諮問庁 内閣総理大臣
諮問日 令和 3年 4月27日(令和3年(行情)諮問第166号)
答申日 令和 4年 2月17日(令和3年度(行情)答申第534号)
事件名 特定期間に行った日本学術会議会員の任命の考え方に関する協議の資料の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙に掲げる文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和3年1月27日付け府日学第172号により内閣府日本学術会議事務局長(以下「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,審査請求をする。


2 審査請求の理由

(1)審査請求書

ア 氏名が不開示とされているものがある。氏名だけでは課長補佐相当職以下の職員か否かそもそも不明であり,文書作成時期から2年がたち当該職員が当該部署にいる可能性が低く,異動してしまえば当該職員を探すことが難しく開示決定書が指摘するおそれは具体的なものではなく抽象的に留まると言わざるをえない。抽象的なおそれまで不開示理由とすると不開示範囲が限りなく広がり,法5条6号柱書に該当する情報というためには,具体的なおそれが必要であると解すべきと考える。


イ 特定年Bの学術会議事務局と内閣法制局とのやりとりの結果作成された文書はすでに公開されており,作成途中の「未成熟な記載」が公開されても法5条5号の「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとは言えない。また人事に関する情報であったとしても個別具体的な人事に関するものでなければ公表することによって詳細の意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとは言えない。仮に個別具体的な人事に関する情報が含まれるとしてもその部分だけ不開示とすれば良いのであって,それ以外の人事に関する考え方を記載した部分まで不開示とする理由とはならない。

総理はじめ政府は今般の任命について開示請求を行っているやりとりの結果について作成された文書に基づいて考え方を説明しており,「未成熟な記載」が公開されたとしても,その説明が「未成熟な記載」に適用された考え方であると誤解するおそれがあるとはとうてい言えず,国民に混乱を生じさせるおそれなどない。また国民の間に混乱を生じさせるおそれとあるが,今般の学術会議任命に関する問題は,政府が適切に説明しないことによって生じており,仮に開示決定書が指摘するような「混乱」がおこっていたとしても,全面開示こそ混乱を沈静化させることになる。

加えて開示決定書のいう混乱と言うのは政治的な政府への批判だと考えざるを得ず,そのようなことまで認めるなら政府や与党の都合の悪いことを隠すということになり法の趣旨を没却すると言わざるをえない。これが法5条6号柱書の不開示理由に該当するとはとうてい考えられない。


(2)意見書

ア 氏名の不開示の理由について

処分庁や諮問庁が述べる理由について引き続き抽象的な理由に留まると指摘せざるを得ない。

なお,現実に問い合わせなどがあったとしても,前職に対する問い合わせは現職に問い合わせを求める,一切問い合わせに答えないなど組織的に対応することで支障を生じさせないようにすることは可能である。今回の事案について内閣府はそのような対応をしていたと側聞もしているところである。

今回の事案に即して考えれば,氏名はどの役所がどのような方針で議論にのぞんだかなど政策の検証に欠かせない重要な情報である。起こりうるリスクは個別官庁によって対応可能であり,「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進」という法の目的に照らして開示すべき情報と考える。


イ それ以外の部分の不開示の理由について

諮問庁は「記載等からは協議途中であるか否かの識別は困難」「確定情報との誤解を招く可能性がある」とのべ,誤解が生じることを前提に混乱が生じること,会員任命に関する事務の円滑な遂行に支障が生じるおそれがあることを理由にしている。

しかし,一部開示された文書をみると日付や題名,本文に修正が施され,修正部分をみると,加筆された部分は下線が引かれ,抹消された部分は修正線が引かれ,いわゆる見え消し形式になっており,一見して途中経過の文書であり,完成した文書ではないことは明らかである。さらには,開示決定書に記された開示・不開示決定がされた文書の一覧をみてもタイトルに修正線,下線がついているものがある,「見え消し版」「【機密性2情報】とのヘッダがついているもの」などの最終的に確定した文書ではないことは明白である。また「記載等からは協議途中であるか否かの識別は困難」「確定情報との誤解を招く可能性がある」というのであれば,最終結論の文書以外は開示できないという判断になってしかるべきであるが,実際には請求人に対しては全部不開示ではなく,一部不開示として文書の相当部分を開示しており,「記載等からは協議途中であるか否かの識別は困難」との諮問庁の主張は自らの行動に照らしても矛盾をしている。

