諮問庁 国立大学法人東京大学
諮問日 令和 2年10月 5日(令和2年(独情)諮問第39号)
答申日 令和 3年 3月 8日(令和2年度(独情)答申第45号)
事件名 22報論文に関する調査報告書等の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙に掲げる文書1ないし文書5(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした各決定は,妥当である。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和2年3月26日付け第2017-58号,第2017-58の2号,第2017-58の3号及び第2017-58の4号により国立大学法人東京大学(以下「東京大学」,「東大」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った各一部開示決定(以下,順に「原処分1」ないし「原処分4」といい,併せて「原処分」という。)について,不開示部分のすべての開示を求める。


2 審査請求の理由

審査請求人が主張する審査請求の理由は,審査請求書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)東京大学は,22報論文に関する調査報告の骨子しかウェブ上で公開していない。特定研究科Bに関しては,「論文(図)5報(16図)について不正行為があったと認められた。」と結論している。それに対して,特定研究科Aに関しては,「申立のあった5名について不正行為はない」としか述べていない。これは,なんとも不可解な日本語表現である。「朝,ごはんを食べましたか?」と聞かれて,パンを食べていたのに「朝,ごはんを食べていません。」と答える「ご飯論法」は,不正を隠したい政治家の常套手段であるが,東大のこの発表の仕方はまさにご飯論法である。特定告発者が告発したのは,5名の人間ではなく5名の教授の研究室から出版された個々の論文の個々の図に関してである。なぜ,特定研究科Aに関しては特定研究科Bの調査報告と同様に,「申立てのあった論文の図に関して不正行為はない」と言えなかったのか?東大が用いたこの不可解な日本語表現は,研究不正が隠蔽されたのではないかという強い疑念を生じさせる。実際のところ,調査報告書には,むしろ,データ捏造の事実を強く示唆する文章が存在する。これまでにわずかばかり開示されたところを読んでみると,論文の図表が示すデータはオリジナルデータ(実験で得られた測定値)とほとんど異なっていたという意味合いの文章や,論文の図表作成において手作業を加えるのは特定分野の研究においては通常のことであると主張する文章が存在する。実際と異なる数値を発表するのはデータの捏造そのものであるし,統計ソフトを用いれば平均値や標準誤差などは自動的に計算され,グラフの描画まで自動的に行われるのが通常であって,人間が手作業でグラフを作成する必要性などどこにもない。報告書のこれらの記述は,図表が捏造されていたことを不正調査委員らが認めていると解釈できる。不正行為を追及された政治家が,「広く募ったが募集はしていない。」などと日本語として意味のなさない答弁をして失笑を買ったというニュースがあったが,東大の言っていることは,それと同レベルである。手作業でグラフを作成するのが通常だというのなら,それは東大特定学部Aではデータを捏造することが通常だと自ら認めているようなものであろう。

研究業績に基づいて年間およそ○円もの研究助成を受けている,日本の頂点に立つ大学には,それ相応のresearchintegrityというものが要求される。不正の有無を詳細に報告する義務があるのは当たり前すぎて,論を待たない。

東京大学は平成18年に研究倫理に関する行動規範を発表している。そこには,「研究活動について透明性と説明性を自律的に保証することに,高い倫理観をもって努めることは当然である。」「広く社会や科学者コミュニティによる評価と批判を可能とするために,その科学的根拠を透明にしなければならない」「十分な説明責任を果たすことにより研究成果の客観性や実証性を保証していくことは,研究活動の当然の前提であり・・・その責任を果たすことによってこそ,東京大学において科学研究に携わる者としての基本的な資格を備えることができる。」などの言葉がある。今回の東大が調査報告書や調査資料のほぼすべてを不開示としたのは,東大自らが過去に示した規範から大きく逸脱するものであり,現執行部による裏切り行為と言えよう。文部科学省も「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」の中で「研究者間相互の吟味・批判によって成り立つチェックシステムが不可欠である」と,相互批判の重要性を力説している。また,日本学術振興会は,「研究活動の公正性の確保及び適正な研究費の使用について確認・誓約すべき事項」において,「研究成果の発表とは,研究活動によって得られた成果を,客観的で検証可能なデータ・資料を提示しつつ,研究者コミュニティに向かって公開し,その内容について吟味・批判を受けることである」と述べており,やはりデータを研究者コミュニティが吟味・批判できるようにすることの必要性を述べている。つまり,東大が調査報告書や調査資料を全面的に開示して,外部の研究者によるデータの吟味・批判的な分析を受けることは,研究の世界において当然のことである。このような相互批判は科学者にとって通常の営みにすぎず,東大が不開示理由とするような,将来にわたって研究が妨げられるとか,調査が妨げられるなどということはあり得ないのである。現実離れしたことを言い訳に持ち出して,法的な根拠なしにほぼすべてを不開示することは,許されない。

不正がなかったから説明しないという東大のやり方を認めると,研究不正の組織的な隠蔽を許すことになり,日本の研究倫理を大きく後退させることになる。研究者コミュニティや,さらには一般の国民が東大特定学部A論文における研究不正の有無を検証できるように,調査報告書および調査資料は全面的に開示されるべきと考える。

特定告発者の告発は,特定ニュースなどで大きく取り上げられており,特定ニュースの記事のリンクから容易にその告発文書の内容を閲覧できるほか,特定誌のウェブサイトもこの事件を取り上げており,告発文を紹介している日本のブログ記事にリンクが張られているので,こちらからも告発内容を読むことができる。この事件が報道されたときには研究者の間で大きな話題になったわけであるし,今でもこのように,世界中の研究者が容易に告発内容を閲覧できるため,特定告発者の告発内容は事実上,公開されたものといえる。よって,東大が調査報告書において告発内容を不開示にする理由も全くない。


