諮問庁 厚生労働大臣
諮問日 平成31年 2月25日(平成31年(行個)諮問第26号)
答申日 令和 3年 8月 5日(令和3年度(行個)答申第56号)
事件名 本人の処分に関する特定年月日開催の医道審議会医道分科会配付資料及び議事録の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「医道審議会医道分科会配付資料及び議事録(平成30年特定日開催)」(以下「本件文書」という。)に記録された保有個人情報(以下「本件対象保有個人情報」という。)につき,その一部を不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとする部分のうち,別表の4欄に掲げる部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)12条1項の規定に基づく開示請求に対し,平成30年8月24日付け厚生労働省発医政0824第1号により厚生労働大臣(以下「厚生労働大臣」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)原処分(ただし審査請求人以外の個人に関する情報に係る部分を除く。)を取り消すとの決定を求める。


(2)第一に,原処分は,法14条6号所定の不開示事由が存在しないにもかかわらず,本件対象保有個人情報の一部を不開示としたものであって,違法である。この点については,行政庁による弁明をまって,さらに主張を追完する。

   第二に,原処分は,不開示とした理由について,法14条6号の文言をそのまま繰り返すのみであり,不開示部分にいかなる性質の情報が含まれ,いかなる理由から同号に該当するのかを読み取ることができず,理由の付記として必要な記載を欠いており,行政手続法14条1項(原文ママ)に反し違法である。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 本件審査請求の経緯

(1)本件審査請求人は,平成30年4月26日付け(同月27日受付)で処分庁に対し,法12条1項の規定に基づき本件対象保有個人情報の開示請求を行った。


(2)これに対して処分庁が原処分を行ったところ,審査請求人はこれを不服として,平成30年11月26日付け(同日受付)で本件審査請求を提起したものである。


2 諮問庁としての考え方

  本件対象保有個人情報については,文書1は審査請求人を本人とする保有個人情報に該当しないとした上で,原処分における不開示部分を維持することが妥当であると考える。


3 理由

(1)本件対象保有個人情報について

   「私に対する平成30年特定日付け医業停止2か月の処分に至る過程において作成された文書一切ならびに当該処分を行う旨を答申した2018年特定日開催の医道審議会医道分科会において私について提出された資料一切および同分科会議事録のうち私への処分について議論された部分」の開示を求める本件開示請求に対し,処分庁は,本件対象保有個人情報を特定した。

   本件文書は,具体的には,別表の1欄に掲げる文書1ないし文書5の各文書である。


(2)医道審議会医道分科会について

   医師法(昭和23年法律第201号)7条1項ないし3項までに規定する処分をなすに当たっては,あらかじめ医道審議会の意見を聴かなければならない(同条4項)こととされており,厚生労働大臣は,医道審議会の意見を踏まえ,戒告(同条2項1号),3年以内の医業停止(同項2号)又は免許の取消し(同項3号イ)の処分を行っている。


(3)保有個人情報該当性について

   文書1については,医道審議会医道分科会(以下単に「医道分科会」という。)における今後の方針について記載したものであり,法2条に規定する「個人情報」を含むものではなく,法12条に基づく開示請求の対象となる文書ではないことから,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当しない。


(4)不開示情報該当性について(別表の2欄に掲げる部分)

ア 法14条6号該当性

  文書2ないし文書5を開示した場合,以下の弊害等が生ずるおそれがある。

(ア)処分の判断根拠が公になるような情報が記載されているため,非違行為の程度に応じた処分による実害の有無や程度が推測され,かえって非違行為を助長する等の弊害が生じる可能性がある。


(イ)上記(ア)の資料の性質により,処分量定の軽減を目的として,処分の判断根拠に合わせた証言や証拠提出等を助長する可能性もあり,審議会の議論で参考とする資料の信憑性等にも影響を及ぼす可能性がある。


(ウ)行政処分の内容を審議するという性質上,医道分科会における発言や判断について委員等がひぼう・中傷を受けることが懸念される。


(エ)上記(ウ)の審議の性質上,会議は非公開で行っているため,委員等は,その個々の発言内容が公開されないことを前提として当分科会に臨んでいると推定される。

  以上のとおり,文書2ないし文書5については,これを公にすると,多くの具体的な弊害等が生じる可能性があり,分科会における率直な意見交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあることから,法14条6号に該当し,不開示とすることが妥当である。


