諮問庁 | : | 法務大臣 |
諮問日 | : | 令和 4年 3月30日(令和4年(行情)諮問第244号) |
答申日 | : | 令和 5年 2月 2日(令和4年度(行情)答申第504号) |
事件名 | : | 特定記事に記載の訴訟に係る文書の一部開示決定に関する件 |
第1 | 審査会の結論 |
別紙に掲げる文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,妥当である。
第2 | 審査請求人の主張の要旨 |
1 審査請求の趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和4年1月12日付け法務省訟行第18号により法務大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)を取り消すとの裁決を求める。
2 審査請求の理由
審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書によると,おおむね以下のとおりである。
決定通知書第2項記載の各不開示部分はいずれも,法5条各号に規定される不開示情報に該当しないと考える。
しかしながら仮に上記主張が認められないとしても,以下の部分は法6条1項により部分開示されるべきである。
(1)処分庁は,決定通知書第2項(3)により裁判所の電話番号及びFAX番号を法5条6号柱書きに該当するとして不開示とした。しかしながら,当該不開示部分に記載されている電話番号及びFAX番号の1桁目は,「0」であることが,公知の事実から容易に推認できる(その理由として,例えば総務省のWebサイト中のページ「総務省|電気通信番号制度|電話番号に関するQ&A」中の項目「Q1 電話番号とはどのようなものですか?」URL(略)では別紙(略)のとおり説明されている)から,これらの電話番号及びFAX番号の1桁目が公開されていない情報であるということはできない。また,これらの電話番号及びFAX番号の1桁目を開示したとしても,電話番号の2桁目以降の部分を特定することはおよそ不可能であるから,国の機関が行う事務又は事業の適切な遂行に支障を及ぼすおそれがあるともいえない。そうすると,不開示とされた電話番号及びFAX番号のうち,少なくとも1桁目の数字は法5条6号柱書きにあたる不開示情報ではない。さらに,これら電話番号及びFAX番号の1桁目以外の不開示情報が記録されている部分は容易に区分して除くことが出来るし,不開示情報が記録されている部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認めることも相当ではない。
(2)処分庁は決定通知書第2項(1)において,開示請求に係る訴訟とは別訴訟の事件番号を法5条1号にあたるとして不開示とした。ところで,一般に事件番号は「●●裁判所▲▲年(■)第×××号」なる文字列であるところ,文字「裁判所」,「年」,「(」,「)」,「第」及び「号」は法5条1号に該当するとはいえない。そうすると,法6条2項により同条1項の規定が適用される。また,前述の部分以外の不開示情報が記録されている部分は容易に区分して除くことが出来るし,不開示情報が記録されている部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認めることも相当ではない。
第3 | 諮問庁の説明の要旨 |
1 原処分について
(1)本件開示請求の内容について
本件開示請求は,審査請求人である開示請求者が,処分庁に対し,令和3年11月17日付け行政文書開示請求書(同年11月19日受付第604号)をもって,「同請求書別紙記載の国を当事者とする訴訟(上級審を含む。)に関する,①国が裁判所から受領した文書すべて,②国が裁判所に提出した文書すべて,③国が当該訴訟の原告から受領した文書すべて,④国が当該訴訟の原告に渡した文書すべて」について開示請求をしたものである。
(2)本件開示決定の経緯について
処分庁は,本件開示請求に対し,「国家賠償請求事件(特定事件番号)」(以下「本件訴訟」という。)に関する事件記録のうち,本件開示請求の文言に該当する行政文書を特定し,令和4年1月12日付け法務省訟行第18号をもって,法9条1項の規定に基づき,上記行政文書の一部を開示する決定(原処分)をした。なお,本件開示請求では,法11条に基づく延長手続を行っており,原処分は,「相当の部分」として,以下に掲げる文書について,一部を開示する決定をしたものである。
ア 特別送達の封筒写し,第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状並びに郵便送達報告書
イ 訴状
また,本件対象文書は,本年1月21日に審査請求人に発送済みである。
2 審査請求人の主張及び審査請求の範囲について
