諮問庁 厚生労働大臣
諮問日 令和 4年 8月29日(令和4年(行情)諮問第500号)
答申日 令和 5年 7月 6日(令和5年度(行情)答申第179号)
事件名 特定事業所に係る最新の産業医選任報告の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「特定株式会社特定事業所から特定労働基準監督署へ提出された産業医選任報告の最新版のもの」(以下「本件対象文書」という。)につき,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分については,別表の3欄に掲げる部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

 1 審査請求の趣旨

本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和4年5月12日付け静労開(決)第4-5号により静岡労働局長(以下「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。


 2 審査請求の理由

   審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書によると,おおむね以下のとおりである。

 (1)令和4年特定月日,静岡労働局から行政文書の開示を受けたが,黒塗りが多く,知りたい情報が得られなかったから。


(2)私自身,特定株式会社特定工場の特定部に在籍しており,所属する会社情報は既知であり,審査請求内容は会社の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがなく,下記(3)については黒塗りにする必要がないと思われるから。


(3)特に開示して頂きたい内容は,下記の通りです。

被選任者氏名,選任年月日,前任者氏名及び辞任,解任の年月日


第3  諮問庁の説明の要旨

   諮問庁の説明は,理由説明書によると,おおむね以下のとおりである。

 1 本件審査請求の経緯

 (1)審査請求人は,令和4年4月28日付け(同日受付)で処分庁に対し,法の規定に基づき,「特定株式会社特定事業所から特定労働基準監督署へ提出された産業医選任報告の最新版のもの」の開示請求を行った。


 (2)これに対して,処分庁が部分開示の原処分を行ったところ,審査請求人はこれを不服として,令和4年5月26日付け(同月30日受付)で本件審査請求を提起したものである。


 2 諮問庁としての考え方

   本件審査請求については,原処分において不開示とした部分のうち,一部については新たに開示し,その余の部分については,不開示情報の適用条項を改めた上で,不開示を維持することが妥当である。


 3 理由

 (1)本件対象行政文書の特定について

    本件対象行政文書は,「産業医選任報告」(以下「文書1」という。)並びにこれに添付された「医師免許」(以下「文書2」という。)及び「研修修了証」(以下「文書3」という。)である。


 (2)文書1ないし文書3の記載事項について

    事業者は,労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)100条1項(労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)13条)に基づき,産業医を選任したときは,遅滞なく,報告書を所轄労働基準監督署に提出することが義務づけられている。

    文書1には,①労働保険番号,②事業場の名称,③事業場の所在地,④事業の種類,⑤坑内労働又は有害業務に従事する労働者数,⑥坑内労働又は労働基準法施行規則18条1号,3号から5号まで若しくは9号に掲げる業務に従事する労働者数,⑦電話番号,⑧労働者数,⑨被選任者氏名及びフリガナ,⑩選任年月日,⑪生年月日,⑫選任種別,⑬安全管理者又は衛生管理者の場合は担当すべき業務,⑭専属の別,⑮他の事業場に勤務している場合は,その勤務先,⑯専任の別,⑰他の業務を兼職している場合は,その業務,⑱総括安全衛生管理者又は安全管理者の場合は経歴の概要,⑲産業医の場合は医籍番号等,⑳前任者氏名及びフリガナ,㉑辞任,解任等の年月日,㉒参考事項,㉓日付及び㉔事業者職氏名が記載されている。

    文書2には,①免許証名,②都道府県名,③氏名,④生年月日,⑤本文1,⑥発行日,⑦免許権者の職名,⑧免許権者の署名・印,⑨本文2,⑩授与者の職名,⑪授与者の署名・印及び⑫原本確認印が記載されている。

