諮問庁 内閣総理大臣
諮問日 令和 4年 3月14日(令和4年(行情)諮問第215号及び同第216号)
答申日 令和 5年 9月25日(令和5年度(行情)答申第329号及び同第330号)
事件名 特定期間に日本学術会議任命問題に関して作成・取得した文書の不開示決定(不存在)に関する件
特定期間に日本学術会議任命問題に関して作成・取得した文書の不開示決定(不存在)に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別表の4欄に掲げる各文書(以下,順に「本件対象文書1」ないし「本件対象文書4」といい,併せて「本件対象文書」という。)につき,これを保有していないとして不開示とした各決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく各開示請求に対し,別表の3欄に掲げる日付及び文書番号により別表の2欄に掲げる者(以下,順に「処分庁1」及び「処分庁2」といい,併せて「処分庁」という。)が行った各不開示決定(以下,順に「原処分1」ないし「原処分4」といい,併せて「原処分」という。)について,原処分1及び原処分2を取り消し,不開示文書を開示せよ,並びに原処分3及び原処分4を取り消し,本件対象文書を保有していない理由及び事情を詳しく説明せよ,との裁決を求める。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由は,各審査請求書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)審査請求人は,日本学術会議任命拒否問題に関して,本件対象文書が当然存在するものとして開示請求を行ったものであるが,処分庁1は,「本件対象文書については,保有していないため(不存在)。」とのみ理由を示して,処分庁2は,「本件対象文書については,作成及び取得をしておらず保有していないため(不存在)。」と理由を示して,不開示決定を行った。


(2)しかしながら,審査請求人が入手した情報によれば,“政府が特定年月日付けで作成した「○○」と題した資料”(以下「特定資料」という。)なるものが存在し,その資料をもとに取材を行った記者がいるとのことである。「政府が」なる主語が,内閣官房を指すのか,日本学術会議事務局等の他省庁を指すのかは不明瞭ではあるが,それでも,日本学術会議任命問題では周知の通り内閣官房副長官の職名が明記された「外すべき者(副長官から)」と題した文書が存在し,題名以外をマスキングした状態で開示された(審査請求人も同じ状態で開示を受けている)ことから考えて,内閣官房がまったく関与していないとも考えにくい。


(3)しかるに,原処分1及び原処分2は,簡単に不存在を理由とするのみであり,作成・取得を最初から行っていないのか,それとも作成・取得したがその後廃棄・破棄したのか,は明らかにしていない。審査請求人が開示を求める文書が,一時的にでも作成されまたは取得されたのかどうかは,日本学術会議任命拒否が大きな問題として報道されたのちに行政機関がいかなる対応をとったのかを知る上で極めて重要な情報である。また,仮に,存在した本件対象文書1及び本件対象文書2が,その後廃棄されたのなら,それもひとつの「政府の対応」として,国民に周知されるべきである。さらに,最初から作成・取得しなかったとすれば,それは処分庁1の所管でないからなのか,あるいは他の高度な政治判断があったのか,も問題になるところである。

原処分3及び原処分4は,本件対象文書3及び本件対象文書4について,作成・取得を最初から行っていないことのみを示し,その理由を明らかにしていない。最初から作成・取得しなかったのは,処分庁2の所管でないからなのか,あるいは他の高度な政治判断があったのか,が問題になるところである。


(4)いずれにせよ,日本学術会議任命拒否問題は,学問の自由という基本的人権に関わる極めて重要・重大な問題であるから,内閣官房に限らず,すべからく行政機関は,国民にどのようなプロセス・検討を経たのか,透明性をもって説明すべきであり,法1条にいう「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資すること」の目的からも,法および憲法の理念からも,行政機関による明瞭な説明が必要であることは論を侯たない。


(5)これらのことから,原処分が示す理由は,市民に対する情報公開の重要性に鑑みれば明らかに簡略にすぎる。さらに,日本学術会議任命拒否問題に関する行政機関の意思決定プロセスについて,行政機関が十分な説明責任を果たしているとは到底言いがたい。


