諮問庁 | : | 検事総長 |
諮問日 | : | 令和 3年12月 8日(令和3年(行情)諮問第541号) |
答申日 | : | 令和 4年 6月16日(令和4年度(行情)答申第81号) |
事件名 | : | 特定事件に係る防犯カメラの映像等の不開示決定(適用除外)に関する件 |
第1 | 審査会の結論 |
「特定年月日Aに特定病院での特定事件の実態を記録した防犯カメラの映像とボイスレコーダー(特定警察が当日に押収)」(以下「本件対象文書」という。)につき,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)の規定は適用されないとして不開示とした決定は,妥当である。
第2 | 審査請求人の主張の要旨 |
1 審査請求の趣旨
法3条の規定に基づく開示請求に対し,令和3年9月16日付け特定文書番号をもって特定地方検察庁検事正(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,不服を申し立てる。
2 審査請求の理由
審査請求人の主張する審査請求の理由は,不服申立書によると,おおむね以下のとおりである。なお,添付資料は省略する。
原告と特定病院側は共に病院内の防犯カメラと特定病院側が録音したボイスレコーダーを犯行の実態を証明する決定的証拠と認識を共有し確定している。
憲法14条に保障する法の下の平等に反し,基本的人権を侵害している。憲法は刑法に勝る上位の法である。ゆえに刑法を根拠として,現行犯逮捕の実態の一部始終をとらえた防犯カメラ映像及びボイスレコーダーの音声の公開を阻止することはできない。裁判所が意図的に真実をゆがめようとすることは許されず,防犯カメラの映像及びボイスレコーダーの音声なくして公平中立な裁判はできない。重大な憲法違反である。犯人隠避,犯人幇助,証拠隠滅を図っている。事件の押収物を隠蔽することは社会通念上許されない。現行犯逮捕であるから,実態が映っている決定的証拠である防犯カメラ映像及びボイスレコーダーの音声を基本に裁判をすべきである。開示請求で防犯カメラ映像の存在を認めておきながら,裁判の途中で,犯行現場に防犯カメラがなかったとすることは整合性と合理性がない。防犯カメラ映像及びボイスレコーダーの音声の存在は国側も認めているにも拘わらず,事実関係を無視して,目を閉じて耳をふさいで公平中立な裁判はできない。文書提出命令を出していなければ,事実関係を無視した判決が出されていた。裁判官は公平中立な第三者であるべきなのに,この事件では裁判官も当事者になっている。特定年月日B,申立人は特定地方検察庁特定支部の特定職員に,2回の取調べの映像及び音声記録の開示を求めたが拒否された。
なんの落ち度もない善良な国民の原告を加害者に仕立て上げられたが,犯罪行為も立証できなくて特定罪の立証もできていないということは,原告が主張する虚偽告訴罪が成立しているということである。不起訴により虚偽告訴が証明されているにもかかわらず加害者は野放しにされている。暴行・監禁・拘束した特定病院側は何らの罪も問われず放置されることは法治国家として許されない。その実態は防犯カメラ映像を見れば歴然である。
国は,特定病院特定役職が手先となって犯した虚偽告訴罪(刑法172条)の現行犯の実態が映っている防犯カメラ映像と音声記録を国が抹殺することは法の下の平等(憲法14条)と基本的人権(憲法13条)及び裁判を受ける権利(憲法32条)に反する重大な憲法違反である。
以上の理由により,行政文書不開示決定に対する不服を申し立てる。
第3 | 諮問庁の説明の要旨 |
1 開示請求の内容及び処分庁の決定
(1)開示請求の内容
本件開示請求は,本件対象文書を対象としたものである。
(2)処分庁の決定
処分庁は,本件開示請求は,刑事事件の捜査の過程で取得された押収物の開示を求めるものであり,その存否にかかわらず,その請求自体からして,刑事訴訟法(以下「刑訴法」という。)53条の2第1項の規定により,法の適用が除外される「訴訟に関する書類及び押収物」に該当するとして,不開示決定(原処分)を行った。
2 本件諮問の要旨
審査請求人は,処分庁の決定に対し,不開示決定を取り消し,本件対象文書を開示するとの決定を求めているところ,諮問庁においては,原処分を維持することが妥当であると認めたので,以下のとおり,理由を述べる。
3 「訴訟に関する書類及び押収物」の意義
「訴訟に関する書類」とは,被疑事件・被告事件に関して作成され,又は取得された書類であり,それらは,①刑事司法手続の一環である捜査・公判の過程において作成又は取得されたものであり,捜査・公判に関する活動の適正確保は,司法機関である裁判所により図られるべきであること,②刑訴法47条により,公判開廷前における「訴訟に関する書類」の公開を原則として禁止する一方,被告事件終結後においては,刑訴法53条及び刑事確定訴訟記録法により,一定の場合を除いて何人にも訴訟記録の閲覧を認め,その閲覧を拒否された場合の不服申立てにつき準抗告の手続によることとされるなど,これらの書類は,刑訴法(40条,47条,53条,299条等)及び刑事確定訴訟記録法により,その取扱い,開示・不開示の要件・開示手続等が自己完結的に定められていること,③類型的に秘密性が高く,その大部分が個人に関する情報であるとともに,開示により犯罪の捜査,公訴の維持その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれが大きいものであることから,「訴訟に関する書類」については,法の適用除外とされたものである。