イ 法14条2号及び3号イ該当性について

  文書2ないし文書5のうち以下に掲げる部分は,個人の氏名,生年月日,住所,勤務先等を含む特定の個人を特定できる情報(他の情報と照合することにより,審査請求人以外の特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)や法人その他の団体(国,独立行政法人等及び地方公共団体を除く。)に関する情報又は審査請求人以外の事業を営む個人の当該事業に関する情報である。

  当該部分は,これを開示すると,当該法人等又は当該個人の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあることから,法14条2号及び3号イに該当し,不開示とすることが妥当である。

(ア)文書2 審査請求人を除く処分対象者の区分1,区分2,氏名,不正時の医療機関所在県及び医療機関名


(イ)文書3 審査請求人を除く処分対象者の氏名,事件当時の医療機関等,聴取の概要


(ウ)文書4 審査請求人を除く処分対象者の氏名,本籍地,現住所,生年月日,医籍事項,精神保健指定医取消等処分,聴取の概要,処分対象者からの提出資料


(エ)文書5における不開示部分 医道分科会の議事において言及された個々の事件に関する記載,被処分者の弁明等に関する記載等


(5)審査請求人の主張について

   審査請求人は,審査請求書(上記第2の2(2))において,本件対象保有個人情報には「法14条6号所定の不開示事由が存在しない」と主張するが,この点については,上記(4)アに述べたとおりである。

   また,審査請求人は,本件開示決定通知書は「法14条6号の文言をそのまま繰り返すのみであり,不開示部分にいかなる性質の情報が含まれ,いかなる理由から同号の不開示事由に該当するのかを読み取ることができず」,原処分は「理由の付記として必要な記載を欠いており,行政手続法14条1項に反し違法である」旨主張する。

   この点について,原処分は,行政手続法2条に規定する「不利益処分」ではなく,同法8条の「申請により求められた許認可等を拒否する処分」であるので,同条の適用があるものと解する。同条において理由付記を求めているのは,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される(最高裁昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁,最高裁昭和60年4月23日第三小法廷判決・民集39巻3号イ850頁)。

   また,公文書の非開示決定通知に付記すべき理由としては,開示請求者において,条例所定の非開示理由のどれに該当するかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず,単に非開示の根拠規定を示すだけでは,当該公文書の種類,性質とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として,理由付記としては十分でないとされている(最高裁判所平成4年12月10日第一小法廷判決・集民第166号773ページ)。

   本件開示決定通知書の「不開示とした部分とその理由」において,「医道審議会医道分科会は,国の内部における審議」であり,「その議事内容を開示することによって,率直な意見の交換もしくは意思決定の中立性が不当に損なわれる可能性がある」こと等原処分の原因となる事実を記載した上で,「当分科会の配付資料及び議事録について,法14条6号に基づき,一部不開示とする」と決定理由が記載されている。

   また,本件文書は,医師に対する処分について審議する医道分科会の議事を記した議事録及びその配付資料であり,処分の審議の際に必要な情報が記載されていることは,請求人の了知し得るところである。

   以上を踏まえれば,原処分における理由付記の程度は不十分とはいえず,行政手続法に照らしても瑕疵はないと考える。


4 結論

  以上のとおり,原処分における不開示部分については,文書1は審査請求人を本人とする保有個人情報に該当しないとした上で,不開示とすることが妥当であり,本件審査請求は棄却すべきものと考える。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成31年2月25日  諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年3月7日      審議

④ 令和3年6月17日   委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象保有個人情報の見分及び審議

⑤ 同年7月29日     審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象保有個人情報について

(1)本件対象保有個人情報について,処分庁は,その一部を法14条2号,3号及び6号に該当するとして不開示とする原処分を行ったところ,審査請求人は,原処分の取消しを求めている。

   これに対して諮問庁は,原処分における不開示部分について,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当しない,又は法14条2号,3号イ及び6号に該当するとして,不開示とすることが妥当としているので,以下,本件対象保有個人情報の見分結果を踏まえ,原処分における不開示部分の保有個人情報該当性及び不開示情報該当性について検討する。


(2)諮問庁は,原処分においてその全部が不開示とされた文書1について,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当しない旨説明するが,当審査会が見分したところ,本件文書には,文書1以外にもその保有個人情報該当性について検討を要するものがあると判断されるところである。