(6)よって原処分は,違法不当であるから取り消されるべきである。違法事由の詳細は,処分庁からの弁明を待って主張する。


(7)処分庁は,弁明の際,

ア 原処分の原因となる事実


イ その他原処分の理由を認めた根拠


ウ 原処分の決裁に関する記録


エ 本件対象文書1及び本件対象文書2が存在しないことについて,作成・取得を一度も行っていないのか,それとも作成・取得を行った後廃棄したのか,いずれであるかが分かる文書,又は担当職員の証言をまとめた陳述書


オ 審査請求人が入手した,“特定資料が存在する”との情報に対する,内閣官房としての認否及びその理由・根拠


を資料として提出されたい。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 本件各審査請求の趣旨について

本件は,審査請求人が令和3年10月25日付けで行った,本件対象文書の開示請求に対して,処分庁1において,「本件対象文書については,保有していない」こと,処分庁2において,「当該文書について,作成及び取得をしておらず保有していない」ことを理由に不開示として原処分を行ったところ,審査請求人から不開示決定の取消しを求める審査請求が提起されたものである。


2 審査請求人の主張及び原処分の妥当性について

審査請求人は,「入手した情報によれば,特定資料なるものが存在」し,「日本学術会議任命問題では周知の通り内閣官房副長官の職名が明記された「外すべき者(副長官から)」と題した文書が存在」し,「内閣官房が全く関与していないとも考えにくい」旨主張している。

しかしながら,処分庁においては,本件各開示請求を受け,文書の探索を実施したが,本件各開示請求に該当する文書の存在は確認できなかった。さらに,本件各審査請求を受け,審査請求人が「内閣官房が全く関与していないとも考えにくい」と主張する,特定資料及び「外すべき者(副長官から)」と題した文書について探索したが,そのような文書の存在は確認できなかった。また,日本学術会議会員任命に関する事務については,内閣府が担当していることから,内閣府において必要な文書が作成,保存されている。

したがって,処分庁において文書を保有していないことを理由に不開示決定を行った原処分は妥当である。


3 結語

以上のとおり,本件各審査請求については,審査請求人の主張は当たらず,原処分は維持されるべきである。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件各諮問事件について,以下のとおり,併合し,調査審議を行った。

① 令和4年3月14日   諮問の受理(令和4年(行情)諮問第215号及び同第216号)

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受(同上)

③ 令和5年8月31日   審議(同上)

④ 同年9月19日     令和4年(行情)諮問第215号及び同第216号の併合並びに審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件各開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,これを保有していないとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,原処分の取消しを求めているところ,諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の保有の有無について検討する。


2 本件対象文書の保有の有無について

(1)本件各開示請求に係る開示請求書,審査請求書(上記第2の2)及び公知の事実に鑑みれば,審査請求人は,令和2年10月1日付けの日本学術会議会員の任命(以下「令和2年任命」という。)に関して,同日から本件各開示請求(令和3年10月25日受付)までの期間(以下「本件対象期間」という。)に内閣官房において作成・取得した文書の開示を,処分庁に対して求めているものと解される。


(2)諮問庁は,内閣官房内閣総務官室(以下,本項において「内閣総務官室」という。)及び内閣官房副長官補(内政担当・外政担当)(以下,本項において「副長官補室」という。)における本件対象文書の保有の有無について,上記第3の2のとおり説明する。

そこで,令和2年任命について,当審査会において国会会議録を確認したところ,以下の答弁の存在が認められる。

ア 内閣総理大臣(以下「総理」という。)が,内閣官房長官(以下「官房長官」という。)及び内閣官房副長官(以下「副長官」といい,官房長官と併せて「官房長官等」という。)に対して懸念を伝え,副長官が総理に相談を行い,総理が任命権者として判断し,その判断を副長官が内閣府に伝達した旨の答弁。


イ 令和2年任命の決裁は,令和2年9月24日に起案し,同月28日に決裁終了した旨の答弁。


ウ 副長官は,命を受けて内閣官房の事務をつかさどるとされており,事務の副長官は,総理による特別職国家公務員の任命等,各府省の人事に関する事務に対して内閣として一貫性を確保する上で必要な総合調整を行うよう指示を受けて,総合調整を行った旨の答弁。


