諮問庁 厚生労働大臣
諮問日 令和 3年10月 7日(令和3年(行情)諮問第405号)
答申日 令和 5年 1月16日(令和4年度(行情)答申第467号)
事件名 特定文書番号の文書を収受したことが記載されている文書の不開示決定(不存在)に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

   「労働局長宛厚生労働省労働基準局長発「令和3年2月12日基発0212第1号監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」を収受したことが記載されている台帳」(以下「本件対象文書」という。)につき,これを保有していないとして不開示とした決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和3年5月19日付け愛労発基0519第6号により愛知労働局長(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,取消しを求めるというものである。


2 審査請求の理由

  審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)本件対象文書は,「労働局長宛厚生労働省労働基準局長発「令和3年2月12日基発0212第1号監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」を収受したことが記載されている台帳」であり,愛知労働局長は,「開示請求のあった時点で保有していなかった」ことを理由とした不開示の処分をなした。

審査請求人は未保有を理由とする本件不開示処分に疑義を抱いているため,本件審査請求をすることとした。


(2)審査請求人は本件不開示処分に対する主張の前に,本件審査請求に必要な範囲で当該行政文書開示請求に至る経緯を記す。(略)

   審査請求人は,公文書管理の運用上,厚生労働大臣が秘匿したい留意事項通知の文書管理が適正に運用されているかを注視する必要を強く感じるに至った。


(3)審査請求人は,従前より,本件処分庁愛知労働局の労働基準部に係る収受台帳を開示請求し入手していたため,開示実施を受けた令和2年度後半の収受台帳を精査したところ,令和3年2月12日付け基発0212第1号留意事項通知を収受した記載が見当たらないことに疑念を持ち,改めて本件開示請求をしたところ,不開示処分となった。


(4)行政機関は公文書管理法施行以前から文書取扱規則等を制定し,そのルールに従って行政文書を取り扱ってきたところであり,公文書管理法施行後も各省の文書管理規則に従った行政文書の取扱いをしている。愛知労働局においても,従来より文書取扱規則に沿い,局収受文書台帳,局発議台帳等の簿冊を整備して文書管理をしてきたはずである。


(5)令和3年2月12日付け基発0212第1号留意事項通知を収受した記載に係る実態を整理すると,別表(略)のとおりである。

   即ち,平成24年度及び平成25年度収受については,愛知労働局長収受秘密文書台帳に記載する方法により管理されていた。留意事項通知については,秘密区分を「秘」と指定して管理していた。

平成26年度収受以降は,秘密文書台帳ではなく愛知労働局長収受文書台帳に記載する方法により管理されてきた。その後平成29年度収受文書台帳への記載は見当たらないが,平成30年度収受台帳には記載されている。

その後,令和元年度及び令和2年度収受文書台帳には留意事項通知の収受を示す記載はない。他方で,厚生労働省本省労働基準局施行簿には,例外なく毎年度留意事項通知の発出が記載され,かつ施行簿開示においてもその旨開示されている。


(6)これらの事実から,令和元年度(行情)答申第386号発出直後の令和元年12月13日以降,発出先である都道府県労働局に対して,本省労働基準局から留意事項通知の取扱いを慎重にするべきとの意向が示され,収受側の愛知労働局において秘密文書扱いに変更したか,あるいは記載漏れを装った不記載の運用に変更したとの推論も否定できない。

万一,注意不足による記載漏れであると処分庁が主張するとしても,その公開取扱いが争われている文書の管理に係る処理が,しかも連続して誤ったとの主張をにわかに信じる者はいないであろう。


(7)処分庁は,本件未取得の理由と収受文書台帳記載の運用取扱いについて,何ら説明をしておらず,また,秘密文書扱いにしたとするならば虚偽の不開示理由を示したこととなり,いずれにしても本件不開示処分に理由がなく,取り消されるべきである。従って,本件対象文書は開示されるべきである。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 本件審査請求の経緯

(1)審査請求人は,令和3年5月15日付け(同日受付)で,処分庁に対して,法3条の規定に基づき,本件対象文書に係る開示請求を行った。


(2)これに対して,処分庁が令和3年5月19日付け愛労発基0519第6号により,本件対象文書の不開示決定(原処分)を行ったところ,審査請求人がこれを不服として,同年6月25日付け(同月28日受付)で本件審査請求を提起したものである。


2 諮問庁としての考え方

本件審査請求については,原処分を維持することが妥当である。


3 理由

(1)本件対象行政文書の特定について

  ア 審査請求人は,厚生労働省労働基準局長が都道府県労働局長あてに発出した「令和3年2月12日付け基発0212第1号監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」(以下「本件通達」という。)を収受したことが記載されている台帳の開示を求めている。


