諮問庁 内閣法制局長官
諮問日 令和 3年 2月18日(令和3年(行情)諮問第53号)
答申日 令和 3年11月18日(令和3年度(行情)答申第374号)
事件名 特定記事に記載の「想定問答」に該当する文書の不開示決定(不存在)に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「特定年月日A付特定新聞特定記事で報じられた,特定内閣法制局長官が作った「想定問答」に該当するもの全て。」(以下「本件対象文書」という。)につき,これを保有していないとして不開示とした決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和3年1月22日付け内閣法制局一第1号により内閣法制局長官(以下「内閣法制局長官」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)の取消しを求める。


2 審査請求の理由

平成28年3月22日付け内閣法制局一第7号の決定におけるような理由で文書が不存在とされている可能性があるので,平成28年度(行情)答申第646号で指摘された行政文書の定義に従って改めて文書の存在を確認するべきである。


第3  諮問庁の説明の要旨

   審査請求人は,処分庁が令和3年1月22日付け内閣法制局一第1号により行った不開示決定(原処分)について,同月24日付け(同月25日内閣法制局受付)で審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行い,原処分の取消しを求めているところ,以下のとおり,当局は同月17日付けの審査請求人による開示請求(以下「本件開示請求」という。)に係る行政文書を保有していないことから,本件審査請求には理由がない。

   すなわち,審査請求人は,本件審査請求の審査請求書(上記第2の2を指す。)記載のとおり主張するところ,審査請求人が本件開示請求で開示を求めている本件対象文書については,そもそもこれがいかなる文書を指し示しているかが必ずしも明らかではないことから,当局においては,「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について(平成26年7月1日 国家安全保障会議決定 閣議決定)」に関する想定問答であって,平成26年7月頃に特定内閣法制局長官(当時)により作成されたと考えられるもの(以下,第3において「探索目的文書」という。)の存否について,幅広く確認を行った。具体的には,仮に探索目的文書が存在するとすれば,探索目的文書が保存されている可能性が高いと考えられる①「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会,安全保障法整備に関する与党協議会及び「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(平成26年7月1日閣議決定)関係」,②「平成26年国会用資料(実問)」,③「平成28年提出資料等」,④「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案(平成27法律76)」及び⑤「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律案(平成27法律77)」に分類されている行政文書ファイルについて確認するとともに,①及び③の行政文書ファイルが保存されている当局第一部事務室の書棚,④及び⑤の行政文書ファイルが保存されている当局第二部事務室の書棚並びに②の行政文書ファイルを含む国会用資料が保存されている当局第一部の共有フォルダ等について探索を行ったが,探索目的文書の存在は確認できなかった。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

   ① 令和3年2月18日  諮問の受理

   ② 同日         諮問庁から理由説明書を収受

   ③ 同年10月15日   審議

   ④ 同年11月12日   審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,これを保有していないとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,原処分の取消しを求めているが,諮問庁は原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の保有の有無について検討する。


2 本件対象文書の保有の有無について

(1)諮問庁の上記第3(理由説明書)の説明について,当審査会事務局職員をして諮問庁に更に確認させたところ,諮問庁は,おおむね次のとおり補足して説明する。

ア 本件開示請求において,審査請求人は,内閣法制局長官が自ら作成した想定問答の開示を求めていると解されるが,通常,内閣法制局において必要に応じ作成されている想定問答については,当局の担当参事官等が内閣法制局長官等の上司の了解を得ながら作成しているところである。


イ その上で,審査請求人が本件開示請求で開示を求めた際に示した特定記事において,「解釈を変更した14年(2014年,平成26年)7月1日の閣議決定からすぐ,法制局のメンバーに特定内閣法制局長官が作った想定問答が配られた。」旨の記載があるところ,当該閣議決定とは,「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について(平成26年7月1日付け国家安全保障会議決定,閣議決定)」を指しているものと思料し,また,「特定内閣法制局長官が作った想定問答」とあることから,当該想定問答が特定内閣法制局長官により作成されたものと思料し,さらに,「閣議決定からすぐ」とあることから,平成26年7月頃に作成されたものと思料し,本件対象文書の存否について,念のため,確認を行うこととした。


ウ しかしながら,理由説明書において記載した各書棚及び共有フォルダに加え,過去の当局の国会答弁案等をまとめた「国会関係等データベース」の「国会用資料(実問)」,「国会用資料(その他)」,「国会用資料(想定)」及び「国会用資料(他省庁作成)」に収録された平成26年7月頃に作成された文書を探索したが,特定元法制局長官が作成した想定問答は確認できなかった。また,紙媒体の国会会期別の想定問答を保存している内閣法制局第一部事務室の書棚を探索したが,同月頃に作成された国会会期別の想定問答は,保存されていないことを確認した。


エ 以上により,上記アのとおり審査請求人の主張する形で想定問答が作成されることは,通常は考え難く,上記ウのとおり本件対象文書の存在が具体的に想定される範囲を探索しても,その存在を確認できないことから,本件対象文書を作成し,又は取得したと確認できず,本件対象文書を保有していないとする原処分を行ったものである。


(2)これを検討するに,特定記事の内容等に鑑みれば,審査請求人が主張する形で内閣法制局長官が自ら想定問答を作成したことは考え難いとする旨の諮問庁の上記(1)ア及びエの説明には,疑問の余地が残るところである。

    しかしながら,上記(1)ウの探索の範囲等については不十分とまではいえない上,上記(1)ア,イ及びエの諮問庁の説明を覆すに足りる事情は認められず,また,他に本件対象文書が作成又は取得されたことをうかがわせる事情も認められない。

 そうすると,上記(1)の諮問庁の説明は,これを否定することまではできない。


(3)以上によれば,内閣法制局において,本件対象文書を保有しているとは認められない。


3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 付言

   本件不開示決定通知書には,不開示とした理由について,「開示請求に係る行政文書を保有していないため。」と記載されているところ,一般に,文書の不存在を理由とする不開示決定に際しては,単に対象文書を保有していないという事実を示すだけでは足りず,対象文書を作成又は取得していないのか,あるいは作成又は取得した後に,廃棄又は亡失したのかなど,なぜ当該文書が存在しないかについても,理由として付記することが求められる。

   したがって,原処分における理由付記は,行政手続法8条1項の趣旨に照らし,適切さを欠くものであり,処分庁においては,今後の対応において,上記の点について留意すべきである。


5 本件不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,これを保有していないとして不開示とした決定については,内閣法制局において本件対象文書を保有しているとは認められず,妥当であると判断した。


(第1部会)

  委員 小泉博嗣,委員 池田陽子,委員 木村琢麿