答申本文
諮問庁 | : | 法務大臣 |
諮問日 | : | 平成16年 2月 3日 (平成16年(行情)諮問第41号) |
答申日 | : | 平成16年 9月 3日 (平成16年度(行情)答申第204号) |
事件名 | : | 福岡拘置所の特定房天井部設置の監視カメラ、集音装置などの取扱説明書などの文書等の不開示決定(存否応答拒否)に関する件 |
答 申 書
福岡拘置所の特定箇所に設置されている監視カメラ,集音装置等の取扱説明書及びこれらの機器の運用などを定めた文書(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,妥当である。
本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成15年9月25日付け福管総発第316号により福岡矯正管区長(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定について,その取消しを求めるというものである。
審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。
(1) |
処分庁は,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで,法5条4号の不開示情報である刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報が開示されるのと同様の結果が生じるためということであるが,処分庁は事実を誤って認識している。処分庁は,平成15年2月7日付け福管総発第52号行政文書開示決定通知書により一部開示された支出計算書証拠書類(平成9年度福岡拘置所 ただし,防犯線,赤外線センサー及び監視カメラ整備に係る部分のものに限る。)として,特定箇所用監視カメラ仕様書,他にも「赤外線センサー監視システム仕様書」,「防犯線センサー警報装置仕様書」など,拘置所の建物の外部より侵入等されるおそれのあるものであって,いわば細かな説明等がされている文書を開示している。更に平成14年10月15日付け福管総発第407号行政文書開示決定通知書による支出計算書証拠書類中の平成14年3月29日付け福岡拘置所センサー型動体管理システム仕様書においても「監視カメラ設置居房においては異常感知時に録画できるものとする」や「異常感知時のデータは,記録して印刷できるシステムとする」,「ポケットベルの呼出周波数」などの事項も開示されているのが真実である。以上のことからも,到底,法5条4号に該当するなど考えられず,処分庁は事実を誤っていることは明らかである。
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(2) |
諮問庁は,未決・既決を問わず行刑施設の責務として自殺,逃走,身柄の奪取等を阻止,防止する必要性を述べているが,それには「適正な処遇」が義務付けられているところ,実際の施設内の処遇は,当該拘置所内でも職員が人為的に収容者に対し挑発等を繰り返すことが行われている。このようなことを続ければ,「規律違反,事故,自傷,自殺,事件,精神的な病気」等に発展していくことは,多くの前例が行刑施設内では蓄積され把握されているように,明らかである。しかも,名古屋刑務所事件でも明らかなように,施設側が好まない収容者に対して個人攻撃が行われるのは何ら変わっていない。そして,行刑施設内職員によって「規律違反,事故,自傷,自殺未遂事件等」が多発している状態にある。また,外部からの侵入,攻撃,施設機能妨害や破壊等は,諮問庁も具体的事例を示していないように,前例がないことは行刑改革会議の中でも明らかにされている。
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(3) |
ところで,当該拘置所は市街地に位置していることから,同拘置所周辺には拘置所の塀よりも高い多くの建物が存在しているところ,拘置所の塀の上に設置された監視カメラ,防犯線,赤外線,拘置所敷地内の防犯カメラ,赤外線の箇所も丸見えである。また,拘置所の建物内にしても,収容者は接見禁止中でない限り,外部の者と接見,書面のやり取りができるわけだから,「どの通路にカメラが設置され,どの居房に監視カメラ,動体管理システムが設置されている」との情報を流すことができる。さらに,市民の刑務所見学を認める法務省の方針により,平成16年4月から中学生,高校生を含む地域住民の施設内見学が行えるようになる。加えて,福岡拘置所に係る開示文書「平成12年11月30日付け各所修繕・物品製作願書」において,居房内の監視カメラ設置箇所を示す箇所も開示されている。また,福岡地裁民事部に係属している事件で,書証として,居房天井内の監視カメラ及び窓側天井部の動体管理システムのセンサーの設置状況が分かる写真が提出されている。その上,保護房内は,監視カメラが設置されているのは公然の事実であり,また,一部,警備用機器の設置箇所,取扱い方法等についても開示されている。以上のことからも,本件に係る諮問庁の主張は不相当である。
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(4) |
監視カメラが設置されている場合でも施設職員はビデオテープを消去等している。行刑施設は治安の最後の砦ではなく,国民に理解,支持される施設でなければならない。収容者に対する事故,事件が起きた時,又は起きないための防止策としても,国民が事前にチェックできるよう,本件に係る程度の情報公開は行われるべきである。
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(5) |
当該施設の行政文書については保存文書台帳なる文書が存在する。審査会にあっては,諮問庁が当該文書を保有していないと回答すると,それを鵜呑みにする姿勢に疑問を感じる。真実に保有していないのか,物品管理簿,警備用機器運用若しくは取扱い文書一覧表,台帳等の提出により,詳細に調査されるべきである。諮問庁は,不存在であれば,審査会が鵜呑みにすることを見越している節が見受けられるので,審査,調査を尽くすべきである。
