諮問庁 防衛大臣
諮問日 令和 4年 6月22日(令和4年(行情)諮問第373号)
答申日 令和 5年 2月22日(令和4年度(行情)答申第554号)
事件名 特定基地における移転措置に伴う土地の買入れに係る土地売買契約書の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

土地売買契約書(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとする部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成28年4月28日付け近防総総第3412号により近畿中部防衛局長(以下「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,不開示部分の開示を求める。


2 審査請求の理由

行政文書開示決定通知書(近防総総第3412号 平成28年4月28日)の「2 不開示とした部分とその理由」において「土地所有者の住所・氏名・印影については,法5条1号に規定する個人に関する情報です。」とあり,それゆえ土地所有者の住所・氏名・印影を開示しないという判断は正当と認める。

しかし,それに続けて「売買土地の所有地・地目・面積については,同号に規定する他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができる情報であるため不開示とします。」とあるのは納得できない。以下その理由を述べる。

(1)これらの土地は防衛庁・防衛省により買い上げられ現在は国有地である。国有地は不動産登記されず,従って売買土地の所在地・地目・面積がわかっても,そこから元の土地所有者を特定する一般的手段が存在しない。

ちなみに国有地は国有財産台帳に記載されるが,これらの土地については財務省の国有財産情報公開システムでは情報開示されていない。従って元の土地所有者を特定することは一般的に困難である。


(2)その土地の近所での聞き込み等により,元の所有者が特定できる場合がありうるが,当該文書はいずれも売買契約時から8年以上経過しており,聞き込み等で8年以上前の所有者を特定するのは,やはり困難である。


(3)また仮に元の所有者を特定できたとしても8年以上前の売買についての諸手続きは納税を含めてすべて完了しており,特定される事により個人の利益・権利が侵害されるという状況は想定しがたい。


(4)法5条は,開示できない情報の例外として「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」を挙げている。

土地買い入れは騒音対策の一環として行われているが,国防を所管する官庁が土地を購入した場合,公式的な名目がどうあれ,軍事目的があるのではないかとの疑念が生ずるのは必定である。

特定市は日本海をはさんで北朝鮮に面しており,北朝鮮は日本列島をほぼ射程に収める弾道ミサイルを実戦配備しており,日本に対する敵対的言動を繰り返している。有事に際しては特定基地が攻撃の対象になる事は明白である。

基地周辺の民間人が居住する地域は国際法上,攻撃してはならないのであるが,防衛省が所有する土地が特定基地周辺の民間人居住地域にあることが明らかであり,かつその正確な位置が不明である場合,その土地に軍事施設がないことが証明されない限り,特定基地周辺の民間人居住地域全体が無差別攻撃の対象になりうる。

すなわちこの土地の所在地・地目・面積は上記「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当する。

以上4項目の理由により土地の所在地・地目・面積について開示を求めるものである。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 経緯

本件開示請求は,「特定基地における移転措置に伴う士地買い入れについて,平成9年度から19年度の間,いつ,誰から,いくらで購入したかが分かる行政文書」の開示を求めるものであり,処分庁はこれに該当する行政文書として本件対象文書を特定し,平成28年4月28日付け近防総総第3412号により,法5条1号に該当する部分を不開示とする原処分を行った。

本件審査請求は,原処分に対して提起されたものである。

なお,本件審査請求について,審査請求が提起されてから情報公開・個人情報審査会への諮問を行うまでに約5年11か月を要しているが,その間多数の開示請求に加え,開示請求の件数を大幅に上回る大量の審査請求が提起され,それらにも対応しており,諮問を行うまでに長期間を要したものである。


2 法5条該当性について

本件対象文書のうち,土地所有者の住所・氏名・印影については,法5条1号に規定する個人に関する情報である。売買土地の所在地・地目・面積については,同号に規定する他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができる情報であるため不開示とした。

また,売買土地の地目・面積については,売買価額と照合することにより国の機関,独立行政法人等,地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報に該当し,これを明らかにすることにより事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号の不開示事由を追加する。


3 審査請求人の主張について

審査請求人は,「「売買士地の所有地・地目・面積については,同号に規定する他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができる情報であるため不開示とします。」とあるのは納得できない。」として,不開示部分の開示を求めるが,上記2のとおり,本件対象文書の一部については,法5条1号に該当するため不開示としたものである。