   このため,下記2において本件対象保有個人情報の保有個人情報該当性を検討する際には,文書1に限らず,検討を行うこととする。


(3)審査請求人は,開示請求書(上記第3の3(1))において,「医道審議会医道分科会議事録のうち私(審査請求人)への処分について議論された部分」の開示を求めるとしている。このため,当該議事録(文書5)のうちこれに該当しない部分については,本件開示請求の対象ではないものと認められることから,下記3において不開示情報該当性を検討する際,当該部分については判断しないこととする。

   また,審査請求人は,審査請求書(上記第2の2(1))において,「審査請求人以外の個人に関する情報に係る部分を除き,原処分の取消しを求める」旨を述べている。これについては,下記3において不開示情報該当性を検討する際に,法14条2号に該当すると解される情報を対象から外すことにより対応することとする。


(4)文書5の記載中に,特定された本件対象保有個人情報以外にも本件開示請求の対象となり得るものの存在を伺わせる記述が認められるが,審査請求人は,本件審査請求において本件対象保有個人情報の特定について争っているとは解されないことから,この点については判断しない。


2 保有個人情報該当性について

(1)審査請求人は,上記第3の3(1)のとおり,自身に対して医業停止の処分を行うべき旨を答申した平成30年特定日の医道分科会において,自身に関する議論時に使用された資料及び議事録のうち自身に関する議論部分の開示を求めている。


(2)諮問庁は,理由説明書(上記第3の3(3))において,本件文書のうち文書1について,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当しない旨を説明する。

   当審査会において見分したところ,文書1に審査請求人の氏名等同人を識別することができる情報は記載されていないが,平成30年特定日の医道分科会の配付資料であり,文書5の医道分科会議事録を見分した結果によって確認すると,審査請求人を含む各医師に対する具体的な処分量定に関する同分科会の当日の審議は,この文書1の方針に即して議論が行われたものであると認められる。

   したがって,文書1は,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当するものと認められる。


(3)当審査会において見分したところ,文書2ないし文書5については,以下のとおりと認められる。

  ア 文書2ないし文書4

(ア)当該部分は,平成30年特定日に開催された医道分科会において医師法に基づく処分が審議された28人の医師のうち審査請求人を除く27人の医師についての「処分対象者一覧」,「行政処分関係審議資料」及び「医師行政処分調書」である。


(イ)文書2は「処分対象者一覧」であり,具体的には,処分対象者である27人の医師について,行ごとに,各医師の「氏名」,「不正時の医療機関」の名称及び所在県,「区分1」(指導医又は申請医の別),「対応する申請医又は指導医」の氏名及び整理番号,「区分2」(精神保健指定医資格の却下,返上又は取消しの別),「客観的な証拠の提出状況」,「精神保健指定医資格審査部会資料の抜粋」並びに「処分」の各欄が不開示とされている。


(ウ)文書3は「行政処分関係審議資料」であり,具体的には,処分対象者である27人の各医師について,頁ごとに,その「氏名」及び年齢,「事件当時の医療機関等」の名称及び所在地,「事件の概要」のなお書き部分,精神保健指定医取消等処分の有無及び処分日の記載(欄名を含む。),「聴取の概要」並びに審議の参考とされた類似事案の前例2事案の記載部分(欄名を含む。)が不開示とされている。類似事案としては,年月,被処分者の氏名,資格の略号,事案の簡潔な内容並びに医師法及び精神保健衛生法に基づく処分の内容が記載されている。


(エ)文書4は「医師行政処分調書」であり,具体的には,処分対象者である27人の各医師について,目次中の氏名及び各医師が提出した弁明書が不開示であるほか,その調書については,各医師の氏名,生年月日及び年齢,本籍地,現住所,医籍登録番号及び登録日,事件の概要のなお書き部分,精神保健指定医取消等処分の有無及び処分日並びに聴取の概要の記載が不開示とされている。


(オ)上記(イ)ないし(エ)の見分結果を踏まえると,当該部分のうち審査請求人を除く27人の医師に係る部分は,文書2については行ごと,文書3については頁ごと,文書4については弁明書を含む調書ごとに,処分対象者である27人の各医師の別個の個人に関する情報であって,それぞれ特定の個人を識別することができる情報であり,審査請求人を識別することができる情報が含まれているとは認められない。

