諮問庁 国立大学法人東京大学
諮問日 令和 2年 1月27日(令和2年(独情)諮問第3号)
答申日 令和 2年11月 2日(令和2年度(独情)答申第26号)
事件名 「入学試験(特定コース)の実施と合否判定に関する内規」等の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙の1に掲げる請求文書1及び請求文書2(以下,順に「請求文書1」及び「請求文書2」といい,併せて「本件請求文書」という。)の開示請求に対し,別紙の2に掲げる対象文書1ないし対象文書3(以下,順に「対象文書1」ないし「対象文書3」といい,併せて「本件対象文書」という。)を特定し,その一部を不開示とした各決定については,請求文書1の開示請求につき対象文書1を特定したことは妥当であるが,別紙の3に掲げる部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和元年8月9日付け第2019-28号及び同第2019-29号により国立大学法人東京大学(以下「東京大学」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定及び一部開示決定(以下,順に「処分1」及び「処分2」といい,併せて「原処分」という。)について,取消しを求める。


2 審査請求の理由

審査請求人が主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書の記載によると,以下のとおりである。

(1)審査請求書

下記のとおり,原処分は,違法,不当である。

ア 修士課程の入試における選考基準,及び選考過程の文書が内規として存在するにも関わらず,開示されていない。これらすべてを開示することを求める。


イ 入学試験(特定コース)の実施と合否判定に関する内規が,「公にすることにより,具体的な採点方法等が明らかとなり,入試事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため」という理由で不開示となっている。

しかし,受験者にとって合否判定となった基準が明らかでないということ,そしてそれを公に公表できないということ事態(原文ママ)が,正当な審査方法により合否判定されたかどうか疑問視される。昨今,医大における女子大学生や浪人生の合否に差別があったことが明るみになった。密室性には問題が生じやすい。合否の判定基準は,公に開示されるべきものである。


ウ さらに,「2019年度の特定コース(特定専攻)修士課程入試の合格者と不合格者の筆記試験の採点結果すべて,口述試験の成績すべて,性別と年齢。(ただし,名前は黒塗りで可),受験者及び合格者の男女比率。」の開示請求を行ったにもかかわらず,法人文書開示決定通知書第2019-29号で開示された書類は,請求した「2019年度の特定コース(特定専攻)修士課程入試の合格者と不合格者の筆記試験の採点結果すべて,口述試験の成績すべて」が非開示となっており,その理由として,

・特定コース(特定専攻)修士課程の合格者と不合格者の筆記試験の採点結果すべて,口述試験の成績すべてについては,個人に関する情報であって,個人名その他個人を識別でき,又は,特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれのあるもので,法15条1号ただし書イ,ロ,ハ(原文ママ)のいずれにも該当しないため不開示とするとともに,公にすることにより,入試事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,法5条4号柱書及び同号ハにより不開示とする。

・特定コース(特定専攻)修士課程の合格者の年齢が分かる資料,不合格者の性別と年齢が分かる資料,受験者の男女比率が分かる資料は作成しておらず不存在。

・特定コース(特定専攻)修士課程志願者・合格者の男女別・年代別一覧のうち,年代別の内訳については,個人に関する情報であって,個人を識別でき,又は,特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれのあるもので,法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないため不開示とする。としているが,「個人を識別でき,又は特定の個人を識別することができないが,」と個人の識別ができないことを承知しており,個人が識別できない以上,個人の権利利益を害するおそれはない。

加えて,情報が公開されれば,合格者の年齢が分かる資料,不合格者の性別と年齢が分かる資料,受験者の男女比率が分かる資料は作成されていなくても,把握することは可能となる。

これは,応答義務を果たしておらず,法に違反する。速やかに,「特定コース(特定専攻)修士課程の合格者と不合格者の筆記試験の採点結果すべて,口述試験の成績すべて」及び「特定コース(特定専攻)修士課程志願者・合格者の男女別・年代別一覧のうち,年代別の内訳」の開示を求める。