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1 |
本件開示請求は,福岡拘置所における特定房又は特定の通路に設置された監視カメラ,集音装置等の取扱説明書及びこれらの機器の運用などを定めた文書の開示を求めてされたものであり,処分庁においては,平成15年8月12日付け福管総発第267号をもって,取扱説明書などの文書については特定房又は特定の通路に限らず保有していないことから,文書不存在で不開示となる旨,また,これらの機器の運用などを定めた文書については複数の開示請求に対し該当すると考えられる行政文書が同一のものであるため,開示する行政文書が重複する旨,それぞれ補正を求め,審査請求人からそれぞれ「そのまま維持する」旨回答があったものであるが,その後の開示決定に至るまでの検討の過程において,本件対象文書の存否を答えるだけで,法5条4号の不開示情報である刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報が開示されるのと同様の結果が生じるものであるとする不開示理由が適当であると考えたところ,審査請求人からは,該当する行政文書を保有していない場合又は複数の開示請求に係る行政文書が重複する場合であっても,請求を維持する旨回答があったことから,更なる補正を求めることなく不開示決定を行ったものである。
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2 |
行刑施設の責務の一つには,未決・既決を問わず,行刑施設内にその身柄を確実に収容して拘禁状態を確保することがあるが,これは裁判の執行の大前提をなすものであり,これが損なわれれば,例えば受刑者であれば刑の適正な執行が不可能となる上,万が一にも逃走や身柄奪取等の事故が発生した場合には,国民に極めて大きな不安と動揺を与え,社会の治安の根幹を揺るがす結果となり,行刑施設の担う責務は果たされないこととなる。
したがって,行刑施設がその責務を果たすためには,自殺,逃走,外部から行われる身柄奪取や逃走の援助,外部からの侵入又は施設に対する攻撃等による施設機能の妨害や破壊及び刑の執行に対する妨害等を阻止する必要がある。これらにかんがみ,行刑施設は,従来から,保安・警備に万全を尽くすため,本件開示請求に係る監視カメラなどを含めた警備用機器については,一般的に,どこへ,どのように設置されているかを外部に公表しない取扱いとしている。これは,設置箇所や設置状況を公表することにより,当該警備用機器の本来の目的が失われてしまうためであるところ,本件開示請求の記載振りのような開示請求を繰り返した結果,当該施設全体における当該警備用機器の設置箇所,あるいは設置していない箇所が明らかになることにより,被収容者の自殺,逃走及び身柄の奪取など刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあり,また,巡回警備体制の変更を余儀なくされるなど,福岡拘置所における事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,これらの情報は法5条4号及び同6号に該当するものと認められる。
なお,審査請求人が主張するとおり,一部の警備用機器の設置箇所に係る情報は仕様書をもって明らかになっているところであるが,これは,当該警備用機器の購入に当たって,随意契約は透明性に欠けると判断したため,一般競争入札を行ったことによるものであるものの,当該仕様書と全く同一の設置箇所であるかどうか,又は開示決定時点においても当該箇所に設置されているか,必ずしも明らかとされているわけではないことから,当該仕様書が開示されていることをもって不開示理由には該当しないとする審査請求人の主張は認められない。
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3 |
したがって,本件対象文書の存否を答えるだけで,特定の警備用機器が特定の設置箇所に設置されている事実の有無という法5条4号及び同6号の不開示情報を開示することと同様の結果が生じることとなることから,法8条の規定により本件開示請求を拒否すべきものと認められ,本件審査請求には理由がないことが明らかであることから,本件審査請求を棄却すべきであると思料する。
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当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① |
平成16年2月3日
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諮問の受理
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② |
同日
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諮問庁から理由説明書を収受
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③ |
同年3月3日
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審査請求人から意見書及び資料を収受
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④ |
同年5月12日
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審議
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⑤ |
同年6月10日