   したがって,当該部分のうち審査請求人を除く27人の医師に係る部分(具体的には,別表の3欄に掲げる文書2B,文書3B及び文書4)は,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当するとは認められない。


(カ)なお,原処分においては,文書2ないし文書4の表紙,目次及び項目名(欄名)の全部又は一部が開示されているほか,文書3及び文書4については,審査請求人以外の27人の各医師についての「事件の概要」(なお書き部分を除く。)が全て開示されている。


イ 文書5

  当該部分は,平成30年特定日の医道分科会議事録である。当日の同分科会では,同一の議題の下に審査請求人を含む28人の医師に対する具体的な処分量定に関する審議等が行われており,当該部分にはその審議が記録されている。このため,当該部分は,その全体が審査請求人を本人とする保有個人情報に該当すると認められる。

なお,文書5については,原処分において,表紙,議事次第及び冒頭の開会部分並びに議事録中の発言者の氏名が開示されている。


3 不開示情報該当性について

(1)検討対象

ア 原処分における不開示部分のうち,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当する部分について不開示情報該当性を検討する。その際,諮問庁は文書1を含む本件文書の不開示部分の全部について法14条2号,3号イ及び6号該当性を主張しているものとして,検討を行う。


イ 原処分における不開示部分のうち,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当する部分は,具体的には,以下のとおりである。

文書1 その全部

文書2A 2頁表頭部分の不開示部分,審査請求人に係る「対応する申請医又は指導医」の氏名及び整理番号,「客観的な証拠の提出状況」,「精神保健指定医資格審査部会資料の抜粋」並びに「処分」の各欄

文書3A 審査請求人に係る精神保健指定医取消等処分の有無及び処分日並びに類似事案の前例部分(各欄名を含む。)

文書5 原処分において開示されている部分(表紙,議事次第及び冒頭の開会部分並びに議事録中の発言者の氏名)を除く部分

(注)文書4のうち審査請求人の「医師行政処分調書」は,弁明書を含めて原処分において全て開示されている。


ウ 上記イに掲げる部分のうち,以下については,それぞれに掲げる理由により,判断の対象から外している。

(ア)文書2の不開示部分のうち,審査請求人に係る行の「対応する申請医又は指導医」欄 上記1(3)第2段落の理由


(イ)文書3の不開示部分のうち,処分の審議の参考とされた類似事案の前例2事案の事案内容の記載部分 上記1(3)第2段落の理由


(ウ)文書5の不開示部分のうち,医師に処分を課す際の総論,関係する裁判や法的な問題との関係の整理,審査請求人以外の医師に対する処分についての個別の審議のほか,当日予定の議題以外に提起された問題についての議論の記録 上記1(3)第1段落の理由


(2)開示すべき部分(別表の4欄に掲げる部分)について

ア 文書1

(ア)文書1(下記(イ)を除く。)

   当該部分には,審査請求人以外の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものが記載されているとは認められない。

   当該部分の2枠目の5行目ないし8行目は,処分の考え方の記載であるが,医道分科会が決定し,公表されている「医師及び歯科医師に対する行政処分の考え方について」を引用した内容であり,審査請求人が知り得る情報であると認められる。

   2枠目の2行目ないし4行目並びに9行目及び10行目は,医師法及び精神保健福祉法に基づく処分理由の要点の記載であり,11行目ないし14行目並びに17行目及び18行目には,審査請求人の処分理由並びに同種の著名な先行大量処分事例及びそれを踏まえた処分の審議方針が記載されている。しかし,審査請求人自身が当該事例において精神保健福祉法による処分を受け,その後本件事案において医師法による処分も受けていることから,いずれも同人が知り得る情報であると認められる。

   2枠目の11行目及び17行目には,特定の機関の名称の記載があるが,審査請求人の元所属機関であり,同人が知り得る情報であると認められる。当該部分には,このほか,特定の法人その他の団体に関する情報が含まれているとは認められない。

   1枠目の3行目の処分対象者の人数の概数については,当日の審議対象である処分対象の医師の正確な人数(28人)が原処分において開示されており,同枠のその余の部分も,上記に見たところから推認可能な内容であると認められる。

