諮問庁 財務大臣
諮問日 令和 元年12月17日(令和元年(行情)諮問第433号)
答申日 令和 2年 9月28日(令和2年度(行情)答申第278号)
事件名 財政制度等審議会財政制度分科会に提案された「令和時代の財政の在り方に関する建議(案)」の不開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「令和元年6月6日開催の財政制度等審議会財政制度分科会に,提案された「令和時代の財政の在り方に関する建議(案)」全文」(以下「本件対象文書」という。)につき,その全部を不開示とした決定については,別紙に掲げる部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和元年8月23日付け財計第3375号により,財務大臣(以下「財務大臣」,「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)を取り消し,全部開示を求める。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。なお,資料の記載は省略する。

(1)審査請求書

ア 財政制度等審議会(以下「財審」という。)は,財務省設置法(平成11年法律第95号)6条及び7条に基づき,財務大臣の諮問に応じ「国の予算,決算及び会計の制度に関する重要事項」等を調査し審議する機関である。例年,財審は財務省による次年度予算の概算要求基準の決定に先立ち財務大臣への建議を行っており,当該建議は,次年度以降の予算編成に影響を及ぼすものとして,社会的に大きな注目を集めるのが常となっている。本年(令和元年を指す。)においては,去る6月19日に「令和時代の財政の在り方に関する建議」(以下「本建議」という。)が公表された。

現在,我が国ではこの財審の他にも,特定の政策分野に関する審議会等が広く設置されている。そして,多くの審議会等(及びその所管省庁)にあっては,答申や建議等の策定に際し,各種の会議における議事録等や参考資料はもとより,その内容が決定される前の段階の案文が公表されている(添付資料①)。審議会等が本質的に備える公共性や,審議会等が政策決定の過程で果たす役割の大きさに鑑みれば,こうした取組は,法1条に定められた「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」という目的にかなったものである。

この点,そもそも本建議の案文は,今回のような個別の行政文書開示請求を受けるまでもなく,財審以外の多くの審議会等の取扱いと同様,能動的に公表されてしかるべき資料である。ましてや,開示請求があった場合には,可及的速やかに開示されて当然のものと言える。


イ 法5条は,「行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求にかかる行政文書に次の各号に掲げる情報のいずれかが記載されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない。」として行政文書の原則開示のルールを定め,例外的に不開示とせざるを得ない場合について,その要件を各号で限定列挙している。

本件不開示決定に当たって,処分庁は,法5条5号及び6号柱書に基づき,「単年度の予算にとどまらず中長期の財政運営の提言を含む情報であり,公にすることにより,今後そうした検討・協議の場において本来行われるべき自由闊達な議論を萎縮させ業務に支障を来すなど,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ及び事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」ことを理由として示した。

この理由に対しては,以下のとおり疑義がある。

まず,理由の中では,本建議の案文が公になった場合に,「中長期の財政運営の提言を含む情報」を「公にすることにより」,以降の「検討・協議の場」における議論や業務に支障を来すことが懸念されている。しかし,上記アで述べたとおり,我が国の審議会等による答申・建議等は案文の段階で公表されるのが一般的であり,例えば,中長期を見据えた我が国の経済財政政策について「経済財政諮問会議」が答申を行う,いわゆる「骨太の方針」でも同様の運用がなされている。これを踏まえれば,本件不開示決定の理由が想定している中長期的な視点からの懸念は,本建議の案文を不開示に処する理由には当たらない。

更に言えば,このような中長期的な視点に立った資料については,それが広く我が国の将来に影響する可能性が大きいものであればあるほど,行政当局には,積極的に国民に知らしめていく責務が当然に求められる。

そして,財審を含む審議会等は,基本的に各種の会議に係る議事録等を公表しており,そこでは,学識経験者,実務家や各界の代表といった多様な構成員による直接的な発言等が採録されている。例えば,平成30年11月8日に開催された財審・財政制度分科会の議事録等を確認してみると,同月20日の建議の取りまとめ等に向けて,正に「自由闊達な議論」の下,各構成員から建議内容に対し踏み込んだ指摘がなされていたことが分かる。こうした議事録等は,中長期にわたる「自由闊達な議論」,「率直な意見の交換」や「意思決定の中立性」に抵触しないとの行政庁の判断があるからこそ公表されているものであり,財審において,建議の案文をめぐる議事録等が支障なく公になっている現在,案文そのものが公表されることで突如として「自由闊達な議論」等が阻害されるとは認められず,提示された不開示の理由は適当ではない。