(2)第2017-58号(原処分1)に関して

研究不正に関する告発がなされた場合に,どのような調査が行われるべきかは,文科省によりガイドラインが示されている。東京大学はこのガイドラインに従って調査したことを社会に示す責任があるし,そのガイドラインに従った事実を示したからといって「事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」ことはない。報告書の開示が,過去にさかのぼって報告書作成事務に影響することは物理的にありえない。将来に関しても,ガイドラインに従う限り何ら支障は生じ得ない。したがって,不開示とする法的根拠がない。

委員名・構成委員名を開示すれば「今後,同種の委員会が設置された際に,申立者,調査対象者及び関係者等から当該委員への圧力や干渉等が生じ」というが,既に終了している調査に関して圧力や干渉が生じて調査が妨げられることはないし,将来の調査に関しては調査終了まで氏名を公表しなければ,圧力や干渉が生じる恐れはない。実際,他大学における同様の不正調査報告では調査委員の氏名が全て公開されている(インターネットを検索すればそのような例が見つかる)。ほかの大学で当たり前にやっていることが,東大にできない理由はない。委員の氏名を不開示にすると,非告発者らと親しい人間ばかりが選出されていたのではないかという疑念すら生じさせる。調査委員会が公明正大に構成されていたのであれば調査委員氏名を不開示にする理由や根拠は存在しない。

「今後,同種の審議,検討に係る意思決定に不当な影響を与えるおそれがある」というが,研究不正の判断基準に関しては文科省や日本学術振興会のガイドラインなど研究者コミュニティ全体のコンセンサスが存在するのだから,今後の意思決定に不当な影響が生じる恐れは全くない。よって,不開示とする根拠はない。

「調査内容等の詳細な情報を公にすれば正確な事実の把握を困難にするおそれがある」というが,調査内容の詳細な情報を公にしたからといって,将来の研究不正疑惑に関して正確な事実の把握が困難になる恐れは全くないし,どうしてそうなるのかの説明が全くなされておらず,理由になっていない。

「公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保が困難になる」というが,懲戒の基準を公表しないことのほうが,公正かつ円滑な人事が確保されていないことを懸念させる。

研究論文は,著者名,所属,内容等全て公開されており,その内容に関して他の研究者が疑問を抱いたときにはあらゆる質問に対して答えるのは論文著者の責務であり,実際に,そのような議論は論文出版後に研究者コミュニティにおいて活発に行われている。したがって,調査報告書や調査資料の中の論文の内容に関する記述を公開したからといって,「研究に係る事務に関し,公にすることにより自由な発想,創意工夫や研究意欲が不当に妨げられ,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」は全くない。よって,法5条4号ホは不開示理由とはならない。


(3)第2017-58の2号(原処分2)に関して

研究不正の告発に対して大学がどのように対応すべきかは文科省がガイドラインを示しており,特定委員会がガイドラインに則って対応した内容を開示したからといってそれが将来的に同様の事例が生じたときに影響を与えうるものではない。また,論文は公開されているものなので,論文の内容に触れる部分を開示したからといって,その開示が研究者の将来の研究に何ら影響を与える恐れはない。よって,不開示にする法的根拠はない。


(4)第2017-58の3号(原処分3)に関して

「22報論文に関する調査報告書」の中のこれまでに開示されたわずかな部分を読んでも,オリジナルデータ(実験で得られた値)と論文の図表の値はほとんど異なっていたとか,図表は手作業で作成されたなどといった,データ捏造を強く示唆する文言が存在する。それに対して,東大が発表した結論は,申立のあった5名に不正はないというチグハグなものであった。不正行為の認定は疑義を呈された個々の論文の個々の図表に関して一つ一つ行われるべきものであることを考えれば,特定研究科Aの不正疑惑論文に関する発表は,不正の有無にすら言及されておらず,あたかも不正がなかったかのように見せかけているだけである。東大が不正を隠蔽するために不正無しの一言で誤魔化したようにしかみえない。東大特定研究科Aが受けている巨額の研究助成は国民の税金を原資とするものであり,捏造論文の業績に基づいて,毎年,億単位の巨額な研究助成金がこれらの捏造疑惑論文を出した研究室に配分されている。もしも研究不正が存在するのであれば,公金の横領という犯罪行為となんら変わりがない。特定告発者の詳細な告発内容を見れば,研究不正が存在している可能性が極めて高いにも関わらず,そして,実際に調査報告書にも不正を示唆する記述があるにも関わらず,なぜ東大現執行部が不正無しの一言で誤魔化したのか,審議の過程が公開されるべきである。そうでなければまともな研究者が何年も実験した結果ようやく得られる図表を,捏造者がほんの数分ででっち上げて真偽不明の結論のもと論文を作成しトップジャーナルに掲載させて,その業績に基づいて何億円もの研究助成を受けるという詐欺行為がまかり通ることになる。研究助成は,競争的な資金である。この文書を全面的に公開しないことは,日本の研究者間の競争における公平さを損ない,国民に著しい不利益をもたらす。