確定情報と取られるおそれを理由として不開示にすることが許されるのであれば,おおよそ政策の検討経過を出すことはできなくなる。結局は都合の悪い部分を隠したと言われても仕方がないと考える。

なお,諮問庁は開示された書類の一部が加工され,確定情報かのごとく取り上げられることを恐れているのかも知れない。しかし,これは悪用の類いであって,そもそもそのような利用を予定していない請求人に対して,情報を開示できない理由にならない。

また,このような悪用に対して,全体を示して途中経過の一部であることを示す,協議の結果完成した文書を示すなどをすれば良いのであって,もし,そのような懸念を前提に主張するのであれば,ためにする議論と言わざるをえない。


第3  諮問庁の説明の要旨

2021年(令和3年)1月27日付けで提起された処分庁による原処分に対する審査請求について,下記の理由により,これを棄却すべきであると考える。

1 本件審査請求の趣旨及び理由について

(1)審査請求の趣旨

本件は,審査請求人が行った開示請求に対して,法5条5号及び6号に該当するとしてその一部を不開示とする原処分を行ったところ,審査請求人から,不開示理由に該当しないとして,原処分の取消しを求める審査請求が提起されたものである。


(2)審査請求の理由

審査請求書に記載された本件審査請求の理由は,おおむね次のとおりである。

ア 課長補佐相当職以下の職員の氏名を不開示としていることについて,氏名だけでは課長補佐相当職以下の職員か否か不明であり,文書作成時期から2年が経過し当該職員が当該部署にいる可能性が低く,異動してしまえば当該職員を探すことが難しく開示決定書が指摘するおそれは具体的なものではなく抽象的に留まる。抽象的なおそれまで不開示理由とすると不開示範囲が限りなく広がり,法5条6号柱書きに該当する情報とするには具体的なおそれが必要であると解すべき。


イ 特定年月Aの日本学術会議事務局と内閣法制局とのやりとりの結果作成された文書はすでに公開されており,作成途中の「未成熟な記載」が公開されても法5条5号の「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとは言えない。また,人事に関する情報であったとしても,個別具体的な人事に関するものでなければ公表することによって詳細の意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとは言えない。仮に個別具体的な人事に関する情報が含まれるとしてもその部分だけ不開示とすれば良いのであって,それ以外の人事に関する考え方を記載した部分まで不開示とする理由とはならない。総理はじめ政府は今般の任命について作成された文書に基づいて考え方を説明しており,「未成熟な記載」が公開されたとしても,その説明が「未成熟な記載」に適用された考え方であると誤解するおそれがあるとは到底言えず,国民に混乱を生じさせるおそれなどない。また国民の間に混乱を生じさせるおそれとあるが,今般の学術会議任命に関する問題は,政府が適切に説明しないことによって生じており,仮に混乱がおこっていたとしても全面開示こそ混乱を沈静化させることになる。


ウ 混乱とは政治的な政府への批判だと考えざるを得ず,そのようなことまで認めるのなら,政府や与党の都合の悪いことを隠すということになり,法の趣旨を没却すると言わざるを得ない。これが法5条6号柱書きの不開示理由に該当するとは到底考えられない。

よって,原処分は違法不当であるから取り消されるべきである。


2 本件開示請求及び原処分について

処分庁においては,「日本学術会議事務局が特定期間に行った日本学術会議の任命に考え方に関する協議の資料として日本学術会議事務局に保存されているもの」との本件開示請求に対し,別紙について特定し,一部開示決定処分を行った。


3 原処分の妥当性(不開示情報該当性)について

審査請求人は,上記1(2)アのとおり主張するが,一般に国の職員の氏名及び特定の時期の配属部局等が明らかになれば,公表されている別の情報(インターネットに掲載されている資料や独立行政法人国立印刷局発行の職員録など)等から,現在の所属を特定又は推測することが可能である場合が多く,本件の場合にも,原処分において不開示とされた職員の氏名を明らかにすれば,当該職員の現在の所属が特定又は推測され,外部から当該職員へ問合せや指摘などが行われ,当該職員の現在従事する事務の適正な遂行に支障を及ぼす現実的かつ具体的なおそれがあることから,法5条6号柱書きに該当するため不開示としたものである。審査請求人は,「異動してしまえば当該職員を探すことは難しく,開示決定通知書が指摘するおそれは具体的なものではなく抽象的に留まる」などと主張するが,上記のとおり,不開示事由に該当するとの判断は,現実的かつ具体的なおそれを理由とするものであり,主張は当たらない。

