諮問庁 内閣総理大臣
諮問日 令和 3年 5月17日(令和3年(行情)諮問第188号及び同第191号)
答申日 令和 5年 8月 7日(令和5年度(行情)答申第225号及び同第226号)
事件名 特定年の日本学術会議の会員任命に関して行われた打合せ等の記録の不開示決定(不存在)に関する件
特定年の日本学術会議の会員任命に関して行われた打合せ等の記録の不開示決定(不存在)に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「内閣官房行政文書管理規則第6条第3項に定める打ち合わせ等の記録のうち,2020年の日本学術会議の会員任命に関して行われたもの」(以下「本件対象文書」という。)につき,これを保有していないとして不開示とした各決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく各開示請求に対し,令和2年12月11日付け閣総第858号により内閣官房内閣総務官(以下「処分庁1」という。)が行った不開示決定(以下「原処分1」という。)及び同年11月16日付け閣副第1476号により内閣官房副長官補(以下「処分庁2」といい,処分庁1と併せて「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分2」といい,原処分1と併せて「原処分」という。)を取り消すとの決定を求める。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由は,各審査請求書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)審査請求人は,2020年10月14日付けで,処分庁に対し法に基づき本件対象文書の開示を請求した。


(2)処分庁1は,2020年12月11日付けで,本件対象文書を不開示とする決定を行った。

処分庁2は,同年11月16日付けで,本件対象文書を不開示とする決定を行った。


(3)原処分1の理由として,以下の記載があった。

本件対象文書については,保有していないため(不存在)。

原処分2の理由として,以下の記載があった。

当該文書について,作成及び取得をしておらず保有していないため(不存在)。


(4)原処分1は,以下のことから妥当ではない。

ア 本件請求は,内閣官房行政文書管理規則(以下「文書管理規則」という。)6条3項の定める「打ち合わせ等の記録」に該当するものを具体的に特定して行っている。「打ち合わせ等の記録」は,公文書管理法4条の定める文書の作成義務の範囲を明確にするために設けられたものであり,文書管理規則では「本府内部の打合せや本府外部の者との折衝等を含め,別表第1に掲げる事項に関する業務に係る政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等」(原文ママ)について記録を文書として作成することを義務付けている。


イ 処分庁1は,開示請求に係る行政文書を作成,取得,保有していないとしている(原文ママ)が,日本学術会議の会員の任命にかかる処分庁1内外との折衝等を含めた打ち合わせ等は,政策立案や事務事業の実施方針等に影響を及ぼすものであることは疑問の余地のないことである。したがって,処分庁1は単に当該文書を保有していないとするだけでなく,打ち合わせ等の記録作成を要する打ち合わせ等が実施されているのか否かを明らかにする必要があり,また,実施されている場合に打ち合わせ等の記録が規則の定める義務に従って作成したのか否かなどを具体的に特定して理由を説明しなければならない。こうした理由説明なしに,文書管理規則が義務として定める打ち合わせ等の記録が存在しないと極めて不自然ともいえる,日本学術会議の会員の任命という人事にかかる打ち合わせ等の記録を漫然と存在しないとすることは許されず,また文書管理規則からすれば本件請求対象となる記録は作成されていなければならない。


(5)原処分2は,以下のことから妥当ではない。

ア 上記(4)アに同旨。


イ 処分庁2は,開示請求に係る行政文書を作成,取得,保有していないとしているが,日本学術会議の会員の任命にかかる処分庁2内外との折衝等を含めた打ち合わせ等は,政策立案や事務事業の実施方針等に影響を及ぼすものであることは疑問の余地のないことである。したがって,処分庁2は単に当該文書を作成,取得,保有していないとするだけでなく,打ち合わせ等の記録作成を要する打ち合わせ等が実施されているのか否かを明らかにする必要があり,また,実施されている場合に打ち合わせ等の記録が規則の定める義務に従って作成したのか否かなどを具体的に特定して理由を説明しなければならない。こうした理由説明なしに,文書管理規則が義務として定める打ち合わせ等の記録が存在しないと極めて不自然ともいえる,日本学術会議の会員の任命という人事にかかる打ち合わせ等の記録を漫然と存在しないとすることは許されず,また文書管理規則からすれば本件請求対象となる記録は作成されていなければならない。