(5)第2017-58の4号(原処分4)に関して

エラーバーを短く見せるために手作業を入れるなどの手口は特定学B系,特定学A系に共通してみられたにも関わらず,研究不正が認定されたのは特定学B系の論文のみであった。特定学B系では当然のように研究不正とされる手口が,なぜ特定学A系では「通常」とされ,不正無しとなるのか?これは不正の隠蔽ではないのか?特定研究科Aにおける部局内調査がどのように行われ,どのような議論がなされたのかが公開されない限り,隠蔽の疑念が払拭されない。文科省や日本学術振興会が研究倫理に関しては明解なガイドラインを示しておりそれが研究者コミュニティにおけるコンセンサスとなっているのだから,部局調査の過程がそのガイドラインに沿ったものであるかぎり,将来,同様の調査がなされるときにも,問題が生じる余地はない。よって,今後の事務や研究に支障をきたすから不開示というのは理由にならない。部局内特定会議資料や部局内調査結果報告書は,特定研究科Aにおいて不正調査が公明正大に行われていたかどうかを示す重要な資料であり,東大はこれらを開示して説明責任を果たすべきである。

ヒアリング反訳資料は,すでに文字になっているのであるから,音声の場合のように個人が特定される恐れはない。個人が特定される恐れがある部分のみを不開示とし,それ以外に関しては開示すべきである。固定された長さのエラーバーを使用してグラフを作成したり,エラーバーを棒グラフの中に押し込むなど,不正行為以外の何物でもないと考えられるが,それでももし釈明の余地があるのだとすれば,このヒアリング反訳資料を公開することにより,研究者コミュニティに対して批判的な吟味を行う機会を与えるべきである。

「個別の論文説明資料」について。全体の報告書の開示部分を読むと,図表作成方法に関するパターンごとにまとめてしまうことにより,個別の図表に関しては言及しないという誤魔化しをしている。不正の認定は,疑義がもし20か所にあれば20か所に関して個々の説明があるべきで,20か所をいくつかのパターンにまとめて,パターンの説明しかしないというのは,誤魔化すための苦肉の策なのかもしれないが,不正調査報告の方法としては許容されない。研究不正の有無を第三者が検証する機会を与えるためには,個別の論文説明資料の開示が必須である。そもそも,論文の内容は学術誌に掲載されて広く公開されているものであること,個別のデータに関して疑問があれば研究者は学会や個人間のやりとりなどの場で活発なコミュニケーションをとり,疑問を解消するというのが,通常の研究者の慣習であることを考えれば個別の図表がどのような経緯を経て作成されたのかを公にすることは,研究者が普段から行っているコミュニケーションと何ら変わることはなく,それによって論文著者が不利益を将来被ることはあり得ず,開示できない理由にはならない。また,全ての論文は複数の著者からなるものであり,どの図表をどの著者が作成したかということは誰にもわからないので,個人が特定される恐れもまったくなく,その個人が説明した内容のせいで不利益を被る恐れもない。個別の論文の個別の図表の説明が,全体報告書に存在していないことを考えると,個別の論文説明資料を公開しないことは,研究不正の隠蔽を容認することになり,公益を著しく害する。


(6)結語

科学研究は,たとえ相反する研究結果が得られたとしても,研究者同士の活発な議論によりデータが吟味され,時の試練を経て正しい結論が導かれるようになっている。実験データに関する議論が公に行われることは,東大が過去に示した研究行動規範(特定年)や,文科省や日本学術振興会のガイドラインにある通り,通常のことであって,議論を公にすると将来の研究に影響するから不開示にするという言い訳は,全くもってナンセンスで,不開示理由になり得ない。東大の報告書の開示された部分には,特定分野研究の世界では図表を手作業でいじることが「通常」なのだから研究不正ではないという主旨の,思わず目を疑うような記述が存在する。このように,異常なことを「通常」と言って不正疑惑調査資料の開示を拒む姿勢を見ると,東大の現執行部が研究不正を助長する土壌をつくりだし,維持しているとみなさざるを得ない。捏造疑惑を持たれている図表作成過程において,東大がいうように本当に不正がないというのなら,他の研究者の批判や判断を仰ぐために,調査報告書や調査資料の全面的な開示を行うべきである。東大の開示拒否がまかり通れば,東大特定学部Aにおいては捏造研究者らは捏造し放題であり,捏造論文の業績に基づいて巨額の研究費を得るという犯罪的な行為が許されることになり,公益を著しく損なう。

法は適切に執行されることは,税金が正当に使用されているかどうかを国民が知るために必須である。東大からの回答に示された不開示の理由は,正当性や具体性に欠けており,法的根拠が存在しない。


第3  諮問庁の説明の要旨

本説明書は,令和2年3月26日付け第2017-58号,58の2号,58の3号及び58の4号で審査請求人あてに行った「22報論文に関する調査報告」,「平成28年度特定委員会資料」,「平成29年度特定委員会資料」及び「特定研究科A部局内特定会議資料・特定研究科A部局調査結果報告書」(本件対象文書)に係る部分開示決定につき,審査請求人から審査請求がなされた件についての理由説明である。

1 本件対象文書について部分開示とした理由について

本件対象文書は「22報論文に関する調査報告書」,「平成28年度特定委員会資料」,「平成29年度特定委員会資料」及び「特定研究科A部局内特定会議資料・特定研究科A部局調査結果報告書」である。

東京大学では,研究不正の事案については,特定委員会において調査を行っているが,22報論文に関する調査報告書等については,以下の理由に該当する部分について不開示とする決定を行った。

