諮問庁 内閣総理大臣
諮問日 令和 3年 4月27日(令和3年(行情)諮問第169号)
答申日 令和 5年 8月 7日(令和5年度(行情)答申第224号)
事件名 特定年の日本学術会議の会員任命に関して行われた打合せ等の記録の不開示決定(不存在)に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「内閣府行政文書管理規則第12条第2項に定める打ち合わせ等の記録のうち,2020年の日本学術会議の会員任命に関して行われたもの」(以下「本件対象文書」という。)につき,これを保有していないとして不開示とした決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和2年12月15日付け府日学第1682号により内閣府日本学術会議事務局長(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)を取り消すとの決定を求める。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)審査請求人は,2020年10月15日付けで,処分庁に対し法に基づき本件対象文書の開示を請求した。


(2)処分庁は,2020年12月15日付けで,本件対象文書を不開示とする決定を行った。


(3)原処分の理由として,以下の記載があった。

開示請求に係る行政文書を作成,取得しておらず,保有していないため,不開示とする。


(4)原処分は,以下のことから妥当ではない。

ア 本件請求は,内閣府行政文書管理規則(以下「本件規則」という。)12条2項の定める「打ち合わせ等の記録」に該当するものを具体的に特定して行っている。「打ち合わせ等の記録」は,公文書管理法4条の定める文書の作成義務の範囲を明確にするために設けられたものであり,本件規則では「本府内部の打合せや本府外部の者との折衝等を含め,別表第1に掲げる事項に関する業務に係る政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等」について記録を文書として作成することを義務付けている。


イ 処分庁は,開示請求に係る行政文書を作成,取得,保有していないとしているが,日本学術会議の会員の任命にかかる処分庁内外との折衝等を含めた打ち合わせ等は,政策立案や事務事業の実施方針等に影響を及ぼすものであることは疑問の余地のないことである。したがって,処分庁は単に当該文書を作成,取得,保有していないとするだけでなく,打ち合わせ等の記録作成を要する打ち合わせ等が実施されているのか否かを明らかにする必要があり,また,実施されている場合に打ち合わせ等の記録が規則の定める義務に従って作成したのか否かなどを具体的に特定して理由を説明しなければならない。こうした理由説明なしに,本件規則が義務として定める打ち合わせ等の記録が存在しないと極めて不自然ともいえる,日本学術会議の会員の任命という人事にかかる打ち合わせ等の記録を漫然と存在しないとすることは許されず,また本件規則からすれば本件請求対象となる記録は作成されていなければならない。


(5)以上のとおり,原処分は法の解釈,運用を誤ったものである。よって,その取消しを求めるため,本審査請求を行った。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 本件審査請求の趣旨及び理由について

(1)審査請求の趣旨

本件は,審査請求人が行った開示請求に対して,処分庁において原処分を行ったところ,審査請求人から,原処分の取り消しを求める審査請求が提起されたものである。


(2)審査請求の理由

審査請求書に記載された本件審査請求の理由は,上記第2の2(4)イ及び(5)のとおりである。


2 本件開示請求及び原処分について

処分庁においては,「内閣府行政文書管理規則第12条第2項に定める打ち合わせ等の記録のうち,2020年の日本学術会議の会員任命に関して行われたもの」との開示請求に対し,該当する行政文書を保有していないため,不開示とする原処分を行った。


3 原処分の妥当性について

審査請求人は,日本学術会議の会員の任命にかかる処分庁内外との折衝等を含めた打合せ等は,政策立案や事務事業の実施方針等に影響を及ぼすものであることは疑問の余地はない等と主張するが,日本学術会議会員の任命に関する事務については,内閣府本府組織令(平成12年政令第245号)2条7号の規定に基づき大臣官房が所掌しており,処分庁においては,日本学術会議会員の任命に関する打合せ等を行った事実はない。処分庁においては,原処分を行うに当たり,念のため対象文書に相当すると考えられる文書の探索を行っており,さらに本審査請求を受けて改めて事務局の執務室内を探索したが,本件対象文書に相当すると考えられる行政文書を保有しているとは認められなかった。


4 結論

以上のとおり,原処分は妥当であり,審査請求人の主張には理由がないことから,本件審査請求は,これを棄却することが妥当であると考える。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和3年4月27日   諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 令和4年6月16日   審議