(2)意見書

ア 大学側は「入学試験の実施と合否判定に関する内規」を公にすることにより具体的な採点方法が明らかになることによって入試事務の適正な遂行に支障を及ぼすとの理由を述べるが,昨今,医学部の入学試験において,女性や多浪人生を差別し減点するという内規で,平等公平な採点がなされず不合格とされていた事件があった。採点方法の具体的な規則を公開せず,隠蔽された環境の中で採点がなされたことから起こった事件である。このような不正が行われていないと断言するなら,採点基準を明確に公表しても差し支えないと考える。


イ 大学側は「筆記試験(英語,専門科目,小論文)と口述試験から総合的に判断することにより行う」として採点基準を公表していると説明するが,情報公開請求した大学院の入学試験は,マークシート方式のような誰が採点しても変わらない明確な数字で点数づけられるものではなく,英語以外は作文式であることから,何を持って(原文ママ)点数を配点するのかも疑義があり,模範解答等も示されていないことから,選考する大学院関係者に近しい人のみが,高評価に繋がる具体的な情報を得る可能性が否定できない。

故に,各設問の評価項目と配点,及び口述試験の評価項目と配点,筆記試験と口述試験の合格基準に対する配点割合等は明確に示されるべきであり,それが公になったとしても全ての受験生が平等に知るのであるから,何ら不公平は生じない。


ウ 大学側は,合格者の成績開示が個人を特定できないのに対して,公にすることで個人の権利利益に害する恐れがあると主張するが,具体的な例も示されず,個人を特定できないのに個人の権利利益に害する恐れと主張されることには矛盾がある。

公立の教育施設を利用する権利を得た合格者の合格基準に達した成績が開示されないことは開示できない何らかの不正があると疑われても仕方ない。何ら不正がないのであれば公開すべきであり,正当な採点で合格した人にとって東京大学大学院の合格者であることが特定されたとして,個人の権利利益を害するおそれなど存在しない。寧ろ,それを権利利益にしている。公開しないことは納税者の知る権利を害している。


エ 社会人大学院なのだから,合格者の性別,年代を記録し,統計として保存すべきである。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 本件対象文書について不開示並びに部分開示とした理由について

対象文書1は,公にすることにより具体的な採点方法等が明らかになり,入試事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,法5条4号柱書き及び同号ハにより不開示とした。

「特定コース修士課程の合格者と不合格者の筆記試験の採点結果すべて,口述試験の成績すべて」については,個人に関する情報であって,個人名その他個人を識別でき,又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもので,法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないため不開示とするとともに,公にすることにより,入試事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,同条4号柱書き及び同号ハにより不開示とした。特定コース修士課程の合格者の年齢がわかる資料,不合格者の性別と年齢が分かる資料は作成しておらず不存在である。請求文書2のうち,年代別の内訳については,個人に関する情報であって,個人を識別でき,又は特定の個人を識別できないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもので,同条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないため不開示とする部分開示決定を行ったものである。

これについて,審査請求人は,令和元年11月14日受付の審査請求書のなかで原処分を取り消し,全部開示を求めている。


2 審査請求人の主張とそれに対する本学の見解について

本学が不開示とした部分とその理由に関し,審査請求人は,

(1)受験者にとって合否判定の基準が明らかでないということ,そしてそれを公に公表できないということ自体が正当な審査方法により合否判定されたかどうか疑問視され,密室性には問題が生じやすいため合否の判定基準は公に開示されるべきものである。


(2)志願者・合格者の男女別・年代別一覧のうち,年代別内訳については不開示としているが,「個人を識別でき,又は特定の個人を識別することはできないが,」と個人の識別ができないことを承知しており,個人が識別できない以上,個人の権利利益を害するおそれはない。情報が公開されれば,合格者の年齢がわかる資料,不合格者の性別と年齢がわかる資料,受験者の男女比率が分かる資料は作成されていなくても,把握することは可能となる。これは,応答義務を果たしておらず,法に違反する。速やかに開示を求める。

