諮問庁 内閣総理大臣
諮問日 令和 3年 4月27日(令和3年(行情)諮問第168号)
答申日 令和 5年 8月 7日(令和5年度(行情)答申第223号)
事件名 特定年の日本学術会議の会員任命に関して行われた打合せ等の記録の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「内閣府行政文書管理規則第12条第2項に定める打ち合わせ等の記録のうち,2020年の日本学術会議の会員任命に関して行われたもの」(以下「本件請求文書」という。)の開示請求に対し,「令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における伝達記録」(以下「本件対象文書」という。)を特定し,その一部を不開示とした決定については,本件対象文書を特定したことは妥当であるが,不開示とされた部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和2年12月14日付け府人第1537号-1により内閣府大臣官房長(以下「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)を取り消すとの決定と,追加で行政文書を特定し開示することを求める。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)審査請求人は,2020年10月15日付け(原文ママ)で,処分庁に対し法に基づき本件請求文書の開示を請求した。


(2)処分庁は,2020年12月14日付けで,「令和2年10月1日付の任命にかかる意思決定過程における伝達記録(なお,内閣府行政文書管理規則(平成23年内閣府訓令10号)第12条第2項は,既に作成された打ち合わせ等の記録について同項の規定により作成されたものかどうかの区別を求めていないため,本決定に当たっては,その該当の有無にかかわらず,請求対象文書に相当すると考えられる文書を特定した。)」(原文ママ)を一部開示とする決定を行った。


(3)原処分の理由として,以下の記載があった。

開示する行政文書のうち,任命されなかった候補者の氏名,専門分野及び所属・職名に関する記載については,特定の個人を識別することができる情報であることから,法第5条第1号に該当するとともに,こうした情報を公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法第5条第6号ニに該当するため不開示とした。


(4)原処分は,以下のことから妥当ではない。

ア 法5条1号該当性について

本件請求対象にかかる日本学術会議の会員任命に関しては,すでに任命されなかった候補者の氏名,専門分野及び所属・職名に関する情報がすでに公にされており,現に公表されている情報である。報道記事にとどまらず,これらの情報は国会会議録(第202回国会衆議院内閣委員会第2号令和2年10月7日など)にも記録されている。そのため,誰でも容易に探せる状態にあり,この状態は,憲政が始まった1890年11月以降の国会会議録が保管・公開されていることから明らかなように,廃棄されることなく継続して保管・公開され,容易に探せる状態が維持されるものである。したがって,当該情報は法5条1号に該当するとしても,同号ただし書イの定める「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当する。


イ 法5条6号ニ該当性について

(ア)処分庁は本件情報について法5条6号ニに該当するとしている。日本学術会議の会員は,「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し,内閣府令で定めるところにより,内閣総理大臣に推薦」され(日本学術会議法17条),「第17条の規定による推薦に基づいて,内閣総理大臣が任命する」(同7条2項)と定められている。こうした規定を踏まえると,推薦される基準は「優れた研究又は業績がある科学者」であること,内閣総理大臣が任命するか否かは「優れた研究又は業績がある科学者」として日本学術会議の会員にふさわしいかを判断することにもなりえるという,政府が学術研究にかかる業績等について評価を与える要素が排除されない仕組みとなっている。そのため,日本学術会議の会員の任命は一般的な人事とは異なり,学問の自由及び自治に対する内閣総理大臣及び政府の介入的な要素があるか否か,適切な基準と判断に基づいて任命について判断が行われているか否かは,極めて公共的な問題であり,高い説明責任が政府には求められる。


(イ)処分庁は,法5条6号ニに該当し「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある」とするが,会員侯補者のうち任命しないとする場合は,自らの人事の妥当性を示せる程度に判断されたものであって,根拠を示し,説明を行うことができることが,適正な事務事業として求められているものである。本件情報を公にすることによって様々な意見や疑問が出されることはあったとしても,人事という事務事業の性質からして適正な遂行が行われていれば,公にすることによる支障を及ぼすおそれは,法的保護に値するほどの蓋然性があるとは言えない。

さらに,本件情報は,前述のとおり既に公知の情報であることから,ことさら不開示とすることで保護される利益は最早ない。本件情報が公にされたことで,内閣総理大臣が任命を拒否したことについてはさまざまな批判や論争がなされ,法令上の根拠など様々な議論が呼び起こされているが,これらは,内閣総理大臣として適切な説明を行わず,かつ根拠を示していないという適正な業務遂行を行っていなかった結果である。こうした業務上の問題を糊塗するために法5条6号ニが設けられているのではなく,適正な事務事業の遂行のために不可欠でやむを得ない場合に不開示を認めるものと解すべきであり,処分庁の判断は妥当ではない。


ウ 開示請求文書の特定について

(ア)本件請求は,内閣府行政文書管理規則(以下,第2及び第3において「本件規則」という。)12条2項の定める「打ち合わせ等の記録」に該当するものを具体的に特定して行っている。「打ち合わせ等の記録」は,公文書等の管理に関する法律(以下「公文書管理法」という。)4条の定める文書の作成義務の範囲を明確にするために設けられたものであり,本件規則では「本府内部の打合せや本府外部の者との折衝等を含め,別表第1に掲げる事項に関する業務に係る政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等」について記録を文書として作成することを義務付けている。


