諮問庁 経済産業大臣
諮問日 令和5年6月7日(令和5年(行情)諮問第481号)
答申日 令和6年6月7日(令和6年度(行情)答申第130号)
事件名 衆議院経済産業委員会に係る質問要旨の一部開示決定に関する件

答 申 書


第1 審査会の結論

別紙に掲げる各文書(以下,順に「文書1」ないし「文書7」といい,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとする部分を不開示としたことは,妥当である。


第2 審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和5年1月6日付け20221108公開経第2号により経済産業大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,不開示とした「当該対象文書の提供を受けたFAXの受信日時」及び「提出した国会議員の氏名」(以下「本件不開示部分」という。)の開示を求める。

2 審査請求の理由

(1)審査請求書(添付資料は省略する。)

ア 法5条1号ハでは「公務員の職務遂行に関する情報は開示しなければならない」と定めており,公務員である国会議員もその対象であるため。

イ 経済産業委員会で質問に立つ国会議員は,質疑に先立ち質問通告することが慣行となっている。経済産業委員会の会議録は後日,インターネットで公開され,質問に立った国会議員の氏名も記載される。そのため,質問通告を提出した国会議員の氏名は会議録公開後には開示するべき。

ウ 「当該対象文書の提供を受けたFAXの受信日時」「提出した国会議員の氏名」は質問の内容ではないため,国会議員の質問権を妨げるものではない。

エ 近年,国家公務員総合職の若年退職者数が増加していることから,国家公務員の働き方改革が叫ばれている。なかでも負担が大きいのが国会対応業務。質問通告が遅れることで,答弁作成で長時間の時間外労働(徹夜)を強いられる。質問通告早期化については与野党が一致しており,当事者の国会議員からも質問通告時間を明らかにすることを求める質問主意書が提出されているため,質問通告の時間を公開することは不適当ではない。質問通告が遅れたことが公知となった場合でも,国会議員本人による反論が容易に可能であり,実際に反論した例もある。経済産業省は「開示すると事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」と主張するが,開示しないで働き方が進まず,退職者の増加&志望者の減少傾向が続いた時の方が,事務を適正に遂行できない。そもそも,こうした開示請求の対応に期限ギリギリまで何カ月もかけることが慣行となっているのも,事務が適正に遂行されていない現状があるからではないか。開示のもたらす支障よりも利益の方が明確に大きい。

(2)意見書(添付資料は省略する。)

下記第3の3では,「どの議員がいつ経済産業省へ通告が行ったかが推定されるおそれ」とあるが,推定されることにより,具体的にどういう問題が生じるかが明確にされていない。

加えて,NHKのニュースによると,2023年6月20日に衆議院議員運営委員会の理事会で与野党は,速やかな質問通告に努めることなどを申し合わせている。ニュースの中で「質問通告が著しく遅い議員に対しては,所属する会派が事情を調査し,必要な措置を講じる」とあるが,通告時間が公開されていないと事情を調査することも不可能なので,通告時間の公開は問題ないことが国会議員の共通認識となっていると解釈できる。

また,「質問通告要旨には国会議員の問題意識等の答弁作成のための参考情報等も記載されているため不開示」としているが,今回求めているのは【FAXの受信日時】及び【提出した国会議員の所属及び氏名】であり,参考情報ではないため妥当ではない。


第3 諮問庁の説明の要旨

1 事案の概要

(1)審査請求人は,令和4年11月4日付けで,法4条1項の規定に基づき,処分庁に対し,「第208回国会(2022年1月17日~6月15日)における経済産業委員会で国会議員が事前通告した質問(要旨)文書すべて(省庁側の受け取り時間も分かるようなもの)(以下「本件請求文書」という。)」の開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行い,処分庁は,同月8日付けでこれを受け付けた。

(2)本件開示請求に対し,処分庁は,法11条の規定に基づき開示決定等の期限の延長をして,対象となる行政文書の一部を別紙のとおり特定し,本件対象文書について,法11条の規定に基づき,開示請求があった日から60日以内に開示請求に係る行政文書のうちの相当の部分につき開示決定等をするものとして,法9条1項の規定に基づき,令和5年1月6日付け20221108公開経第2号をもって,下記第3の3のとおり,法5条6号に該当する部分を除いて開示する原処分を行った。

(3)原処分に対し,開示請求者である審査請求人は,行政不服審査法(平成26年法律第68号)4条1号の規定に基づき,令和5年3月7日付けで,諮問庁に対し,原処分で不開示とした部分の一部を開示することを求める審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。

(4)本件審査請求を受け,諮問庁において,原処分の妥当性につき改めで慎重に精査したところ,本件審査請求には理由がないと認められたため,諮問庁による裁決で本件審査請求を棄却することにつき,情報公開・個人情報保護審査会に諮問するものである。

2 審査請求に係る行政文書

処分庁は,本件開示請求を受け,特定日における経済産業委員会で国会議員が事前通告した別紙に掲げる各文書を本件対象文書として特定した。

3 原処分における処分庁の決定及びその理由

処分庁は,本件対象文書のうち,法5条6号に該当する部分を不開示とし,その他の部分を開示する原処分を行った。

本件不開示部分の不開示とした部分とその理由は,具体的には,以下のとおりである。

本件対象文書中,当該対象文書の提供を受けたFAXの受信日時及び提出した国会議員の氏名については,公にすることにより,議員事務所から本件対象文書が提供された日時,各国会議員の関心事項及び問題意識等が明らかとなり,国民からの一方的な評価や誤解を招きかねず,当該議員の不利益となるおそれがあること及び当該不開示部分を経済産業省が一方的に公にすることにより,国会議員との信頼関係が損なわれ,今後の国会質問等の行政事務に必要な情報の入手が困難となる等,同省の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,法5条6号に該当するため,不開示とした。