審査請求人は,「各不開示部分はいずれも,法5条各号に規定される不開示情報に該当しないと考える。」として,原処分の取消しを求めている。また,かかる主張が認められないとしても,①裁判所の電話番号及びファクシミリ番号のうち,1桁目の数字記載の部分及び②別訴訟の事件番号のうち,「裁判所」,「年」,「(」,「)」,「第」及び「号」の部分については,法所定の不開示情報に該当せず,部分開示されるべき旨主張している。
3 本件不開示部分に係る本件開示決定の妥当性について
以下に述べるとおり,本件開示請求に係る不開示部分(以下「本件不開示部分」という。)が法5条1号本文,同条2号イ及び同条6号柱書きにそれぞれ該当することは明らかであるから,本件不開示部分を不開示とした本件開示決定は正当である。
(1)本件不開示部分に記載されている情報について
本件不開示部分には以下の情報が記載されている。
ア 個人の住所,氏名,本件訴訟とは別訴訟の事件番号
イ 本件訴訟の訴訟代理人の弁護士の印,他の弁護士の氏名及び団体の名称
ウ 一般には公開されていない裁判所の電話番号及びファクシミリ番号
(2)不開示情報該当性について
ア 法5条1号本文に該当することについて
上記(1)アについては,個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別できることとなるものを含む。以下同じ。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあることから,法5条1号本文に該当する。また,同号ただし書イないしハのいずれかに該当する事情も認められない。
イ 法5条2号イに該当することについて
上記(1)イのうち,本件訴訟の訴訟代理人の弁護士の印影は,当該書類が真正に作成されたことを示す認証的機能を有し,これを公にすることにより,当該弁護士の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イに該当する。また,他の弁護士の氏名については,これを公にすると,当該弁護士が本件訴訟の原告の再審弁護人を務めていたという事実が明らかになるところ,当該弁護士がいかなる個別事案に関与しているかという情報は,弁護士業を営む当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イに該当する。そして,団体の名称については,かかる部分を公にすることとなると,これら団体に所属し,又は当該団体を運営する個人と本件訴訟の原告とのやり取り等が明らかとなるところ,これら団体が本件訴訟に関与したかのような印象を与えることに加え,本件訴訟が社会的耳目を集める事案であり,かつ,原告との間の外部交通をめぐる事案であることを踏まえると,種々の憶測や風評を招いた結果,原告との間で違法な外部交通を行っていたなどの消極的評価を受けることも否定できず,当該団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,法5条2号イに該当する。
ウ 法5条6号柱書きに該当することについて
上記(1)ウについては,いずれも公開されていないものであり,当該部分を明らかにすることにより,いたずらや偽計に使用されることにより,国の機関が必要とする緊急の連絡や外部との連絡に支障を来すおそれがあり,事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,法5条6号柱書きに該当する。
(3)部分開示の要否について
ア 裁判所の電話番号及びファクシミリ番号について
審査請求人は,裁判所の電話番号及びファクシミリ番号について,1桁目は「0」であることが公知の事実から容易に推認でき,少なくとも1桁目の数字は法5条6号柱書きに該当する不開示情報ではなく,部分開示されるべきである旨,るる主張する。
しかしながら,審査請求人の引用する総務省ウェブサイトの記述内容をもってしても,本件電話番号の1桁目が「0」であると断定できるものではない上,ファクシミリ番号にあっては言及すらないことから,審査請求人の主張は,そもそも前提を欠いている。
この点をおくとしても,以下で述べるとおり,審査請求人の主張は,法6条1項所定の部分開示の解釈を誤ったものと言わざるを得ず,仮に審査請求人のいうように,本件電話番号及びファクシミリ番号の1桁目が「0」であることが公知の事実から推認できるものであったとしても,かかる部分を開示することは要しないのであるから,審査請求人の主張は失当であり,また,理由もない。
すなわち,法6条1項は,1個の行政文書に複数の情報が記載されている場合において,それらの情報の中に不開示情報に該当するものがあるときは,当該情報を除いたその余の部分について開示することを行政機関の長に義務付けているにすぎない。
そして,電話番号やファクシミリ番号は,一般に,これらを構成する各数字単体で意味を持つことはなく,各数字の組合せをもって初めて利用に供される性質のものであるから,当該数字の組合せそれ自体が一体として一つの有意な不開示情報であると認められる。そうである以上,本件における電話番号及びファクシミリ番号についても,法6条1項所定の部分開示の余地はなく,仮に審査請求人のいうように,その一部が公知の事実から推認できるものであったとしても,かかる結論を左右するものではない。