なお,審査請求人は,「氏名だけでは課長補佐相当職以下の職員か否か不明」とも主張するが,処分庁においては,当該不開示箇所に氏名が記載された職員は,課長補佐相当職以下の職員であることを確認した上で,その事実を開示決定通知書に記載し,審査請求人に伝えているところである。

また,審査請求人は,上記1(2)イ及びウのとおり主張するが,当該資料は,特定年月日O付の最終版の資料には記載されなかった未成熟な記述が含まれている内閣法制局との協議途中の資料であるところ,各日付の資料には「第○回説明資料」等の途中段階の資料であることが分かる記載はなく,標題,日付及び作成主体の記載等からは,個々の資料が協議途中であるか否かの識別は困難である。このため,当該資料を開示した場合,それに記載された内容について,日本学術会議事務局が内閣法制局の最終的な了解を得た考え方に係る確定的情報であるとの誤解を招く可能性がある。

原処分における不開示部分は,各資料のうち人事に関わる内容に関する記述であり,これを明らかにして,あたかもそれが日本学術会議事務局が内閣法制局の最終的な了解を得た考え方に係る確定的情報であると誤解されれば,特定年月Bに行われた日本学術会議会員の個別の任命に適用された任命権者の考え方であるなどの誤解を招くことになるほか,今後の日本学術会議会員の任命等の手続を行う上でも,あたかも当該考え方に即して任命権者の個別の判断が行われるかのような誤解を招き,不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある。さらに,上記のような誤解が生じた場合,今後の日本学術会議における会員候補者の推薦等及び任命権者による会員任命に関する事務の円滑な遂行に支障を生じるおそれがある。このため,法5条5号,6号柱書き及び同号ニに該当するため不開示としたものである。

なお,審査請求人が言及する政府の国会における答弁については,特定年月Bに行われた日本学術会議会員の任命に関し,第203回国会等において,内閣総理大臣等が,個々人の任命の理由については,人事に関する事柄であり,お答えを差し控える旨を答弁しているところである。


4 結論

以上のとおり,原処分は妥当であり,審査請求人の主張には理由がないことから,本件審査請求は,これを棄却することが妥当であると考える。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

   ① 令和3年4月27日  諮問の受理

   ② 同日         諮問庁から理由説明書を収受

   ③ 同年5月21日    審議

   ④ 同年6月8日     審査請求人から意見書を収受

   ⑤ 令和4年1月7日   本件対象文書の見分及び審議

   ⑥ 同年2月10日    審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,その一部を法5条5号並びに6号柱書き及びニに該当するとして,不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,原処分を取り消し,不開示部分の開示を求めているものと解されるところ,諮問庁は,原処分は妥当であるとし,不開示部分とその理由について,別表のとおりである旨主張していることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


2 不開示部分の不開示情報該当性について

(1)職員の氏名について

  ア 当審査会において本件対象文書を見分したところ,別表の文書12の通番15ないし通番18に掲げる各部分には,内閣府日本学術会議事務局(以下「日本学術会議事務局」という。)職員の氏等が記載されていると認められる。


イ 標記の不開示部分の不開示情報該当性について,諮問庁は,上記第3の3及び別表の不開示理由の要旨の①のとおり説明するところ,当審査会事務局職員をして諮問庁に更に確認させたところ,諮問庁は,おおむね次のとおり補足して説明する。

  (ア)不開示部分及び不開示理由の要旨等は,別表の通番15ないし通番18のとおりであり,本件開示決定通知書の3(1)に記載したとおり,不開示部分に記載された職員は,課長補佐相当職以下の者である。当該職員は,本件対象文書の作成過程に密接に関わっており,その氏名を公にした場合,公表されている別の資料(インターネットに掲載されている資料や独立行政法人国立印刷局発行の職員録など)等から,現在の所属や連絡先等を特定又は推測することが可能となる。


  (イ)その場合,当該職員に対し,日本学術会議の会員任命について深い関心を持つ者から,不開示部分に記載された情報の内容や,対象文書の作成過程等について問合せや指摘などが行われ,当該職員がこれらの対応に忙殺され,現在従事している事務の適正な遂行に支障を及ぼす現実的かつ具体的なおそれがある。 


ウ これを検討するに,上記イの諮問庁の説明には,特段不自然,不合理な点は認められない。そうすると,本件対象文書の作成に密接に関わりのある職員の氏名を公にした場合,当該職員の現在従事している事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることを否定することまではできない。