(6)以上のとおり,原処分は法の解釈,運用を誤ったものである。よって,その取消しを求めるため,本審査請求を行った。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 理由説明書1(令和3年(行情)諮問第188号)

(1)本件審査請求の趣旨について

本件は,審査請求人が2020年10月14日付けで行った本件対象文書の開示請求に対して,処分庁1において,本件対象文書を保有していないことから,法9条2項の規定に基づき,不存在を理由として原処分1を行ったところ,審査請求人から原処分1の取消しを求めて審査請求が提起されたものである。


(2)審査請求人の主張について

審査請求人は,審査請求の理由として,「日本学術会議の会員の任命にかかる処分庁1内外との折衝等を含めた打ち合わせ等は,政策立案や事務事業の実施方針等に影響を及ぼすものであることは疑問の余地のないことである。したがって,処分庁1は単に当該文書を保有していないとするだけでなく,打ち合わせ等の記録作成を要する打ち合わせ等が実施されているのか否かを明らかにする必要があり,また,実施されている場合に打ち合わせ等の記録が規則の定める義務に従って作成したのか否かなどを具体的に特定して理由を説明しなければならない。こうした理由説明なしに,文書管理規則が義務として定める打ち合わせ等の記録が存在しないと極めて不自然ともいえる,日本学術会議の会員の任命という人事にかかる打ち合わせ等の記録を漫然と存在しないとすることは許されず,また文書管理規則からすれば本件請求対象となる記録は作成されていなければならない」と主張している。


(3)原処分1の妥当性について

公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第66号。以下「公文書管理法」という。)4条及び行政文書の管理に関するガイドライン(平成23年4月1日内閣総理大臣決定。以下「文書管理ガイドライン」という。)は,行政機関の職員に対し,当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう,当該行政機関の文書管理規則の別表第1に掲げる事項に関する業務に係る政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等(以下,本項において「打合せ等」という。)の記録を作成することを求めていると解されるところ,本件開示請求にある「2020年の日本学術会議の会員任命」に係る事務は,処分庁1において所掌しておらず,打合せ等の記録は,処分庁1において作成していないことから,審査請求人の主張は事実誤認に基づくものである。

なお,前述にかかわらず,処分庁1は,原処分1に当たって,念のため文書の探索を行っているが,本件対象文書に該当する文書の存在は確認できなかった。

したがって,文書を保有していないことを理由に不開示決定を行った原処分1は妥当である。


(4)結語

以上のとおり,本件審査請求については,審査請求人の主張は当たらず,原処分は維持されるべきである。


2 理由説明書2(令和3年(行情)諮問第191号)

(1)本件審査請求の趣旨について

本件は,審査請求人が行った本件対象文書の開示請求に対して,処分庁2において,本件対象文書を保有していないことから,法9条2項の規定に基づき,不存在を理由として原処分2を行ったところ,審査請求人から原処分2の取消しを求めて審査請求が提起されたものである。


(2)審査請求人の主張及び原処分2の妥当性について

審査請求人は,日本学術会議の会員の任命にかかる打ち合わせ等は,政策立案や事務事業の実施方針等に影響を及ぼすものであるため,その記録は文書管理規則に基づき作成されていなければならないものである旨主張している。

しかしながら,本件は他の省庁の所管に係るものであって処分庁2においては本件対象文書の作成又は取得を行っておらず,審査請求人の主張は事実誤認に基づくものである。

なお,前述にかかわらず,処分庁2は,原処分2に当たっては,念のため文書の探索を行っているが,本件対象文書に該当する文書の存在は確認できなかった。

加えて,審査請求人に対して原処分2を行う前に,本件対象文書を保有していないため,開示請求を維持された場合,法9条2項の規定に基づき不開示決定を行うことを説明している。

したがって,文書を保有していないことを理由に不開示決定を行った原処分2は妥当である。


(3)結語

上記1(4)に同旨。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件各諮問事件について,以下のとおり,併合し,調査審議を行った。

① 令和3年5月17日   諮問の受理(令和3年(行情)諮問第188号及び同第191号)

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受(同上)