(1)特定委員会,調査委員会及び部局内特定会議の開催日時及び調査報告書の年月日については,東京大学として,当該委員会をどの程度の頻度で開催し,審議・検討していることが公になることにより,東京大学にとっての特定委員会事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,法5条3号及び4号柱書きに該当するため不開示とする。特定研究科A部局特定会議については,会議の回数も不開示とする。


(2)当該委員会委員長以外の委員名,調査委員会委員長以外の委員名及び部局内特定班長以外の構成員名については,研究不正が行われたかどうか等を審査するという設置の趣旨に鑑みれば,当該不開示部分を公にした場合,今後,同種の委員会が設置された際に,申立者,調査対象者及び関係者等から当該委員への圧力や干渉等が生じ,当該委員会においてだけでなく,今後の委員の選任に際して協力を得られなくなるなど,今後の当該委員会業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,法5条3号及び4号柱書きに該当するため不開示とする。


(3)22報論文に関する調査報告書(報告書の調査の経緯,調査の概要,調査結果等),特定年度A特定委員会資料(申立書,予備調査結果(案)),特定年度B特定委員会資料(裁定(案),調査報告書(案),弁明音声反訳,弁明書,裁定,不服申立書,裁定確定後の措置),部局内特定会議資料(指摘論文・指摘内容一覧,調査結果報告書(案))及び部局調査結果報告書(調査の経緯,調査の概要,調査結果)のうち,

① 審議,検討又は協議に関する情報で,既に意思決定が行われた場合においても,今後,同種の審議,検討等に係る意思決定に不当な影響を与えるおそれがある部分については,法5条3号に該当するため不開示とする。

② 特定委員会及び部局内特定会議の事務に関する情報で,当該事務の目的,その目的達成のための手法等に照らし,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある部分については,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。

③ 内容確認に関する情報で,事実を正確に把握し,その事実に基づいて評価,判断を加えて一定の決定を伴うもので,調査内容等の詳細な情報を公にすれば正確な事実の把握を困難にするおそれがある部分については,法5条4号ハに該当するため不開示とする。

④ 教職員の懲戒を伴うことになりうる人事管理に該当する事務であり,公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保が困難になるおそれがある部分については,法5条4号ヘに該当するため不開示とする。

⑤ 研究に係る事務に関し,公にすることにより自由な発想,創意工夫や研究意欲が不当に妨げられ,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれがある部分については,法5条4号ホに該当するため不開示とする。


(4)ヒアリング反訳資料(291枚291頁)は,被申立者からの聞き取り調査資料であり,既に意思決定が行われた場合においても,事後的に公開されることとなると,今後,同種の聞き取り調査での率直な意見の交換等を困難にするおそれがあり,法5条3号に該当するとともに,特定委員会の事務の適正な遂行に支障をおよぼすおそれがあり,同条4号柱書きに該当するため不開示とする。特に,ヒアリング内容については,プライバシー遵守を前提にヒアリングを実施しており,ヒアリング内容が公にされてしまうと,申立者からの反論や苦情等が寄せられ,そうした反論や苦情等を避けるために関係者が申告を拒んだり,真実を申告することをちゅうちょするおそれがあり,今後,同種の調査に支障を及ぼすため,係る事務の性質上,開示することはできない。


(5)個別の論文説明資料(1214枚1214頁)については,

ア 研究者の実験データ等であり,その一部でも公にされた場合,当該研究者の今後の研究活動において,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれがあるため,法5条4号ホに該当する情報として不開示とする。


イ 特定委員会部局内特定会議の事務に関する情報で,当該事務の目的,その目的達成のための手法等に照らし,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,法5条4号柱書きに該当するため不開示とする。


ウ 審議,検討又は協議に関する情報で,既に意思決定が行われた場合においても,今後,同種の審議,検討等に係る意思決定に不当な影響を与えるおそれがあり,法5条3号に該当するため不開示とする。


エ 内容確認に関する情報で,事実を正確に把握し,その事実に基づいて評価,判断を加えて一定の決定を伴うもので,調査内容等の詳細な情報を公にすれば正確な事実の把握を困難にするおそれがあり,法5条4号ハに該当するため不開示とする。


オ 教職員の懲戒を伴うことになりうる人事管理に該当する事務であり,公にすることにより,公正かつ円滑な人事の確保が困難になるおそれがあり,法5条4号ヘに該当するため不開示とする。


これについて,審査請求人は,令和2年6月17日受付の審査請求書のなかで,原処分の取消しを求めている。


2 審査請求人の主張とそれに対する東京大学の見解

(1)審査請求人は次のように主張する。

ア 研究不正に関する告発がなされた場合に,どのような調査が行われるべきかは,文科省によりガイドラインが示されており,東京大学はこのガイドラインに従って調査したことを社会に示す責任があるし,そのガイドラインに従った事実を示したからと言って「事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」ことはない。報告書の開示が,過去にさかのぼって報告書作成事務に影響することは物理的にありえず,将来に関しても,ガイドラインに従う限り何ら支障は生じ得ない。したがって,不開示とする法的根拠がない。


イ 委員名・構成委員名については,調査委員会が公明正大に構成されていたのであれば,調査委員氏名を不開示にする理由や根拠は存在しない。


ウ 東京大学は,「正確な事実の把握を困難にするおそれがある」というが,調査内容の詳細な情報を公にしたからといって,将来の研究不正疑惑に関して正確な事実の把握が困難になる恐れは全くない。


エ 東京大学は,「公にすることにより,公正かつ円滑な人事が確保できなくなる」というが,懲戒の基準を公表しないことのほうが,公正かつ円滑な人事が確保されていないことを懸念させる。