したがって,本件不開示決定で挙げられた理由はいずれも正当性を欠いており,本建議の案文を不開示とする根拠には相当しない。


ウ 法6条は,「行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。」と規定している。

そこで,本建議が既に公にされ,処分庁にあってはその案文と異なる部分の把握が容易である現状において,公表までの間に案文への修正等が施されたのであれば,部分ごと,個別具体的な開示の検討が必要とされることになる。これによって,仮に,本件不開示決定が根拠とする法5条5号及び6号柱書等に相当し,不開示とすべき部分が認められた場合であっても,法6条の趣旨を踏まえれば,少なくとも当該部分以外は開示されなければならない。

ところが,本件不開示決定においては,部分開示を含め開示を「否」と断じるに至った検討過程の一切が不詳である。こと本件不開示決定に関し,処分庁は,法6条の趣旨に反していると言わざるを得ない。


エ 今般,本建議とその案文の書きぶりをめぐっては,両者間での相違や齟齬が盛んに報じられており,案文の修正が財審の調査・審議を経たものでなく,事務方である財務省の手によるのではないかといった疑問も呈されている(添付資料②・③)。

こうした状況にある以上,情報公開の主体である処分庁が,法1条に定められた「国民主権の理念にのっとり,行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により,行政機関の保有する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」という行政文書開示に係る基本理念に従い,確たる説明責任を果たさなければならないことは明白であろう。

この点,本建議に係る案文の開示は,報道のような疑問に対する社会的な検証を可能ならしめる重要な手続である。そして,当該検証は,今後の財審におけるより開かれた調査・審議や,ひいては広く国民の利益につながるものに相違ない。

以上のとおり,本件不開示決定は理由を欠き,法の趣旨に反するものである。そこで,処分庁に対し,本件不開示決定の取消しと本建議の案文の全面的な開示を求める。


(2)意見書

ア 意見書の趣旨

(ア)諮問庁は,本件対象文書に係る行政文書不開示決定を取り消し,本件対象文書を全面的に開示すべきであること。


(イ)諮問庁は,上記の請求に係る対象が,①一般的な内容が記載されているにすぎない部分②既に対外的に明らかにされていると認められる部分③一定の事実関係を整理した部分などを含むものであるにもかかわらず,その部分開示についての検討を行わず全面非開示としたことは,その処分及び理由の提示において法の趣旨に反するものであり,仮に全面的に開示できない場合においては,部分開示について個別具体的に十分検討し,開示するとともに,不開示部分の理由を明確かつ具体的に示すこと。


イ 意見書の内容

(ア)諮問庁に対し審査請求を行った際の主張

上記(1)のとおり。


(イ)諮問庁から提出された理由説明書に対する意見

貴会から通知された「理由説明書の送付及び意見書又は資料の提出について(通知)(情個審第72号,令和2年1月14日)」に添付された理由説明書(下記第3。以下同じ。)において,諮問庁の考え方として財務省の主張が記されている。

しかし,理由説明書に記された財務省の主張は,下記のとおり正当性を欠き,法の定める不開示理由には該当しない。

a 率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ(法5条5号)について

諮問庁は,本件不開示決定の理由について,①財審の性格,②建議の性格を根拠に,法5条5号の「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があると理由説明書において説明しているが,これは以下の理由から妥当ではない。

(a)財審について

ⅰ 審議会について

審議会は,国家行政組織法8条の「重要事項に関する調査審議,不服審査その他学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための合議制の機関」として設置される。その特徴は「行政の外部の者を委員とすることにより行政の民主化を実現すること,専門的知識の外部からの導入を可能とすること,利害関係者・・・が一堂に会して議論し利害調整を図ることができること,内部部局の職員と比較して審議会等の委員は第三者的性格が強いため,公正中立性の確保がより容易なこと」等が挙げられる(宇賀克也「行政法概説Ⅲ【第4版】」)(添付資料②)。

平成10年に成立した中央省庁等改革基本法を受け,平成11年に閣議決定された「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」(以下「計画」という。)(添付資料③)の別表においては,審議会を,①基本的政策型審議会,②法施行型審議会,③時限存置又は任務終了時まで存置する審議会等の3つに分類しており,財審はこのうち①基本的政策型審議会(行政の企画・立法過程における法案作成や法案作成につながる事項などの基本的な政策を審議事項に含む審議会等)に該当するものとして整理されている。


ⅱ 審議会に係る情報公開について

審議会は行政組織に置かれる機関であるため,審議会が保有する行政文書も,法の対象になる。法5条では,行政文書は原則開示すべきことを明確に定めるとともに,例外的に不開示にすべき情報として,1号から6号までの6類型の情報を限定列挙している。本件では5号・6号に該当するかが争点になっているが,開示の判断に当たっては,「審議会等の合議制機関情報についても,本条5号の規定を適用し,個別具体的に開示の是非を判断することになる。その際,審議会の会議または議事録につき,中央省庁等改革基本法30条5号において,原則公開の方針がとられていることに留意すべき」(宇賀克也「新・情報公開法の逐条解説【第8版】」)(添付資料④)とされている。

