諮問庁 厚生労働大臣
諮問日 令和 2年10月13日(令和2年(行情)諮問第519号)
答申日 令和 4年 8月 8日(令和4年度(行情)答申第179号)
事件名 特定事業場への是正指導文書控(特定年度分)の不開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

   「平成28年度 特定事業場への是正指導文書控(是正勧告書控と指導票控)」(以下「本件対象文書」という。)につき,その全部を不開示とした決定について,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分については,別表の4欄に掲げる部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

  本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和2年5月12日付け千労発基0512第7号により千葉労働局長(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。


2 審査請求の理由

  審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書によると,おおむね以下のとおりである。

  本件対象文書には,法5条4号に該当する情報は含まれていない。

本件対象文書には法5条6号イに該当するものが記載されている部分はない。


第3  諮問庁の説明の要旨

諮問庁の説明は,理由説明書及び補充理由説明書によると,おおむね以下のとおりである。

1 理由説明書

(1)本件審査請求の経緯

ア 審査請求人は,令和2年3月25日付け(同月27日受付)で処分庁に対し,法の規定に基づき,本件請求文書について開示請求を行った。


イ これに対して処分庁が,本件対象文書について不開示決定の原処分を行ったところ,審査請求人はこれを不服として,令和2年7月14日付け(同月15日受付)で本件審査請求を提起したものである。


(2)諮問庁としての考え方

本件対象文書については,原処分で不開示とした情報のうち,一部を開示し,法の適用条項について法5条2号イを加えた上で,その余の部分については原処分を維持して不開示とすることが妥当であると考える。


(3)理由

ア 本件対象文書の特定について

本件対象文書は,「平成28年度 特定事業場への是正指導文書控(是正勧告書控と指導票控)(別紙記載分)」であり,特定労働基準監督署において探索を行ったところ,「平成28年度に,特定労働基準監督署が特定事業場へ交付した是正勧告書及び指導票」が対象行政文書に該当するものと特定した。


イ 不開示情報該当性について

(ア)法5条2号イ該当性

本件対象文書には,特定事業場が特定労働基準監督署から労働法令違反がある旨の指摘を受けたという事実の有無が記載されているが,審査請求人が開示請求時に別紙として提出した,千葉労働局の平成28年特定日付けプレスリリースによると,本件審査請求に係る案件と同一の案件(特定事業場において違法な時間外労働をさせた事案)について,千葉労働局長が労働基準法32条違反に関して是正勧告書を交付したこと,また全社的に是正するよう指導票を交付したことを既に公表していると認められることから,プレスリリースで公表している範囲で,是正勧告書及び指導票の不開示情報該当性は認められず,公表していない箇所については不開示情報該当性が認められる。

よって,不開示情報該当性が認められる箇所について,本件対象文書が公にされた場合,当該特定事業場に対する信用を低下させ,取引関係や人材確保等の面において,同業他社との間で競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,本件対象文書を開示することは,法5条2号イの「公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」である。


(イ)法5条4号及び6号イ該当性について

本件対象文書には,特定労働基準監督署が行った監督指導の手法や詳細,また,当該特定事業場が特定労働基準監督署との信頼関係を前提として誠実に明らかにした事業場の実態に関する情報等が記載されている。これらが公にされた場合には,事業場や労働者と特定労働基準監督署との信頼関係が失われ,事業場や労働者が関係資料の提出や特定労働基準監督署に対する情報提供に協力的でなくなり,また,事業場においては,指導に対する自主的改善意欲を低下させ,特定労働基準監督署に対する関係資料の提出等情報提供にも一切協力的でなくなり,ひいては労働関係法令違反の隠蔽を行うようになるなど,犯罪の予防に支障を及ぼすおそれがあり,かつ,労働基準行政機関が行う事務に関する情報であって,検査事務という性格を持つ臨検監督指導業務に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法な行為の発見を困難にするおそれがある。

したがって,これらの情報は,法5条4号及び同6号イに該当するため,原処分を維持して不開示とすることが妥当である。


ウ 審査請求人の主張について

    審査請求人は,審査請求書の中で,「当該不開示決定について,法5条4号及び6号イに該当しない」と主張しているが,不開示情報該当性については,上記(3)イで示したとおりであることから,審査請求人の主張は失当である。