(イ)処分庁は,「同項の規定により作成されたものかどうかの区別を求めていないため,本決定に当たっては,その該当の有無にかかわらず,請求対象文書に相当すると考えられる文書を特定した」と本件決定通知において記載しているが,本件規則の定める「別表第1に掲げる事項に関する業務に係る政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等」に,日本学術会議の会員の任命にかかる打ち合わせ等の業務が該当するか否かは区別がついていなければならない処分庁は,本件規則12条2項が記録の作成を求める打ち合わせ等に該当する打ち合わせ等があったか否か,それに対する記録が作成されているのか否かを改めて探索・確認の上,その存否及び存在する場合はその開示について決定を行うべきである。


(5)以上のとおり,原処分は法の解釈,運用を誤ったものである。よって,その取消しを求めるため,本審査請求を行った。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 本件審査請求の趣旨及び理由について

(1)審査請求の趣旨

本件は,審査請求人が行った開示請求に対して,法5条1号及び6号に該当するとしてその一部を不開示とする原処分を行ったところ,審査請求人から,原処分を取り消し,原処分において不開示とされた部分の開示,該当する行政文書の追加での特定及び開示を求める審査請求が提起されたものである。


(2)審査請求の理由

審査請求書に記載された本件審査請求の理由は,上記第2の2(4)ア,イ(イ)及びウ(イ)並びに(5)のとおりである。


2 本件開示請求及び原処分について

処分庁においては,「内閣府行政文書管理規則第12条第2項に定める打ち合わせ等の記録のうち,2020年の日本学術会議の会員任命に関して行われたもの」との本件開示請求に対し,本件対象文書を特定し,一部開示決定処分を行った。


3 原処分の妥当性について

(1)不開示情報該当性について

審査請求人は,任命されなかった候補者の氏名,専門分野及び所属・職名に関する情報は,報道記事や国会会議録にも記録されており,すでに公にされているため,当該情報は法5条1号に該当するとしても,同号ただし書イの定める「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当すると主張するが,当該情報について,これを公にすることを義務付ける法令の規定や公にする慣行は存在せず,また,これまで処分庁その他の行政庁によって当該情報が公にされ,又は公にされることが予定されている事実もないことから,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているものとは認められず,同号ただし書イに該当するとは認められないため,これは当たらない。なお,報道機関等が独自の取材に基づいて報道している事柄や,国会審議において質疑者が述べた事柄があったとしても,当該情報が法令の規定により又は慣行として公にされたとは言えず,上記の判断を左右するものではない。

また,審査請求人は,本件情報を公にすることによって様々な意見や疑問が出されることはあったとしても,人事という事務事業の性質からして適正な遂行が行われていれば,公にすることによる支障を及ぼすおそれは,法的保護に値するほどの蓋然性があるとは言えないと主張するが,処分庁において任命されなかった候補者の氏名等の本来公にすることを予定していない情報を公にした場合,今後の同種の人事において,候補者となることを辞退する者が現れたり,任命権者への情報提供を躊躇したりするなどし,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するため,これは当たらない。


(2)本件対象文書の特定の妥当性について

審査請求人は,処分庁は,本件規則12条2項が記録の作成を求める打ち合わせ等に該当する打ち合わせ等があったか否か,それに対する記録が作成されているのか否かを改めて探索・確認の上,その存否及び存在する場合はその開示について決定を行うべきであると主張するが,処分庁において改めて対象文書に相当すると考えられる文書を探索したところ,原処分で特定した文書以外に本件請求文書に相当すると考えられる行政文書を保有しているとは認められなかった。

なお,審査請求人の指摘する内閣府本府行政文書管理規則12条2項は,特定の場合において,打合せ等の記録を文書で作成すべきことを規定するものであるところ,これは,当該規定によらずに記録を文書で作成することを否定するものではなく,また,作成した個々の文書について,それが同項に基づいて作成されたものであるかどうかの区別を求めるものでもない。


4 結論

以上のとおり,原処分は妥当であり,審査請求人の主張には理由がないことから,本件審査請求は,これを棄却することが妥当であると考える。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和3年4月27日   諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年5月21日     審議

④ 令和4年6月16日   委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議

⑤ 同年7月28日     審議

⑥ 令和5年4月17日   委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議

⑦ 同月20日       審議

⑧ 同年5月15日     審議

⑨ 同月31日       審議

⑩ 同年6月28日     審議

⑪ 同年7月13日     審議

⑫ 同年8月2日      審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,本件請求文書の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書を特定し,その一部を法5条1号及び6号ニに該当するとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,原処分を取り消すとの決定及び追加で行政文書を特定し開示することを求めているが,諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,本件対象文書の特定の妥当性及び不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


2 令和2年任命の経緯等について

(1)令和2年10月1日付けの日本学術会議会員の任命(以下「令和2年任命」という。)について,当審査会において国会会議録を確認したところ,以下の答弁の存在が認められる。

ア 内閣総理大臣(以下「総理」という。)が,内閣官房長官(以下「官房長官」という。)及び内閣官房副長官(以下「副長官」といい,官房長官と併せて「官房長官等」という。)に対して懸念を伝え,副長官が総理に相談を行い,総理が任命権者として判断し,その判断を副長官が内閣府に伝達した旨の答弁。


