諮問庁 防衛大臣
諮問日 令和 3年11月25日(令和3年(行情)諮問第515号)
答申日 令和 4年 8月 8日(令和4年度(行情)答申第182号)
事件名 特定基地拡張に伴う用地取得に係る不動産売買契約書の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「国有財産台帳,国有財産目録及び不動産売買契約書」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,土地所有者の氏名及び住所並びに平均金額及び価格の部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和3年6月3日付け関防総総第6637号により北関東防衛局長(以下「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,原処分の取消しを求める。


2 審査請求の理由

(1)土地収用に関する経緯及び価格を確認するため行政文書開示請求を行い,処分庁から原処分を受けた。


(2)処分庁は,その理由を個人に関する情報であり,公にすることにより個人の権利利益を害する恐れがあることから,法5条1号に該当するものと判断したためとしている。


(3)しかしながら,原処分は,不動産売買契約のうち土地所有者及び代理人の氏名,住所は法務局で調査可能である内容のため,個人の権利利益を害する恐れがあると考えにくい。価格に関しては,半世紀以上前の事業であり,個人の権利利益に影響を及ぼす恐れはないと考えられる。


(4)原処分により,審査請求人は被相続人の売買価格が確認できない状況にあり,利益を侵害されている。


(5)以上の点から,原処分(のうち不動産売買契約書の,土地所有者及び代理人の氏名,住所並びに平均金額及び価格)の取り消しを求めるため,本審査請求を提議した。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 経緯

本件開示請求は,「特定基地拡張に伴う用地取得に関する文書 国有財産台帳及び国有財産台帳登録資料(国有財産目録,不動産売買契約書)」の開示を求めるものであり,処分庁はこれに該当する行政文書として本件対象文書を特定し,令和3年6月3日付け関防総総第6637号により,法5条1号に該当する部分を不開示とする原処分を行った。

本件審査請求は,原処分に対して提起されたものである。


2 法5条該当性について

不動産売買契約書のうち,土地所有者及び代理人の氏名,住所及び印影については,個人に関する情報であり,また,平均金額及び価格については,公にすることにより個人の権利利益を害するおそれがあることから,法5条1号に該当するものと判断したため不開示とした。


3 審査請求人の主張について

審査請求人は,「原処分は,不動産売買契約のうち土地所有者及び代理人の氏名,住所は法務局で調査可能である内容のため,個人の権利利益を害する恐れがあると考えにくい。価格に関しては,半世紀以上前の事業であり,個人の権利利益に影響を及ぼす恐れはないと考えられる。原処分により,審査請求人は被相続人の売買価格が確認できない状況にあり,利益を侵害されている。」として,原処分(のうち不動産売買契約書の,土地所有者及び代理人の氏名,住所並びに平均金額及び価格)の取消しを求めるが,上記2のとおり,本件対象文書の一部については,原処分時においても法5条1号に該当すると判断したため不開示としたものである。

よって,諮問庁としては,審査請求人の主張には理由がなく,原処分を維持することが妥当である。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

   ① 令和3年11月25日  諮問の受理

   ② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

   ③ 同年12月14日    審議

   ④ 令和4年7月7日    委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議

   ⑤ 同年8月1日      審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件対象文書は,「国有財産台帳,国有財産目録及び不動産売買契約書」である。

審査請求人は,不開示部分の開示を求めており,諮問庁は原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の見分結果に基づき,不開示情報該当性について検討する。


2 不開示情報該当性について

(1)土地所有者及び代理人の氏名,住所及び個人の印影について

ア 当審査会において本件対象文書を見分したところ,不動産売買契約書の不開示部分には,土地所有者及び代理人の氏名,住所及び個人の印影の記載が認められる。

諮問庁は,当該不開示部分について,個人に関する情報であるとして,法5条1号に該当するため不開示とした旨説明するが,個人が所有する土地の所在地を本件対象文書において開示していることから,土地所有者の氏名及び住所については,不動産登記簿を閲覧すること等により,何人でも知ることが可能なものであり,慣行として公にされているものと認められる。

したがって,当該不開示部分のうち,土地所有者の氏名及び住所については,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当するが,同号ただし書イの法令の規定により又は慣行として公にされ又は公にすることが予定されている情報に該当すると認められることから,同号に該当せず開示すべきである。