以上より,本件電話番号及びファクシミリ番号について,全体を法5条2号イに該当するとして,不開示とした本件開示決定は適法である。
イ 別訴訟の事件番号について
審査請求人は,本件事件番号のうち,「裁判所」,「年」,「(」,「)」,「第」,及び「号」の各文字については,法5条1号に該当するとはいえず,法6条2項に基づき,部分開示されるべきである旨,主張する。
しかしながら,事件番号は,審査請求人の指摘する文字を含め,一体の個人識別部分であって,部分開示の余地のないことは,過去の答申例でも認定されてきたところである(事件番号を一体の個人識別部分として認定した答申例として,例えば,令和3年度(行情)答申第23号,平成29年度(行情)答申第152号,平成19年度(行情)答申第540号がある。)。
したがって,本件事件番号について,全体を法5条1号に該当するとして,不開示とした本件開示決定は適法であり,審査請求人の主張には理由はない。
4 結論
以上のとおり,本件不開示部分は法5条1号本文,同条2号イ及び同条6号柱書きにそれぞれ該当することから,本件不開示部分を不開示とした本件開示決定は正当である。
第4 | 調査審議の経過 |
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 令和4年3月30日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年4月15日 審議
④ 同年12月9日 本件対象文書の見分及び審議
⑤ 令和5年1月27日 審議
第5 | 審査会の判断の理由 |
1 本件開示請求について
本件開示請求は,本件対象文書を含む文書の開示を求めるものであり,処分庁は,法11条の規定を適用した上,相当の部分として本件対象文書につき,その一部を法5条1号,2号イ及び6号柱書きに該当するとして不開示とする原処分を行った。
これに対し,審査請求人は,原処分の取消しを求めているところ,諮問庁は,原処分は正当であるとしていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,不開示部分の不開示情報該当性について検討する。
2 不開示部分の不開示情報該当性について
当審査会において,本件対象文書を見分したところ,本件対象文書は,①特別送達の封筒等の写し,②第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状,③郵便送達報告書及び④訴状であり,不開示部分は,上記①及び②に記載された裁判所の電話番号及びファクシミリ番号並びに②及び④に記載された個人の氏名,住所,本件訴訟とは別訴訟の事件番号,本件訴訟の訴訟代理人の弁護士の印影,他の弁護士の氏名及び団体の名称であると認められる。
(1)個人の氏名及び住所について
標記の不開示部分は,本件対象文書のうち,上記②に記載された本件訴訟の原告の氏名並びに上記④の訴状本文に記載された当該原告の氏名及び住所,原告以外の個人の氏名であり,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められ,同号ただし書イないしハに該当する事情も認められない。また,当該不開示部分は,個人識別部分であって,法6条2項による部分開示の余地はない。
したがって,当該不開示部分は,法5条1号に該当し,不開示としたことは妥当である。
(2)別訴訟の事件番号について
ア 標記の不開示部分は,上記④の訴状本文に記載された本件訴訟の事件番号とは別の民事裁判の第1審及び控訴審の事件番号であると認められるところ,事件番号は,これを公にすると,訴訟記録の閲覧制度を利用することなどにより,原告等の関係者が特定される可能性を否定することはできないことから,当該部分は,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,各事件に関係する特定の個人を識別することができるものと認められる。
イ 次に,法5条1号ただし書該当性について検討する。
(ア)民事訴訟事件の訴訟記録に係る閲覧制度(民事訴訟法91条1項)は,裁判の公正と司法権に対する国民の信頼を確保することなどの基本的な理念に基づき,特定の受訴裁判所の具体的判断の下に実施されているもので,その手続及び目的の限度において訴訟関係者のプライバシーが開披されることがあるとしても,このことをもって,訴訟記録に記載された情報が,情報公開手続において,直ちに一般的に公表することが許されているものと解することはできない。
他方,最高裁判所のウェブサイトに現に掲載されている情報については,その掲載の趣旨・目的や個人情報に対する配慮の状況等が情報公開制度と共通するものである限り,当該情報には公表慣行があると解すべきである。
