諮問庁 内閣総理大臣
諮問日 令和 3年11月18日(令和3年(行情)諮問第501号,同第502号及び同第504号)
答申日 令和 5年 8月 7日(令和5年度(行情)答申第233号,同第234号及び同第236号)
事件名 特定年の日本学術会議会員の任命に関する文書の一部開示決定に関する件
特定年に日本学術会議が推薦した会員候補者のうち任命しなかった者が分かる文書の一部開示決定に関する件
特定年の日本学術会議会員の任命に関する文書の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙の2に掲げる15文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした各決定については,審査請求人が開示すべきとする部分のうち,別紙の4に掲げる部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」又は「情報公開法」という。)3条の規定に基づく各開示請求に対し,令和3年6月21日付け府人第727号-1及び同第727号-2により内閣府大臣官房長(以下「処分庁1」という。)が行った各一部開示決定(以下,順に「原処分1」及び「原処分2」という。)並びに同日付け府日学第972号-1により内閣府日本学術会議事務局長(以下「処分庁2」といい,処分庁1と併せて「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分3」といい,原処分1及び原処分2と併せて「原処分」という。)について,原処分における不開示部分(別紙の3に掲げる部分に限る。)を取り消すとの裁決を求める。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由は,各審査請求書及び各意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。なお,添付資料は省略する。

(1)審査請求書

ア 開示請求の経過

(ア)2020年10月1日,菅義偉内閣総理大臣は,日本学術会議が推薦した会員候補者105名のうち6名の任命を拒否した(以下これを「本件任命拒否」という。)。日本学術会議が正式に推薦した会員候補者が任命されないという事態は初めてのことであり,しかも,この6名が任命されなかったことの具体的理由は,内閣総理大臣及び政府から全く説明されていない。

日本学術会議は,日本学術会議法によって「わが国の科学者の内外に対する代表機関」と位置付けられ,法律上も職務の独立性を保障され,210名の会員は「優れた研究又は業績のある科学者」という評価に基づいて日本学術会議が選考して推薦し,内閣総理大臣はその推薦に「基づいて」任命するものとされている(同法2条,3条,7条1項及び2項並びに17条)。そしてこの任命は,推薦のとおりに任命する形式的な発令行為にすぎず,内閣総理大臣が任命を拒否することはない旨,政府による国会答弁等で繰り返し確認され,日本学術会議の人事の自律性が確保されてきた。

本件任命拒否はこれを覆し,会員の人事に科学的判断に基づかない政治的判断を持ち込んで,日本学術会議の独立性と自律性を侵害するものであり,法定の会員数に欠員を生じさせていることを含め,明らかに同法に違反する違法なものである。またそれは同時に,真理の探究を目的とする科学の営為に対する政治権力による介入であり抑圧であるという深刻な問題を提起している。

さらに本件任命拒否は,内閣総理大臣から任命拒否の理由が示されないことからも,6名の科学者の政府に批判的な言論等が理由ではないかという懸念が強く指摘されており,そうだとすれば,6名本人をはじめとする科学者の学問の自由,言論・表現の自由を脅かし,同時に学問の自由の保障を前提として存立する日本学術会議をはじめとする科学者集団の政治からの独立と自律をも脅かし,憲法上の基本的人権の保障を侵害するものでもある。


(イ)政府は,その活動や意思決定過程の透明性を確保し,国民に対して説明する責務を負っており,その責務を全うするために,経緯を含めた意思決定過程等を合理的に跡付け,検証できるよう,主権者国民共有の知的資源である公文書を作成し管理しなければならない(法1条,公文書等の管理に関する法律1条及び4条)。

したがって,とりわけ上記のような重大な人事については,それが従来の政府解釈を覆して日本学術会議の推薦どおりに任命をしなかったという問題をも含めて,その積極的かつ合理的な理由ないし根拠が,客観的資料に基づいて国民に明らかにされなければならない。ところが,本件について菅内閣総理大臣は,「総合的,俯瞰的観点からの判断」であるとか「多様性が大事」であるとか述べるだけで,まともな理由を示すことがないどころか,6名を除外する前の105名の推薦名簿は見ていないとか,6名のうち5名の氏名は承知していなかったなど,余りにも不誠実な対応に終始しており,行政としての説明責任の放棄であるといわざるを得ない


(ウ)ところで,本件任命拒否をめぐる国会審議等の過程で,加藤勝信内閣官房長官が,杉田和博内閣官房副長官(以下「杉田副長官」という。)と内閣府のやりとりを行った記録を内閣府で管理していると答弁し,また,杉田副長官が内閣府に対し任命時に除外する候補者を伝達したこと等を示す文書が部分的に示されている。しかし,これだけでは本件任命拒否に関する説明がなされたとは到底いえず,その意思決定過程や任命拒否の理由・根拠は依然として全く不明である。

そこで本件審査請求人を含む法学者及び弁護士1162名は,本件の上記問題をさらに解明すべく,去る4月26日,内閣官房(内閣総務官,内閣官房副長官補)及び内閣府(大臣官房長,日本学術会議事務局長)に対し,本件任命拒否に関して内閣総理大臣・内閣官房と内閣府との間でやりとりした文書,任命拒否の根拠ないし理由が分かる文書,任命しなかった者が分かる文書等について,法に基づき行政文書の開示請求を行った。

なお,時を同じくして,本件任命拒否をされた科学者6名も,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行個法」という。)に基づき,内閣官房及び内閣府に対し,「自己に関して保有している一切の文書」の開示請求を行った。

ところが,これらの文書開示請求に対して,内閣官房は全てについて,文書不存在を理由に不開示決定をした。しかし,とりわけ内閣官房副長官(以下「副長官」という。)が任命から除外すべき者の検討と指示を行ったことは明らかであり,内閣官房に本件任命拒否に関する公文書が存在しないはずはない。

また,内閣府は,本件任命拒否当事者6名の自己情報開示請求に対して存否応答拒否という不誠実な対応をしてきたほか,1162名の行政文書開示請求に対しても多くの部分を墨塗りにし,結局,任命拒否の根拠ないし理由が分かる文書といえるものを全く開示していない。

本件任命拒否の憲法上,法律上の重大性は前記のとおりであり,ことは日本の国の民主主義と法の支配の根幹に関わるものである。本件各審査請求を通じて,本件任命拒否の真相が明らかにされ,政府の説明責任が全うされることが,切に望まれる。


イ 原処分1及び原処分2の内容

(ア)対象文書の特定

原処分1及び原処分2において開示請求の対象として特定された文書は文書1ないし文書11である。


(イ)不開示とした部分(以下「不開示部分」という。)及び理由

a 文書1ないし文書3及び文書7ないし文書9のうち,人事に係る事務の内容についての記載(不開示部分(1))

公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当。


b 文書1ないし文書4及び文書7ないし文書10のうち,任命されなかった候補者の氏名,専門分野及び所属・職名に関する記載(不開示部分(2))

特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当。また,公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号ニに該当。


c 文書5及び文書11のうち,内線番号(不開示部分(3))

(略)


d 文書5及び文書11のうち,「日本学術会議会員候補者推薦書」及び「第25-26期会員候補者名簿(案)」に記載された,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,及び専門分野(不開示部分(4))

特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当。また,公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号ニに該当。


e 文書6のうち,住所,自筆の日付及び氏名,印影(不開示部分(5))

(略)


ウ 原処分1及び原処分2の違法性

(ア)法5条6号ニの該当性について

a 原処分1及び原処分2は,人事に係る事務の内容(上記イ(イ)a=不開示部分(1))や任命されなかった候補者の氏名等(上記イ(イ)b及びd=不開示部分(2)及び(4))について,公にすることによって公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するとしている。


b 法5条6号の「支障」の程度については,名目的なものでは足りず実質的なものであることが必要であり,支障を及ぼす「おそれ」も,抽象的な可能性では足りず法的保護に値する程度の高度の蓋然性が要求される。また,事務の「適正」な遂行要件の判断に当たっては,開示のもたらす支障のみならず,開示のもたらす利益も比較衡量しなければならない。


c 日本学術会議の会員の任命は,日本学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が行うが(日本学術会議法7条2項及び17条),内閣総理大臣の任命は形式的なものにすぎないとされる(昭和58年5月12日参議院文教委員会 中曽根康弘内閣総理大臣答弁,同年11月24日参議院文教委員会 丹羽兵助総理府総務長官答弁等)。

すなわち,内閣総理大臣による任命行為はいわゆる覇束行為であり,日本学術会議の推薦した人物をそのまま任命することが法律上想定されている。

したがって,日本学術会議の人事に係る事務の内容や任命されなかった候補者の氏名等について開示したとしても,日本学術会議の推薦を受けて任命するという行政機関の事務に実質的な「支障」が生じることはない。


d また,任命されなかった候補者の氏名等については周知のように,当該6名自身がすでに公表しており,広く報道もされている。

したがって,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,及び専門分野の開示がもたらす「支障」は,実質的に存在しない。


e さらに,これも周知のように,菅義偉内閣総理大臣は,任命されなかった候補者について任命を拒否した具体的な理由を現在まで説明していない。

このような状況においては,仮に開示のもたらす支障があるとしても,開示のもたらす利益はそれを遥かに上回るものである。


f よって,当該不開示部分は,法5条6号ニに該当しない。


(イ)法5条1号の該当性について

a 原処分1及び原処分2は,任命されなかった候補者の氏名等(上記イ(イ)b,d及びe=不開示部分(2),(4)及び(5))について,特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当するとしている。


b 日本学術会議のホームページ上等からも明らかなように,任命された日本学術会議の会員の氏名等については,少なくとも慣行として公にされている情報である。したがって,日本学術会議の推薦に従って6名が任命されていれば,当該6名の氏名等は当然「慣行」として公にされるはずであった。

前述のように,日本学術会議の任命は形式的なものであり,内閣総理大臣による6名の任命拒否は違法かつ異例なものである。

違法な行政行為によって,適法な場合よりも公にされる情報の範囲が狭められるのは,国民の知る権利の観点から妥当とはいえない。したがって,前例がないとしても,任命されなかった候補者の氏名等は,任命された会員と同様に,「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている」(法5条1号ただし書イ)というべきである。


c よって,当該不開示部分は,法5条1号ただし書イの例外的開示事由に該当する。


エ 原処分3の内容

(ア)対象文書の特定

原処分3において開示請求の対象として特定された文書は文書12ないし文書15である。


(イ)不開示部分及び理由

a 文書12のうち,「日本学術会議会員候補者推薦書」及び「第25-26期会員候補者名簿(案)」に記載された,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,及び専門分野(不開示部分(6))

特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当。また,公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号ニに該当。


b 文書12のうち,課長補佐相当職以下の職員の氏名及び印影(不開示部分(7))

(略)


c 文書13ないし文書15のうち,人事に係る事務の内容についての記載(不開示部分(8))

公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当。


d 文書13のうち,次期会長に関する資料に記載された現会員の氏名,生年月日,年齢,主要経歴,専門分野,出身県,所属部(不開示部分(9))

(略)


e 文書14のうち,次期会長に関する記述(不開示部分(10))

(略)


f 文書14のうち,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,勤務先都道府県,地区会議,現職名,専門分野,日本学術会議での現職/非現職(不開示部分(11))

特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当。また,公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号ニに該当。


g 文書14のうち,会員候補者の選考理由(不開示部分(12))

(略)


h 文書14のうち,推薦されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,連携会員・特任歴,地区会議,専門分野,現職名(不開示部分(13))

(略)


i 文書14のうち,推薦された者の「略歴」に記載された,生年月日,専門分野(公にされている情報は除く。),研究内容,学歴,職歴,所属学会(不開示部分(14))

特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当。


j 文書14のうち,推薦されなかった候補者及び任命されなかった候補者の「略歴」に記載された,氏名,ふりがな,日本学術会議連携会員歴,現職,年齢,生年月日,専門分野(公にされている情報は除く。),研究内容,学歴,職歴,所属学会(不開示部分(15))

特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当。また,公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号ニに該当。


オ 原処分3の違法性

(ア)上記エ(イ)a(=不開示部分(6))について

a 法5条1号の該当性について

日本学術会議のホームページ上等からも明らかなように,任命された日本学術会議の会員の氏名等については,少なくとも慣行として公にされている情報である。したがって,日本学術会議の推薦に従って6名が任命されていれば,当該6名の氏名等は当然「慣行」として公にされるはずであった。

そして,日本学術会議の会員の任命は,日本学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が行うが(日本学術会議法7条2項及び17条),内閣総理大臣の任命は形式的なものにすぎないとされる(昭和58年5月12日参議院文教委員会 中曽根康弘内閣総理大臣答弁,同年11月24日参議院文教委員会 丹羽兵助総理府総務長官答弁等)。

すなわち,内閣総理大臣による任命行為はいわゆる覇束行為であり,日本学術会議の推薦した人物をそのまま任命することが法律上想定されている。

したがって,今回任命されなかった6名についての内閣総理大臣による任命拒否は,違法かつ異例なものである。

違法な行政行為によって,適法な場合よりも公にされる情報の範囲が狭められるのは,国民の知る権利の観点から妥当とはいえない。したがって,前例がないとしても,任命されなかった候補者の氏名等は,任命された会員と同様に,「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている」(法5条1号ただし書イ)というべきである。

よって,当該不開示部分は,法5条1号ただし書イの例外的開示事由に該当する。


b 法5条6号ニの該当性について

法5条6号の「支障」の程度については,名目的なものでは足りず実質的なものであることが必要であり,支障を及ぼす「おそれ」も,抽象的な可能性では足りず法的保護に値する程度の高度の蓋然性が要求される。また,事務の「適正」な遂行要件の判断に当たっては,開示のもたらす支障のみならず,開示のもたらす利益も比較衡量しなければならない。

前述のとおり,日本学術会議の会員の任命は形式的なものであるから,日本学術会議の人事に係る事務の内容や任命されなかった候補者の氏名等について開示したとしても,日本学術会議の推薦を受けて任命するという行政機関の事務に実質的な「支障」が生じることはない。

また,任命されなかった候補者の氏名等については周知のように,当該6名自身がすでに公表しており,広く報道もされている。したがって,任命されなかった候補者の氏名等の開示がもたらす「支障」は,実質的に存在しない。

さらに,これも周知のように,菅義偉内閣総理大臣は,任命されなかった候補者について任命を拒否した具体的な理由を現在まで説明していない。このような状況においては,仮に開示のもたらす支障があるとしても,開示のもたらす利益はそれを遥かに上回るものである。

よって,当該不開示部分は,法5条6号ニに該当しない。


(イ)上記エ(イ)b(=不開示部分(7))について

(略)


(ウ)上記エ(イ)c(=不開示部分(8))について

上記(ア)bで述べたのと同様に,人事に係る事務の内容を公にしたとしても,「人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」があるとはいえない。

よって,当該不開示部分は法5条6号ニに該当しない。


(エ)上記エ(イ)d(=不開示部分(9))について

(略)


(オ)上記エ(イ)e(=不開示部分(10))について

(略)


(カ)上記エ(イ)f(=不開示部分(11))について

上記(ア)で述べたのと同様に,当該不開示部分は法5条1号ただし書イの例外的開示事由に該当し,また,同条6号ニに該当しない。


(キ)上記エ(イ)g(=不開示部分(12))について

(略)


(ク)上記エ(イ)i(=不開示部分(14))について

推薦された者の「略歴」の開示部分では,氏名,現職,年齢,専門分野が開示されており,これらの情報によって特定の個人を識別することは可能である。開示部分ですでに特定可能な以上,不開示部分のみが「特定の個人を識別することができるもの」になるとはいえない。よって,当該不開示部分は,法5条1号に該当しない。

また,日本学術会議の会員や会員に形式的に任命される推薦者については,生年月日,専門分野,研究内容,学歴,職歴,所属学会といった情報は「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」というべきものである。よって,当該不開示部分が仮に法5条1号に該当するとしても,同号ただし書イの例外的開示事由に該当する。


(ケ)上記エ(イ)j(=不開示部分(15))について

任命されなかった候補者の氏名等については,上記(ア)で述べたのと同様の理由から,当該不開示部分は法5条1号ただし書イの例外的開示事由に該当し,また,同条6号ニには該当しない。


カ 結論

以上より,原処分は違法であるから,審査請求の趣旨(上記1)記載のとおり,原処分における不開示部分を取り消すことを求める。

(略)


(2)意見書1

(略)

ア 一部開示された行政文書から明らかになった本件任命拒否に至る経緯

2020年10月1日,菅義偉内閣総理大臣は,日本学術会議(以下,下記(8)までにおいて,単に「学術会議」ともいう。)が推薦した会員候補者105名のうち6名の任命を拒否した(以下「本件任命拒否」という。)。

本件任命拒否に至る経緯を,このたび内閣府大臣官房長及び内閣府日本学術会議事務局長より一部開示された行政文書に基づいて辿ると,以下のような実態が明らかになった(以下,(2)において,2020(令和2)年の日付については,原則として「年」の記載を省略する。)。

(ア)4月2日付文書の提出

a 4月2日付文書

日本学術会議事務局長は,府日学第972号-1行政文書開示決定通知書2(2)「令和2年4月2日 令和2年10月の会員改選に係る意思決定過程における資料①」として,2020年4月2日付「最近の学術会議の動き」と題する文書(以下「4月2日付文書」という。)の一部を開示した。


b これは説明のための文書である

4月2日付文書は,作成名義は単に「学術会議事務局」とされており,宛先も記載されていない。また,4月2日付文書は,内閣府大臣官房長や内閣官房から開示されていないが,これは内閣府大臣官房長が,「内閣府大臣官房人事課」の受領スタンプが押された8月31日付の進達書を開示している(府人第727号-1・2)ことと対照的である。正式に提出し,受領された文書であれば,受領した側は開示しているのである。従って,4月2日付文書は,正式な文書ではなく,説明のための文書であると考えられる。


c 提出先(内閣官房副長官か)

4月2日付文書の提出先ないしは説明の相手方はどこだったのか。

学術会議は内閣府が所轄する特別の機関であり,学術会議事務局は通常は内閣府のラインで業務を行う。従って,通常の事務であれば,提出先は内閣府の大臣官房長などのはずである。

しかし,4月2日付文書は正式な文書ではないことから,内閣府のライン以外の部署に直接提出された可能性がある。後述のとおり,2017(平成29)年の会員改選の際,当時の大西隆学術会議会長は会員候補者の名簿を持参して杉田和博内閣官房副長官に事前説明に行っている。また,後述のとおり,後述の9月24日付文書で「外すべき者」を指示した者が杉田副長官であったことは明らかである。従って,4月2日付文書も,学術会議事務局長が杉田副長官に直接提出し,説明した可能性が高い。杉田副長官の手元に4月2日付文書が存在したはずである。

副長官が学術会議の会員任命に関与する権限があるのかが一応問題となるが,内閣府設置法8条2項は,「内閣官房副長官は,内閣法に定める職務を行うほか,内閣官房長官の命を受け,内閣府の事務のうち特定事項に係るものに参画する」と定めているから,法律上の根拠はある。また,仮に上記のような官房長官の命がなかったとしても,政治的措置としての「官邸主導」の下,内閣総理大臣が官房副長官に指示をし,権限を委譲すれば,副長官が任命に関与することは可能であろう。それゆえ,杉田副長官は,組織共用文書として4月2日付文書を取得したはずである。

4月2日付文書の1頁目には「2,4,2 9:50-10:10」との書き込みがあり,これは学術会議事務局長がこの文書に基づいて説明をした時間帯の記録と推察される。こうした書き込みも手掛かりにして,文書の提出先と説明の相手方が明らかにされるべきである。また,「2,4,2 9:50-10:10」の書き込みと「令和2年4月2日」との間にある黒塗り部分は,提出先や説明の相手方が記載されている可能性もあり,開示されるべきである。


d 「ご相談にまいります」との文言

4月2日付文書の2頁目「3.今後」には,会員候補者の選定作業の予定が書かれているところ,「4月~6月」,「選考委員会(執行部推薦分15人を上乗せ,会員候補者111名を選定)」の後,「6月末 幹事会(会員候補者105名を選定)」の前に,「ご相談にまいります」との文言がある。

日本学術会議法は,学問の自由(憲法23条)を保障する観点から,会員は学術会議が「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し,内閣府令で定めるところにより,内閣総理大臣に推薦」し(17条),「第17条の規定による推薦に基づいて,内閣総理大臣が任命する」(7条2項)と定めており,内閣総理大臣の任命は「形式的任命」に過ぎないことが,国会で繰り返し確認されてきた。このため,「日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令(平成17年内閣府令第93号)」は,内閣総理大臣への推薦は「当該候補者の氏名」のみを記載した書類を提出するものとし,内閣総理大臣が質的な(原文ママ)判断をする根拠や資料は与えないことが明確にされている。

それにもかかわらず,4月2日付文書において,学術会議の選考過程で111名の会員候補者が選定された段階で,学術会議事務局から内閣官房副長官と思われる者に「ご相談にまいります」と述べているのは,2017年の会員改選の際,当時の第23期学術会議会長大西隆氏が選考委員会で選定した111名の名簿を持参して内閣官房副長官に事前説明に行ったことを踏まえ,学術会議事務局長が2020年にも会長が同様の事前説明に行くと考えて4月2日付文書に記載したものと推測される。

このような事前説明は,日本学術会議法に違反する疑いが強い。


(イ)6月1日付文書の提出

a 6月1日付文書

日本学術会議事務局長は,府日学第972号-1行政文書開示決定通知書2(3)「令和2年6月1日 令和2年10月の会員改選に係る意思決定過程における資料②」として,2020年6月1日付「日本学術会議25期改選の方向性について」と題する文書(以下「6月1日付文書」という。)の一部を開示した。


b 説明のための文書

6月1日付文書は,作成名義は「日本学術会議事務局長 特定姓A」とされているものの,宛先の記載がなく,内閣府大臣官房長や内閣官房からも開示されていないことから,4月2日付文書と同様,正式な文書ではなく,説明のための文書であると考えられる。


c 提出先(内閣官房副長官か)

提出先ないし説明の相手は,4月2日付文書と同様,杉田和博内閣官房副長官であったと考えられる。

6月1日付文書にも,1頁目に説明をした時間帯と思われる「2.6.1 14:10-30」との書き込みがあるから,これも手掛かりにして,説明の相手方が明らかにされるべきである。6月1日付文書も,説明の相手方(杉田副長官と考えられる)の手元に組織共用文書として交付されたはずである。

また,上記時間帯の下部の黒塗り部分も,提出先ないし説明の相手方が記載されている可能性があるから,開示されるべきである。


d 会員候補者111名の名簿と詳細な経歴が添付

6月1日付文書の1頁には,「5月中旬の学術会議内の会員選考委員会で111人の推薦候補者を内定(非公表)」と記載され,次に「今後の予定日程」として,

・ 6月25日 選考委員会で105人の推薦案を確定(注:「選考委員会」は誤りで「幹事会」が正しいと思われる。)

・ 7月9日 総会に附議(人事案件・非公開)

・ 8月中 正式な推薦書を内閣府に提出

・ 10月1日 任命をいただき,総会を開催

との記載がある。

そして6月1日付文書2頁には,「ボトムアップ分96人(第一希望)」と「トップダウン分15人(第一希望9人,第二希望6人)」の合計111名が推薦候補者となっていることが説明され,4~8頁には第1部会から第3部会までの合計96人の「ボトムアップ分」の名簿,9頁には「選考委員会枠 会員候補者リスト」(注:「トップダウン分」。なお,「選考委員会」は誤りで「幹事会」が正しいのではないかと思われる。)合計15名の名簿が添付されている。これら名簿には,候補者の氏名,性別,年齢,勤務先都道府県,地区会議,現職名,専門分野等が記載されている。

また,6月1日付文書には,上記111名について,学術会議連携会員歴,現職,年齢,研究内容,学歴,職歴,所属学会が詳しく記載された1人1枚の「略歴」111枚も添付されている。

ちなみに,本件任命拒否にかかる6名は,全員,第1部会で選考された「ボトムアップ分」に含まれる。


e 6月1日付文書の重大な意味

以上のところから,6月1日付文書は,学術会議事務局長が,選考委員会が5月に111名を選考した後,幹事会が6月25日にこれを105名に絞る前の6月1日に,会員候補者の詳細な経歴を記載した名簿を,学術会議の外に提出し,その時点でおそらく杉田和博内閣官房副長官がこれら情報を入手したであろうことを意味している。

これは,明らかに前述の内閣府令に反すると共に,杉田和博内閣官房副長官が「外すべき者」を指示した9月24日まで3か月と24日間,「外すべき者」を選び出すための調査期間があったことを意味する。それゆえ,この調査期間において,杉田副長官は,内閣情報調査室を通じて,任命拒否された6名の個人情報を収集調査したはずである。その収集した行政文書も内閣官房に組織共用文書として存在したはずである。


(ウ)6月1日から8月31日まで

前述のとおり,4月2日付文書では,選考委員会が111名の候補者を選定した後,「ご相談にまいります」と記載されていたが,第24期学術会議会長山極壽一氏は,第23期会長大西隆氏の前例を踏襲せず,官邸に「相談」に行くことはしなかった。

学術会議は,6月25日幹事会で105名の推薦案を確定し,7月9日総会で105名の会員候補者の推薦を承認した。

そして8月28日,内閣総理大臣宛てに提出する「日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)」の学術会議内部の決裁・供覧文書が起案され,別紙(案)のとおり施行してよいかについて,同日,会長及び事務局長以下の職員により決裁された(府日学第972号-1行政文書開示決定通知書2(1)「日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)(府日学第1243号)」)。

この決裁・供覧文書には2種類の会員候補者名簿が添付されている。

その1は,「案」とされた内閣総理大臣あての「日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)」に「〈参考〉別添」として添付された「日本学術会議会員候補者推薦書(105名)」である。これには105名の氏名のみが記載されている。これが次に述べる8月31日付推薦書である。

その2は,「第25-26期 会員候補者名簿(案)-105名-」である。これは,105名につき,氏名・ふりがな・性別・年齢・所属・職名・専門分野が記載された一覧表である。これは,後述するとおり,内閣総理大臣が99名の任命を決裁した9月28日付決裁文書に添付されて供覧された可能性がある。


(エ)8月31日付推薦書等の提出

a 8月31日付推薦書等

内閣府大臣官房長は,府人第727号-1及び府人第727号-2に共通する行政文書開示決定通知書2(1)「令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①」として,

(a)令和2年8月31日付「日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)」と題する,内閣総理大臣宛ての日本学術会議会長名義の文書(府日学1243号)(以下「8月31日付推薦書」という。)の一部


(b)平成30年11月13日付「日本学術会議法第17条による推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係について」と題する,「内閣府日本学術会議事務局」名義の,宛先の記載のない文書(以下「平成30年文書」という。)


(c)「日本学術会議会員任命関係 国会議事録抜粋」と題する4頁の文書


(d)全面黒塗りの文書1枚(別紙添付「内閣府一部不開示決定処分ヴォーン・インデックス」(以下「本件ヴォーン・インデックス」という。)では,⑦,⑧,⑨(1),ウの中で表記。)


を開示した。


b 8月31日付推薦書―候補者の氏名のみの名簿を添付

上記a(a)の8月31日付推薦書は,学術会議会員候補者105名の正式な推薦書であり,内閣府大臣官房人事課の受領スタンプが押印され,平成17年内閣府令第93号のとおり,候補者の氏名のみの名簿「日本学術会議会員候補者推薦書(105名)」が添付されたものである。

本来は,この推薦書だけが内閣総理大臣に提出され,内閣総理大臣はこの推薦のとおりに会員を任命しなければならないはずである(日本学術会議法7条2項)。しかし,前述のとおり,すでに6月1日の時点で,会員候補者の詳細な略歴付の名簿が内閣官房副長官に渡っていたのであり,逆に言えば,6月1日付文書がなければ,内閣官房副長官が「外すべき者」を選定し,内閣総理大臣が本件任命拒否をすることは不可能であったと言える。


c 平成30年文書―推薦書と共に提出されたのか

上記a(b)の平成30年文書は,マスコミでも大きく報道された文書であり,「内閣総理大臣に日学法第17条による推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えないと考えられる」との学術会議事務局の見解が記された文書である。

平成30年文書が「令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①」の一部として開示された体裁に照らすならば,平成30年文書は8月31日付推薦書と一体となって提出されたものとも考えられる。しかし,平成30年文書は,学術会議会長が内閣総理大臣に会員候補者105名を正式に推薦するにあたって必要な文書とは到底言えないのであり,このような文書が正式な推薦書と一体のものとして内閣府に出されることには違和感を禁じ得ない。

従って,平成30年文書が8月31日付推薦書と同時に学術会議から内閣府大臣官房人事課に提出された文書なのかどうかが明らかにされるべきである。また,平成30年文書が府人第727号-1等の行政文書開示決定通知書2(1)「令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①」の一部として開示されたことの意味が明らかにされるべきである。


d 「日本学術会議会員任命関係 国会議事録抜粋」・黒塗りの1枚の文書

上記a(c)の「日本学術会議会員任命関係 国会議事録抜粋」及び上記a(d)の黒塗りの文書は,平成30年文書の一部なのかどうか,明らかにされるべきである。また,黒塗りの文書については,記載内容が全く不明であり,不開示理由を具体的に告知したものとはいえないものであるから,行政手続法8条及び情報公開法9条2項が求める具体的な処分理由の明示を満たしておらず,処分理由が不明なものとして不開示決定処分は取り消され,開示されるべきである。


(オ)菅内閣の発足

9月16日,菅義偉氏が内閣総理大臣に選出され,菅内閣が発足した。杉田和博氏は,菅内閣の下でも引き続き内閣官房副長官(事務担当)に就任した。

菅首相によれば,内閣総理大臣に就任後,学術会議に関し,官房長官時代から持っていた「懸念や任命の考え方」を官房長官や官房副長官を通じて内閣府に伝えたとのことである(11月4日衆議院予算委員会)。


(カ)9月24日付文書による「外すべき者」の指示

a 9月24日付文書

内閣府大臣官房長は,府人第727号-1及び府人第727-2に共通する行政文書開示決定通知書2(4)「令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における伝達記録」として,「外すべき者(副長官から)R2.9.24」と記載され,その余はマスキングされた1枚の文書(以下「9月24日付文書」という。)を開示した。


b 6名を「外すべき者」として指示

9月24日付文書は,言うまでもなく,学術会議が推薦した会員候補者105名のうち特定の6名を任命から除外することを指示した,本件任命拒否の根拠となった文書である。

「外すべき者」とは任命されなかった6名であり,マスキングされた部分に6名の氏名が記載されていることは疑いない。

「副長官」が杉田和博内閣官房副長官であることは,2020年11月5日,参議院予算委員会において加藤内閣官房長官が,蓮舫議員の質問に対し,「今回の任命に係る経緯について,杉田副長官と内閣府でのやり取りを行った記録について,担当の内閣府において管理をしている」と答弁したこと及び9月24日付文書が「杉田和博内閣官房副長官ないし内閣官房職員と内閣府との間におけるやりとりを記録した文書」等の開示請求に対して開示された文書であることから明白である。

従って,9月24日付文書は,本件任命拒否を実質的に決断した人物が杉田内閣官房副長官であったことを証明する決定的文書である。審査会は,9月24日付文書をインカメラ審理し,記載内容の概要を明らかにしたうえで,情報公開法5条1号ただし書イを適用すべきである。

また,杉田副長官は105名の中から6名を選び出す根拠となった資料ないし情報に必ず接したはずであるが,内閣官房副長官補(内政担当)は行政文書開示請求に対し「作成及び取得をしておらず保有していないため(不存在)」として不開示決定をしている。処分庁(原文ママ。以下,下記(8)までにおいて同じ。)が述べる不存在理由は,理由付記として不十分であり,行政手続法8条及び情報公開法9条2項違反として,当該不開示処分が取り消されるべきである。


c 作成者・伝達先

9月24日付文書作成者は,「副長官から」という記載の仕方に照らすと,杉田和博内閣官房副長官の指示を受けた,内閣官房ないし内閣府大臣官房の幹部職員などではないかと推測される。

また9月24日付文書は「伝達記録」として開示されているところ,その伝達先は,同日起案された学術会議会員任命についての内閣総理大臣決裁文書(府人第727号-1及び府人第727号-2に共通する行政文書開示決定通知書2(5)により開示)の作成部署であった内閣府大臣官房人事課であったと考えられる。

この点からも,内閣官房において,「伝達記録」等が組織共用文書として存在していたものと解すべきである。


(キ)9月24日,99名を任命する決裁文書を起案,28日決裁

a 9月28日付決裁文書

内閣府大臣官房長は,府人第727号-1及び府人第727号-2に共通する行政文書開示決定通知書2(5)「日本学術会議会員の任命について(文書番号:府人第1181号)」を一部開示した。


b 「外すべき者」が伝達された日に起案された決裁文書

学術会議会員「99名」を任命する決裁文書は,「外すべき者」を指示した杉田副長官からの伝達文書の日付と同じ9月24日に起案され,同月28日に決裁された(以下「9月28日付決裁文書」という。)。