(参考)中央省庁等改革基本法(略)


ⅲ 財審の性格について

財審は,財務省設置法7条に基づき設置され,財務大臣の諮問に応じて,同条1項1号で掲げられた,「国の予算,決算及び会計の制度に関する重要事項」などを調査審議するものである。

諮問庁は,「各分野の有識者が,国民各層の利害は踏まえつつも全体を俯瞰したうえで中立の立場から調査・審議を行い,有識者のコンセンサスとして政府に対して提言を行う会議であれば,未成熟な案文段階の文書を非公表の前提で出席者の間で共有したうえで率直な意見交換を行うことにより,より優れた内容の提言が作成され,結果として,国民全体の利益に資する場合があると考えられる」とし,「財審は研究者や実務家等の有識者のみで構成され,その建議は財審のコンセンサスとして財務大臣になされる提言である」という性格から,案文段階の文書の公表に係る取扱いについて不当と判断することはできないとしているが,諮問庁のこの主張には根拠がない。

上記ⅰで上述したように,審議会の特徴は「行政の民主化を実現すること」「専門的知識の外部からの導入」「利害調整」「公正中立性の確保」等であることから,およそ審議会であるならば,諮問庁の言う「各分野の有識者が,国民各層の利害は踏まえつつも全体を俯瞰したうえで中立の立場から調査・審議を行い,有識者のコンセンサスとして政府に対して提言を行う会議」に該当し得るので,本件不開示の根拠とはなり得ない。

本来,審議会を分類するのであれば,諮問庁の恣意的な区分によるのではなく,上記ⅰで既に述べた,閣議決定された計画の別表どおりに考えるべきである。同表によると,財審は①基本的政策型審議会に含まれる。この基本的政策型審議会には,他に,法制審議会(所掌:法務大臣の諮問に応じて,民事法,刑事法その他法務に関する基本的な事項の調査審議等)・中央教育審議会(所掌:文部科学大臣の諮問に応じて,教育の振興及び生涯学習の推進を中核とした豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成に関する重要事項の調査審議等)・社会保障審議会(所掌:厚生労働大臣の諮問に応じて,社会保障に関する重要事項の調査審議等)などが含まれている。これらの審議会の審議項目は財審と同様,基本的な政策が含まれており,だからこそ同じ分類に属している。これらが案のついた資料を公表している例があることは,添付資料①で示したとおりである。

上述したとおり,諮問庁の言う財審の性格は恣意的なもので根拠がない。他方,上記ⅱで述べたとおり,審議会は議事録公開が原則であり,文書の開示については「審議会の会議または議事録につき,中央省庁等改革基本法30条5号において,原則公開の方針がとられていることに留意すべき」とされていることや,財審以外の基本的政策型審議会においては案のついた答申等の資料を公開している例があることを鑑みると,財審の性格を考慮しても,建議(案)が法5条5号に該当するという諮問庁の判断は妥当ではない。


(b)建議(案)について

ⅰ 諮問庁の主張について

諮問庁は,本建議(案)について,社会保障など「単年度の予算にとどまらず中長期の財政運営の提言を含む形で毎年出され,しばしば同一のテーマ・問題意識の下,連綿と議論が継続しているという事実に鑑みれば,ある年度の建議が提出された後であっても,その案文段階における文言やその変遷が詳らかになれば,翌年度以降の建議に向けた検討・協議を行う際に,」「それらの文言と国民各層の利害の関係にのみ関心が集まるおそれがあり,そのような状況では,個々の委員が発言を行うに際して,外部からの圧力や干渉等の影響を受ける事態が生じる可能性がある」としている。さらに補足説明において,「財審及びその委員は,建議の内容次第で,あらゆる予算分野の利害関係者から圧力や干渉等の影響を受けるリスクを負っている」ことや「未成熟な案文段階の文書を非公表の前提で出席者の間で共有したうえで率直な意見交換を行うことにより,より優れた内容の提言が作成され,結果として,国民全体の利益に資する場合があると考えられる」とし,本建議(案)は法5条5号に該当するとしている。