イ 令和2年任命は,総合的,俯瞰的な活動や多様性の観点を念頭に,また,日本学術会議の設置目的等を踏まえて,総理が判断した旨の答弁。


ウ 日本学術会議による会員候補者の推薦前に,事務局を介して,日本学術会議会長と任命権者との間で意見交換が行われた旨の答弁。


エ 日本学術会議事務局において,令和2年任命の結果に関する連絡を内閣府から受け,また,当該結果に関する連絡を日本学術会議会長等に対して行ったとみられる内容の答弁。


オ 令和2年任命においては,日本学術会議から105名の会員候補者が推薦され,99名が会員として任命された旨の答弁。


カ 日本学術会議から総理に推薦された会員候補者が任命されないという例は,令和2年任命までなかった旨の答弁。


キ 日本学術会議から推薦された会員候補者がそのまま任命されてきた前例を踏襲していいのかどうか悩みに悩んだ旨の総理答弁。


(2)上記(1)の各答弁も踏まえ,令和2年任命に関する事務の位置付け及び経緯等について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,以下のとおり説明する。

ア 日本学術会議会員(以下「会員」という。)は,その候補者を日本学術会議が推薦し,当該推薦に基づいて総理が任命するものである(日本学術会議法7条2項及び17条)。

日本学術会議は,内閣府に置かれた特別の機関(内閣府設置法40条3項)であって,その構成員である会員の任命は,内閣府の長たる総理が行うものであり,当該任命に関する事務は,「内閣府の職員の任免」に関することとして内閣府大臣官房人事課(以下「内閣府人事課」という。)が所掌している(内閣府本府組織令2条7号及び12条1号)。


イ 令和2年任命に係る事務の経緯としては,日本学術会議が,会員候補者について,現会員・現連携会員からの推薦及び協力学術研究団体からの情報提供を踏まえ,日本学術会議選考委員会(選考分科会を含む。)において選考を行い,日本学術会議総会の議を経て,会長が総理に会員の任命を求め,また,日本学術会議事務局から,推薦前に,上記(1)ウの意見交換において,任命権者側に,会員改選に向けた状況等を説明している。そして,菅総理が,官房長官であった当時から,杉田副長官に日本学術会議に関する懸念点を伝えて,また,令和2年9月16日に総理に就任した後も,杉田副長官に当該懸念点を改めて伝え,その後,杉田副長官が菅総理に相談をし,同月24日に内閣府において決裁文書が起案されるまでの間に,杉田副長官から,会員の任命に係る菅総理の判断が内閣府に伝えられている。


ウ 令和2年任命の過程において,日本学術会議(事務局を含む。)から当時の会員等及び総理に推薦した会員候補者に対して行った連絡の経緯及び内容は,以下のとおりである。

(ア)当時の会員及び連携会員に対して,令和元年11月に文書を送付し,本人の内諾を得た上で会員候補者として推薦することを求めた。


(イ)当時の連携会員のうち会員候補者となり得る者(会員になったことがない者で令和5年10月までの間に70年の定年に達しない者)に対して,令和元年12月に文書を送付し,会員候補者となる意思の有無の確認を求めた。


(ウ)総理に推薦した会員候補者(第25-26期会員候補者)に対して,令和2年8月に文書を送付し,連絡事項の伝達,会員就任に当たっての必要書類の提出を依頼した。


(エ)総理に推薦した会員候補者(第25-26期会員候補者)に対して,令和2年9月25日付けで,同年10月の日本学術会議総会の開催案内を送付した。


(オ)総理に推薦したが任命されなかった会員候補者に対しても,上記(ウ)及び(エ)のとおり各文書を送付したが,令和2年9月29日に,会員候補者として総理に推薦したものの任命されないこと及びそれに伴い上記(エ)の総会に出席しなくて良い旨,電話により伝達した。


3 本件対象文書の特定の妥当性について

(1)当審査会において,諮問庁から内閣府本府行政文書管理規則(以下「文書管理規則」という。)の提示を受けて確認したところ,以下のとおりであると認められる。

ア 文書管理規則11条は,「職員は,文書管理者の指示に従い,法(当審査会注:公文書管理法を指す。)第4条の規定に基づき,法第1条の目的の達成に資するため,本府における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに本府の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう,処理に係る事案が軽微なものである場合を除き,文書を作成しなければならない。」と規定している。


イ 文書管理規則12条2項は,「前条の文書主義の原則に基づき,本府内部の打合せや本府外部の者との折衝等を含め,別表第1に掲げる事項に関する業務に係る政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等(以下「打合せ等」という。)の記録については,文書を作成するものとする。」と規定している。


ウ 文書管理規則13条2項は,「本府の外部の者との打合せ等の記録の作成に当たっては,本府の出席者による確認を経るとともに,可能な限り,当該打合せ等の相手方(以下「相手方」という。)の発言部分等についても,相手方による確認等により,正確性の確保を期するものとする。ただし,相手方の発言部分等について記録を確定し難い場合は,その旨を判別できるように記載するものとする。」と規定している。


(2)諮問庁は,本件対象文書の特定の妥当性について,上記第3の3(2)のとおり説明するところ,当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,本件対象文書の特定の経緯等について確認させたところ,以下のとおり説明する。

