諮問庁 内閣総理大臣
諮問日 令和 4年 3月 3日(令和4年(行情)諮問第181号)
答申日 令和 4年 9月22日(令和4年度(行情)答申第244号)
事件名 内閣総理大臣の健康状態等が分かる文書の不開示決定(存否応答拒否)に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

   「特定個人内閣総理大臣の,健康状態およびその推移についてすべてが分かる一切の文書。たとえば,医官による診察結果,病院から提出された検査結果,等。なお,内閣総理大臣は公人であるから,個人情報による不開示は当然許されるものではなく,アメリカにおいて当然になされているように全部開示をなすよう求めるものである。」(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,取り消すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和3年9月10日付け閣総第792号により内閣官房内閣総務官(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,原処分を取り消し,不開示文書を開示せよ,との裁決を求める。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書によると,おおむね以下のとおりである。

(1)本審査請求人は,開示請求を行った時点で内閣総理大臣であった特定個人について,その健康不安説が報道されるに及び,これに関心を持ち,法3条および4条1項にしたがい,以下の記載をなして,令和3年8月9日付(受付同月11日)で開示請求を行った。

特定個人内閣総理大臣の,健康状態およびその推移についてすべてが分かる一切の文書。たとえば,医官による診察結果,病院から提出された検査結果,等。なお内閣総理大臣は公人であるから,個人情報による不開示は当然許されるものではなく,アメリカにおいて当然になされているように全部開示をなすよう求めるものである。


(2)これに対して,処分庁は,以下の理由を付して原処分を行った。

本件開示請求の対象となる行政文書は,特定の個人に関わるものであり,本件対象文書の存否を答えること自体が,法5条1号の不開示情報を開示することとなるため,法8条の規定に基づき,その存否を明らかにしないこととする。


(3)しかしながら,原処分がいう「特定の個人」とは,当時内閣総理大臣であった特定個人であり,かつ,その職責からいって,同氏の健康に関する情報は,ただちに我が国の国政および外交等の広い範囲に影響を及ぼしうるものであって,一般市民の健康状態とは性質がまったく異なるから,当該健康に関する情報が広く公益を有することは論を俟たないところである。


(4)ここで,原処分が根拠とする法5条1項について検討すると,同項但書が除外するとして挙げた「ハ」において,当該個人が公務員等である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるとき,と明示している。すなわち,原処分が,同項の解釈を誤ったことは,条文上明白である。


(5)よって原処分は,違法不当であるから取り消されるべきである。違法事由の詳細は,処分庁からの弁明を待って主張する。


(6)処分庁は,弁明の際,原処分の原因となる事実,その他原処分の理由を認めた根拠,原処分の検討および決裁に関する記録,および,原処分に関して受けた指示・命令,を資料として提出されたい。


第3  諮問庁の説明の要旨

令和3年11月29日に受け付けた,処分庁による法8条及び9条2項の規定に基づく不開示決定処分(原処分)に対する審査請求については,下記のとおり,原処分を維持することが適当である。

1 本件審査請求の趣旨について

本件は,審査請求人が令和3年8月9日付けで行った,「特定個人内閣総理大臣の,健康状態およびその推移についてすべてが分かる一切の文書。たとえば,医官による診察結果,病院から提出された検査結果,等。なお内閣総理大臣は公人であるから,個人情報による不開示は当然許されるものではなく,アメリカにおいて当然になされているように全部開示をなすよう求めるものである。」との行政文書開示請求(以下「本件開示請求」という。)に対して,処分庁において,「本件開示請求の対象となる行政文書は,特定の個人に関わるものであり,本件対象文書の存否を答えること自体が,法5条1号の不開示情報を開示することとなる」ことを理由に,法8条の規定に基づき存否を明らかにしないこととして原処分を行ったところ,審査請求人から原処分の取消しを求める審査請求が提起されたものである。


2 審査請求人の主張及び原処分の妥当性について

審査請求人は,「当時内閣総理大臣であった特定個人」の「職責からいって,同氏の健康に関する情報は,ただちに我が国の国政及び外交等の広い範囲に影響を及ぼしうるものであって,一般市民の健康状態とは性質がまったく異なるから,当該健康に関する情報が広く公益を有することは論を侯たないところである」旨主張し,原処分が違法不当であるとして,その取消しを求めている。