と主張している。

しかしながら,本学特定研究科特定コースの入学試験の選抜については,学生募集要項に明記しているとおり,「筆記試験(英語,専門科目,小論文)と口述試験から総合的に判定することにより行う」としており,当該入学試験においては,筆記試験と口述試験の成績及び提出書類を総合的に判定することにより行っている。

対象文書1については,正に入試基準そのものであり,具体的な採点方法や合格者の決定方法等が詳細に記載されている。この内規を一部でも公にすると,今後受験する学生等に誤解や憶測が生じ,これらの誤解に基づいて受験生が受験対策を行い,今後の受験生の解答方法に影響を及ぼすこととなるので,入学試験の適正な実施に支障を及ぼすおそれがある。したがって,法5条4号柱書き及び同号ハにより,開示することはできない。

対象文書2については,各受験者の筆記試験の成績等が記載された一覧表である。各受験者の筆記試験の成績等が記載されており,各項目以外の部分については,個人に関する情報であって,個人名その他個人を識別でき,又は,特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもので,法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれも該当しないため開示することはできない。

対象文書3については,性別,日本人・外国人別内訳部分については個人の特定に結びつかない情報として開示しているが,年代別については,その年代によっては少数の志願者,合格者があるため,この記載部分を公開してしまうと,個人の特定に結びつく可能性がある。よって,年代別内訳については,個人に関する情報であって,個人を識別でき,又は,特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもので,法5条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないため不開示とするとともに,公にすることにより,入試事務の適正な遂行に支障が生じるおそれがあるため,同条4号柱書き及びハに該当するため開示することはできない。

なお,合格者の年齢がわかる資料,不合格者の性別と年齢がわかる資料,受験者の男女比率がわかる資料は作成しておらず不存在である。

本学としては,筆記試験,口述試験,提出書類等に基づき合否を総合的に判断しており,不開示とした部分を公にすると,今後の入試事務の性質上,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ及び試験に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれがあり,法5条4号柱書き及びハに該当するため不開示とするとともに,個人に関する情報であって,個人名その他個人を識別でき,又は,特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもので,同条1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないため不開示としている。

したがって,本学の決定は妥当なものであると判断するとともに,審査請求人の主張は支持できない。


3 結論

以上のことから,本学は,本件について原処分維持が妥当と考える。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和2年1月27日  諮問の受理

② 同日         諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年2月6日     審議

④ 同月19日      審査請求人から意見書を収受

⑤ 同年10月7日    委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議

⑥ 同月29日      審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は本件請求文書を含む文書の開示を求めるものであり,処分庁は,請求文書1につき対象文書1を特定し,その全部を法5条4号柱書き及びハに該当するとして不開示とし,対象文書2の一部を同条1号並びに4号柱書き及びハに該当するとして不開示とし,対象文書3の一部を同条1号に該当するとして不開示とする各決定(原処分)を行った。

これに対し審査請求人は,対象文書1の再特定及び本件対象文書の不開示部分の開示を求めていると解されるが,諮問庁は,対象文書3の不開示理由に法5条4号柱書き及びハを追加の上,原処分を妥当であるとしているので,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,対象文書1の特定の妥当性及び本件対象文書の不開示部分の不開示情報該当性について検討する。


2 対象文書1の特定の妥当性について

(1)審査請求人は,上記第2の2(1)アのとおり主張するので,当審査会事務局職員をして諮問庁に対し,請求文書1に該当する文書の保有の有無について確認させたところ,諮問庁は請求文書1に該当する規則は処分1において特定した対象文書1以外には作成しておらず,保有していない旨説明する。