エ 日本学術会議から総理に推薦された会員候補者が任命されないという例は,令和2年任命までなかった旨の答弁。


オ 日本学術会議から推薦された会員候補者がそのまま任命されてきた前例を踏襲していいのかどうか悩みに悩んだ旨の総理答弁。


(3)上記(2)の各答弁も踏まえ,令和2年任命に関する内閣官房の事務の位置付け等について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,以下のとおり説明する。

ア 日本学術会議会員(以下「会員」という。)は,その候補者を日本学術会議が推薦し,当該推薦に基づいて総理が任命するものである(日本学術会議法7条2項及び17条)。

日本学術会議は,内閣府に置かれた特別の機関(内閣府設置法40条3項)であって,その構成員である会員の任命は,内閣府の長たる総理が行うものであり,閣議事項とはされておらず,当該任命に関する事務は,「内閣府の職員の任免」に関することとして内閣府大臣官房が所掌している(内閣府本府組織令2条7号)。


イ 内閣府の長たる総理が令和2年任命を行うに際し官房長官等が行った内閣官房の事務は,各府省の人事に関する事務(内閣人事局の所掌に属するものを除く。以下同じ。)に対して,内閣として一貫性を確保する上で必要な総合調整を行うものであり,内閣法12条2項4号及び5号に基づくものである。


ウ 内閣総務官室は,内閣法12条2項に掲げる内閣官房の事務のうち,同項1号の「閣議事項の整理その他内閣の庶務」(具体的には,内閣官房組織令2条1項各号に掲げる事務。)のみを所掌しており,同法12条2項4号及び5号の総合調整事務は所掌しておらず,実際に,令和2年任命に関して官房長官等が行った総合調整事務(以下「本件総合調整事務」という。)には関与していないため,本件対象文書を保有していない。


エ 内閣官房副長官補は,命を受けて内閣官房が行う内閣の重要政策に係る企画立案・総合調整事務(内閣法12条2項2号ないし5号の事務)を掌理するとされており(同法17条),当該事務には,政策に関する総合調整の外,当該政策に関連する会議体の人事に関する総合調整も含み得るが,そのような人事に対する副長官補室の関与の程度は,当該政策や当該会議体の内容・性質等によって様々であり,副長官補室は全ての人事の総合調整に関与しているわけではない。

実際に,副長官補室は,令和2年任命に関して,官房長官等並びに内閣府及び日本学術会議事務局から資料や情報の提供を含めて一切説明等を受けておらず,本件総合調整事務には関与していないため,本件対象文書を作成・取得していない。


オ 総理大臣官邸各室(以下「官邸各室」という。)においては,各行政機関から様々な説明・報告を受ける立場上,説明資料等の文書が多数取り扱われるが,そうした文書は,いずれも説明等を行う各行政機関においてその正本・原本が管理されるものであることから,内閣官房としては,内閣官房行政文書管理規則(以下「文書管理規則」という。)7条9項各号に定められた,保存期間を1年未満とすることができる文書の類型のうち,同項1号の「別途,正本・原本が管理されている行政文書の写し」に該当するものとして,当該説明等の使用目的終了後,遅滞なく廃棄する取扱いとしており,かつ,公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)及び文書管理規則等上,こうした行政文書の廃棄については,その経緯に関する記録を残すことまでは求められていない。


カ 以上から,公文書管理法等上,令和2年任命に関して必要な文書については,会員の任命に関する事務(以下「会員任命事務」という。)を担当する内閣府において(会員候補者の推薦に関して必要な文書については,推薦に関する事務を担当する日本学術会議において),必要に応じて意思決定に至る過程を合理的に跡付け・検証ができる文書を作成・保存するものであり,内閣総務官室及び副長官補室においては,令和2年任命に関する文書は一切保有していない。


キ 本件各開示請求を受けて,処分庁1において,内閣総務官室及び官邸各室の,処分庁2において,副長官補室及びその下にある各室の,それぞれ執務室内の机,書庫,共有フォルダ及び電子メールの探索を行ったが,特定資料を含め,本件対象文書に該当する文書の存在は確認されなかった。


ク なお,処分庁1に対して開示請求がなされた場合,官邸各室も含めて文書の探索を行うこととなるが,上記オの事情により,官邸各室における説明資料等の取得(又は説明等を行った行政機関による回収)の有無,取得した場合の廃棄の経緯等について確実に把握することは困難であるため,原処分1及び原処分2に係る各不開示決定通知書のとおり理由を記載したものであり,こうした理由提示は,不適切とまではいえないものと考えている。