オ 調査報告書や調査資料の中の論文の内容に関する記述を公開したからと言って法5条4号ホのようなことは全くないので,同号ホは不開示理由とはならない。


カ 特定研究科における部局内調査がどのように行われ,どのような議論がなされたのかが公開されない限り隠蔽の疑念が払拭されない。東大はこれらを開示して説明責任を果たすべきである。


キ ヒアリング反訳資料は,すでに文字になっているのであるから,音声の場合のように個人が特定される恐れはない。このヒアリング反訳資料を公開することにより,研究者コミュニティに対して批判的な吟味を味わう機会を与えるべきである。


ク 「個別の論文説明資料」は,図表作成方法に関するパターンごとにまとめてしまうことにより,個別の図表に関しては言及しないという誤魔化しをしている。いくつかのパターンにまとめて,パターンの説明しかしないというのは,誤魔化すための苦肉の策かもしれないが,不正調査報告の方法としては許容されないし,公益を著しく害する。


ケ よって,不開示部分の全ての開示を求める。


(2)しかしながら,研究不正に係る調査が調査対象となった研究者並びに所属する研究機関に対して与える影響力を鑑みると,当該調査に関する情報の公開については,慎重な対応をせざるを得ない。まして,今回のように研究不正とは認定されなかった研究者を含む調査に関しては,細心の注意を払うことを必要としている。

研究不正調査において秘匿性を確保することは,各事案において調査対象の研究者が,調査対象とされることのみを理由として,社会や研究者コミュニティにおいて不利益を被ることの回避を目的としている。

平成26年8月26日文部科学省「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」第3節「研究活動における特定不正行為への対応」の「(6)調査結果の公表」には,「①調査機関は,特定不正行為が行われたとの認定があった場合は,速やかに調査結果を公表する。②調査機関は,特定不正行為が行われなかったとの認定があった場合は,原則として調査結果を公表しない。ただし,調査事案が外部に漏えいしていた場合及び論文等に故意によるものでない誤りがあった場合は,調査結果を公表する」と明記されており,東京大学の場合,研究不正があったかどうかを調査した場合,不正行為が認定された事案については,本ガイドラインに沿って公表しているが,不正行為が認定されなかった事案については,公表していない。今回の事案については,不正行為が認定されなかった事案についても,一部具体事例を示して不正行為がなかったことを説明しており,公表した部分については,審査請求人に対しても開示しているが,その余の部分については,明らかにできない。

また,研究不正の調査については,その判定結果の如何によらず,対象となる研究者の研究活動に大きな影響を与えるものであり,かかる調査については,限りなく公平中立なものとして実施されなければならないと理解している。調査の内容について必要以上に開示することは,調査機関として担保すべき,正確な事実の把握,率直な意見の交換,意思決定の中立性などを困難にするおそれがあり,ひいては,調査機関として行う不正行為の判定結果の信頼性をも損なうことになる。

そのため,今回開示した内容は,必要かつ十分なものであると認識している。

なお,審査請求人は,懲戒の基準を公表しないことのほうが,公正かつ円滑な人事が確保されていないことを懸念させるというが,公表することにより,懲戒処分を逃れたり,量定を軽くしたりすることを意図して,調査に真実を述べなくなるおそれがあるとともに,円滑な職務遂行の妨げになるおそれがあり,懲戒の基準を公表することはできない。

また,個別の図表パターンについては,当該調査において,不正の疑いありと指摘のあった事項について,図表の作成の過程を調査委員会において検証した結果を補足説明するために図示したものであるため,請求者による「誤魔化すための苦肉の策」という指摘は当たらない。

したがって,東京大学の決定は妥当なものであると判断する。


3 結論

以上のことから,東京大学は,本件について原処分維持が妥当と考える。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和2年10月5日  諮問の受理

② 同日         諮問庁から理由説明書を収受

③ 同月25日      審議

④ 同年12月10日   本件対象文書の見分及び審議

⑤ 令和3年3月1日   審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,その一部を法5条3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とする決定(原処分)を行った。

これに対し,審査請求人は,不開示部分の開示を求めているところ,諮問庁は原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


2 不開示部分の不開示情報該当性について

(1)本件対象文書は,「22報論文に関する調査報告書」(文書1)並びに当該調査に係る関係委員会・会議資料及び関係調査文書である「特定年度特定委員会資料」(文書2),「特定年度B特定委員会資料」(文書3),「大学院特定研究科A・特定学部A保有の特定研究科A部局内特定会議資料」(文書4)及び「大学院特定研究科A・特定学部A保有の東京大学特定委員会A規則10条の2に基づく部局調査結果報告書」(文書5)であるところ,当該調査及び委員会等に係る情報の一部が開示されているのみで,その他具体的な調査・検証等に係る審議・検討内容等の情報の大半は不開示とされていることが認められる。


(2)文書1に係る不開示部分について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該不開示部分の主たる不開示理由について,改めて確認させたところ,諮問庁は,以下のとおり説明する。

(ア)文書1は,東京大学が匿名の申立てを受け,複数の特定論文の内容に係る研究不正の疑いについて,大学内の研究不正事案等を調査・審議するため設置される特定委員会において,当該研究不正事案に関する調査・検証・分析・審議等を行い,その調査結果を取りまとめた報告書(22報論文に関する調査報告書)であり,当該調査報告書(文書1)自体としては,当該文書を一般及び学内に対し,一切公にしていない。