ア 本件対象文書は,令和2年任命に係る意思決定過程において,任命権者である総理の判断が副長官により内閣府に伝達された時にその内容を記録した文書である。

当該文書の開示部分には,「外すべき者(副長官から)」及び「R2.9.24」と記載され,不開示部分には,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名が記載されており,令和2年任命に関して行われた打合せ等の内容が記録された文書であるため,その内容から,本件請求文書に該当するものとして特定したものである。


イ 文書管理規則12条2項の「影響を及ぼす打合せ等」の該当性は,打合せ等の内容や業務プロセスにおける位置付け等を踏まえて,文書管理者が総合的に判断するものである。しかし,実務上は,打合せ等を行うたびに,当該判断を行った上で打合せ等の記録について文書を作成する場合ばかりではなく,文書管理者の指示により「影響を及ぼす打合せ等」の該当性を判断しないままに作成する場合や,業務慣行又は組織内での情報共有の必要性等から作成する場合もある。

また,文書管理規則12条2項により打合せ等の記録について文書を作成する場合,合理的に跡付け・検証することが可能であれば,特定の様式に限定されるわけではなく,打合せ等の内容・性質等によっては,相手方の発言を具体的には記載しないこともあり(「改正「行政文書の管理に関するガイドライン」(平成29年12月26日一部改正)に関する解説集」(以下「解説集」という。)「第3 作成」A13),こうした場合において,文書管理規則13条2項による相手方への確認や当該確認を経ていない旨の記載の必要は生じない(解説集「第3 作成」A31及びA32)。逆に,文書管理規則12条2項によらずに打合せ等の記録を作成する場合であっても,相手方の発言を記載し,その内容を相手方に確認した上で,その旨を記載することも妨げられない。

以上のとおり,文書管理規則12条2項は,同項によらずに記録を作成することを否定するものではなく,また,作成された文書について,それが同項に基づいて作成されたものであるかどうかの区別を求めるものでもないことから,文書の様式や特定の記載の有無といった外形により,事後的に遡及して,同項に基づく文書か否かを厳密に判別することはできないため,本件開示請求への対応に当たっては,同項の規定により作成されたものか否かにかかわらず,令和2年任命に関して行われた打合せ等に関する記録であって請求対象文書に相当すると考えられるものとして,上記アのとおり,本件対象文書を特定したものである。

なお,本件対象文書は,公文書管理法4条及び文書管理規則11条により,令和2年任命に係る意思決定過程を合理的に跡付け・検証できるよう,適切に作成し,保存する必要があるものとして,文書管理者において確認されたものである。


ウ 本件開示請求及び本件審査請求を受けて,内閣府人事課の執務室内及び書棚並びに共有フォルダ全体及びメールの探索を行ったが,文書管理規則12条2項に基づき作成されたものか否かにかかわらず,本件対象文書の外に,本件請求文書に該当し得る文書の存在は確認されなかった。


(3)以下,検討する。

ア 本件対象文書の特定について

当審査会において,上記2(2)アの各法令の規定を確認したところ,その内容は諮問庁の説明に符合するものであり,内閣府大臣官房は会員の任命に関する事務(以下「会員任命事務」という。)を所掌している旨の諮問庁の説明は,是認できる。

また,当審査会において,本件開示決定通知書等と併せて本件対象文書を見分したところ,上記(2)アの諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められず,本件対象文書は本件請求文書に該当するものと認められる。

なお,諮問庁が上記(2)イで説明する「相手方への確認や当該確認を経ていない旨の記載の必要は生じない」との取扱いについて,当審査会において,文書管理規則13条2項の規定及び解説集を確認したところ,当該取扱いは一定の条件を満たす場合に限定的に許容される位置付けにとどまるものと解することが相当であり,諮問庁の説明を全体として直ちに是認できるとはいい難いものの,本件開示請求への対応に当たり,文書の様式や特定の記載の有無といった外形にかかわらず,その内容から,本件請求文書に該当するものとして本件対象文書を特定した対応は,不合理であるとはいえない。


イ 本件対象文書以外の文書の保有の有無について

(ア)会員任命事務の所掌の観点からは,一部の会員候補者を任命しないこと及びその根拠・理由について,内閣府の職員が検討や打合せ等を行ったものと考えられるから,その打合せ等の記録について,文書が作成・取得され得るものと考えられる。

そこで,本件請求文書に該当し得る,本件対象文書以外の文書の作成・取得及び保有の有無等について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,以下のとおり説明する。

a 日本学術会議による推薦のとおりに任命しないことが許容される場合については,憲法15条1項において公務員の選定が国民固有の権利であるとされていることからすれば,任命権者である総理において,当該推薦を十分に尊重しつつも,当該任命が国民に対して責任を負えるものでなければならないという観点から,日本学術会議の設置目的や職務等に照らして判断されるべきものと考えている。具体的にどのような場合に許容されるかについては,任命権者たる総理が国民に対する責任において個別に判断すべき人事に関する事項であって,事柄の性質上,明確に説明することは困難である。