    したがって,当該部分は,法5条6号柱書きに該当し,不開示としたことは妥当である。


(2)日本学術会議事務局と内閣法制局とのやり取りに係る文書(上記(1)で判断した部分を除く。)

  ア 当審査会において本件対象文書を見分したところ,本件対象文書は,日本学術会議事務局が日本学術会議法における会員任命に係る規定の解釈を内閣法制局に確認するために作成した文書1ないし文書26の資料であって,同事務局が同局との協議に用いたものであると認められる。


  イ 検討

  (ア)諮問庁は,標記の不開示部分について,上記第3の3及び別表の不開示理由の要旨の②のとおり説明し,当審査会事務局職員をして更に確認させたところ,おおむね次のとおり補足して説明する。

    a 当該不開示部分及びその不開示理由の要旨等は,別表の通番1ないし通番14及び通番19ないし通番35記載のとおりであり,当該不開示部分は,日本学術会議法における会員任命に係る規定の解釈を確認するために内閣法制局に行った協議の途中段階の各資料のうち,同局との協議の過程で最終的に了解されるに至らず,特定年月日O付け資料(最終版)には記載されなかった未成熟な記載のうちの人事に関わる内容に関する記述であり,確定的情報であると誤解されれば,今般の個別の会員任命に適用された任命権者の考え方であるとの誤解を招き得る情報である。


    b 当該不開示部分を公にして,あたかもそれが,日本学術会議事務局が内閣法制局の最終的な了解を得た確定的情報であると誤解されれば,当該部分に記載された内容が,特定年月Bに行われた日本学術会議会員の個別の任命に際しても,任命権者が意思決定の前提として適用した考え方であるとの誤解を招くことになる。


    c その場合,例えば,報道等において会員に任命されなかった候補者であるとされている方々の特定の行為が,未成熟な記載部分に該当すると認定された結果として任命されなかったのではないか等の事実とは異なる憶測が生じ,今後の日本学術会議会員の推薦・任命の手続を行う際,上記の未成熟な記載部分に相当する者が推薦された場合に,任命権者は,任命を拒否するであろうとの予断を与えることになる。そうなれば,推薦を行う会員等や候補者に係る情報提供を行う団体において,未成熟な記載部分に相当する者について推薦や情報提供をちゅうちょし,あるいは,推薦を受けようとする者が自分も同様の認定を受けることによって任命を拒否されるのではないかなどと考え,社会的な評価を損なうこと等を危惧することにより,推薦を受けることを辞退するなどのおそれがある。


    d さらに,報道等において会員に任命されなかった候補者であるとされている方々の過去の行為を詮索し,特定の行為が未成熟な記載部分に相当すると判断されたものと曲解した者が,これと共通又は類似の行為を行った特定の者について,将来の会員任命その他の人事において,任命されるべきではないなどとの主張を行い,任命・推薦に係る事務を行う職員等に圧力がかかるおそれもある。


    e これらのことから,当該不開示部分を公にすると,今後の会員任命・推薦に係る事務の円滑な遂行に支障が生じるおそれがあると考えている。


   (イ)これを検討するに,本件対象文書の見分結果によれば,本件不開示部分は,別表の通番1ないし通番14及び通番19ないし通番35のとおりであり,内閣総理大臣による日本学術会議会員の任命に関する内閣府の考え方の検討途中の部分であって,最終的に内閣法制局の了解に至らなかった検討内容が具体的かつ詳細に記載されていると認められる。

そうすると,これらの情報を公にすると,当該不開示部分に記録された未成熟な情報が,特定年月Bに行われた日本学術会議会員の個別の任命に際しても,任命権者が意思決定の前提として適用した考え方であるとの誤解を招き,事実とは異なる憶測が国民の間に生じ,今後の日本学術会議会員の推薦・任命の手続に係る事務の円滑な遂行に支障が生じるおそれがある旨の上記(ア)の諮問庁の説明は,特段不自然,不合理な点は認められず,これを否定することまではできない。


   (ウ)審査請求人は,意見書(上記第2の2(2)イ)において,「一部開示された文書をみると日付や題名,本文に修正が施され,修正部分をみると,加筆された部分は下線が引かれ,抹消された部分は修正線が引かれ,いわゆる見え消し形式になっており,一見して途中経過の文書であり,完成した文書ではないことは明らかである。さらには,開示決定書に記された開示・不開示決定がされた文書の一覧をみてもタイトルに修正線,下線がついているものがある,「見え消し版」「【機密性2情報】とのヘッダがついているもの」などの最終的に確定した文書ではないことは明白である」,また,開示された書類の一部が加工され,確定情報かのごとく取り上げるような悪用に対して,「全体を示して途中経過の一部であることを示す,協議の結果完成した文書を示すなどをすれば良い」などと主張する。