(イ)文書1の取りまとめに当たっては,特定委員会の下に調査委員会が設置されるとともに,当該調査委員会の要請を受け,調査対象者が所属する特定研究科及び特定研究所に各部局内特定会議が設置され,当該各部局内特定会議及び調査委員会によって,研究不正が疑われた調査対象の研究内容及び論文内容等に対する実験データの検証や対象者に対するヒアリング実施等を通して,様々な観点・角度から研究不正に対する詳細な調査・検証・分析等が行われ,それらの調査等の状況を踏まえつつ,特定委員会によって,最終的な調査・検証・分析・審議等が行われ,当該研究不正事案に対する調査結果(文書1)を取りまとめたものであり,当該特定委員会A並びにその下に設置される調査委員会及び各部局内特定会議においては,研究不正の調査・検証という機密情報を取り扱うその設置趣旨・目的から,各委員会・会議の委員構成,審議・運営内容及び調査手法等については一切公にしていない(なお,各委員会・会議に係る構成委員の情報は公にはしていないが,各委員会・会議の委員長及び班長については,通知文等の記載により事実として判明することがあることから,各委員会・会議の委員長及び班長のみ本件対象文書の中でその氏名について開示している。)。


(ウ)特定委員会が,本件研究不正事案調査・検証等の結果として取りまとめた文書1(22報論文に関する調査報告書)の最終的な結論は,研究不正は認定されなかった対象(研究者・研究内容・論文等)と研究不正が認定された対象(研究者・研究内容・論文等)の双方に分かれた裁定判断としての結論内容となっており,東京大学においては,当該調査結果を受け,文部科学省の「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日)(以下「ガイドライン」という。)等にも基づき,特定不正行為が行われたとの認定があった事案について,その調査結果の概要として「22報論文に関する調査報告(骨子)」を,そのデータ解析資料とともに,不正行為認定の事実及びその調査結果として一般に公表している。

したがって,文書1(22報論文に関する調査報告書)自体については,飽くまで,研究不正が疑われる事案に対する結論全体を導くための東京大学内の事案の調査・検証・分析・審議等の課程を取りまとめた内部機密資料であり,また,上記のとおり,当該調査の過程及び結論として,不正が認定されなかった対象(研究者・研究内容・論文等)が含まれており,当該研究者の権利・利益を保護する必要がある内容が記載された複合的な調査検討報告書であることから,文書1(22報論文に関する調査報告書)自体を一般に公にすることはできず,文部科学省のガイドライン等も踏まえ,上記のとおり当該特定不正行為が認定された事案とその調査結果の概要等について,適正に公表を行ったものである。


(エ)文書1は,当該研究不正事案に対する上記(ア)ないし(ウ)の経緯・目的のもとに取りまとめられた調査報告書であるところ,文書1の記載内容の一部である,特定不正行為が行われたとの認定があった事案の認定事実及び調査結果については,調査結果の概要(22報論文に関する調査報告(骨子))及びそのデータ解析資料として,上記(ウ)のとおり一般に公表しており,本件開示請求に当たり,文書1の中で,一般に公表済みである当該特定不正行為が行われたとの認定があった事案の認定事実及び調査結果(調査結果の概要・データ解析資料)については,全て開示している。また,上記(イ)のとおり,各委員会・会議の委員構成,審議・運営内容及び調査手法等については一切公にしていないところ,各委員会・会議の委員長及び班長については,通知文等の記載により事実として判明することがあることから,各委員会・会議の委員長及び班長のみ文書1の中でその氏名について開示している。


(オ)一方,上記を除く文書1の不開示部分には,当該研究不正事案について,特定委員会,調査委員会及び各部局内特定会議が,調査・検証・分析等を行うに当たり,当該事案に対する事実認定・審議・検討等を行った各委員会・会議の調査運営の方法と体制,調査方針や調査の方向性,調査活動に用いた分析情報,調査に対する検討内容や判断等といった,具体的な調査手法や審議・運営内容等の極めて機微な情報が記載されており,また,当該研究不正調査の対象となり,その調査・検証の結果,不正が認定されなかった対象(研究者・研究内容・論文等)情報が記載されている。これらは,いずれも東京大学が,多様な研究分野に対する研究不正に係る調査方法とその運営体制等を恒常的に確保し,当該研究不正行為等を適正に調査・検証するための審議・検討上の内部管理情報であるとともに,研究不正が認定されなかった対象(研究者・研究内容・論文等)が調査対象とされたことのみをもって研究上の不利益を被ることのないよう,当該研究者の権利・利益を保護する必要がある情報であり,一般に公にできない非公表の機密情報である。


(カ)これら当該不正研究調査に関する各委員会・会議の調査運営の方法と体制,調査方針や調査の方向性,調査活動に用いた分析情報,調査に対する検討内容や判断等といった,具体的な調査手法や審議・運営内容等の情報及び不正が認められなかった対象に関する情報が公になった場合,今後,同種研究不正事案の調査を行う際にその研究不正事案の検証や不正の判断・分析をするための調査・審議・検討に係る具体的な調査手法や個々の分析・判断基準等を推測することが可能となってしまい,調査対象者が種々の対策を講じることを容易にし,また,調査・検証・分析等を行う当該各委員会・会議及びその構成員に対する批判,非難及び責任追及等が生じることとなり,各委員会・会議において,委員が批判や非難等を受けることを恐れて率直な意見を述べることをちゅうちょし,各委員会・会議において十分な調査,審議ができなくなり,さらに,不正が認められなかった対象となる研究者や研究内容が,いわれのない非難や中傷を受け,研究者の健全な研究体制の確保ができなくなる等,東京大学における今後の研究不正事案の調査・運営及びそれに関連する研究体制の確保等,東京大学全体の運営及び事務の適正な遂行に多大な支障を及ぼすおそれがあることから,法5条4号柱書きに該当する。