9月28日付決裁文書の記載事項は以下のとおりである。

・ 「(文書処理上の記事)日本学術会議会員(第25-26期)10月1日付発令:候補者99名(うち,女性43名[43.4%])」

・ 「(件名)日本学術会議会員の任命について」

・ 「(伺い)標記について,別添案のとおり発令してよろしいか伺います。」

・ 「起案 令和2年9月24日」

・ 「決裁・供覧 令和2年9月28日」

・ 「起案者 特定姓B」

以上を記載したものに99名の氏名のみの名簿が添付されている。

これに,内閣総理大臣,内閣官房長官,事務次官,官房長,人事課長の決裁印が押印されている。上記の記載によるならば,菅内閣総理大臣は9月28日に本件任命拒否を決断したことになる。なお,特定姓B氏とは,当時,内閣府大臣官房人事課参事官であった特定職員である。


c それ以外の文書

開示された「日本学術会議会員の任命について(文書番号:府人第1181号)」には以上のほか,

(a)決裁書・8月31日付推薦書(105名の氏名のみが記載されたもの)


(b)「第25-26期 会員候補者名簿(案)-105名-」(学術会議内部における8月28日付決裁・供覧文書に添付された,105名の氏名・性別・年齢・所属・職名・専門分野が記載されたもの。)


(c)日本学術会議法の抜粋(3条,7条,17条)及び「日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令(平成17年内閣府令第93号)」が1枚にまとめられたもの


が,添付されている(本件ヴォーン・インデックスでは,⑦,⑧,⑨(5)で,上記決裁書をア,上記推薦書をイ,上記会員候補者名簿をウと表記している。)。

文書開示の体裁からすると,決裁文書には上記3つの文書が添付されていたように見えるが,疑問が残る。

まず,前述のとおり,内閣府大臣官房が「令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①」として開示した8月31日付推薦書には,105名の氏名のみが記載された候補者名簿しか添付されておらず,上記(b)の性別・年齢・所属・職名・専門分野が記載された名簿は添付されていない。

さらに,広く報道されたとおり,菅首相は「105名のもともとの名簿は見ていない」と国会で繰り返し答弁している(11月2日衆議院予算委員会議事録)。そうだとすると,上記(a)及び(b)の名簿は,決裁・供覧文書には添付されていなかったことになる。

従って,上記(a)及び(b)の文書が9月28日付決裁文書に添付されていたのかどうかは,内閣総理大臣が6名を除外する任命行為をいかなる根拠に基づいて行ったのかを知る上で極めて重要であり,本件不開示決定処分の処分理由を精査する過程において,明確にされるべきである。


(ク)9月29日,学術会議事務局長から6名に電話連絡

決裁の翌日の9月29日午後6時頃,学術会議事務局長は,発令予定の名簿に6名が登載されていないことを,6名全員に電話で知らせた。

同事務局長は,6名が名簿にないことに驚いた様子であり,何かの間違いではないかと内閣府に問い合わせたが,間違いではない,理由は説明できないとの回答を受けたとのことであった。


(ケ)10月1日,本件任命拒否

以上の経過をへて,2020年10月1日,菅内閣総理大臣は,学術会議が推薦した105名のうち6名を除外し,99名を学術会議会員に任命した。

以上の,4月2日付文書,6月1日付文書,8月31日付推薦書等,9月24日付文書,9月28日付決裁文書等について,これを内閣府一部不開示決定処分に即して整理すると,本件ヴォーン・インデックスのとおりとなる。同インデックス中の不開示情報(情報公開法5条各号)についての審査請求人(原文ママ。以下,下記(8)までにおいて同じ。)の主張については,以下述べる審査請求書の「請求の理由」の補充主張とあわせ主張するものである。

(略)


ウ 情報公開請求に関する理由説明書における一部不開示の理由に対する反論・求釈明

―内閣府大臣官房長決定(府人727号-1・727号-2)及び内閣府日本学術会議事務局長決定(府日学972号-1)に対する求釈明

内閣府大臣官房長決定(府人727号-1・727号-2)及び内閣府日本学術会議事務局長決定(府日学972号-1)により行政文書が一部開示されたが,当該不開示部分については,そもそも情報公開法5条各号の不開示事由に該当しないのであるから,すべて開示されるべきである。

審査請求人は,令和3年11月8日付審査請求書理由補充書兼口頭意見陳述申立書をもって,処分庁は,当該不開示部分について,いわゆるヴォーン・インデックスを作成し,当該不開示部分ごとに,不開示部分の概要(その不開示の内容までも明らかにすることは求めてはいない),不開示事由に該当するという個別具体的な理由を明らかにすることを求めた。

しかし,処分庁の理由説明書においては,個別具体的な理由は明らかにされなかった。審査請求人は,審査会が本件ヴォーン・インデックスをふまえて,一部不開示文書をインカメラ審理したうえで,処分庁から事情を聴取して,一部不開示文書の内容について釈明を求めたうえで,項目ごとの開示不開示の判断がなされることを求める。

(ア)内閣府大臣官房長決定(府人727号-1・727号-2)について

a 「(1)令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①」

内閣府大臣官房長決定(府人727号-1・727号-2)は,「2 開示する行政文書の名称 (1)令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①」として,

(a)令和2年8月31日付「日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)」と題する,内閣総理大臣宛ての日本学術会議会長名義の文書(府日学1243号)(8月31日付推薦書)の一部


(b)平成30年11月13日付「日本学術会議法第17条による推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係について」と題する,「内閣府日本学術会議事務局」名義の,宛先の記載のない文書(平成30年文書)


(c)「日本学術会議会員任命関係 国会議事録抜粋」と題する4頁の文書


(d)全面黒塗りの文書1枚


を開示した。

【求釈明事項】

① 上記文書(b)・(c)・(d)は,一体として1つの文書なのか,別個独立の文書なのか


② 上記文書(b)・(c)・(d)は,令和2年8月31日,上記文書(a)と共に,学術会議から内閣府大臣官房人事課に対して提出されたのか。


③ 上記質問②が否定の場合,(b)・(c)・(d)はそれぞれ,いかなる行政機関が,いかなる行政機関に対し,いかなる日時に提出したのか。特に,文書「(b)」について回答されたい。


④ 上記文書(a)の右肩に一部黒塗り部分があるが,改めて開示を求める。

不開示とするのであれば,少なくとも「何が記載されているのか」は回答されたい。また,当該黒塗り部分の不開示理由も具体的に提示されたい。


⑤ 上記文書(d)は全面黒塗りであるが,改めて開示を求める。

不開示とするのであれば,少なくとも「何が記載されているのか」は回答されたい。当該黒塗り部分の不開示理由も具体的に提示していただきたい。


b 「(2)令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料②」

内閣府大臣官房長決定(府人727号-1・727号-2)は,「2 開示する行政文書の名称(2) 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料②」として,右肩の一部及び紙面の中心部分の2箇所を黒塗りにした,全面黒塗りの1枚の文書を開示した。

【求釈明事項】

① 改めて開示を求める。


② 不開示とするのであれば,

・いかなる行政機関が,いかなる行政機関に対し,いかなる日時に提出したものかを回答されたい。

・少なくとも「何が記載されているのか」は回答されたい。また,当該文書の不開示理由も具体的に提示されたい。


c 「(3)令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料③」

内閣府大臣官房長決定(府人727号-1・727号-2)は,「2 開示する行政文書の名称 (3)令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料③」として,「説明資料①」のうち8月31日付推薦書を除くもの,すなわち上記a(b)(平成30年文書)・(c)・(d)と全く同一と思われる文書を開示した。

【求釈明事項】

① 「説明資料①」と重複する「説明資料③」を別途開示した趣旨は何か。


② 「説明資料③」で開示された平成30年文書の1頁目の右上の黒塗り部分(「説明資料①」中の平成30年文書にはない)の開示を求める。開示されないのであれば,少なくとも「何が記載されているのか」は回答されたい。また,黒塗り部分の不開示理由も具体的に提示されたい。


d 「(4)令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における伝達記録」

内閣府大臣官房長決定(府人727号-1・727号-2)は,「2 開示する行政文書の名称 (4)令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における伝達記録」として,9月24日付文書を開示した。

【求釈明事項】

① 文書の作成者及び伝達先を明らかにされたい。


② 黒塗り部分の開示を求める。開示されないのであれば,少なくとも「何が記載されているのか」は回答されたい。


e 「(5)日本学術会議会員の任命について(文書番号:府人第1181号)」

内閣府大臣官房長決定(府人727号-1・727号-2)は,「2 開示する行政文書の名称 (5)日本学術会議会員の任命について(文書番号:府人第1181号)」として,9月28日付決裁文書と共に,

(a)8月31日付推薦書(105名の氏名だけが記載された名簿)


(b)「第25-26期会員候補者名簿(案)-105名」(学術会議内部における8月28日付決裁文書に添付された,105名の性別・年齢・所属・職名・専門分野が記載された名簿)


(c)日本学術会議法の抜粋(3条,7条,17条)及び「日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令(平成17年内閣府令第93号)」が1枚にまとめられたもの


を開示した。

【求釈明事項】

① 上記文書(a)・(b)・(c)は,9月28日付決裁文書に添付して供覧したのか,それぞれについて回答されたい。


② 上記文書(a)・(b)では,6名が黒塗りとされているが,決裁・供覧文書に添付したのだとすると,6名を黒塗りにして添付したのか,それとも情報公開するにあたって黒塗りにしたのか。


(イ)内閣府日本学術会議事務局長決定(府日学972号-1)について

a 「(2)令和2年4月2日 令和2年会員改選に係る意思決定過程における資料①」

内閣府日本学術会議事務局長決定(府日学972号-1)は,「2 開示する行政文書の名称 (2)令和2年4月2日 令和2年会員改選に係る意思決定過程における資料①」として,4月2日付文書を開示した。

【求釈明事項】

① 4月2日付文書1頁目の右肩に一部黒塗り部分があるが,改めて開示を求める。不開示とするのであれば,少なくとも「何が記載されているのか」は回答されたい。また,当該黒塗り部分の不開示理由も具体的に提示されたい。


② 4月2日付文書3頁目はほとんどが黒塗りだが,開示を求める。少なくとも「何が記載されているのか」は回答されたい。当該黒塗り部分の不開示理由も具体的に提示されたい。


b 「(3)令和2年6月1日 令和2年会員改選に係る意思決定過程における資料②」

内閣府日本学術会議事務局長決定(府日学972号-1)は,「2 開示する行政文書の名称 (3)令和2年6月1日 令和2年会員改選に係る意思決定過程における資料②」として,6月1日付文書を開示した。

【求釈明事項】

6月1日付文書1頁目の右肩に一部黒塗り部分があるが,改めて開示を求める。不開示とするのであれば,少なくとも「何が記載されているのか」は回答されたい。また,当該黒塗り部分の不開示理由も具体的に提示されたい。


c 「(4)令和2年6月12日 令和2年会員改選に係る意思決定過程における資料③」

内閣府日本学術会議事務局長決定(府日学972号-1)は,「2 開示する行政文書の名称 (4)令和2年6月12日 令和2年会員改選に係る意思決定過程における資料③」として,「R2.6.12」以外は黒塗りの1枚の文書を開示した。

【求釈明事項】

黒塗り部分の開示を求める。少なくとも「何が記載されているのか」は回答されたい。当該黒塗り部分の不開示理由も具体的に提示されたい。


エ 情報公開請求に一部不開示行政文書についての理由説明書に対する反論

(ア)一部不開示行政文書の名称

審査請求人らの情報公開請求に対し,処分庁が特定した一部不開示行政文書は,次のとおりである。

内閣府大臣官房長(府人727号-1・府人727号-2)

a 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①


b 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料②


c 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料③


d 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における伝達記録


e 日本学術会議会員の任命について(文書番号:府人第1181号)


f 承諾書--727号-2には,これだけがない

内閣府日本学術会議事務局長(府日学972号-1)


g 日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)(府日学第1243号)


h 令和2年4月2日 令和2年10月の会員改選に係る意思決定過程における資料①


i 令和2年6月1日 令和2年10月の会員改選に係る意思決定過程における資料②


j 令和2年6月12日 令和2年10月の会員改選に係る意思決定過程における資料③


(イ)不開示とした理由及びその部分

a 情報公開法5条1号(特定個人識別情報)

上記(ア)aないしdの行政文書のうち任命されなかった候補者の氏名,専門分野及び所属・職名に関する記載,上記(ア)eの行政文書のうち「日本学術会議会員候補者推薦書」及び「第25-26期 会員候補者名簿(案)」に記載された,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,及び専門分野,上記(ア)fの行政文書に記載された住所,自筆の日付及び氏名,印影,上記(ア)g及びiの行政文書のうち「任命されなかった候補者の氏名」等,上記(ア)hの次期会長に関する資料,推薦されなかった候補者の氏名等については,特定の個人を識別することができる情報であり,情報公開法5条1号に該当するとして不開示とされた。


b 情報公開法5条6号柱書き(事務の適正な遂行に支障)

上記(ア)eの行政文書に記載された内線番号,上記(ア)g及びiの行政文書のうち職員の氏名及び印影並びに会員候補者の選考理由については,事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとして,情報公開法5条6号柱書きに該当するとして不開示とされた。


c 情報公開法5条6号ニ(公正・円滑な人事の確保に支障)

上記(ア)aないしcの行政文書のうち人事に係る事務の内容についての記載,上記(ア)aないしdの行政文書のうち任命されなかった候補者の氏名,専門分野及び所属・職名に関する記載,上記(ア)eの行政文書のうち「日本学術会議会員候補者推薦書」及び「第25-26期 会員候補者名簿(案)」に記載された,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,及び専門分野,上記(ア)g及びiの行政文書のうち,「任命されなかった候補者の氏名」等,上記(ア)hの次期会長に関する資料,推薦されなかった候補者の氏名等は,これを公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるとして,情報公開法5条6号ニに該当するとして不開示とされた。


(ウ)個人識別型非公開事由における公又は公予定による個人情報(公領域情報)の開示

―情報公開法5条1号ただし書イ(公領域情報)に関する運用実例の集積

a 自己情報コントロール権について

2003年の個人情報保護法及び行個法の制定から2015年の個人情報保護法改正及び2016年の行個法改正に至る経緯をふまえて,自己情報コントロール権については,①「決定権としてのコントロール権」(個人情報の取得,利用,開示などについての情報主体の同意を要する)と②「チェックとしてのコントロール権」(自己情報の開示,訂正,利用停止請求権)として分類されることが提言され,また,「名称においてミスリーディングである」と指摘する見解もある。


b 情報公開法5条1号ただし書イの法解釈

他方,1999年に制定された情報公開法においては,個人情報の非公開事由,不開示情報として5条1号が規定され,個人識別情報は開示義務の適用除外である不開示情報とするが(同号前段),同号ただし書イは「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」(以下「公又は公予定情報」という。)を絶対的開示情報とする。公領域情報(Public Domain)の絶対的公開事由とも呼ばれる。

そもそも,公又は公予定情報は,神奈川県公文書公開条例5条1号の個人識別型の非公開事由のうち,公表を目的とする情報(同号イ)の絶対的公開事由に由来するところ,東京高判平成3年5月31日判時1388号22頁は販売段階で公表されているマンション平面図を個人識別情報と認定したことから,必ずしも情報公開と個人情報保護の調整としては適正に機能しないこともあり,情報公開法の制定にあたり,新たに考案された規定であった。

その法解釈としては,

①「法令の規定」は何人に対しても当該情報を公開することを定めている規定に限られる,


②「慣行として」は,事実上の慣習として公にされていること又は公にすることが予定されていることで足りる,


③「公にされ」は,現に公衆が知り得る状態に置かれていれば足りる,


④「公にすることが予定されている情報」は,将来的に公にする予定(具体的に公表が予定されている場合に限らず,求めがあれば何人にも提供することを予定しているものも含む。)の下に保有されている情報をいう,


とされた。

情報公開法の制定を受けて,最判平成15年10月28日判時1840号9頁は,前掲千葉県公文書公開条例において,「公表を目的としている情報」について,「公表することがもともと予定されているもの」を含むとして,この規定を情報公開法5条1号ただし書イとできる限り同様になることとした。


c 情報公開法5条1号ただし書イに関する多数の答申例

その後の情報公開法の解釈の展開においては,情報公開法5条1号が個人識別情報を公開原則の例外不開示として扱うことから,同号ただし書イによって公又は公予定情報として原則公開に立ち返る情報公開・個人情報保護審査会答申の事例が比較的多くみうけられる。

本項においては,この答申例の検討をふまえて,同号ただし書イによる公又は公予定情報(公領域情報)が運用実例をふまえて規範化されて,個人情報の積極的開示という解釈適用において類型化することができ,個人情報であっても公領域情報として開示されることによって,政府の保有する個人情報がプライバシー侵害とならない限度において開示されることとなり,これによって個人に対する監視社会化を防ぐためにも重要な役割を果たしていることを明らかにする。

① 検務事件簿中の特定個人に係る記載について当該個人の犯罪歴の有無という情報自体が慣行として公にされているとしたもの(内閣府情報公開審査会平成13年10月2日答申(平成13年度(行情)答申2号))。


② 柔道整復師に対する処分関係資料について,行政処分を受けた柔道整復師の氏名等を秘匿することの合理的根拠は認められず,医師等の氏名等と同様に開示することは,国民に対する行政機関の説明責務を果たす上でも求められているとして,被処分者の氏名等の記載部分は「慣行として公にすることが予定されている情報」であるとしたもの(同平成14年3月11日答申(平成13年度(行情)答申156号))。


③ 昭和天皇とマッカーサー最高司令官との会見録等について,「一方の当事者であるマッカーサー最高司令官が本件会談を始めとした一連の会談について自己の解釈などを回想記に詳述していること」等に鑑みれば「公にすることが予定されている情報」に該当するとしたもの(同平成14年9月20日答申(平成14年度(行情)答申181号))。


④ 司法制度改革推進本部法曹養成検討会等の議事を記録した録音テープについて「行政の透明性の確保の観点から審議会等と同様に会議または議事録を速やかに公開することを原則とすることが要請されている本検討会の性格から考えると,慣行として公にされまたは公にすることが予定されているもの」としたもの(同平成15年2月7日答申(平成14年度(行情)453~457号))。


⑤ 侍従職の庶務関係録の事務日誌について「天皇ないし皇位継承者を含む皇室の在り方は,広く国民の正当な関心の対象であり,本人個人の職務の在り方及びその内容も,深くこれにかかわりを有するものであることから,・・・正当な関心の対象であるということができること」等から「公にすることが予定されている情報」に該当するとしたもの(同平成15年7月14日答申(平成15年度(行情)答申188号))。


⑥ 国内希少野生動植物捕獲等許可申請等文書について,本件捕獲許可は公益的な性格が強いものであると認められ,静岡空港オオタカ保護対策検討委員会の委員として静岡県のホームページに掲載されていることを認定したうえで,同委員会に委員として参加した申請者・被許可者の氏名は「慣行として公にすることが予定されている」情報に該当するとしたもの(同平成15年10月2日答申(平成15年度(行情)答申324号))。


⑦ 邦人保護業務を遂行する過程で在イスラエル大使館の不特定の職員にあてた特定個人からの依頼文書及び要請書について,「本件要請書と同旨のものが,平成14年からインターネット上の異議申立人のウェブサイトに掲載され,また,同時期に,特定の雑誌に,本件要請書が提出された経緯についての簡潔な説明及び特定個人の氏名とともに掲載されていること」等から,当該依頼文書及び本件要請書の本文部分に記載された内容及び氏名は,既に,公にされているものと考えられるとしたもの(同平成16年5月20日答申(平成16年度(行情)答申33号))。


⑧ 医薬品副作用・感染症症例報告書の一部開示決定に関する件について,症例票に係る患者の副作用については,担当医が「主な既往歴,患者の体質等」欄記載の疾病と密接に関連するものと判断し,これらを一体のものとして報告していると考えられることから,・・・「慣行として公にすることが予定されている情報」に該当すると認められ,開示すべきであるとしたもの(同平成16年10月14日(平成16年度(行情)答申312号))。


⑨ 東京社会保険事務局における特掲診療料の施設基準に係る届出書の一部開示決定に関する件外1件について,審査請求人は,出版物やインターネットなどで経歴を公開している医師も多く見受けられるとして,情報公開法5条1号ただし書イに該当する旨主張しているところ,常勤医師の経歴のうち,当該手術に関する経験年数については,・・・算定告示の所定点数により算定できることとなる本件のような場合においては,慣行として公にすることが予定されている情報に該当するとしたもの(同平成16年11月19日(平成16年度(行情)答申382,383号))。


⑩ 朝鮮総督府高等官級関係書類の不開示決定に関する件について,同高等官の昇等が決定された文書の内容は,その欄外の記述から朝鮮総督府官報に掲載されたものであることが分かり,現に,昇叙官等,官職及び氏名の記載は,同官報に掲載されているもので,現在においても国立国会図書館等で閲覧ができる状況となっており,・・・当該文書は慣行として公にされているものと認められるとしたもの(情報公開・個人情報保護審査会平成17年9月28日(平成17年度(行情)283号))。


⑪ 特定の病院の特定の医師2名の関係書類一式の開示請求に対し,精神保健指定医が十分な専門性を有しているかという情報については,広く一般に公にされていることが要請されているものというべきであるとして,精神保健指定医指定申請書に記載された「精神障害者の診断治療に従事した期間」については,「法令の規定により又は慣行として公にすることが予定されている情報」に該当するとしたもの(同平成17年10月6日(平成17年度(行情)答申299号))。


⑫ 名古屋地検処分説明書の一部開示決定に関する件について,平成14年5月9日法務大臣処分発令にかかる事案及び同月31日処分発令に係る事実については,本件開示請求の時点において,法務省のウェブページ上で公表されていたと認められることから,上記ウェブページ上で公表されていた・・・部分は,慣行により公にされているものと認めることができる。次に平成14年処分説明書に係る各事案のうち,上記ウェブページで公表されたものを除いた事案については,それが過去の一時期において公表されたことがあったとしても,現に「公に・・・されている情報」と認めることは困難としたもの(同審査会平成17年10月20日(同平成17年度(行情)315号))。


⑬ 敦賀労働基準監督署に提出された原子力発電所で発生した労災事故に係る労働者死傷病報告の一部開示決定の件について,既に公表されている被災労働者の傷病名,傷病部位等については,別途,福井県原子力環境安全管理協議会及び福井県等は,周辺環境の安全の確保という公益目的から,異常事象の概要について,被災労働者の傷病名,傷病部位も含めて,公表しているところであり,そこで公表された情報については,慣行として公にされていると認められるとしたもの(同平成17年12月8日(平成17年度(行情)458号))。


⑭ 特定地番に係る旧土地台帳の写しの一部開示決定に関する件について,本件対象文書は,旧土地台帳法上の土地台帳とは認定できないとしても,その使われ方から,何人にも閲覧等が認められている旧土地台帳法上の土地台帳と同様に取り扱われるべきものであるとして,公にすることが予定されている情報ということができるとしたもの(同平成18年2月22日(平成17年度(行情)561号))。


⑮ 特定時期の叙勲受章者名簿の一部開示決定に関する件について,各受章者の年齢は,処分庁による受章者の発表以後,新聞各全国紙におおむね掲載されていることからすれば,公にされている情報と解されるところ,功労概要や主要経歴と同様に,顕彰をするにふさわしい時期であることを明らかにすることは考えられるところであり,慣行として公にすることが予定されている情報としたもの(同平成18年3月15日(平成17年度(行情)596号))。


なお,情報公開法制定時,同法18条以下で「情報公開審査会」が設置されたが,その後,行個法が制定され,同法に基づく開示決定等に対する不服申立てについて諮問に応じて調査審議するために改組され,情報公開・個人情報保護審査会設置法(平成15年法律60号)に基づき「情報公開・個人情報保護審査会」が設置されたことは周知のとおりであるが,上記答申①から⑨までは,情報公開審査会,⑩から⑮は情報公開・個人情報保護審査会の,それぞれ答申である。

その後も,「慣行として公にすることが予定されている情報」(情報公開法5条1号ただし書イ)に該当するという判断の答申は,先例として重ねられている。


d 情報公開法5条1号ただし書イの解釈の類型

―特に高度情報社会におけるインターネットによる公表について

以上のとおり,情報公開法5条1号ただし書イは,「具体的に公表が予定されている場合に限らず,求めがあれば何人にも提供することを予定しているものも含む」と解釈されるに至っており,前述の答申例は,

第1に,既に別の媒体で当該情報が公にされているもの(上記答申①,③,⑥,⑦,⑨,⑩,⑫,⑬,⑭,⑮),

第2に,秘匿する合理的根拠は認められないとするもの(同答申②,④,⑧),

第3に,広く国民の正当な関心事であるもの(同答申⑤,⑪),

等に分類することができる。

とりわけ,上記第1の類型において,同種の個人情報がインターネットやウェブサイトで公にされていることが,情報公開法5条1号ただし書イ該当の理由とするもの(同答申⑥,⑦,⑨,⑫)があることが注目される。同法の逐条解説においても,「刊行物やウェブサイトに記載のある情報は,その登載の趣旨や目的等が情報公開制度と相容れないなどの特別の事情がある場合を除き,公表慣行が認められる」とされている。

情報公開法5条1号ただし書イ該当の理由として取り上げられたインターネットやウェブサイトとしては,以上の他にも,

・控訴状等の一部開示決定に関する件(情報公開・個人情報保護審査会平成20年3月31日(平成19年度答申(行情)542号))で最高裁判所のホームページ,

・「社会保険労務士試験委員の選任に関する届出について」等の一部開示決定に関する件(同平成20年5月22日(平成20年度答申(行情)58号))で官報又は試験事務を所管する行政機関のホームページ,

・平成21年度指導医の名簿の一部開示決定に関する件(平成24年2月15日(平成23年度答申(行情)473号))で保険指導医の専門科目について医師のインターネット上の確認,

・原爆被爆者対策基本問題懇談会議事録の一部開示決定に関する件(同平成25年10月3日平成25年度答申(行情)211号)における議事録の発言内容には当該個人の調査・研究活動又は言論・著作活動のあらましが述べられており,公開されているインターネット・ホームページ上の当該個人の調査・研究成果を照合,

・いわゆる飯塚事件の再審請求について(参考報告)等の一部開示決定に関する件(同平成26年2月17日平成25年度答申(行情)393号)における確定裁判被告人の氏名及び罪名について法務省ホームページ,

・自殺した自衛官の自殺の年月日・手段に関する情報及びいじめを行った特定自衛官に係る有罪判決に関する情報にかかる「懸案事項等」の一部開示決定に関する件について民間の法律情報データベース(同平成26年3月11日平成25年度答申(行情)452号),

・医師法及び歯科医師法上の行政処分事案に関し特定日に開催された医道審議会医道分科会の議事録等の一部開示決定に関する件(同平成26年3月24日平成25年度答申(行情)471号)における被処分者たる医師等の氏名等の情報について厚生労働省のホームページ上で利用できる医師等資格確認システム

などがある。

高度情報通信社会においては,情報公開法5条1号の2の個人識別符号についても個人情報として扱い,情報公開の例外としての非公開事由,不開示情報とされるのに対し,同条1号ただし書イについては,ブログ,特定SNS1,特定SNS2等により,個人情報の開示について本人同意がある場合だけでなく,インターネットにより拡散される個人情報について,「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」(公領域情報)として,開示される個人情報が増大するのである。

「国民が政府による監視プログラムを適切に規律するためには,国民が政府による監視を監視できるように,監視の透明性の確保が求められる。そのためには,伝統的な言論・プレスの自由に加えて,アーキテクチャの設計も重要な役割を果たす」,「政府による監視を記録し分析するアーキテクチャを設計することによって,監視に関する情報の公開を促し,監視の濫用を抑止することができる」。情報公開法5条1号ただし書イにより公又は公予定情報として構築される情報が政府による監視プログラムを規制するのであって,同号ただし書イが知る権利の保障の新たな展開に役立っているのである。

その法的裏付けとして,高度情報通信社会における個人情報保護法制において,個人情報保護法23条1項1号により,法令に基づく場合には,あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供可能とする。そして,情報公開法は法令に基づく場合としての情報の流通を可能にする。

他方,個人情報保護法28条は本人情報開示請求権を規定する。知る権利とプライバシー保護の調整及び自己情報コントロール権を具体化した本人情報開示請求権の関係について,情報公開制度上の開示・不開示に対応する自己情報コントロール権の展開は,①決定権としてのコントロール権(個人情報の取得,利用,開示などについての情報主体の同意を要する)と②チェックとしてのコントロール権(自己情報の開示,訂正,利用停止請求権)としてそれぞれ具体化される。

そして,国民主権の理念にのっとり知る権利を具体化した情報公開法は,情報公開とプライバシー・個人情報保護との調整をはかるうえで,情報公開法5条1号の個人識別型非公開事由における,同号ただし書イの公又は公予定情報による個人情報の積極的開示という解釈運用において,同号ただし書イの解釈の変容がきわめて重要な役割を果たすこととなるのである。その意味では,上記チェックとしてのコントロール権は,「個人情報の取得,利用,開示などについての情報主体の同意を要する」場合のほかに,同号ただし書イによる公又は公予定情報(公領域情報)が国による個人に対する監視社会化を防ぐためにも重要な役割を果たすこととなる。


e 任命拒否された6名に関する情報については,情報公開法5条1号ただし書イに基づき開示されるべきこと

審査会の先行答申を分析し,これを本件について見るに,本件任命拒否の6名については,①既にマスメディア等で当該情報が公にされているばかりか,本人らが自ら任命拒否されたことを社会に公表し,本件情報公開請求及び自己情報開示請求を行っていることから明らかなとおり,他人に知られたくないという6名のプライバシーを保護する必要性がないこと,②そもそも日本学術会議法上,内閣総理大臣に学術会議会員の実質的任命権は認められていないのであって,学問の自由の保障の観点から日本学術会議委員の任命手続については,その透明性の確保こそが求められており,秘匿する合理的根拠は全く認められないこと,③学問の自由の保障の観点から本件6名の任命拒否は広く国民の正当な関心事であること,④任命拒否された6名の氏名等は社会的に完全に明らかになっているにもかかわらず,その氏名等の公開を拒み,6名に対する任命拒否の事実を頑なに認めない処分庁の姿勢は著しく不合理であって,情報公開法5条1号は口実に過ぎないことが一見明白であること等に照らし,処分庁が一部開示する行政文書の中でも特に,任命されなかった候補者の氏名,専門分野及び所属・職名に関する記載については,特定の個人を識別することができる情報であるとしても,同号ただし書イに該当するものとして開示されるべきである。


(エ)情報公開法5条5号及び6号の解釈適用における本件一部不開示処分の違法性

a 意思形成終了後の情報

情報公開法5条5号(審議,検討等に関する情報)は,「国の機関,独立行政法人等,地方公共団体及び地方独立行政法人の内部又は相互間における審議,検討又は協議に関する情報であって,公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ,不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれ又は特定の者に不当に利益を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」と規定するが,審議,検討等意思決定前の情報について,個別具体的に,開示することによって行政機関の適正な意思決定に支障を及ぼすおそれの有無及び程度を考慮し,不開示とされる情報の範囲を画したものである。このうち,「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」とは,公にすることにより,外部からの圧力や干渉等の影響を受けることなどにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがある場合を想定したもので,適正な意思決定手続の確保を保護利益とするものと解されている。それゆえ,審議会等における意思形成過程情報の不開示情報は,意思形成終了後は,一般的には「不当に損なわれるおそれ」は認定されにくいことから,比較的適用件数が少ない。


b 客観的データ

また,意思形成過程情報のうち,客観的なデータについても,適用を除外される傾向にある。

この点で,国民主権の理念にのっとり知る権利を保障する観点から参考となるのは,大阪府下の安威川ダム建設にかかる客観的な調査研究情報についての,大阪高判平成6年6月29日判タ890号85頁である。

すなわち,「右のように認められる本件各文書の内容からすると,本件非公開情報は,専門家が調査した自然界の客観的,科学的な事実,及びこれについての客観的,科学的な分析であると推認されるのであり,その情報自体において,安威川ダム建設に伴う調査研究,企画などを遂行するのに誤解が生じるものとは考えられない。被控訴人は,一部の限定された調査結果のみから全体が推測され,誤解を招くおそれがあると主張する。なるほど本件処分時にあっては,安威川ダム建設の調査の途中ではあった。しかしながら,本件非公開情報は,外部の地質調査専門会社に外注して得られたのであって,それ自体としては完結した地質調査結果であり,大阪府の純粋な内部文書ではない。たとえその調査結果がダム建設のためのものとしては一部のものであるとしても,その調査報告書は,そのことを前提にして評価されるべきものであるし,またそのようにしか評価できないものである。」と判示している。

大阪府側の上告に対しても,最判平成7年4月27日判例集未登載は,「右事実関係の下においては,本件非公開情報が大阪府公文書公開等条例(昭和59年大阪府条例第2号)8条4号及び9条1号所定の公文書の非公開事由となる情報のいずれにも当たらないとした原審の判断は,是認することができる」と判示し,上記大阪高判平成6年6月29日の判断を是認している。


c 「適正な遂行」についての厳格な解釈

情報公開法5条6号(事務又は事業に関する情報)は,国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業は広範かつ多種多様であり,公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれのある事務又は事業の情報を事項的に全て列挙することは技術的に困難であり,実益も乏しいことから,各機関共通的に見られる事務又は事業に関する情報であって,公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定されるものを「次に掲げるおそれ」としてイからホまで例示的に掲げたうえで,これらのおそれ以外については,「その他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」として包括的に規定しているものである。