また,令和2年任命における個々人の任命の理由については,人事に関することであるため,説明できないが,日本学術会議に総合的,俯瞰的観点からの活動を進めていただけるようにするという観点から,適切に判断したものである。


b 令和2年任命において,一部の会員候補者を任命しなかった根拠・理由は上記aのとおりであるが,一部の会員候補者を任命しないこととした判断は,任命権者たる総理が行ったものである。

内閣府大臣官房は,本件対象文書のとおり総理の判断の伝達を受けた立場であって,任命しないこととする会員候補者を自ら選出したものではなく,一部の会員候補者を任命しないこと及びその根拠・理由について検討や打合せ等を行っていないため,その打合せ等の記録の文書は作成又は取得しておらず,保有していない。


c なお,内閣府が,本件対象文書に係る伝達を受けた際,当該記録の内容以外に説明があったか否かが分かる記録はない。

また,令和2年任命以降,本件開示請求までの間に,一部の会員候補者を任命しなかった根拠・理由について,内閣官房(副長官等を含む。)から説明を受けたか否かが分かる記録はない。


d したがって,内閣府大臣官房において,本件対象文書の外に本件請求文書に該当し得る文書を作成・取得しておらず,保有していない。


(イ)また,内閣府から日本学術会議事務局に対して,令和2年任命の結果に関する連絡を行ったとみられる内容の上記2(1)エの答弁を踏まえて,当該連絡に係る記録についての文書の作成等について,当審査会事務局職員をして諮問庁に対し確認させたところ,以下のとおり説明する。

内閣府人事課から日本学術会議事務局に対し,令和2年9月28日に決裁された令和2年任命の結果について,同日に担当者間で連絡を行ったが,当該連絡は意思決定に係るやり取りではないため,その記録は作成・取得していない。


(ウ)さらに,当審査会において,令和2年任命に関する別件諮問事件(令和3年(行情)諮問第501号。以下「別件諮問事件」という。)に係る諮問書の添付資料を確認したところ,処分庁が,令和2年任命に係る意思決定過程における説明資料を特定し,その一部を開示したことが認められることから,当該説明に係る記録についての文書の作成等について,当審査会事務局職員をして諮問庁に対し確認させたところ,以下のとおり説明する。

当該説明資料は,その説明内容等が分かる文書であり,令和2年任命に係る意思決定過程の合理的な跡付け・検証に必要なものとして保存しているものであるが,説明を受けた者からの指摘等について特段の追記等はされていないことから,当該説明は,任命権者の判断が伝えられるなどの任命に係る意思決定に影響を及ぼしたものではなかったと考えられる。このため,当該説明資料とは別にその記録について文書は作成されなかったものであり,当該説明資料についても,文書管理規則12条2項の定める打合せ等の記録には該当しないと考えられたため,特定しなかったものである。


(エ)以下,検討する。

a 諮問庁は,上記(ア)bのとおり,令和2年任命において,一部の会員候補者を任命しないこととした判断は総理が行ったものであり,内閣府大臣官房は,任命しないこととする会員候補者を自ら選出したものではなく,一部の会員候補者を任命しないこと及びその根拠・理由について検討や打合せ等を行っていない旨説明する。

当該説明は,事務の所掌の観点からは,一般的には想定し難いものの,日本学術会議から総理に推薦された会員候補者が任命されなかった前例はなく,総理自身が悩みに悩んだとする上記2(1)カ及びキの答弁,並びに,上記2(1)アの答弁及び上記2(2)イの諮問庁の説明で示された令和2年任命の経緯等に鑑みれば,一部の会員候補者を任命しないこと及びその根拠・理由について,事務方である内閣府大臣官房において検討や打合せ等が行われなかったとしても,それが令和2年任命における特段の事情としてあり得なかったこととまではいえない上,諮問庁の説明を覆すに足る事情も認められない中で,これを否定することまではできず,是認せざるを得ない。また,上記(ア)cの諮問庁の説明を覆すに足る事情も認められず,これを否定することまではできない。

したがって,内閣府大臣官房において,本件対象文書の外に本件請求文書に該当し得る文書を作成・取得しておらず,保有していないとする上記(ア)dの諮問庁の説明も,これを否定することまではできず,是認するほかない。


b 上記(イ)の諮問庁の説明は,内閣府人事課から日本学術会議事務局に対する連絡が,既に意思決定がなされた令和2年任命の結果についての連絡であるから,当該連絡自体は「意思決定に係るやり取りではない」と判断した趣旨と解されるところ,当該判断の当否は別として,当該判断を前提に,当該連絡の記録を作成・取得しなかったとする諮問庁の説明を覆すに足る事情は認められず,これを否定することまではできない。


c また,諮問庁から上記(ウ)の説明資料の提示を受け,当審査会において確認したところ,説明を受けた者からの指摘等について特段の追記等はされていない旨の諮問庁の説明に符合すると認められる。その上で,当該説明資料を用いた説明が「意思決定に影響を及ぼしたものとはいえないと考えられた」とする諮問庁の判断の当否は別として,当該判断を前提に,当該説明に係る打合せ等の記録は作成されなかった等とする諮問庁の説明を覆すに足る事情は認められず,これを否定することまではできない。


d これに加え,上記(2)ウの探索の範囲等も不十分とはいえず,本件対象文書の外に本件請求文書に該当し得る文書を保有していないとする諮問庁の説明を覆すに足る事情も認められない。


e したがって,内閣府大臣官房において,本件対象文書の外に特定すべき文書を保有しているとは認められない。


4 不開示部分の不開示情報該当性について

(1)本件対象文書に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名を不開示とした理由について,諮問庁は,上記第3の3(1)のとおり説明する。

