諮問庁 | : | 法務大臣 |
諮問日 | : | 令和 3年11月16日(令和3年(行情)諮問第487号) |
答申日 | : | 令和 4年 6月23日(令和4年度(行情)答申第84号) |
事件名 | : | 特定個人に係る死刑執行上申書等の不開示決定(存否応答拒否)に関する件 |
第1 | 審査会の結論 |
別紙に掲げる文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,妥当である。
第2 | 審査請求人の主張の要旨 |
1 審査請求の趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和3年6月16日付け法務省刑総第530号により法務大臣(以下「法務大臣」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)を取り消す,との裁決を求める。
2 審査請求の理由
審査請求人の主張する審査請求の理由の要旨は,審査請求書及び意見書によると,おおむね以下のとおりである。
(1)審査請求書
ア 法5条1号該当性
本件は,審査請求人が,執行事務規程9条に基づき,死刑囚であった亡特定個人の執行指揮検察官の属する検察庁の長が,法務大臣に提出した死刑執行上申書の一切,及び同書の添付資料の一切の開示を求めるものである。
確かに,これらの文書の中には,個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができる情報等が含まれる可能性があること自体は否定できない。
しかし,その全部の情報が,特定の個人を識別することができる情報等に該当するわけではなく,その全部を不開示とすることは誤りである。
とりわけ,亡特定個人は,広く市民の支援を得て,再審請求をしてきた者であり,亡特定個人に関する情報の多くは公知の事実であると評価すべきである。
イ 法5条4号該当性
そして,これらの文書を開示したとして,「刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ」は全くない。いかなる理由にもとづき,このようなおそれがあるというのか,抽象的な漠然とした理由ではなく,具体的な理由を明らかにされたい。
ウ 当該行政文書の開示がなされるべき必要性
亡特定個人は,冤罪を晴らすべく亡くなるまで再審請求を行ってきたまま,それがかなうことなく,獄中に死亡した。そして,亡特定個人の死後は,同氏の特定親族が再審請求を行っている。
本件において,行政文書の開示を求めるのは,亡特定個人の再審無罪を勝ち取るために有益な資料を収集するためのものであり,亡特定個人,及びその遺族の無念を思えば,行政文書開示の必要性は極めて高い。
(2)意見書
ア はじめに
令和3年(行情)諮問第487号諮問事件について,諮問庁である法務大臣により提出された理由説明書に対して,以下のとおり,意見を申し述べる。
諮問庁は,本件開示請求につき,法5条1号所定の個人に関する情報及び法5条4号所定の公にすることにより刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められることにつき相当の理由がある情報が開示されることと同様の結果を生じるから,法8条の規定に基づき,不開示決定処分(原処分)を行った処分庁の判断が相当である旨の意見を述べている。
しかしながら,本件開示請求に係る行政文書には,法5条1号もしくは同条4号所定の不開示情報は含まれておらず,原処分は誤りである。
以下,その理由を説明する。
イ 法5条所定の不開示情報該当性判断について
(ア)法5条本文は,「行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下,第2において「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない。」と規定し,行政文書に不開示情報が記載されている場合に非開示とすることを許容している。
(イ)ところで,法1条は,法の目的につき,「国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資すること」である旨規定している。
このように,法に基づく情報公開は,憲法上認められた国民の知る権利の保障と行政作用に対する国民の参加・監視を通して民主主義の実現のための制度であることからすれば,法5条各号所定の不開示情報に該当するか否かの判断は,法1条所定の目的を阻害することのないよう,その該当性は厳格に判断されなければならない。
(ウ)とりわけ,本件開示請求は,長年にわたって冤罪であることを訴え,再審請求の闘いを継続している亡特定個人の死刑執行に関する行政文書の開示を求めるものである。国家が死刑の執行をするかどうか,するとしてどのようなプロセスで行うかどうか等の情報は,国民主権の理念にのっとり,政府が国民に対し説明する責務が全うされるべきものである。国家による十分な説明の履践がなされて,はじめて,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な死刑の執行が実現されるというべきであるからである。
ウ 法5条1号「個人に関する情報」の該当性について
(ア)本件は,審査請求人が,執行事務規程9条に基づき,死刑囚であった亡特定個人の執行指揮検察官の属する検察庁の長が,法務大臣に提出した死刑執行上申書の一切,及び同書の添付資料の一切の開示を求めるものである。