いずれも,「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」等,規範的要件によって判断されることとなる。

本規定は,行政機関の長に広範な裁量権限を与える趣旨ではなく,各規定の要件の該当性を客観的に判断する必要があり,また,事務又は事業がその根拠となる規定・趣旨に照らし,公益的な開示の必要性等の種々の利益を衡量したうえでの「適正な遂行」と言えるものであることが求められる。「支障」の程度は名目的なものでは足りず実質的なものが要求され,「おそれ」の程度も単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が要求される,と解されている。

国民主権の理念にのっとり知る権利を保障する観点から,特に先例とされるべきは情報公開審査会平成16年2月20日答申平成15年(行情)617号事件「特定会社がフィブリノゲンの納入に関して提出した文書の一部開示決定に関する件」である。同答申は,次のとおり判示する。

「国立病院等及び県立病院等は,そもそも民間医療機関では対応が困難なものへの対応など公益性の高い事業を行うものであり,そのため,患者等からの信用度もおのずから高いものと考えられる。また,法5条6号は,同条2号と異なり,人の生命,健康等を保護するために公にすることが必要であると認められる情報を明示的に不開示情報から除外してはいないが,これは,行政機関の事務又は事業は公益に適合するように行われなければならず,公にすることによって生ずる「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」については,人の生命,健康等を保護する必要性その他の公益的開示の必要性を考量した上で判断されることになるからである。すなわち,同条6号にいう「同号イからホまでに掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があるというためには,公にすることによる事務又は事業の遂行に支障を及ぼすおそれの程度と,人の生命,健康等を保護するためなど公益的な開示の必要性を比較考量したうえで,なお「適正な遂行」に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合でなければならないものである。」

上記答申は,「適正な遂行」という規範的要件の解釈適用において,情報公開法5条2号ただし書「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」と同様の評価根拠事実を主要事実と解釈し適用することにおいて,先例とされるべきものである。


d 公表が本来予定

また,最判平成16年6月29日判時1869号17頁は,次のとおり判示する。

「前記事実関係等によれば,本件非公開決定がされた時点においては,本件環境影響評価書等の内容が確定し,これらが公にされていた上,既に本件都市計画の変更決定が行われていたというのである。そうすると,本件公文書を公開することにより,当該事務事業に係る意思形成に支障が生ずる余地はない。また,将来の同種の事務事業に係る意思形成に対する影響についてみると,本件環境影響評価書等のような環境影響評価準備書や環境影響評価書は,一定の技術的指針に従って作成される技術的な性格を有する文書で,公表することが本来予定されているものであり,その事務事業が決定されて意思形成が完了した後に上記各文書の成案前の案が公開されることになったとしても,その事務事業に係る意思形成に支障が生ずるということはできない。結局,本件公文書を公開することにより,当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障が生ずるということはできないから,本件公文書に本件条例(旧岐阜県情報公開条例)6条1項7号所定の非公開情報が記録されているということはできない。さらに,本件公文書を公開することにより,当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が損なわれ,又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあると認めるべき事情が存することにつき特に主張,立証のない本件においては,本件公文書に本件条例6条1項8号所定の非公開情報が記録されているということもできない。」

環境影響評価書は,「一定の技術的指針に従って作成される技術的な性格を有する文書で,公表することが本来予定されているもの」であるからという判旨部分は,上記bの大阪高判平成6年6月29日,最判平成7年4月27日と同様の考え方に依拠するものとして,国民主権の理念にのっとり知る権利を保障するという観点からは,情報公開法5条5号及び6号の解釈適用においても特に参考とされるべきである。


e 本件任命拒否に関する情報は,情報公開法5条6号柱書き・同条同号ニに該当しないため開示されるべきこと

上記aないしdの原則開示の基本的枠組みを前提とすると,処分庁は,本件一部不開示行政文書の情報公開法5条6号柱書きの「事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」と,同号ニ「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」についての,具体的な事実を主張立証していないというべきである。

処分庁は,当該不開示とした部分には,人事に係る事務の内容について記載されており,これを公にすれば,当該事務の具体的な過程の一部が明らかとなり,今後の日本学術会議における会員候補者の選考及び推薦に関する事務等の円滑な遂行や,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることを,情報公開法5条6号ニの該当理由とするだけである。

しかし,これだけでは,一部不開示処分の理由としては不十分である。

上記aのとおり,意思形成過程情報は,意思形成終了後は,一般的には「不当に損なわれるおそれ」は認定しにくい。上記bのとおり,意思形成過程情報は,客観的なデータについては,不開示情報の適用を除外される傾向にある。上記cのとおり,事務事業の「適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」は,規範的な要件であって,その具体的な評価根拠事実が主張立証されない限り,要件該当とはならない。加えて,「適正な遂行」の解釈適用においては,情報公開法5条2号ただし書「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」と同等の評価根拠事実として主張立証されない限り,要件該当とはならない。また,「支障を及ぼすおそれ」は,単なる確率的な可能性ではなく,法的保護に値する蓋然性が要求される。

しかし,上記第2の2(1)ア(ア)及び(イ)で述べたとおり,本件6名の任命拒否は,従来の政府解釈を覆して日本学術会議の推薦どおりに任命しなかったという,学問の自由の保障をも侵害しかねない問題を含むものであるから,その積極的かつ合理的な理由ないし根拠が,客観的資料に基づいて国民に明らかにされなければならない。

ところが,本件について,菅内閣総理大臣は,「総合的,俯瞰的観点からの判断」であるとか「多様性が大事」であるとか述べるだけで,まともな理由を示すことがないどころか6名を除外する前の105名の推薦名簿は見ていないとか,6名のうち5名の氏名は承知していなかったなど,あまりにも不誠実な対応に終始しており,行政としての説明責任を放棄していたのである。

しかも,本件審査請求(原文ママ。以下,下記(8)までにおいて同じ。)における処分庁の理由説明は,「これを公にすれば,当該事務の具体的な過程の一部が明らかとなり,今後の日本学術会議における会員候補者の選考及び推薦に関する事務等の円滑な遂行や,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある」というだけで,菅総理大臣と同様にまともな理由を示すところがない。

民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源としての行政文書についての国民主権の理念に基づく情報公開請求においては,情報公開法5条6号ニを,上記の先例に即して厳格に適用し,処分庁において要件該当の評価根拠事実を主張立証しなければ,原則開示に立ち返り,本件不開示部分をすべて開示しなければならないのである。


f 理由説明になっていない

そもそも本件一部不開示文書の開示のあり方は杜撰であり,例えば「説明資料①」とされる中に複数文書とみられるものが含まれているが,どこまでが一体の文書なのかも不明であったり,独立した文書とみられるものが全部黒塗りでいかなる不開示理由を主張しているのかも不明であり,理由説明書に対する反論も不可能なものが散見される。

とりわけ,本件ヴォーン・インデックスに示したほとんど黒塗りの文書,すなわち,

・府人727号-1・府人727号-2(1)説明資料①18枚目「C」,「日本学術会議法第17条による推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係について」と題する文書の10枚目(1枚)

・同(2)説明資料②(全1枚)

・同(3)説明資料③10枚目,「日本学術会議第17条による推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係について」と題する文書の10枚目(1枚)

・同(4)外すべき者文書(全1枚)

・府日学972号-1(4)資料③(全1枚)

は,いずれも,そもそも当該不開示部分が何行分あるのかも不明であり,かつ内容も不明につき不開示理由を個別具体的に反論できない。

これは,行政手続法8条及び情報公開法9条2項違反であり,本件一部不開示決定処分は,いずれも取り消されるべきである。

(略)


(3)意見書2

(略)

ア 情報公開法5条1号柱書きの核心はプライバシーの保護である

「個人に関する情報を保護する目的は,個人の正当な権利利益の保護であり,その中核的部分は,プライバシーである。」(宇賀克也「新・情報公開法の逐条解説(第8版)」75頁)。情報公開法5条1号の解釈・適用にあたっては,この法の趣旨が十分に踏まえられなければならない。

情報公開法が,不開示の範囲を「プライバシー」という概念で画さず,「個人識別情報」の原則不開示という方式をとったのは,プライバシーの概念が必ずしも明確でないことから制度の安定的運用を図るためとされている。従って,「個人識別情報を原則不開示としたうえで,個人の権利利益を侵害せず不開示とする必要のないもの,および,個人の権利利益を侵害しても開示することの公益が優先するために開示すべきものをただし書で例外的開示事項として列挙する個人識別情報型が採用されたのである。」(宇賀前同書同頁)。

このような情報公開法5条1号の立法趣旨に鑑みれば,6名の氏名等が構成要件的には「個人識別情報」であるとしても,後述のとおり,当該6名が進んで任命拒否の事実を公表し,6名の任命拒否が公知の事実となっている本件においては,6名の氏名,専門分野,所属等については,6名それぞれのプライバシーないし「権利利益」の侵害がないのであるから,情報公開法5条1号柱書きの不開示情報には該当しないというべきである。

仮に上記のような解釈がとれないとしても,情報公開法5条1号ただし書イの不開示の例外として開示を認めるべきである。

以下,まず6名の氏名等の公表に関する事実関係を紹介し,次に情報公開法5条1号ただし書イ該当性について述べる。


イ 6名が任命拒否された事実は,氏名,専門分野等を含め,広く公表されていること(事実関係)

(ア)6名は進んで実名で任命拒否の事実を公表している

任命拒否された6名は,それぞれが,自ら進んで任命拒否の事実を公表している。

a 国会議員や報道記者に対する意見表明

例えば,本件任命拒否の翌日の2020(令和2)年10月2日,特定個人A,特定個人B及び特定個人Cは,国会内で公開で開催された野党ヒアリングに出席し,多くの国会議員及び報道陣の前で,それぞれ任命拒否についての意見を述べ,大きく報道された(資料3)。

また,同月23日,6名はそろって日本外国特派員協会で記者会見を開き,それぞれ任命拒否に関して意見を表明し,その詳細も大きく報道された(資料4)。

本件任命拒否に関する夥しい報道の中で,6名が個別にインタビューに応じているものは多数に上るのであり,以上は一例に過ぎない。


b 書籍による公表

2021(令和3)年1月20日発行された「学問の自由が危ない 日本学術会議問題の深層」(佐藤学,上野千鶴子,内田樹編著)には,「任命拒否を受けた6人のメッセージ」として,6名が各自書き下ろし,あるいはそれまでに公表した文章を掲載している(資料5)。掲載について6名の同意があったことは言うまでもない。

また,本審査請求の資料として提出した岩波書店発行の「世界」951号(2021年12月1日発行)の「特集 学知と政治」においても,6名はそれぞれ,任命拒否の事実を明らかにして,それぞれの専門的知見に基づき,本件任命拒否に関する論稿を寄稿している(資料2)。同号は大きな反響を呼び,多くの書店で売り切れ,一時は入手困難にもなったとのことである(資料6,ⅱ頁)。

さらに,2022(令和4)年4月20日,岩波新書「学問と政治 学術会議任命拒否問題とは何か」が6名の共著によって発行された(資料6)。これは前述の「世界」951号に掲載された論稿を大幅に加筆修正した論考を集めたものであり,岩波書店によれば初版1万部のうち発売前の予約注文が7000部を超えたとのことで,広く普及することが確実である。


c 6名の自己情報開示請求・3名の情報公開請求

言うまでもないことであるが,6名は任命拒否をされた当事者として,それぞれ自己情報開示請求を行い,不開示決定に対して本審査請求を行っている者である。

また,法律家1162名の情報公開請求人の中には,特定個人A,特定個人B及び特定個人Cも含まれ,本審査請求も行っている。

そして,これらの請求書を提出するごとに,情報公開請求人及び審査請求人は記者会見を開き,そこにはつねに特定個人A及び特定個人Bが6名を代表して,このような請求を行っている事実を公表して所見を述べ,その内容がその都度,報道もされている(資料7・8)。


d 情報公開についての6名の同意書

6名は,このたび,2022(令和4)年4月25日付で,「私が任命されなかった事実及び私の『氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,専門分野』について,保有する情報を公開していただくことに同意します。」との同意書を,内閣府及び内閣官房に提出した(資料9の1~6・資料10の1~6)。

6名は,上記同意書においてさらに,「私が任命されなかった根拠・理由を知ることを強く望んでおります。」として,「任命されなかった根拠・理由」に関する情報公開にも同意している。

上記同意書により,任命拒否された6名の情報が公開されても6名のプライバシーないし「権利利益」が全く侵害されないことが,疑う余地なく明確になった。


(イ)6名が任命拒否された事実とその氏名,専門分野等は広く公表され「公知の事実」となっていること

a 広く報道され,現在も容易に検索できること

2020(令和2)年10月1日,菅義偉内閣総理大臣が,特定個人D,特定個人E,特定個人A,特定個人B,特定個人F及び特定個人Cについて,学術会議会員の任命を拒否した事実は,マスメディアによって大きく報道された。例えば同月2日の朝刊で,東京新聞は1面トップで報じ,朝日新聞および毎日新聞も第1面で報じた。これら記事は必ず,6名の氏名,所属,専門分野,職名等を漏れなく掲載している(資料11~13)。

その後も,まさに連日,本件任命拒否に関する報道は大量になされており,これらは現在もインターネットで容易に検索することができる(資料3・4・12・13はその一端である)。

本件任命拒否が,まさに公知の事実となっていることは明らかである。


b 国会審議において,6名の氏名,所属,専門分野等が詳しく紹介されたこと

本件任命拒否問題は,その直後から国会審議で繰り返し取り上げられた。同年10月7日の衆議院内閣委員会(閉会中審査),同年11月2日及び同月4日の衆議院予算委員会,同月5日,6日及び25日の参議院予算委員会などにおいて,なぜ6名の任命を拒否したのか,政府側に対し,野党議員から厳しい追及がなされた。

その中でも,個人識別情報との関係では,同年10月7日の衆議院内閣委員会(閉会中審査)における今井雅人議員の質問が注目される。今井議員は,6名全員の氏名,所属機関,専門分野,業績等を詳しく紹介した上で,「これだけそれぞれの分野で精通しておられる方がなぜ選に漏れたのか。」と質問している(資料14,10頁)。そして政府側も,この6名の任命を拒否したことについて否定せず,そのことを前提としてその後の答弁が続けられたのである。

また,同年11月4日の衆議院予算委員会では,江田憲司議員の「総理は任命を拒否した6人の方の研究や業績について一体どれほどのことを御存知でしたか」との質問に対し,菅義偉内閣総理大臣は,「私は特定個人F以外の方は承知していませんでした。」と答弁している(資料15,29頁)。任命権者である内閣総理大臣が,少なくとも特定個人Fの任命を拒否したことを認めているのである。

これらの質問は国会の会議録として公表され,インターネットの国会議事録検索システムで広く公開されている。


c 所属機関のホームページ等による氏名,専門分野,職名,経歴,業績の公開

任命拒否の事実と結び付けた情報ではないが,6名はそれぞれ,所属機関のホームページや科学技術振興機構のサイトで,氏名,ふりがな,専門分野,所属,職名のみならず,経歴や業績等を公表しており(資料16の1~21),それは内閣府が原処分(原文ママ。以下,下記(8)までにおいて同じ。)(府人727号-1及び府人727号-2)で公開した99名の簡易な専門分野等の記述とは比べものにならないほど詳細である。つまり,不開示とされた情報のうち,性別と年齢以外の個人識別情報は詳細に公表されているのであり,これらは6名にとっていかなる意味でもプライバシーではない。

なお,特定個人Dは特定機関A(当時),特定個人E及び特定個人Fは特定機関Bに所属しており,国に準ずる地位を有する独立行政法人が上記3名の氏名や専門分野を公表していることにも注目すべきである。

また,特定個人E及び特定個人Aは,特定行政機関のホームページ上の特定名簿に掲載され,氏名,ふりがな,性別,所属・職名,専門分野が公表されている(資料22)。処分庁である内閣府が公表していることに注目すべきである。


ウ 任命を拒否された6名の氏名や専門分野に関する情報は,情報公開法5条1号ただし書イの公領域情報に該当する

(ア)「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」の解釈について

そもそも情報公開法5条柱書は,行政機関の長に対し,開示請求があったときは,「当該行政文書を開示しなければならない」として,「原則開示」を義務づけている。

その原則開示の除外事由として,同条1号柱書きはプライバシー保護の目的で個人識別情報の原則不開示を定めているものの,同号ただし書イは,「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」を同号柱書きの例外としており,これは,国民主権の理念と知る権利の保障の趣旨を踏まえた行政文書の「原則開示」の趣旨に立ち返り,同号ただし書イに該当する情報については,絶対的な開示義務を課しているものである。

このような「原則開示」の趣旨に照らすならば,「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当するか否かは,行政機関の利害を考慮するのではなく,プライバシー保護が不要な情報かどうかで判断されるべきであり,上記(2)エ(ウ)において多数の答申例を紹介して詳細に論じたとおり,

①「既に別の媒体で当該情報が公にされているもの」,


②「秘匿する合理的根拠が認められないもの」,


③「広く国民の正当な関心事であるもの」


は,「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当するものとして絶対的な開示事由とされるべきであり,実際にそのように解釈適用されている。

これを本件についてみるならば,学術会議が推薦した会員候補者の任命を拒否するといった事態は,そもそも法律が想定しておらず,実際,過去にも一度もなかったのであるから,任命されなかった者の氏名等を行政機関が公にすることに関する「法令の規定」も「慣行」もないのは当然である。このような本件において,処分庁が「法令の規定」や「慣行」という法文の形式的かつ厳格な解釈により,「原則開示」に立ち返る趣旨の同号ただし書イの適用を狭めるのは失当という他ない。

以下,6名が任命拒否された事実及び6名の氏名や専門分野等が同号ただし書イの情報に該当することを述べる。


(イ)6名が進んで公開していることによりプライバシーを侵害しないこと

詳述したとおり,6名は,国会内の野党ヒアリングや報道機関に対する応答,複数の書籍等により,自らが任命拒否された事実を積極的に公開している。また6名のうち3名は情報公開請求人でもあり,さらに6名は処分庁に対し,これら情報が公開されることについての同意書(資料14の1~6・資料15の1~6)も提出している。

情報公開法5条1号柱書の目的は個人のプライバシーの保護である。プライバシーの概念が多様であるとしても,同号柱書きが,他人に知られたくない情報を本人の同意なしに第三者に流通させることによる不利益から個人を保護する趣旨であることは明らかである。しかるに,6名にとって,自分が任命拒否をされた事実や,自分の所属や専門分野等は,何ら恥ずべき情報でもなく,他人に知られたくない情報では全くない。だからこそ,6名はすでに自ら進んで公開し,情報公開請求による公開に同意し,むしろ処分庁に自分を任命拒否の対象としたという事実を曖昧にせず認めさせたいと望んでいるのである。

このように,秘匿する合理的な理由が全くない情報は,法5条1号ただし書イの「慣行として公にされた情報」に該当するものとして,処分庁は開示義務を負うというべきである。

なお,本人が情報公開請求をしている場合は,個人情報保護法による自己情報開示によって処理されるべきだとの見解もあるが,本件では1162名の情報公開請求人のうち「本人」は3名(特定個人A,特定個人B,特定個人C)に過ぎないだけでなく,特定個人A,特定個人Bおよび特定個人Cの自己情報開示請求に対し,処分庁は不当にも不開示又は存否応答拒否として,一切の情報を開示しない。また,本人が情報公開に同意している場合も,やはり個人情報保護法によるべきだとの見解もあるが,事態は上記と同様である。従って,6名が進んで自らの情報を公開し,情報公開に同意している本件では,情報公開請求により6名の情報が開示されるべきである。


(ウ)報道,書籍,国会審議,所属機関のホームページ等により,すでに公にされている情報であること

6名の任命拒否の事実とその氏名,専門分野等は,詳述したとおり,すでに大々的な報道,書籍,国会審議等により公にされ,「公知の事実」となっている。報道は,インターネットで検索すれば,現在もいくらでも入手でき,国会審議の内容も当然に会議録として公開され,国会議事録検索システムにより何人もいつでも容易に入手できるものとして,将来にわたって公開が継続する。決して,過去に狭い範囲で公になっただけの情報ではない。

このなかでも,国会の場で6名全員の氏名,所属,専門分野,業績等が公にされ,政府側もこれを前提として答弁をしてきたこと,内閣総理大臣が特定個人Fが任命拒否されたことを認める答弁をしたことは重要である。これは,処分庁自身が情報を公にしたものと同視し得るとともに,国権の最高機関である国会の場で公にされた情報は,すでにいかなる意味でもプライバシー性を失い,すでに国民の共有する情報となっているというべきである。また,任命拒否問題が国会で再三にわたり取り上げられたことからも,本件任命拒否が国民の正当な関心事であることは明らかである。

こうした情報について「個人が識別される」との理由で不開示とするのはあまりに不合理であり,情報公開法5条1号ただし書イの「慣行として公にされた情報」に該当するものとして,処分庁は開示義務を負うというべきである。

なお,6名の任命拒否が多数の報道によって公になっていることについて,処分庁は理由説明書において,「報道機関等が独自の取材に基づいて報道している事柄」に過ぎないとして,「法令の規定により又は慣行として公にされたとは言えない」とするが(令和3年(行情)諮問第501号,502号及び504号事件における内閣府の理由説明書),前述のとおり,このような情報公開法5条1号ただし書イの形式的解釈は失当である。多数の報道により,公知の事実といえるほど公になっている情報については,同号柱書きのプライバシー保護の必要性はないからである。

最近の答申例を見ても,例えば令和2年度(行情)答申第420号(答申日令和2年12月24日)では,「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録の際に,「明冶日本の産業革命遺産」のインタープリテーション更新のための調査研究の成果物を対象文書とする情報公開請求において,対象文書に掲載されている論文の執筆者である特定有識者Aの氏名,役職及び所属については,法5条1号前段の特定個人識別情報に該当するものの,特定有識者Aが所属する機関のウェブサイトに上記論文名が記載されており,その執筆者として特定有識者Aの氏名が役職とともに記載されていることから,特定有識者Aの「氏名,役職及び所属については公表慣行があるものと認められ」るとして,情報公開法5条1号ただし書イに該当し,開示すべきであるとしている。

すなわち,インターネットで公表されている「氏名,役職及び所属」などの特定個人識別情報については,当該行政機関が公表しているものでなくても,情報公開法5条1号ただし書の「公表慣行」を認めているのであり,こうした答申例は増え続けている。こうした流れは,高度情報通信社会における情報公開のあり方として当然と言えるものであり,上記答申例の事案とは比較にならないほど広く公表されている本件6名に係る情報が同号ただし書イに該当することは明らかである。


(エ)特定行政機関,国立大学のホームページで公表されている情報について

前述のとおり,特定個人E及び特定個人Aの氏名や専門分野は処分庁である特定行政機関のホームページで公表されており,特定個人D,特定個人E及び特定個人Fの氏名や専門分野は国立大学法人のホームページで公表されている。これらは,まさに「法令の規定により又は慣行として公にされた情報」であるから,情報公開法5条1号ただし書イにより開示されるべきである。


エ 情報公開法5条1号ただし書ハ該当性

ここまで,情報公開法5条1号ただし書イに該当することを述べてきたが,最後に,同号ただし書ハに該当することも主張しておく。

特定行政機関の特定職である特定個人E及び特定個人Aは,非常勤の一般職国家公務員であり(資料23),国立大学法人の特定役職である特定個人D,特定個人E及び特定個人Fは国立大学法人の職員であるから,情報公開法5条1号ただし書ハの「公務員等」に該当する。

本件任命拒否は,「優れた研究又は業績がある科学者」(日本学術会議法17条)として推薦された者を排除したものであり,任命拒否はまさに,6名の「研究又は業績」に直結している。従って,少なくとも特定個人D,特定個人E,特定個人A,特定個人Fについての任命拒否の事実とその氏名,専門分野等に関する情報は,「当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る」ものとして,情報公開法5条1号ただし書ハによっても開示されるべきである。


オ 結論

以上により,6名が任命拒否をされた事実およびその氏名,所属,専門分野等は,情報公開法5条1号ただし書イにより,また特定個人D,特定個人E,特定個人A,特定個人Fに係る上記情報は同号ただし書ハによっても,開示されるべきである。


(4)意見書3

(略)

ア 学術会議の人事の自律性は憲法23条によって保障されること

(ア)会員人事の自律性と政治介入の禁止原則

学術会議は,科学者集団としての学問共同体であり,それも日本を代表する機関であって,その政治権力からの独立性と自律性は憲法23条の学問の自由の保障の対象であり,もともと本来的に,内閣総理大臣がその会員人事に介入することは憲法上禁止されるものである。したがって,学術会議が「優れた研究又は業績がある科学者」として選考した会員候補者の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命するとの日本学術会議法7条2項,17条の規定については,内閣総理大臣は学術会議の推薦どおりに任命すべきものであって,実質的な判断権・任命権があるわけではなく,またあってはならないというのが,憲法23条の要請するところである。

学術会議がいかなる人物を会員とするかという人事は,その活動内容を規定する基本的な要素であり,その政治権力からの自律性の確保が,学術会議の学問の自由を担保するものであって,政治はこれに介入してはならないのである。


(イ)憲法23条の学問の自由とその解釈

a 日本国憲法は,思想・良心の自由や表現の自由とは別に,特に23条を設けて学問の自由を保障したが,これは,戦前の滝川事件や天皇機関説事件などに象徴される学問に対する政治権力による侵害事件の歴史を踏まえ,個人の人権としての自由にとどまらず,特に大学における自治の保障を含め,研究活動の自由,研究成果発表の自由,そして教授の自由を保障したものと説かれるのが一般である。

なお,最高裁大法廷昭和38年5月22日判決(刑集17巻4号370頁。ポポロ事件判決。)も,「学問の自由は,学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由とを含むものであって,同条が学問の自由はこれを保障すると規定したのは,一面において,広く全ての国民に対してそれらの自由を保障するとともに,他面において,大学が学術の中心として深く真理を探究することを本質とすることにかんがみて,特に大学におけるそれらの自由を保障することを趣旨としたものである。」と判示している。

そして,「学問の自由を憲法で条文化している国はドイツ,日本,イタリア,スペイン,ハンガリー,ポーランド,ポルトガル,フィンランド,スイスなどわずかの国々に限られている。ほとんどの国において学問の自由は思想表現の自由の一つとして扱われている。学問の自由を憲法で明文化している国のほとんどが,政治権力によって学問の自由が踏みにじられた苦い歴史を有している。憲法で明文化された学問の自由は,したがって,政治権力による学問への介入を禁じる条文であり,政治権力から学問が独立することを要請する条文なのである。」(佐藤学「日本学術会議における『学問の自由』とその危機」,佐藤学ほか編『学問の自由が危ない』所収,38頁)と説かれる。


b 学問の自由が,このように個人の思想・良心の自由や表現の自由とは別に,特に大学の自治との関係で保障されるべきものとされるのは,上記最高裁判決も言及するように,学問が真理の探究を本質とし,真理の探究に政治権力が介入してはならないからである。したがって,学問の自由の保障の対象は,歴史的・伝統的には大学という組織を中心に観念されてきたが,本質的には学問共同体ないし科学者集団(科学者コミュニティ)の学問研究の自律性の保障の問題として捉えられる。

この点,長谷部恭男教授は,次のように説く。すなわち,「学問の自由は,本来の意味における真理を探求するうえで要求される学問の自律性,つまり当該学問分野で受け入れられた手続および方法に基づく真理の探究の自律性を確保すること,とくに政治の世界からの学問への介入・干渉を防ぐことを,その目的とするものと考えられる」(『憲法(第8版)』240頁)。

また,「学術活動は多くの内容に関わる規制があってはじめて成り立つし,社会に貢献し得る成果を産み出すこともできる。学問の自由の意味は,そうした学術活動に対する内在的規制が,当該学術機関とそのメンバー自身(さらには彼らを包括するより広い範囲の研究者集団)の自律的な規制でなければならない点に存する(法協・註解上460-461頁)。学問の自由の重要な内容として大学の自治が取り上げられる理由もそこにある。」(『注釈日本国憲法(2)』484頁。長谷部恭男執筆部分)とも説かれる。

木村草太教授も,上記長谷部『憲法(第7版)』を援用しつつ,「こうした学問領域ごとの評価基準や法則を政治権力や社会的圧力から保護するのが,憲法23条の趣旨である。そうすると,この憲法23条は,公私を問わず学術職や学術機関が自律的に研究や意思決定を行う場合に,国家が政治的に圧力をかけたり,介入したりするのを禁止したものと理解するのが妥当である。」(「学問の自律と憲法」,前掲『学問の自由が危ない』所収,88頁)

石川健治教授もまた,概要,「憲法23条の本領は,専門領域の固有法則,理屈,論理,つまり自律性を保障することにある。専門分野の自律性に対して,政治は介入してはいけないんだというのが中身で,その周りの城壁がたまたま伝統的には大学だった。国立大学の教授陣は公務員である前に,あくまでも学問共同体であり,学問共同体という自治を勝ち取ったその証として憲法に学問の自由が刻まれる,学問共同体であることを憲法上約束するのが学問の自由という条文である。」と述べる(2020年10月6日立憲デモクラシーの会主催「学問の自由とは何か?日本学術会議への人事介入に抗議する」における講演録より)。


c 学問の自由についてのこのような理解を敷衍して,小森田秋夫教授は,学問の自由を考える場合に必要な3つの視点,すなわち,学問は科学者コミュニティ(学問共同体)によって成り立つこと,その学問の自由は科学者の社会的責任と一体でありそれが「学問の自律」であること,そこにおける批判的精神の不可欠性,という点を具体的に挙げて,次のように論じている(『日本学術会議会員の任命拒否-何が問題か』94~96頁)。

「第一に,学問を学問として成り立たせているのは科学者のコミュニティ(学問共同体)である,ということである。学問的営みと言えるためには,これまでの研究の積み重ねへの敬意,既存の研究に対する批判的態度とみずからに対する批判に開かれた態度にもとづかなければならず,研究成果はそれぞれの学問分野において確立した作法にのっとってまとめられ,公表されたものでなければならない。このような規範を認め合った科学者のコミュニティにおいて絶えず検証されるのが学問であり,このことによって学問の発展が支えられている。」「学問の自由を科学者の個人的問題であるかのようにとらえるのは,不適切な理解である。」

「第二に学問は,その核心である批判の自由が既存の知や秩序と衝突することがあるがゆえに高度の自由の保障を必要とする一方,科学者の社会的責任と切り離すことができない。・・・・科学が社会の中で行なわれていること,とりわけ科学研究の成果がどのように用いられるかについて科学者は目を背けてはならず,責任を持たなければならない。このように,自由と責任の両面を表すのにふさわしいのは『学問の自律』という概念である。」

「第三に,学問の自由が立脚する事実と論理にもとづく批判の精神は,個々の市民と集合体としての社会が,自らをよりよく理解し,賢明な選択を行うためにも不可欠なものである。政治が学問による批判を軽視し,学問自体が批判的精神を失えば,市民社会においても批判的精神が失われる。・・・・学問の自由をめぐる問題状況は,社会全体にとっての問題でもあると見なければならない。」


(ウ)学問の自由の学術会議への適用

a 1948年7月10日公布された日本学術会議法の前文は,「日本学術会議は,科学が文化国家の基礎であるという確信に立って,科学者の総意の下に,わが国の平和的復興,人類社会の福祉に貢献し,世界の学会と連携して学術の進歩に寄与することを使命とし,ここに設立される。」と唱い,2条において,「日本学術会議は,わが国の科学者の内外に対する代表機関として,科学の向上発達を図り,行政,産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする。」と定めて,学術会議の日本における位置づけと使命及び責任を明らかにしている。

同時に,学術会議は1949年1月22日第1回総会において,その発足に当たっての科学者としての決意表明としての声明を発表し,「これまでわが国の科学者がとりきたった態度について強く反省し」,上記の使命を果たすことを誓った。すなわち,戦前・戦中における日本の科学と科学者が国家主義的な目的,戦争目的の科学研究に動員され,科学の独立を維持できなかったことの反省に立って,今後科学者としての責任を果たしていくことを表明したのである。


b 広渡清吾教授は,学術会議を「科学者の社会的責任を制度化した組織」と位置づける。学術会議は,科学者の社会的責任に基礎づけられて,日本の科学者コミュニティーの代表機関として,政府と社会に対して科学的助言を行う科学者組織であるとする(「日本学術会議と科学者の社会的責任-法的位置づけ,政治との関係」,岩波ブックレット『日本学術会議の使命』所収,7・9頁)。そして,学術会議の社会的責任と学問の自由との関係を,次のように指摘する(同11~14頁)。

「科学者の社会的責任は,現代社会における学問の自由の保障と表裏一体のものであり,その自由の行使についての責任として位置づけられる。この責任は,科学者が自立的かつ自律的に(独立にかつ自主的に)果たすべきものであり,これを担保するために,科学者集団(科学者コミュニティー=scientific community)が重要な存在となる。科学者コミュニティーは,科学者の社会的責任を紐帯とする存在として定義できる。」