(4)結論

以上のとおり,本件審査請求については,原処分の不開示箇所を一部開示し,法の適用条項について法5条2号イを加えた上で,原処分を維持して不開示とすることが妥当である。


2 補充理由説明書

諮問庁においては,原処分で不開示とした情報のうち,一部を開示し,その余は原処分を維持して不開示すべきものとして諮問したものであるが,以下のとおり追加する。

(1)法5条1号の不開示情報該当性について

本件対象行政文書には,個人に関する情報であって,公にすることにより特定の個人を識別することができる情報が含まれており,法5条1号の不開示情報に該当し,かつ,同号ただし書イからハまでのいずれにも該当しないことから,不開示を維持することが妥当である。


(2)結論

以上のとおり,本件審査請求については,原処分の不開示箇所を一部開示し,法の適用条項について,法5条1号及び2号イを加えた上で,原処分を維持して不開示とすることが妥当である。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和2年10月13日  諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 同月29日       審議

④ 令和4年5月31日   委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議

⑤ 同年6月28日     諮問庁から補充理由説明書を収受

⑥ 同年8月1日      審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

  本件開示請求に対し,処分庁は,本件対象文書について,法5条4号及び6号イに該当するとして不開示とする原処分を行ったところ,審査請求人は,原処分の取消しを求めている。

  これに対し,諮問庁は,原処分における不開示部分のうち一部を新たに開示することとし,その余の部分については,不開示部分に係る法の適用条項を法5条1号,2号イ,4号及び6号イとした上で,原処分を妥当としている。

本件開示請求は,特定事業場の法人名を特定した上で,当該特定事業場に対して監督指導が行われたことを前提として,特定監督署から出された是正指導文書控の開示を求めるものであり,開示決定に際して,本件対象文書が存在しているかどうかを答えるだけで,特定事業場において労働関係法令違反があった事実の有無を明らかにすることと同様の結果を生じさせることになると認められることから,本来,法8条の規定により,本件対象文書の存否を明らかにしないでこれを拒否(存否応答拒否)すべきであったとも考えられる。

以下,本件対象文書を見分した結果を踏まえ,存否応答拒否をすべきであったか及び不開示部分の不開示情報該当性について検討する。

なお,本件においては,不開示部分の全てについて法5条1号,2号イ,4号及び6号イが主張されているものとして,以下,検討を行う。


2 存否応答拒否をすべきであったかについて

(1)本件対象文書に関する特定事業場に対する監督指導については,千葉労働局から平成28年特定日付けで報道機関向けにプレスリリースがなされているが,本件開示請求までは3年10か月余りが経過しており,一般的には,本件開示請求時点では,公表資料の記載内容は,もはや慣行として公にされている情報とは認められないとすることが相当と解される。したがって,通例であれば,存否応答拒否により対応することが妥当と考えられる。


(2)しかしながら,本件開示請求に対し,処分庁は,本件対象文書を特定した上で,全部不開示とする原処分を行っている。この点について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところによると,プレスリリースが本件開示請求書に添付されていたことを踏まえ,存否応答拒否ではなく本件対象文書を特定したとのことであった。


(3)当審査会事務局職員をして確認させたところによると,当該特定事業場のウェブサイトには,平成28年に特定監督署から是正指導を受けた旨が公表されており,閲覧ができる状態となっている。


(4)本件においては,このように,当該特定事業場のウェブサイトに是正指導を受けたことが公表されており,インターネット検索において何人でも確認できる状況であることから,処分庁において存否応答拒否としなかったことは妥当であると認められる。


3 不開示情報該当性について

(1)開示すべき部分(別表の4欄に掲げる部分)について

ア 通番7及び通番8(1)

通番7及び通番8(1)は,指導票(控)の様式中の定型文であり,法5条1号に規定する個人に関する情報が記載されているとは認められない。また,当該部分は,これを公にしても,対象事業場の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,労働基準監督機関が行う監督指導に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるとも認められない。

また,犯罪の予防,鎮圧そのほか公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるとも認められない。

したがって,当該部分は,法5条1号,2号イ,4号及び6号イのいずれにも該当せず,開示すべきである。


イ 通番6及び通番8(2)