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諮問庁の職員(法務省矯正局保安課警備企画官ほか)からの口頭説明の聴取
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⑥ |
同年7月14日
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審議
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⑦ |
同年9月1日
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審議
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本件対象文書は,福岡拘置所の特定房など特定箇所に設置されている監視カメラ,集音装置等の取扱説明書及びこれらの機器の運用などを定めた文書である。
本件対象文書については,その存否を明らかにするだけで,特定房など特定箇所に監視カメラ,集音装置等が設置されていることを明らかにするものである。
刑務所,拘置所など矯正施設においては,被収容者の逃走,自殺その他の違法又は不当な行為を防止するために,施設内に監視カメラ,集音装置などの機器を設置している。本件対象文書に係る監視カメラ等が具体的に施設内のどの箇所に設置されているかということについては,これが被収容者に知られることにより,監視カメラ等による監視が行き届かない場所において,被収容者の逃走や自殺等の行為を容易にすることが考えられ,当該機器が被収容者のこれら行為を未然に防止するために導入されたにもかかわらず,その導入の趣旨に反し,被収容者の動静の把握が困難となり,被収容者の逃走や自殺等を容易にするなど,矯正施設における事務の適正な遂行に支障を生ずるおそれがあることは否定できず,法5条6号柱書きの不開示情報に該当するものと認められる。
なお,諮問庁は,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあるとし,法5条4号の不開示情報に該当する旨主張するが,同条項への該当性については,上記のとおり同条6号柱書きに該当することから,判断するまでもない。
法8条は,開示請求に対して,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,法5条各号の不開示情報を開示することとなるときは,行政機関の長は,当該行政文書の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否することができる旨を規定している。
本件対象文書については,その存否を明らかにするだけで,上記2のとおり,法5条6号柱書きに規定する不開示情報を開示することとなるため,本件の存否応答拒否処分は妥当なものと認められる。
審査請求人は,①諮問庁が過去数回にわたって開示した支出計算書証拠書類の一部である監視カメラ仕様書及びセンサー型動体管理システム仕様書等並びに各所修繕・物品製作願書において,本件に係る情報が開示されていること,②特定房,通路等において監視カメラが設置されていることは,被収容者の側に事実上周知されており,また,当該拘置所は市街地に位置していることから,拘置所の塀の上に設置された監視カメラ等は外部からも識別できること,さらに,平成16年4月からは,地域住民を対象とした行刑施設の施設見学も行われる予定であること,③審査請求人が提起した民事訴訟事件で書証として,処分庁側から居房天井内の監視カメラの設置,窓側天井部に設置された動体管理システムのセンサーの設置が分かる写真が提出されていることなどを理由に,処分庁の不開示決定の取消しを主張する。
上記①の主張については,本来,行刑施設における警備用機器の設置状況については,その設置目的にかんがみ,外部に公表しない取扱いとしているものと認められる。確かに,当該警備用機器の仕様書(当該機器の購入に係る一般競争入札に際して参加業者に配付されたもの)及び各所修繕・物品製作願書(審査請求人からの意見書に添付)には,特定の場所への警備用機器の設置を示唆するような記載が認められるが,その後現在に至るまで,同機器が当該場所に設置されていることを示す事実は明らかにはされておらず,当該文書が開示されているからといって,本件不開示情報を開示すべき理由になるとは認められない。
次に,上記②の主張については,監視カメラやセンサーの設置が一部の被収容者に認識されているとしても,それをもって,拘置所における警備用機器の設置状況が拘置所の内外に周知されているものと認めることはできず,また,諮問庁の説明によれば,福岡拘置所を含む拘置所を対象とする施設見学については,全国的に見てもいまだ実施には至っておらず,今後実施されるとしても,拘置所の特殊性にかんがみ,会議室における説明,ビデオ視聴,見学用に用意したモデル舎房の見学等に限定して実施したいなどとしている。したがって,上記②の主張が本件不開示情報を開示すべき理由になるとは認められない。
さらに,上記③の主張に係る当該写真については,審査請求人が当事者となっている裁判において,証拠書類として提出されたものであるとしても,そのことだけで,直ちに上記2記載の情報が法5条6号柱書きの不開示情報に該当することが否定されるものではない。
なお,審査請求人のその他の主張についても,いずれも当審査会の判断を左右するものではない。
以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条4号に該当するとしてその存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定について,諮問庁が同条4号及び6号に該当するとしてその存否を明らかにしないで不開示とすべきとしていることについては,当該情報は同条6号柱書きに該当すると認められるので,同条4号について判断するまでもなく,妥当であると判断した。
矢崎秀一,宇賀克也,吉岡睦子