「科学者コミュニティーは,科学研究が科学研究として認められるに必要なルールを形成し,共有し,点検し,また,科学研究の成果の社会的実装について,科学の立場から検証し,評価し,自省し,方向の修正を図る。科学者コミュニティーの行動規範は,その形成と実効性について科学者個人の主体的取組みを不可欠のものとする。学問の自由とは,科学者個人と科学者コミュニティーの自立的,自律的な行為の責任に裏打ちされ,同時に政治的,社会的権力からの自由を保障されて存立しうる。」

「学術会議は,学問の自由の下で展開する科学研究の成果をもちより,これらを活かして政府と市民社会に科学的助言を行うことをミッションとする。」


c 小森田教授も,学術会議の基本的機能を社会に対する科学的助言にあると捉えた上で,学術会議の自律性も学問の自由の保障のもとにあると指摘する(前掲書97~98頁)。すなわち,「学術会議は,研究活動そのものを行なう機関ではない。その基本的機能は,社会に対して科学的助言を行なうことである。しかし,提言等の形をとった科学的助言は,会員が学問の自由を享有しつつそれぞれの専門分野で実績をもつ科学者であることを前提に,そのような実績を活かして会員集団として作りあげるものである。その意味で,大学における共同研究と類似した性格をもつと考えることができる。したがって,研究テーマの設定の自由,研究成果の発表の自由,研究のあり方についての自律は,科学的助言についてもそれぞれに対応する内容をもつことになる。科学的助言をめぐる自律は,人事と運営の自律によって支えられている(・・・・)。このように見れば,大学と同様に,学術会議も又学問の自由によって支えられ,また学問の自由を支えるべき社会制度であって,その自律性は憲法23条による保障のもとにある,と考えることができる」。


d 学術会議について,学問の自由における人事の自律の重要性は,長谷部教授も明確に指摘する。すなわち,「学術会議は科学者が集まって科学的根拠に基づいて提言,報告を行い,社会に学問の成果を伝えるという役割を果たしています。だからこそ学者集団の自律性を大事にしなければなりません。学問の自由を守るための核心的なメカニズムが人事ですから,人事の自律性が確保されないと学問の自由は成り立たない。」(長谷部恭男・杉田敦「政治が学問の世界に介入してきた」,前掲『学問の自由が危ない』所収,56・57頁)


e そして佐藤学教授は,日本学術会議法と憲法23条の一体性を指摘している。すなわち,「日本学術会議法が憲法第23条『学問の自由は,これを保障する』の制度的実体として制定されたことは明らかである。日本学術会議法と憲法第23条は一体のものと言っても過言ではない。「日本学術会議は,『学問の自由』の理念をいっそう発展させて,『社会のための科学』を追求する『科学者の社会的責任』を共有する『科学者共同体の代表機関』として組織され,活動を続けてきたのである。」(前掲論文36・42・43頁)


f 以上のように,憲法23条の学問の自由の保障は,日本の科学者の代表機関としてその社会的責任を果たすことを法定された科学者集団(学問共同体)である学術会議に適用されることは明らかである。そしてそこで最も重要なのは,政治権力から独立した学問共同体としての自律性,なかんずく人事の自律性である。

国家権力は,政治は,その人事に介入してはならない。学術会議の会員人事への政治介入の禁止は,憲法23条によって要請される憲法上の規律である。会員の選考は学術会議の判断に委ねられなければならず,法律上内閣総理大臣が行うものとされている会員の任命は,本来的に,名目的・形式的なものでなければならないのであって,内閣総理大臣はこれに容喙してはならないのである。


イ 日本学術会議法の規定とその解釈

(ア)日本学術会議法の規定

日本学術会議法における学術会議の組織,業務及び会員の選考・任命に関する主な規定は,次のとおりである。

(略)


(イ)日本学術会議法の解釈

a 日本学術会議法の規定の趣旨

上記のような日本学術会議法の諸規定は,まず,その規定自体からして,以下に述べるとおり,学術会議の政府に対する独立性を前提とし,それを確保するため,会員の人事について,会員たるべき者を「優れた研究又は業績がある科学者」と規定してその選考の実質的判断権を学術会議に委ね,内閣総理大臣の任命権は裁量の余地のない形式的なものと位置づけているものと解釈される。

(a)学術会議は,日本の科学者の「内外に対する代表機関」として,「独立して」その業務を行うとされる。これは当然に,政府に対する独立性を含み,それを眼目とする。その憲法上の意義は,上記アで述べたとおりである。


(b)学術会議は,政府からの諮問を受けてこれに答申するとともに,自らの発意で政府に対する勧告を行うという,双方向の活動を行う権限と責務を有しており,これはまた相互の独立性をも示している。


(c)学術会議は「内閣総理大臣の所轄とする」と定められているが,「所轄」という用語は,当該行政機関が独立性が強く,所轄大臣の指揮監督権は働かない関係を示す。

すなわち,上級の行政機関と下級の行政機関との関係において,「管理」は上級機関の指揮監督権があたかも内部部局に対するのと大差ない場合を表し,「監督」は監督権のみがあって逐一の指揮権はないことを示すのに対し,「所轄」は,「上級機関と下級機関との関係が最もよそよそしいもので,委員の任免権,報告聴取権等を除いてはほとんど指揮監督権は働かず,ただ行政機構図を画いてみれば,その機関は,その府省庁の中に入ることになるという程度の関係をあらわすのに用いられる。」とされ,人事院(国家公務員法3条1項),公正取引委員会(独占禁止法27条2項)などの例が挙げられる(林修三『法令用語の常識』19~20頁)。

もともと「所轄」という用語は,行政機関の上下関係を表すものではなく,私立学校や宗教法人の「所轄庁」が文部科学大臣等(私立学校法4条,宗教法人法5条)であるように,管轄の所在を示すものにすぎない。「所轄」だから指揮監督権があるとか,人事権があるとかいうことにはならない。現に,2004年の日本学術会議法改正以前は,会員の任命権は内閣総理大臣であったが,所轄は総務大臣であったのであり,人事権と「所轄」とは全く関係がないのである。


(d)推薦に「基づいて」という用語については,「議により」「議を経て」「議に付し」と比較して論じられるが,「議により」は法的拘束力があるとされ,「『議に基づき』は,その語感からいえば,拘束性が相当強いように見え,また,実際上も,相当にそれが強い場合が多いが,この語が用いられているからといって当然に審議機関等の議に法律的に拘束されるということにはならない。」「それぞれの用語の正確な意味の解釈は,個々の法令の規定の趣旨を考えつつ決するほかはない。(林・前掲書24~25頁),「議により」以外の用語のうち「『議に基づき』は,原則として拘束力は相当強いものとして使われている。」(田島信威『法令用語ハンドブック 三訂版』230頁)などと解説される。

すなわち,「基づいて」任命するという場合,一般的には,例外を許さないわけではないが原則として拘束力は強く,その正確な意味は個々の法令の解釈によるということになろう。そして実際,「基づいて」という用語は任命権者に全く裁量の余地のない場合にも用いられており,例えば,「天皇は,国会の指名に基いて,内閣総理大臣を任命する。」「天皇は,内閣の指名に基いて,最高裁判所の長たる裁判官を任命する。」(憲法6条)などの例がある。そして日本学術会議法7条2項の場合,その具体的解釈として,後述のように,内閣総理大臣の任命権は形式的なもので実質的判断権はないとの解釈が定着してきていたのである。


(e)さらに,日本学術会議法も,会員たるべき者の適格性の実質的判断権を学術会議に委ねていると解される。すなわち,日本学術会議法17条の条文上,学術会議は「優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考」するとされているが,その研究・業績の評価は科学的専門的評価として学術会議の判断に委ねられていると解すべきだからである。

なお,同条は,学術会議は会員候補者を「内閣府令で定めるところにより」内閣総理大臣に推薦するとされているところ,「日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令」(平成17年内閣府令第93号)は,任命を要する期日の30日前までに「当該候補者の氏名」を記載した書類を提出することにより行うとして,氏名だけを記載して推薦することとしており,内閣総理大臣にその候補者の適否を判断すべき資料は提供されない。


(f)日本学術会議法25条及び26条は,学術会議会員の辞職・免職についても,必ず学術会議の同意又は申出があることを要件としており,内閣総理大臣が独自の判断で辞職を認め又は免職する権限を与えていない。


(g)なお,日本学術会議法7条1項は,会員の定数を210人と法定しており,これに足りない人数を任命することは違法となる。


b 内閣総理大臣の任命権についての従来の政府解釈

(a)今回の学術会議会員任命拒否がなされる以前の政府の国会答弁等で示された法解釈も,またその後の実際の適用も,上記のように,内閣総理大臣の任命権は形式的なものにすぎず,実質的な判断権は学術会議にあり,内閣総理大臣は学術会議の推薦どおりに会員を任命するのであり,推薦された候補者の任命を拒否することはない,というものであった。

すなわち,学術会議の会員選任方式は,発足以降登録した科学者による公選制が採られていたが,1983年に学術会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命するという任命制へと制度改正がなされた。従来の政府解釈は,主に,その法改正に際して,国会における政府答弁等によって明示されたものである。また,学術会議が内閣総理大臣に推薦する候補者の事前の選考方法について,1983年に採用された「学協会推薦制」(登録された科学者団体(学協会)を基礎とする研究連絡委員会(研連)ごとの推薦に基づいて会員候補者名簿を作成する方式)から,2004年に導入された「コ・オプテーション方式」(現会員が次に任命されるべき会員候補者を推薦する自己選考方式)に変更された同年の法改正に際しても,上記政府解釈が変更されることはなかった。


(b)1983年法改正に際してなされた政府の国会答弁のうち,内閣総理大臣の任命権の性格に関する特徴的なものを挙げれば,次のとおりである。

① 「これは全く形式的任命である」「二百十名出てくれば,これはそのまま総理大臣が任命するということ」(1983年5月10日参議院文教委員会手塚康夫政府委員答弁・会議録7頁(以下「参・文教委手塚康夫政府委員7頁」の要領で略記する。))


② 「二百十人の会員が研連から推薦されてまいりまして,それをそのとおり内閣総理大臣が形式的な発令行為を行うというふうにこの条文を私どもは解釈しておるところでございます。この点につきましては,内閣法制局におきます法律案の審査のときにおきましても十分その点は詰めたところでございます」(同日同委高岡完治説明員15頁)


③ 「政府が行うのは形式的任命にすぎません。したがって,実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので,政府の行為は形式的行為であるとお考えくだされば,学問の自由独立というものはあくまで保障されるものと考えております。」(同日同委中曽根康弘内閣総理大臣34頁)


④ 「内閣総理大臣による会員の任命行為というものはあくまでも形式的なものでございまして,会員の任命にあたりましては,学協会等における自主的な選出結果を十分尊重し,推薦された者をそのまま会員として任命するということにしております。」(同年11月24日同委丹羽兵助総理府総務長官12頁)


⑤ 「ただ形だけの推薦制であって,学会の方から推薦をしていただいた者は拒否はしない,そのとおりの形だけの任命をしていく,こういうことでございます」(同日同委同総務長官23頁)


(c)また,1983年法改正に際して学術会議事務局が作成した「第100回国会における日本学術会議法改正法案関係想定問答集」には,「内閣総理大臣による任命は,実質的任命であるのか」という問に対する答として,「内閣総理大臣は,法律上,研究連絡委員会を同じくする登録学協会から指名された推薦人の推薦に基づいて会員を任命することとなっており,この任命は,形式的任命である」との見解が記載されている(問47。2020年11月11日衆・内閣委学術会議事務局長9頁参照)。

同様に,同時期に総理府が作成した「日本学術会議法の一部を改正する法律案想定問答集」にも,「総理の任命制は学術会議の独立性をそこなうこととならないか」との問に対する答として,「学術会議会員の選出方法を選挙制から推薦制に改めることに伴い,推薦された者を会員とするために内閣総理大臣の任命行為が必要となるわけであるが,この任命は,科学者による自主的な選出結果を尊重し,推薦された者をそのまま会員として任命する形式的なものであって,国が学術会議の独立性を侵すようなものでは,決してない」と記載されている(問10。同上会議録参照)。


(d)さらに,上記2004年の法改正に際しても,学術会議の会員推薦と内閣総理大臣の任命権限との関係は国会審議の対象とされなかったが,当時学術会議を所轄していた総務省が作成していた同年1月26日付け「日本学術会議法の一部を改正する法律案(説明資料)」(29頁)において,「日本学術会議が,規則で定めるところにより,優れた研究又は業績がある科学者のうちから,会員の候補者を決定し,内閣総理大臣に推薦し,内閣総理大臣が,その推薦に基づき,会員を任命することになる。この際,日本学術会議から推薦された会員の候補者につき,内閣総理大臣が任命を拒否することは想定されていない。」と記載されていたことも明らかになっている(同上会議録参照)。

すなわち,1983年法改正に際しての政府答弁の趣旨が,ここでも再確認されている。のみならず,上記(b)の⑤の丹羽兵助総理府総務長官答弁と同様,内閣総理大臣が「任命を拒否することはない(想定されない)」と明言されていることは,留意されるべきである。


(e)また,「所轄」という用語の一般的意味については前述したが,1983年法改正時の上記学術会議事務局作成の想定問答集は,日本学術会議法1条2項の「内閣総理大臣の所轄」の規定の意義について,前述の一般的用例に則して,次のように記述している(問15)。

「日本学術会議は,独立して職務を行う(日本学術会議法第3条)独立性の強い機関であり,総理府の所管大臣としての内閣総理大臣との関係は,所轄という用語で示されているように,所轄大臣との関係は薄いものとされ,いわゆる行政機構の配分図としては,一応内閣総理大臣の下に属することを示していると考えられる。

したがって,特に法律に規定するものを除き,内閣総理大臣は,日本学術会議の職務に対し指揮監督権を持っていないと考える。

指揮監督権の具体的な内容としては,予算,事務局職員の人事及び庁舎管理,会員・委員の海外派遣命令等である。」

ここで,特に法律に規定するもの以外の内閣総理大臣の指揮監督権はないとし,「事務局職員の人事」は挙げられても,学術会議会員の人事にはその指揮監督権は及ばないとされていることが明らかである。

そして実際,この法改正時の政府答弁においても,内閣総理大臣の「所轄」の下に置かれている学術会議について,「その経費は国庫により負担されておりながら,しかも政府の指揮監督というようなものは受けることなく独立してその職務を行うこととされております」と明言されている(1983年5月12日参・文教委丹羽総理府総務長官2頁)。


ウ 本件任命拒否の不合理性と違法性・違憲性

(ア)本件任命拒否とその政府による説明

a 2020年10月1日,菅義偉内閣総理大臣(当時)は,学術会議が第25期の会員候補者として推薦した105名の科学者のうち6名を除外して,99名を任命した。学術会議会員は,210名のうち半数が3年ごとに改選されるところ,1983年日本学術会議法改正により任命制に移行してから,学術会議が推薦した会員候補者の任命が初めて拒否されたのであった。ただし近年,後述のように,本件任命拒否以前にも,政府から会員の補欠人事に異論が出されて補充ができなかったり,「事前調整」が求められたりすることがあった。


b 会員候補者6名を除外した経緯について,菅総理大臣は国会において,同年9月16日総理大臣に就任後,加藤勝信官房長官,杉田和博官房副長官に学術会議についての自分の懸念を伝え,その後杉田副長官から相談があって,決裁前に99名にするという報告があり,99名を任命する旨を自分が判断し,同副長官を通じて内閣府に伝え,同月24日に内閣府がその決裁文書を起案し,同月28日に自分が決裁したと説明している(同年11月4日衆・予算委29~30頁,同月5日参・予算委4頁)

なお,菅総理大臣は任命を拒否した6名のうち特定個人F以外は名前も承知していなかったと述べ,さらに,報告を受けていたとして後に否定するが,学術会議から推薦された105名の名簿は見ていないとも述べていた(同年11月2日衆・予算委29・30頁,同月4日衆・予算委30頁,同月5日参・予算委4頁)。


c 本件任命拒否の理由について,菅総理大臣は,概要,次のように述べている(同年11月2日衆・予算委19・30頁)

すなわち,自分は官房長官の時から学術会議のあり方や選考方法について様々な懸念を持っていた,学術会議は政府の機関であり,年間予算として約10億円を支出している,会員は公務員であり,国民に理解される存在でなければならない,そういう中で専門分野の枠にとらわれない広い分野でバランスのとれた総合的・俯瞰的な活動を行うべきである,かねてから多様な会員を選出すべきだと言われながら現状は出身や大学に大きな偏りがある,民間人・産業界の会員や若手の会員がわずかである,研究者は全国で90万人いるといわれる中で現在の会員選考は現会員や連携会員とつながりを持たなければ会員になれないような仕組みになっており,閉鎖的で既得権のようなものになっている,それらのことから学術会議から推薦された候補者をそのまま任命するという前例を踏襲するのはやめるべきだと判断した,というものである。

なお,なぜこの6名の任命を拒否したのかの個別の理由については,「人事にかかわること」として,政府の国会答弁でも説明が拒否され続けた。


d 政府による公務員の任命という点からの一般的説明としては,憲法15条の国民の公務員選定権との関係で,近藤正春内閣法制局長官から,概ね次のような説明がなされている。

すなわち,公務員の任命に関する個々の規定との関係での基本的な考え方として,憲法15条1項に規定する公務員の選定が国民固有の権利であるという国民主権の原理との関係で,任命権者はその任命について国民に対して責任を負わなければならないということ,そして申出・推薦等に基づいて任命するという規定に基づく場合においても,国民に対して責任を負えない場合には拒否することができるという一般的な命題については,基本的には政府として一貫している。なお,任命を拒否するというのは消極的に拒否するということで,恣意的に政府が自由な裁量を発揮したような形でのものは認められない,という(同年11月2日衆・予算委44頁)。

さらに2018年11月13日付けで日本学術会議事務局が内閣法制局と協議の上作成したという「日本学術会議法第17条による推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係について」と題する文書(以下「2018年11月文書」という。後述。)が内部文書として作成されていたことが明らかになっており,これには「推薦のとおりに任命する義務があるとまでは言えない」等の見解が示されているところ,この文書におけるこのような日本学術会議法7条2項の解釈も,上記憲法15条1項についての上記任命権に関する国民主権の原理からして,国民に対して責任を負えない場合には任命権者は任命を拒否できるという考え方にのっとったものであると説明している(同月5日参・予算委30頁)。


(イ)政府の説明の不合理性と破綻

a 政府の任命拒否理由の説明の破綻

以上のとおり,本件任命拒否は,杉田官房副長官の実質的判断の下,菅総理大臣がこれを是として決定されたものとみられるが,菅総理大臣を含む政府の理由の説明は全く合理性を欠くものである。

まず,政府の機関として予算を出しており,学術会議会員も公務員であるということについては,国としての必要性,すなわち国の政策が科学的判断に裏付けられたものであることが必要不可欠だからこそ,学術会議というナショナル・アカデミーを設立し,会員の身分を公務員として予算を投じているのである。学術会議の経費が国庫によって負担されていることが,内閣総理大臣の指揮監督権は学術会議に及ばず,その独立性が確保されるということと矛盾するものでないことは,1983年法改正時の丹羽総理府総務長官の前記国会答弁でも明らかである。「金も出すから口も出す」という論理は,学術会議には当てはまらない。ちなみに,その予算額は極めて貧弱で,実情は学術会議の活動は会員・連携会員の善意で支えられているのであり,政府として到底誇れるものではない。

「総合的,俯瞰的」という文言は,政府の総合科学技術会議の2003年2月26日付け提言「日本学術会議の在り方について」で用いられたものであるが,そこでいわれている「総合的」とは「人文・社会科学を含めた総合的な視点」であり,「俯瞰的」とは「科学者コミュニティを代表する俯瞰的な視点」である。そして,学術会議自身,その提言の直後の2004年に専門別7部制から大くくりの3部制を採り入れるなど,当時も現在も,これを否定するどころか実践しつつある。逆に,人文社会系の6名を排除した本件任命拒否は,「総合的」活動を阻害するものであることになる。

「多様性」についてみれば,9年前(3期前)と比べて,東京大学及び京都大学在職者は減少し,女性は相当増加し,産業界出身者も増加して,「偏り」といわれるものは相当程度改善しつつある(2020年10月29日及び同年11月12日日本学術会議記者会見資料)。そして何よりも,本件任命拒否の対象者には,特定属性・人数A,特定属性・人数Bが含まれており,その任命拒否自体が「多様性」に逆行している。

「閉鎖的な既得権」という非難についても,今回の会員候補者の人選は,会員及び連携会員からの推薦が1300名,協力学術研究団体からの情報提供が1000名で,これらを合わせて選考委員会が選考していることが指摘されており(同年11月4日衆・予算委33頁参照),非難は当たらない。

なお,菅総理大臣は,学術会議から推薦された105名の名簿は見ていないとも国会で述べたが,これは任命権者が任命(拒否)行為自体をしていないということを意味するから,本件任命(拒否)は法的に存在しなかったことになる。本件任命(拒否)の根幹が疑われる。

そして,政府は,本件任命拒否の対象者6名をなぜ任命しなかったのかという具体的個別的理由を,全く説明しようとしない。6名を選んだ基準すら触れようともしない。この6名は,いわゆる安保法制法案や秘密保護法案,共謀罪法案などに反対し,あるいは沖縄県辺野古崎への米軍基地建設に反対する意見を表明してきており,そのような政府の政策への批判的活動を理由に任命を拒否されたのではないかということが,広く懸念されている。その疑念は深まるばかりである。


b 政府の法的説明の破綻

(a)政府は前記のように,学術会議の「推薦に基づいて」会員を任命するという日本学術会議法7条2項の解釈について,先に触れた2018年11月文書を含め,内閣総理大臣に学術会議による「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」とし,その解釈は一貫しており,1983年法改正当時の解釈を変更してはいないと主張している。

しかし,1983年の政府答弁は前記のとおり,学術会議の推薦のとおりそのまま任命する形式的任命であり,推薦された者を拒否することはないという極めて明瞭なものである。しかも,これは内閣法制局とも十分協議した解釈であり,それが学問の自由の独立を保障するゆえんであるというのであるから,現在の政府による解釈の変更は明らかである。政府は例えば,1983年の法改正時の国会答弁について,「必ず推薦のとおりに任命しなければならないということまでは言及されておりません」(2020年10月7日衆・内閣委内閣府大臣官房長9頁)などと答弁しているが,これは,「学会の方から推薦をしていただいた者は拒否しない」という法改正時の前記丹羽総務長官の答弁と直接に矛盾する。2004年法改正時の総務省の前記説明資料が「内閣総理大臣が任命を拒否することは想定されていない」としていた解釈とも衝突する。これを「解釈の変更はしていない」というのは,黒を白と言いくるめるに等しい。


(b)また,政府は,今回の解釈の根拠として憲法15条1項を挙げるとともに,2018年11月文書においてはこれに加えて憲法65条及び72条を挙げているが,これら憲法の一般的条項は,学術会議における内閣総理大臣の個別の公務員の任命権を根拠付けるものではない。

ここで2018年11月文書の上記核心部分について検討しておくと,同文書の結論部分である「3.日学法第7条第2項に基づく内閣総理大臣の任命権の在り方について」の(1)として,次のように述べている。

「①日本学術会議が内閣総理大臣の所轄の下の国の行政機関であることから,憲法第65条及び第72条の規定の趣旨に照らし,内閣総理大臣は,会員の任命権者として,日本学術会議に人事を通して一定の監督権を行使することができるものであると考えられること

②憲法第15条第1項の規定に明らかにされているところの公務員の終局的任命権が国民にあるという国民主権の原理からすれば,任命権者たる内閣総理大臣が,会員の任命について国民及び国会に対して責任を負えるものでなければならないこと

からすれば,内閣総理大臣に,日学法第17条による推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えないと考えられる。」

このうち,①についていえば,憲法65条は「行政権は,内閣に属する」,72条は「内閣総理大臣は,・・・・行政各部を指揮監督する」という一般的包括的条項であり,ここから個別の公務員の任命に関する判断権を導こうとするのは余りにも飛躍が大きい。のみならず,ここでいう「内閣総理大臣」とは内閣の代表者として「閣議にかけて決定した方針に基いて,行政各部を指揮監督する」(内閣法6条)のであるが,学術会議会員を任命する「内閣総理大臣」は内閣府の長にすぎない。しかも「閣議にかけて決定した方針」は,1983年と2004年の日本学術会議法改正法案とその国会答弁であって,2018年11月文書ではない。

そして前述のとおり,学術会議を「所轄」する「内閣総理大臣」が学術会議の職務に対する指揮監督権を有さず,会員に対する人事権も持たないことは,本来の「所轄」の用語の意義からしても,1983年法改正時の総理府総務長官の国会答弁や学術会議事務局の想定問答集でも明らかにされていたところであった。2018年11月文書が「所轄」という法律の文言から「人事を通した監督権」を導き出そうとしているのは,法令用語の基本を逸脱するとともに,内閣法制局の大先達の解説にも背くものであって,内閣法制局が関与して作成した文書に通常あるまじきものである。

また,上記②の憲法15条1項に関していえば,「公務員を選定し及び罷免する国民固有の権利」は,本件において一般的抽象的な権利と責任の問題ではなく,国民の代表である国会が制定した日本学術会議法の規定に従って会員を任命することが,まさに国民の意思であり,国民の選定罷免権を実現することにほかならず,それが「会員の任命について国民及び国会に対して責任を負う」ことにほかならない。そして日本学術会議法の会員任命に関する規定とその解釈は,前記のとおり従来から明らかなのである。したがって,それを逸脱して学術会議会員を任命しないことは,「国民及び国会に対する責任」を果たさず,国民主権の原理に背くことにほかならない。

以上のとおり,政府の任命拒否の法的説明も,全く合理性を欠いている。


c 本件任命拒否の違法性と違憲性

(a)本件任命拒否の日本学術会議法違反

ここで,本件任命拒否の違法性についてまとめておく。

日本学術会議法の諸規定とその趣旨及び従来からの政府の法解釈は,上記イで前述したとおりである。

本来,科学者集団は科学的真理が判断原理であり,政府に対して政策提言を行う場合も,その判断原理に基づいて政策の是非を判断し,それを通じて社会の福祉に貢献する。国が法律を制定して学術会議のようなナショナル・アカデミーを設立し,政策に関する諮問をしたり勧告その他の意見を徴したりするのは,国の政策が真理に忠実な科学的判断を必要としているからである。そして,そのような科学的判断は,政治権力の恣意からの自由と独立が保障されていなければならない。日本学術会議法3条が,学術会議は「独立して職務を行う」と規定するのも,そのような本来的要請の表現である。

そして日本学術会議法1条2項は,「日本学術会議は,内閣総理大臣の所轄とする」と定めるが,「所轄」は当該機関の独立性を意味し,内閣総理大臣の指揮監督権は働かないものと位置づけられている。それは,内閣総理大臣に会員の実質的任命権が及ばないことを裏付ける。

その上で,日本学術会議法17条が,学術会議会員の候補者は「優れた研究又は業績がある科学者のうちから」学術会議が選考することを定めているのも,その学問的評価をする能力は学術会議の側にあって内閣総理大臣にはなく,その人選は学問的評価に基づいて学術会議が自律的に行うべきことを示しているのであり,この人事の自律性が学術会議の政治からの独立性を担保している。

そして,内閣総理大臣は,学術会議の推薦に「基づいて」会員を任命するとされているが(日本学術会議法7条2項),もともと「基づいて」という法律用語は,特別な理由がない限り原則としてその推薦どおりに任命するべきことを表すものであるところ,ここでは学術会議会員の推薦と任命の上記のような自律性と独立性の保障を表していると解釈される。そしてそのためには,内閣総理大臣の「任命」はあくまで形式的任命でなければならず,その人事に政治が介入してはならないのである。

加えて,内閣総理大臣が会員の辞職を承認し,又は会員に不適当な行為があって退職させる場合も,学術会議の同意や申出が要件とされており(日本学術会議法25条及び26条),資格の喪失を含めて,法は,会員の人事に関する実質的判断を学術会議に委ねている。学術会議の推薦に「基づかない」任命行為及び任命拒否行為を,法は想定していないのである。

さらに,本件任命拒否によって学術会議には6名の欠員が生じている。現在学術会議は,第1部(人文・社会科学),第2部(生命科学),第3部(理学・工学)に原則70名ずつが所属しているが,本件任命拒否の6名はいずれも第1部(人文・社会科学)に属する会員候補者であり,第1部は定数70名のうち1割近い6名が欠けている状態である。会員数210名は法定事項であり(日本学術会議法7条1項),本件任命拒否によって,この点でも法律に違反する事態が生じている。

以上のとおり,1983年法改正時以降の内閣総理大臣の任命行為についての政府解釈は合理的かつ正当なものであり,本件任命拒否とそのための法解釈の変更は,極めて不合理であって,行政の説明責任を蔑ろにし,ひいては民主主義の原理にも背馳するものである。

学術会議の推薦を受けた候補者について内閣総理大臣が任命を拒否することは,そもそも法律上許容されていない。したがって,本件任命拒否は,日本学術会議法の関係規定に違反し,かつその規定の趣旨である,科学の政治からの独立と自律を侵害するものとして,違法である。


(b)行政の公正・透明性と政府の説明責任原則への違反

本件任命拒否に関する政府の説明で最も特徴的なことは,内閣総理大臣の任命権は形式的なものであり,学術会議の推薦どおりに任命するのであり,推薦された者を拒否することはないという従来の政府解釈を,「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」と,明らかに変更していること,及びそれにもかかわらず政府の説明は一貫していると強弁していることである。そして同時に,任命を拒否できるというならその判断基準を明示すべきところ,この点についての政府の説明は前記のとおり全く破綻しており,特に本件任命拒否の対象者6名を任命しなかった具体的個別的理由を全く説明しようとしないことである。

行政法上の基本原理として,行政の公正・透明性の原則,説明責任の原則があり,これらは行政作用一般にかかる嚮導的法理とみることができるとされる(塩野宏『行政法Ⅰ(第6版)』94頁)。公正・透明性の原則は,行政手続法1条1項の目的規定において,「行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について,その内容及び過程が国民にとって明らかであることをいう。・・・・)の向上を図り,もって国民の権利利益の保護に資することを目的とする。」と規定されている。また,説明責任の原則は,情報公開法1条の目的規定において,情報公開の目的について「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする。」として規定されている。

また,「政府のアカウンタビリティは,国民主権原理のコロラリーとして導かれる。すなわち,主権者である国民の信託を受けている政府は,国民に対して,自らの諸活動を説明する責務を負わなければならず,この責務が果たされない場合,主権者は,『情報を与えられた市民(informed citizenry)』とはいえず,真の主権者とはいえなくなる。政府情報の公開こそ,国政に対する国民の的確な理解と批判を可能にし,主権者としての責任ある意思形成を促進するのである」とも説明される(宇賀克也『新・情報公開法の逐条解説(第8版)』33頁)

そして,公文書等の管理に関する法律1条は,「公文書等が,健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として,主権者である国民が主体的に利用し得るものである」と規定し,同法4条は「当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程」を検証できるようにするため,行政機関の職員に対して行政文書の作成を義務付ける。

本件において,政府は,学術会議会員の任命制導入に際しての1983年法改正以来確立していた政府の法解釈と矛盾・対立する法解釈に基づいて,つまり確立した政府解釈を覆して本件任命拒否をあえて行った。従来の法解釈は,学術会議の独立性と自律性を担保するものとして確認されたものであり,しかもその法解釈は40年近くにわたって履践されて定着してきたものである。このような法解釈を変更するには,それを変更するに足りるだけの合理的でかつ重大な理由が必要である。政府の説明責任はとりわけ重い。

このように,行政の透明性の確保と意思決定過程の説明責任の履践は,国民主権の下での民主主義の基本原則である。本件任命拒否に関する内閣総理大臣及び政府の対応は,この原則に真っ向から反するものである。


(c)本件任命拒否の違憲性

そして,本意見書冒頭で述べたように,学術会議の会員人事の自律性とそれに基づく学術会議の政治権力からの独立性の保障は,憲法23条の学問の自由の保障にほかならない。内閣総理大臣は,憲法規範の要請として,学術会議の人事に容喙してはならないのである。だから,1983年に任命制が導入された際に示された政府解釈,すなわち,内閣総理大臣の任命権はあくまで形式的な任命権にすぎず,専門的・学術的な見地から学術会議が推薦した会員候補者について,内閣総理大臣はそのとおりに形式的な発令を行うのであって,推薦された者を拒否することはないとの有権解釈は,まさに憲法23条を体現し,日本学術会議法の規定と一体となって学術会議の自律性と独立性を保障するものである。

これを否定しようとした本件任命拒否と,これを正当化しようとする政府の法解釈の変更は,学問の自由を侵害し,憲法23条に違反するものとして許されない。


エ 本件任命拒否前の人事介入への動きと2018年11月文書について

(ア)本件任命拒否前の政府の人事介入の動き

2020年10月の本件任命拒否は,突然行われたものではなく,それに至る前に,政府ないし官邸から,以下のような学術会議会員人事への介入の試みが繰り返されていた。

a 菅総理大臣は,国会において,2017年の半数改選の際のこととして,「推薦前において任命の考え方のすり合わせを行った。それを踏まえて推薦名簿が出てきて,それを受けて任命の考え方に基づいて任命を行ったというプロセス」があったこと,今回は「推薦前の調整が働かずに,結果として学術会議の中に任命に至らなかった者が生じた」と述べ,加藤官房長官も,「推薦名簿が提出する前において,私どもの任命に当たっての考え方等について,学術会議側あるいは事務局を介してそれぞれ意見交換をしてきたということであります」と述べている(2020年11月6日参・予算委39~41頁)。