この点につき,当審査会事務局職員をして諮問庁に更に確認させたところ,諮問庁は,おおむね次のとおり補足して説明する。

a 特定年Bの内閣法制局との協議に当たり作成された文書は,本件対象文書だけで26文書に及び,各文書に日付が入っているもの,日付が入っていないものが混在しており,特定の頁だけを見ると,いつの資料であるか判然としない。


b 内閣法制局と最終的な協議を終えた文書である特定年月日O付け文書について,これまでの国会審議等において答弁の中で言及はされているものの,当該文書を積極的に公表しているわけではなく,一般的には,上記aの当該関係文書が大量に存在する中で,どの日付が最終版であるかまで広く知られているとはいい難いと認識している。


c そうした中で,いったん資料が公となれば,一連の資料が常に一体として取り扱われるとは限らず,最終版に至る前の特定の日付の資料あるいは特定の頁が単独で用いられる可能性もあり,そのような断片的な情報に接した者が,途中段階のものを最終版と誤認することは十分にあり得ることである。


d インターネットやSNS等で資料や情報が拡散される現状において,審査請求人の主張する「確定情報かのごとく取り上げるような悪用」を常時把握できるものではなく,看過された誤情報が独り歩きすることにより,不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがあり,また,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあると考えており,これらの混乱や支障は,それが生じてから,事後的に正しい情報で誤情報を訂正したからといって,必ずしも容易に防ぐことができるものではないと考えている。


   (エ)これを検討するに,本件対象文書の見分結果及び上記(ウ)b掲記の国会答弁の内容等を併せ考えると,上記(ウ)の諮問庁の説明は,これを否定することまではできず,審査請求人の上記(ウ)の主張は採用できない。


   (オ)以上によれば,当該不開示部分は,法5条6号柱書きに該当すると認められ,同条5号及び6号ニについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条5号並びに6号柱書き及びニに該当するとして不開示とした決定については,同号柱書きに該当すると認められるので,同条5号及び6号ニについて判断するまでもなく,妥当であると判断した。


(第1部会)

  委員 小泉博嗣,委員 池田陽子,委員 木村琢麿





別紙 本件対象文書


文書1 「①日本学術会議法第7条第2項の内閣総理大臣による任命について」(特定年月日A内閣府日本学術会議事務局)

文書2 「(更問)特定年Aの答弁との関係について」(特定年月日A内閣府日本学術会議事務局)

文書3 「②日本学術会議からの推薦順位が下位の者を内閣総理大臣が任命することについて」(特定年月日A内閣府日本学術会議事務局)

文書4 「日本学術会議法第7条第2項及び第17条に規定する推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が拒否することについて」(特定年月日B内閣府日本学術会議事務局)

文書5 「日本学術会議法第7条第2項及び第17条に規定する推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が拒否することについて」(「【機密性2情報】」とのヘッダがついているもの)

文書6 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日C内閣府日本学術会議事務局)

文書7 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日D内閣府日本学術会議事務局)

文書8 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日E内閣府日本学術会議事務局)

文書9 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日E内閣府日本学術会議事務局)※見え消し版

文書10 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日F内閣府日本学術会議事務局)

文書11 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日F内閣府日本学術会議事務局)※特定年月日E版からの変更の見え消し版

文書12 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日G内閣府日本学術会議事務局)※特定年月日H版からの変更の見え消し版

文書13 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日G内閣府日本学術会議事務局)

文書14 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日I内閣府日本学術会議事務局)

文書15 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日I内閣府日本学術会議事務局)※特定年月日E版からの見え消し版

文書16 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日J内閣府日本学術会議事務局)※特定年月日I版からの変更の見え消し版

文書17 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日J内閣府日本学術会議事務局)

文書18 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日K内閣府日本学術会議事務局)※見え消し版

文書19 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日K内閣府日本学術会議事務局)

文書20 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日L内閣府日本学術会議事務局)※見え消し版

文書21 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日L内閣府日本学術会議事務局)

文書22 「日本学術会議法第17条による推薦に基づく会員の任命を内閣総理大臣が行わないことの可否について」(特定年月日M内閣府日本学術会議事務局)(特定年月日M内閣府学術会議事務局)