③ 令和4年6月16日   審議(同上)

④ 同年7月28日     審議(同上)

⑤ 令和5年4月17日   委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議(同上)

⑥ 同月20日       審議(同上)

⑦ 同年5月15日     審議(同上)

⑧ 同月31日       審議(同上)

⑨ 同年6月28日     審議(同上)

⑩ 同年7月13日     審議(同上)

⑪ 同年8月2日      令和3年(行情)諮問第188号及び同第191号の併合並びに審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件各開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,これを保有していないとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,原処分の取消しを求めているが,諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の保有の有無について検討する。


2 本件対象文書の保有の有無について

(1)当審査会において,諮問庁から文書管理規則の提示を受けて,同規則及び文書管理ガイドラインを確認したところ,以下のとおりであると認められる。

ア 文書管理規則6条1項は,「職員は,文書管理者の指示に従い,公文書管理法第4条の規定に基づき,同法第1条の目的の達成に資するため,内閣官房における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに内閣官房の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう,処理に係る事案が軽微なものである場合を除き,文書を作成しなければならない。」と規定している。

文書管理規則6条2項は,「前項の場合において,別表第1に掲げられた業務については,当該業務の経緯に応じ,同表の行政文書の類型を参酌して,文書を作成するものとする。」と規定している。

文書管理規則6条3項は,「第1項に基づき,内閣官房内部の打合せや内閣官房外部の者との折衝等を含め,別表第1に掲げる事項に関する業務に係る政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等(以下「打合せ等」という。)の記録については,文書を作成するものとする。」と規定している。


イ 文書管理規則7条8項は,「第1項の保存期間の設定及び保存期間表においては,歴史公文書等に該当しないものであっても,行政が適正かつ効率的に運営され,国民に説明する責務が全うされるよう,意思決定過程や事務及び事業の実績の合理的な跡付けや検証に必要となる行政文書については,原則として1年以上の保存期間を定めるものとする。」と規定している。

文書管理規則7条10項は,「第1項の保存期間の設定においては,通常は1年未満の保存期間を設定する類型の行政文書であっても,重要又は異例な事項に関する情報を含む場合など,合理的な跡付けや検証に必要となる行政文書については,1年以上の保存期間を設定するものとする。」と規定している。


ウ 文書管理規則の別表第1(以下「規則別表第1」という。)の備考五は,「本表が適用されない行政文書については,文書管理者は,本表の規定を参酌し,当該文書管理者が所掌する事務及び事業の性質,内容等に応じた保存期間基準を定めるものとする。」と規定している。


(2)諮問庁は,内閣官房内閣総務官室(以下,本項において「内閣総務官室」という。)及び内閣官房副長官補(内政担当・外政担当)(以下,本項において「副長官補室」という。)における本件対象文書の保有の有無について,上記第3の1(3)及び2(2)のとおり説明する。

そこで,令和2年10月1日付けの日本学術会議会員の任命(以下「令和2年任命」という。)について,当審査会において国会会議録を確認したところ,以下の答弁の存在が認められる。

ア 内閣総理大臣(以下「総理」という。)が,内閣官房長官(以下「官房長官」という。)及び内閣官房副長官(以下「副長官」といい,官房長官と併せて「官房長官等」という。)に対して懸念を伝え,副長官が総理に相談を行い,総理が任命権者として判断し,その判断を副長官が内閣府に伝達した旨の答弁。


イ 日本学術会議による会員候補者の推薦前に,事務局を介して,日本学術会議会長と任命権者との間で意見交換が行われた旨の答弁。


ウ 副長官は,命を受けて内閣官房の事務をつかさどるとされており,事務の副長官は,総理による特別職国家公務員の任命等,各府省の人事に関する事務に対して内閣として一貫性を確保する上で必要な総合調整を行うよう指示を受けて,総合調整を行った旨の答弁。


エ 日本学術会議から総理に推薦された会員候補者が任命されないという例は,令和2年任命までなかった旨の答弁。


オ 日本学術会議から推薦された会員候補者がそのまま任命されてきた前例を踏襲していいのかどうか悩みに悩んだ旨の総理答弁。


(3)上記(2)の各答弁も踏まえ,令和2年任命に関する内閣官房の事務の位置付け等について,当審査会事務局職員をして改めて諮問庁に確認させたところ,以下のとおり説明する。