これに対し,審査請求人は,上記第2の2(4)ア及びイ(イ)のとおり,任命されなかった会員候補者の氏名等については,報道記事にとどまらず,国会会議録にも記録されて公開されており,既に公知の情報であるから,法5条1号ただし書イに該当するとともに,同条6号ニには該当しない旨主張する。

そこで,当審査会事務局職員をして国会会議録を確認させたところ,任命されなかった会員候補者であるとして6名の個人の氏名等に言及している質疑者の発言の外,令和2年任命に関する質問に対して,個人の氏名に言及している答弁が認められる。また,令和2年任命に係る報道等の状況を確認させたところ,任命されなかった会員候補者として6名の個人の氏名等が報道され,当該6名の個人が任命されなかった会員候補者として記者会見等において意見を表明したことが報道された等の状況が認められる。

以上を踏まえ,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,以下のとおり説明する。

ア 会員の氏名,専門分野(日本学術会議に置かれている分野別委員会の30区分の専門分野をいう。以下同じ。)及び所属・職名等の情報は,日本学術会議が公表しているが,任命されなかった会員候補者を含む,日本学術会議が推薦した会員候補者の氏名等の情報については,特定の個人を識別することができる情報であり,かつ人事に関する情報であることから,内閣府及び日本学術会議のいずれにおいても公にしていない。


イ 令和2年7月の日本学術会議総会において,令和2年任命に向けた会員候補者の承認について審議がなされたが,審議は非公開とされ,傍聴は認められていなかった。当該審議の資料は,同総会に出席した会員に席上配布された後,総会散会後に回収され,また,オンラインで参加した会員は,審議中は当該資料をオンラインで閲覧できたが,その複写はできないものであった。


ウ 6名の個人による公表等の事情があるとしても,法に基づく開示請求において,個人情報の自己コントロール権について参照するものとは考えていない。また,審査請求人が主張する報道等の事情があるとしても,不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名の情報が,報道機関等が独自の取材に基づいて報道している情報により,法令の規定により又は慣行として公にされたとはいえない。なお,不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名が,当該6名のものかを,当該6名や報道機関等が確定的に知っているわけではない。


エ 上記の国会審議について,質疑者が述べた事柄があったとしても,それをもって「慣行により公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当するとはいえない。

また,上記の答弁は,質疑者が質問の中で氏名を示した者とのやり取りの内容に関する質問に対し,当該やり取りの内容に係る答弁者の認識を答えたものや,委員会での配布資料に記載されていた個人を前提として,当該個人を知っていたか否かを答えたもの及びそうした前提を答弁したものであり,いずれの答弁も,当該答弁の中で,任命されなかった会員候補者の氏名という秘匿すべき事項を直接的に明らかにしたものではない。

このような国会における政府の答弁者の答弁について,事後に前後の質疑者の発言等を併せて読むこと等により,答弁で直接的に述べられたこと以外のことを推測等できる者がいたとしても,それをもって「慣行により公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当するとはいえない。


オ 上記アないしエから,不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名の情報は,法5条1号ただし書イに該当しない。


カ 不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者が,当時,それぞれ法5条1号ただし書ハの「公務員等」に該当していたとしても,当該規定は,当該個人が公務員等である場合において,その担任する職務を遂行する場合における当該活動についての情報を意味するところ,日本学術会議により同会議の会員候補者として推薦され,会員候補者となること自体は,それぞれが現に従事するいかなる他の職の職務の遂行にも当たることはないため,それぞれの職務の遂行に係る情報であるとはいえない。

したがって,不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名の情報は,法5条1号ただし書ハに該当しない。


キ 一般論として,人事においては,任命手続が完了するまでの間に,候補者又はその他の者の協力を得て当該人事の検討に要する資料を作成・取得しつつも,最終的に任命に至らない場合があり得る。

仮に,今般,会員に任命されなかった会員候補者の情報を公にすれば,今後の同種の人事において,公務員として任命に至らない場合においても事後に開示請求への対応等により氏名が公になる可能性があることを忌避して,候補者となることを辞退する者が現れたり,候補者又はその他の者が候補者の情報を任命権者へ提供することをちゅうちょしたりする可能性がある。

したがって,不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名の情報は,法5条6号ニに該当する。


(2)以下,検討する。

ア 当審査会において,諮問庁から上記2(2)ウ(ア)ないし(エ)の各文書の提示を受けて,国会会議録と併せて確認したところ,上記2(2)ウの諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められない。


イ そうすると,令和2年任命において任命されなかった会員候補者は,日本学術会議(事務局を含む。)からの文書・電話での連絡により,自身が,日本学術会議から総理に推薦された会員候補者に含まれていたこと及び任命されなかったことを承知していることが認められる。


ウ 当審査会において本件対象文書を見分したところ,「外すべき者(副長官から)」及び「R2.9.24」との記載の下の本文の全てが不開示とされており,不開示部分には,上記3(2)アの諮問庁の説明及び本件開示決定通知書の記載のとおり,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名(以下「本件氏名等」という。)が記載されていると認められる。