文書23 「日本学術会議法第17条による推薦とに基づく会員の任命を内閣総理大臣による会員の任命との関係が行わないことの可否について」(特定年月日M内閣府日本学術会議事務局)※見え消し版

文書24 「日本学術会議法第17条による推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係について」(特定年月日M内閣府日本学術会議事務局)※表題は見え消しとなっていないが本文に一部見え消しとなっている所がある

文書25 「日本学術会議法第17条による推薦とに基づく会員の任命を内閣総理大臣による会員の任命との関係が行わないことの可否について」(特定年月日M内閣府日本学術会議事務局)※特定年月日K版からの変更の見え消し版

文書26 「日本学術会議法第17条による推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係について」(特定年月日N内閣府日本学術会議事務局)



別表 不開示部分とその理由

   不開示理由の要旨欄の①及び②は,以下のとおりである。

① 課長補佐相当職以下の職員の氏名については,公にすることにより,外部から当該職員へ問合せや指摘などが行われ,当該職員の現在従事する事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条6号柱書きに該当する。

② 「日本学術会議法第17条による推薦と内閣総理大臣による会員の任命との関係について(特定年月日O内閣府日本学術会議事務局)」には記載されなかった,未成熟な記載が含まれており,そのうち人事に関わる内容について,これを公にすれば,あたかもそれが確定的情報であると誤解されて,不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがあり,また今般の会員の任命に適用された考え方である等の誤解を招くなど今後の事務の円滑な遂行に支障を生じるおそれがあるとともに,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条5号並びに6号柱書き及びニに該当する

文書名

枚数

通番

不開示部分

不開示理由の要旨

法5条の適用号

文書1

2枚目

5行目ないし12行目及び22行目ないし25行目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5号並びに6号柱書き及びニ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4枚目

全て

文書3

2枚目

 

10行目8文字目ないし14行目15文字目

文書4

3枚目

 

 

5行目ないし8行目22文字目,9行目ないし12行目及び21行目26文字目ないし26行目16文字目

文書5

3枚目

7行目ないし18行目

文書6

3枚目

24行目4文字目ないし29行目6文字目及び31行目

4枚目

全て

文書7

4枚目

7行目4文字目ないし12行目6文字目及び14行目ないし20行目

文書8

4枚目

6行目4文字目ないし11行目6文字目及び13行目ないし23行目

文書9

4枚目

10

7行目4文字目ないし12行目6文字目及び14行目ないし24行目

文書10

5枚目

11

19行目29文字目ないし34行目

6枚目

12

全て

文書11

 

6枚目

13

22行目4文字目ないし32行目

7枚目

14

全て

文書12

 

 

 

 

 

 

 

 

1枚目

15

10行目23文字目ないし26文字目

 

 

 

 

 

6号柱書き

 

 

 

 

2枚目

 

 

16

 

 

8行目4文字目ないし7文字目,15行目3文字目ないし6文字目及び30行目16文字目ないし19文字目

5枚目

17

13行目13文字目ないし16文字目

7枚目

 

 

 

18

30行目9文字目ないし12文字目

19

 

 

19行目26文字目ないし32行目(上記通番18の30行目9文字目ないし12文字目を除く。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5号並びに6号柱書き及びニ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8枚目

20

全て

文書13

 

5枚目

21

18行目ないし33行目

6枚目

22

全て

文書14

 

5枚目

23

25行目ないし32行目

6枚目

24

全て

文書15

 

6枚目

25

15行目4文字目ないし20文字目

7枚目

26

全て

文書16

 

 

 

6枚目

 

27

18行目ないし25行目7文字目及び26行目29文字目ないし32行目

7枚目

28

全て

文書17

 

5枚目

 

29

 

18行目ないし25行目3文字目及び27行目ないし37行目

文書18

 

 

6枚目

 

30

18行目ないし25行目7文字目及び26行目29文字目ないし32行目

7枚目

31

全て

文書19

 

5枚目

 

32

18行目ないし25行目3文字目及び27行目ないし37行目

文書20

6枚目

33

14行目ないし21行目3文字目及び23行目ないし33行目

文書23

 

6枚目

 

34

13行目ないし20行目3文字目及び22行目ないし32行目

文書25

 

6枚目

35

10行目ないし17行目3文字目及び19行目ないし28行目38文字目

(注)表中の文字数の数え方については,句読点及び括弧も1文字と数える。