文書3には,①修了証のタイトル,②氏名,③本文1,④認定有効期間,⑤認定者の職名,⑥認定者の署名・印,⑦本文2,⑧授与者の職名・印及び⑨本文3が記載されている。


(3)不開示情報該当性について

   ア 法5条1号該当性について

     文書1の⑨,⑩,⑪,⑭,⑮,⑲,⑳,㉑及び㉓,文書2の②,③,④,⑤の1行目1文字目ないし11文字目,⑥,⑧,⑨の1行目5文字目ないし2行目8文字目及び⑪の署名部分並びに文書3の②,④の7文字目ないし最終文字,⑥及び⑦の1行目5文字目ないし22文字目については,個人の氏名,生年月日など,特定の個人を識別することができる情報若しくは特定個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある情報が記載されている。

これらの情報は法5条1号本文に該当し,かつ,同号ただし書きイないしハのいずれにも該当しないことため,不開示を維持することが妥当である。


   イ 法5条2号イ該当性について

     文書1の⑧及び㉔印影部分並びに文書3の⑥の印影部分及び⑧の印影部分については,法人の労働者数及び法人の印影が記載されている。労働者数は法人の内部管理情報であること,印影は,書類の真正を示す認証的な機能を有する性質のものであるから,これが開示された場合には,偽造等により悪用されるおそれがあることから,当該法人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イに該当するため,不開示を維持することが妥当である。


(4)新たに開示する部分について

   原処分で不開示とした部分のうち,文書2の⑦,⑧の印影部分(下線部は当審査会で誤記を訂正),⑨(上記(3)アの不開示部分を除く),⑩,⑪の印影部分及び⑫並びに文書3の④の1文字目ないし6文字目,(下線部は当審査会で誤記を訂正)及び⑦(上記(3)アの不開示部分を除く)については,法5条各号に掲げる不開示情報に該当しないことから,新たに開示することとする。


 (5)審査請求人の主張について

    審査請求人は,審査請求書の中で,「審査請求人自身が特定株式会社特定工場の特定部に在籍しており,所属する会社情報は既知であり,審査請求内容は会社の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがないため,被選任者氏名,選任年月日,前任者氏名及び辞任,解任の年月日は黒塗りの必要がない」旨述べているが,不開示情報該当性については,上記(3)のとおりであることから,審査請求人の主張は原処分の結論に影響を及ぼすものではない。


 4 結論

   以上のとおり,本件審査請求については,原処分において不開示とした部分のうち,上記3(4)に掲げる部分を新たに開示し,その余の部分については,不開示情報の適用条項について,「法5条1号,2号イ及び6号イ」から「法5条1号及び2号イ」に改めた上で,不開示を維持することが妥当である。

(別紙略)


第4  調査審議の経過

   当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和4年8月29日  諮問の受理

② 同日         諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年9月21日    審議

④ 令和5年6月19日  本件対象文書の見分及び審議

⑤ 同月29日      審議


第5  審査会の判断の理由

 1 本件開示請求について

   本件開示請求に対し,処分庁は,本件対象文書の一部について,法5条1号,2号イ及び6号イに該当するとして,不開示とする原処分を行ったところ,審査請求人は原処分の取消しを求めている。

   これに対し,諮問庁は,諮問に当たり,原処分における不開示部分の一部を新たに開示することとするが,その余の部分については,同条1号及び2号イに該当し,不開示とすることが妥当としていることから,以下,本件対象文書を見分した結果を踏まえ,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分の不開示情報該当性について検討する。


 2 不開示情報該当性について

(1)開示すべき部分(別表の3欄に掲げる部分)について

通番10は,文書1(産業医選任報告)に記載された,特定事業場が所轄労働基準監督署に当該文書を提出した日付であって,個人に関する情報とはいえない。

したがって,当該部分は,法5条1号に該当せず,開示すべきである。


 (2)その余の部分(別表の3欄に掲げる部分を除く部分)について

ア 文書1(産業医選任報告)

