諮問庁 法務大臣
諮問日 令和 4年10月28日(令和4年(行情)諮問第608号)
答申日 令和 5年 6月15日(令和5年度(行情)答申第124号)
事件名 行政文書ファイル「本省例規(訓令・通達) R2」につづられた文書の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙に掲げる文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和4年6月7日付け広管総発第201号により広島矯正管区長(以下「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)のうち,第2項記載の決定を取り消す,との裁決を求める。


2 審査請求の理由

審査請求の理由は,審査請求書によると,おおむね以下のとおりである。

決定通知書第2項記載の不開示部分はいずれも,法5条4号又は同条6号に規定される不開示情報にあたらないと考える。


第3  諮問庁の説明の要旨

 1 本件審査請求は,審査請求人が処分庁に対し,令和4年4月12日受付行政文書開示請求書により,本件対象文書を含む複数の行政文書の開示請求を行い,これを受けた処分庁が,本件対象文書についてその一部(以下「本件不開示部分」という。)を不開示とした原処分に対するものであり,審査請求人は,原処分の取消し及び本件不開示部分の開示を求めているものと解されることから,以下,本件不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


 2 本件不開示部分の不開示情報該当性について

   本件不開示部分には,特定刑事施設に勤務する職員の印影が記録されているところ,刑事施設においては,被収容者が収容中の処遇等に対して不満を抱き,当該刑事施設の職員やその家族に対し,釈放後自ら又は関係者への働き掛けによる報復を示唆する事案が多々見られることからすると,本件不開示部分に記録された職員の印影が開示されることにより,当該職員又はその家族に対し,被収容者又はその関係者等から,不当な圧力,中傷,攻撃等が加えられる事態が現実に発生するおそれが相当程度高まり,その結果として,刑事施設の責務である裁判や刑の執行を阻害することとなることはもとより,保安事故,職員籠絡事案その他の刑事施設の規律及び秩序が適正に維持されない状況が発生するおそれが生じ,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあることは明らかであるから,当該情報は,法5条4号に規定される不開示情報に該当する。

   また,刑事施設では,各職員の士気を高め,施設全体の高い士気を維持することが適正な被収容者処遇及び施設の管理運営上不可欠であるところ,職員の氏名が開示されることとなれば,前述のように不当な圧力等を加えられることを懸念した職員が職務に消極的になって,施設全体の士気の低下を招き,矯正行政の適正な遂行に支障を生ずるおそれがあることから,当該情報は,同条6号柱書きに規定される不開示情報にも該当する。

   なお,本件対象文書が作成された時点の直近に発刊されていた国立印刷局編「職員録」には,本件不開示部分に記載された職員と同一の職にある者の氏名は掲載されておらず,このことからも,本件不開示部分に記録された職員の印影が開示されるべき情報であるとはいえない。


 3 原処分の妥当性について

   以上のとおり,本件不開示部分について,法5条4号及び6号に規定される不開示情報に該当するとした原処分は妥当である。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和4年10月28日 諮問の受理

② 同日         諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年11月18日   審議

④ 令和5年6月9日   本件対象文書の見分及び審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,その一部を法5条4号及び6号に該当するとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,原処分の取消し及び不開示部分の開示を求めていると解されるところ,諮問庁は,原処分は妥当であるとしていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


2 不開示部分の不開示情報該当性について

本件対象文書は,特定刑事施設が保有する法務省本省が令和2年度に発出した訓令・通達の例規に係る文書であり,このうち,特定刑事施設において受付処理をした際に押なつされた課長以下の職員の印影部分が不開示とされているものと認められる。

刑事施設においては,被収容者が収容中の処遇等に対して不満を抱き,当該刑事施設の職員やその家族に対し,釈放後自ら又は関係者への働き掛けによる報復を示唆する事案が多々見られることからすると,本件不開示部分に記録された職員の印影が開示されることにより,当該職員の氏が明らかになると,当該職員又はその家族に対し,被収容者又はその関係者等から,不当な圧力,中傷,攻撃等が加えられる事態が現実に発生するおそれが相当程度高いなどとする上記第3の2の諮問庁の説明は,不自然,不合理とまではいえない。

また,当該印影の中に総務部庶務担当の職員も含まれている点について,当審査会事務局職員をして,諮問庁に確認させたところ,諮問庁は,一般に,刑事施設で勤務する職員は,その職務の性格上,その氏名が被収容者等に知られた場合,当該被収容者等から不当な圧力等が加えられるおそれがあるところ,総務部の職員についても,刑務官として被収容者の生活する戒護区域内で職務遂行を行う実態があるほか,人事異動により頻繁に処遇部等において勤務する実態もあり,当該職員の氏名を公にした場合,当該職員に対し,不当な要求や攻撃等がされるおそれが高まる事情は,処遇部等の職員と同様である旨説明するが,その内容も不自然,不合理とまではいえない。

なお,当審査会事務局職員をして,令和2年度の独立行政法人国立印刷局編「職員録」を確認させたところ,当該不開示部分に印影が押なつされた特定刑事施設の課長以下の職員の氏名は,いずれもこれに掲載されていない。

そうすると,当該不開示部分は,これを公にすると,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があると認められるので,法5条4号に該当し,同条6号柱書きについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条4号及び6号柱書きに該当するとして不開示とした決定については,不開示とされた部分は,同条4号に該当すると認められるので,同条6号柱書きについて判断するまでもなく,妥当であると判断した。


(第1部会)

  委員 合田悦三,委員 木村琢麿,委員 中村真由美





別紙(本件対象文書)


Webサイト「e-GOV」で公開されている行政文書ファイル管理簿に登

載されている行政文書ファイルの内,

「本省例規(訓令・通達) R2」と題する行政文書ファイル

(府省名が法務省,作成・取得年度等が2020年度,大分類が庶務,中分類が例規,作成・取得者が法務省特定刑事施設総務部庶務課長,起算日が2021年4月1日,保存期間が常用,保存期間満了日が未定,媒体の種別が紙,保存場所が書庫,管理者が法務省特定刑事施設総務部庶務課長,保存期間満了時の措置が廃棄であるもの)

に編綴された行政文書すべて。