(4)上記(1)のとおり,審査請求人は,令和2年任命に関して,その発令以降である本件対象期間中に作成・取得された文書の開示を求めている。

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対する別件答申(令和5年度(行情)答申第227号及び同第230号並びに令和5年度(行個)答申第5059号等。以下「別件答申」という。)に係る答申書の記載を確認させたところ,本件対象期間中の令和2年12月11日に,参議院予算委員会理事懇談会(以下「本件理事懇談会」という。)が開催され,令和2年任命に関する文書が配布されたことが認められる。

そうすると,処分庁が令和2年任命に関する文書を本件理事懇談会に提出し,又は処分庁の職員が本件理事懇談会に同席する等して令和2年任命に関する会議資料を取得した可能性も考えられ,仮にそうした文書を保有している場合,本件対象文書に該当するものと考えられる。

この点について,当審査会事務局職員をして諮問庁に更に確認させたところ,以下のとおり補足説明する。

(ア)一般論として,国会の予算委員会に係る理事懇談会において,内閣総務官室又は副長官補室が所掌する事務について説明を求められる等の場合は,それぞれの職員が同席したり,関連文書を提出したりすることがある。

しかし,本件理事懇談会においては,内閣総務官室又は副長官補室が所掌する事務について説明を求められる等の事情はなかったことから,その説明に関する事項について,内閣総務官室又は副長官補室の職員は同席しておらず,文書も提出していない。


(イ)内閣総務官室は,内閣官房組織令2条1項9号に基づき,国会との連絡に当たっており,国会の予算委員会理事懇談会が開催される場合,一般論として,当該理事懇談会に文書を提出する行政機関と連携して対応に当たり,国会との連絡に当たる職員が理事懇談会に同席している。その上で,当該理事懇談会で行政機関が配布する資料の提供を受けることがあるが,そうした文書は,当該行政機関においてその正本・原本が管理されるものであるから,内閣官房としては,保存期間を1年未満とすることができる文書管理規則7条9項1号に該当するものとして,当該理事懇談会の終了後,使用目的終了により遅滞なく廃棄する取扱いとしている。

そのため,仮に,本件理事懇談会に提出された文書を取得していたとしても,上記のとおり,当該文書は,内閣府等においてその正本・原本が管理されるものであることから,内閣官房としては,文書管理規則7条9項1号に該当するものとして,本件理事懇談会の終了後,遅滞なく廃棄されたと考えられ,本件各開示請求時点では,当該文書を保有していないものと考えられる。


(ウ)したがって,内閣総務官室又は副長官補室は,本件理事懇談会に提出された令和2年任命に関する文書を保有していない。


(エ)なお,上記(3)キのとおり,官邸各室を含めて探索を行ったが,本件理事懇談会に提出された令和2年任命に関する文書の存在は確認されなかった。


イ 当審査会事務局職員をして,別件答申に係る答申書の記載を確認させたところ,本件対象期間中に,令和2年任命について,総理及び官房長官による国会答弁や官房長官による記者会見,質問主意書に対する答弁書の提出がなされたと認められるところ,仮にこうした国会答弁等に係る想定問答や答弁書案等の文書(以下「本件答弁等文書」という。)を本件各開示請求時点で保有している場合,本件対象文書に該当するものと考えられる。

この点について,当審査会事務局職員をして諮問庁に更に確認させたところ,以下のとおり補足説明する。

(ア)一般論として,内閣総務官室又は副長官補室が所掌する事務について,総理及び官房長官による国会答弁や官房長官による記者会見,質問主意書に対する答弁(以下「答弁・会見」という。)を行う場合は,想定問答や答弁書案等の文書を作成することとなる。

しかし,令和2年任命に関する事務は,内閣府(会員候補者の推薦に関する事務は,日本学術会議)が所掌しており,内閣総務官室又は副長官補室が所掌する事務について答弁・会見を求められる等の事情はなかったことから,本件答弁等文書は,内閣総務官室又は副長官補室は作成していない。