4 審査請求人の主張についての検討

(1)審査請求人は,処分庁が,法5条6号に該当するため不開示とした本件不開示部分を開示することを求めているので,以下,本件不開示部分の不開示情報該当性について,具体的に検討する。

(2)不開示部分は,特定日における経済産業委員会において,国会議員らが事前通告した文書1から文書7までの「当該対象文書の提供を受けたFAXの受信日時」及び「提出した国会議員の所属及び氏名」に係る情報である。

本件不開示部分のうち,「当該対象文書の提供を受けたFAXの受信日時」は,議員事務所から本件対象文書が提供された日時が推察される情報が記載されているところ,これを公にした場合,当該日時をもとに,どの議員がいつ経済産業省へ通告を行ったが推定されるおそれがある。

また,「提出した国会議員の所属及び氏名」は,質問通告用紙には,必ずしも公にすることを前提とせずに当省に提供されている国会議員の問題意識等の答弁作成のための参考情報等も記載されており,これを当省が一方的に公にすることにより各国会議員事務所との信頼関係をそこに今後の当省と各議員事務所との適切な個別の調整や情報収集に支障を及ぼすおそれがあり法5条6号に該当するため不開示としたものである。

よって,審査請求人の主張には理由がなく,原処分を維持することが妥当である。

5 結論

以上により,本件審査請求については何ら理由がなく,原処分の正当性を覆すものではない。

したがって,本件審査請求については,棄却することとしたい。


第4 調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和5年6月7日    諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 同月23日       審議

④ 同年7月12日     審査請求人から意見書及び資料を収受

⑤ 令和6年5月10日   本件対象文書を見分及び審議

⑥ 同月31日       審議


第5 審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件請求文書の開示を求めるものであり,処分庁は,法11条の規定を適用した上,本件請求文書に該当する文書の相当の部分として本件対象文書を特定し,その一部について法5条6号に該当するとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,上記の不開示部分のうち本件不開示部分の開示を求めているが,諮問庁は,原処分を維持することが妥当としていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,本件不開示部分の不開示情報該当性を検討する。

2 本件不開示部分の不開示情報該当性について

(1)本件不開示部分は,原処分における不開示部分のうち,経済産業省が本件対象文書のそれぞれの提供を受けたFAXの受信日時及び本件対象文書のそれぞれを提供した国会議員の氏名が記載されている部分であることが認められる。

(2)諮問庁は,上記第3の3及び4のとおり説明し,さらに,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁から次のとおり説明があった。

ア 本件対象文書は,いずれも,公開を前提とせず,経済産業省が議員事務所から取得した文書である。

イ 本件不開示部分のうち,経済産業省が本件対象文書のそれぞれの提供を受けたFAXの受信日時は,公開を前提とせず,経済産業省が議員事務所から取得した情報であり,これを公にした場合,当該日時をもとに,どの議員がいつ経済産業省に通告を行ったかが推定されるおそれがある。また,仮に国会議員の特定に繋がらなくとも,一定の範囲の議員に対し,国民からの一方的な評価や誤解を招きかねず,当該議員の不利益となるおそれがある。

ウ 本件不開示部分のうち,本件対象文書のそれぞれを提供した国会議員の氏名は,これを公にした場合,当該国会議員について,不開示部分の分量から事前通告した質問(要旨)の数及び記載の詳細さなどが推認されるおそれがある。また,仮に記載内容の特定に繋がらなくとも,一定の範囲の議員に対し,国民からの一方的な評価や誤解を招きかねず,当該議員の不利益となるおそれがある。

エ そうすると,本件不開示部分を一方的に公にすることにより,国会議員との信頼関係が損なわれ,今後の国会質問等の行政事務に必要な情報の入手が困難となるなど,行政事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,不開示とした。

(3)上記(2)アないしウの諮問庁の説明に特段不自然,不合理な点はなく,また,国会議員が公表していない情報を経済産業省が公にすることにより,国会議員との信頼関係が損なわれ,今後の国会質問等の行政事務に必要な情報の入手が困難となるなど,行政事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある旨の上記(2)エの諮問庁の説明は,これを否定することまではできず,諮問庁の上記第3の3及び4の説明を覆すに足りる事情は認められない。

したがって,本件不開示部分は,法5条6号柱書きに該当し,不開示としたことは妥当である。

3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人は,上記第2の2(1)エにおいて,法7条に基づく裁量的開示を求めているものと解される。

審査請求人は,その理由として,開示のもたらす支障よりも利益の方が明確に大きいとしているが,不開示規定の例外として,公益上開示することが特に必要であるとするに足る具体的な理由を示しているとは必ずしもいえない。上記2において当審査会が不開示とすることが妥当と判断した部分については,これを開示することによる利益が,これを開示しないことにより保護される利益を上回る公益上の必要性があるとまでは認められないことから,法7条による裁量的開示をしなかった処分庁の判断に裁量権の逸脱又は濫用があるとは認められない。

4 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条6号柱書きに該当するとして不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとする部分は,同号柱書きに該当すると認められるので,不開示としたことは妥当であると判断した。


(第2部会)

委員 白井玲子,委員 太田匡彦,委員 佐藤郁美


別紙 本件対象文書


文書1 特定日【衆・経産委】質問要旨1

文書2 特定日【衆・経産委】質問要旨2

文書3 特定日【衆・経産委】質問要旨3

文書4 特定日【衆・経産委】質問要旨4

文書5 特定日【衆・経産委】質問要旨5

文書6 特定日【衆・経産委】質問要旨6

文書7 特定日【衆・経産委】質問要旨7