ア 日本学術会議会員(以下「会員」という。)は,その候補者を日本学術会議が推薦し,当該推薦に基づいて総理が任命するものである(日本学術会議法7条2項及び17条)。

日本学術会議は,内閣府に置かれた特別の機関(内閣府設置法40条3項)であって,その構成員である会員の任命は,内閣府の長たる総理が行うものであり,閣議事項とはされておらず,当該任命に関する事務は,「内閣府の職員の任免」に関することとして内閣府大臣官房が所掌している(内閣府本府組織令2条7号)。


イ 内閣府の長たる総理が令和2年任命を行うに際し官房長官等が行った内閣官房の事務は,各府省の人事に関する事務(内閣人事局の所掌に属するものを除く。以下同じ。)に対して,内閣として一貫性を確保する上で必要な総合調整を行うものであり,内閣法12条2項4号及び5号に基づくものである。


ウ 内閣総務官室は,内閣法12条2項に掲げる内閣官房の事務のうち,同項1号の「閣議事項の整理その他内閣の庶務」(具体的には,内閣官房組織令2条1項各号に掲げる事務。)のみを所掌しており,同法12条2項4号及び5号の総合調整事務は所掌しておらず,実際に,令和2年任命に関して官房長官等が行った総合調整事務(以下「本件総合調整事務」という。)には関与していないため,本件対象文書を作成・取得していない。


エ 内閣官房副長官補は,命を受けて内閣官房が行う内閣の重要政策に係る企画立案・総合調整事務(内閣法12条2項2号ないし5号の事務)を掌理するとされており(同法17条),当該事務には,政策に関する総合調整の外,当該政策に関連する会議体の人事に関する総合調整も含み得るが,そのような人事に対する副長官補室の関与の程度は,当該政策や当該会議体の内容・性質等によって様々であり,副長官補室は全ての人事の総合調整に関与しているわけではない。

実際に,副長官補室は,令和2年任命に関して,官房長官等並びに内閣府及び日本学術会議事務局から資料や情報の提供を含めて一切説明等を受けておらず,本件総合調整事務には関与していないため,本件対象文書を作成・取得していない。


オ 本件各開示請求を受けて,処分庁1において,内閣総務官室及び総理大臣官邸各室(以下「官邸各室」という。)の,処分庁2において,副長官補室及びその下にある各室の,それぞれ執務室内の机,書庫,共有フォルダ及び電子メールの探索を行ったが,本件対象文書に該当する文書の存在は確認されなかった。


カ 内閣総務官室及び副長官補室は,本件総合調整事務には関与していないため,令和2年任命に至る過程で,杉田副長官,官房長官又は総理が,内閣府又は日本学術会議から説明等を受けたか否かについては,確認する立場にない。

そのため,諮問庁は,本件各審査請求を受けて,念のため,改めて,内閣総務官室,官邸各室並びに副長官補室及びその下にある各室の,それぞれ執務室内の机,書庫,共有フォルダ及び電子メールについて内閣総務官室及び副長官補室に探索を依頼したが,本件対象文書に該当する文書の存在は確認できなかった。


キ 総理,官房長官及び副長官が,各行政機関から,当該行政機関の事務等について説明や報告を受けた場合であって,それが当該行政機関の政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等であるとき等の要件に該当する場合には,その記録については,公文書管理法及び文書管理ガイドラインを踏まえ当該行政機関が定める行政文書管理規則の規定に基づき,当該行政機関の責任において,文書を作成することとされている。

このため,公文書管理法及び文書管理ガイドライン上,令和2年任命に関して必要な文書については,会員の任命に関する事務(以下「会員任命事務」という。)を担当する内閣府において(会員候補者の推薦に関して必要な文書については,推薦に関する事務を担当する日本学術会議において),作成されることになり,総理,官房長官及び副長官との打合せや総理,官房長官及び副長官からの伝達があれば,内閣府等において,必要に応じて意思決定に至る過程を合理的に跡付け・検証ができる文書を作成・保存するものであり,内閣官房においてはそのような文書は作成・保有していない。