(イ)当審査会事務局職員をして上記(ア)の最高裁判所のウェブサイトに登載された判例検索システムを確認させたところ,同ウェブサイトに標記の不開示部分に係る事件番号の判決書が掲載されている事実は認められない。
(ウ)したがって,当該不開示部分は,法5条1号ただし書イに該当するものとは認められず,また,同号ただし書ロ及びハに該当する事情も認められない。
ウ さらに,当該不開示部分は,個人識別部分であることから,法6条2項による部分開示の余地もない。
エ 以上によれば,当該不開示部分は,法5条1号に該当し,不開示としたことは妥当である。
なお,審査請求人は,事件番号を構成する文字及び記号の一部について不開示情報に該当しない旨主張しているが,事件番号という独立した一体的な情報の一部を更に細分化して,開示,不開示の判断を行う必要はないと認められるから,審査請求人の当該主張は採用できない。
(3)本件訴訟の訴訟代理人の弁護士の印影について
標記の不開示部分は,上記④の訴状に押なつされた本件訴訟の原告訴訟代理人の弁護士の印影であると認められるところ,当該印影は,当該弁護士が真意に基づいて作成した真正な文書であることを示す機能を有しており,これを公にすると,偽造等によって当該弁護士の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,不開示としたことは妥当である。
(4)他の弁護士の氏名について
標記の不開示部分は,上記④の訴状本文に記載された,上記(3)の弁護士とは別の弁護士の氏名であると認められる。これを公にすると,当該弁護士が本件訴訟の原告の再審弁護人を務めた事実が明らかになるところ,当該弁護士がいかなる個別事案に関与しているかという情報は,事業を営む当該弁護士個人の事業に関する情報であり,公にすることにより,当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。
したがって,当該不開示部分は,法5条2号イに該当し,不開示としたことは妥当である。
(5)団体の名称について
標記の不開示部分は,上記④の訴状本文に記載された特定団体の名称及び訴状別表の「属性」欄に記載された各発信者の所属団体の名称であると認められる。
諮問庁は,上記第3の3(2)イにおいて,これを公にすると,これら団体に所属し,又は当該団体を運営する個人と本件訴訟の原告とのやり取り等が明らかとなるところ,これら団体が本件訴訟に関与したかのような印象を与えることに加え,種々の憶測や風評を招いた結果,原告との間で違法な外部交通を行っていたなどの消極的評価を受けることも否定できず,当該団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると説明する。
これを検討するに,上記諮問庁の説明は,不自然,不合理とはいえない。したがって,当該不開示部分は,法5条2号イに該当し,不開示としたことは妥当である。
(6)裁判所の電話番号及びファクシミリ番号について
標記の不開示部分は,上記①の特別送達の封筒に記載された特定地方裁判所の電話番号並びに上記②の第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状に記載された同裁判所の電話番号及びファクシミリ番号であると認められる。
諮問庁は,当該部分はいずれも公開されていないものであるとし,上記第3の3(2)ウのとおり説明する。
これを検討するに,上記諮問庁の説明に特段不自然,不合理な点は認められず,これを覆すに足りる事情も認められないことから,当該不開示部分は,法5条6号柱書きに該当し,不開示としたことは妥当である。
なお,審査請求人は,電話番号及びファクシミリ番号の1桁目の数字について不開示情報に該当しない旨主張しているが,電話番号及びファクシミリ番号という独立した一体的な情報の一部を更に細分化して,開示,不開示の判断を行う必要はないと認められるから,審査請求人の当該主張は採用できない。
3 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号,2号イ及び6号柱書きに該当するとして不開示とした決定については,不開示とされた部分は,同条1号,2号イ及び6号柱書きに該当すると認められるので,妥当であると判断した。
(第1部会) |
委員 合田悦三,委員 木村琢麿,委員 中村真由美
別紙(本件対象文書)
令和3年11月17日付け行政文書開示請求書(同年11月19日受付第604号)をもって,同請求書別紙記載の国を当事者とする訴訟(上級審を含む。)に関する,①国が裁判所から受領した文書すべて,②国が裁判所に提出した文書すべて,③国が当該訴訟の原告から受領した文書すべて,④国が当該訴訟の原告に渡した文書すべて,のうち,以下に掲げる文書
(1)特別送達の封筒写し,第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状並びに郵便送達報告書
(2)訴状