このように,推薦名簿の作成過程において,「意見交換」「調整」「すり合わせ」ということばで表されるような官邸側からの働きかけがなされていたことが明らかになっている。


b そのような働きかけないし介入がいつ頃から始まったかは必ずしも明らかではないが,遅くとも2015年10月の1名の補欠人事について,杉田官房副長官から候補者1名ではなく複数名の候補者の提示を求められたということがあった(2020年12月17日参・内閣委学術会議事務局長22頁)。


c 2016年7月から8月の3名の補欠人事についても,補欠1名について順位を付した2名ずつの候補者名簿を作成して官邸(杉田副長官)に説明に行き,これに対して官邸側から補欠3名のうち2名については推薦順位を入れ替えるよう回答があり,この時は学術会議側は順序の入替えに応ぜず,3名とも欠員の補充をしないままとなった(同日同委同事務局長22~23頁)。


d 2017年の半数改選人事については,上記a記載のように最終的な推薦名簿を決定する前に大西隆学術会議会長と杉田副長官が会談するなどの「調整」「すり合わせ」が行われ,同年6月に111名の名簿を提示し,結果的に,学術会議が推薦した105名が任命された(2020年11月6日参・予算委38~41頁,同年10月6日付け・7日付け朝日新聞)


e そして2018年8月から10月の3名の補欠人事においても,学術会議が補欠1名について順位を付した2名ずつの候補者名簿を提示したところ,官邸側から補欠3名のうち1名について推薦順位の入替え要求があり,その1名については欠員の補充をせず,他の2名についてのみ欠員の補充がなされた(同年12月17日参・内閣委学術会議事務局長23頁)。

2018年11月文書は,この補充人事の最中に検討が始められたものである。


(イ)2018年11月文書作成の目的と経緯

a 2018年11月文書の作成目的

2018年11月文書の作成目的について,学術会議事務局長は,国会において次のように答弁している(2020年10月7日衆・内閣委8頁,同年11月11日衆・内閣委8頁)。「今回の25期の半数改選に向けまして,被任命者よりも多い候補者を推薦すること,これについて,推薦と任命の関係の法的整理を行ったものと承知しております」「平成29年に,いわゆる半数改選を行っております。それから約1年経って,そろそろ次の半数改選についていろいろなことを勉強しておかなきゃいけない」「当時,補欠推薦の関係があって,この関係でも考え方の整理をしておかなきゃいけないという状況だった」などである。

また,2018年11月文書は,学術会議事務局と内閣法制局との協議によって作成されたものであるが,学術会議事務局長の国会答弁においては,この協議は,上記(ア)で述べた官邸と学術会議との間の2018年補充人事までのやりとりの経緯,「それから任命権者側から定数以上の推薦を求められる可能性があったことなどから,その後の準備作業のため,日本学術会議事務局として,従来からの推薦と任命の関係の法的整理を確認するために行ったものであると承知しております。」と説明されている(2020年12月17日参・内閣委23頁)。

すなわち,2018年11月文書は,それまでの補欠人事や2017年半数改選人事において,「調整」や「すり合わせ」がなされて,一部官邸側の意向が示されたものの,学術会議側の抵抗も強く,官邸側の思いどおりにはならない状況の下で,2018年の補充人事も難航し,さらに2020年10月の半数改選人事を控えて,任命権者側から定数以上の推薦を求められる可能性もあった局面において,「学術会議事務局として」「従来からの推薦と任命の関係の法的整理を確認」するために,内閣法制局との協議を繰り返して作成されたものであった。

ちなみに,近藤内閣法制局長官は,「平成30年に,何も世の中起こっていないところで,平時のところできちっとご相談があって」議論をし結論について了解したなどと答弁しているが(同年11月5日参・予算委25頁),これは明らかに偽りの答弁である。

2018年11月文書は,上記のとおり,同年の補欠人事が難航する最中に,2020年10月の改選人事の対応への準備として検討されたものである(小森田・前掲書55頁参照)。言い換えれば,その改選人事において,これまでの政府解釈に従った形式的任命ではなく,学術会議の推薦どおりではない任命をすることを正当化する根拠を整理しようとする意図の下に作られたものであった。

そして実際,この2018年11月文書は,本件任命拒否後の国会答弁でたびたび言及され,「憲法第15条第1項に基づけば,推薦された方々を必ずそのまま任命しなければならないということではないという点については,内閣法制局の了解を得た,これは当時からの一貫した考え方であるというふうに考えております。」(2020年11月2日衆・予算委加藤官房長官31頁)というように,本件任命拒否の正当化根拠として使われたのであった。

ちなみにこの文書は本件任命拒否がなされた5日後の2020年10月6日,政府に対する野党ヒアリングにおいて開示され,その後の政府国会答弁で利用されていくことになった。


b 2018年11月文書の作成経緯と問題点

この文書の作成の動機は,上記のように,学術会議事務局が「任命と推薦の関係の法的整理」を必要としたためと説明されているが,それが学術会議本体としてでもなく,その事務局レベルでの発意によって始められたというのは極めて奇妙である。そこには他の意思が働いていたと見るべきであろうが,2018年9月5日から11月13日まで,学術会議事務局と内閣法制局第1部との間で,実に頻繁な,都合17日20回に及ぶ協議が行われ,修文に修文を重ねて文書の作成が行われた(2020年12月17日参・内閣委23頁)

そしてこの間に両者の間でなされたやりとりの内容と作成過程を示す大部の「法制局第一部御審査資料」が,同年12月10日に田村参議院議員に提示されている。

これを詳細に分析した小森田秋夫教授は,この協議の経過と2018年11月文書に至る問題点を,次のように分析している(小森田・前掲書58~61頁)。

① この資料中の「内閣法制局の見解を求めることとした経緯について」との文書に,補欠会員の選考・任命について「各部と任命権者との間で意見の隔たりが生じ」,推薦が見送られるという具体的な問題が生じたゆえに,「今後の手続の明確化を図るため」法制局の見解を求めるという目的が,当時の学術会議事務局長名で明記されている。


② 総理大臣に「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」という2018年文書の核心は,出発点の9月5日付け文書で「内閣総理大臣が,その総合的判断によって,会議から推薦された候補者を任命しないことは,法的に許容されるものと解される」という形で当初から示されていた。すべてが結論ありきで,これを正当化するための作業であった。なお,この9月5日付け文書は,誰が書いたのかという疑問がある。


③ 結論を裏付ける作業の過程では,関係資料が詳細に参照されており,総理大臣の任命は形式的なものであるという政府見解は十分に認識されていた。


④ 総理大臣の任命は形式的なものという前提を否定する結論を導く論理構成は一貫したものではなく,たびたび揺れ動いている。途中学問の自由への言及もなされ,学術会議を「学問の自由を側面支援している機関」という記述も現れている。


⑤ 推薦どおり任命する義務を免れる例外がどこにあるかを示唆する下級裁判所裁判官や大学学長の任命の事例が検討されているが,九州大学学長事務取扱事件東京地裁判決を援用しようとすると「絶対的に拘束される」わけではない場合として,明白な法定手続違反や公務員としての欠格条項といった客観的なことがらが例外とされることになり,「総合的な判断」として実質的任命権を根拠づけるには不都合であったことになる。なお,これについては,2018年11月文書の中でも注意書き的に言及され,下級裁判所裁判官については司法権の独立が憲法上保障されていること,大学学長については憲法23条の学問の自由を保障するために大学の自治が認められていることから,同視できないとされている。(しかしこの点は,上記アで指摘したように,学術会議も大学と同様に学問の自由の対象である。)


⑥ 例外を示すことに代わって,任命すべき会員の数を上回る候補者の中から任命するという人事権の積極的な行使の可能性が主張されているが,それは,厳密な法解釈で導き出したものではなく,政策的な議論であり,2016年以降行われてきた「調整」の試みを追認し制度化しようとするものであった。


こうして小森田教授は,「結局できあがったのは,形式的任命説を否定してはいるものの,その根拠を説得的に覆すことには失敗し,推薦どおりに任命する義務を免れる例外を明確に示すことも放棄し,結果として任命権者の恣意に途を拓く,論理的にも不自然な文書であった。」と結論づけている(同書61頁)


(ウ)2018年11月文書の内容と問題点

a 文書の結論部分

2018年11月文書は,その結論部分である「3.日学法第7条第2項に基づく内閣総理大臣の任命権の在り方について」において,「日学法第17条による推薦のとおりに内閣総理大臣が会員を任命すべき義務があるかどうか」について,次のように記述している(下記(1)の部分は上記ウ(イ)b(b)で引用したが,参照の便宜のため再掲する。)

「(1)まず,

①日本学術会議が内閣総理大臣の所轄の下の国の行政機関であることから,憲法第65条及び第72条の規定の趣旨に照らし,内閣総理大臣は,会員の任命権者として,日本学術会議に人事を通して一定の監督権を行使することができるものであると考えられること

②憲法第15条第1項の規定に明らかにされているところの公務員の終局的任命権が国民にあるという国民主権の原理からすれば,任命権者たる内閣総理大臣が,会員の任命について国民及び国会に対して責任を負えるものでなければならないこと

からすれば,内閣総理大臣に,日学法第17条による推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えないと考えられる。

(2)他方,会員の任命について,日本学術会議の推薦に基づかなくてはならないとされているのは,

①会員候補者が優れた研究又は業績がある科学者であり,会員としてふさわしいかどうかを適切に判断しうるのは,日本学術会議であること

②日本学術会議は,法律上,科学者の代表機関として位置付けられており,独立して職務を行うこととされていること

③昭和58年の日学法改正による推薦・任命制の導入の趣旨は前述したとおりであり,これまでの沿革からすれば,科学者が自主的に会員を選出するという基本的な考え方に変更はなく,内閣総理大臣による会員の任命は,会員候補者に特別職の国家公務員たる会員としての地位を与えることを意図していたこと

によることからすれば,内閣総理大臣は,任命に当たって日本学術会議からの推薦を十分に尊重する必要があると考えられる。

(3)なお,(1)及び(2)の観点を踏まえた上で,内閣総理大臣が適切にその任命権を行使するため,任命すべき会員の数を上回る候補者の推薦を求め,その中から任命するということも否定されない(日本学術会議に保障された職務の独立を侵害するものではない。)と考えられる。」


b 文書の内容上の問題点

この2018年11月文書の上記結論部分の内容上の問題点として,次の点を指摘することができる。

(a)まず,上記結論部分の構成の不自然さである(小森田・前掲書55~57頁)。

小森田教授が指摘するように,論理的にはまず,結論部分(2)〈推薦の尊重〉があり,これを同(1)〈任命義務の否定〉で打ち消して「とまでは言えない」というのであるから,任命しなくてもよい〈例外〉が説明されなければならないが,〈例外〉の記述が欠けている。そしてさらに,唐突に同(3)〈選択権〉の記述がなされるのである。

〈例外〉について一切語らないというのは,任命権者の恣意に道を拓くだけであることが指摘される。この点については,学術会議事務局と内閣法制局との間のやりとりの過程で,上記(イ)b⑤で触れた大学学長や下級裁判所裁判官の任命の事例が検討されたが,これを〈例外〉として位置付けると,明白な手続違反や公務員としての欠格条項といった客観的・限定的な場合に〈例外〉が限られてしまい,「総合的な判断」として実質的任命権を根拠づけるには不都合であったのであろうと推定される。いずれにしても,〈例外〉を認める基準が何もない。


(b)次に,上記〈選択権〉(任命すべき人数を上回る候補者の推薦を求め,内閣総理大臣がその中から任命する)に関する記述は,取って付けたように唐突に出てきて,結論だけが「否定されない」「学術会議の職務の独立を侵害しない」と断定され,何の理由づけも示されていない。誠に奇妙である。

もともと,官邸からの前記介入,すなわち「調整」「すり合わせ」の経過からすれば,定数よりも多くの候補者を学術会議側から出させ,その中から官邸側が〈選択〉する方法が繰り返し試みられ,難航してきた経過がある。しかも学術会議事務局長の国会答弁によれば,次期改選で「任命権者側から定数以上の推薦を求められる可能性があった」ことなどから,その準備作業として2018年11月文書の検討・協議が始められたという。そうだとすれば,定数超過の候補者を出させてその中から総理大臣が任命することの正当性根拠こそが,求められていたはずである。しかし,その法的正当性の説明が何もないのである。

結局これは,「厳密な法解釈で導き出したものというより,政策的な議論であり,2016年以降行われてきた『調整』の試みを追認し制度化しようとするもの」というほかはない(小森田・前掲書60頁)

そして理論的に考えれば,定数を超えた候補者の中から,内閣総理大臣が選択して任命するというのも,科学者ならぬ政治家が「優れた研究又は業績」を判断することになるのであり,専門的・学問的評価に政治が介入することに変わりはない。補欠1名に対して2名の候補者を推薦させ,どちらが「優れた研究又は業績がある」かを政治が判断して任命するとすれば,それは学問の世界への政治の介入以外の何ものでもない。105名の定数のところに111名の候補者を推薦させ,内閣総理大臣が順番を付けて最後の6名を落とす,というのも,学問的評価の権限を政治が握ることにほかならない。これはまさに政治的・権力的判断そのものであり,学問共同体の自律性と独立性を侵害することは明らかである。その後に待つのは,学問の政治への限りない忖度と迎合か,恐怖政治である。

結局,2018年11月文書は,このような重大な問題について何の検討もしないまま,結論だけを「否定されない」「学術会議の職務の独立を侵害しない」と無責任に断言するだけであって,定数を超えた推薦の中から内閣総理大臣が〈選択〉するという手法の正当性を何一つ根拠付けるものではない。


(c)他方,2018年11月文書は,本件任命拒否がそうであったように,定数の推薦を受けながら定数を任命せず,一部候補者の任命を拒否することの是非については,何も触れていない。だからこの文書は,本件任命拒否の正当化根拠とはならない。

すなわち,この文書は,学術会議が「優れた研究又は業績がある科学者」(日本学術会議法17条)として定数の推薦をした者の任命を内閣総理大臣が一部でも拒否するという場合を想定して検討をすることを全くしておらず,したがって,内閣総理大臣が定数を割って任命拒否をすることができるかどうか,できるとする場合の判断基準も根拠も何も示されていない。そして定数を任命しなければ,それは学術会議は210人の会員をもって組織するという同法7条1項に,直ちに違反するのであるが,その同法違反の任命を正当化する理由は考えがたいし,2018年11月文書もその正当化理由に何も言及するところはないのである。


(d)結論部分(1)の「推薦のとおりに任命する義務があるとまでは言えない」とする理由のうち,①の憲法65条及び72条に関しては,これを正当化根拠とできないことは,上記ウ(イ)b(b)で述べたとおりであり,そもそも「所轄」の用語の解釈が法令用語の基本を逸脱するものであることもそこで述べたとおりである。

同様に,②の憲法15条を根拠として「国民及び国会に対する責任」を理由に任命義務のないことを説明しようとする議論も,日本学術会議法の存在と解釈を無視する誤ったものであること,そこで述べたとおりである。


(e)そして,「推薦のとおりに任命する義務があるとまでは言えない」という結論が,従来の政府の日本学術会議法7条2項の一義的で明確な解釈に反するものであって,従来の解釈と一貫性があるなどというのは詭弁というほかはないことも,上記ウ(イ)b(a)で述べたとおりである。


c 不可解かつ不明瞭な文書の性格

(a)上記のように,この2018年11月文書は,当時現に直面していた補欠人事をめぐる学術会議(推薦者側)と官邸(任命者側)との対立(任命者が学術会議の推薦どおりに任命しようとしない。)の渦中で検討された。そして同時にそれは,2020年10月の半数改選に向けて,そのような対立関係を前提に,「任命者側から定数以上の推薦を求められる可能性があった」という状況の下でのものであった。そこには,学術会議から定数どおりに推薦された会員候補者をそのまま任命するというこれまでどおりの対応は採らないという,官邸側の強い意向があったと推定される。それは取りも直さず,1983年法改正時に表明・答弁された法解釈を変更するということにほかならない。

そして,「推薦のとおりに任命する義務があるとまでは言えない」という結論が従来の定着した政府解釈の変更であることは明らかであるのに,政府の国会答弁で政府側は口をそろえて,「解釈は一貫している」「これまでの解釈を確認しただけ」と,牽強付会の答弁を繰り返した。そこには何の正当性も信憑性も見出すことはできない。


(b)そして奇妙なのは,この任命制度の根幹を揺るがす重大な「推薦と任命の法的整理の確認」が,推薦主体である学術会議自体,すなわち各会員はもとよりその責任者である会長や幹事会などの意思も意向も全く無視して,学術会議の事務局レベルで発意したかのような形を取って検討が開始され,継続されたということである。当事者である学術会議は,このことを知らされず,全く蚊帳の外に置かれたのである。そして,実に頻繁な内閣法制局との協議が2か月以上にわたって繰り返され,修文が重ねられた(前述)。そのような協議,検討の実施は,学術会議事務局として,直属の上司,責任者との関係では明らかに越権行為である。しかもその検討・協議は,推薦どおりの任命を求める学術会議本体の意思と利益を損なう解釈変更を,内閣法制局のお墨付きの下で導くためのものであった。そのような,ある種謀略的な作業がなされたのは,もっと上位の地位にある者からの指示があったとしか考えられないであろう。


(c)加えてさらに不可解なのは,この2018年11月文書が,学術会議本体及びその会長にも,報告すらなされないまま,2020年10月1日の本件任命拒否に至ったという事実である。政府はこれを,「当時の事務局長から口頭で報告した」(2020年11月2日衆・予算委加藤官房長官37頁ほか)というが,このような文書を作成しておきながら文書そのものを交付することなく口頭で報告するなどということは,通常考えられない。そして山極壽一会長(当時)は,口頭で報告を受けたことも否定している(同月5日付け朝日新聞。同月2日衆・予算委37頁,同月11日衆・内閣委8頁参照)。当時学術会議が,前記のような任命者側との対立関係にあった状況の下で,もし任命をめぐる文書が内閣法制局との協議に基づいて作成されたとの報告を,同会長が口頭で受けたとしたら,その文書の交付を求めないはずはないのであり,「口頭で報告した」という事実は限りなく疑わしい。

なお,学術会議事務局長も,この文書自体は,これまでの解釈を確認しただけのものなので,「文書自体で御説明する必要がなかったということかと思っております」と答弁しているが(2020年11月11日衆内閣委8頁ほか),その「これまでの解釈」がまさに問題になっている渦中で,「推薦と任命の法的整理の確認」をした文書の「説明をする必要がない」というのもまた,余りにも不自然で信用性はない。


(d)この文書は,作成名義は「内閣府日本学術会議事務局」と記載されているが,文書の体裁からしても,行政機関の責任者の決裁がされているものではない。国会では2018年11月15日に「内閣法制局の了解を得た」と説明されている(2020年11月4日衆・予算委井上国務大臣35頁)が,この文書は「もともと,事務局の方が会長や会員の方々からの問合せに対して回答するための備忘だった」(同月11日衆・内閣委学術会議事務局長9頁)というのであり,そうであれば単なる職員の「手控え」にすぎない。したがってこの文書は,行政内部の文書としても,行政機関の意思決定過程も存在しない,行政内部の一部職員の備忘録にすぎず,学術会議会員の任命に関する判断の客観的な拠り所となるような性質のものでは全くないのであって,行政各部においてもこのようなものを判断基準として用いることがあってはならないのである。

しかもこの文書の存在は,本件任命拒否後の2020年10月6日まで,外部に開示されることはなかった。それは,関係者に共有されることなく,行政府内のごく一部の者によって密かに作成され,任命拒否が敢行されるまで秘匿されていたのである。

このようにこの文書は,実に「怪しげ」で不透明な文書である。だから,本来なら,本件任命拒否後に,突然「こういう文書がある」と公開され,これをもって任命拒否の正当性根拠として持ち出せるようなものではないはずのものであり,そのような利用のしかたそのものが信義に反するものといわなければならない。


d この文書は本件任命拒否の正当性根拠にはならない

以上のとおり,2018年11月文書は,内容的にも論理的整合性も合理性もなく,作成手続も極めて不明瞭・不透明であり,文書の性格も曖昧模糊とした非公式の文書である。このような文書を本件任命拒否後に突如持ち出して,任命拒否の正当化根拠としようとするのは,それ自体,行政の公正性・透明性の原則と説明責任の原則に真っ向から反するものである。

情報公開・個人情報保護審査会も審査庁も,かかる2018年11月文書に決して惑わされてはならないであろう。


(5)意見書4

ア 2018年11月文書の本件情報公開請求における開示状況と求釈明

(ア)問題の所在

内閣府大臣官房長の行政文書開示通知書(令和3年6月21日府人727-1・727-2)における一部開示文書の中で,2018年11月文書は,下記(1)及び(3)の中で,つまり2箇所で開示されている。

開示する行政文書の名称

(1)令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①

(3)令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料③

ところが,これでは2018年11月文書がいかなる趣旨で開示されたのかが全く理解できず,これでは文書開示のあり方として失当と言わざるを得ない。

以下詳述する。


(イ)大臣官房長開示文書(1)

重大な問題をはらむのは,2018年11月文書が,内閣府大臣官房長の開示文書「(1)令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①」(以下,(5)において「大臣官房長開示文書(1)」という。)の一部として開示されたことである。

大臣官房長開示文書(1)の1枚目は,2020年8月31日付日本学術会議会長名義(押印あり)の内閣総理大臣宛て「日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)」と記載されたものであり,同日付で内閣府大臣官房人事課の88号という受領スタンプが押捺されている。なお右肩に黒塗り部分がある。

大臣官房長開示文書(1)の2枚目は,右肩に「別添」「発令日まで取扱注意」と記された,2020年8月31日付「日本学術会議」名義の「日本学術会議会員候補者推薦書(105名)」と記載された推薦書の表紙であり,3枚目から8枚目までは105名の氏名のみが並んだ候補者名簿である(105名のうち6名の氏名が黒塗りされているが,これは情報公開に当たって黒塗りしたものであろう。)。

したがって,2枚目から8枚目までが日本学術会議の推薦書であり,1枚目はその鑑であることが明らかである。

ところが,これに続く大臣官房長開示文書(1)の9枚目以降が2018年11月文書なのである(正確には,9枚目から13枚目までが「内閣府日本学術会議事務局」名義の文書であり,14~17枚目は「日本学術会議会員任命関係国会議事録抜粋」と題された資料,18枚目は黒塗りの文書であり,9枚目から18枚目までが一体の2018年11月文書なのかどうかもこれだけでは不明であるが,ここでは9~18枚目が2018年11月文書であると考えて論を進める。)。

これら1枚目から18枚目が「大臣官房長開示文書(1)」としてまとめて開示されたということは,日本学術会議会長が105名の推薦書を内閣総理大臣に提出した際,推薦書に2018年11月文書を添付して提出したと解釈するのがもっとも自然であろう。


(ウ)学術会議開示文書(1)

ところが,内閣府日本学術会議事務局長の行政文書開示決定通知書(令和3年6月21日付府日学第972号-1)における一部開示文書

開示する行政文書の名称

(1)日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)(府日学第1243号)(以下,(5)において「学術会議開示文書(1)」という。)をみると,疑問が浮かび上がってくる。

学術会議開示文書(1)では,1枚目が,「決裁・供覧」と題され,文書番号「府日学第1243号,件名「日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)」,伺い文「標記について,別紙(案)のとおり執行してよろしいか伺います」と記された日本学術会議内部での決裁文書の鑑であり,2枚目の「決裁・供覧欄」には山極壽一会長の決裁も「【済】」と記載され,4枚目から12枚目は,前述の内閣府大臣官房長の「大臣官房長開示文書(1)」の1枚目から8枚目とほぼ同一の推薦書とその鑑である。

13枚目は日本学術会議法と内閣府令の抜粋,14枚目から18枚目は「第25-26期 会員候補者名簿(案)-105名-」と題された日本学術会議名義の名簿であり,この名簿には会員候補者の氏名だけでなく,性別,年齢,所属・職名,専門分野が記載されている。13枚目から18枚目までは,決裁文書に添付された参考資料ではないかと思われる。

そして19枚目から26枚目は,前述の内閣府大臣官房長の「大臣官房長開示文書(1)」の1枚目から8枚目と同一の2020年8月31日付推薦書とその鑑であり,その鑑には日本学術会議会長の押印もあるが,内閣府大臣官房人事課の受領スタンプはない(また右肩の黒塗り部分もない。)。したがってこれは,日本学術会議会長が内閣総理大臣宛てに提出した推薦書とその鑑の日本学術会議側の控(写し)であることは間違いない。そして,推薦書の控はここで終わっており,2018年11月文書は添付されていない。この26枚目で学術会議開示文書(1)は終わっている。

以上を見る限り,日本学術会議会長が2020年8月31日に内閣総理大臣宛てに提出した推薦書には,2018年11月文書は添付されていなかったことになる。

なお,内閣府日本学術会議事務局長の開示文書は(1)から(4)まであるが,そのどこにも2018年11月文書は含まれていない。


(エ)重大な疑問

以上をまとめると,内閣府大臣官房長が開示した日本学術会議会長名義の推薦書には2018年11月文書が添付されているが,日本学術会議事務局長が開示した推薦書の控には2018年11月文書は添付されていない,ということである。

この矛盾はどのように考えればよいのだろうか。

2017年10月1日から2020年9月30日まで日本学術会議会長であった山極壽一氏は,在任中2018年11月文書について事務局から報告を受けたこともなく,同文書が本件任命拒否の後に公表されて初めてその存在を知ったと述べている。したがって,山極会長が,2020年8月31日に日本学術会議会長名義で提出した推薦書に,2018年11月文書を意識的に添付することはあり得ない。そのことは,学術会議開示文書(1)の1枚目から12枚目までの決裁文書に2018年11月文書が添付されていないことと平仄が合う。

そうすると,日本学術会議事務局長が,推薦書を内閣大臣官房人事課に提出する際,会長の決裁を受けていない2018年11月文書を独断で推薦書に添付したということなのだろうか。

それとも,内閣府大臣官房長が情報公開請求に応じて大臣官房長開示文書(1)を開示した際,元々の推薦書に添付されていなかった2018年11月文書を,あたかも初めから添付されていたかのように装って開示したのであろうか。

あるいは,内閣府大臣官房長は,推薦書のほか,これとは全く別の文書である2018年11月文書を,あえてセットにして大臣官房長開示文書(1)として開示したのであろうか。そうだとすれば,その趣旨は何なのか(これは下記イにつながる疑問である。)。


(オ)大臣官房長開示文書(3)

前述のとおり,2018年11月文書は,内閣府大臣官房長開示文書「③令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料③(以下,本項において「大臣官房長開示文書(3)」という。)としても開示されている。

大臣官房長開示文書(3)は,2018年11月文書のみであり,他の文書はついていない。このことは,内閣府大臣官房長が,2018年11月文書を「任命に係る意思決定過程」を示す文書と位置付けて開示したことを意味するものであろう。

そうすると,大臣官房長開示文書(1)の中にも推薦書と共に2018年11月文書を入れて開示したことには,特別の意味があることが強く伺われる。

なお,2018年11月文書の作成名義は「内閣府日本学術会議事務局」であり,同文書について日本学術会議事務局長は,「もともと,事務局の方が会長や会員の方々からの問合わせに対して回答するための備忘だった」と答弁している(資料45,2020年11月11日衆議院内閣委員会会議録9頁)。そうであれば,同文書の所持者は日本学術会議事務局であるはずである。それにもかかわらず,なぜこの文書が内閣府日本学術会議事務局長からは開示されず,内閣府大臣官房長からのみ開示されたのだろうか。そのことは,2018年11月文書が,学術会議事務局が自発的に作成した「備忘」などではなく,もっと上位の地位にある者からの指示で作成されたことを意味するのではないだろうか。


(カ)内閣府大臣官房長に改めて釈明を求める

以上述べてきた疑問は,1983年の法改正時以来の有権解釈を覆して「推薦のとおりに任命する義務があるとまでは言えない」と記載された,内部文書に過ぎない2018年11月文書が,2020年8月31日の105名の推薦書提出の時点において,山極壽一氏を会長とする日本学術会議や,内閣府の職員である日本学術会議事務局長によって,どのように取り扱われていたのかに関わる重大な疑問であり,本件任命拒否の違法性に直結する疑問である。したがってまた,内閣総理大臣に,学術会議会員の任命に関する「人事管理」(情報公開法5条6号ニ)の権限があるのかどうかという,不開示理由の正当性にも直結する疑問である。

また何よりも,大臣官房長開示文書(1)に含まれる推薦書と2018年11月文書が一体のものなのか,別のものなのかといった,文書開示の趣旨に関わる事項は,文書を開示した処分庁が情報公開請求人に対し,わかりやすく説明すべきものであることは論を俟たない。

こうしたことから,審査請求人は,上記(2)ウ(ア)において,大臣官房長開示文書(1)・大臣官房長開示文書(3)に関し,黒塗り部分にどういった事項が書いてあるかを含め,求釈明を行った。その回答が得られないことから,2022年6月10日付で内閣府大臣官房長宛て「要望書」を提出し,早急に回答を頂きたいと要望したが,いまだに何らの回答もない。

そこで,本意見書において,再再度,釈明を求める。

特に,下記の点について,早急に明確な回答を頂きたい。

①大臣官房長開示文書(1)に含まれる2018年11月文書は,2020年8月31日,日本学術会議会長名義の推薦書に添付された一体のものとして,あるいは推薦書と同時に,内閣府大臣官房人事課に提出されたものか否か。


②上記の回答が「否」の場合,大臣官房長開示文書(1)の中に2018年11月文書を含めて開示した理由は何か。


イ 推薦書の鑑である「進達」と記載された文書の本件情報公開請求における開示状況と求釈明

(ア)問題の所在

2020年8月31日付府日学第1243号日本学術会議会長名義の内閣総理大臣宛て「日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)」と記載された文書(推薦書の鑑)は,情報公開請求に応じて一部開示された文書の中で,下記の3箇所で開示されている(本意見書添付別紙ア・イ・ウ)

a 大臣官房長開示文書(1)の1枚目


b 内閣府大臣官房長が開示する行政文書(5)「日本学術会議会員の任命について(文書番号:府人第1181号)」の6枚目


c 学術会議開示文書(1)の19枚目

いずれも推薦書の鑑であり,上記アで紹介したとおり,上記aは内閣府大臣官房長による推薦書そのものの開示であり,上記cは内閣府日本学術会議事務局等による提出した推薦書の控の開示である。上記bは,99名の任命を発令することについての2020年9月24日付の内閣府の決裁文書に添付された推薦書の鑑である。

上記aと上記bには内閣府大臣官房人事課の88号という受領スタンプが押捺されており,上記cにはこれがないが,これは推薦書を受領した側の内閣府大臣官房の文書であるか,推薦書を提出した内閣府日本学術会議側の文書であるかの相違によることが明らかである。

疑問は,上記aの文書にのみ,右肩に四角い黒塗りの部分があることである。これはどのような意味を持つのであろうか。


(イ)上記aの文書の右肩黒塗りに対する疑問

そもそも上記aを含む大臣官房長開示文書(1)を開示したのは,情報公開請求を受けた内閣府大臣官房長が,「任命に係る意思決定過程」の説明として,「このような推薦書を学術会議から受領した」ことを明らかにする趣旨であろう。

それでは,他の2か所(特に上記b)にはない右肩の黒塗り部分があるのは,何を意味するのだろうか。

これは,大臣官房長開示文書(1)が,単に「このような推薦書を学術会議から受領した」ことを明らかにするにとどまらない意味を有していることを意味するのではないかと思われる。

そうすると,考えられるのは,黒塗り部分は,内閣府大臣官房人事課が,受領した推薦書を内閣府大臣官房以外のどこか別の部署に提出した際の日時や提出先が記載されているということなのではないだろうか。文書を開示した内閣府大臣官房長は,そうした記録のある行政文書こそが,「任命に係る意思決定過程における説明資料」であると考えたのではないだろうか。

菅内閣総理大臣は,会員候補者6名を除外した経緯について,2020年9月16日に総理大臣に就任後,加藤官房長官,杉田官房副長官に学術会議についての自分の懸念を伝え,その後杉田副長官から相談があって,決裁前に99人にするという報告があり,そのとおりに判断して副長官を通じて内閣府に伝え,同月24日に内閣府がその決裁文書を起案したと国会で説明している。また,105名の名簿は見ていないとも述べている。

そうだとすると,内閣府が推薦書を提出した先は,杉田官房副長官だった可能性が高い。

このように考えると,上記アで述べた疑問,すなわち大臣官房長開示文書(1)になぜ2018年11月文書がついているのかの回答が見えてくるように思われる。内閣府大臣官房は,杉田官房副長官に推薦書を提出した際に,副長官から命じられて,2018年11月文書を添付したのではないだろうか。つまり,2018年11月文書は,学術会議が推薦書に添付したものではなく,内閣府大臣官房が官房副長官に推薦書を提出した際に添付したものだという推論が成り立つ。

