諮問庁 法務大臣
諮問日 令和 3年 9月 3日(令和3年(行情)諮問第364号)
答申日 令和 4年 6月 2日(令和4年度(行情)答申第48号)
事件名 「死刑確定者と死刑執行に関する要望」の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「特定年月日付け「死刑確定者と死刑執行に関する要望」」(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和3年6月30日付け法務省刑総第598号により法務大臣(以下「法務大臣」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)で不開示とした部分の開示を求める。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由の要旨は,審査請求書及び意見書によると,おおむね以下のとおりである。なお,添付資料は省略する。

(1)審査請求書

ア 本件対象文書は,特定団体が,法務大臣に対して,○○事件をはじめとする特定事件の死刑確定者との面会及び死刑執行の立ち会い等を求めた文書である。


イ 処分庁は,本件対象文書の一部を不開示とした理由として,「(本件対象文書には)特定の個人を識別することができる情報が記載されており,同行政文書は全体として法5条1号本文前段の個人に関する情報に該当することから,同号ただし書イないしハに掲げるものを除き,不開示とした。」と説明している。


ウ しかし,本件対象文書の不開示部分に記載されている情報は,単なる法務大臣に対する要望にすぎず,その要望内容自体「特定の個人を識別することができる情報」(法5条1号本文前段)に該当しないものである。仮に,不開示部分の一部に,特定の個人を識別することができる情報が記載されているとしても,当該部分以外を開示すればよく,全体を不開示にすることは明らかに過剰である。


エ 以上の理由から,本件対象文書の不開示部分は,法5条1号本文前段の「特定の個人を識別することができる情報」に該当しないため,本件処分は,不当であると主張する。


(2)意見書

ア 諮問庁理由説明書(下記第3を指す。)に対する反論

(ア)要望内容の不開示情報該当性について

諮問庁は,不開示部分である本件対象文書記載の要望内容について,「・・・要望提出者の心情を含む要望の内容が記載されていると認められ,その一部でも公にすることで要望提出者の権利利益を害するおそれがないとは認められない・・・」(下記第3の2(2))との理由から,原処分の妥当性を主張している。

しかし,要望提出者が諮問庁である法務大臣に対して本件対象文書を提出した事実及びその要望内容の趣旨(死刑確定者に対する死刑執行の立ち会い等)は,報道等によって,世間に公表されている事実である。

そうすると,本件対象文書記載の要望内容は,法5条1号ただし書イの「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当すると言うべきであり,要望内容の一部を公にすることによって要望提出者の権利利益を害するおそれはないと言うべきである。

なお,諮問庁が挙げている参考答申(令和3年度(行情)答申第45号,同第46号)によると,「本件不開示部分が報道されているとしても,それは,飽くまでも報道機関がその取材に基づき独自に報道したものであるから,それをもって,当該情報が「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当することになると認めることはできない」という旨が記載されている。

しかし,本件は,参考答申の事件とは異なり,要望提出事実及び要望趣旨が,法務省ホームページにおいても公表されている(資料1参照)。

そうすると,不開示部分である要望内容は,法5条1号ただし書イの「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当すると認められるべきである。

よって,要望内容は,法5条1号の不開示事由には該当しないものであると主張する。


(イ)要望内容中の客観的事実経過等部分の不開示情報該当性について

諮問庁は,要望内容中の客観的事実経過等部分について,①「それらの部分を含めた全体が要望提出者の要望であると認められる」,②「その一部でも開示することとすれば,開示する部分の内容の記述の位置等から,要望全体の構成や趣旨・内容が推察されることとなり得る」との理由から,当該部分についての不開示も妥当であると主張している(下記第3の2(2))。以下,これらに対する反論を述べる。

まず,上記①について,客観的事実経過等部分は,そもそも要望には当たらないことは明白であり,また,要望と同一視するべきではない。さらに,当該部分は,要望提出者の心情が含まれないものであり,これが法5条1号の「個人に関する情報」には該当しない。

また,上記②について,仮に客観的事実経過等部分が開示されたとしても,その記述の位置等から,要望全体の構成や趣旨・内容が推察することが,到底できないものであることは,容易に想像できる。つまり,諮問庁は,非現実的な事情から,当該部分を不開示にしているのであり,失当と言わざるを得ない。

よって,要望内容中の客観的事実経過等部分を不開示とした原処分は,不当であると主張する。


イ 結論

以上の理由から,原処分は不当である。よって,諮問庁は,本件対象文書の不開示部分を開示するべきである。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 開示請求の内容及び処分庁の決定

(1)開示請求の内容

本件開示請求は,「特定年月に特定事件被害者が当該事件の死刑確定者の執行立ち会い等を求める要望を行ったことに関する一切の文書」を対象としたものである。


(2)処分庁の決定

処分庁は,本件対象文書を対象文書として特定し,本件対象文書には,特定の個人を識別することができる情報が記載されており,同行政文書は全体として法5条1号本文前段の個人に関する情報に該当することから,同号ただし書イないしハに掲げるものを除き,不開示とし,一部開示決定処分(原処分)を行ったものである。