   当該部分のその余の部分は,資料番号,資料名及び資料中の項目名にすぎない。

   このため,当該部分は,これを開示しても,特定の機関の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるとは認められず,医道分科会における率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとも認められない。

   したがって,当該部分は,法14条2号,3号イ及び6号のいずれにも該当せず,開示すべきである。


(イ)文書1(2)

   当該部分は,医道分科会における審議方針の記載のうち,審査請求人に対する処分事案とは事情が異なる可能性のある事案についての審議方針及び当日を含む医道分科会の当面の審議予定に関する記載である。

   当該部分には,審査請求人以外の個人に関する情報が含まれているとは認められない。また,同人の元所属機関等の法人その他の団体に関する情報が記載されているとも認められない。

   当該部分は,これを開示すると,当日を含む医道分科会の当面の審議予定や審議方針の一端が明らかにはなるものの,いずれも一般的,抽象的な方針であって,容易に推認できる内容とすることが相当である。いずれにしても,個別の事案内容や具体的な審議内容が明らかになるものではなく,関係処分が施行されたことにより既に明らかになっている内容であると認められる。

   したがって,当該部分は,法14条2号に該当せず,また,上記(ア)と同様の理由により,同条3号イ及び6号のいずれにも該当せず,開示すべきである。


イ 文書2

  当該部分には,審査請求人以外の個人に関する情報が記載されているとは認められない。

  当該部分のうち表頭部分の記載内容は,先行する医道審議会精神保健指定医審査部会の審議を前提とした記載であるが,審査請求人が受けた処分に関連することから,同人が知り得る情報であると認められる。その余の部分は,空欄部分にすぎない。

  したがって,当該部分は,法14条2号に該当せず,また,上記ア(ア)と同様の理由により,同条3号イ及び6号のいずれにも該当せず,開示すべきである。


ウ 文書3

  当該部分は,審査請求人に係る「行政処分関係審議資料」の記載の一部であり,具体的には,同人についての①精神保健指定医取消等処分の有無及び処分日の記載部分及びその欄名並びに②処分の審議の参考とされた類似事案の前例2事案の記載部分の欄名部分である。当該部分は,審査請求人以外の個人に関する情報であるとは認められない。

  当該部分のうち上記①は,審査請求人が当日の医道分科会において処分対象者として議論されることになった原因に由来する事実であるが,同人が受けた処分の内容であって,文書4のうち原処分において開示されている部分と同じ情報であり,審査請求人が知り得る情報であると認められる。また,上記②は欄名にすぎない上,処分の量定に当たり類似事案との比較衡量を行う方針は,上記アにおいて開示すべきと判断した文書1の内容からも容易に推認できるものであり,審査請求人が知り得る情報であると認められる。

  当該部分には,特定の法人等に関する情報が含まれているとは認められない。

  したがって,当該部分は,法14条2号に該当せず,また,上記アと同様の理由により,同条3号イ及び6号のいずれにも該当せず,開示すべきである。


エ 文書5

  当該部分は,審査請求人に対する処分の審議を行った医道分科会の当日の議事録の一部である。

(ア)文書5(1)は,議事開始,配付資料の確認,議題の確認,議事終了及び閉会の記録である。これらは,原処分において開示されている部分である議事次第及び冒頭の開会部分等と同様,審査請求人に対する処分の審議を含む当日の医道分科会の議事が有効に成立したことを示す手続の記録であると認められる。


(イ)文書5(2)は,審査請求人の処分事案の説明(弁明書の概要説明を含む。)並びに同人に対する処分の審議及び決定(確認を含む。)の記録の一部である。そのうち弁明書は,同人が提出した文書であり,原処分においてその全部が開示されている。審査請求人が処分対象者として議論されることになった原因事実並びに決定された処分事実及び処分内容の記載は,処分の決定後,被処分者である同人に通知された内容と同様の内容であると推認される。当該部分には,審査請求人に対する処分の事務局案の具体的量定は含まれておらず,同案についての分科会委員による質疑応答の内容も含まれていない。その余の部分は,分科会長による議事進行の記載であり,審査請求人に対する処分の審議という議事が有効に行われたことを示す記録であると認められる。