また,「押収物」とは,被疑・被告事件の究明並びに没収刑の確保に資するため,刑訴法所定の手続により捜査機関が差押え又は領置した証拠物及び没収すべき物であり,上記「訴訟に関する書類」①及び③と同様の性質を持つものであることから,法の適用除外とされているものである。
なお,刑訴法53条の2は,その適用除外の対象について,「訴訟記録」だけに限らず,「訴訟に関する書類及び押収物」と規定していることから,被疑事件・被告事件に関して作成された書類及び押収物の全てが,同条の規定する「訴訟に関する書類及び押収物」に該当し,訴訟記録のほか,不起訴記録等も含む趣旨であると解することが相当である。
4 本件文書が「訴訟に関する書類及び押収物」に該当することについて
本件開示請求は,特定の被疑事件の存在を前提に,当該事件に関する「防犯カメラの映像とボイスレコーダー」の開示を求めるものであるところ,これらの本件対象文書は,刑事事件の捜査の過程で取得された,それ自体が特定の刑事事件記録を構成するものや証拠物であり,刑訴法53条の2第1項に規定する「訴訟に関する書類及び押収物」に該当することは明らかである。
なお,上記3のとおり,「訴訟に関する書類及び押収物」は,訴訟記録のほか,不起訴記録等も含む趣旨であると解することが相当であることから,「訴訟に関する書類及び押収物」に該当するか否かの判断は,当該事件記録に係る事件の起訴,不起訴などにより変わるものではない。
よって,本件対象文書は,特定事件に係る事件記録であり,事件記録は「訴訟に関する書類及び押収物」に該当するため,本件対象文書は,刑訴法53条の2第1項「訴訟に関する書類及び押収物」に該当すると認められる。
5 結論
以上のとおり,本件対象文書は,刑訴法53条の2第1項の「訴訟に関する書類」に該当し,法の適用が除外されるため,処分庁が行った原処分は妥当である。
第4 | 調査審議の経過 |
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 令和3年12月8日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 令和4年4月22日 審議
④ 同年6月10日 審議
第5 | 審査会の判断の理由 |
1 本件開示請求について
本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであるところ,処分庁は,刑訴法53条の2第1項の規定により,法の適用が除外される「訴訟に関する書類及び押収物」に該当するとして,不開示とする原処分を行った。
これに対し,審査請求人は,原処分の取消しを求めているものと解されるところ,諮問庁は,原処分は妥当であるとしていることから,以下,本件対象文書に対する法の規定の適用の可否について検討する。
2 本件対象文書に対する法の規定の適用の可否について
(1)「訴訟に関する書類及び押収物」の意義
刑訴法53条の2第1項は,「訴訟に関する書類及び押収物」については,法の規定を適用しない旨を規定しているところ,同項に定める「訴訟に関する書類及び押収物」とは,被疑事件・被告事件に関して作成又は取得された書類及び押収物をいい,訴訟記録に限らず,不起訴記録等もこれに該当するものと解される。
(2)「訴訟に関する書類及び押収物」該当性
本件開示請求は,特定の被疑事件の存在を前提に,当該事件に関して特定警察が押収した「防犯カメラ映像とボイスレコーダー」の開示を求めるものであることから,本件対象文書は「訴訟に関する書類及び押収物」に該当する旨の諮問庁の上記第3の4の説明は首肯できる。
(3)そうすると,本件対象文書は,刑訴法53条の2第1項の「訴訟に関する書類及び押収物」に該当すると認められるから,法の規定は適用されないものである。
3 審査請求人のその他の主張について
審査請求人は,その他種々主張するが,当審査会の上記判断を左右するものではない。
4 本件不開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,刑訴法53条の2第1項の「訴訟に関する書類及び押収物」に該当し,法の規定は適用されないとして不開示とした決定については,本件対象文書は同項に規定する「訴訟に関する書類及び押収物」に該当すると認められるので,妥当であると判断した。
(第1部会) |
委員 合田悦三,委員 木村琢麿,委員 中村真由美