響を及ぼしかねない。」という主張について

a 信頼関係を損なうという主張について,発言内容が開示されることによる弊害をいうものと解されるが,諮問庁の説明によると,「京都大学OCWの検討に資する率直かつ忌たんのない意見の内容」が含まれるのは不開示部分②であって不開示部分①ではないから,主張の前提を欠いている。

b 関係者等から動画の提供等の適切な協力が得られなくなるという主張について,限られた構成員による審議検討を通じて作成された報告書や基本方針案等を公にすることが,本タスクフォースに参加していない者を多分に含む「関係者等」に,大学全体の方針に逆らってまで,動画の提供等の協力を拒むインセンティブを与えることに繋がると考えるのは,論理の飛躍がある。

c 京都大学OCWの運営等自体が立ち行かなくなるなどの悪影響を及ぼしかねないという主張について,動画の提供等の適切な協力が得られなければ,そのような事態が生じる可能性もあるかもしれないが,bで述べた通り,その前提を欠く。

(オ)「本タスクフォース及びその構成員の意見に対する反対の立場の者からの批判や非難等を受けることが懸念され,率直な意見を述べることを躊躇し,今後,本学における同様の意思決定機関において十分な審議ができなくなる等,本学全体の運営及び事務の適正な遂行に多大な支障を及ぼすおそれがある。」という主張について

前述の通り,不開示部分①には,本タスクフォースにおける「検討段階の案」と,京都大学OCWに関する「検討中の情報」が記載されているところ,これらは個々人の「意見」に関する情報を記載したものではないから,公にしても「構成員の意見に対する反対の立場の者からの批判や非難」などは生じえず,主張の前提を欠いている。

また,以下の答申例によれば,本タスクフォースの構成員が「批判や非難を受けること」は一定程度甘受すべきだと考えられる。曰く,「およそ制度の立案等に関して設けられる審議会等の委員に対しては,各方面から要望を始め種々の働き掛けがなされることは予想されるものであり……メンバーに対するそのような働き掛けが一定の範囲を逸脱しない限り甘受することはやむを得ないと考えられるとともに,このような働き掛けによりメンバーが自らの信念や良識を述べることが困難となるなど,率直な意見の交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれが生ずるとは認められない」。

ウ 審査請求の理由 第3(不開示部分②)について

審査請求の理由 第3は,不開示部分②が,法5条4号柱書きに該当しないことである。

諮問庁の理由説明書によれば,不開示部分②には,「京都大学OCWの検討に資する率直かつ忌たんのない意見の内容」が含まれている。

諮問庁は,審査請求人の主張には理由がないと判断しているが,審査請求人としては,以下の通り,諮問庁の主張は理由がないものと考える(ただし,諮問庁の説明は不開示部分①と概ね同じであるので,重複する反論は一部省略した)。

(ア)議事要旨について,議事録との性質の違いを考慮する必要がある。

原処分1は,本タスクフォースの第1回から第4回の議事要旨(文書3,文書5,文書8及び文書19)のうち,「主な意見交換の内容」を箇条書きで記した部分を全て不開示としているが,個々の発言を逐一記録した議事録とは異なり,主要な意見交換の内容を箇条書きでまとめた部分(議事要旨)に過ぎないのだから,公にすることで,「公開されないことを期待して発言した構成員や関連部署等との関係で信頼関係を損なう」とは考えにくく,また,「本学における同様の意思決定機関において十分な審議ができなくなる」など,「本学全体の運営及び事務の適正な遂行に多大な支障を及ぼすおそれがある」とも考えにくい。

(イ)発言者のみ不開示にすれば,おそれは容易に取り除くことができる。

この点は上記(1)ウ(ウ)でも述べたが,諮問庁は審査請求人の右主張を排する具体的な理由を説明していない。

エ 審査請求の理由 第4(不開示部分③)について

審査請求の理由 第4は,不開示部分③が,法5条4号柱書きに該当しないことである。

諮問庁の理由説明書によれば,不開示部分③には,「京都大学OCWの検討過程にかかる部局長会議の迅速で円滑な実施・意思決定をするために必要とされる,本学の内部においても特に限られた一部の教職員のみが審議内容を知ることができる場における意見交換に関する情報」が記載されている。

諮問庁は,審査請求人の主張には理由がないと判断しているが,審査請求人としては,以下の通り,諮問庁の主張は理由がないものと考える(ただし,不開示部分①及び不開示部分②と重複する反論は一部省略した)。

(ア)とりわけ文書1の不開示部分について,開示部分と同様の記述がされているとすると,当該部分に個々人の意見や審議の具体的内容が記述されているわけではなく,単に審議の結果を数行に要約したものに過ぎないと推察できるから,今後の「意見交換が円滑かつ迅速に実施されず,本学の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とまで言えるかは疑問である。

(イ)発言者のみ不開示にすれば,おそれは容易に取り除くことができる。この点は上記(1)エ(ウ)でも述べたが,諮問庁は審査請求人の右主張を排する具体的な理由を説明していない。