本件氏名等は,それぞれの個人ごとに,その氏名と一体として,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


エ 次に,法5条1号ただし書該当性について検討する。

(ア)本件氏名等は,日本学術会議法その他の法令の規定により公にされ,又は公にすることが予定されているものとは認められない。


(イ)当審査会事務局職員をして,内閣府及び日本学術会議のウェブサイトを確認させたところ,本件氏名等が掲載され,又は報道発表されている等の事情は認められない。


(ウ)当審査会において国会会議録を確認したところ,令和2年任命に関する国会審議において,通常の公務員の任命と同様に,個別の人事や個人の任命の有無についての答弁は差し控える旨の答弁が繰り返しなされていることが認められる。


(エ)一般論としても,国家公務員の職に任命されなかった候補者の氏名等の個人情報については,行政機関が通常これを広く一般に公にするといった性質のものとは認められない。


(オ)そうすると,内閣府及び日本学術会議は,任命されなかった会員候補者の氏名等を公にしていない旨の上記(1)アの諮問庁の説明は,上記(ア)ないし(エ)の観点からは,不自然,不合理な点は認められない。


(カ)他方,審査請求人は,本件氏名等は,報道記事や国会会議録において公にされている旨主張している。

一般に,法5条1号の個人に関する情報について,報道機関等により報道等されたことをもって直ちに同号ただし書イの公表慣行があるものとは認められないものと解されるが,当審査会において,令和2年任命に係る報道等の状況を確認したところ,以下のとおりであると認められる。

すなわち,令和2年任命以降,原処分以前の時点で,複数の全国紙の朝刊一面等(インターネット上の報道を含む。)において,任命されなかった会員候補者として6名の個人(以下「本件6名」という。)の氏名等が報道されたこと,本件6名のうち一部の者が,任命されなかった会員候補者として国会内で開催された会合に参加し発言したことが報道されたこと,本件6名のうち一部の者の氏名・役職について,それぞれの所属機関の長等により,任命されなかった会員候補者であるとして各機関のウェブサイトで公表されたこと,国会質疑において,質疑者により本件6名の氏名等が言及されたこと,本件6名が,任命されなかった会員候補者として,日本外国特派員協会の記者会見において口頭又は文書で見解を表明したことが報道されたこと等の事情が認められる。

なお,原処分以降も,本件6名が,全員の共著の書籍を出版し,またそれぞれ報道機関による取材や書籍・雑誌・インターネット等において見解を表明する中で,自身が任命されなかった会員候補者であることを明らかに又は前提にしていることが認められる。さらに,別件諮問事件において当該事件に係る審査請求人から提出された資料によれば,本件6名は,自身が任命されなかった事実及び自身の氏名等について,内閣府等が保有する情報を公開することに同意する旨の同意書を,内閣府等に提出したことが認められる。


(キ)会員は,優れた研究又は業績がある科学者のうちからその候補者を日本学術会議が選考して総理に推薦し,当該推薦に基づいて総理が任命することとされており(日本学術会議法7条2項及び17条),当該選考の手続においては,会員候補者の名簿に基づき,最高議決機関である総会の承認を得ることとされている(日本学術会議会則8条3項)。

このように,総理による会員の任命行為の前提として,法律上,日本学術会議による会員候補者の選考・推薦行為が定められているから,総理に推薦された会員候補者は,その時点で行政機関による一次的な意思決定を経ている点で,一般的な国家公務員の職の候補者とは異なるとともに,上記イのとおり,令和2年任命において任命されなかった会員候補者は,日本学術会議(事務局を含む。)からの連絡により,自身が任命されなかったことを承知していると認められる。

ところで,上記2(1)オによれば,令和2年任命においては,日本学術会議から105名の会員候補者が推薦され,そのうち99名が任命されたことが認められるから,任命されなかった会員候補者が6名であることは自明である。

そして,これと同数の本件6名が,上記(カ)の各公表行為により,自身が任命されなかった会員候補者であることを,自身の氏名や所属機関等の情報も明らかにして継続的に公表していることが認められるところ,このような行為を,無関係の第三者が示し合わせるなどして,立場を詐称して行うことはおよそ想定し得ない。なお,当審査会において,国立研究開発法人科学技術振興機構が運営するデータベース型研究者総覧や国立情報学研究所が公開する科学研究費助成事業データベースその他のウェブサイトを確認したところ,本件6名に関する情報の外に,本件6名と誤認し得るような他の個人に関する情報は確認されなかった。

以上を踏まえれば,原処分時点で,本件6名は令和2年任命において任命されなかった会員候補者であると事実上広範に知られており,公知の事実となっていたものと認められ,これを覆すに足る事情は認められない。


(ク)上記3(2)アの諮問庁の説明を踏まえれば,本件対象文書に記載された本件氏名等の情報は,任命権者である総理の判断結果の情報であると認められるから,その性格において,その後の決裁手続を経た意思決定の結果の情報と実質的に同一であると認められる。


(ケ)国家公務員の職に任命されなかったという情報は,通常人に知られたくない機微な情報であり,一般的には,当事者の正当な権利利益の保護が要請される性質の情報であるといえる。

