諮問庁 外務大臣
諮問日 令和 2年11月12日(令和2年(行情)諮問第596号)
答申日 令和 4年 3月 7日(令和3年度(行情)答申第563号)
事件名 特定文書に記載されている「横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件を検討」の経緯と結果に関する文書の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙に掲げる3文書(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和元年11月29日付け情報公開第01855号により外務大臣(以下「外務大臣」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。


2 審査請求の理由

(1)審査請求書

「2006年5月1日の在日米軍に関する「再編実施のための日米のロードマップ(仮訳)」の「3.横田飛行場及び空域」には,「日本における空域の使用に関する,民間及び(日本及び米国の)軍事上の所要の将来の在り方を満たすような,関連空域の再編成や航空管制手続の変更のための選択肢を包括的に検討する一環として,横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件を検討する。この検討は,嘉手納レーダー進入管制業務の移管の経験から得られる教訓や,在日米軍と日本の管制官の併置の経験から得られる教訓を考慮する。この検討は2009年度に完了する」と記載されている。

審査請求人による今回の文書開示請求(平成31年3月20日付)は,この「横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件を検討」した経緯と結果に関する文書を対象とした。

これに対し外務大臣は,文書3点について「米国との信頼関係が損なわれるおそれ」や「米軍の我が国での安定的駐留と円滑な活動を阻害することにより国の安全が害されるおそれ」があるとし,法5条3号に該当するとして不開示や部分開示とした。

日米両政府の合意により10年も前の「2009年度完了する」とされた交渉の経緯や結果に関する文書を開示することに,なぜそのような「おそれ」があるのか。また,今回のように国民の生命,安全,財産に関わる外交交渉の経緯や結果に関する文書を不開示や部分開示にするという行為を正当化できるほどの「おそれ」なのか,決定の通知書には何ら説明がなく,不開示部分を見ることのできない審査請求人は到底納得できない。

外務大臣は今回の決定にあたり法3号を濫用している。決定を取り消すべきと考える。政府が国民の知る権利に応え説明責任を果たすという同法の趣旨をふまえ,該当文書を全て開示すべきであるという立場から,審査を請求する。


(2)意見書

    審査請求人の主張に対する外務省の理由説明書(下記第3を指す。以下同じ。)にある主張は何ら有効な反論になっていない。その上で追加の主張をすると,あえて外務省の立場に立って日米合同委員会でのやり取りは明かせないとしても,それをもって審査請求人が本件で開示を求める文書をすべて不開示にするという主張は論理的に破綻している。すなわち,審査請求人が開示を求める「横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件を検討」した経緯と結果に対する文書を,外務省が理由説明書3で述べるような狭い範囲の「本件対象文書」であると解釈して開示を拒むのは失当なのである。「本件対象文書」には,日米合同委員会でのやり取りに関する文書以外も含まれるべきであり,あくまで例示だが,日本政府内や外務省内でやり取りが完結する文書などが考えられる。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 経緯

処分庁は,平成31年3月20日付けで受理した審査請求人からの開示請求「2006年5月1日の在日米軍に関する「再編実施のための日米のロードマップ(仮訳)」の「3.横田飛行場及び空域」に,「日本における空域の使用に関する,民間及び(日本及び米国の)軍事上の所要の将来の在り方を満たすような,関連空域の再編成や航空管制手続の変更のための選択肢を包括的に検討する一環として,横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件を検討する。この検討は,嘉手納レーダー進入管制業務の移管の経験から得られる教訓や,在日米軍と日本の管制官の併置の経験から得られる教訓を考慮する。この検討は2009年度に完了する」と記されている。この「横田空域全体のあり得べき返還に必要な条件を検討」した経緯と結果に関する文書。」に対し,法11条による延長を行った後,相当の部分の決定として不開示(不存在)とする決定を行い(令和元年5月20日付け情報公開第00104号),更に,最終の決定として3件の文書を特定し,2件を不開示とし,1件を部分開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,令和元年12月6日付けで原処分の取消し等を求める審査請求を行った。


2 本件対象文書について

本件対象文書は,別紙記載の3件である。


3 不開示とした部分について

(1)文書2及び文書3は,公にしないことを前提とした米国との協議に係る文書であり,公にすることにより,米国との信頼関係が損なわれるおそれがあるほか,また,その結果,今後,米国との間で忌憚のない協議や意見交換を行うことを阻害し,米軍施設・区域をめぐる諸問題に対する日米両政府の対処能力を低下させ,米軍の我が国での安定的駐留と円滑な活動を阻害することにより国の安全が害されるおそれがあるため,法5条3号に該当し不開示とした。