しかしながら,「内閣総務官室が保有する特定個人の健康状態が分かる文書の有無」を開示することは,特定の個人である同氏が何らかの病歴を有し診断結果等の記録が発行されたという事実の有無(本件対象文書の存否情報)を開示することとなる。そして,本件対象文書の存否情報は法5条1号の不開示情報であり,また,公務員の職務の遂行に係る情報とはいえないことから,同号ただし書ハに該当せず,同号ただし書イ及びロにも該当しないと考えられることから,「内閣総務官室が保有する特定個人の健康状態が分かる文書の有無」を開示することにより,同号の不開示情報を開示してしまうこととなると処分庁は判断した。

以上のことから,処分庁においては,法8条の規定に基づき,存否を明らかにしないで不開示決定を行ったところであり,原処分は妥当である。


3 結語

以上のとおり,本件審査請求については,審査請求人の主張は当たらず,原処分は維持されるべきである。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

   ① 令和4年3月3日    諮問の受理

   ② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

   ③ 同年7月15日     審議

   ④ 同年9月16日     審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書の存否を答えること自体が,法5条1号の不開示情報を開示することとなるとして,法8条に基づき,その存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否する原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,原処分の取消しを求めているが,諮問庁は,原処分は妥当であるとしていることから,以下,本件対象文書の存否応答拒否の適否について検討する。


2 本件対象文書の存否応答拒否の適否について

(1)本件対象文書は,「特定個人内閣総理大臣(以下,単に「特定個人」という。)の,健康状態およびその推移についてすべてが分かる一切の文書。たとえば,医官による診察結果,病院から提出された検査結果,等」であることから,本件対象文書の存否を答えるだけで,特定個人の健康状態に関して,医師による診察が行われた又は何らかの検査が行われたという事実の有無(以下「本件存否情報」という。)を明らかにすることと同様の結果を生じさせるものと認められる。


(2)そして,本件存否情報は,個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものと認められることから,法5条1号本文前段に該当する。

また,本件存否情報(下記(3)で検討する情報を除く。)は,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報とは認められないことから,法5条1号ただし書イに該当せず,人の生命,健康,生活又は財産を保護するために,何人にも開示することが必要な情報であるとは認められないことから,同号ただし書ロにも該当しない。さらに,当該情報は,公務員の職務の遂行に係る情報とも認められないことから,同号ただし書ハにも該当しない。


(3)しかしながら,当審査会事務局職員をして,首相官邸ウェブサイトに掲載されている内閣官房長官の記者会見の記録を確認させたところによると,原処分時点より以前の時期である特定年月日の同長官の記者会見において,記者からの質問に対して,同長官が,特定個人の一行が特定の外遊から帰国した際にPCR検査を受け,陰性であった旨の説明をしていることが認められる。

   そうすると,特定個人の特定の外遊に関連して受検した新型コロナウイルス感染症に関する検査等の結果の情報については,法5条1号ただし書イにいう法令により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報に該当すると認められる。

そして,特定個人の特定の外遊に関連して受検した新型コロナウイルス感染症に関する検査等の結果の情報を公にした上記の内閣官房長官の記者会見の時期が,原処分時点より以前の時期だったことを考慮すると,当該情報と同様の情報と考えられる,本件開示請求以前に行われた特定個人のその他の外遊に関連して受検した新型コロナウイルス感染症に関する検査等の結果の情報についても,原処分時点において,法5条1号ただし書イにいう法令により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報に該当すると認めることが相当である。

したがって,特定個人の外遊に関連して受検した新型コロナウイルス感染症に関する検査等の結果に係る情報(以下「外遊関連検査情報」という。)は,原処分時点において,法5条1号ただし書イに該当し,同号に該当しないと認められ,その存否を明らかにできることから,当該情報が記載された文書につき,その存否を明らかにして,改めて開示決定等をすべきである。


3 審査請求人のその他の主張について

(1)審査請求人は,特定個人の健康に関する情報は,広く公益を有するなどとして,法7条に基づく裁量的開示を求めているものと解されるが,本件対象文書(外遊関連検査情報が記載された文書を除く。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否すべきものと認められる本件においては,同条は適用できない。


(2)審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条1号に該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定については,当該情報のうち,外遊関連検査情報を除く情報は同号に該当すると認められるので,開示請求を拒否したことは妥当であるが,外遊関連検査情報は同号に該当せず,その存否を明らかにして改めて開示決定等をすべきであることから,取り消すべきであると判断した。


(第1部会)

  委員 合田悦三,委員 木村琢麿,委員 中村真由美