④ 同年7月28日     審議

⑤ 令和5年4月17日   委員の交代に伴う所要の手続の実施及び審議

⑥ 同月20日       審議

⑦ 同年5月15日     審議

⑧ 同月31日       審議

⑨ 同年6月28日     審議

⑩ 同年7月13日     審議

⑪ 同年8月2日      審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,これを保有していないとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,原処分の取消しを求めているが,諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の保有の有無について検討する。


2 令和2年任命の経緯等について

(1)令和2年10月1日付けの日本学術会議会員の任命(以下「令和2年任命」という。)について,当審査会において国会会議録を確認したところ,以下の答弁の存在が認められる。

ア 内閣総理大臣(以下「総理」という。)が,内閣官房長官(以下「官房長官」という。)及び内閣官房副長官(以下「副長官」といい,官房長官と併せて「官房長官等」という。)に対して懸念を伝え,副長官が総理に相談を行い,総理が任命権者として判断し,その判断を副長官が内閣府に伝達した旨の答弁。


イ 日本学術会議による会員候補者の推薦前に,事務局を介して,日本学術会議会長と任命権者との間で意見交換が行われた旨の答弁。


ウ 日本学術会議事務局において,令和2年任命の結果に関する連絡を内閣府から受け,また,当該結果に関する連絡を日本学術会議会長等に対して行ったとみられる内容の答弁。


(2)上記(1)の各答弁も踏まえ,令和2年任命に関する事務の位置付け及び経緯について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,以下のとおり説明する。

ア 日本学術会議会員(以下「会員」という。)は,その候補者を日本学術会議が推薦し,当該推薦に基づいて総理が任命するものである(日本学術会議法7条2項及び17条)。

日本学術会議は,内閣府に置かれた特別の機関(内閣府設置法40条3項)であって,その構成員である会員の任命は,内閣府の長たる総理が行うものであり,当該任命に関する事務は,「内閣府の職員の任免」に関することとして内閣府大臣官房が所掌している(内閣府本府組織令2条7号)。

日本学術会議事務局は,日本学術会議法16条1項に基づき,日本学術会議に関する事務を処理させるために日本学術会議に設置された事務局であり,その所掌事務には,日本学術会議が行う会員の選考に関する事務及び人事に関する事務が含まれる(日本学術会議事務局組織規則4条12号及び5条4号)が,これらは,具体的には,会員等に対する会員候補者の推薦依頼及び推薦の取りまとめ,会員候補者の選考から総理への推薦決定までの手続,会員候補者の総理への推薦並びに会員任命後の委員会委員の会長による委嘱に関する手続等の事務であり,総理が行う会員の任命に関する事務(以下「会員任命事務」という。)は所掌していない。


イ 令和2年任命に係る事務の経緯としては,日本学術会議が,会員候補者について,現会員・現連携会員からの推薦及び協力学術研究団体からの情報提供を踏まえ,日本学術会議選考委員会(選考分科会を含む。)において選考を行い,日本学術会議総会の議を経て,会長が総理に会員の任命を求め,また,日本学術会議事務局から,推薦前に,上記(1)イの意見交換において,任命権者側に,会員改選に向けた状況等を説明している。そして,菅総理が,官房長官であった当時から,杉田副長官に日本学術会議に関する懸念点を伝えて,また,令和2年9月16日に総理に就任した後も,杉田副長官に当該懸念点を改めて伝え,その後,杉田副長官が菅総理に相談をし,同月24日に内閣府において決裁文書が起案されるまでの間に,杉田副長官から,会員の任命に係る菅総理の判断が内閣府に伝えられている。


3 本件対象文書の保有の有無について

(1)当審査会において,諮問庁から内閣府本府行政文書管理規則(以下「文書管理規則」という。)の提示を受けて確認したところ,以下のとおりであると認められる。

ア 文書管理規則11条は,「職員は,文書管理者の指示に従い,法(当審査会注:公文書等の管理に関する法律を指す。)第4条の規定に基づき,法第1条の目的の達成に資するため,本府における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに本府の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう,処理に係る事案が軽微なものである場合を除き,文書を作成しなければならない。」と規定している。


イ 文書管理規則12条2項は,「前条の文書主義の原則に基づき,本府内部の打合せや本府外部の者との折衝等を含め,別表第1に掲げる事項に関する業務に係る政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等(以下「打合せ等」という。)の記録については,文書を作成するものとする。」と規定している。