(ウ)なお,文書14の不開示部分について,諮問庁は「審査請求人の憶測」にすぎないとしているが,上記(1)エ(エ)の主張を維持する。

オ 審査請求の理由 第5(不開示部分④)について

審査請求の理由 第5は,不開示部分④が,法5条4号柱書きに該当しないことである。

不開示部分④には,京都大学OCWが公開してきた「公開コンテンツ」及び「動画」を,①目的別(「広報・式典」「公開講座」「授業」「部局行事・広報」「その他」)に分類した各項目数・割合,②部局別に分類した各項目数,及び③数値に関する注釈が記載されている。

諮問庁は,「記載されている数値は……参考のための概数であり……正式な調査等に基づいた数値ではなく……公にすることは予定されていない」として,公にすると「無用な誤解や憶測を招くおそれがあり,今後の京都大学OCWにかかる事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」ため,法5条4号柱書きに該当すると主張するが,以下3点から,右主張はあたらないものと考える。

(ア)開示部分に注記があるので,誤解や憶測を招くおそれがない。

この点は上記(1)オ(ウ)でも述べたが,諮問庁は審査請求人の主張を排する具体的理由を説明していない。

(イ)誤解や憶測を招いたとしても,「無用」とはいえない。

審議検討の基礎となった客観的数値について,不正確であることを理由に不開示とすることは,アカウンタビリティの観点からいって適当ではないから,右数値を開示することで何らかの「誤解や憶測」を招いたとしても,「無用」なものであるということはできず,そのような論理で保護される事務又は事業の遂行は,法5条4号柱書きのいう「適正な遂行」には該当しないというべきである。

(ウ)「おそれ」が過大評価されている。

不開示部分④に含まれる情報の性質からして,開示することによって,今後京都大学がインターネット上で授業動画等を公開することが妨害される等,「今後の京都大学OCWにかかる事務又は事業の遂行」に実質的な支障が及ぼされるおそれは極めて小さく,法的保護に値しない。

また,諮問庁は,「計上の際の観点」と「計上した時期」が異なるため,審査請求人が提出した資料(2021年に京都大学が公表したもの)は比較の対象にならないとも主張するが,以下の通り,右主張はあたらない。

まず,「計上の際の観点」については,審査請求人が提出した資料は,OCWの公開数を①目的別(「通常講義」「公開講座」「国際会議」「最終講義」),②部局別に分類したものであって,全く同じ表とまでは言えなくとも,計上の際の観点は異ならず,見方によっては全く同じ項目を参照できる。例えば,審査請求人が提出した資料において,通常講義の列と部局別の行を抜き出すことは,文書2の2頁において「授業動画数の部局別内訳」を参照することと変わらない。

そして,「計上した時期」については,不開示部分が「2022/8/24現在」の数値であるのに対し,審査請求人が提出した資料は「2021年時点」の数値であって,京都大学OCWが2005年より公開されていることに鑑みれば,計上の対象期間はさほど変わらない。

にもかかわらず,仮に両資料間で数値が「無用な誤解や憶測を招くおそれがある」程度に異なるというのであれば,「参考のための概数」である後者が不正確ということになるが,前述の通り,そのような場合に不開示とすることは,アカウンタビリティの観点からいって適当ではないと考える。


第3 諮問庁の説明の要旨

1 はじめに

今回の開示請求対象の法人文書は,「「今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース」(京都大学ウェブサイトにて,令和4年9月16日・令和5年1月17日付で発表された「今後の京都大学オープンコースウェアについて」において言及された組織ないし会議を指す。)の議事録,配布資料,その他検討の過程が分かる文書すべて」である。処分庁においては,「今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース(以下,「本タスクフォース」という。)に関する事務を所掌する教育推進・学生支援部において該当する法人文書を探索した。

京都大学オープンコースウェア(以下,「京都大学OCW」という。)では,本学で実施している授業や公開講座,国際シンポジウムなどの動画・講義資料を広く公開していたが,令和4年9月30日に運営部署である高等教育研究開発推進センターが廃止された。そのため,今後の京都大学OCWの運営や在り方については一部報道を受ける等社会の関心が集まっている。本タスクフォースは,今後の京都大学OCWの方針,運営,その他重要な事項を検討する目的で設置され,今後の組織改編,人員配置や予算確保等の機微な内容が議論された。なお,令和5年1月17日付で公表した「今後の京都大学オープンコースウェア」の方針に則して,現在も学内で検討を継続しているところである。

本件審査請求において,審査請求人は,審査請求書の「審査請求の趣旨」のとおり一部不開示決定とした原処分1を取り消し,全部開示することを求めている。

以下に,原処分1に至った経緯について,別紙の3(1)の不開示部分①ないし不開示部分④の不開示理由欄の不開示理由(以下,順に「不開示理由①」ないし「不開示理由④」という。)ごとに詳細を説明する。

なお,審査請求書「別添1 審査請求の理由 第1 2」で開示を求められている「当該メール審議において,委員が送信したメール」(上記第2の2(1)ア)については,原処分1で特定した文書から漏れていることが本件審査請求を通じて判明した。そのため,該当する文書38枚を新たに特定し,京大総法情第80-2号として開示決定を行うものとする。

2 不開示理由①における法5条3号及び4号柱書きの該当性について

不開示理由①における不開示部分には,今後の京都大学OCWに関連する組織構想,コンテンツ発信に係る基本方針及びタスクフォースの報告書に関する検討段階の内容が含まれている。