(イ)確かに,これらの文書の中には,個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができる情報等が含まれる可能性があること自体は否定できない。
(ウ)しかし,その全部の情報が,特定の個人を識別することができる情報等に該当するわけではなく,その全部を不開示とすることは誤りである。
更に,仮に「個人に関する情報」に該当するとしても,「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」(法5条1号イ)に該当するため,不開示とすることは誤りである。とりわけ,亡特定個人は,広く市民の支援を得て,再審請求をしてきた者であり,亡特定個人に関する情報の多くは公知の事実であると評価すべきである。
エ 法5条4号該当性
(ア)そして,これらの文書を開示したとして,「刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれ」は全くない。
(イ)法の趣旨目的からすれば,同4号の「おそれ」,は具体的・現実的な危険性があることを行政機関の長が論証しなければならないと解すべきである。
(ウ)この点につき,法務大臣は,情報が開示されれば,「死刑確定者(未執行者)が自らの執行時期を予想しようと試みる者もおり,死刑の執行に関する情報は,たとえ断片的なものであっても,開示されれば,それを基に死刑確定者(未執行者)が自らの執行時期等を予想し,次に死刑を執行されるのは自分ではないかなどと憶測を巡らせて精神的に強く動揺し,刑事施設からの逃走を試みたり,食事を摂らなくなるなどして著しく健康を害したり,あるいは絶望感から自殺を試みる事態に至るおそれもある。そうなれば収容業務に著しい支障を来たすばかりか,確定した裁判が実現されず,今後の安定的な死刑の執行に対する重大な支障を招きかねない。」などとして,法5条4号に該当する旨主張している。
しかしながら,上記法務大臣の説明は,極めて抽象的漠然とした不安・危険を殊更大げさに取り立てて論述するものに過ぎず,何ら具体的な危険性の論証となっていないことは明白である。
とりわけ,亡特定個人は,死刑が未執行のまま,既に死亡している。そのため,本件開示請求に係る行政文書を開示したとしても,当該死刑囚自身の逃亡や,自殺等の危険性は皆無であることはいうまでもない。そうであるとすれば,何らかの危険を危惧する対象は亡特定個人以外の死刑囚であることは明白であるところ,亡特定個人に関する文書が公開されたとして,他の死刑囚が逃亡を図ったり,自殺を図ったりする等の懸念は,あまりにも荒唐無稽な立論であるというべきである。このような荒唐無稽な抽象的漠然とした危険があることを理由に,不開示決定を下すことは,前述の法の目的を没却するものであり,誤りであることは明白である。
(エ)なお,仮に,法務大臣が危惧する危険性の存在を一旦肯定するにしても,昭和44年の国際反戦デー闘争等において公務執行妨害等の罪名で起訴された勾留中の被疑者が,新聞を定期購読していたところ,たまたま発生した日航機「よど号」乗っ取り事件に関する新聞記事を拘置所長が全面的に抹消したので,その抹消処分は「知る権利」を侵害したとして争われた「よど号」ハイジャック新聞記事抹消事件において,最高裁が,新聞閲読の自由の制限は在監目的を達するために「真に必要と認められる限度にとどめられるべき」だとし,監獄長の抹消処分が許される限度について,閲読を許すことにより監獄内の紀律および秩序の維持にとって障害が生ずる「相当の蓋然性」があると認められることが必要である,と判示して,抹消処分は適法であるとしたことからすれば(最大判昭和58・6・22民集37巻5号793頁),各死刑囚が在監する刑事施設の長が,上記のように法務大臣が何らかの弊害があると考えている内容の文書の閲読を許すことにより監獄内の紀律及び秩序の維持にとって障害が生ずる「相当の蓋然性」があるとの判断をした上で,どれらの文書の全部もしくは一部の内容を抹消すれば事足りることは明白である。
したがって,法務大臣の説明には全く根拠がないというべきである。
オ 結論
以上のとおり,本件開示請求にかかる文書は,法5条1号にも,同4号にも該当せず,原処分が誤りであることは明らかである。
第3 | 諮問庁の説明の要旨 |
1 開示請求の内容及び処分庁の決定
(1)開示請求の内容
本件開示請求は,本件対象文書を対象としたものである。
(2)処分庁の決定
処分庁は,上記の文書の存否を答えることにより,法5条1号所定の個人に関する情報及び法5条4号所定の公にすることにより刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められることにつき相当の理由がある情報が開示されることと同様の結果を生じることから,法8条の規定に基づき,不開示決定処分(原処分)を行ったものである。
2 諮問庁の判断及び理由
(1)死刑の執行に関する情報の一般的性質
ア 「個人に関する情報」(法5条1号)に該当すること
法5条1号は,「個人に関する情報」を不開示情報としている。
同情報には,個人の思想,信条,身分,地位,健康状態,その他一切の個人に関する情報が含まれるところ,特定の死刑確定者に係るその執行状況に関する情報は,本人やその家族等の関係者にとって最も知られたくない個人情報の一つであり,「個人に関する情報」に該当する。
また,死者の外部的名誉や人格的価値に対しても法律上の保護が与えられるべきものであることから,同号の「個人」には死者も含むと解されており,ゆえに死刑を執行された者及び死刑確定後であって死刑執行前に病死等により死亡した者に関する情報も含まれる。