当該文書は,特定事業場が所轄労働基準監督署に提出した産業医選任報告である。

(ア)通番2ないし通番9

当該文書の「被選任者氏名及びフリガナ」,「選任年月日」,「生年月日」,「専属の別」,「他の事業場に勤務している場合は,その勤務先」,「産業医の場合は医籍番号等」,「前任者氏名及びフリガナ」及び「辞任,解任等の年月日」の各欄の記載内容は,それぞれ一体として,産業医の被選任者又は前任者についての法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当し,同号ただし書イないしハのいずれにも該当する事情は認められない。

次に,法6条2項による部分開示について検討すると,「被選任者氏名及びフリガナ」,「生年月日」,「専属の別」,「他の事業場に勤務している場合は,その勤務先」,「産業医の場合は医籍番号等」及び「前任者氏名及びフリガナ」は,個人識別部分に該当すると認められるので,同項による部分開示の余地はない。

したがって,当該部分は,法5条1号に該当し,不開示とすることが妥当である。


(イ)通番1

当該文書の「労働者数」欄の記載内容は,特定事業場の安全衛生管理体制に係る内部情報であり,これらを公にすると,当該事業場の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。

したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,不開示とすることが妥当である。


(ウ)通番11

当該部分は,当該文書に押印された特定事業場の印影であり,当該文書が真正に作成されたことを示す認証的機能を有するものとして,それにふさわしい形状をしているものと認められ,これを開示すると,当該事業場の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。

したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,不開示とすることが妥当である。


  イ 文書2(医師免許)

当該文書は,特定産業医の医師免許証の写しであり,産業医選任報告の添付書面である。

不開示とされた部分は,全体として,特定産業医に関する法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当し,同号ただし書イないしハのいずれにも該当する事情は認められない。

次に,法6条2項による部分開示について検討すると,本籍地,氏名,生年月日及び医籍番号は,個人識別部分に該当すると認められるので,同項による部分開示の余地はない。

また,当該文書に記載された医師国家試験の施行年及び回数,医師免許証の交付年月日並びにこれらを推測させ得る免許権者及び授与者の署名は,特定産業医の医師の履歴の一部を成すものであり,当該産業医の一般的に他人に知られたくない情報であることから,これらを公にすると,医療関係者等一定範囲の者には産業医である特定個人が特定される可能性があり,これらの者に当該情報が明らかとなって,当該産業医の権利利益を害するおそれがあると認められ,部分開示できない。

したがって,当該部分は,法5条1号に該当し,不開示とすることが妥当である。


  ウ 文書3(研修修了証)

当該文書は,特定産業医に係る労働安全衛生規則14条2項1号に規定された研修の修了証の写しであり,産業医選任報告の添付書面である。

(ア)通番20ないし通番22及び通番24

当該部分は,全体として,特定産業医に関する法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当し,同号ただし書イないしハのいずれにも該当する事情は認められない。

次に,法6条2項による部分開示について検討すると,氏名及び登録番号は,個人識別部分に該当すると認められるので,同項による部分開示の余地はない。

また,当該文書に記載された認定有効期間,認定者の署名及び登録年月日は,特定産業医の履歴の一部を成すものであり,当該産業医の一般的に他人に知られたくない情報であることから,これを公にすると,医療関係者等一定範囲の者には産業医である特定個人が特定される可能性があり,これらの者に当該情報が明らかとなって,当該産業医の権利利益を害するおそれがあると認められ,部分開示できない。

したがって,当該部分は,法5条1号に該当し,不開示とすることが妥当である。


(イ)通番23及び通番25

当該部分は,当該文書に押印された認定者及び授与者の印影である。

したがって,当該部分は,上記ア(ウ)と同様の理由により,法5条2号イに該当し,不開示とすることが妥当である。


3 審査請求人のその他の主張について

(1)審査請求人は,特定事業場の従業員であるため,所属する会社情報は既知であり,特定産業医の氏名等は不開示とする必要はない旨主張するが,法の定めた開示請求権制度は,何人に対しても,請求の目的の如何を問わず開示請求を認める制度であり,開示・不開示の判断に当たっては,開示請求者が誰であるか等の個別の事情は考慮されず,開示請求者が誰であっても同じ開示・不開示の判断がなされるものである。