しかしながら,本件においては,上記(カ)及び(キ)のとおり,法律上定められた推薦の時点で,行政機関による一次的な意思決定を経ていること及び日本学術会議(事務局を含む。)からの連絡により自身が任命されなかったことを承知していること並びに報道・公表という特段の事情(以下「本件特段の事情」という。)が存在し,それにより,原処分時点で,本件6名が任命されなかった会員候補者であることは公知の事実となっていたのであるから,行政機関が公にする行為とは性格が異なるものであることを考慮しても,本件特段の事情により,上記(ク)の性格を有する本件氏名等の情報は,原処分時点における公知の事実及び当該事実から容易に推測可能なものであると認められるから,慣行として公にされていると認められ,これを開示しても,個人の正当な権利利益を害するおそれがあるとは認められない。

したがって,不開示部分は,法5条1号ただし書イに該当すると認められる。


オ 次に,法5条6号ニ該当性について検討する。

諮問庁は,不開示部分を開示した場合,上記(1)キのとおり,今後の同種の人事において,公務員として任命に至らない場合においても,じ後に開示請求への対応等により氏名が公になる可能性があることを忌避して,候補者となることを辞退する者が現れたり,候補者又はその他の者が候補者の情報を任命権者へ提供することをちゅうちょしたりする可能性がある旨説明する。

しかし,本件特段の事情が認められる本件において,上記エ(ケ)のとおり公知の事実等である不開示部分を開示したとしても,それにより,このような事情がない候補者に関する情報を開示しなければならないものではなく,諮問庁が説明する公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれが,法的保護に値する蓋然性にまで達しているものとは認められないから,不開示部分は,法5条6号ニに該当するとは認められない。


カ したがって,不開示部分は,法5条1号及び6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきである。


5 審査請求人のその他の主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


6 付言

公文書管理法は,その目的に「行政が適正かつ効率的に運営されるようにするとともに,国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすること」を定め(1条),「第1条の目的の達成に資するため,当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう」文書を作成しなければならない旨の文書主義の原則(4条本文)を定めるとともに,文書を作成すべき事項として,「職員の人事に関する事項」(同条5号)を例示している。

また,公文書管理法の規定に基づき,内閣府本府における行政文書の管理について必要な事項を定めた文書管理規則も,文書主義の原則(11条)を定めるとともに,公文書管理法4条の趣旨を徹底する観点から,「政策立案や事務及び事業の実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等」の記録について,文書を作成するものと定めている(12条2項)。

審査請求人は,会員候補者を任命しないこととする場合は,その判断の根拠を示すことが求められる旨主張するところ,本件対象文書には,任命されなかった会員候補者の選出・判断の根拠等の経緯に関する記載はなく,また,内閣府大臣官房は,本件対象文書の外に,本件請求文書に相当すると考えられる文書(打合せ等の記録)を保有していないとしている。

上記4(2)エ(キ)のとおり,会員の任命行為の前提として,法律上,日本学術会議による会員候補者の選考・推薦行為が定められており,総理に推薦された会員候補者は,その時点で行政機関による一次的な意思決定を経ていることとなる。そして,そのような会員候補者を任命しないという判断は,任命の対象者を,法律上の要件に基づき行政機関である日本学術会議の意思決定を経て行われた推薦とは異なるものとする内容及び性質のものである上,過去に例はなく,総理自身が悩みに悩んだということも踏まえれば,このような判断に至る過程で,その判断の具体的な根拠等について,長たる総理を含めた内閣府の職員による何らかの説明・伝達等(以下「本件打合せ等」という。)が行われたものと想定される。

そして,諮問庁の説明のとおり,内閣府大臣官房において,一部の会員候補者を任命しないこと及びその根拠等について検討や打合せ等を行っていなかったのであれば,本件打合せ等は,内閣府のより上位の過程で行われ,それにより会員任命事務の実施の方針等について修正が生じたものといえるから,その内容及び性質に鑑みれば,会員任命事務の「実施の方針等に影響を及ぼす打合せ等」(文書管理規則12条2項)に該当するものと評価することが相当であり,かつ,一部の会員候補者を選出し任命しないこととした判断の具体的な根拠等の情報なくして,当該判断に至る経緯も含めた意思決定過程及び事務の実績の合理的な跡付け・検証が可能であるとはいい難いから,内閣府大臣官房においては,本来,公文書管理法の目的の達成に資するため,公文書管理法4条及び文書管理規則12条2項に基づいて,本件打合せ等の記録について当該情報を記載した文書を作成し,保存することが求められていたといえるところ,そのような文書が作成・保存されなかったことについては,妥当性を問われるものといわざるを得ず,今後は,関係機関から十分な情報提供その他必要な協力を得つつ,公文書管理法及び文書管理規則に基づき適切に対応されたい。


7 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件請求文書の開示請求に対し,本件対象文書を特定し,その一部を法5条1号及び6号ニに該当するとして不開示とした決定については,内閣府大臣官房において,本件対象文書の外に開示請求の対象として特定すべき文書を保有しているとは認められないので,本件対象文書を特定したことは妥当であるが,不開示とされた部分は,同条1号及び6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。


(第4部会)

委員 小林昭彦,委員 常岡孝好,委員 野田 崇