  イ 処分庁においては,局長あて文書を接受したとき,当該文書の主務課において,必要と認めるときには,局収受文書台帳に収受月日その他必要な事項を記入することとされている。

このため,処分庁においては,局収受文書台帳に記載された本件通達の収受月日その他必要な事項が,本件開示請求の対象行政文書に該当するものと判断しており,当該判断は妥当である。

なお,局収受文書台帳は,総務省が,文書管理業務の業務システム最適化計画(2007年(平成19年)4月13日各府省情報化総括責任者(CIO)連絡会議決定)に基づき整備した政府全体で利用可能な一元的な文書管理システム(以下「文書管理システム」という。)により調整されている。


(2)原処分の妥当性について

ア 本件開示請求を受けて,処分庁において,局収受文書台帳を確認したところ,本件通達について,その収受月日その他必要な事項は記入されていなかった。


イ これについて,諮問庁として,処分庁に対し確認したところ,本件通達は,厚生労働省労働基準局特定課から愛知労働局労働基準部特定課(以下「本件主務課」という。)に対し送達されたものであり,本件主務課において局収受文書台帳に収受月日その他必要な事項を記入すべき文書であったが,事実として,開示請求のあった時点で,これらの事項が登録されていなかった。


ウ 法に基づく開示請求権は,行政機関が保有する行政文書をあるがままの形で開示することを求める権利であり,開示請求に対して新たに行政文書を作成する義務を課すものではないと解されるところ,上記ア及びイの事実関係を踏まえると,原処分が違法又は不当とはいえない。


エ なお,諮問庁が処分庁に対し確認したところ,諮問時点において,局収受文書台帳には,本件通達について,その収受月日その他必要な事項が記入されているとのことであった。


4 審査請求人の主張について

審査請求人は,審査請求書において,原処分に対する疑義を種々述べるが,原処分が行われた事実関係は,上記3(2)のとおりであるから,その主張は失当である。


5 結論

以上のとおり,本件審査請求については,原処分を維持することが妥当である。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和3年10月7日   諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 令和4年12月22日  審議

④ 令和5年1月11日   審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求に対し,処分庁は,本件対象文書については,開示請求のあった時点で保有していなかったため,不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,本件対象文書を保有していないことを理由とする原処分に疑義を抱いているとして,原処分の取消しを求めているところ,諮問庁は,原処分を維持することが妥当としていることから,以下,本件対象文書の保有の有無について検討する。


2 本件対象文書の保有の有無について

諮問庁は,愛知労働局における文書受付事務について上記第3の3(1)イのとおり説明するとともに,本件通達の受付について上記第3の3(2)のとおり主張するので,当審査会事務局職員をして,本件通達が,厚生労働省労働基準局特定課から本件主務課に対し送達された時点で本件主務課において局収受文書台帳に収受月日その他必要な事項を記入していなかった理由を確認させたところ,収受時点での記載漏れであったとのことであった。

当審査会において,諮問庁から提示を受けた愛知労働局文書取扱規則を確認したところ,局収受文書台帳は文書管理システムにより調整するものとされていることを踏まえると,審査請求人が求める本件対象文書について,開示請求時に保有していないとする諮問庁の説明は否定できず,これを覆すに足りる特段の事情も認められない。

したがって,愛知労働局において,開示請求のあった時点で本件対象文書を保有しているということはできず,不開示とした原処分は妥当といわざるを得ない。


3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 付言

本件は,愛知労働局が処分庁宛て文書を接受したとき,当該文書の主務課において,必要と認めるときには,局収受文書台帳に収受月日その他必要な事項を記入することとされているが,開示請求のあった時点ではこれらの記入がされていなかったため,結果として,本件対象文書を保有していないことを理由として不開示決定されたものである。

このことを踏まえると,本件通達を接受した時点から,局収受文書台帳に収受月日その他必要な事項を記入しないまま放置されていたことは,不適切であるといわざるを得ない。処分庁においては,今後同様の事態が生じることのないようにすべきである。

なお,原処分時においては,上記のとおり本件対象文書は不存在であるとせざるを得ないが,通常の事務運用のとおりに,文書を取得した時点で局収受文書台帳に記入されていれば,不存在とはならなかったものである。その後,本件通達に係る収受月日その他必要な事項が局収受文書台帳に記入されているのであれば,開示請求文書の該当部分につき,法5条に定める不開示事由に該当しない範囲で審査請求人に情報提供することが望まれる。


5 本件不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,これを保有していないとして不開示とした決定については,愛知労働局において本件対象文書を保有しているとは認められず,妥当であると判断した。


(第3部会)

  委員 長屋 聡,委員 久末弥生,委員 葭葉裕子