通番6は,是正勧告書(控)のうち,全体の枚数等を記載する欄であり,諮問庁が新たに開示するとしている是正勧告書(控)の枚数である。通番8(2)は,諮問庁が新たに開示するとしている指導票(控)に記載された内容の一部であるが,諮問庁が新たに開示するとしている内容等から推認できる内容である。これらの部分はこれを公にしても,対象事業場の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,法5条2号イに該当しない。また,上記アと同様の理由により,同条1号,4号及び6号イのいずれにも該当せず,開示すべきである。


(2)その余の部分(別表の3欄に掲げる部分を除く部分)について

ア 通番1ないし通番4,通番7及び通番8

当該部分は,是正勧告書(控)に記載された,違反内容の概要,「法条項等」,「違反事項」及び「是正期日」の各欄の記載並びに指導票(控)に記載された,報告期日及び「指導事項」欄の記載である。

  当該部分には,法違反内容,是正勧告又は指導の具体的な内容及び報告期日等の具体的な内容が記載されており,これらを公にすると,特定事業場に対する信用を低下させ,取引関係や人材確保等の面において当該事業場の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあると認められる。

したがって,当該部分は,法5条2号イに該当し,同条1号,4号及び6号イについて判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。


イ 通番5,通番9

当該部分は,是正勧告書を受領した特定事業場の役職員の署名及び印影であり,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当する。

次に法5条1号ただし書該当性について検討すると,当該部分の記載は,特定個人の自署による署名及び印影であると認められるところ,当該個人の氏名が公にされているとしても,自署による署名や私印の印影まで公にする慣行があるとは認められないため,同号ただし書イに該当せず,同号ただし書ロ及びハにも該当する事情は認められない。

また,個人識別部分であることから,法6条2項に基づく部分開示の余地もない。

したがって,当該部分は,法5条1号に該当し,同条2号イ,4号及び6号イについて判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。


4 付言

本件開示請求は,特定事業場の法人名を特定した上で請求されているところ,存否応答拒否ではなく本件対象文書を特定したことは妥当であったことについては,上記2で述べたとおりである。

しかし,関連事実が公にされていることを踏まえるのであれば,処分庁としては,プレスリリースにより公にされている情報に照らして,本件対象文書について開示・不開示の検討を具体的に行わなければならなかったものと考えられる。原処分及びその不開示決定通知書の記載については,処分としての一貫性に欠ける点があるものと思料される。

処分庁においては,今後,適切な対応が望まれる。


5 本件不開示決定の妥当性について

  以上のことから,本件対象文書につき,その全部を法5条4号及び6号イに該当するとして不開示とした決定について,諮問庁が同条1号,2号イ,4号及び6号イに該当するとしてなお不開示とすべきとしている部分のうち,別表の3欄に掲げる部分を除く部分は,同条1号及び2号イに該当すると認められるので,同条4号及び6号イについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当であるが,同欄に掲げる部分は,同条1号,2号イ,4号及び6号イのいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。


(第3部会)

委員 長屋 聡,委員 久末弥生,委員 葭葉裕子





別表 不開示情報該当性(全て1号,2号イ,4号及び6号イ該当性)

1 文書名

2 欄等の名称

3 諮問庁がなお不開示としている部分

4 3のうち開示すべき部分

該当箇所

通番

是正勧告書(控)

本文

1行目16文字目ないし最終文字,2行目3文字目ないし27文字目

「法条項等」

3行目以降全て

「違反事項」

1行目17文字目ないし最終文字,2行目1文字目ないし10文字目,3行目以降全て

「是正期日」

1行目及び3行目以降全て

「受領者職氏名」

署名,印影

(○枚のうち○枚目)欄

全て

全て

指導票(控)

本文

2行目

本文2行目1文字目ないし13文字目,19文字目ないし最終文字

「指導事項」

全て

(1)1頁1行目

(2)1頁5行目23文字目ないし40文字目,2頁9行目34文字目ないし10行目12文字目

「受領者職氏名」

署名,印影

(注)上表は,当審査会事務局において作成した。