そして,6名を除外し99名の任命が発令された後,推薦書と2018年11月文書は一体となって内閣府大臣官房に戻ってきた。そのため,2つの文書が一体となって,大臣官房長開示文書(1)として情報公開されたのではないだろうか。

以上はあくまでも推論であるが,仮に上記のとおりだとすると,単なる内部資料であり「備忘」に過ぎなかったはずの2018年11月文書が,学術会議会員の任命に「懸念」を持つ菅総理大臣が総理大臣に就任した後(あるいは菅氏がまだ内閣官房長官だった9月15日以前かもしれないが),杉田副長官との間で,推薦された105名全員を任命しない方針を打ち出し,その方針を正当化する文書としてにわかに活用されることになった,ということになる。

また,2018年文書の作成名義は「学術会議事務局」であるが,実際にこれを保有していたのは内閣府大臣官房だったということにもなろう。

国会審議を見ても,政府側が本件任命拒否を正当化する唯一の根拠が2018年11月文書なのであり,これが決裁直前に杉田副長官に提出されていたとすれば,その意味は大きい。少なくとも政府側が言うように,「推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えない」との解釈が1983年の法改正当時から一貫したものだったとすれば,わざわざ2018年11月文書を推薦書に添付する必要はないからである。

以上のような疑問,推論があり得る以上,上記aの右肩の黒塗り部分に何が記載されているのかは,本件任命拒否の適法性ないし正当性を判断する上で,重要な意味を持つと言わねばならない。


(ウ)黒塗り部分は,開示されるべきである。

以上のところから,上記aの右肩の黒塗り部分は,開示されるべきである。

また少なくとも,「何が書いてあるか」だけでも,諮問庁・処分庁は,釈明に答えるべきである。


(6)意見書5

(略)

ア 不開示部分と不開示理由の整理

(ア)内閣府大臣官房長(府人727-1・2)の一部開示文書

a 任命されなかった候補者の氏名,専門分野,所属等

これらの不開示理由は,情報公開法5条6号の関係では,「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」とされている(同号ニ)。


b 人事に係る事務の内容

原処分(府人727-1・2)及び理由説明書(諮問501・502)は,以下の部分を「人事に係る事務の内容」と呼称して不開示とする。

①開示する行政文書(1)1枚目の右肩の黒塗り部分


②開示する行政文書(1)18枚目の全面黒塗り部分(但し2018年11月文書の末尾)


③開示する行政文書(2)1枚だけの全面黒塗り


④府人727-1・2:開示する行政文書(3)1枚目の右肩の黒塗り部分


⑤開示する行政文書(3)10枚目の全面黒塗り部分(但し2018年11月文書の末尾)


⑥開示する行政文書(4)「R2.9.24外すべき者(副長官から)」以外の部分


⑦開示する行政文書(5)の中の職員の内線番号

不開示理由は,上記①~⑥は情報公開法5条6号ニであり,上記⑦だけ同号柱書である。

(略)


(イ)内閣府日本学術会議事務局長(府日学972-1)の一部開示文書

a 任命されなかった候補者の氏名,専門分野,所属等

これらの不開示理由は,情報公開法5条6号の関係では,「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」とされている(同号ニ)。


b 人事に係る事務の内容

原処分(府日学972-1)及び理由説明書(諮問504)は,以下の部分を「人事に係る事務の内容」と呼称して不開示とする(推測される記載内容もカッコ内に付記する)。

①開示する行政文書(1)1~2枚目の黒塗り部分7カ所(起案者・決裁者の氏名)


②開示する行政文書(2)1枚目の右肩黒塗り部分(記載内容不明)


③開示する行政文書(2)3枚目の黒塗り部分(次期会長の氏名等のようである)


④開示する行政文書(3)1枚目の右肩黒塗り部分(記載内容不明)


⑤開示する行政文書(3)1枚目の最下部黒塗り部分(次期会長の氏名等のようである)


⑥開示する行政文書(3)9枚目の黒塗り部分(選考委員会枠会員候補者15名の選考理由,同候補者6名の氏名等)


⑦開示する行政文書(3)11~121枚目の会員候補者111名分の略歴のうち,任命された99名の研究内容等,任命されなかった6名の記載内容全部,推薦されなかった6名の記載内容全部)


⑧開示する行政文書(4)「R2.6.12」以外の部分(記載内容不明)

不開示理由は,上記①~⑧のすべてについて,情報公開法5条6号ニである。

(略)


(略)


イ 内閣総理大臣の任命行為の「支障」について

―内閣総理大臣には会員の「人事」を行う権限はない

(ア)内閣総理大臣は「推薦のとおりに任命」すべき義務がある

内閣府大臣官房長及び内閣府日本学術会議事務局長の理由説明書は,いずれも,「日本学術会議法に基づく日本学術会議会員の任命に当たっては,必ずしも推薦のとおりに任命しなければならないわけではない。」として,内閣総理大臣の任命行為が「人事管理に係る事務」に該当するとの結論を導くようである。

しかしながら,上記(4)で詳細に述べたとおり,内閣総理大臣には実質的任命権は一切ない(この論証は,上記(4)に譲り,ここでは繰り返さない)。

上記理由説明書の「必ずしも推薦のとおりに任命しなければならないわけではない。」との文言は,2018年11月文書の「内閣総理大臣に,日学法第17条による推薦のとおりに任命すべき義務があるとまでは言えないと考えられる。」との文言をほぼ引き写したものであるが,2018年11月文書は単なる内部文書であって法的には何らの効力を持たない上,内容的にも,論理整合性も合理性もない文書であり(上記(4)エ参照),本件任命拒否を正当化できるものではない。

したがって,2018年11月文書を根拠として,学術会議会員の選考・任命が内閣総理大臣の「人事管理に係る事務」に該当するとの処分庁の解釈は根本から誤っているのであり,情報公開法5条6号ニは不開示の理由になり得ない。

なお,さらに言うならば,菅内閣総理大臣(当時)は国会答弁において,105名の名簿は見ていない,推薦されてきた人をそのまま任命する前例踏襲はやめようと判断したと述べているのであり(2020年11月2日衆議院予算委員会会議録30頁),このような粗雑な任命ないし任命拒否行為は,そもそも「人事」と呼べるものではない。


(イ)内閣府大臣官房長の理由説明書の不可解な記述

a 内閣総理大臣への「情報提供」はあってはならないはず

ところで,内閣府大臣官房長の理由説明書は,任命されなかった者の氏名や専門分野を公にすると,「今後の同種の人事において,候補者となることを辞退する者が現れたり,任命権者への情報提供を躊躇したりするなどし,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある」(内閣府大臣官房長,諮問第501・502号)と述べる。

ここにいう「任命権者への情報提供を躊躇」するとは,何を意味するのであろうか。

「任命権者」とは内閣総理大臣であるが,内閣総理大臣に学術会議会員の実質的任命権がないことは,前述のとおりである。

そして,法が予定する「任命権者への情報提供」とは,学術会議が内閣総理大臣に提出する推薦書に記載される会員候補者の氏名のみであり(平成17年内閣府令第93号),それ以上の「情報」が「任命権者」に「提供」されることを日本学術会議法は予定していない。

そればかりか,上記内閣府令にあるとおり,内閣総理大臣に対して会員候補者の「氏名」以外の情報を提供することは法令上あってはならないとされているのであり,情報提供は「躊躇」されて然るべきことである。

少なくとも,何者かが,任命権者である内閣総理大臣への「情報提供」を「躊躇」することがあったとしても,それは「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼす」ものでないことは明白である。

これまでも,そうした「情報提供」が行われてきたのであろうか。そうだとすると,どのような情報提供が,「誰」によって,どのようなルートで行われてきたのであろうか。諮問庁は,これらを明らかにしていただきたい。

さらに2020年10月1日に任命拒否された6名の氏名等を公開することが,なぜ「任命権者への情報提供を躊躇」させるおそれを生じさせるのか,その具体的意味も明らかにしていただきたい。

これらが明らかにされないと,理由説明書の述べるところの理由は,全く意味不明と言わざるを得ない。


b 「今後の同種の人事」とは何か

前述の内閣府大臣官房長の理由説明書は,「今後の同種の人事において」というが,これはどのような意味なのであろうか。

この文脈では,「同種の人事」とは内閣総理大臣が行う学術会議会員の任命という「人事」としか考えられない。だとすると,処分庁は,内閣総理大臣が「今後」も,学術会議が会員候補者として推薦した者の実質的な選考・任命,すなわち任命拒否を行うことを想定しているのであろうか。

これは看過できない重大な問題である。諮問庁は,この点について,明らかにしていただきたい。


c 「任命すべき会員の数を上回る候補者の推薦を求め,その中から任命する」制度を想定するのか

なお,「今後の同種の人事」に関連して,2018年11月文書が「内閣総理大臣が適切にその任命権を行使するため,任命すべき会員の数を上回る候補者の推薦を求め,その中から任命することも否定されない(日本学術会議に保障された職務の独立を侵害するものではない)。」と末尾に記している問題にもここで念のため触れておく。

諮問庁が「今後の同種の人事」の支障を言う理由は,上記のとおり,学術会議が定数超過の候補者を推薦し,内閣総理大臣がその中から定数の会員を任命するとの制度を想定した可能性もあるのかもしれない。

しかしながら,学術会議が定数超過の推薦をし,その中から内閣総理大臣が定数を任命するといった任命方法は,「優れた研究又は業績がある」(日本学術会議法17条)かどうかを政治が判断するものであり,本件任命拒否と同様,学問の世界への政治の介入に他ならない。したがって,このような任命方法も憲法23条違反であり,これは定数推薦の場合の一部任命拒否と変わるところはないし,1983年以来繰り返されてきた「内閣総理大臣の任命は形式的」との国会答弁にも明らかに矛盾する(上記(4)ア及びイ(イ)b(b)ないし(d)等参照)

2018年11月文書は,このような定数超過の推薦というこれまでに前例のない違憲の制度について,何らの正当性根拠の検討もないまま,末尾に唐突に記載しているのである。そもそも2018年11月文書は,学術会議事務局長が「手元の勉強資料」,「備忘」と性格づけた(2020年11月11日衆・内閣委会議録6頁・9頁)単なる内部文書に過ぎないのであるから,こうした記載に一切の意味を持たせるべきではない。

少なくとも,これまで一切行われたことがない定数超過の推薦といった任命手続が「今後」実施されるかもしれないことを,本件任命拒否を受けた6名の氏名等を公にしない理由として持ち出すことは許されない。

以上は当然のことであるが,念のため指摘しておく(上記(4)エ(ウ)b参照)。


ウ 学術会議の会員候補者選考・推薦の支障について

(ア)学術会議の選考・推薦への支障はあるか

諮問庁は,理由説明書において,日本学術会議の会員候補者の選考・推薦手続も「人事」ととらえる。この「人事」とは,選考委員会,幹事会,総会という過程を経て行われる,日本学術会議会員による選考・推薦手続を指すものであろう(それ以外には考えられない)。

諮問庁は,任命拒否された6名の氏名等を公開するならば,「候補者となることを辞退する者が現れる」(内閣府大臣官房長),「今後の日本学術会議における会員候補者の選考及び推薦に関する事務等において,例えば法5条第1号に該当する情報の取得が困難となるなどし,当該事務の円滑な遂行や,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある」(内閣府日本学術会議事務局長,諮問第504号)などとして,任命拒否された6名の氏名等の情報について,情報公開法5条6号ニにより不開示とすべきだとする。

たしかに日本学術会議の「人事」は実質的なものであるから,その支障は,内閣総理大臣の行う形式的な任命行為の支障とは別に検討する余地があろう。以下検討する。


(イ)任命拒否された6名の氏名等を公にすることにより「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」はあり得ない

a どのような「支障」・「おそれ」を想定するのか

本件において,任命拒否された6名の氏名等を公にすることにより,「候補者となることを辞退する者が現れる」(内閣府大臣官房長),「法5条第1号に該当する情報の取得が困難となるなどし,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある」(内閣府日本学術会議事務局長)との諮問庁の主張は,具体的にはどのような事態を想定するのであろうか。

推測するに,諮問庁は,学術会議から正式に推薦されながら内閣総理大臣によって任命拒否される者の氏名等が公表されるのであれば,そのような「不名誉」な事実を実名で公表される可能性を怖れて,学術会議から会員候補者として推薦されることを辞退する者が現れる可能性があるということを主張しているように思われる(もし,この推測が誤っているのであれば,諮問庁は,「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」の具体的内容を明確にしていただきたい)。

しかし,処分庁の主張する内容が上記推測のとおりであるとしても,そのような「おそれ」を想定するのは誤りである。以下詳述する。


b 内閣総理大臣が任命拒否をしないと宣言すれば「支障」は生じない

まず,上記の「支障を及ぼすおそれ」は,今後も内閣総理大臣による任命拒否がなされることを前提とする点で誤っている。

上記(4)で詳述したとおり,内閣総理大臣に実質的任命権はなく,内閣総理大臣には学術会議の推薦のとおりに任命すべき法的義務がある。

従って,2020年10月1日の本件任命拒否は,菅義偉内閣総理大臣による1回限りの違憲・違法な過ちと捉えるべきであり,今後も改選期ごとに任命拒否される者が出ることを想定して,「候補者となることを辞退する者が現れる」,「情報の取得が困難となる」などとする立論は失当である。

また,仮に内閣総理大臣による本件任命拒否が,今後会員候補者になることの辞退等を引き起こし,学術会議による選考・推薦に支障を生じさせるというのであれば,それは内閣総理大臣が,違憲・違法な任命拒否を,しかもその理由も明らかにしないまま行ったこと自体が決定的な原因である。

学術会議から「優れた研究又は業績がある科学者」として正式に推薦され,様々な書類の提出や,任命後のスケジュール調整等々を行って準備していたにもかかわらず,最後に内閣総理大臣から理由も示されず任命を拒否される可能性があるとすれば,最初から会員候補者として推薦されることを辞退する者が現れるという「支障」も,たしかにあり得るであろう。

しかしそれは,任命拒否された者の氏名や専門分野が公表されれば「支障」が生じ,公表されなければ「支障」が生じないというものでは断じてない。

そのような「支障」があるとすれば,その原因は,2020(令和2)年10月1日,内閣総理大臣が本件任命拒否を行ってしまったという歴史的事実そのものである。

上記のような「支障」を生じさせないためには,どうすればよいか。

それは,現在の内閣総理大臣が,本件任命拒否が間違っていたことを認め,今からでも6名の任命を実現した上で,今後,内閣総理大臣による任命拒否などは絶対に行わないと宣言すればよいのである。


c すでに公表されているから「支障」はない

2020年10月1日に任命拒否された6名の氏名等については,上記(3)で詳述したとおり,すでに報道等により「公知の事実」と言えるほど公になっている。

したがって,処分庁が情報を公開することによって新たに「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」が出現するわけではない。

このように,すでに情報が公になっている場合に関し,情報公開法5条2号イに関するものであるが,以下の平成30年10月15日付情報審査会答申(平成30年度(行情)答申第259号)が参考になる。

同答申は,原処分が,特定法人が金融庁長官に提出した同社元社員Aによる不祥事に関する不祥事等届出書等を対象文書とする情報公開請求につき「当該金融機関の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれ」を認め情報公開法5条2号イの不開示情報に該当するとして全部不開示決定(存否応答拒否(8条))をしたものであるところ,すでに,警察がAらを詐欺の疑いで逮捕した事実や,特定法人がAらを告訴した事実が新聞報道されていることから,「当該不祥事が発生した事実の有無を開示したとしても,特定法人の事業活動において新たに当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれが生じるとまではいい難い。」として,原処分を取り消し,その存否を明らかにして開示決定等をすべきであるとしたものである。

すなわち,すでに新聞報道によって特定法人に関する情報が公表されている以上,その情報を公開したとしても,当該法人の新たな権利や利益の侵害はないとしたものであり,極めて合理的な内容の答申である。

本件においても,すでに新聞報道等により任命拒否された6名の氏名や専門分野等が公表されている以上,処分庁が情報公開請求に応じて上記6名の氏名等を開示したとしても,「新たに」公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ(情報公開法5条6号ニ)が生じないことは明らかである。


エ 「人事に係る事務の内容」について

上記アで整理したとおり,諮問庁は,任命拒否された6名の氏名等以外に,「人事に係る事務の内容」(上記ア(ア)b①~⑤及び(イ)b②・④・⑦・⑧)(原文ママ)についても,「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」(情報公開法5条6号ニ)を理由として不開示とする。

しかし,これらについては,黒塗りのため,そもそも何が記載されているのかが全くわからず,従って,これらを公開することによって具体的にどのような「支障」が生じるのかが明らかではない。これでは理由説明になっていない。

これら不開示部分の記載内容について一応推測できるのは,書面の右肩にある黒塗り部分である。これらは,行政文書を作成した部署が,他の部署に当該文書を提出したり相談したりした日時や提出先が記載されているのではないかと推測される。

仮にそのとおりだとすると,これらの記載は,本件の違法な任命拒否が,いかなる判断過程を経て行われたのかを市民・国民が知るための重要な手掛かりとなる情報である。したがって,これらを公にすることにより「公正かつ円滑な人事」に支障が生ずることはなく,むしろ,こうした情報を不開示とすることこそが,「公正かつ円滑な人事」の支障となるのである。

したがって,これらについて情報公開法5条6号ニの適用はあり得ない。


オ 開示のもたらす重要な利益

以上のとおり,上記アで整理した不開示部分(以下,(6)において「本件不開示部分」という。)を公にしても,「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」(情報公開法5条6号ニ)は全くない。

そればかりか逆に,本件不開示部分が開示されることの利益は極めて大きく,公共的利益を実現するものであることを,ここで強調しておきたい。

(ア)学術会議の自律性・独立性と学問の自由の確保

本件不開示部分の情報公開請求は,決して任命拒否された6名の個別的利益をはかる目的でなされたものではない。そのことは,1162名もの法律家が情報公開請求人になったという事実によっても明らかであろう。

上記(4)で詳述したとおり,日本学術会議法は,学術会議が政府から独立した存在であることを認め(同法3条),学術会議会員の選考は,学術会議自身が候補者を選考して内閣総理大臣に推薦し,内閣総理大臣はその推薦に「基づいて」任命するとして,人事の自律性を定めている(同法17条,7条2項)。そして,学術会議の人事の自律性は,憲法23条が保障する学問の自由に包摂される科学者コミュニティの政治権力からの独立性・自律性そのものである。

政府もまた,学術会議の独立性・自律性を認め,1983年日本学術会議法の改正により会員の選任方式が公選制から学協会推薦制に変更されるに伴い内閣総理大臣の「任命」制が初めて導入された時以来,「内閣総理大臣の任命は形式的任命である」,「推薦をいただいた者を数どおりにそのまま任命し,拒否することはない」との政府見解が国会で繰り返し公表され,実際,2020年の本件任命拒否までは,学術会議が正式に推薦した会員候補者の任命を内閣総理大臣が拒否した例は一度もなかったのである。

したがって,本件任命拒否は違法・違憲であり,このような任命拒否の理由,判断過程,対象者等に関する情報の公開は,まさに公共的利益を実現するものである。

なお,日本学術会議は,本件任命拒否の翌日である2020年10月2日,第181回総会で,①推薦した会員候補者が任命されない理由を説明いただきたい,②任命されていない方について速やかに任命していただきたい,の2点にわたる要望書(資料55)を決議して以来,現在まで一貫して6名の即時任命を求めるとともに,任命しなかった理由の説明を求めてきた。このことは,2022年8月10日,第185回総会において,梶田隆章日本学術会議会長が会員任命問題に関し詳細な報告をしたことからも明らかである(資料56,57,58)。

国家機関である日本学術会議が,理由の提示もなくなされた本件任命拒否に対して強く抗議し,6名の任命を求め続けてきたという事実も,本件任命拒否の違法性・違憲性を裏付けるとともに,本件情報公開請求の公共的性格を如実に示すものである。


(イ)政府から独立した自由な科学的議論と助言の社会的必要性

そして,任命拒否は,学問の自由を侵害するばかりではない。学術会議の自律性を損なう任命拒否は,政治権力から独立した科学者集団による科学的助言の基盤を失わせ,市民社会が事実と論理に基づく科学的・批判的・民主的な議論をすることが困難な社会の到来をもたらすおそれがある。また,権力による「任命権」の濫用は,大学学長の選任や裁判官の任命など,本来自治や独立性が強く保障されるべき分野に対する政治介入にも道を開くおそれもある。そして何よりも,政治権力が理由も示さず気に入らない人物を排除したとしか思われない本件任命拒否は,科学者のみならず多くの有識者や一般市民にも有形無形の萎縮効果を及ぼし,市民の個人の尊厳,思想・表現の自由を侵害するものである。

このような重大な危険を多くの科学者・有識者・市民が感じ取ったからこそ,本件任命拒否の直後,1000を超える学協会のほか,日本弁護士連合会及び9割以上の単位弁護士会,大学・大学人関係,法律家団体,労働組合,その他の市民団体等々が,任命拒否に対する抗議声明を発出し(資料25,『法と民主主義』554号43頁~47頁参照),2020年秋の臨時国会でも連日,任命拒否問題を巡る追及が重ねられ,また短期間のうちに1162名もの法律家が本件情報公開請求の請求人になったのである。


(ウ)行政の判断過程の透明性確保の必要性

多くの市民・国民が,(内閣総理大臣には任命について一定の裁量権があると考える人々も含め)一致して本件任命拒否に不信感を持つのは,任命拒否の理由が全く明らかにされないことである。

内閣総理大臣が,これまでの有権解釈を覆し,任命を拒否するという重大な政治判断をした以上,少なくとも,その判断過程,判断基準,判断の理由が明らかにされないのは,おかしい。「人事に関わることだから答えられない」などは理由にならない。「国民に対して責任を負えない場合には拒否できる」との答弁もあったが,この6名の任命がなぜ「国民に対して責任を負えない」のかが明らかにされなければ,市民が本件任命拒否の正当性を民主的に検証することは不可能である。本件任命拒否の理由等が明らかにされないまま,今後2023年以降,3年ごとに到来する改選期にも同様の任命拒否が行われていくとすれば,科学者および市民の学問の自由,思想・表現の自由,民主主義は,取り返しがつかないほど損なわれていくことになる。


(エ)情報不開示の利益の欠如とその危険性

それは,「戦争への道」かもしれない。学術会議が,科学者が戦争に加担したことに対する深い反省に基づいて設立されたことに鑑みるならば,それは杞憂とは言えないのではないか。

1162名の情報公開請求人が本件情報公開請求を行ったのは,このような危機感に基づくものである。

前述のとおり,本件不開示部分を公開することによる「支障」は全くなく,他面,公開がもたらす利益は,多くの市民・国民の憲法上の重要な利益であり,極めて公共性の高い利益である。利益較量にすら値しないのである。


カ 結論

本件不開示部分を公開することによる「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」(情報公開法5条6号ニ)は全く認められないから,本件不開示部分は全て公開されるべきである。


(7)意見書6

(略)


(8)意見書7

(略)


第3  諮問庁の説明の要旨

1 令和3年(行情)諮問第501号及び同第502号

(1)本件各審査請求の趣旨及び理由について

ア 審査請求の趣旨

本件は,審査請求人が行った各開示請求に対して,処分庁1において原処分1及び原処分2を行ったところ,審査請求人から,原処分1及び原処分2における不開示部分について,一部(略)を除いて取り消すよう求める審査請求が提起されたものである。


イ 審査請求の理由

審査請求書に記載された本件各審査請求の理由は,おおむね次のとおりである。

原処分1及び原処分2における「3 不開示とした部分及びその理由」の(1),(2)及び(4)において,①文書1ないし文書3及び文書7ないし文書9のうち,人事に係る事務の内容に関する記載,②文書1ないし文書4及び文書7ないし文書10のうち,任命されなかった候補者の氏名,専門分野及び所属・職名に関する記載,及び,③文書5及び文書11のうち,「日本学術会議会員候補者推薦書」及び「第25-26期 会員候補者名簿(案)」における,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,及び専門分野に関する記載,については,「公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある」として,法5条6号ニに該当するとされている部分につき,上記第2の2(1)ウ(ア)bないしfのとおりである。

また,原処分1及び原処分2における「3 不開示とした部分及びその理由」の(2)及び(4)(原文ママ)において,①文書1ないし文書4及び文書7ないし文書10のうち,任命されなかった候補者の氏名,専門分野及び所属・職名に関する記載,②文書5及び文書11のうち,「日本学術会議会員候補者推薦書」及び「第25-26期 会員候補者名簿(案)」における,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,及び専門分野に関する記載,及び,③文書6に記載された住所,自筆の日付及び氏名,印影については,「特定の個人を識別することができる情報である」ことから,法5条1号に該当するとされている部分につき,上記第2の2(1)ウ(イ)b及びcのとおりである。

以上より,原処分1及び原処分2は違法であるから,原処分1及び原処分2における不開示部分を取り消すことを求める。


(2)本件対象文書並びに原処分1及び原処分2について

処分庁1においては,本件各開示請求に対し,別紙の2(1)及び(2)に掲げる11文書を特定し,一部開示決定処分を行った。


(3)原処分1及び原処分2の妥当性について

(法5条6号ニ関係)

ア 審査請求人は,「内閣総理大臣による(日本学術会議会員の)任命行為はいわゆる覇束行為であり,日本学術会議の推薦した人物をそのまま任命することが法律上想定されている。したがって,日本学術会議の人事に係る事務の内容や任命されなかった候補者の氏名等について開示したとしても,日本学術会議の推薦を受けて任命するという行政機関の事務に実質的な「支障」が生じることはない」と主張する。

しかし,日本学術会議法に基づく日本学術会議会員の任命に当たっては,必ずしも推薦のとおりに任命しなければならないわけではない。また,日本学術会議の人事に係る事務の内容や任命されなかった候補者の氏名等,本来公にすることを予定していない情報を公にした場合,今後の同種の人事において,候補者となることを辞退する者が現れたり,任命権者への情報提供をちゅうちょしたりするなどし,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するため,これは当たらない。


イ また,審査請求人は,「任命されなかった候補者の氏名等については周知のように,当該6名自身がすでに公表しており,広く報道もされている。したがって,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,及び専門分野の開示がもたらす「支障」は,実質的に存在しない」と主張する。

任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,及び専門分野については,

(ア)個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等(文書,図画若しくは電磁的記録に記載され,若しくは記録され,又は音声,動作その他の方法を用いて表された一切の事項をいう。)により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)であること,


(イ)これを公にすることを義務付ける法令の規定や公にする慣行は存在せず,また,これまで処分庁その他の行政庁によって当該情報が公にされ,又は公にされることが予定されている事実もないことから,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているものとは認められないため,法5条1号ただし書イには該当しないこと(なお,報道機関等が独自の取材に基づいて報道している事柄等があったとしても,当該情報が法令の規定により又は慣行として公にされたとは言えず,上記の判断を左右するものではない。)

から,同号柱書きに定める不開示情報に該当する。そして,処分庁においてこうした本来公にすることを予定していない情報を公にした場合,今後の同種の人事において,候補者となることを辞退する者が現れたり,任命権者への情報提供をちゅうちょしたりするなどし,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがある。


ウ そして,審査請求人は,「菅義偉内閣総理大臣は,任命されなかった候補者について任命を拒否した具体的な理由を現在まで説明していない。このような状況においては,仮に開示のもたらす支障があるとしても,開示のもたらす利益はそれを遥かに上回るものである。」とも主張する。

しかし,審査請求人の主張する「開示のもたらす利益」については定かではなく,また,開示により,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることは上述のとおりであり,これは当たらない。

(法5条1号関係)


エ 審査請求人は,「任命された日本学術会議の会員の氏名等については,少なくとも慣行として公にされている情報である。したがって,日本学術会議の推薦に従って6名が任命されていれば,当該6名の氏名等は当然「慣行」として公にされるはずであった。前述のように,日本学術会議の任命は形式的なものであり,内閣総理大臣による6名の任命拒否は違法かつ異例なものである。違法な行政行為によって,適法な場合よりも公にされる情報の範囲が狭められるのは,国民の知る権利の観点から妥当とはいえない。したがって,前例がないとしても,任命されなかった候補者の氏名等は,任命された会員と同様に,「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている」(法5条1号ただし書イ)というべきである。」と主張する。

しかし,日本学術会議法に基づく日本学術会議会員の任命に当たっては,必ずしも推薦のとおりに任命しなければならないわけではなく,先般の会員任命についても,同法の規定にのっとって行われたものであるため,「任命されなかった候補者の氏名等は,任命された会員と同様に,「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている」(法5条1号ただし書イ)というべきである。」とする審査請求人の主張は当たらず,原処分1及び原処分2の不開示部分は,法5条1号ただし書イの例外的開示事由には該当しない。


(4)結論

以上のとおり,原処分1及び原処分2は妥当であり審査請求人の主張には理由がないことから,本件各審査請求は,これを棄却することが適当であると考える。


2 令和3年(行情)諮問第504号

(1)本件審査請求の趣旨及び理由について

ア 審査請求の趣旨

本件は,審査請求人が行った開示請求に対して,処分庁2において原処分3を行ったところ,審査請求人から,不開示とした部分(一部を除く。)を含む行政文書を開示するよう,原処分3の取消しを求める審査請求が提起されたものである。


イ 審査請求の理由

審査請求書2に記載された本件審査請求の理由は,おおむね上記第2の2(1)オ(ア)ないし(ケ)のとおりである。


(2)本件対象文書及び原処分3について

処分庁2においては,別紙の1(3)に掲げる文書の開示請求に対し,別紙の2(3)に掲げる4文書について特定し,一部開示決定処分を行った。


(3)原処分3の妥当性について

ア 審査請求人は,前例がないとしても,任命されなかった候補者の氏名等は,任命された会員と同様に,「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている」(法5条1号ただし書イ)というべきであると主張するが,会員に任命されなかった候補者の氏名等は,特定の個人を識別することができる情報であり,慣行として公にされ,又は公にすることが予定されていないことから,同号ただし書イには該当しない。なお,審査請求人は,内閣総理大臣は日本学術会議の推薦した人物をそのまま任命することが法律上想定されており,内閣総理大臣による任命拒否は違法かつ異例なものであるとの認識の下,違法な行政行為によって,適法な場合よりも公にされる情報の範囲が狭められるのは,国民の知る権利の観点からは妥当とはいえないとの考えを述べているが,日本学術会議法に基づく日本学術会議会員の任命については,日本学術会議による推薦を十分に尊重すべきことを前提としつつも,必ず当該推薦のとおりに任命しなければならないわけではないと考えている。

また,審査請求人は,日本学術会議の会員の任命は形式的なものであるから,日本学術会議の人事に係る事務の内容や任命されなかった候補者の氏名等について開示したとしても,日本学術会議の推薦を受けて任命するという行政機関の事務に実質的な「支障」が生じることはなく,また,任命されなかった候補者の氏名等については,当該6名自身がすでに公表しており,報道もされていることから,任命されなかった候補者の氏名等の開示がもたらす「支障」は,実質的に存在しない等の主張もしているが,任命されなかった候補者の氏名等については,上述のとおり,法5条1号の不開示情報に該当するものであり,内閣府としては当該候補者の氏名等を一切明らかにしていないところ,そのような情報を公にすれば,今後の日本学術会議における会員侯補者の選考及び推薦に関する事務等において,例えば,同号に該当する情報の取得が困難となるなどし,当該事務の円滑な遂行や,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当する。

(略)


イ (略)


ウ 審査請求人は,任命されなかった候補者の氏名等について審査請求人が述べたことと同様に,人事に係る事務の内容を公にしたとしても,人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるとはいえないと主張しているが,当該不開示とした部分には,人事に係る事務の内容について記載されており,これを公にすれば,当該事務の具体的な過程の一部が明らかとなり,今後の日本学術会議における会員候補者の選考及び推薦に関する事務等の円滑な遂行や,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当する。


エ (略)


オ 審査請求人は,推薦された者の「略歴」の開示部分では,氏名,現職,年齢,専門分野が開示されており,これらの情報によって特定の個人を識別することは可能であって,開示部分ですでに特定可能な以上,不開示部分のみが「特定の個人を識別できるもの」になるとはいえないと主張するが,当該文書において氏名等が開示され,当該氏名等により,不開示部分が特定の個人に関する情報であることが判別し得るとしても,それによって,当該部分に記載された情報について,「特定の個人を識別できるもの」への該当性が否定されるわけではない。

また,審査請求人は,日本学術会議の会員や会員に形式的に任命される推薦者については,生年月日,専門分野,研究内容,学歴,職歴,所属学会といった情報は「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」というべきものであると主張するが,任命された者の氏名,現職,年齢,専門分野(公表されている情報に限る。)については,慣行として公表しており,不開示情報には当たらないのに対し,任命された者の研究内容,学歴,職歴,所属学会は,公表を前提として取得したものではなく,慣行として公表していないことから,法5条1号に該当する。

なお,現に任命されていない候補者の氏名等については,上記アに記載したとおりである。


(4)結論

以上のとおり,原処分3は妥当であり,審査請求人の主張には理由がないことから,本件審査請求は,これを棄却することが適当であると考える。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件各諮問事件について,以下のとおり,併合し,調査審議を行った。