(イ)また,一般論として,答弁・会見のために,総理,官房長官及び副長官は,他の行政機関から想定問答や答弁書案等の文書を取得するが,そうした文書は,当該行政機関においてその正本・原本が管理されるものであることから,内閣官房としては,保存期間を1年未満とすることができる文書管理規則7条9項1号に該当するものとして,当該答弁・会見の終了後,使用目的終了により遅滞なく廃棄する取扱いとしている。

そのため,令和2年任命に関する答弁・会見のために,他の行政機関から取得した本件答弁等文書は,内閣府等においてその正本・原本が管理されるものであることから,内閣官房としては,文書管理規則7条9項1号に該当するものとして,当該答弁・会見の終了後,遅滞なく廃棄されたと考えられ,本件各開示請求時点では,当該文書を保有していないものと考えられる。


(ウ)したがって,内閣総務官室又は副長官補室は,本件答弁等文書を保有していない。


(エ)なお,上記(3)キのとおり,官邸各室を含めて探索を行ったが,本件答弁等文書の存在は確認されなかった。


ウ この他,令和2年任命に関して本件対象期間中に内閣官房が行った事務等について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,本件対象期間中,内閣総務官室及び副長官補室は,上記ア及びイ以外に令和2年任命に関連した事務を実施しておらず,関与もしていない旨説明する。


エ この点について,審査請求人は,上記第2の2(2)において,内閣官房か他省庁かは不明ながら「政府が」作成した特定年月日付けの特定資料が存在する等の情報を入手した旨主張している。

そこで,当審査会事務局職員をして諮問庁に更に確認させたところ,以下のとおり補足説明する。

(ア)本件対象期間中,内閣総務官室及び副長官補室は,上記ア及びイ以外に令和2年任命に関連した事務を実施しておらず,関与もしていないから,特定資料を作成・取得していない。また,仮に官邸各室が政府のいずれかの機関等から説明等を受け,特定資料を取得していたとしても,上記(3)オのとおり,当該文書は,事務を所掌する当該機関等において必要に応じて保存することとされており,内閣官房としては,文書管理規則7条9項1号に該当するものとして,当該説明等の終了後,遅滞なく廃棄されたと考えられ,本件各開示請求時点では,当該文書を保有していないものと考えられる。


(イ)したがって,内閣総務官室及び副長官補室は,特定資料を保有していない。


(ウ)なお,本件各開示請求を受けて,上記(3)キのとおり,官邸各室を含めて探索を行うとともに,本件各審査請求を受け,審査請求人が主張する文書名の資料について,官邸各室を含めて探索を行ったが,特定資料に該当する文書の存在は確認されなかった。


(5)当審査会において,諮問庁から文書管理規則等の提示を受けて確認したところ,以下のとおりであると認められる。

ア 文書管理規則7条9項は,「第1項の保存期間の設定においては,第7項及び前項の規定に該当するものを除き,保存期間を1年未満とすることができる(例えば,次に掲げる類型に該当する文書。)。」と規定し,当該類型として,「別途,正本・原本が管理されている行政文書の写し」等を規定している(同項1号ないし7号)。


イ 文書管理規則11条3項は,「文書管理者は,保存期間を1年未満とする行政文書ファイル等であって,第7条第9項各号に掲げる文書に該当しないものについて,保存期間が満了し,廃棄しようとするときは,同条第7項,第8項及び第10項に該当しないかを確認した上で,廃棄するものとする。」と規定している。

文書管理規則11条4項は,「文書管理者は,前項の規定により廃棄する場合,当該行政文書ファイル等の類型並びに廃棄日若しくは期間を記録し,総括文書管理者があらかじめ指定する期間終了後,速やかに部局総括文書管理者に報告するものとする。」と規定している。


ウ 文書管理規則19条に基づき総括文書管理者が決定した,「内閣官房が保有する保存期間1年未満の行政文書ファイル等の取扱いについて」(以下「本件内規」という。)について

(ア)本件内規の1号は,「内閣官房が保有する行政文書ファイル等のうち,保存期間が1年未満の行政文書ファイル等については,当該行政文書ファイル等を作成し,又は取得した日を保存期間の起算日とし,その使用目的終了後,遅滞なく廃棄するものとする。ただし,当該行政文書ファイル等の使用目的終了後,これを保有することについて合理的な理由があるときは,この限りでない。」と規定している。