審査請求人は,法5条3号の非該当理由として,「これらの説明は,『審議,検討等途中の段階の情報を公にすることの必要性を考慮してもなお,適正な意思決定の確保等への支障が看過し得ない程度』に『不当』であることの説明とはなっていない。また,『公にすることによる利益と不開示にすることによる利益とを比較衡量した上で判断』したとも認められない」と主張する。また,「本件タスクフォースでの検討は1月上旬に終了しており,意思決定の内容は,京都大学のウェブサイトにおいて,既に公表されて」おり,「原処分1がなされたのは2月17日であり,当該情報を開示しても,当該意思決定そのものに影響が及ぶおそれはない」,「既に公表されているのであって,不開示部分を公表しても,『未成熟な情報や事実関係の確認が不十分な情報等を公にすること』にはならず,それにより,『誤解や憶測を招』き,『不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ』があるとはいえない」とも主張する。また,同条4号柱書きの非該当理由として,「今後の同種の会議において率直な意見交換が困難になる等,会議に係る事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」について「そのような『支障』は名目的なもので,『おそれ』の程度も単なる可能性にすぎない。すなわち,実質的な支障を及ぼす,法的保護に値する蓋然性があるとは認められない」と主張する。

しかし,前述のとおり,京都大学OCWの今後の在り方については,一部報道を受ける等社会の関心が集まっている。本タスクフォースは,今後の京都大学OCWの方針,運営,その他重要な事項を検討する目的で設置され,今後の組織改編,人員配置や予算確保等の機微な内容が審議事項となった。本学においてかかる審議事項についての最終的な意思決定がなされたものではなく,令和5年1月17日付で公表した基本方針に則して,現在も学内で検討を継続しているところである。したがって,この不開示部分を開示すると,本タスクフォースの検討過程及び今後の京都大学OCWに関する本学内部における検討途上である組織編成案や人員配置構想に関する未成熟な情報が公になり,外部からの不当な圧力や干渉等を受けることなどにより,今後の本学の意思決定がゆがめられるおそれが生じるほか,終局的な意思決定に対する誤解や憶測を招き,ひいては途中経過における率直な意見の交換が妨げられ,又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある。

さらに,これらの審議事項について十分な審議を重ね,適切な決定を行っていくためには,各構成員による率直かつ忌たんのない意見交換がなされる必要があることに加え,これらの審議事項は機微な内容を含むことから,審議の詳細な内容については公開されないことが前提とされていた。したがって,この不開示部分を開示すると,本タスクフォースの内容が公開されないことを期待して発言した構成員や関連部署等との関係で信頼関係を損ない,本タスクフォースの検討目的でもある京都大学OCWの今後の運営等に際して,関係者等から京都大学OCW運営に不可欠な動画の提供等の適切な協力が得られず,京都大学OCWの運営等自体が立ち行かなくなるなどの悪影響を及ぼしかねない。また,本タスクフォース及びその構成員の意見に対する反対の立場の者からの批判や非難等を受けることが懸念され,率直な意見を述べることを躊躇し,今後,本学における同様の意思決定機関において十分な審議ができなくなる等,本学全体の運営及び事務の適正な遂行に多大な支障を及ぼすおそれがある。これらのことから,不開示理由に記載のとおり,法5条3号及び4号柱書きに該当するとし,不開示が妥当であると判断した。

なお,審査請求人は,「少なくとも,発言者のみ不開示とすれば,そのようなおそれは容易に取り除くことができる」と主張するが,開示文書から直ちに各発言者が特定できないことをもって上記の支障が生じないものとは言えず,主張には理由がないと判断した。

3 不開示理由②における法5条4号柱書きの該当性について

不開示理由②における不開示部分には,京都大学OCWの検討に資する率直かつ忌たんのない意見の内容が含まれている。

審査請求人は,処分庁が不開示理由とした「公にすることにより,今後の同種の会議において率直な意見交換が困難になる等,会議に係る事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」について,「そのような『支障』は名目的なもので,『おそれ』の程度も単なる可能性にすぎない。すなわち,実質的な支障を及ぼす,法的保護に値する蓋然性があるとは認められない」と主張する。

しかし,前述のとおり,京都大学OCWの今後の在り方については,一部報道を受ける等社会の関心が集まっている。本タスクフォースは,今後の京都大学OCWの方針,運営,その他重要な事項を検討する目的で設置され,今後の組織改編,人員配置や予算確保等の機微な内容が審議事項として挙げられた。これらの審議事項について十分な審議を重ね,適切な決定を行っていくためには,各構成員による率直かつ忌たんのない意見交換がなされる必要がある。また,これらの審議事項は機微な内容を含むことから,審議の詳細な内容については公開されないことが前提とされていた。したがって,この不開示部分を開示すると,公開されないことを期待して発言した構成員や関連部署等との関係で信頼関係を損ない,本タスクフォースの検討目的でもある京都大学OCWの今後の運営等に際して,関係者等から京都大学OCW運営に不可欠な動画の提供等の適切な協力が得られず,京都大学OCWの運営等自体が立ち行かなくなるなどの悪影響を及ぼしかねない。また,本タスクフォース及びその構成員の意見に対する反対の立場の者からの批判や非難等を受けることが懸念され,率直な意見を述べることを躊躇し,今後,本学における同様の意思決定機関において十分な審議ができなくなる等,本学全体の運営及び事務の適正な遂行に多大な支障を及ぼすおそれがある。これらのことから,不開示理由に記載のとおり,法5条4号柱書きに該当するとし,不開示が妥当であると判断した。