① 令和3年11月18日   諮問の受理(令和3年(行情)諮問第501号,同第502号及び同第504号)

② 同日           諮問庁から理由説明書を収受(同上)

③ 同年12月9日      審議(同上)

④ 同年12月23日     審査請求人から意見書1及び資料を収受(同上)

⑤ 令和4年4月28日    審査請求人から意見書2及び資料を収受(同上)

⑥ 同年8月25日      審査請求人から意見書3及び資料並びに意見書4を収受(同上)

⑦ 同年9月8日       審査請求人から意見書5及び資料を収受(同上)

⑧ 同年10月27日     諮問の一部取下げの受理(令和3年(行情)諮問第501号及び同第504号)

⑨ 同年11月21日     審査請求人から意見書6を収受(同上)

⑩ 同年12月8日      審査請求人から意見書7を収受(同上)

⑪ 令和5年4月17日    委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議(同上)

⑫ 同年5月15日      審議(同上)

⑬ 同年6月19日      審議(同上)

⑭ 同月28日        審議(同上)

⑮ 同年7月13日      審議(同上)

⑯ 同年8月2日       令和3年(行情)諮問第501号,同第502号及び同第504号の併合並びに審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件対象文書は,別紙の2に掲げる15文書であり,処分庁は,その一部を法5条1号並びに6号柱書き及びニに該当するとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,別紙の3に掲げる部分(以下「本件不開示部分」という。)の開示を求めているところ,諮問庁は,原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,本件不開示部分の不開示情報該当性について検討する。

なお,文書1及び文書7,文書2及び文書8,文書3及び文書9,文書4及び文書10並びに文書5及び文書11は,それぞれ同一の文書である。


2 本件不開示部分の不開示情報該当性について

(1)令和2年10月1日付けの日本学術会議会員の任命(以下「令和2年任命」という。)に関する事務の位置付け及び経緯について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,以下のとおり説明する。

ア 日本学術会議会員(以下「会員」という。)は,その候補者を日本学術会議が推薦し,当該推薦に基づいて内閣総理大臣(以下「総理」という。)が任命するものである(日本学術会議法7条2項及び17条)。

日本学術会議は,内閣府に置かれた特別の機関(内閣府設置法40条3項)であって,その構成員である会員の任命は,内閣府の長たる総理が行うものであり,当該任命に関する事務は,「内閣府の職員の任免」に関することとして内閣府大臣官房人事課(以下「内閣府人事課」という。)が所掌している(内閣府本府組織令2条7号及び12条1号)。

日本学術会議事務局は,日本学術会議法16条1項に基づき,日本学術会議に関する事務を処理させるために日本学術会議に設置された事務局であり,その所掌事務には,日本学術会議が行う会員の選考に関する事務及び人事に関する事務が含まれる(日本学術会議事務局組織規則4条12号及び5条4号)が,総理が行う会員の任命に関する事務(以下「会員任命事務」という。)は所掌していない。


イ 令和2年任命に係る事務の経緯としては,日本学術会議が,会員候補者について,現会員・現連携会員からの推薦及び協力学術研究団体からの情報提供を踏まえ,日本学術会議選考委員会(選考分科会を含む。)において選考を行い,日本学術会議総会の議を経て,会長が総理に会員の任命を求め,また,日本学術会議事務局から,推薦前に,任命権者側に,会員改選に向けた状況等を説明している。そして,菅総理が,内閣官房長官であった当時から,杉田副長官に日本学術会議に関する懸念点を伝えて,また,令和2年9月16日に総理に就任した後も,杉田副長官に当該懸念点を改めて伝え,その後,杉田副長官が菅総理に相談をし,同月24日に内閣府において決裁文書が起案されるまでの間に,杉田副長官から,会員の任命に係る菅総理の判断が内閣府に伝えられている。


ウ 令和2年任命の過程において,日本学術会議(事務局を含む。)から当時の会員等及び総理に推薦した会員候補者に対して行った連絡の経緯及び内容は,以下のとおりである。

(ア)当時の会員及び連携会員に対して,令和元年11月に文書を送付し,本人の内諾を得た上で会員候補者として推薦することを求めた。


(イ)当時の連携会員のうち会員候補者となり得る者(会員になったことがない者で令和5年10月までの間に70年の定年に達しない者)に対して,令和元年12月に文書を送付し,会員候補者となる意思の有無の確認を求めた。


(ウ)総理に推薦した会員候補者(第25-26期会員候補者)に対して,令和2年8月に文書を送付し,連絡事項の伝達,会員就任に当たっての必要書類の提出を依頼した。


(エ)総理に推薦した会員候補者(第25-26期会員候補者)に対して,令和2年9月25日付けで,同年10月の日本学術会議総会の開催案内を送付した。


(オ)総理に推薦したが任命されなかった会員候補者に対しても,上記(ウ)及び(エ)のとおり各文書を送付したが,令和2年9月29日に,会員候補者として総理に推薦したものの任命されないこと及びそれに伴い上記(エ)の総会に出席しなくて良い旨,電話により伝達した。


(2)本件対象文書に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名等を不開示とした理由について,諮問庁は,上記第3の1(3)並びに2(3)ア及びオのとおり説明する。

これに対し,審査請求人は,上記第2の2(3)のとおり,6名の個人が,任命されなかった会員候補者として自らその事実を公表しており,その氏名等の情報は,報道,書籍及び国会審議等によって公知の事実となっていること等の事情から,法5条1号ただし書イ及びハに該当する旨主張している。また,上記第2の2(6)のとおり,総理には会員の実質的任命権がないこと,任命されなかった会員候補者の氏名等の情報は公知の事実となっていること等の事情から,法5条6号ニに該当しない旨主張している。

そこで,当審査会事務局職員をして国会会議録を確認させたところ,任命されなかった会員候補者であるとして6名の個人の氏名等に言及している質疑者の発言の外,令和2年任命に関する質問に対して,個人の氏名に言及している答弁が認められる。

以上を踏まえ,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,以下のとおり説明する。

ア 会員の氏名,専門分野(日本学術会議に置かれている分野別委員会の30区分の専門分野をいう。以下同じ。)及び所属・職名等の情報は,日本学術会議が公表しているが,任命されなかった会員候補者を含む,日本学術会議が推薦した会員候補者の氏名等の情報については,特定の個人を識別することができる情報であり,かつ人事に関する情報であることから,内閣府及び日本学術会議のいずれにおいても公にしていない。


イ 令和2年7月の日本学術会議総会において,令和2年任命に向けた会員候補者の承認について審議がなされたが,審議は非公開とされ,傍聴は認められていなかった。当該審議の資料は,同総会に出席した会員に席上配布された後,総会散会後に回収され,また,オンラインで参加した会員は,審議中は当該資料をオンラインで閲覧できたが,その複写はできないものであった。


ウ 審査請求人が主張する,6名の個人による公表等の事情があるとしても,法に基づく開示請求において,個人情報の自己コントロール権について参照するものとは考えていない。また,審査請求人が主張する報道等の事情があるとしても,本件不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名等の情報が,報道機関等が独自の取材に基づいて報道している情報により,法令の規定により又は慣行として公にされたとはいえない。なお,本件不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名等の情報が,当該6名のものかを,当該6名や報道機関等が確定的に知っているわけではない。


エ 上記の国会審議について,質疑者が述べた事柄があったとしても,それをもって「慣行により公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当するとはいえない。

また,上記の答弁は,質疑者が質問の中で氏名を示した者とのやり取りの内容に関する質問に対し,当該やり取りの内容に係る答弁者の認識を答えたものや,委員会での配布資料に記載されていた個人を前提として,当該個人を知っていたか否かを答えたもの及びそうした前提を答弁したものであり,いずれの答弁も,当該答弁の中で,任命されなかった会員候補者の氏名という秘匿すべき事項を直接的に明らかにしたものではない。

このような国会における政府の答弁者の答弁について,事後に前後の質疑者の発言等を併せて読むこと等により,答弁で直接的に述べられたこと以外のことを推測等できる者がいたとしても,それをもって「慣行により公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当するとはいえない。


オ 上記アないしエから,本件不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名等の情報は,法5条1号ただし書イに該当しない。


カ 本件不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者が,当時,それぞれ法5条1号ただし書ハの「公務員等」に該当していたとしても,当該規定は,当該個人が公務員等である場合において,その担任する職務を遂行する場合における当該活動についての情報を意味するところ,日本学術会議により同会議の会員候補者として推薦され,会員候補者となること自体は,それぞれが現に従事するいかなる他の職の職務の遂行にも当たることはないため,それぞれの職務の遂行に係る情報であるとはいえない。

したがって,本件不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名等の情報は,法5条1号ただし書ハに該当しない。


キ 一般論として,人事においては,任命手続が完了するまでの間に,候補者又はその他の者の協力を得て当該人事の検討に要する資料を作成・取得しつつも,最終的に任命に至らない場合があり得る。

仮に,今般,会員に任命されなかった会員候補者の情報を公にすれば,今後の同種の人事において,公務員として任命に至らない場合においても事後に開示請求への対応等により氏名が公になる可能性があることを忌避して,候補者となることを辞退する者が現れたり,候補者又はその他の者が候補者の情報を任命権者へ提供することをちゅうちょしたりする可能性がある。

したがって,本件不開示部分に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名等の情報は,法5条6号ニに該当する。


ク なお,総理による会員の任命権に関する諮問庁の考え方は,上記第3の1(3)ア及びエ並びに2(3)アのとおりである。


(3)当審査会において,諮問書に添付された原処分3に係る開示決定通知書を確認したところ,文書14のうち,会員候補者に係る略歴の不開示部分(同通知書の3(9)及び(10))について,それぞれ,別表の通番49及び通番51の各「不開示理由」欄のとおり記載されていることが認められる。

当該通知書の3(9)が対象とする「推薦された者」には,概念上,「任命された候補者」と「任命されなかった候補者」の両方が含まれると解されるところ,後者は同通知書の3(10)の対象にも含まれている。また,同通知書の3(9)及び(10)には,不開示部分として「専門分野(公にされている情報は除く。)」と記載されているところ,当審査会において開示実施文書を確認したところ,任命された会員候補者及び任命されなかった会員候補者に係る略歴のいずれにおいても,専門分野の記載は不開示とされていないことが認められる。

以上を踏まえ,当該開示決定通知書における不開示部分・理由の提示の整理等について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,以下のとおり説明する。

ア 当該開示決定通知書の3(9)及び(10)は,原処分3に当たり,推薦されて任命された会員候補者,推薦されたが任命されなかった会員候補者,推薦されなかった候補者,と順を追って整理して記載したものである。

すなわち,任命されなかった会員候補者を含む「推薦された者」について,当該開示決定通知書の3(9)のとおり,法5条1号により不開示とした上で,同通知書の3(10)により,任命されなかった会員候補者に係る不開示部分を追加し,同条6号ニの不開示理由を追加するとともに,推薦されなかった候補者に係る不開示部分・理由を追加したものである。

したがって,任命されなかった会員候補者に係る不開示部分・理由は,当該開示決定通知書の3(9)及び(10)の両方により提示しているものである。


イ 会員の専門分野は,日本学術会議が各会員2つまで公表している。他方,会員候補者に係る略歴においては,必要に応じて,専門分野の詳細や3つ目の専門分野など,日本学術会議が公表しない情報も記載される場合がある。そのため,当該開示決定通知書においては,不開示部分として,「専門分野(公にされている情報は除く。)」と記載した。その上で,

(ア)上記のとおり,日本学術会議が会員の専門分野を公表していることから,任命された会員候補者に係る略歴中の専門分野の記載を開示した。


(イ)文書14中の「第一部会員候補者(案)」と題する文書の開示に当たり,小見出し部分に記載された専門分野の記載について,個人の専門分野の記載とは容易に切り分けが可能であり,かつ,個人の専門分野の記載と完全に一致するとは限らないため開示したところ,任命されなかった会員候補者に係る略歴については,当該小見出し部分において専門分野が判明する状態であること,また,当該略歴中の専門分野の記載のみを開示しても,個人が特定される可能性は極めて低いことから,当該略歴中の専門分野の記載を開示した。


(ウ)上記(ア)及び(イ)のとおり,任命された会員候補者及び任命されなかった会員候補者に係る略歴においては,非公表となる専門分野の情報がなかったため,結果として不開示とした部分がなかったものである。


(エ)なお,「第一部会員候補者(案)」と題する文書中の個人の専門分野の不開示部分については,これを明らかにすると,小見出し部分に記載された専門分野ごとに五十音順に並んでいる前後の会員候補者の氏名やその他の情報から総合的に推察することにより,個人が特定される可能性がある。また,文書5,文書11及び文書12のうち「第25-26期 会員候補者名簿(案)-105名-」と題する文書中の専門分野の不開示部分については,これを明らかにすると,五十音順に並んでいる前後の会員候補者の氏名やその他の情報から,同様に個人が特定される可能性がある。このため,法5条1号に該当するものと考える。

さらに,これを明らかにすると,今後の同種の人事において,会員として任命に至らない場合においても事後に開示請求への対応等により氏名が推察される可能性が生じ,任命されなかった会員候補者は任命されなかった理由を種々類推されるなどし,非常に煩わされることが容易に想像できることから,当該可能性があることを忌避して,候補者となることを辞退する者が現れたり,候補者又はその他の者が当該候補者の情報を日本学術会議又は任命権者に提供することをちゅうちょしたりすることが予想され,その結果,会員候補者の推薦及び会員の任命事務において多大なる支障が生じるおそれが極めて高いことから,法5条6号ニに該当すると考える。


(4)文書4及び文書10について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該文書について確認させたところ,以下のとおり説明する。

当該文書は,令和2年任命に係る意思決定過程において,任命権者である総理の判断が副長官により内閣府に伝達された時にその内容を記録したものであり,別紙の1(1)ア及びイ並びに(2)に該当するものである。なお,当該文書に記載された内容以外に説明があったか否かが分かる記録はない。

当該文書(1枚)の開示部分には,「外すべき者(副長官から)」及び「R2.9.24」と記載され,不開示部分には,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名が記載されている。


イ 別表の通番10及び通番28の不開示部分について

(ア)当該不開示部分は,上記アのとおり,令和2年任命に係る意思決定過程における伝達記録に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名(以下「本件氏名等」という。)であると認められる。


(イ)以下,検討する。

a 当審査会において,諮問庁から上記(1)ウ(ア)ないし(エ)の各文書の提示を受けて,国会会議録と併せて確認したところ,上記(1)ウの諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められない。


b そうすると,令和2年任命において任命されなかった会員候補者は,日本学術会議(事務局を含む。)からの文書・電話での連絡により,自身が,日本学術会議から総理に推薦された会員候補者に含まれていたこと及び任命されなかったことを承知していることが認められる。


c 本件氏名等は,それぞれの個人ごとに,その氏名と一体として,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


d 次に,法5条1号ただし書該当性について検討する。

(a)本件氏名等は,日本学術会議法その他の法令の規定により公にされ,又は公にすることが予定されているものとは認められない。


(b)当審査会事務局職員をして,内閣府及び日本学術会議のウェブサイトを確認させたところ,本件氏名等が掲載され,又は報道発表されている等の事情は認められない。


(c)当審査会において国会会議録を確認したところ,令和2年任命に関する国会審議において,通常の公務員の任命と同様に,個別の人事や個人の任命の有無についての答弁は差し控える旨の答弁が繰り返しなされていることが認められる。


(d)一般論としても,国家公務員の職に任命されなかった候補者の氏名等の個人情報については,行政機関が通常これを広く一般に公にするといった性質のものとは認められない。


(e)そうすると,内閣府及び日本学術会議は,任命されなかった会員候補者の氏名等を公にしていない旨の上記(2)アの諮問庁の説明は,上記(a)ないし(d)の観点からは,不自然,不合理な点は認められない。


(f)他方,審査請求人は,6名の個人が,任命されなかった会員候補者として自らその事実を公表しており,その氏名,所属及び専門分野等の情報は,報道,書籍及び国会審議等によって公知の事実となっていること等の事情から,法5条1号ただし書イ及びハに該当する旨主張している。

一般に,法5条1号の個人に関する情報について,報道機関等により報道等されたことをもって直ちに同号ただし書イの公表慣行があるものとは認められないものと解されるが,当審査会において,審査請求人から提出された資料も踏まえて,令和2年任命に係る報道等の状況を確認したところ,以下のとおりであると認められる。

すなわち,令和2年任命以降,原処分以前の時点で,複数の全国紙の朝刊一面等(インターネット上の報道を含む。)において,任命されなかった会員候補者として6名の個人(以下「本件6名」という。)の氏名等が報道されたこと,本件6名のうち一部の者が,任命されなかった会員候補者として国会内で開催された会合に参加し発言したことが報道されたこと,本件6名のうち一部の者の氏名・役職について,それぞれの所属機関の長等により,任命されなかった会員候補者であるとして各機関のウェブサイトで公表されたこと,国会質疑において,質疑者により本件6名の氏名等が言及されたこと,本件6名が,任命されなかった会員候補者として,日本外国特派員協会の記者会見において口頭又は文書で見解を表明したことが報道されたこと及び書籍において見解を表明したこと等の事情が認められる。

なお,原処分以降も,本件6名が,全員の共著の書籍を出版し,またそれぞれ報道機関による取材や雑誌・インターネット等において見解を表明する中で,自身が任命されなかった会員候補者であることを明らかに又は前提にしていることが認められる。さらに,審査請求人から提出された資料によれば,本件6名は,自身が任命されなかった事実及び自身の氏名等について,内閣府等が保有する情報を公開することに同意する旨の同意書を,内閣府等に提出したことが認められる。


(g)会員は,優れた研究又は業績がある科学者のうちからその候補者を日本学術会議が選考して総理に推薦し,当該推薦に基づいて総理が任命することとされており(日本学術会議法7条2項及び17条),当該選考の手続においては,会員候補者の名簿に基づき,最高議決機関である総会の承認を得ることとされている(日本学術会議会則8条3項)。

このように,総理による会員の任命行為の前提として,法律上,日本学術会議による会員候補者の選考・推薦行為が定められているから,総理に推薦された会員候補者は,その時点で行政機関による一次的な意思決定を経ている点で,一般的な国家公務員の職の候補者とは異なるとともに,上記bのとおり,令和2年任命において任命されなかった会員候補者は,日本学術会議(事務局を含む。)からの連絡により,自身が任命されなかったことを承知していると認められる。

ところで,開示実施文書によれば,令和2年任命においては,日本学術会議から105名の会員候補者が推薦され,そのうち99名が任命されたことが認められるから,任命されなかった会員候補者が6名であることは自明である。

そして,これと同数の本件6名が,上記(f)の各公表行為により,自身が任命されなかった会員候補者であることを,自身の氏名や所属機関等の情報も明らかにして継続的に公表していることが認められるところ,このような行為を,無関係の第三者が示し合わせるなどして,立場を詐称して行うことはおよそ想定し得ない。なお,当審査会において,国立研究開発法人科学技術振興機構が運営するデータベース型研究者総覧や国立情報学研究所が公開する科学研究費助成事業データベースその他のウェブサイトを確認したところ,本件6名に関する情報の外に,本件6名と誤認し得るような他の個人に関する情報は確認されなかった。

以上を踏まえれば,原処分時点で,本件6名は令和2年任命において任命されなかった会員候補者であると事実上広範に知られており,公知の事実となっていたものと認められ,これを覆すに足る事情は認められない。


(h)上記アの諮問庁の説明を踏まえれば,当該文書に記載された本件氏名等の情報は,任命権者である総理の判断結果の情報であると認められるから,その性格において,その後の決裁手続を経た意思決定の結果の情報と実質的に同一であると認められる。


(i)国家公務員の職に任命されなかったという情報は,通常人に知られたくない機微な情報であり,一般的には,当事者の正当な権利利益の保護が要請される性質の情報であるといえる。

しかしながら,本件においては,上記(f)及び(g)のとおり,法律上定められた推薦の時点で,行政機関による一次的な意思決定を経ていること及び日本学術会議(事務局を含む。)からの連絡により自身が任命されなかったことを承知していること並びに報道・公表という特段の事情(以下「本件特段の事情」という。)が存在し,それにより,原処分時点で,本件6名が任命されなかった会員候補者であることは公知の事実となっていたのであるから,行政機関が公にする行為とは性格が異なるものであることを考慮しても,本件特段の事情により,上記(h)の性格を有する本件氏名等は,原処分時点における公知の事実及び当該事実から容易に推測可能なものであると認められるから,慣行として公にされていると認められ,これを開示しても,個人の正当な権利利益を害するおそれがあるとは認められない。

したがって,当該不開示部分は,法5条1号ただし書イに該当すると認められる。


e 次に,法5条6号ニ該当性について検討する。

諮問庁は,当該不開示部分を開示した場合,上記(2)キのとおり,今後の同種の人事において,公務員として任命に至らない場合においても,じ後に開示請求への対応等により氏名が公になる可能性があることを忌避して,候補者となることを辞退する者が現れたり,候補者又はその他の者が候補者の情報を任命権者へ提供することをちゅうちょしたりする可能性がある旨説明する。

しかし,本件特段の事情が認められる本件において,上記d(i)のとおり公知の事実等である当該不開示部分を開示したとしても,それにより,このような事情がない候補者に関する情報を開示しなければならないものではなく,諮問庁が説明する公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれが,法的保護に値する蓋然性にまで達しているものとは認められないから,当該不開示部分は,法5条6号ニに該当するとは認められない。


f したがって,当該不開示部分(別紙の4(1)に掲げる部分)は,法5条1号及び6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきである。


(5)文書5及び文書11について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該文書について確認させたところ,以下のとおり説明する。

(ア)当該文書は,令和2年任命に係る意思決定過程において,内閣府人事課の職員が起案し,任命権者である総理まで決裁された決裁文書であり,別紙の1(1)イ及びウ並びに(2)に該当するものである。


(イ)当該文書は,①決裁かがみ及び日本学術会議会員の候補者99名の氏名が列記された決裁案(1~5枚目),②令和2年8月31日に,日本学術会議事務局から提出された,「日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)」の公文及び「日本学術会議会員候補者推薦書(105名)」(以下「本件推薦書」という。)(6~13枚目),③②に添付されて同日に日本学術会議事務局から提出された,「第25-26期 会員候補者名簿(案)-105名-」と題する資料(以下「本件名簿案」という。)(14~18枚目),④②に添付されて同日に日本学術会議事務局から提出された,日本学術会議法の規定の抜粋及び「日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦手続を定める内閣府令」(以下「本件内閣府令」という。)の規定が記載された資料に内閣府人事課が傍線を追記したもの(19枚目)で構成されており,これら全てが決裁文書として供されたものである。


(ウ)本件不開示部分である,8枚目,9枚目及び12枚目の不開示部分には,任命されなかった候補者の氏名が,15枚目及び17枚目の不開示部分には,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名及び専門分野が記載されている。


(エ)令和2年任命の過程において,本件内閣府令に基づき候補者の氏名を記載した「書類」として内閣府人事課に提出された文書(原本)は,本件推薦書である。


(オ)なお,これらの不開示部分のマスキングは,いずれも,決裁時点においては付しておらず,開示に当たって付したものである。


イ 別表の通番12ないし通番14及び通番30ないし通番32の不開示部分について

(ア)当該不開示部分は,本件推薦書に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名であると認められる。


(イ)以下,検討する。

a 当該不開示部分の記載は,それぞれの個人ごとに,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


b 本件内閣府令は,「日本学術会議会員候補者の内閣総理大臣への推薦は(中略)当該候補者の氏名(中略)を記載した書類を提出することにより行うものとする。」と規定している。

したがって,本件内閣府令に基づく「書類」は,総理による任命判断の前提たる文書であるといえる。


c 当審査会において本件対象文書を確認したところ,上記ア(イ)及び(エ)の諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められないから,本件推薦書は,令和2年任命の過程における,本件内閣府令に基づく「書類」であり,総理による任命判断の前提たる文書であると認められる。


d そうすると,任命権者である総理の判断結果の情報である文書4及び文書10に記載された本件氏名等について,上記(4)イ(イ)のとおり開示することから,当該判断の前提たる本件推薦書に記載された当該不開示部分(別紙の4(2)に掲げる部分)についても,同様の理由により,法5条1号及び同条6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきである。


ウ 別表の通番15及び通番16並びに通番33及び通番34の不開示部分について

(ア)当該不開示部分は,本件名簿案に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名及び専門分野であると認められる。


(イ)以下,検討する。

a 当該不開示部分の記載は,それぞれの個人ごとに,その氏名と一体として,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


b 上記ア(イ)によれば,本件名簿案は,本件内閣府令に基づき提出された本件推薦書に添付されたものである。また,その内容は,本件推薦書に氏名が記載された会員候補者105名の情報を整理したものであると認められる。

したがって,本件名簿案は,その内容及び提出の態様等から,総理による任命判断の前提たる本件推薦書に準じた性格のものであると認められる。


c そうすると,当該不開示部分のうち,氏名,所属・職名及び専門分野については,上記イ(イ)dと同様の理由により,また,ふりがな及び性別については,本件においては氏名から容易に推測できることから,これらの部分(別紙の4(3)に掲げる部分)は,法5条1号及び同条6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきである。


d 他方,当該不開示部分のうち,年齢については,本件特段の事情により原処分時点における公知の事実であるとは認められず,法5条1号ただし書イに該当するとは認められない。また,同号ただし書ロに該当する事情も認められない上,同号ただし書ハの「公務員等」である個人が会員候補者となることは,当該個人に分任された「公務員等」としてのいかなる具体的な職務の遂行とも直接の関連を有する情報であるとは認められないから,同号ただし書ハに該当するとも認められない。

さらに,上記cのとおり氏名等を開示することから,法6条2項の部分開示の余地はない。

したがって,当該不開示部分のうち,年齢の部分(別紙の4(3)に掲げる部分以外の部分)は,法5条1号に該当すると認められるので,同条6号ニについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


(6)文書1及び文書7について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該文書について確認させたところ,以下のとおり説明する。

(ア)当該文書は,内閣府人事課が取得・作成した,令和2年任命に係る意思決定過程において,政府内での説明に用いられた資料であり,別紙の1(1)イ及び(2)に該当するものである。


(イ)1枚目ないし8枚目は,令和2年8月31日に日本学術会議事務局から取得した文書の写しに,内閣府人事課が1枚目の右上の記載(不開示部分)を追記したものである。当該不開示部分には,公にしていない会員の任命に係る事務の内容が記載されており,3枚目,4枚目及び7枚目の不開示部分には,任命されなかった会員候補者の氏名が記載されている。


(ウ)9枚目ないし17枚目は,日本学術会議事務局から取得した文書の写しである。


(エ)18枚目は,文書の作成方法については記録が残されていないが,不開示部分には,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名が記載されている。


イ 別表の通番1及び通番19の不開示部分について

(ア)当該不開示部分は,上記ア(ア)及び(イ)のとおり,令和2年任命に係る意思決定過程における政府内での説明資料に記載された,会員の任命に係る事務の内容であると認められる。


(イ)当該不開示部分の不開示情報該当性について,当審査会事務局職員をして更に確認させたところ,諮問庁は,以下のとおり説明する。

当該部分については,公にしていない会員の任命に係る事務の内容に関する記述であり,これを明らかにすれば,例えば,任命に際して,誰に対して,どのような資料を用いて説明を行ったかという人事の一連のプロセスが明らかになり,今後の会員及びそれと同種の任命(内閣府大臣官房が所管する,任命権者が総理であって推薦手続のあるもの)等の手続を行う上で,特定の官職にある者に対して同様の説明を行うことが推測され,当該特定の官職にある者に対する様々な働き掛けを試みる者が,より効果的にこれらを行うことを可能とすることから,その公正・円滑な任命行為の遂行に支障を生じるおそれがある。


(ウ)以下,検討する。

当該文書は,会員の任命に係る意思決定過程(以下「会員任命過程」という。)における政府内での説明資料と認められるところ,当該不開示部分の内容及び上記(イ)の諮問庁の説明を踏まえれば,当該不開示部分のうち,別紙の4(4)に掲げる部分以外の部分については,これを公にした場合,例えば,特定の官職にある職員に対して同様の説明が行われる等,今後の会員任命過程における政府内での手続を憶測され得ることとなると認められる。

一般に,人事に係る意思決定過程における行政内部での具体的な手続は,関係機関内部における事務の配分の状況や,その職員が担うこととされている事務及びその関心事項等,その時点における個別の事情にも応じながら行われるものであり,そのような具体的な手続が公にされるものとはいい難い。

そうすると,今後の会員任命過程における政府内での具体的な手続についても,例えば,その時点における個別の事情により,特定の官職にある職員が同様の説明を受ける立場にあるとは限らないにもかかわらず,同様の説明が行われる等といった憶測から,当該職員やその関係職員に対して,その憶測される関心事項等に即した働き掛け等がなされ,またそのような者から予期し難い関与を招くこと等により,今後の会員任命事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることを否定し難いから,当該不開示部分のうち,別紙の4(4)に掲げる部分以外の部分については,法5条6号ニに該当すると認められ,不開示としたことは妥当である。

他方,当該不開示部分のうち,別紙の4(4)に掲げる部分については,開示決定通知書の記載から明らかであり,これを公にしても,人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるとは認められないから,法5条6号ニに該当せず,開示すべきである。


ウ 別表の通番2ないし通番4及び通番20ないし通番22の不開示部分について

(ア)当該不開示部分が記載された文書は,その内容及び上記ア(イ)を踏まえると,本件推薦書の写しであると認められる。

したがって,当該部分は,本件推薦書の写しに記載された,任命されなかった会員候補者の氏名であると認められる。


(イ)以下,検討する。

a 当該不開示部分の記載は,それぞれの個人ごとに,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


b 本件推薦書に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名について,上記(5)イ(イ)のとおり開示することから,当該不開示部分(別紙の4(5)に掲げる部分)についても,同様の理由により,法5条1号及び同条6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきである。


エ 別表の通番5及び通番23の不開示部分について

(ア)当該不開示部分が記載された文書は,上記ア(ア)を踏まえると,令和2年任命に係る意思決定過程における政府内での説明資料であり,当該不開示部分は,説明資料に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名であると認められる。


(イ)以下,検討する。

a 当該不開示部分の記載は,それぞれの個人ごとに,その氏名と一体として,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


b 上記(ア)を踏まえると,当該部分が記載された文書は,第25-26期会員という特定の国家公務員の職への任命に向けた,個別人事の意思決定過程の途中段階における行政内部での説明資料であり,その性格について,上記(4)b(h)並びに(5)イ(イ)c及びウ(イ)bと同様に評価すべき事情は認められない。


c そして,そのような文書に記載された当該不開示部分の情報は,上記(5)ウ(イ)dと同様の理由により,同号ただし書イないしハに該当するとは認められない。

さらに,当該不開示部分は個人識別部分であることから,法6条2項の部分開示の余地はない。


d したがって,当該不開示部分は法5条1号に該当すると認められるので,同条6号ニについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


(7)文書2及び文書8について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該文書について確認させたところ,以下のとおり説明する。

当該文書は,内閣府人事課が作成した,令和2年任命に係る意思決定過程において,政府内での説明に用いられた資料であり,別紙の1(1)イ及び(2)に該当するものである。

当該文書(1枚)の作成方法については,記録されていないが,右上の不開示部分には,公にしていない会員の任命に係る事務の内容が記載されており,本文の全ての不開示部分には,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名が記載されている。


イ 別表の通番6及び通番24の不開示部分について

(ア)当該不開示部分は,上記アのとおり,令和2年任命に係る意思決定過程における政府内での説明資料に記載された,会員の任命に係る事務の内容であると認められる。


(イ)当該不開示部分の不開示情報該当性について,当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し更に確認させたところ,上記(6)イ(イ)のとおり説明する。


(ウ)検討するに,当該不開示部分は,上記(6)イ(ウ)と同様の理由により,別紙の4(6)に掲げる部分以外の部分については,法5条6号ニに該当し,不開示としたことは妥当であるが,別紙の4(6)に掲げる部分については,同号ニに該当せず,開示すべきである。


ウ 別表の通番7及び通番25の不開示部分について

(ア)当該不開示部分が記載された文書は,上記アを踏まえると,令和2年任命に係る意思決定過程における政府内での説明資料であり,当該不開示部分は,説明資料に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名であると認められる。


(イ)以下,検討する。

a 当該不開示部分の記載は,それぞれの個人ごとに,その氏名と一体として,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


b 当該不開示部分は,上記(6)エ(イ)b及びcと同様の理由により,法5条1号に該当すると認められるので,同条6号ニについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


(8)文書3及び文書9について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該文書について確認させたところ,以下のとおり説明する。

(ア)当該文書は,内閣府人事課が取得・作成した,令和2年任命に係る意思決定過程において,政府内での説明に用いられた資料であり,別紙の1(1)イ及び(2)に該当するものである。


(イ)1枚目ないし9枚目は,日本学術会議事務局から取得した文書の写しに,内閣府人事課が1枚目の右上の記載(不開示部分)を追記したものであり,当該不開示部分には,公にしていない会員の任命に係る事務の内容が記載されている。


(ウ)10枚目は,文書の作成方法については記録が残されていないが,不開示部分には,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名が記載されている。