さらに,そもそも,国家の刑罰権の作用は,本来,刑の執行そのものに限られ,国家機関が刑の執行の事実を殊更に公表することにより,受刑者やその関係者に,刑罰が本来予定している以上の不利益や精神的苦痛を与えることは厳に慎むべきところ,情報公開制度においては,情報開示を受けた国民に対し,守秘義務を課しておらず,情報開示に伴う弊害の有無・程度については,報道やインターネット等を通じ,開示した情報が国民に広く公開され,また流布されることもあり得ることを前提として慎重に検討されなければならない。
加えて,死刑を執行された者及び死刑確定後であって死刑執行前に病死等により死亡した者に関する情報は,その者の名誉やプライバシーヘの配慮にとどまらず,その家族や,被害者,その遺族等のプライバシーや生活の平穏に対しても,慎重かつ細心の配慮を行う必要があるのであって,このような意味で個人情報の中でも極めて配慮を要するものであると言わなければならない。
イ 「公共の安全等に関する情報」(法5条4号)に該当すること
さらに,死刑の執行に関する情報は,これから死刑という極刑の執行を待つ死刑確定者(未執行者)にとっては,極めて強い関心を有する事柄である。
死刑確定者(未執行者)の中には,情報公開を含め様々な手段を駆使して死刑の執行に関する情報を収集し,自己に対する刑の執行日等を予想しようと試みる者もおり,死刑の執行に関する情報は,たとえ断片的なものであっても,開示されれば,それを基に死刑確定者(未執行者)が自らの執行時期等を予想し,次に死刑を執行されるのは自分ではないかなどと憶測を巡らせて精神的に強く動揺し,刑事施設からの逃走を試みたり,食事を摂らなくなるなどして著しく健康を害したり,あるいは絶望感から自殺を試みる事態に至るおそれもある。そうなれば収容業務に著しい支障を来すばかりか,確定した裁判が実現されず,今後の安定的な死刑の執行に対する重大な支障を招きかねない。
このように,究極の刑罰である死刑の執行に関する情報は,法5条4号の「公共の安全等に関する情報」にも該当し,その取扱いに当たっては,他の刑罰と比べても特に慎重を期すべきものである。
ウ 死刑の執行に関する情報の公表状況等について
そのため,死刑の執行に関する情報については,その刑罰権行使が適正に行われていることについて国民の理解を得る必要もあり,可能な範囲で情報を公開するべきものと考えられる一方で,その公開に当たっては,前記のような慎重な対応が求められることから,法務省では,現在,平成19年12月7日の死刑の執行から,死刑を執行された者については,氏名,生年月日,犯罪事実及び執行場所のみを公表しており,死刑確定後であって死刑執行前に病死等により死亡した者については,平成20年以降,死亡後に氏名,生年月日,収容場所及びその死亡理由の限度で公表している。
(2)本件対象文書の存否応答拒否の理由及び審査請求人の主張に対する反論
ア 本件対象文書の存否応答拒否の理由
(ア)死刑の執行に関する情報が法5条1号に該当するものであることは上記(1)アで述べたとおりであるところ,当該死刑確定者に対して死刑執行の上申がなされたか否かについても,当然に「個人に関する情報」に該当するところである。よって,本件対象文書の存否を答えることは,当該死刑確定者に対して死刑執行の上申がなされたか否かという事実を明らかにすることとなるため,法5条1号に該当する情報を開示することとなる。
(イ)また,死刑の執行に関する情報が法5条4号に該当するものであることは上記(1)イで述べたとおりであるところ,死刑執行の上申に関する本件対象文書については,その存否を答えることのみで法5条4号に該当する情報を開示することになるものである。
すなわち,死刑の執行に係る審査手続に関する情報は,その手続的経過に関する情報を含めて,とりわけ,これから死刑という極刑の執行を待つ死刑確定者(末執行者)にとって,極めて強い関心を有する事項であるところ,死刑執行の上申手続は,死刑の執行に係る審査手続の一環であることから,この死刑の執行に係る審査手続に関する情報には,死刑執行の上申に関する情報も含まれる。
このため,死刑執行以外の事由により死亡した死刑確定者又は他の死刑確定者(未執行者)について,一たび死刑執行の上申に関する情報が開示され,当該情報を把握した死刑確定者(未執行者)において,「死刑執行の上申手続があった(又はなかった)」という事実を把握することとなった場合には,そのこと自体によって,その者らの心情の安定が害されるおそれがあることはもとより,それに影響されて死刑の執行を阻止するための様々な措置が講じられる事態を招くおそれがあり,死刑の執行に重大な支障を及ぼすこととなりかねない。
このように,死刑執行の上申に関する情報は,その存否を明らかにすること自体が法5条4号に該当する情報を開示することになるのである。
(ウ)したがって,本件対象文書の存否を答えることは,法5条1号及び4号の不開示情報を開示することになるので,不開示とすべきである。
イ 審査請求人の主張について
(ア)本件審査請求は,原処分を取り消す旨の裁決を求めるものであり,審査請求人は,「これらの文書の中には,個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができる情報等が含まれる可能性があること自体は否定できない。しかし,その全部の情報が,特定の個人を識別することができる情報等に該当するわけではなく,その全部を不開示とすることは誤りである。」と主張する。