(2)文書4は,公にしないことを前提とした我が国政府部内の検討の内容に関する記述,非公表を前提として行われた米国とのやり取りに関する情報等であり,公にすることにより,米国との信頼関係が損なわれるおそれがあるほか,また,その結果,今後,米側との間での安定的駐留と円滑な活動を阻害することにより国の安全が害されるおそれがあるため,法5条3号に該当し,不開示とした。


4 審査請求人の主張について

審査請求人は原処分について,「外務大臣は,文書3点について「米国との信頼関係が損なわれるおそれ」や「米国の我が国での安定的駐留と円滑な活動を阻害することにより国の安全が害されるおそれ」があるとし,法5条3号に該当するとして不開示や部分開示とした。日米両政府の合意により10年も前の「2009年度完了する」とされた交渉の経緯や結果に関する文書を開示することに,なぜそのような「おそれ」があるのか。また,今回のように国民の生命,安全,財産に関わる外交交渉の経緯や結果に関する文書を不開示や部分開示にするという行為を正当化できるほどの「おそれ」なのか,決定の通知書には何ら説明がなく,不開示部分を見ることのできない審査請求人は到底納得できない。」とし,「外務大臣は今回の不開示決定にあたり法3号を濫用しており,決定を取り消すべきと考える。」等主張しているが,処分庁は,上記3のとおり,対象文書の不開示情報該当性を厳正に審査した上で原処分を行っており,審査請求人の主張には理由がない。


5 結論

上記の論拠に基づき,諮問庁としては,原処分を維持することが妥当であると判断する。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和2年11月12日  諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 同月27日       審査請求人から意見書を収受

④ 同年12月1日     審議

⑤ 令和3年11月4日   本件対象文書の見分及び審議

⑥ 令和4年1月11日   審議

⑦ 同年3月1日      審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件対象文書は,別紙に掲げる3文書である。

審査請求人は,不開示部分の開示を求めており,諮問庁は原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の見分結果に基づき,不開示情報該当性について検討する。


2 不開示情報該当性について

(1)当審査会事務局職員をして,本件対象文書の一部を不開示とした経緯等について諮問庁に確認させたところ,諮問庁から次のとおり説明があった。

ア 本件対象文書の不開示部分は,米軍による我が国における施設・区域の使用と我が国における米軍の地位について規定した日米地位協定の実施に関する協議機関である日米合同委員会の関連文書であり,これには,日米合同委員会における協議の記録や合意に関する事項が具体的かつ詳細に記載されている。


イ 日米合同委員会における協議の記録や合意事項については,昭和35年6月23日に開催された第1回日米合同委員会において,日米双方の合意がない限り公表されないことが日米両政府間で合意されている。


ウ 仮にこれらが開示されることとなれば,米国との信頼関係が損なわれるおそれがあるほか,今後,米側との間で忌たんのない協議や意見交換を行えなくなるおそれがあり,米軍の我が国での安定的駐留と円滑な活動を阻害することにより国の安全が害されるおそれがあるため,その全てについて法5条3号に該当する。


(2)本件対象文書の不開示部分には,横田空域等に関して日米間で協議した機微な内容が,具体的かつ詳細に記載されていることが認められるところ,仮にこれらが開示されることとなれば,米国との信頼関係が損なわれるおそれがあるなどとする上記(1)ウの諮問庁の説明は首肯できる。そうすると,当該部分は,これを公にすることにより,日米間における協議内容が明らかとなり,今後,日米間で忌たんのない協議を行えなくなるおそれがあるなど,我が国と米国との信頼関係が損なわれるおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があると認められるので,法5条3号に該当し,不開示としたことは妥当である。


3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号に該当するとして不開示とした決定については,不開示とされた部分は,同号に該当すると認められるので,妥当であると判断した。


(第2部会)

  委員 白井玲子,委員 佐藤郁美,委員 中川丈久





別紙(本件対象文書)


文書2 民間航空分科委員会覚書

文書3 横田及び岩国空域を検討するための特別作業部会覚書

文書4 横田空域のあり得べき返還に向けた検討(平成22年5月10日)


※ 文書番号は,原処分に係る行政文書開示決定等通知書の別紙の番号に合わせたものである。