イ 別表の通番8及び通番26の不開示部分について

(ア)当該部分は,上記ア(ア)及び(イ)のとおり,令和2年任命に係る意思決定過程における説明資料に記載された,会員の任命に係る事務の内容であると認められる。


(イ)当該不開示部分の不開示情報該当性について,当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し更に確認させたところ,上記(6)イ(イ)のとおり説明する。


(ウ)検討するに,当該部分は,上記(6)イ(ウ)と同様の理由により,別紙の4(7)に掲げる部分以外の部分については,法5条6号ニに該当し,不開示としたことは妥当であるが,別紙の4(7)に掲げる部分については,同号ニに該当せず,開示すべきである。


ウ 別表の通番9及び通番27の不開示部分について

(ア)当該不開示部分が記載された文書は,上記ア(ア)を踏まえると,令和2年任命に係る意思決定過程における政府内での説明資料であり,当該不開示部分は,説明資料に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,専門分野及び所属・職名であると認められる。


(イ)以下,検討する。

a 当該不開示部分の記載は,それぞれの個人ごとに,その氏名と一体として,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


b 当該不開示部分は,上記(6)エ(イ)b及びcと同様の理由により,法5条1号に該当すると認められるので,同条6号ニについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


(9)文書12について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該文書について確認させたところ,以下のとおり説明する。

当該文書は,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る意思決定過程において,日本学術会議事務局の職員が起案し,日本学術会議会長まで決裁された決裁文書であり,別紙の1(3)イ及びウに該当するものである。

当該文書は,①決裁かがみ(1~3枚目),②日本学術会議会長から総理宛てに提出する令和2年8月31日付けの「日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)」の公文案(4~5枚目),③②の添付資料となる本件推薦書の案(6~12枚目),④決裁の参考資料となる,「日本学術会議法」及び本件内閣府令の関連規定(13枚目),⑤決裁の参考資料となる本件名簿案(14~18枚目),⑥決裁後に内閣府人事課に提出した,同日付け公文及び本件推薦書の写し(②及び③に相当する文書)(19~26枚目)で構成されている。

本件不開示部分である,7枚目,8枚目,11枚目,21枚目,22枚目及び25枚目の不開示部分には,任命されなかった会員候補者の氏名が,15枚目及び17枚目の不開示部分には,任命されなかった会員候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名及び専門分野が,それぞれ記載されている。


イ 別表の通番36ないし通番38の不開示部分について

(ア)当該不開示部分が記載された文書は,その内容及び上記アを踏まえると,決裁文書に含まれた本件推薦書の案及び本件推薦書の写しであり,当該不開示部分は,これらの文書に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名であると認められる。


(イ)以下,検討する。

a 当該不開示部分の記載は,それぞれの個人ごとに,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


b 総理に対する会員候補者の推薦は,その名簿に基づき,最高議決機関である総会の承認を得ることとされている(日本学術会議会則8条3項)から,総会の承認を得た会員候補者を決裁に至る過程において単に変更することは想定されないものと解される上,当該文書(文書12)からも,そのような変更の経緯はうかがわれず,この外にも,本件推薦書の案と本件推薦書の写しとの間で,推薦の対象となる会員候補者が異なるといった事情は認められない。


c そうすると,当該不開示部分(別紙の4(8)に掲げる部分)は,上記(6)ウ(イ)bと同様の理由により,法5条1号及び同条6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきである。


ウ 別表の通番39及び通番40の不開示部分について

(ア)上記アを踏まえると,当該不開示部分は,決裁文書に含まれた本件名簿案に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名及び専門分野であると認められる。


(イ)そうすると,当該不開示部分のうち,別紙の4(9)に掲げる部分は,上記(5)ウ(イ)c及びdと同様の理由により,法5条1号及び同条6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきであり,別紙の4(9)に掲げる部分以外の部分は,同条1号に該当すると認められるので,同条6号ニについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


(10)文書13について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該文書について確認させたところ,以下のとおり説明する。

当該文書は,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る意思決定過程において,日本学術会議事務局が作成した,政府内での説明に用いられた資料であり,別紙の1(3)イに該当するものである。

当該文書は,①「最近の学術会議の動き」(1枚目),②「令和2年10月の日本学術会議会員改選に向けて」(2枚目),③次期会長に関する資料(3枚目),④「歴代会長・副会長一覧」(4枚目),⑤当該説明時点における会員の一覧(5~9枚目)で構成されている。

本件不開示部分である,1枚目の不開示部分には,会員候補者の推薦に係る事務の内容が記載されている。


イ 別表の通番41の不開示部分について

(ア)当該不開示部分は,上記アのとおり,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る意思決定過程における政府内での説明資料に記載された,会員候補者の推薦に係る事務の内容であると認められる。


(イ)当該不開示部分の不開示情報該当性について,当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し更に確認させたところ,以下のとおり説明する。

当該不開示部分は,公にしていない日本学術会議の会員候補者の推薦に係る事務の内容に関する記述であり,これを明らかにすれば,例えば,会員候補者の推薦に際して,誰に対して,どのような資料を用いて説明を行ったかという人事の一連のプロセスが明らかになり,今後の会員候補者の推薦及びそれと同種の推薦(任命権者が総理である内閣府大臣官房の所管人事に係る推薦。以下同じ。)等の手続を行う上で,特定の官職にある者に対して同様の説明を行うことが推測され,当該特定の官職にある者に対する様々な働き掛けを試みる者が,より効果的にこれらを行うことを可能とすることから,その公正・円滑な推薦行為の遂行に支障を生じるおそれがあり,法5条6号ニに該当する。


(ウ)以下,検討する。

当該文書は,会員候補者の推薦に係る意思決定過程(以下「会員推薦過程」という。)における政府内での説明資料であるところ,当該不開示部分の内容及び上記(イ)の諮問庁の説明を踏まえれば,これを公にした場合,例えば,特定の官職にある職員に対して同様の説明が行われる等,今後の会員推薦過程における政府内での手続を憶測され得ることとなると認められる。

一般に,人事に係る意思決定過程における行政内部での具体的な手続は,関係機関内部における事務の配分の状況や,その職員が担うこととされている事務及びその関心事項等,その時点における個別の事情にも応じながら行われるものであり,そのような具体的な手続が公にされるものとはいい難い。

そうすると,今後の会員推薦過程における政府内での具体的な手続についても,例えば,その時点における個別の事情により,特定の官職にある職員が同様の説明を受ける立場にあるとは限られないにもかかわらず,同様の説明が行われる等といった憶測から,当該職員やその関係職員に対して,その憶測される関心事項等に即した働き掛け等がなされ,またそのような者から予期し難い関与を招くこと等により,今後の会員候補者の推薦に関する事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることを否定し難いから,当該不開示部分は,法5条6号ニに該当すると認められ,不開示としたことは妥当である。


(11)文書14について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該文書について確認させたところ,以下のとおり説明する。

当該文書は,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る意思決定過程において,日本学術会議事務局が作成した,政府内での説明に用いられた資料であり,別紙の1(3)イに該当するものである。

当該文書は,①「日本学術会議25期改選の方向性について」及び参考資料(1~2枚目),②「改選時における分野別の改選数について」(3枚目),③各部の会員候補者(案)の一覧(4~8枚目),④「選考委員会枠 会員候補者リスト」(9枚目),⑤「会員の地域別分布表(全体版)」(10枚目)及び⑥会員候補者に係る略歴(11~121枚目)で構成されている。

なお,略歴は,日本学術会議における会員候補者の選考過程で,会員候補者自身が関係資料に記載した内容を,日本学術会議事務局において,1名につき1枚の様式に転記して作成したものである。

本件不開示部分である,1枚目の不開示部分のうち,右上の記載部分には,会員候補者の推薦に係る事務の内容が,4枚目及び5枚目の不開示部分には,任命されなかった会員候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,勤務先都道府県,地区会議,現職名,専門分野及び日本学術会議での現職/非現職が,それぞれ記載されている。また,11枚目ないし121枚目の不開示部分のうち,任命されなかった候補者に係るもの(13枚目,23枚目,31枚目,32枚目,34枚目及び38枚目)については,氏名,ふりがな,日本学術会議連携会員歴,現職,年齢,生年月日,研究内容,学歴,職歴及び所属学会が記載されている。


イ 別表の通番43の不開示部分について

(ア)当該不開示部分は,上記アのとおり,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る意思決定過程における政府内での説明資料に記載された,会員候補者の推薦に係る事務の内容であると認められる。


(イ)当該不開示部分の不開示情報該当性について,当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し更に確認させたところ,上記(10)イ(イ)のとおり説明する。


(ウ)検討するに,当該部分は,上記(10)イ(ウ)と同様の理由により,法5条6号ニに該当すると認められ,不開示としたことは妥当である。


ウ 別表の通番50及び通番51の不開示部分について

(ア)当該不開示部分が記載された文書は,その内容及び上記アを踏まえると,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る意思決定過程における政府内での説明資料に含まれた,会員候補者に係る略歴であり,当該不開示部分は,略歴に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,ふりがな,日本学術会議連携会員歴,現職,年齢,生年月日,研究内容,学歴,職歴及び所属学会であると認められる。


(イ)当該不開示部分の不開示情報該当性について,当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し更に確認させたところ,以下のとおり説明する。

a 当該部分を明らかにすると,「第一部会員候補者(案)」と題する文書中の小見出し部分に記載された専門分野ごとに五十音順に並んでいる前後の会員候補者の氏名やその他の情報から,同様に個人が特定される可能性がある。このため,法5条1号に該当するものと考える。


b さらに,当該部分を明らかにすると,今後の同種の人事において,会員として任命に至らない場合においても事後に開示請求への対応等により氏名が推察される可能性が生じ,任命されなかった会員候補者は任命されなかった理由を種々類推されるなどし,非常に煩わされることが容易に想像できることから,当該可能性があることを忌避して,候補者となることを辞退する者が現れたり,候補者又はその他の者が当該候補者の情報を日本学術会議又は任命権者に提供することをちゅうちょしたりすることが予想され,その結果,会員候補者の推薦及び会員の任命事務において多大なる支障が生じるおそれが極めて高いことから,法5条6号ニに該当すると考える。


(ウ)以下,検討する。

a 当該不開示部分の記載は,それぞれの個人ごとに,その氏名と一体として,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


b 次に,法5条1号ただし書該当性について検討する。

(a)当審査会において,日本学術会議ウェブサイトに掲載された,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に関する資料を確認したところ,略歴の作成過程に係る上記アの諮問庁の説明に不自然,不合理な点は認められない。

そうすると,略歴は,実質的に,第25-26期会員という特定の国家公務員の職への推薦等に向けた人事上の手続のために,各個人が自ら作成した履歴書に相当する文書であると認められる。


(b)そして,そのような性質の文書に記載された,任命されなかった会員候補者の個人情報は,通常,広く一般に公表されるべき性質を有するものとは認められず,当該不開示部分は,法5条1号ただし書イに該当するとは認められない。

この点,審査請求人は,上記第2の2(3)イ(イ)cにおいて,経歴等の情報は,各個人の所属機関のウェブサイト等で公表されている旨主張するが,そのような公表情報は,各個人から公表を前提に提供された情報を公表している性格のものであるといえる一方,上記(a)のような性質の文書は,公表を前提に作成されたものとはいえない上,そのような公表情報とは,項目,範囲及び表記等において異なる点も散見され,文書・情報の性質が異なるものであるから,当該主張は採用できない。


(c)また,当該部分は,上記(5)ウ(イ)dと同様の理由により,法5条1号ただし書ロ及びハに該当するとは認められない。


c さらに,当該不開示部分は個人識別部分であることから,法6条2項の部分開示の余地はない。


d したがって,当該不開示部分は法5条1号に該当すると認められるので,同条6号ニについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


エ 別表の通番45及び通番46の不開示部分について

(ア)当該不開示部分が記載された文書は,その内容及び上記アを踏まえると,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る意思決定過程における政府内での説明資料に含まれた,第一部会員候補者の案を整理した文書であり,当該不開示部分は,当該文書に記載された,任命されなかった会員候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,勤務先都道府県,地区会議,現職名,専門分野及び日本学術会議での現職/非現職であると認められる。


(イ)当該不開示部分の不開示情報該当性について,当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し更に確認させたところ,以下のとおり説明する。

a 当該部分を明らかにすると,小見出し部分に記載された専門分野ごとに五十音順に並んでいる前後の会員候補者の氏名やその他の情報から総合的に推察することにより,個人が特定される可能性があるため,法5条1号に該当するものと考える。


b さらに,当該部分を明らかにすると,上記ウ(イ)bと同様の理由により,法5条6号ニに該当すると考える。


(ウ)以下,検討する。

a 当該不開示部分の記載は,それぞれの個人ごとに,その氏名と一体として,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


b 当該不開示部分のうち,「性別」欄の記載について

当該不開示部分が記載された文書の作成当時における履歴書の様式例その他の社会的慣行も併せ鑑みれば,不開示とされている「性別」欄の情報は,いずれも,当該文書中の小見出し部分に記載された「候補者数○名(うち女性○名)」との情報や既に開示されている同欄の情報からおのずと明らかであると認められる。

したがって,「性別」欄の不開示部分(別紙の4(10)アに掲げる部分)は,法5条1号ただし書イに該当し,同条1号及び6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきである。


c 当該不開示部分のうち,「専門分野30分野1」欄の記載について

(a)上記(2)アによれば,専門分野の情報は,日本学術会議に置かれている分野別委員会の30区分の専門分野をいうところ,「第一部会員候補者(案)」と題する文書中の個人の専門分野の不開示部分について,諮問庁は上記(3)イ(エ)のとおり説明する。


(b)当審査会において,略歴の1枚目ないし38枚目を確認したところ,諮問庁の上記ウ(イ)aの説明のとおり,「第一部会員候補者(案)」と題する文書中の小見出し部分に記載された専門分野ごとに五十音順に並んでいることが認められる。

そうすると,「第一部会員候補者(案)」と題する文書中の候補者の記載順は,略歴の1枚目ないし38枚目どおりの順番であるところ,不開示とされた候補者に対応する順番の略歴において,それぞれ1つずつ記載された専門分野の情報が開示されており,かつ,その内容は,小見出し部分で開示されている専門分野と同一内容であることが認められる。

また,既開示部分から,「第一部会員候補者(案)」,「第二部会員候補者(案)」及び「第三部会員候補者(案)」と題する各文書を通じて,「専門分野30分野1」欄に記載がなされている個人の専門分野の情報は,いずれも当該個人が属する小見出し部分に記載された専門分野と同一であり,当該文書がそのような方針で整理されていることが明らかである。


(c)したがって,「専門分野30分野1」欄の不開示部分(別紙の4(10)イに掲げる部分)は,当該個人が属する小見出し部分に記載された専門分野及び対応する略歴において開示されている専門分野の記載から明らかであるから,法5条1号ただし書イに該当し,同条1号及び6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきである。


d 当該不開示部分のうち,上記b及びc以外の部分について

(a)当該不開示部分が記載された,「第一部会員候補者(案)」と題する文書は,文書14の名称及び上記ウ(ア)を踏まえると,会員候補者の選考・推薦という個別の人事の意思決定過程の途中段階における行政内部での説明資料であると認められる。

このような文書に記載された情報は,最高議決機関である総会の承認の結果や,その後の決裁手続を経た意思決定の結果と同視できるものであるということはできず,また,日本学術会議による会員候補者の推薦の前提たる性格を有するものであるということもできない。


(b)そして,そのような文書に記載された上記b及びc以外の部分の情報は,上記(6)エ(イ)cと同様の理由により,法5条1号ただし書イないしハに該当するとは認められない。

さらに,上記b及びcのとおり,個人識別部分を開示することから,法6条2項の部分開示の余地はない。


(c)したがって,当該不開示部分のうち,上記b及びc以外の部分(別紙の4(10)に掲げる部分以外の部分)については,法5条1号に該当し,同条6号ニについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


(12)文書15について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該文書について確認させたところ,以下のとおり説明する。

当該文書は,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る意思決定過程において,任命権者側から日本学術会議事務局に,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る事項として伝達された内容を記録したものであり,別紙の1(3)イに該当するものである。なお,任命権者側とは,総理及びその下で会員の任命に係る業務に携わっていた者全てが該当し得るが,具体的な者が分かる記録はない。また,当該文書に記載された内容以外に説明があったか否かが分かる記録はない。

当該文書(1枚)の開示部分には,「R2.6.12」と記載され,不開示部分には,会員候補者の推薦に係る事務の内容が記載されている。


イ 別表の通番53の不開示部分について

(ア)当該不開示部分は,上記アのとおり,令和2年任命に向けた会員候補者の推薦に係る意思決定過程における情報であると認められる。


(イ)開示決定通知書の記載によれば,当該不開示部分の不開示理由(同通知書の3(3))は,「人事に係る事務の内容についての記載については,これを公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法第5条第6号ニに該当するため不開示とした。」とされていると認められる。

当該不開示部分の不開示理由を上記のとおりとした理由及び不開示情報該当性について,当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し更に確認させたところ,以下のとおり説明する。

当該部分を明らかにすれば,会員に任命された者であれ任命されなかった会員候補者であれ,氏名が公になることで,推薦の過程で何らか取り沙汰された者であると推察されるおそれが非常に高い。今後の会員候補者及びそれと同種の推薦等の手続を行う上で,同種の資料が作成された場合,同様に事後に開示請求への対応等により氏名が公になる可能性が生じるが,氏名が公になった場合には,やはり推薦の過程で何らか取り沙汰された者と推察されるおそれが非常に高く,会員に任命された者は取り沙汰された理由を,任命されなかった会員候補者は任命されなかった理由を種々類推されるなどし,非常に煩わされることが容易に想像できるため,当該可能性があることを忌避して,候補者となることを辞退する者が現れたり,候補者又はその他の者が候補者の情報を日本学術会議へ提供することをちゅうちょしたりすることが予想されることから,その公正・円滑な推薦行為の遂行に支障を生じるおそれがあり,法5条6号ニに該当するとしたものである。


(ウ)以下,検討する。

a 当該不開示部分を開示すると,諮問庁の上記(イ)の説明のとおり,会員に任命された者及び任命されなかった会員候補者のそれぞれの氏名が公になるものと認められる。

諮問庁の上記ア及びイ(イ)の説明及び当該文書の記載からは,当該不開示部分に記載された各個人が,当該文書のとおり個別に取り上げられて伝達された趣旨等が明確であるとはいえないものの,当該各個人が会員候補者の推薦の過程で何らか取り沙汰された者であると推察されるとする諮問庁の説明は,否定し難い。


b 当該不開示部分が記載された文書15は,その名称及び上記アの諮問庁の説明等を踏まえると,会員候補者の選考・推薦という個別の人事の意思決定過程の途中段階における行政内部の資料であると認められる。

このような文書に記載された情報は,最高議決機関である総会の承認の結果や,その後の決裁手続を経た意思決定の結果と同視できるものであるということはできず,また,日本学術会議による会員候補者の推薦の前提たる性格を有するものであるということもできない。

そして,当該意思決定過程の途中段階において,上記aのとおり,多数の候補者のうちから当該部分に記載された各個人が個別に取り上げられたことは,当該各個人が,結果的に,会員候補者として推薦され会員に任命されたか否かにかかわらず,何らかの留意を要する者等として取り扱われたという,人事上の関心事項の存在をうかがわせるものであるといえる。

そうすると,当該不開示部分を公にした場合,当該部分に記載された各個人同士又は他の候補者との比較等を通じて,公にされていない,会員候補者の選考・推薦の過程における関心事項や判断等に関する種々の憶測又は誤解を招くこと等により,そうした憶測・誤解等に基づき,日本学術会議における今後の会員候補者の選考・推薦の過程において,候補者となることへの忌避や不当な働き掛けが生じるなど,人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるものと認められる。


c したがって,当該不開示部分は法5条6号ニに該当し,不開示としたことは妥当である。


3 審査請求人のその他の主張について

(1)審査請求人は,上記第2の2(2)ア(エ)d及びエ(エ)fにおいて,原処分における理由の提示に不備がある旨主張するため,以下,検討する。

ア 原処分において,本件対象文書の一部については,複数の不開示理由が提示されているが,これらの不開示部分のうちいずれの部分がそれぞれの不開示理由に該当するのか特定されておらず,各不開示理由と不開示とされた部分との対応関係が必ずしも明らかではなく,求められる理由の提示として十分とはいえない。

行政手続法8条1項の趣旨を踏まえると,特定の行政文書について不開示理由が複数ある場合には,当該行政文書の種類,性質等とあいまって開示請求者がいずれの部分がそれぞれの不開示理由に対応しているのか当然知り得るような場合を除き,いずれの部分がそれぞれの不開示理由に該当するのか特定されなければならない。

したがって,原処分における理由付記は,原処分を取り消すべき瑕疵があるとまでは認められないものの,行政手続法8条1項の趣旨に照らし,適切さを欠くものといわざるを得ず,処分庁は,今後の対応において,上記の点につき留意すべきである。


イ 開示決定等における不開示部分とその示し方については,本来,開示実施文書と照合せずとも,原処分の開示決定通知書において提示された理由の記載から,不開示部分とその不開示の理由が明確であることが望ましい。

原処分に係る各開示決定通知書の「3 不開示とした部分及びその理由」欄の記載のうち,別表の通番1,通番6,通番8,通番19,通番24,通番26,通番41,通番43及び通番53に掲げる各不開示部分に係るものは,法5条6号ニの規定をそのまま引用したに等しい内容にとどまっており,当該記載のみでは,これらの部分に記載されている情報や当該部分を不開示とした具体的な理由が,明確に示されているとはいえない。

上記のような記載の方法は,開示請求者が開示実施文書を入手し,行政文書名,開示された部分及び不開示部分の体裁等を検討することによって,ようやく不開示の理由を推測できる程度のものであって,本件においては,原処分を取り消すべき瑕疵があるとまでは認められないものの,理由提示を必要とする行政手続法8条1項の趣旨に照らし,適切さを欠くものである。

また,文書14に係る不開示部分及び理由の提示について,諮問庁は,上記2(3)ア及びイ(ア)ないし(ウ)のとおり説明するが,原処分3に係る開示決定通知書の記載のみでは,そのような事情は把握し難く,かつ,不開示部分及びその理由が明確に示されているとはいえないから,この点についても,適切さを欠くものである。

処分庁においては,今後の開示請求への対応に当たり,上記の点について留意すべきである。


(2)審査請求人は,上記第2の2(1)ア及び(6)オ等において,法7条に基づく裁量的開示を求めているものとも解されるが,上記2において,不開示としたことは妥当であると判断した部分は,法5条1号及び6号ニの不開示情報に該当するものであり,これを開示することに,これを開示しないことにより保護される利益を上回る公益上の必要性があるとまでは認められないことから,法7条による裁量的開示を行わなかった処分庁の判断に裁量権の逸脱又は濫用があるとは認められない。


(3)審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 付言

文書12に係る不開示部分及びその理由について,原処分3に係る開示決定通知書においては,別表の通番35の「不開示理由」欄に記載のとおり,課長補佐相当職以下の職員の印影を不開示とした旨記載されている。

当審査会において文書12を見分したところ,当該印影の存在が認められないことから,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,当該印影はなく,開示決定通知書の記載は誤記であるとのことである。

以上を踏まえれば,原処分3において,処分庁2による慎重さに欠ける不適切な対応があったといわざるを得ず,今後,処分庁2においては,開示決定に当たって,同様の事態を生じさせないよう,正確かつ慎重な対応が望まれる。


5 本件各一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号並びに6号柱書き及びニに該当するとして不開示とした各決定については,審査請求人が開示すべきとする部分のうち,別紙の4に掲げる部分を除く部分は,同条1号及び6号ニに該当すると認められるので,不開示としたことは妥当であるが,別紙の4に掲げる部分は,同条1号及び6号ニのいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。


(第4部会)

委員 小林昭彦,委員 常岡孝好,委員 野田 崇





別紙


1 本件請求文書

(1)原処分1

2020年の日本学術会議会員の任命に関する以下のアないしエ記載の文書

ア 杉田和博官房副長官ないし内閣官房職員と内閣府との間におけるやりとりを記録した文書

イ 2020年12月11日開催の参議院予算委員会理事懇談会において提出された文書

ウ 日本学術会議が推薦した会員候補者105名の任命に関して内閣総理大臣に提出ないし発出した文書

エ その他一切の文書

(2)原処分2

2020年に日本学術会議が推薦した会員候補者のうち,内閣総理大臣が任命しなかった者がわかる一切の文書

(3)原処分3

2020年の日本学術会議会員の任命に関する以下のアないしエ記載の文書

ア 杉田和博官房副長官ないし内閣官房職員と内閣府との間におけるやりとりを記録した文書

イ 2020年12月11日開催の参議院予算委員会理事懇談会において提出された文書

ウ 日本学術会議が推薦した会員候補者105名の任命に関して内閣総理大臣に提出ないし発出した文書

エ その他一切の文書


2 本件対象文書

(1)原処分1

文書1 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①

文書2 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料②

文書3 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料③

文書4 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における伝達記録

文書5 日本学術会議会員の任命について(文書番号:府人第1181号)

文書6 承諾書

(2)原処分2

文書7 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料①

文書8 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料②

文書9 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における説明資料③

文書10 令和2年10月1日付の任命に係る意思決定過程における伝達記録

文書11 日本学術会議会員の任命について(文書番号:府人第1181号)

(3)原処分3

文書12 日本学術会議会員候補者の推薦について(進達)(府日学第1243号)

文書13 令和2年4月2日 令和2年10月の会員改選に係る意思決定過程における資料①

文書14 令和2年6月1日 令和2年10月の会員改選に係る意思決定過程における資料②

文書15 令和2年6月12日 令和2年10月の会員改選に係る意思決定過程における資料③


3 審査請求人が開示すべきとする部分(本件不開示部分)

別表の通番1ないし通番10,通番12ないし通番16,通番19ないし通番28,通番30ないし通番34,通番36ないし通番41,通番43,通番45,通番46,通番50,通番51及び通番53の不開示部分


4 開示すべき部分

(1)別表の通番10及び通番28の不開示部分の全て

(2)別表の通番12ないし通番14及び通番30ないし通番32の不開示部分の全て

(3)別表の通番15及び通番16並びに通番33及び通番34の不開示部分のうち,「氏名」欄,「ふりがな」欄,「性別」欄,「所属・職名」欄及び「専門分野」欄の記載の全て

(4)別表の通番1及び通番19の不開示部分のうち,7文字目から12文字目までの部分

(5)別表の通番2ないし通番4及び通番20ないし通番22の不開示部分の全て

(6)別表の通番6及び通番24の不開示部分のうち,7文字目から12文字目までの部分

(7)別表の通番8及び通番26の不開示部分のうち,8文字目から13文字目までの部分

(8)別表の通番36ないし通番38の不開示部分の全て

(9)別表の通番39及び通番40の不開示部分のうち,「氏名」欄,「ふりがな」欄,「性別」欄,「所属・職名」欄及び「専門分野」欄の記載の全て

(10)別表の通番45及び通番46の不開示部分のうち,以下に掲げる部分

ア 「性別」欄の記載の全て

イ 「専門分野30分野1」欄の記載の全て

(注)文字数の数え方については,記号も1文字と数え,空白部分を数えない。



別表 原処分において不開示とした部分及び理由


(1)文書1

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

右上の記載部分

人事に係る事務の内容についての記載については,これを公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するため不開示とした。(以下「不開示理由①」という。)

1行目,10行目及び17行目

任命されなかった候補者の氏名,専門分野及び所属・職名に関する記載については,特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当するとともに,こうした情報を公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するため不開示とした。(以下「不開示理由②」という。)

5行目及び7行目

不開示理由②

11行目

不開示理由②

18

全て

不開示理由②


(2)文書2

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

右上の記載部分

不開示理由①

本文の全て

不開示理由②


(3)文書3

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

右上の記載部分

不開示理由①

10

全て

不開示理由②


(4)文書4

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

10

手書き部分の下の全て

不開示理由②


(5)文書5

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

11

起案者欄に記載の内線番号

内線番号は,業務上必要な関係者以外には知られていない非公表の情報であり,これを公にすると,本来の目的以外に使用されるなどして当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号柱書きに該当するため不開示とした。(以下「不開示理由③」という。)

12

1行目,10行目及び17行目

「日本学術会議会員候補者推薦書」及び「第25-26期 会員候補者名簿(案)」に記載された,任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,所属・職名,及び専門分野については,特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当するとともに,こうした情報を公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するため不開示とした。(以下「不開示理由④」という。)

13

5行目及び7行目

不開示理由④

14

12

11行目

不開示理由④

15

15

表の1行目,10行目,17行目,23行目及び25行目

不開示理由④

16

17

表の26行目

不開示理由④

(注)表中の行の数え方については,表頭部分は数えない。


(6)文書6

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

17

1ないし3,5ないし66及び68ないし99

自筆の日付及び氏名

住所,自筆の日付及び氏名,印影は特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当するため不開示とした。

18

1ないし99

住所及び印影

同上


(7)文書7

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

19

右上の記載部分

不開示理由①

20

1行目,10行目及び17行目

不開示理由②

21

5行目及び7行目

不開示理由②

22

11行目

不開示理由②

23

18

全て

不開示理由②


(8)文書8

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

24

右上の記載部分

不開示理由①

25

本文の全て

不開示理由②


(9)文書9

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

26

右上の記載部分

不開示理由①

27

10

全て

不開示理由②


(10)文書10

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

28

手書き部分の下の全て

不開示理由②


(11)文書11

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

29

起案者欄に記載の内線番号

不開示理由③

30

1行目,10行目及び17行目

不開示理由④

31

5行目及び7行目

不開示理由④

32

12

11行目

不開示理由④

33

15

表の1行目,10行目,17行目,23行目及び25行目

不開示理由④

34

17

表の26行目

不開示理由④

(注)表中の行の数え方については,表頭部分は数えない。


(12)文書12

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

35

1及び2

課長補佐相当職以下の職員の氏名及び印影

課長補佐相当職以下の職員の氏名及び印影については,公にすることにより,外部から当該職員へ問合せや指摘などが行われ,当該職員の現在従事する国の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号柱書きに該当するため不開示とした。

36

7及び21

1行目,10行目及び17行目

不開示理由④

37

8及び22

5行目及び7行目

不開示理由④

38

11及び25

11行目

不開示理由④

39

15

表の1行目,10行目,17行目,23行目及び25行目

不開示理由④

40

17

表の26行目

不開示理由④

(注)表中の行の数え方については,表頭部分は数えない。


(13)文書13

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

41

右上の記載部分

不開示理由①

42

点線以下の記載部分

次期会長に関する資料に記載された現会員の氏名,生年月日,年齢,主要経歴,専門分野,出身県,所属部については,特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当するとともに,こうした情報を公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するため不開示とした。


(14)文書14

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

43

右上の記載部分

不開示理由①

44

次期会長に関する記載部分

次期会長に関する記述については,特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当するとともに,こうした情報を公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するため不開示とした。

45

表の3行目,13行目,21行目及び22行目並びに24行目

任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,勤務先都道府県,地区会議,現職名,専門分野,日本学術会議での現職/非現職については,特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当するとともに,こうした情報を公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するため不開示とした。

46

表の1行目

同上

47

選考理由欄の記載部分

会員候補者の選考理由については,これを公にすることにより,日本学術会議における会員候補者の選考及び推薦に関する事務等の円滑な遂行に支障を及ぼすおそれがあること等から,法5条6号柱書き及び同号ニに該当するため不開示とした。

48

通番47の部分を除く不開示部分

推薦されなかった候補者の氏名,ふりがな,性別,年齢,連携会員・特任歴,地区会議,専門分野,現職名については,特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当するとともに,こうした情報を公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するため不開示とした。

49

11及び12,14ないし22,24ないし30,33,35ないし37並びに39ないし115

任命された者の生年月日,専門分野(公にされている情報は除く。),研究内容,学歴,職歴及び所属学会

推薦された者の「略歴」に記載された,生年月日,専門分野(公にされている情報は除く。),研究内容,学歴,職歴,所属学会については,特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当するため不開示とした。

50

13,23,31及び32,34並びに38

任命されなかった候補者の生年月日,専門分野(公にされている情報は除く。),研究内容,学歴,職歴及び所属学会

同上

51

同上

任命されなかった候補者の氏名,ふりがな,日本学術会議連携会員歴,現職,年齢,生年月日,専門分野(公にされている情報は除く。),研究内容,学歴,職歴及び所属学会

推薦されなかった候補者及び任命されなかった候補者の「略歴」に記載された,氏名,ふりがな,日本学術会議連携会員歴,現職,年齢,生年月日,専門分野(公にされている情報は除く。),研究内容,学歴,職歴,所属学会については,特定の個人を識別することができる情報であることから,法5条1号に該当するとともに,こうした情報を公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号ニに該当するため不開示とした。

52

116ないし121

推薦されなかった候補者の氏名,ふりがな,日本学術会議連携会員歴,現職,年齢,生年月日,専門分野(公にされている情報は除く。),研究内容,学歴,職歴及び所属学会

同上

(注)表中の行の数え方については,表頭部分及び小見出し部分は数えない。


(15)文書15

通番

枚目

不開示部分

不開示理由

53

本文の全て

不開示理由①