なお,審査請求人は,「少なくとも,発言者のみ不開示とすれば,そのようなおそれは容易に取り除くことができる」と主張するが,開示文書から直ちに各発言者が特定できないことをもって上記の支障が生じないものとは言えず,主張には理由がないと判断した。

4 不開示理由③における法5条4号柱書きの該当性について

不開示理由③における不開示部分には,京都大学OCWの検討過程にかかる部局長会議の迅速で円滑な実施・意思決定をするために必要とされる,本学の内部においても特に限られた一部の教職員のみが審議内容を知ることができる場における意見交換に関する情報が記載されている。

審査請求人は,処分庁が不開示理由とした「公にすることにより,今後の同種の会議において参加者が率直な意見を述べることを躊躇するなど,意見交換が円滑に実施されず,事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」について,「そのような『支障』は名目的なもので,『おそれ』の程度も単なる可能性にすぎない。すなわち,実質的な支障を及ぼす,法的保護に値する蓋然性があるとは認められない」と主張する。

しかし,前述のとおり,京都大学OCWについては,今後の京都大学OCWの方針,運営,その他重要な事項として,組織改編,人員配置や予算確保等の機微な内容について本学として円滑かつ迅速に意思決定を行う必要があり,そのために,本学の内部においても特に限られた一部の教職員のみが審議内容を知ることができる場における意見交換が行われた。このような意見交換に関する情報については,本学の内部においても限られた教職員のみが知り得るべきものであり,当然に学外への公開は予定されていない。したがって,この不開示部分を開示すると,今後同様に機微な内容について本学として円滑かつ迅速に意思決定を行っていく必要のある場合において,本学の内部において同様の意見交換の場をもつこと,及び,その参加者が率直な意見を述べることが躊躇されるなど,意見交換が円滑かつ迅速に実施されず,本学の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。これらのことから,不開示理由に記載のとおり,法5条4号柱書きに該当するとし,不開示が妥当であると判断した。

なお,審査請求人は,「少なくとも,発言者のみ不開示とすれば,そのようなおそれは容易に取り除くことができる」と主張するが,開示文書から直ちに各発言者が特定できないことをもって上記の支障が生じないものとは言えず,主張には理由がないと判断した。

また,特定の不開示部分について,「『意見交換に関する情報』が含まれているとは考え難い」という主張は,審査請求人の憶測にすぎず,実際に当該不開示部分に本学の内部においても特に限られた一部の教職員のみが審議内容を知ることができる場における意見交換に関する情報が記載されている以上,理由がないものである。

5 不開示理由④における法5条4号柱書きの該当性について

不開示理由④における不開示部分には,教育推進・学生支援部において京都大学OCWの目的別または部局別に計上した公開コンテンツや動画公開に関する数値が記載されている。

審査請求人は,処分庁が不開示理由とした「公にすることにより,無用な誤解や憶測を招くおそれがあり,今後の京都大学オープンコースウェアにかかる事務又は事業の適正な遂行に支障をおよぼすおそれ」について,「そのような『支障』は名目的なもので,『おそれ』の程度も単なる可能性にすぎない。すなわち,実質的な支障を及ぼす,法的保護に値する蓋然性があるとは認められない」と主張する。

しかし,前述のとおり,記載されている数値は,教育推進・学生支援部において高等教育研究開発推進センターから引き継いだ情報を元に計上した参考のための概数であり,正式な調査等に基づいた数値ではなく,高等教育研究開発推進センターが公式に公開している件数とは算出方法が異なるので,公にすることは予定されていない。したがって,この件数を公表することになると,無用な誤解や憶測を招くおそれがあり,今後の京都大学OCWにかかる事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条4号柱書きに該当するとし,不開示が妥当であると判断した。

なお,審査請求人は,「開示部分にも,……数値が必ずしも正確ではないことは示されているので,『公にすることにより,無用な誤解や憶測を招くおそれがあ』るとはいえない」と主張するが,かかる注記があることから上記の支障が生じないものとは言えず,主張には理由がないと判断した。

当該不開示部分の数値が2021年に本学が公表した「OCWの公開数」と「ほぼ同じものと考えられ,不開示とする利益がない。」と主張するが,当該不開示部分とは計上の際の観点も異なり,そもそも計上した時期も異なるため,比較の対象にならず,当該主張はあたらない。

以上,1乃至5により,諮問庁として,処分庁における原処分1維持が適当と考えるため,諮問を行うものである。


第4 調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和5年6月27日   諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年7月12日     審議

④ 同年8月2日      審査請求人から意見書及び資料を収受

⑤ 令和6年11月28日  本件対象文書1,本件対象文書3及び本件対象文書4の見分並びに審議

⑥ 同年12月11日    審議


第5 審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,別紙の1に掲げる文書(以下「本件請求文書」という。)の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書1を含む46文書(以下「本件特定文書」という。)を特定し,本件対象文書1につき,その一部を法5条1号,3号及び4号柱書きに該当するとして不開示とし,本件対象文書2につき,これを保有していないとして不開示とする原処分1を行った。