(2)当審査会において対象文書1を見分した結果を併せ考えると,諮問庁の上記(1)の説明は不自然,不合理とはいえず,これを覆すに足りる事情も認められないことから,東京大学において対象文書1の外に請求文書1の開示請求の対象として特定すべき文書を保有しているとは認められない。


3 不開示情報該当性について

(1)対象文書1について

ア 当審査会において対象文書1を見分したところ,対象文書1には,特定コースの入学試験に関し,その実施や合否判定方法等について記載されていると認められ,諮問庁は,対象文書1の全部を不開示とした理由について,上記第3の1及び2(2)のとおり説明する。


イ 対象文書1のうち別紙の3に掲げる部分を除く部分は,これを公にすると,具体的な採点方法や合格者の決定方法等が明らかとなり,今後受験する学生等に誤解や憶測が生じ,これらの誤解に基づいて受験生が受験対策を行い,今後の受験生の解答方法に影響を及ぼすこととなるので,入学試験の適正な実施に支障を及ぼすおそれがあると認められるとする諮問庁の上記説明は否定し難い。

したがって,当該部分は,法5条4号ハに該当し,同号柱書きについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


ウ しかしながら,別紙の3に掲げる部分は,内規の標題,目次等の形式的な事項,当審査会において諮問庁から提示を受けて確認した特定コースの募集要項等や原処分において既に公にされている事項及び文書の保存,内規の改訂の手続等に関する事項が記載されているにすぎず,これを公にしても,今後受験する学生等に誤解や憶測が生じ,これらの誤解に基づいて受験生が受験対策を行い,今後の受験生の解答方法に影響を及ぼすこととなり,入学試験の適正な実施に支障を及ぼすおそれがあるとは認められず,法5条4号柱書き及びハのいずれにも該当するとは認められないので,開示すべきである。


(2)対象文書2について

ア 当審査会において対象文書2を見分したところ,令和元年6月22日に実施された特定大学院の入学試験に係る採点結果の一覧表であり,各受験者の受験番号,試験科目の得点,筆記試験順位,口述試験適格性の判定結果等とともに,欄外の記載が不開示とされていると認められ,諮問庁は,当該部分を不開示とした理由について上記第3の1及び2(2)のとおり説明する。


イ 不開示部分のうち,表中の記載部分については,受験者ごとに,当該受験者個人に関する情報であって,特定の個人を識別することはできないが,受験者の近親者,友人等一定の範囲の者からすると,受験票等の情報と照合することにより特定の個人を識別することができ,当該受験者にとって,知られたくない科目別の得点などが知られ,当該受験者の権利利益を害するおそれがあると認められるので,法5条1号本文後段に該当すると認められる。

法5条1号ただし書該当性について検討すると,当該部分は法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報であるとは認められないので,同号ただし書イに該当せず,同号ただし書ロ及びハに該当する事情もない。

したがって,当該部分は,法5条1号に該当し,同条4号柱書き及びハについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。

なお,表中の「列1」欄の記載部分については,上記のおそれがあるとは認められないが,原処分において開示されている欄の名称と併せ考えると法6条1項ただし書にいう有意な情報が記載されているとは認められず,部分開示を行う必要はないものと考えられる。


ウ また,不開示部分のうち,欄外の記載については,これを公にすると,各年度分に係る同様の開示請求を繰り返すなど,当該情報を分析することにより,受験生の正確な学力の把握を困難にし,入学試験の適正な実施に著しく支障を生じさせるおそれがあると認められる。

したがって,当該部分は,法5条4号ハに該当し,同条1号及び4号柱書きについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


(3)対象文書3について

ア 当審査会において対象文書3を見分したところ,不開示部分には,特定コースに係る年代と,それぞれの年代別の志願者数及び合格者数が記載されていると認められる。


イ 当該部分を不開示とした理由について,諮問庁は上記第3の2(2)において,年代によっては少数の志願者,合格者があるため,この記載部分を公開してしまうと,個人の特定に結びつく可能性がある旨説明するところ,諮問庁の当該説明は否定し難い。