法においては,審査請求人にとって既知の情報であるといった個別の事情は考慮されず,当該情報は,上記2(2)に述べるとおり不開示情報に該当するため,審査請求人の主張を採用することはできない。


(2)審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件一部開示決定の妥当性について

   以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号,2号イ及び6号イに該当するとして不開示とした決定については,諮問庁が同条1号及び2号イに該当するとしてなお不開示とすべきとしている部分のうち,別表の3欄に掲げる部分を除く部分は,同条1号及び2号イに該当すると認められるので,不開示とすることが妥当であるが,同欄に掲げる部分は,同条1号に該当せず,開示すべきであると判断した。


(第3部会)

  委員 長屋 聡,委員 久末弥生,委員 葭葉裕子





別表 不開示情報該当性

1 文書番号,文書名

2 原処分における不開示部分

3 2欄のうち開示すべき部分

該当箇所

法5条各号該当性等

通番

文書1「産業医選任報告」

① 労働保険番号

② 事業場の名称

③ 事業場の所在地

④ 事業の種類

⑤ 坑内労働又は有害業務に従事する労働者数

⑥ 坑内労働又は労働基準法施行規則18条1号,3号から5号まで若しくは9号に掲げる業務に従事する労働者数

⑦ 電話番号

⑧ 労働者数

2号イ

⑨ 被選任者氏名及びフリガナ

1号

⑩ 選任年月日

1号

⑪ 生年月日

1号

⑫ 選任種別

⑬ 安全管理者又は衛生管理者の場合は担当すべき業務

⑭ 専属の別

1号

 

⑮ 他の事業場に勤務している場合は,その勤務先

1号

⑯ 専任の別

⑰ 他の業務を兼職している場合は,その業務

⑱ 総括安全衛生管理者又は安全管理者の場合は経歴の概要

⑲ 産業医の場合は医籍番号等

1号

⑳ 前任者氏名及びフリガナ

1号

㉑ 辞任,解任等の年月日

1号

㉒ 参考事項

㉓ 日付

1号

10

全て

㉔ 事業者職氏名(印影部分)

2号イ

11

文書2「医師免許」

① 免許証名

② 都道府県名

1号

12

③ 氏名

1号

13

④ 生年月日

1号

14

⑤ 本文1(1行目1文字目ないし11文字目)

1号

15

⑥ 発行日

1号

16

⑦ 免許権者の職名

新たに開示

⑧a 免許権者の署名

1号

17

⑧b 免許権者の印

新たに開示

⑨a 本文2(1行目5文字目ないし2行目8文字目)

1号

18

⑨b 本文2(a以外の不開示部分)

新たに開示

⑩ 授与者の職名

新たに開示

⑪a 授与者の署名

1号

19

⑪b 授与者の印

新たに開示

⑫ 原本確認印

新たに開示

文書3「研修修了証」

① 修了証のタイトル

② 氏名

1号

20

③ 本文1

④a 認定有効期間(7文字目ないし最終文字)

1号

21

④b 認定有効期間(1文字目ないし6文字目)

新たに開示

⑤ 認定者の職名

新たに開示

⑥a 認定者の署名

1号

22

⑥b 認定者の印

2号イ

23

⑦a 本文2(1行目5文字目ないし22文字目)

1号

24

⑦b 本文2(aを除く。)

新たに開示

⑧ 授与者の印

2号イ

25

⑨本文3

(当審査会注)

1 理由説明書に基づき,当審査会事務局において作成した。

2 文書2の⑧,⑨及び⑪,文書3の④,⑥及び⑦に係る2欄の該当箇所の記載方法は,当審査会事務局において整理した。