なお,上記(2)アの答弁で言及された,令和2年任命に関する総理と副長官との相談については,その主たる目的は会員の任命という内閣府の事務に係るものであり,当該相談の結果である総理の判断は内閣府に伝えられ,内閣府において,伝えられたことの記録も含め,意思決定に至る過程を合理的に跡付け・検証ができる文書を作成・保存しており,内閣官房においてはそのような文書は作成・保有していない。


ク 本件総合調整事務は,その内容・性質等から,規則別表第1に掲げられた業務には該当しないと認識している。

なお,会員任命事務は内閣府が所掌しており,官房長官等が会員の任命について説明や報告を受けた場合であって,それが当該事務に影響を及ぼす打合せ等であるとき等の場合には,その記録については,内閣府における意思決定に至る過程等を合理的に跡付け・検証することができるよう,内閣府において必要に応じ文書を作成・保存するものである。


(4)以下,検討する。

ア 当審査会において,上記(2)ウの答弁と併せて,上記(3)アないしエの各法令の規定及び令和2年9月の閣議案件を確認したところ,諮問庁の上記(3)ア及びイの説明並びに内閣総務官室及び内閣官房副長官補がそれぞれ所掌又は掌理する事務に関する上記(3)ウ及びエの説明に不自然,不合理な点は認められない。


イ 上記アを踏まえると,会員の任命は閣議事項とはされておらず,また,内閣総務官室は,内閣法12条2項4号及び5号の総合調整事務は所掌しておらず,実際に,本件総合調整事務には関与していない旨の上記(3)ウの諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められない。

また,内閣官房副長官補が掌理する総合調整事務には,政策に関連する会議体の人事に関する総合調整も含み得るが,そのような人事に対する副長官補室の関与の程度は,当該政策や当該会議体の内容・性質等によって様々であり,副長官補室は全ての人事の総合調整に関与しているわけではなく,実際に,副長官補室は,令和2年任命に関して,官房長官等並びに内閣府及び日本学術会議事務局から資料や情報の提供を含めて一切説明等を受けておらず,本件総合調整事務には関与していない旨の上記(3)エの諮問庁の説明は,事柄が内閣官房内部における個別具体的な事務の配分に関するものであるところ,上記(2)ア及びウの各答弁その他の令和2年任命の経緯・内容等に鑑みれば,それが令和2年任命における個別の事情としてあり得ないこととまではいえない上,当該説明を覆すに足る事情も認められない中で,これを否定することまではできない。

そうすると,内閣総務官室及び副長官補室に属する職員において,令和2年任命までの間に,本件対象文書を作成・取得したと認めるべき事情が存するとまではいえない。


ウ 諮問庁は,上記第3の1(3)及び2(2)並びに上記(3)キ及びクのとおり,令和2年任命に関しては,会員任命事務を担当する内閣府において,その意思決定過程等を合理的に跡付け・検証できるよう文書を作成・保存するものである旨,内閣官房の職員たる副長官が行った総理との相談についても,その主たる目的が会員任命事務に係るものであり,内閣府において文書を作成・保存しており,内閣官房においては文書を作成・保存していない旨,令和2年任命に関して行われた内閣官房の本件総合調整事務は,規則別表第1に掲げる業務には該当しない旨説明する。

(ア)当該説明からは,諮問庁は,令和2年任命に関する文書は担当する内閣府において作成・保存するものであること,本件総合調整事務の主たる目的が内閣府の所掌事務に係るものであること等を理由に,内閣官房が行った本件総合調整事務について,内閣官房において,その跡付け・検証文書を作成・保存することを要さないとする考え方に立脚していることがうかがわれる。


(イ)文書管理規則6条2項及び3項は,規則別表第1に掲げられた業務に関して,同条1項及び公文書管理法4条に基づく文書の作成を徹底する等の趣旨の規定と解され,また,上記(1)ウのとおり,文書管理規則においては,規則別表第1が適用されない行政文書についても,その作成・取得及び保存が想定されている。