そうすると,当該部分を公にした場合,特定の個人を識別することはできないが,志願者等の知人等一定の範囲の者からすると,特定の個人を識別することができ,当該志願者等にとって知られたくない合否結果等が知られ,当該志願者等の権利利益を害するおそれがないとはいえないので,法5条1号本文後段に該当する。

法5条1号ただし書該当性について検討すると,当該部分は法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報であるとは認められないので,同号ただし書イに該当せず,同号ただし書ロ及びハに該当する事情もない。

したがって,当該部分は法5条1号に該当し,同条4号柱書き及びハについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


4 審査請求人のその他の主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


5 付言

対象文書2及び対象文書3に係る不開示とした部分とその理由について,処分2の開示決定通知書には,「個人に関する情報であって,個人名その他を識別でき,又は,特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれのあるもので,法第5条第1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないため不開示とするとともに,公にすることにより,入試事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため,法第5条第4号柱書及び同号ハにより不開示とする。」,「個人に関する情報であって,個人名その他を識別でき,又は,特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれのあるもので,法第5条第1号ただし書イ,ロ,ハのいずれにも該当しないため不開示とする。」と記載されているだけであり,対象文書2及び対象文書3がそれぞれ1頁のみの表形式の文書であって,項目等が開示されていることから記載内容はおおむね推測できるものの,どの不開示部分が上記の不開示事由のいずれに該当するのか必ずしも明らかにされているとはいえない。

理由の提示の制度は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与える趣旨から設けられているものであり,開示決定通知書に提示すべき理由としては,開示請求者において,どの不開示部分が法5条各号の不開示事由のいずれに該当するのかが,その根拠とともに了知し得るものでなければならない。

したがって,処分2に係る理由の提示は,行政手続法8条1項の趣旨に照らし,適切さを欠くものであり,処分庁においては,今後の対応において,上記の点について留意すべきである。


6 本件各決定の妥当性について

以上のことから,本件請求文書の開示請求に対し,本件対象文書を特定し,その一部を法5条1号並びに4号柱書き及びハに該当するとして不開示とした各決定について,諮問庁が同条1号並びに4号柱書き及びハに該当するとして不開示とすべきとしていることについては,請求文書1につき,東京大学において対象文書1の外に請求文書1に該当する文書を保有しているとは認められないので,対象文書1を特定したことは妥当であり,本件対象文書のうち,別紙の3に掲げる部分を除く部分は,同条1号及び4号ハに該当すると認められるので,同号柱書きについて判断するまでもなく,不開示としたことは妥当であるが,別紙の3に掲げる部分は,同号柱書き及びハのいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。


(第4部会)

委員 小林昭彦,委員 塩入みほも,委員 常岡孝好





別紙


1 本件請求文書

請求文書1 東京大学特定大学院 2019年度 特定コース(特定専攻)修士課程の入試における選考基準,及び選考過程の文書。

請求文書2 2019年度特定コース(特定専攻)修士課程入試の合格者と不合格者の筆記試験の採点結果すべて,口述試験の成績すべて,性別と年齢。

(ただし,名前は黒塗りで可),受験者及び合格者の男女比率。


2 本件対象文書

対象文書1 入学試験(特定コース)の実施と合否判定に関する内規

対象文書2 大学院工学系研究科・工学部保有の2019年6月22日 特定大学院入試 採点結果

対象文書3 大学院工学系研究科・工学部保有の2019年度特定コース(特定専攻)修士課程 志願者・合格者の男女別・年代別一覧


3 開示すべき部分

対象文書1の以下の部分

(1)ヘッダーの記載部分及び頁番号部分

(2)1頁の1行目ないし15行目

(3)3頁の7行目,11行目,15行目ないし20行目及び22行目ないし29行目

注)行数にはヘッダー部分,頁番号部分及び空白の行を含まない。