これに対し,審査請求人は,本件特定文書の外にも開示請求の対象として特定すべき文書があるはずであり,本件不開示部分1を開示すべきであるとして,原処分1の取消しを求めるところ,処分庁は,本件対象文書3及び本件対象文書4を追加して特定し,その一部を法5条3号及び4号柱書きに該当するとして不開示とする原処分2を行った。

審査請求人は,本件特定文書の外にも開示請求の対象として特定すべき文書があるはずであるとの主張につき,意見書において原処分2により審査請求の趣旨に沿った決定が行われたものと評価するとしており,これは,文書の特定に係る不服は解消された旨の意思表示とみなすべきものと解されるが,原処分2の後も審査請求を取り下げておらず,本件審査請求は,本件不開示部分1,本件対象文書3及び本件対象文書4の不開示部分のうち不開示部分①ないし不開示部分④に該当する部分(別紙の3(2)ないし(4)に掲げる部分)(以下,順に「本件不開示部分2」ないし「本件不開示部分4」といい,「本件不開示部分1」と併せて「本件不開示部分」という。)は開示すべきであるとして,原処分の取消しを求めるものとして継続していると解される。

諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書1,本件対象文書3及び本件対象文書4の見分結果を踏まえ,本件不開示部分の不開示情報該当性について判断することとする。

2 本件不開示部分の不開示情報該当性について

(1)当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁は,おおむね以下のとおり説明する。

ア 審査請求人からの意見書における主張に関する諮問庁の考えについて,別紙の4に掲げる「諮問庁の考え」欄のとおり説明する。

イ 本件不開示部分2は,不開示部分①に該当する部分であり,本内容については,上記第3の2の理由により,法5条3号及び4号柱書きに該当するとし,不開示が妥当であると判断した。

また,別紙の4(1)により,請求人からの意見書についても回答している。

ウ 本件不開示部分3は,不開示部分②に該当する部分であり,本内容については,上記第3の3の理由により,法5条4号柱書きに該当するとし,不開示が妥当であると判断した。

また,別紙の4(2)により,請求人からの意見書についても回答している。

エ 本件不開示部分4は,不開示部分③に該当する部分であり,本内容については,上記第3の4の理由により,法5条4号柱書きに該当するとし,不開示が妥当であると判断した。

また,別紙の4(3)により,請求人からの意見書についても回答している。

オ 以上,イないしエにより,諮問庁として,処分庁における追加開示決定において,原処分維持が適当と考える。

(2)本件不開示部分の記載等に鑑みれば,各不開示部分を公にした場合に生じる法5条4号柱書きの「おそれ」に係る上記第3の2ないし5及び上記(1)の諮問庁の説明は,いずれも不合理であるとまではいえず,これを否定し難い。

したがって,本件不開示部分は,法5条4号柱書きに該当すると認められ,不開示部分①及び本件不開示部分2につき同条3号について判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。

3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。

4 本件各一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号及び4号柱書きに該当するとして不開示とした各決定については,審査請求人が開示すべきとする部分は,同号柱書きに該当すると認められるので,同条3号について判断するまでもなく,妥当であると判断した。


(第5部会)

委員 藤谷俊之,委員 石川千晶,委員 磯部 哲


別紙


1 本件請求文書

「今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース」(京都大学ウェプサイトにて,令和4年9月16日・令和5年1月17日付で発表された「今後の京都大学オープンコースウェアについて」において言及された組織ないし会議を指す。)の議事録,配布資料,その他検討の過程が分かる文書すべて


2 本件対象文書

「「今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース」(京都大学ウェブサイトにて,令和4年9月16日・令和5年1月17日付で発表された「今後の京都大学オープンコースウェアについて」において言及された組織ないし会議を指す。)の議事録,配布資料,その他検討の過程が分かる文書すべて」に該当するものとして,以下の法人文書

(1)本件対象文書1

ア 令和4年9月26日(第1回) 議事次第及び資料

文書1 資料2 今後の京都大学オープンコースウェアについて〔4枚〕

文書2 資料2(参考2)京都大学OCW目的別部局別公開コンテンツ・動画公開数(8/24現在)〔カラー3枚〕

イ 令和4年10月17日(第2回) 議事次第及び資料

文書3 資料1 今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース(第1回)議事要旨(案)〔3枚〕

文書4 資料2 新OCWについて(たたき台)〔カラー2枚〕

ウ 令和4年12月8日(第3回) 議事次第及び資料

文書5 資料1 今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース(第2回)議事要旨(案)〔3枚〕

文書6 資料2-1 今後のOCWについて(案)〔カラー1枚〕

文書7 資料2-2 今後のOCWコンテンツ発信に係る基本方針(案)〔2枚〕

エ 令和4年12月21日(第4回) 議事次第及び資料

文書8 資料1 今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース(第3回)議事要旨(案)〔4枚〕

文書9 資料2-1 今後のOCWについて(案)〔カラー1枚〕

文書10 資料2-2 OCW2.0(仮)コンテンツ発信に係る基本方針(案)〔2枚,うちカラー1枚〕

文書11 資料2(参考1)今後のOCWについて(案) R4.12.8現在〔カラー1枚〕

オ 令和4年12月27日(第5回) メール及び資料

文書12 資料1 今後のOCWについて(案)〔カラー1枚〕

文書13 資料2 今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース 報告書(案)〔7枚〕

カ 令和5年1月6日 メール及び資料

文書14 メール「今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォースの報告書(案)及び第4回タスクフォースの議事要旨(案)について」〔2枚〕