(ウ)被処分者である審査請求人にとって,当日の医道分科会の審議が有効に行われて同人に対する処分内容が決定され,処分を受けたことは所与の事実である。このため,上記(ア)及び(イ)を踏まえると,当該部分については,審査請求人が知り得る情報であるか,又は同人が容易に推認できる内容であるとすることが相当である。

   当該部分には,審査請求人以外の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものが含まれているとは認められない。また,当該部分には,審査請求人の元所属機関の名称の記載があるが,これは同人が知り得る情報であると認められる。

   したがって,当該部分は,法14条2号に該当せず,また,上記ア(ア)と同様の理由により,同条3号イ及び6号のいずれにも該当せず,開示すべきである。


(3)その余の部分(別表の4欄に掲げる部分を除く部分)について

ア 文書2B,文書3B及び文書4

  当該部分のうち,文書2Bは当日の医道分科会で審議対象となった処分対象医師の一覧表のうち審査請求人を除く27人に係る部分であり,文書3Bはこれら各医師についての行政処分関係審議資料,文書4は同じく医師行政処分調書である。

  当該部分について,諮問庁は,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当するとした上で,法14条2号,3号イ及び6号に該当するとして,不開示とすることが妥当としているが,上記2(3)アで判断したとおり,当該部分は,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当するとは認められない。

  したがって,当該部分を不開示としたことは,結論において妥当である。


イ 文書5

  当該部分(審査請求人以外の処分対象者である医師の氏名,整理番号及びこれらの医師を識別することができる部分を除く。)は,医道分科会の議事録のうち審査請求人に対する処分を審議した部分(別表の3欄の文書5A2)の一部である。

  当審査会において見分したところ,当該部分は,事務局による審査請求人の処分案の量定等具体的な内容,医道分科会委員によるその質疑応答等(関連して同時に審議された他の医師の処分についての質疑応答を含む。)の記録であり,医道分科会の出席委員が自由かったつに議論した内容が記載されていることが認められる。当該部分は,審査請求人が知り得る情報であるとは認められない。

  また,原処分において既に発言者の氏名が開示されていることを踏まえると,当該部分を開示すると,処分量定の軽減を目的として処分の判断根拠に合わせた証言や証拠提出を助長したり,又は行政処分の内容を審議するという審議会の性質上,出席委員の発言や判断について委員が誹謗・中傷を受けたり,若しくはそのことを嫌忌して出席委員が正しいと思う発言を控えるようになるなどし,その結果,医道分科会における率直な意見交換又は意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれがあるとする諮問庁の説明(上記第3の3(4))について,これを否定することは困難であると認められる。

  したがって,当該部分は,法14条6号に該当し,同条2号及び3号イについて判断するまでもなく,不開示とすることが妥当である。


4 審査請求人の主張について

  審査請求人は,審査請求書(上記第2の2)において,原処分は,「法14条6号の文言をそのまま繰り返すのみであり,不開示部分にいかなる性質の情報が含まれ,いかなる理由から同号に該当するのかを読み取ることができず,理由の付記として必要な記載を欠いている」旨主張している。

  当審査会において,諮問書に添付された本件開示決定通知書を確認したところ,「不開示とした部分とその理由」欄には,「医道審議会医道分科会は,国の内部における審議」であり,「その議事内容を開示することによって,率直な意見の交換もしくは意思決定の中立性が不当に損なわれる可能性がある」ため,本件対象保有個人情報の一部を法14条6号に基づき一部不開示とする旨記載されていることが認められる。

  原処分において本件文書の見出し,欄名等の相当部分が開示されていることも考え併せると,原処分において,不開示部分とその理由を了知し得ないとまでいうことはできず,理由の提示について,原処分を取り消すべき瑕疵があるとまでは認められない。


5 付言

(1)上記2(3)ア(オ)のとおり,文書3及び文書4のうち審査請求人を除く27人の医師に係る部分は,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当しないが,原処分においては,このうち,両文書における審査請求人以外の各医師に係る「事件の概要」部分(なお書き部分を除く。)が全て開示されている(上記2(3)ア(カ))。

   これらの「事件の概要」は,本件開示請求文言に照らして審査請求人が開示を求めている部分ではない上,そもそもそれぞれ別個の個人情報であって,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当しない。処分庁は,法の運用を誤り,第三者の個人情報を開示したものであり,今後,処分庁においては,法の規定を踏まえた個人情報の適切な取扱いを徹底する必要がある。