2 諮問庁の判断及び理由

(1)諮問の要旨

審査請求人は,本件対象文書の不開示部分に記載されている情報は,単なる法務大臣に対する要望にすぎず,その要望内容自体,「特定の個人を識別することができる情報」(法5条1号)に該当しないものであり,仮に,不開示部分の一部に,特定の個人を識別することができる情報が記載されているとしても,当該部分以外を開示すればよく,全体を不開示にすることは明らかに過剰であるため,原処分を取り消し,不開示部分の開示を求めているところ,諮問庁においては,原処分を維持することが妥当であると認めたので,以下のとおり理由を述べる。


(2)不開示情報該当性について

本件対象文書は,諮問庁に提出された特定年月日付け「死刑確定者と死刑執行に関する要望」である。

本件対象文書には,要望標題,要望本文,要望提出日及び氏名等要望提出者に関する情報が記載されており,同対象文書は,全体として法5条1号本文前段の個人に関する情報に該当するものと認められるところ,そのうち,要望標題,要望提出日及び氏名等要望提出者に関する情報については,同号ただし書イの「慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当する情報であるため,同情報を除き,不開示としたものである。

審査請求人は,不開示部分の一部に,特定の個人を識別することができる情報が記載されているとしても,当該部分以外を開示すればよく,全体を不開示にすることは過剰である旨主張するが,不開示部分には,要望提出者の心情を含む要望の内容が記載されていると認められ,その一部でも公にすることで要望提出者の権利利益を害するおそれがないとは認められないことから,部分開示することはできない。

また,要望本文中には,客観的な事実経過等に係る部分も含まれているが,それらの部分を含めた全体が要望提出者の要望であると認められるのであり,その一部でも開示することとすれば,開示する部分の内容や記述の位置等から,要望全体の構成や趣旨・内容が推察されることとなり得るのであるから,上記のとおり部分開示することはできない。

(参考答申:令和3年度(行情)答申第45号,同第46号)


3 結論

以上のとおり,上記不開示部分を不開示とした原処分は妥当である。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和3年9月3日   諮問の受理

② 同日         諮問庁から理由説明書を収受

③ 同月22日      審査請求人から意見書及び資料を収受

④ 同月28日      審議

⑤ 令和4年4月22日  委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議

⑥ 同年5月27日    審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,その一部を法5条1号に該当するとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,不開示部分の開示を求めているところ,諮問庁は,原処分は妥当であるとしていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


2 不開示部分の不開示情報該当性について

(1)当審査会において本件対象文書を見分したところ,本件対象文書は,特定年月日付けで特定団体が法務大臣に宛てた「死刑確定者と死刑執行に関する要望」と題する文書であり,日付,宛先,要望提出者に関する情報,標題及び本文から構成されているところ,このうち本文の全てが不開示とされていると認められる。


(2)本件対象文書には,要望提出者として特定団体の代表世話人特定個人の氏名が記載されていることから,本件対象文書に記載された情報は,一体として,特定個人に係る法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当すると認められる。


(3)次に,不開示部分の法5条1号ただし書該当性について検討する。

審査請求人は,意見書(上記第2の2(2)ア(ア))において,①要望提出者が法務大臣に対して本件対象文書を提出した事実及びその要望内容の趣旨(死刑確定者に対する死刑執行の立ち会い等)は,報道等によって,世間に公表されている事実である,②要望提出事実及び要望趣旨が法務省ホームページにおいても公表されているので,不開示部分である要望内容は,法5条1号ただし書イに該当する旨主張する。

これを検討するに,不開示部分に係る情報が報道されているとしても,それは,飽くまでも報道機関がその取材に基づき独自に報道したものであるから,それをもって,当該情報が「法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報」に該当することになると認めることはできず,また,当審査会事務局職員をして法務省ウェブサイトを確認させたところ,法務大臣閣議後記者会見の質疑において,本件対象文書に係る要望への対応についての法務大臣と記者とのやり取りが掲載されているものの,当該要望の具体的な内容が公表されているものとは認められず,これを覆すに足りる事情もうかがわれないことから,審査請求人の上記主張は,いずれも採用できない。

そうすると,不開示部分は,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報であるとはいえないことから,法5条1号ただし書イに該当せず,また,同号ただし書ロ及びハに該当する事情も認められない。


(4)さらに,法6条2項の部分開示の可否について検討すると,特定の個人を識別することができる部分である氏名が既に開示されていることから,同項の部分開示を適用する余地はない。


(5)以上によれば,不開示部分は,法5条1号に該当し,不開示としたことは妥当である。


3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号に該当するとして不開示とした決定については,不開示とされた部分は,同号に該当すると認められるので,妥当であると判断した。


(第1部会)

委員 合田悦三,委員 木村琢麿,委員 中村真由美