文書15 今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース 報告書(案) 令和5年1月6日付〔7枚〕

文書16 今後のOCWについて(案)〔カラー1枚〕

文書17 OCW2.0(仮)コンテンツ発信に係る基本方針(案)〔1枚〕

文書18 今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース 報告書(案) 令和5年1月6日付(見え消し)〔7枚,うちカラー2枚〕

文書19 今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース(第4回)議事要旨(案)〔3枚〕

キ 令和5年1月11日 メール及び資料

文書20 メール「今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォースの報告書(案)について」〔2枚〕

文書21 今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース 報告書(案) 令和5年1月11日付〔7枚〕

文書22 今後のOCWについて(案)〔カラー1枚〕

文書23 OCW2.0(仮)コンテンツ発信に係る基本方針(案)〔1枚〕

(2)本件対象文書2

今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース(第5回)の「議事録」

(3)本件対象文書3

令和4年12月27日(第5回)

メール「第5回今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォース(メール審議)の開催について」に対する意見等の資料一式〔36枚〕

(4)本件対象文書4

メール「今後の京都大学オープンコースウェアに関するタスクフォースの報告書(案)及び第4回タスクフォースの議事要旨(案)について」に対する意見の資料〔2枚〕

3 本件不開示部分

(1)本件不開示部分1

不開示部分

不開示理由

不開示部分①

文書4,文書6,文書7,文書9ないし文書11,文書12,文書13,文書15ないし文書18,文書20ないし文書23の請求事項に記載されたタスクフォースにおける検討段階の案及び京都大学オープンコースウェアに関する検討中の情報

不開示理由①:これらは本学内部における審議,検討又は協議に関する情報であって,公にすることにより,無用な誤解や憶測を招くおそれがあり,また今後の同種の会議において率直な意見交換が困難になる等,会議に係る事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条3号及び4号柱書きに該当するものとして,不開示とする。

不開示部分②

文書3,文書5,文書8,文書10及び文書18ないし文書20の意見交換の内容が記載されている部分ならびに意見交換の内容を反映している部分

不開示理由②:京都大学オープンコースウェアの検討に資する率直かつ忌たんのない意見が含まれており,公にすることにより,今後の同種の会議において率直な意見交換が困難になる等,会議に係る事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条4号柱書きに該当するため,不開示とする。

不開示部分③

文書1,文書14及び文書20の京都大学オープンコースウェアの検討過程にかかる京都大学の内部における意見交換に関する情報

不開示理由③:公にすることにより,今後の同種の意見交換において参加者が率直な意見を述べることを躊躇するなど,意見交換が円滑に実施されず,事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条4号柱書きに該当するため,不開示とする。

不開示部分④

文書2の「データの個数/講義ID」及び「合計/動画数」並びにそれらの割合,当該数値に関する注釈

不開示理由④:本学における内部の審議のために作成した資料であり,当該資料に記載された「データの個数/講義ID」及び「合計/動画数」並びにそれらの割合は,正式な調査等に基づいた数値ではなく,当該数値に関する注釈も含め,公にすることにより,無用な誤解や憶測を招くおそれがあり,今後の京都大学オープンコースウェアにかかる事務又は事業の適正な遂行に支障をおよぼすおそれがあることから,法5条4号柱書きに該当するため,不開示とする。

(2)本件不開示部分2

本件対象文書3の請求事項に記載されたタスクフォースにおける検討段階の案及び京都大学オープンコースウェアに関する検討中の情報

(3)本件不開示部分3

本件対象文書3の意見交換の内容が記載されている部分ならびに意見交換の内容を反映している部分

(4)本件不開示部分4

本件対象文書4の京都大学オープンコースウェアの検討過程にかかる京都大学の内部における意見交換に関する情報

4 審査請求人からの意見書における主張に関する諮問庁の考え

(1)審査請求の理由 第2(不開示部分①)について(上記第2の2(2)イ)

審査請求人からの意見書における主張

諮問庁の考え

上記第2の(2)イ(イ)本タスクフォースの報告書に関する検討段階の案ないし内容について

・原処分1では,本タスクフォースの検討の結果をとりまとめた報告書(文書21)のドラフト版にあたる文書(文書13,文書15及び文書18)が,不開示部分①に該当することのみをもって6ページにわたりほぼ全部不開示とされているが,これらの文書は上記(a)に該当するところ,これらを一部不開示とした具体的な理由は説明されていないと評価できる。

審査請求人は,不開示部分①に該当する情報を(ア)本タスクフォースの報告書に関する検討段階の案ないし内容(イ)組織構想,コンテンツ発信に係る基本方針など,今後の京都大学OCWに関する検討中の情報と分け,理由説明書では(イ)に関する説明はあるが(ア)についてほとんど触れていないと述べるが,正確ではない。(ア)と(イ)の情報は密接な関係にあり,相互に重複する情報が含まれている。理由説明書では,(2)(上記第3の2)第3段落及び第4段落において(ア)(イ)に共通する説明を記載したものであり,(ア)について具体的な説明がされていないという指摘は妥当ではない。