イ 以下,上記諮問庁の説明も踏まえ,検討する。

(ア)文書1は,研究不正の調査・審議等を行った東京大学の特定委員会が,その調査結果を取りまとめた報告書(22報論文に関する調査報告書)であることが認められる。


(イ)上記ア(ウ)及び(エ)の諮問庁の説明によると,文書1自体は一般に公表はしていないが,文書1の記載内容の一部である特定不正行為が行われたとの認定があった事案とその調査結果概要等については,別途一般に公表していることから,それら一般に公表した情報については,本件開示請求に当たり,文書1の中で全て開示しているとのことであり,また,公にされていない各委員会・会議の委員構成について,事実として判明することがある各委員会・会議の委員長及び班長の氏名等に係る情報については開示しているとのことであり,当審査会において,諮問庁から当該公表資料等の提示を受け,確認したところ,公表された情報等の内容については,開示されていることが認められる。


(ウ)文書1の不開示部分を見分したところ,当該不開示部分には,東京大学における特定研究不正事案について調査・検証・分析・審議等を行う特定委員会,調査委員会及び各部局内特定会議等の各委員会・会議の調査運営の方法と体制,調査方針や調査の方向性,調査活動に用いた分析情報,調査に対する検討内容や判断等といった,具体的な調査手法や審議・運営内容等の情報が記載されているとともに,当該研究不正調査の対象となり,その調査・検証の結果,不正が認定されなかった対象(研究者・研究内容・論文等)情報が記載されていることが認められる。

諮問庁の説明によると,これらの情報は,いずれも東京大学が,多様な研究分野に対する研究不正に係る調査方法とその運営体制等を恒常的に確保し,当該研究不正行為等を適正に調査・検証するための審議・検討上の内部管理情報であるとともに,研究不正が認定されなかった対象(研究者・研究内容・論文等)が調査対象とされたことのみをもって研究上の不利益を被ることのないよう,当該研究者の権利・利益を保護する必要がある情報であり,一般に公にできない非公表の機密情報であるとのことである。

そうすると,当該不開示部分を公にした場合,今後,同種研究不正事案の調査を行う際にその研究不正事案の検証や不正の判断・分析をするための調査・審議・検討に係る具体的な調査手法や個々の分析・判断基準等を推測することが可能となってしまい,調査対象者が種々の対策を講じることを容易にし,また,調査・検証・分析等を行う当該各委員会・会議及びその構成員に対する批判,非難及び責任追及等が生じることとなり,各委員会・会議において,委員が批判や非難等を受けることを恐れて率直な意見を述べることをちゅうちょし,各委員会・会議において十分な調査,審議ができなくなり,さらに,不正が認められなかった対象となる研究者や研究内容が,いわれのない非難や中傷を受け,研究者の健全な研究体制の確保ができなくなる等,東京大学における今後の研究不正事案の調査・運営及びそれに関連する研究体制の確保等,東京大学全体の運営及び事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとする諮問庁の説明は否定し難い。


(エ)したがって,当該不開示部分は,法5条4号柱書きに該当すると認められることから,同条3号並びに4号ハ,ホ及びヘについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


(3)文書2ないし文書5に係る不開示部分について

ア 当審査会事務局職員をして,諮問庁に対し,当該不開示部分の主たる不開示理由について,改めて確認させたところ,諮問庁は,以下のとおり説明する。

(ア)文書2ないし文書5は,文書1(22報論文に関する調査報告書)を取りまとめるに当たり,上記(2)ア(イ)の設置経緯の下で当該研究不正事案に関する調査・検証・分析・審議等を行った各委員会及び会議の資料であり,そのうち,文書2は,特定委員会の「特定年度A特定委員会資料」であり,文書3は,同委員会の「特定年度B特定委員会資料」であり,文書4は,特定委員会の下に設置される調査委員会の要請を受け,調査対象者が所属する特定研究科Aに設置された部局内特定会議の「大学院特定研究科A・特定学部A保有の特定研究科A部局内特定会議資料(ヒアリング反訳資料及び個別の論文説明資料を含む)」であり,文書5は,同特定会議が取りまとめた「大学院特定研究科A・特定学部A保有の東京大学特定委員会規則10条の2に基づく部局調査結果報告書」であり,これら文書2ないし文書5は,いずれも文書1を取りまとめるに当たっての事前の調査・検証・分析を行った審議・検討段階の資料であり,研究不正の調査・検証という機密情報を取り扱うその設置趣旨・目的から,各委員会・会議の委員構成,審議・運営内容及び調査手法等については一切公にしていない(なお,各委員会・会議に係る構成委員の情報は公にはしていないが,各委員会・会議の委員長及び班長については,通知文等の記載により事実として判明することがあることから,各委員会・会議の委員長及び班長のみ本件対象文書の中でその氏名について開示している。)。


