諮問庁 内閣総理大臣
諮問日 令和 3年 1月 8日(令和3年(行情)諮問第10号)
答申日 令和 4年 2月 3日(令和3年度(行情)答申第512号)
事件名 特定法人の決算報告書の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙に掲げる文書3(以下「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとする部分を不開示としたことは,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和2年9月3日付け府会第925号により内閣府大臣官房長(以下「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,「決算報告書」の科目名及び金額の開示を求める。


2 審査請求の理由の要旨

  審査請求人の主張する審査請求の理由の要旨は,審査請求書によると,おおむね以下のとおりである。

当該情報公開請求文書は,特定法人の一般競争入札参加資格の統一資格審査申請書類一式であるが,その内の「決算報告書」の科目名,金額を不開示としたのは適切ではないので開示を求める。

一般財団法人の「決算報告」については,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の128条(貸借対照表の公告)で貸借対照表の公告が義務づけられているが,この法人は,設立以来一度も決算報告の公示を定められた方法で行っておらず,一般競争入札参加資格の統一資格を持っており,その申請書類に「決算報告」が含まれており,その決算内容を確認したく情報公開請求を行ったものである。

不開示とした「決算報告」は本来ならば,官報に掲載され一般公衆が目にすることができるものであり,法5条2号イの「公にすることにより,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」には当たらないものと考える。


第3  諮問庁の説明の要旨

令和2年10月13日付けで提起された処分庁による開示決定処分(原処分)に対する審査請求について,下記の理由により,これを棄却すべきである。

1 本件審査請求の趣旨及び理由について

(1)審査請求の趣旨

本件は,審査請求人が行った開示請求に対して,法5条1号及び2号イに該当するとしてその一部を不開示とする原処分を行ったところ,審査請求人から,開示文書(文書1ないし文書6)中「決算報告書」(本件対象文書)の科目名及び金額の開示を求める審査請求が提起されたものである。


(2)審査請求の理由

おおむね上記第2の2のとおり。


2 本件開示請求及び原処分について

処分庁においては,処分庁宛請求された「一般競争入札参加資格者の業者コード特定番号 特定法人の統一資格審査申請書類一式」を請求する行政文書開示請求に対し,令和2年9月3日付け府会第925号により別紙に掲げる6文書を特定し,その一部を不開示とする開示決定処分を行った。


3 原処分の妥当性について

(1)本件審査請求の対象文書は,特定法人の一般競争(指名競争)参加資格審査申請(物品製造等)の添付書類にある「決算報告書」のうち,貸借対照表及び正味財産増減計算書であり,対象となる箇所は,貸借対照表中の中小項目の科目名及び金額並びに正味財産増減計算書中の全ての項目の科目名及び金額について,法5条2号イに該当するとして不開示とした部分である。


(2)一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)においては,一般財団法人に貸借対照表(大規模一般財団法人においては貸借対照表及び損益計算書)の公告義務が課されている(同法199条により準用される同法128条1項)。大規模一般財団法人とは,貸借対照表の負債の部に計上した合計額が200億円以上である一般財団法人をいうところ(同法2条3号),特定法人は,貸借対照表の負債の部に計上した合計額は約○円と大規模一般財団法人に該当しないことから,公益法人会計基準において損益計算書に相当する正味財産増減計算書の公告義務はない。また,貸借対照表の公告方法について,特定法人は官報に掲載すると定めており,その場合,同法128条2項により貸借対照表の全てを公告する義務はなく要旨を公告することで足りると定められている。なお,何を以て要旨とするかは,法令上定められていない。


(3)貸借対照表の中小項目の金額及び正味財産増減計算書の全ての項目の金額については,公表を義務付けられているものではなく,また,特定法人も自ら公としていない,法人の事業規模や営業に係る情報であり,これを公開すると法人の経営状況がある程度具体的に明らかとなり,特定法人の競争上の地位その他正当な利益を害することとなる。また,本件対象文書は,一般競争入札の全省庁統一参加資格を得るために提出された文書に過ぎず,これらを開示することによって,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため公にすることが必要であると認められるほどの公益性は認められない。このため,当該箇所について法5条2号イに該当するとして不開示とした原処分は妥当である。


(4)なお,審査請求人の主張によれば,法令により特定法人が行うべき決算公告の内容を確認する目的で開示を求めるものであるとのことだが,特定法人は,特定年月日に,官報により決算公告を行っている。


4 結論

以上のとおり,原処分は妥当であり,審査請求人の主張には理由がないことから,本件審査請求は,これを棄却することが妥当であると考える。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和3年1月8日  諮問の受理

② 同日        諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年2月19日   審議

④ 令和4年1月7日  本件対象文書の見分及び審議

⑤ 同月28日     審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,本件対象文書を含む複数の文書の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書につき,その一部を法5条1号及び2号イに該当するとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,不開示部分のうち科目名及び金額(以下「本件不開示部分」という。)の開示を求めているが,諮問庁は,原処分は妥当であるとしていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,本件不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


2 本件不開示部分の不開示情報該当性について

(1)本件不開示部分は,貸借対照表及び貸借対照表内訳表の中小項目の科目名の各一部及びその金額並びに正味財産増減計算書及び正味財産増減計算書内訳表の科目名及び金額の全てであり,科目名及び金額が具体的に記載されていると認められる。


(2)本件対象文書の見分結果に加え,当審査会において諮問庁から提示を受けた特定法人の定款(写し)等を確認したところによれば,特定法人は,貸借対照表の負債の部に計上した合計額が大規模一般財団法人に該当しないことから,公益法人会計基準において損益計算書に相当する正味財産増減計算書の公告義務はないとする旨の上記第3の3(2)の諮問庁の説明に,特段不自然,不合理な点はなく,これを覆すに足りる事情も認められない。また,特定法人は,定款において公告を官報に掲載する方法により行う旨定めているところ,この場合,一般社団法人及び一般財団法人に関する法律128条2項の規定に基づき貸借対照表の要旨を公告することで足りるとする諮問庁の上記第3の3(2)の説明を覆すに足りる事情はないこと等に照らすと,本件不開示部分に記載された法人の事業規模や営業に係る情報について公表慣行があるとまでいうことはできない。

なお,原処分後に発行された官報により公告された貸借対照表の要旨によれば,本件不開示部分に相当する内容は記載されていないと認められる。

そうすると,特定法人も自ら公としていない法人の事業規模や営業に係る情報について,これらを公にすると法人の経営状況がある程度具体的に明らかとなり,特定法人の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある旨の上記第3の3(3)の諮問庁の説明に,特段不自然,不合理な点があるとは認められず,これを覆すに足りる事情も認められない。


(3)以上によれば,本件不開示部分は,法5条2号イに該当すると認められ,不開示としたことは妥当である。


3 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条2号イに該当するとして不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとする部分は,同号イに該当すると認められるので,不開示としたことは妥当であると判断した。


(第1部会)

委員 小泉博嗣,委員 池田陽子,委員 木村琢麿





別紙

文書1 一般競争(指名競争)参加資格審査申請(物品製造等)

文書2 履歴事項全部証明書

文書3 決算報告書(本件対象文書)

文書4 納税証明書

文書5 役員等名簿

文書6 資格審査結果通知書(全省庁統一資格)