イ しかしながら,上記アのとおり土地所有者が明らかとなった場合でも,当該不開示部分における個人の印影は,単に氏名を表示するものとして押なつされたものではなく,土地の売買契約が真正に成立したことを示すものとして押なつされていると認められ,このような使用状況からみて,慣行として公にされ又は公にすることが予定されている情報に該当するとは認められない。また,代理人の氏名及び住所についても,不動産登記簿の閲覧等では知ることができない情報であることから,当該不開示部分のうち,代理人の氏名,住所及び個人の印影については,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当し,同号ただし書イないしハに該当する事情も認められず,個人識別部分に該当すると認められることから,法6条2項による部分開示の余地はなく,同号に該当し,不開示とすることが妥当である。


(2)平均金額及び価格について

ア 当審査会において本件対象文書を見分したところ,不動産売買契約書の不開示部分には,平均金額及び価格の記載が認められる。

当該不開示部分を不開示とした理由について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁から次のとおり説明があった。

    当該不開示部分の不動産売買契約書に記載されている平均金額及び価格については,算定した資料が保存期間満了により廃棄されていることから,詳細を確認することはできないが,自衛隊の施設用地を取得する場合は「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱」(昭和37年6月29日閣議決定。以下「損失補償基準要綱」という。)等に基づき,正常な取引価格をもって補償することとされており,具体的には不動産鑑定士による不動産鑑定評価の結果を踏まえ,土地価格を算定している。当該価格については,国有財産台帳及び国有財産目録(以下「台帳等」という。)に記載してはいるが,複数の売買契約がまとめて計上されているものもあり,必ずしも台帳等に記載された価格と個別の売買価格が一致するものではないことから,土地所有者及びその家族の権利利益を害するおそれがあると判断し,これを不開示とした。


イ 上記アで諮問庁が説明するとおり,当該不開示部分には平均金額及び価格が記載されているところ,大阪府土地開発公社による公共事業用地の代替地の取得に関連する不開示決定に係る最高裁判決(最高裁判所平成18年7月13日第一小法廷判決・集民220号749頁)は,「大阪府における事業用地の取得価格は,「公共用地の取得に伴う損失補償基準」等に基づいて,公示価格との均衡を失することのないよう配慮された客観的な価格として算定された価格を上限とし,正常な取引価格の範囲内で決定され,公社による代替地の取得価格及び譲渡価格は,公示価格を規準とし,公示価格がない場合又はこれにより難い場合は近傍類地の取引価格等を考慮した適正な価格によるものとされているというのである。そうすると,当該土地の買収価格等に売買の当事者間の自由な交渉の結果が反映することは比較的少ないというべきである。そして,当該土地の買収価格等に影響する諸要因,例えば,駅や商店街への接近の程度,周辺の環境,前面道路の状況,公法上の規制,当該土地の形状等については,一般に周知されている事項か,容易に調査することができる事項であり,これらの価格要因に基づいて上記のとおり決定される価格及びその単価は,一般人であればおおよその見当をつけることができる一定の範囲内の客観的な価格であるということができる。したがって,上記の買収価格等をもって公社に土地を買収され,又は公社から土地を取得したことは,個人である土地の所有者等にとって,私事としての性質が強いものではなく,これに関する情報は,性質上公開に親しまないような個人情報であるとはいえない。」旨判示している。


ウ そうすると,本件用地取得のための不動産売買契約における平均金額及び価格についても,損失補償基準要綱等に基づき,正常な取引価格をもって補償するとしており,上記判決に係る事案の買収価格等との比較において,その情報の性質に異なるところはないのであって,法5条1号本文後段に定める個人に関する情報であって,特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがある情報であると認められるが,同号ただし書イに規定する「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当するものと認められる。

したがって,当該不開示部分である平均金額及び価格については,法5条1号の不開示情報に該当せず,開示すべきである。


3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号に該当するとして不開示とした決定については,土地所有者の個人の印影並びに代理人の氏名,住所及び個人の印影の部分は,同号に該当すると認められるので,不開示としたことは妥当であるが,土地所有者の氏名及び住所並びに平均金額及び価格の部分は,同号に該当せず,開示すべきであると判断した。


(第2部会)

  委員 白井玲子,委員 太田匡彦,委員 佐藤郁美