上記第2の2(2)イ(ウ)組織構想,コンテンツ発信に係る基本方針など,今後の京都大学OCWに関する検討中の情報について

・理由説明書において,「終局的な意思決定に対する誤解や憶測を招」くと主張する箇所があることに鑑みると,「終局的な意思決定」が一部存在すること自体は,諮問庁においても争いがないものと考えられる。

・今後の京都大学OCWの基本的な方針に関する検討作業は既に終了していると見るべきであり,もはや検討途上にあるとはいえない。

・検討が一部継続しているとしても,本タスクフォースの取りまとめた報告書等によって相当程度方向付けられたうえでの検討であると考えられ,不開示部分を公にした場合に京都大学での意思決定に不当な影響が及ぶ蓋然性は,存在しないか,極めて小さいと評価できる

・諮問庁のいう「今後の本学の意思決定がゆがめられるおそれ」及び「率直な意見の交換が妨げられ,又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」なるものは,極めて抽象的であると言わざるを得ない。

審査請求人は,理由説明書の記載をもとに,「終局的な意思決定」が一部存在する,もはや検討途上にあるとはいえない,などと述べるが,理由説明書の提出時点においては同説明書(2)(上記第3の2)第3段落で述べたとおりであり,正確ではない。

理由説明書で記載した通り,本タスクフォースは今後の京都大学OCWの方針など重要な事項を検討する目的で設置され,今後の組織改編等の機微な内容が審議事項となっており,本審議事項についての最終的な意思決定がなされたものではなく,令和5年1月17日付で公表した基本方針を定めたものである。その後,令和5年10月1日付でコンテンツ企画・支援室を設置し,令和5年11月1日からKyotoU Channelを運用している状況である。

なお,審査請求人は,理由説明書中の上記「終局的な意思決定に対する誤解や憶測を招き」という記述をもって,既に「終局的な意思決定」が一部存在すると述べているが,あくまで将来における終局的な意思決定について述べるものであることは文脈上明らかである。また,理由説明書の提出時点において検討作業は既に終了しており,検討途上にあるとは言えないとする点は,審査請求人の独自の憶測にすぎないものであった。

ただし,審査請求人は,検討が終了していれば不開示理由がないかの主張をするが,検討の終了の如何に関わらず,不開示部分について不開示理由があることについては,理由説明書(2)(上記第3の2)第4段落で述べたとおりである。

上記第2の2(2)イ(エ)「本タスクフォースの内容が公開されない……悪影響を及ぼしかねない。」という主張について

・「京都大学OCWの検討に資する率直かつ忌たんのない意見の内容」が含まれるのは不開示部分②であって不開示部分①ではないから,主張の前提を欠いている。

・大学全体の方針に逆らってまで,動画の提供等の協力を拒むインセンティブを与えることに繋がると考えるのは,論理の飛躍がある。

審査請求人は,不開示理由①における不開示部分には「京都大学OCWの検討に資する率直かつ忌たんのない意見の内容」が含まれないと述べるが,正確ではない。不開示理由①における不開示部分には,今後の京都大学OCWに関連する組織構想,コンテンツ発信に係る基本方針及びタスクフォースの報告書に関する検討段階の内容が含まれており,タスクフォースの構成員の意見及びその結果が含まれている。そのため,主張の前提を欠くという指摘は妥当ではない。不開示部分を開示することによって関係者等から適切な協力を得られなくなることに論理の飛躍があると述べるが,審査請求人の独自の見解に過ぎず,諮問庁の見解は理由説明書の当該箇所(上記第3の2)に記載のとおりである。

上記第2の2(2)イ(オ)「本タスクフォース及びその構成員の……多大な支障を及ぼすおそれがある。」という主張について

・不開示部分①には,本タスクフォースにおける「検討段階の案」と,京都大学OCWに関する「検討中の情報」が記載されているところ,これらは個々人の「意見」に関する情報を記載したものではないから,公にしても「構成員の意見に対する反対の立場の者からの批判や非難」などは生じえず,主張の前提を欠いている。

不開示理由①における不開示部分に「意見」が含まれないと述べる審査請求人の理解が不正確であり,同理解に基づく主張が妥当でないことは,上記に記載のとおりである。また,諮問庁の見解は理由説明書の当該箇所(上記第3の2)に記載のとおりである。

なお,審査請求人は答申例をあげて,「批判や非難を受けること」は一定程度甘受すべきであると述べるが,当該答申の事案は国の法曹養成検討会における議事録の事案であり,公開の必要性を含めて本件とは全く異なる事案における,答申の一部を切り抜いたものである。当該答申の存在をもって,不開示部分①について法5条3号及び4号柱書きに該当しないとする主張には理由がない。

以上より,不開示部分①において,法5条3号及び4号柱書きに該当し,不開示とした判断は妥当である

(2)審査請求の理由 第3(不開示部分②)について(上記第2の2(2)ウ)