しかし,上記ア(ア)のとおり,本件対象文書の存否を答えることは,法5条1号の不開示情報を開示することとなる。
(イ)また,審査請求人は,「とりわけ,亡特定個人は,広く市民の支援を得て,再審請求をしてきた者であり,亡特定個人に関する情報の多くは公知の事実であると評価すべきである。」と主張する。
しかし,現在,法務省においては,上記(1)ウで述べたとおり,死刑を執行された者については,その氏名,生年月日,犯罪事実及び執行場所を公表しており,死刑確定後であって死刑執行前に病死等により死亡した者については,死亡後に氏名,生年月日,収容場所及びその死亡理由を公表しているところであるが,死刑確定者に係るその他の情報については,死刑執行の上申の有無を含め法務省から公表していない。この点,報道機関がその取材に基づき独自に報道した情報や,当該死刑確定者の関係者による発信等がなされた情報は,「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当するとは認められないので,審査請求人の上記主張を採用することはできない。
(ウ)さらに,審査請求人は,本件対象文書を開示したとして,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれは全くない旨主張しているが,上記ア(イ)で述べたとおり,死刑執行の上申に関する情報は,法5条4号の不開示情報に該当する。
3 結論
以上のことから,審査請求人の主張については理由がなく,本件対象文書について,法8条の規定に基づき,不開示とした判断は相当であると考える。
第4 | 調査審議の経過 |
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 令和3年11月16日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年12月22日 審査請求人から意見書を収受
④ 令和4年5月13日 審議
⑤ 同年6月17日 審議
第5 | 審査会の判断の理由 |
1 本件開示請求について
本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであるところ,処分庁は,本件対象文書の存否を答えることにより,法5条1号所定の個人に関する情報及び同条4号所定の公にすることにより刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められることにつき相当の理由がある情報が開示されることと同様の結果を生じることから,法8条の規定に基づき,不開示とする原処分を行った。
これに対し,審査請求人は原処分の取消しを求めているところ,諮問庁は,原処分の判断は相当であるとしていることから,以下,本件対象文書の存否応答拒否の妥当性について検討する。
2 本件対象文書の存否応答拒否の妥当性について
(1)本件開示請求は,特定個人に関する死刑執行上申書等の文書を求めるものであり,本件対象文書の存否を答えることは,特定個人に対して死刑執行の上申がなされた事実の有無(以下「本件存否情報」という。)が開示されるのと同様の結果を生じさせるものと認められる。
(2)法5条1号に規定する「個人に関する情報」には,個人の内心,身体,身分,地位その他個人に関する一切の事項についての事実,判断,評価等全ての情報が含まれるものであり,個人に関する情報全般を意味する以上,死刑執行の上申に係る情報も,当然に当該死刑確定者に係る個人情報であるといえる。
そうすると,本件存否情報は,個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものと認められ,法5条1号本文前段に該当する。
次に,法5条1号ただし書該当性について検討すると,諮問庁は,上記第3の2(1)ウにおいて,死刑確定後であって死刑執行前に病死等により死亡した者については,平成20年以降,死亡後に,氏名,生年月日,収容場所及びその死亡理由の限度で公表している旨説明するところ,死刑執行の上申の有無を公表した事実はうかがえないことから,本件存否情報を広く一般に公にする制度や実態があるものとは認められない。したがって,同号ただし書イには該当せず,また,同号ただし書ロ及びハに該当する事情も認められない。
(3)以上によれば,本件対象文書の存否を答えるだけで,法5条1号の不開示情報を開示することとなるため,同条4号について判断するまでもなく,法8条の規定により,本件対象文書の存否を明らかにしないで,本件開示請求を拒否すべきものと認められる。
3 審査請求人のその他の主張について
審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。
4 本件不開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条1号及び4号に該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定については,当該情報は同条1号に該当すると認められるので,同条4号について判断するまでもなく,妥当であると判断した。
(第1部会) |
委員 合田悦三,委員 木村琢麿,委員 中村真由美
別紙(本件対象文書)
執行事務規程第9条に基づき,死刑囚であった亡特定個人の執行指揮検察官の属する検察庁の長が,法務大臣に提出した死刑執行上申書の一切,及び同書の添付資料の一切