(イ)文書2ないし文書5の不開示部分には,当該研究不正事案について,特定委員会,調査委員会及び各部局内特定会議が,調査・検証・分析等を行うとともに,当該事案に対する事実認定・審議・検討等を行った各委員会・会議の調査運営の方法と体制,調査方針や調査の方向性,調査活動に用いた分析情報,調査に対する検討内容や判断等といった,具体的な調査手法や審議・運営内容等の極めて機微な情報が記載されており,また,当該研究不正調査の対象となった調査・検証段階の対象(研究者・研究内容・論文等)情報が記載されている。これらは,いずれも東京大学が,多様な研究分野に対する研究不正に係る調査方法とその運営体制等を恒常的に確保し,当該研究不正行為等を適正に調査・検証するための審議・検討上の内部管理情報であるとともに,一般に公にできない非公表の機密情報である。


(ウ)これら当該不正研究調査に関する各委員会・会議の調査運営の方法と体制,調査方針や調査の方向性,調査活動に用いた分析情報,調査に対する検討内容や判断等といった,具体的な調査手法や審議・運営内容等の情報及び当該研究不正調査の対象となった調査・検証段階の対象(研究者・研究内容・論文等)情報が公になった場合,今後,同種研究不正事案の調査を行う際にその研究不正事案の検証や不正の判断・分析をするための調査・審議・検討に係る具体的な調査手法や個々の分析・判断基準等を推測することが可能となってしまい,調査対象者が種々の対策を講じることを容易にし,また,調査・検証・分析等を行う当該各委員会・会議及びその構成員に対する批判,非難及び責任追及等が生じることとなり,各委員会・会議において,委員が批判や非難等を受けることを恐れて率直な意見を述べることをちゅうちょし,各委員会・会議において十分な調査,審議ができなくなり,さらに,調査・検証段階における対象(研究者・研究内容・論文等)情報が流出し,対象となる研究者や研究内容が,いわれのない非難や中傷を受け,研究者の健全な研究体制の確保ができなくなる等,東京大学における今後の研究不正事案の調査・運営及びそれに関連する研究体制の確保等,東京大学全体の運営及び事務の適正な遂行に多大な支障を及ぼすおそれがあることから,法5条4号柱書きに該当する。


イ 以下,上記諮問庁の説明も踏まえ,検討する。

(ア)文書2ないし文書5は,文書1(22報論文に関する調査報告書)を取りまとめるに当たり,当該研究不正事案に関する調査・検証・分析・審議等を行った各委員会及び会議の資料であることが認められる。また,上記ア(ア)の諮問庁の説明によると,これら文書2ないし文書5は,いずれも文書1を取りまとめるに当たっての事前の調査・検証・分析を行った審議・検討段階の資料であり,研究不正の調査・検証という機密情報を取り扱うその設置趣旨・目的から,各委員会・会議の委員構成,審議・運営内容及び調査手法等については一切公にしていない情報であるとのことである。


(イ)文書2ないし文書5の不開示部分を見分したところ,当該各不開示部分には,当該研究不正事案について,特定委員会,調査委員会及び各部局内特定会議が,調査・検証・分析等を行うとともに,当該事案に対する事実認定・審議・検討等を行った各委員会・会議の調査運営の方法と体制,調査方針や調査の方向性,調査活動に用いた分析情報,調査に対する検討内容や判断等といった,具体的な調査手法や審議・運営内容等の極めて機微な情報が記載されており,また,当該研究不正調査の対象となった,調査・検証段階の対象(研究者・研究内容・論文等)情報が記載されていることが認められ,その余の部分については,開示されていることが認められる。

諮問庁の説明によると当該不開示部分の情報は,いずれも東京大学が,多様な研究分野に対する研究不正に係る調査方法とその運営体制等を恒常的に確保し,当該研究不正行為等を適正に調査・検証するための審議・検討上の内部管理情報であるとともに,一般に公にできない非公表の機密情報であるとのことである。そうすると,当該不開示部分を公にした場合,今後,同種研究不正事案の調査を行う際にその研究不正事案の検証や不正の判断・分析をするための調査・審議・検討に係る具体的な調査手法や個々の分析・判断基準等を推測することが可能となってしまい,調査対象者が種々の対策を講じることを容易にし,また,調査・検証・分析等を行う当該各委員会・会議及びその構成員に対する批判,非難及び責任追及等が生じることとなり,各委員会・会議において,委員が批判や非難等を受けることを恐れて率直な意見を述べることをちゅうちょし,各委員会・会議において十分な調査,審議ができなくなり,さらに,調査・検証段階における対象(研究者・研究内容・論文等)情報が流出し,対象となる研究者や研究内容が,いわれのない非難や中傷を受け,研究者の健全な研究体制の確保ができなくなる等,東京大学における今後の研究不正事案の調査・運営及びそれに関連する研究体制の確保等,東京大学全体の運営及び事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるとする諮問庁の説明は否定し難い。


(ウ)したがって,当該不開示部分は,法5条4号柱書きに該当すると認められることから,同条3号並びに4号ハ,ホ及びヘについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件各一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号並びに4号柱書き,ハ,ホ及びヘに該当するとして不開示とした各決定については,不開示とされた部分は,同号柱書きに該当すると認められるので,同条3号並びに4号ハ,ホ及びヘについて判断するまでもなく,妥当であると判断した。


(第5部会)

委員 藤谷俊之,委員 泉本小夜子,委員 磯部 哲





別紙(本件対象文書)

文書1 22報論文に関する調査報告書

文書2 特定年度A特定委員会資料

文書3 特定年度B特定委員会資料

文書4 大学院特定研究科A・特定学部A保有の特定研究科A部局内特定会議資料

文書5 大学院特定研究科A・特定学部A保有の東京大学特定委員会規則10条の2に基づく部局調査結果報告書