したがって,本件総合調整事務の主たる目的が内閣府の所掌事務に係るものであったり,仮に規則別表第1に掲げられた業務に該当しないものであったりしても,そのことのみをもって,当該事務についての跡付け・検証文書の作成等を要さなくなるものとは解されないから,本件における上記(ア)の考え方は妥当であるとはいえず,内閣官房においては,公文書管理法等に基づき本件総合調整事務に係る跡付け・検証文書を作成等する上で前提となる法的判断が不十分であったものと解さざるを得ない。


(ウ)以上を踏まえると,本件において,確認し得た範囲の事実関係の下では,任命しない会員候補者の選定の過程で,杉田副長官等並びに内閣総務官室及び副長官補室において,本件対象文書を作成等したと直接的に裏付ける事情や,それをうかがわせる具体的な事情は認められないといわざるを得ない上,上記(ア)及び(イ)の事情からも,内閣官房において,実際にかかる文書を作成等したものと認めることはできない。

さらに,上記(3)オ及びカの探索の範囲等も不十分とはいえず,以上を勘案すると,内閣官房において,本件対象文書を作成・取得し,本件各開示請求時点において保有していると認めるべき事情が存するとまではいえないといわざるを得ない。


エ したがって,内閣総務官室及び副長官補室において,本件対象文書を保有しているとは認められない。


3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 付言

(1)原処分1に係る行政文書不開示決定通知書には,「2 不開示とした理由」欄に,「本件対象文書については,保有していないため(不存在)。」と記載されているところ,一般に,文書の不存在を理由とする不開示決定に際しては,単に対象文書が不存在であるという事実を示すだけでは足りず,対象文書を作成又は取得していないのか,あるいは作成又は取得した後に廃棄又は亡失したのかなど,なぜ当該文書が存在しないかについても理由として付記することが求められる。

したがって,原処分1における理由付記は,行政手続法8条1項の趣旨に照らし,適切さを欠くものであり,処分庁1においては,今後の対応において,上記の点につき留意すべきである。


(2)公文書管理法は,その目的に「行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに,国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすること」を定め(1条),「第1条の目的の達成に資するため,当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう」文書を作成しなければならない旨の文書主義の原則(4条本文)を定めるとともに,文書を作成すべき事項として,「職員の人事に関する事項」(同条5号)を例示している。

そして,上記2のとおり,令和2年任命に関して行われた本件総合調整事務は,内閣法12条2項4号及び5号の規定に基づき,各府省の人事に関する事務に対して,内閣として一貫性を確保する上で必要な内閣官房の事務として行われている。

会員は,優れた研究又は業績がある科学者のうちからその候補者を日本学術会議が選考して総理に推薦し,当該推薦に基づいて総理が任命することとされており(日本学術会議法7条2項及び17条),当該選考の手続においては,会員候補者の名簿に基づき,最高議決機関である総会の承認を得ることとされている(日本学術会議会則8条3項)。

このように,会員の任命行為の前提として,法律上,日本学術会議による会員候補者の選考・推薦行為が定められており,総理に推薦された会員候補者は,その時点で行政機関による一次的な意思決定を経ていることとなる。そして,そのような会員候補者を任命しないという判断は,任命の対象者を,法律上の要件に基づき行政機関である日本学術会議の意思決定を経て行われた推薦とは異なるものとする内容及び性質のものである上,過去に例はなく,総理自身が悩みに悩んだというものであるところ,副長官による総理との相談を含む内閣官房の本件総合調整事務は,このような判断に至る過程で行われたものである。

そうすると,上記2(4)ウ(イ)も併せ鑑みれば,内閣官房においては,本来,公文書管理法の目的の達成に資するため,公文書管理法4条及び文書管理規則6条に基づいて,本件総合調整事務について,経緯も含めた意思決定過程及び事務の実績を合理的に跡付け・検証することができるよう,文書を作成し,保存することが求められていたといえるところ,そのような文書が作成・保存されなかったことについては,妥当性を問われるものといわざるを得ず,今後は,公文書管理法及び文書管理規則に基づき適切に対応されたい。


5 本件各不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,これを保有していないとして不開示とした各決定については,内閣官房内閣総務官室及び内閣官房副長官補において本件対象文書を保有しているとは認められず,妥当であると判断した。


(第4部会)

委員 小林昭彦,委員 常岡孝好,委員 野田 崇