(イ)本件内規の2号は,「文書管理者は,規則第11条第3項の規定により行政文書ファイル等を廃棄する場合,別紙様式により当該行政文書ファイル等の類型並びに廃棄日若しくは期間を記録するものとし,同条第4項の総括文書管理者があらかじめ指定する期間は,毎年度4月から6月まで,7月から9月まで,10月から12月まで及び1月から3月までの各区分による期間とする。」と規定している。


(6)以下,検討する。

ア 当審査会において,上記(2)ウの答弁と併せて,上記(3)アないしエの各法令の規定及び令和2年9月の閣議案件を確認したところ,諮問庁の上記(3)ア及びイの説明並びに内閣総務官室及び内閣官房副長官補がそれぞれ所掌又は掌理する事務に関する上記(3)ウ及びエの説明に不自然,不合理な点は認められない。


イ 上記(5)イ及びウのとおり,保存期間を1年未満とする行政文書は,その使用目的終了後,遅滞なく廃棄するものとされており,文書管理規則7条9項各号に掲げる文書に該当するものについて,その廃棄に関する記録等を行うこととする規定は認められない。


ウ 上記アを踏まえると,会員の任命は閣議事項とはされておらず,また,内閣総務官室は,内閣法12条2項4号及び5号の総合調整事務は所掌しておらず,実際に,本件総合調整事務には関与していない旨の上記(3)ウの諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められない。

また,内閣官房副長官補が掌理する総合調整事務には,政策に関連する会議体の人事に関する総合調整も含み得るが,そのような人事に対する副長官補室の関与の程度は,当該政策や当該会議体の内容・性質等によって様々であり,副長官補室は全ての人事の総合調整に関与しているわけではなく,実際に,副長官補室は,令和2年任命に関して,官房長官等並びに内閣府及び日本学術会議事務局から資料や情報の提供を含めて一切説明等を受けておらず,本件総合調整事務には関与していない旨の上記(3)エの諮問庁の説明は,事柄が内閣官房内部における個別具体的な事務の配分に関するものであるところ,上記(2)ア及びウの各答弁その他の令和2年任命の経緯・内容等に鑑みれば,それが令和2年任命における個別の事情としてあり得ないこととまではいえない上,当該説明を覆すに足る事情も認められない中で,これを否定することまではできない。


エ 本件理事懇談会に関する上記(4)ア(ア)の諮問庁の説明に特段不自然,不合理な点は認められない。

加えて,上記ア及びイを踏まえれば,仮に,本件理事懇談会に提出された文書を取得していたとしても,当該文書は,内閣官房としては,文書管理規則7条9項1号に該当するものとして,その終了後,遅滞なく廃棄されたと考えられ,本件各開示請求時点では,当該文書を保有していないものと考えられる旨の上記(4)ア(イ)の諮問庁の説明は,同項の規定に照らして,これを否定することまではできない。


オ 答弁・会見に関する上記(4)イ(ア)の諮問庁の説明に特段不自然,不合理な点は認められない。

加えて,上記ア及びイを踏まえれば,令和2年任命に関する答弁・会見のために,他の行政機関から取得した本件答弁等文書は,内閣官房としては,文書管理規則7条9項1号に該当するものとして,その終了後,遅滞なく廃棄されたと考えられ,本件各開示請求時点では,当該文書を保有していないものと考えられる旨の上記(4)イ(イ)の諮問庁の説明は,同項の規定に照らして,これを否定することまではできない。


カ 上記(4)ウの諮問庁の説明は,上記ア及びウ並びに本件対象期間が令和2年任命の発令以降であることを踏まえれば,特段不自然,不合理な点は認められず,これを覆すに足る事情は認められない。


キ 上記第2の2(2)からは,審査請求人自身,特定資料を所有又は閲覧等してその具体的な内容を把握しているものとはうかがわれず,また,本件各審査請求に当たって,審査請求人から特定資料の写しが提出された等の事情も認められない。