(2)法14条6号該当性の理由の提示については,上記4に述べたとおりであるが,同条2号及び3号イ該当性の理由については,本件開示決定通知書の記載内容は,法の規定の引き写しにとどまっており,「単に非開示の根拠規定を示すだけ」のものと指摘(上記第3の3(5)で所引の最高裁判決)を受けてもやむを得ない。本件の場合,開示実施文書において上記各号該当部分を判別することは必ずしも困難ではないと認められることから,原処分を取り消すには及ばないが,処分庁においては,最高裁判決等を引用して自らが理由説明書において詳細に論じる「理由の提示」の趣旨目的を踏まえ,今後,一層の精進に努められたい。


6 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象保有個人情報につき,その一部を法14条2号,3号及び6号に該当するとして不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとし,諮問庁が,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当しない,又は同条2号,3号イ及び6号に該当するとして不開示とすべきとしている部分のうち,別表の3欄に掲げる文書2B,文書3B及び文書4(以下「非該当部分」という。)は,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当しないことから,不開示としたことは結論において妥当であり,非該当部分及び別表の4欄に掲げる部分を除く部分は,同条6号に該当すると認められるので,同条2号及び3号イについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当であるが,同欄に掲げる部分は,審査請求人を本人とする保有個人情報に該当し,同条2号,3号イ及び6号のいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。


(第3部会)

 委員 髙野修一,委員 久末弥生,委員 葭葉裕子





別表 不開示情報該当性等

1 文書番号及び文書名

2 原処分における不開示部分

3 2欄に掲げる部分の保有個人情報該当性(各B部分が保有個人情報非該当)

4 3欄に掲げる部分のうち開示すべき部分

文書1

医道審議会医道分科会資料1 精神保健指定医に対する医師法に基づく行政処分について

全て

A 全て

B -

(1)全て((2)を除く。)

(2)上から1枠目2行目1文字目ないし22文字目,3行目18文字目ないし20文字目,27文字目,28文字目,33文字目,34文字目,上から2枠目11行目22文字目ないし最終文字,15行目,16行目,17行目37文字目ないし18行目23文字目

文書2

医道審議会医道分科会資料2 精神保健指定医処分対象者一覧表

① 各頁表頭不開示部分

② 整理番号1ないし28(21を除く。)の行の全て

③ 整理番号21の行の不開示部分

A 2頁表頭及び整理番号21の行の各不開示部分

B 全て(Aを除く。)

Aの全て(整理番号21の行の「対応する申請医又は指導医」欄を除く。)

文書3

医道審議会医道分科会資料3 行政処分関係審議資料

① 番号1ないし28(21を除く。)の表上段(氏名,事件当時の医療機関等,聴取の概要及び事件の概要(なお書き部分に限る。)並びに左から4列目(欄名を含む。)に限る。),欄名を含む表下段

② 番号21の表上段左から4列目及び表下段(各欄名を含む。)

A 番号21の表上段左から4列目及び表下段の各欄名及び内容

B 全て(Aを除く。)

Aの全て(番号21の表下段の欄内容を除く。)

 

文書4

医道審議会医道分科会資料4 医師行政処分調書

① 目次の氏名(21番を除く。)

② 1番ないし28番(21番を除く。)の者の調査書(各欄名及び事件の概要を除く。)及び弁明書全て

A -

B 全て

文書5

医道審議会医道分科会議事録

1頁35行目ないし56頁最終行の不開示部分(発言者の氏名及び職名を除く。)

A1 1頁35行目ないし2頁20行目23文字目,56頁7行目1文字目ないし35文字目,22行目,23行目

A2 50頁34行目ないし52頁17行目(他の医師に係る記載を除く。)

B -

(1)A1の全て

(2)A2のうち,50頁34行目ないし35行目14文字目,21文字目ないし51頁1行目9文字目,12文字目ないし5行目12文字目,32文字目ないし7行目24文字目,8行目4文字目ないし9行目2文字目,5文字目ないし10行目22文字目,33行目ないし35行目5文字目,36行目ないし52頁4行目5文字目,21文字目ないし5行目,11行目39文字ないし12行目9文字目,15行目ないし17行目

(注)文字数は,原処分における開示部分を除いて数えている。