審査請求人からの意見書における主張

諮問庁の考え

・議事要旨について,議事録との性質の違いを考慮する必要がある。

原処分1は,本タスクフォースの第1回から第4回の議事要旨(文書3,文書5,文書8及び文書19)のうち,「主な意見交換の内容」を箇条書きで記した部分を全て不開示としているが,個々の発言を逐一記録した議事録とは異なり,主要な意見交換の内容を箇条書きでまとめた部分(議事要旨)に過ぎないのだから,公にすることで,「公開されないことを期待して発言した構成員や関連部署等との関係で信頼関係を損なう」とは考えにくく,また,「本学における同様の意思決定機関において十分な審議ができなくなる」など,「本学全体の運営及び事務の適正な遂行に多大な支障を及ぼすおそれがある」とも考えにくい。

・発言者のみ不開示にすれば,おそれは容易に取り除くことができる。

「主な意見交換の内容」は当然のことながら本タスクフォースの構成員の意見をまとめたものであることから,不開示理由②における不開示部分には,京都大学OCWの検討に資する率直かつ忌憚のない意見の内容が含まれている。そのため,この不開示部分を開示すると,公開されないことを期待して発言した構成員や関連部署等との関係で信頼関係を損なうことになる。また,本タスクフォース及びその構成員の意見に対する反対の立場の者からの批判や非難等を受けることが懸念され,率直な意見を述べることを躊躇し,今後,本学における同様の意思決定機関において十分な審議ができなくなる等,本学全体の運営及び事務の適正な遂行に多大な支障を及ぼすおそれがある。従って,「議事要旨について,議事録との性質の違いを考慮する必要がある」という審査請求人の独自の見解については,妥当でない。

また,発言者のみ不開示としても,意見交換の内容そのものが開示されれば上記の支障が生じるおそれは変わらず,また,意見の内容から発言者を推知できるおそれも否定できないことから,開示文書から直ちに各発言者が特定できないことをもって,上記のおそれを容易に取り除くことができるとはいえない。

以上より,不開示部分②において,法5条4号柱書きに該当し,不開示とした判断は妥当である。

(3)審査請求の理由 第4(不開示部分③)について(上記第2の2(2)エ)

審査請求人からの意見書における主張

諮問庁の考え

・文書1の不開示部分について,開示部分と同様の記述がされているとすると,当該部分に個々人の意見や審議の具体的内容が記述されているわけではなく,単に審議の結果を数行に要約したものに過ぎないと推察できるから,今後の「意見交換が円滑かつ迅速に実施されず,本学の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とまで言えるかは疑問である。

・発言者のみ不開示にすれば,おそれは容易に取り除くことができる。

「単に審議の結果を数行に要約したものに過ぎない」という主張は,審査請求人の憶測にすぎず,実際に当該不開示部分に本学の内部においても特に限られた一部の教職員のみが審議内容を知ることができる場における意見交換に関する情報が記載されている。そのため,不開示部分を開示すると,今後同様に機微な内容について本学として円滑かつ迅速に意思決定を行っていく必要のある場合において,本学の内部において同様の意見交換の場をもつこと,及び,その参加者が率直な意見を述べることが躊躇されるなど,意見交換が円滑かつ迅速に実施されず,本学の事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。

また,発言者のみ不開示としても上記のおそれを容易に取り除くことができるとはいえないことは,上記(2)に記載のとおりである。

以上より,不開示部分③において,法5条4号柱書きに該当し,不開示とした判断は妥当である。

(4)審査請求の理由 第5(不開示部分④)について(上記第2の2(2)オ)

審査請求人からの意見書における主張

諮問庁の考え

・開示部分に注記があるので,誤解や憶測を招くおそれがない。

・誤解や憶測を招いたとしても,「無用」とはいえない。

審議検討の基礎となった客観的数値について,不正確であることを理由に不開示とすることは,アカウンタビリティの観点からいって適当ではないから,右数値を開示することで何らかの「誤解や憶測」を招いたとしても,「無用」なものであるということはできず,そのような論理で保護される事務又は事業の遂行は,法5条4号柱書きのいう「適正な遂行」には該当しないというべきである。

・「おそれ」が過大評価されている。

不開示部分④に含まれる情報の性質からして,開示することによって,今後京都大学がインターネット上で授業動画等を公開することが妨害される等,「今後の京都大学OCWにかかる事務又は事業の遂行」に実質的な支障が及ぼされるおそれは極めて小さく,法的保護に値しない。

理由説明書のとおり,不開示理由④における不開示部分には,教育推進・学生支援部において京都大学OCWの目的別または部局別に計上した公開コンテンツや動画公開に関する数値が記載されている。

記載されている数値は,教育推進・学生支援部において高等教育研究開発推進センターから引き継いだ情報を元に計上した参考のための概数であり,正式な調査等に基づいた数値ではなく,高等教育研究開発推進センターが公式に公開している件数とは算出方法が異なるので,公にすることは予定されていない。したがって,この件数を公表することになると,無用な誤解や憶測を招くおそれがあり,今後の京都大学OCWにかかる事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。

審査請求人は,注記があるので誤解や憶測を招くおそれがないとするが,注記のみをもって正確な理解を伝えられるものではないため,上記の支障が生じないものとはいえず,当該主張は妥当ではない。

また,「不正確であることを理由に不開示とすることはアカウンタビリティの観点からいって適当ではない」と述べるが,不正確であることが不開示理由でないことは上記のとおりであり,当該主張は妥当ではない。さらに,「おそれ」が過大評価されているとの主張は独自の見解であり,妥当ではない。

以上より,不開示部分④において,法5条4号柱書きに該当し,不開示とした判断は妥当である。