(2)諮問庁は,本件対象文書の保有の有無について,上記第3の3のとおり説明するところ,当審査会事務局職員をして諮問庁に改めて確認させたところ,以下のとおり説明する。

ア 上記2(2)アのとおり,日本学術会議事務局は会員任命事務を所掌していないため,令和2年任命に関する打合せ等の記録は作成・取得しておらず,本件対象文書は保有していない。


イ 上記2(1)イの意見交換については,日本学術会議事務局の事務の実績の合理的な跡付け・検証に必要なものとして,その資料を作成・取得し,保有しているが,当該資料は日本学術会議の会員候補者の推薦を行う事務において作成・取得したものであることから,令和2年任命に関する打合せ等の記録を対象とする本件開示請求の特定の対象とはならなかったものである。


ウ 上記2(1)ウの各連絡は,いずれも,任命権者が決定した,内閣府大臣官房が所掌する会員の任命に係る事実関係を伝達するものであり,日本学術会議の会員候補者の推薦に関する日本学術会議事務局の意思決定過程又は事務・事業の実績の合理的な跡付け・検証に必要とはいえず,文書管理規則11条及び12条2項により文書を作成する義務の対象とはならないものと考え,また,他に文書を作成すべき事情もなかったことから,当該連絡について記録した文書を作成・取得しておらず,保有していない。


エ 本件開示請求及び本件審査請求を受けて,日本学術会議事務局企画課及び管理課の執務室内及び書棚,書庫並びに共有フォルダ全体及びメールの探索を行ったが,文書管理規則12条2項に基づき作成されたものか否かにかかわらず,本件対象文書に該当すると考えられる文書の存在は確認されなかった。


(3)以下,検討する。

ア 当審査会において,上記2(2)アの各法令の規定を確認したところ,その内容は諮問庁の説明に符合するものであり,日本学術会議事務局は会員任命事務を所掌していない旨の諮問庁の説明は,是認できる。

また,当審査会において,上記2(1)ア及びイの各答弁と併せて,日本学術会議会則の規定及び日本学術会議ウェブサイトに掲載された会員候補者の推薦に関する資料等を確認したところ,上記2(2)イの諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められない。

したがって,日本学術会議事務局は,会員任命事務を所掌しておらず,令和2年任命に係る事務の経緯においても,会員候補者を選考し総理に推薦するまでの事務を担っていたと認められる一方,会員任命事務を担っていたとは認められない。


イ そうすると,日本学術会議事務局においては,会員の任命に関する打合せ等を行った事実はないとする上記第3の3の諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められず,これを覆すに足る事情も認められない。

したがって,「会員任命に関して行われた」打合せ等の記録である本件対象文書を作成・取得しておらず,保有していないとする上記(2)アの諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められない。


ウ 上記2(1)ウの,令和2年任命の結果に関する各連絡について,いずれも日本学術会議事務局の意思決定過程又は事務・事業の実績の合理的な跡付け・検証に必要とはいえないため,文書管理規則11条及び12条2項により文書を作成する義務の対象とはならないものと考えたとする上記(2)ウの諮問庁の説明は,日本学術会議事務局が会員任命事務を所掌していないこと及び上記(1)に掲記した文書管理規則の規定に照らして不合理であるとはいえないから,当該連絡について記録した文書を作成・取得しておらず,保有していないとする諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められない。


エ また,諮問庁から上記(2)イの意見交換の資料の提示を受け,当審査会において確認したところ,当該資料は,日本学術会議の会員候補者の推薦を行う事務の過程における文書であると認められるから,任命に関する打合せ等の記録を対象とする本件開示請求の特定の対象とはならなかったとする諮問庁の説明は,不合理であるとはいえない。


オ 以上を踏まえると,日本学術会議事務局は,令和2年任命に関する打合せ等の記録は作成・取得しておらず,本件対象文書は保有していないとする上記(2)アの諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められない。


カ さらに,上記(2)エの探索の範囲等も不十分であるとはいえず,日本学術会議事務局において本件対象文書を保有していないとする諮問庁の説明を覆すに足る事情も認められない。


キ したがって,日本学術会議事務局において,本件対象文書を保有しているとは認められない。


4 審査請求人のその他の主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


5 本件不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,これを保有していないとして不開示とした決定については,内閣府日本学術会議事務局において本件対象文書を保有しているとは認められず,妥当であると判断した。


(第4部会)

委員 小林昭彦,委員 常岡孝好,委員 野田 崇