よって,諮問庁としては,審査請求人の主張には理由がなく,処分庁が行った原処分を維持することが妥当である。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和4年6月22日  諮問の受理

② 同日         諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年7月7日     審議

④ 令和5年1月27日  本件対象文書の見分及び審議

⑤ 同年2月17日    審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件対象文書は,「土地売買契約書」であり,処分庁は,本件対象文書の一部を法5条1号に該当するとして不開示とする原処分を行った。

審査請求人は,本件対象文書の不開示部分のうち,売買土地の所在地,地目及び面積に係る不開示部分(以下「本件不開示部分」という。)の開示を求めており,諮問庁は,本件不開示部分のうち,地目及び面積の不開示部分につき,法5条6号の不開示理由を追加した上で原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の見分結果に基づき,本件不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


2 本件不開示部分の不開示情報該当性について

(1)本件不開示部分について,本件対象文書を確認したところ,当該部分には,移転措置に伴い売買する土地の所在地(地番),地目及び面積が記載されていると認められる。

本件不開示部分を不開示とした理由について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁から次のとおり説明があった。

ア 本件不開示部分に係る土地所有者の所在地等は,他の情報と突合した場合に個人を特定できる情報に該当するため,法5条1号により不開示としたものである。


イ また,防衛省が購入した土地には,購入年度を明記した境界標を設置するため,現地において当該土地の購入年度が明示されている状況である。このため同土地の地目・面積を公表することにより,現地にて特定することが可能であり,それを基に登記簿等を取得することで容易に元の所有者を特定することが可能となり,さらに売買価格と照合することで,同者が得た売買収入についても明らかとなってしまう。このことは,防衛省に土地を売却すれば,情報開示によりこれらの情報を第三者に知られてしまうことが周知され,土地の所有者に不信感を与えることになりかねず,今後の国による土地等の購入業務の円滑な遂行に支障を及ぼすおそれがあると判断したため,同条6号を追加したものである。


(2)本件請求内容は,「特定基地における移転措置に伴う土地の買い入れについて,平成9年度から19年度の間,いつ,誰から,いくらで購入したかが分かる行政文書」である。

移転措置事業における移転対象となる各飛行場等の区域図については,各地方防衛局のウェブサイト上において公表されており,また,同サイトの事業用パンフレットにおいて,対象区域を示した縦覧図についても,管轄する地方防衛局事務所で閲覧可能との掲載があることなどを踏まえれば,これによって,防衛省が購入した土地のおおよその位置ないし範囲は特定することができ,当該土地を管轄する登記所において備え付けてある公図の閲覧により当該土地の地番を特定することができるものと認められる。

そうすると,本件不開示部分については,不動産登記簿を閲覧すること等により,何人でも知ることが可能なものであり,慣行として公にされているものと認めることができる。

また,諮問庁は上記(1)イで地目及び面積部分の不開示理由に法5条6号を追加しているが,同号にいう「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」とは,実質的,具体的に支障が生じる相当の蓋然性が認められることが必要とされている。しかし,更に諮問庁に確認させたところ,旧土地所有者に不信感を与え,国による土地等の購入業務の円滑な遂行に支障を及ぼすような具体的な事例を示すことはできないとのことであった。

したがって,本件不開示部分については,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当するが,同号ただし書イの法令の規定により又は慣行として公にされ又は公にすることが予定されている情報に該当すると認められ,また,地目及び面積部分については,これを公にしたとしても,国の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとまでは認め難いため,同条6号柱書きにも該当せず,本件不開示部分については,開示すべきである。


3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 付言

本件は,審査請求から諮問までに約5年11か月が経過しており,諮問庁の説明を考慮しても,「簡易迅速な手続」による処理とはいい難く,また,審査請求の趣旨及び理由に照らしても,諮問を行うまでに長期間を要するものとは考え難い。

諮問庁においては,今後,開示決定等に対する不服申立事件における処理に当たって,迅速かつ的確な対応が望まれる。


5 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号に該当するとして不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとし,諮問庁が同条1号及び6号に該当することから不開示とすべきとしている部分は,同条1号及び6号柱書きのいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。


(第2部会)

委員 白井玲子,委員 太田匡彦,委員 佐藤郁美