そうすると,特定資料の存在並びにその趣旨及び具体的な内容等は明らかでなく,特定資料が本件対象文書に該当すると認めるに足る事情はうかがわれない。

その上で,仮にそのような文書が存在し,かつ,本件対象文書に該当するとしても,上記カを踏まえれば,内閣総務官室及び副長官補室は,特定資料を作成・取得していない旨の上記(4)エ(ア)の諮問庁の説明に特段不自然,不合理な点は認められない。

加えて,上記ア及びイを踏まえれば,仮に官邸各室が政府のいずれかの機関等から説明等を受け,特定資料を取得していたとしても,当該文書は,内閣官房としては,文書管理規則7条9項1号に該当するものとして,当該説明等の終了後,遅滞なく廃棄されたと考えられ,本件各開示請求時点では,当該文書を保有していないものと考えられる旨の上記(4)エ(ア)の諮問庁の説明は,同項の規定に照らして,これを否定することまではできない。


ク 以上を踏まえると,内閣総務官室及び副長官補室において,本件対象文書を保有していない旨の諮問庁の上記(3)カの説明に特段不自然,不合理な点は認められない。


ケ これに加え,上記(3)キ及び上記(4)エ(ウ)の探索の範囲等も不十分とはいえず,この外に,内閣総務官室及び副長官補室において本件対象文書を保有していると認めるに足る事情もうかがわれない。


コ したがって,内閣総務官室及び副長官補室において,本件対象文書を保有しているとは認められない。


3 審査請求人のその他の主張について

(1)審査請求人は,上記第2の2(3)のとおり,原処分の理由の提示に不備がある旨主張するので,以下,検討する。

ア 原処分1及び原処分2に係る各不開示決定通知書の「2 不開示とした理由」欄には,「本件対象文書については,保有していないため(不存在)」と記載されており,その事情について,諮問庁は,上記2(3)クのとおり説明する。

一般に,文書の不存在を理由とする不開示決定に際しては,単に対象文書が不存在であるという事実を示すだけでは足りず,対象文書を作成又は取得していないのか,あるいは作成又は取得した後に廃棄又は亡失したのかなど,なぜ当該文書が存在しないかについても理由として付記することが求められる。

したがって,原処分1及び原処分2における理由付記は,これらを取り消すべき瑕疵があるとまでは認められないものの,行政手続法8条1項の趣旨に照らし,適切さを欠くものであり,処分庁1においては,今後の対応において,上記の点につき留意すべきである。


イ 原処分3及び原処分4に係る各不開示決定通知書の「2 不開示とした理由」欄には,「当該文書について,作成及び取得をしておらず保有していないため(不存在)。」と記載されており,理由付記に不備があるとは認められない。

なお,審査請求人は,文書を作成・取得しなかった経緯も明らかにするよう求めているものと解されるが,法は,対象文書の不存在を理由とした不開示決定に当たり,その理由として,当該文書を保有していない理由に至るまでの経緯を記載することまで義務付けておらず,審査請求人の主張は採用できない。


(2)審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件各不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,これを保有していないとして不開示とした各決定については,内閣官房内閣総務官室及び内閣官房副長官補において本件対象文書を保有しているとは認められず,妥当であると判断した。


(第4部会)

委員 小林昭彦,委員 常岡孝好,委員 野田 崇





別表

1 諮問番号

2 処分庁

3 原処分の年月日等

4 本件対象文書

令和4年(行情)諮問第215号

内閣官房内閣総務官(処分庁1)

令和3年11月24日付け閣総第1011号(原処分1)

内閣官房において,2020年10月から同年12月までに,日本学術会議任命問題に関して作成・取得した一切の文書。(本件対象文書1)

令和3年11月24日付け閣総第1012号(原処分2)

内閣官房において,2021年1月から本開示請求受付の日までに,日本学術会議任命問題に関して作成・取得した一切の文書。(本件対象文書2)

令和4年(行情)諮問第216号

内閣官房副長官補(処分庁2)

令和3年11月22日付け閣副第1884号(原処分3)

内閣官房において,2021年1月から本開示請求受付の日までに,日本学術会議任命問題に関して作成・取得した一切の文書。(本件対象文書3)

令和3年11月22日付け閣副第1885号(原処分4)

内閣官房において,2020年10月から同年12月までに,日本学術会議任命問題に関して作成・取得した一切の文書。(本件対象文書4)