ⅱ 本建議(案)と財審の議事録について

しかしながら,本建議(案)を開示することにより,率直な意見の交換,意思決定の中立性が損なわれるおそれがあるとは考えられない。

上記(a)ⅱで上述したように中央省庁等改革基本法30条5号において,審議会については原則公開の方針が定められ,財政制度等審議会議事規則6条1項においても「審議会は,会議又は議事録を速やかに公開することを原則とする。」とされ,財審の議事録は公開されている。本件の請求対象である建議(案)が配付された令和元年6月6日の議事録(添付資料⑤)は,現在では公開されており,議事録をみると,(略)など,本建議(案)について,各委員が建議の案文について具体的かつ詳細に言及し,それに関する自らの見解を自由に主張していることがわかる。このように建議の案文をめぐる詳細な議事録等が支障なく公になっていることから,建議(案)の一部については公開したとしても,今後も含めて,提言作成には何ら支障がない,すなわち「公にすることにより,今後そうした検討・協議の場において本来行われるべき自由闊達な議論を萎縮させ業務に支障を来すなど,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」の蓋然性が極めて低いと財務省自身が判断したということである。つまり,本建議(案)が法5条5号に該当するという諮問庁の判断は根拠を欠くものである。

また,法5条5号に該当するかを判断するに際しては,「アカウンタビリティの観点から開示することによる利益と,開示による適正な意思決定等にもたらされる支障を比較衡量する必要がある」(添付資料④)が,以上のことから,建議の案文やそれに対する意見交換等が議事録において支障なく公表されている中では,国民への説明責任の観点から開示することによる利益の方が大きいと考えられる。

したがって,案文そのものが公表されることで突如として,外部からの圧力や干渉等の影響を受ける事態が生じ,法5条5号の「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとは認められない。

(補足1)議事録のみ公開されていることについて

上記抜粋部分をみればわかるように,議事録だけでは委員の発言を理解するのが困難である。資料を公にせず議事録のみを公開するという中途半端な情報公開により,各委員の発言の趣旨・内容が明瞭になっておらず,法1条の「政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全う」されていない。このような現状では,発言の真意等を確かめるべくかえって外部から委員への干渉が生じ得る可能性が考えられるが,資料を公開することにより,委員の発言の背景や具体的な中身がわかり,そのような無用な干渉を受けずに済み,国民への説明責任も全うできるのではないか。

(補足2)諮問庁の「審査請求人の例示は,『建議の案文をめぐる議事録等が支障なく公になっている』との主張の根拠になり得ない」という主張について

諮問庁は,「令和元年8月23日時点では,本建議の取りまとめにむけた審議が行われた財審(同年6月6日及び同月19日に開催された計2回)の議事録は,いずれも公表されていない」ことから,「『建議の案文をめぐる議事録等が支障なく公になっている』という審査請求人の主張は事実誤認」であるとしている。この点については,審査請求人は,あくまで,「財審を含む審議会等は,基本的に各種の会議に係る議事録等を公表しており,そこでは,学識経験者,実務家や各界の代表といった多様な構成員による直接的な発言等が採録されている」という,建議の取りまとめのプロセスに着眼した一般論を述べている。そのうえで,当時は本建議に係る議事録は公開されていなかったため,当時の直近例である平成30年秋の建議について取りまとめが行われた会議(同年11月8日及び同月20日)の例を記載したものである。

実際に,平成30年11月8日の議事録(添付資料⑥)をみると,(略)など,建議(案)の案文について,委員が自由に意見を言い,その修文について具体的に言及していることがわかる。

このように過去の議事録をみれば,本建議(案)についても同様に,案文にかかる直接的な発言が含まれる議事録についても公開されることは容易に想定できることから,「建議の案文をめぐる議事録等が支障なく公になっている」としたのである。なお,本建議(案)のとりまとめにむけた審議が行われた財審の議事録(令和元年6月6日)については,上記ⅱで述べたとおりである。

以上(a)(b)で述べたことから,本建議(案)は法5条5号には該当せず,処分庁の行政文書不開示決定は妥当ではない。原処分を取り消し,本件対象文書を全面的に開示すべきである。


b 事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ(法5条6号柱書)について

諮問庁は,本建議(案)の開示が法5条5号に該当することから,「率直な議論が難しく,建議の中立性も損なわれる状況においては,国の予算等の制度に関する重要事項について調査審議及び提言を行うという財審の役割が果たせなくなる」とし,同条6号柱書の「事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があるとしている。

ここで,法5条6号柱書に該当するかの判断は,「開示のもたらす支障のみならず,開示のもたらす利益も比較衡量しなければならない」(添付資料④)とされている。

上記のとおり本建議(案)の開示は法5条5号に該当しないことから「調査審議及び提言を行うという財審の役割が果たせなく」なり「事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」は限りなく低い一方,開示することにより,法1条の「国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資する」うえに,本建議(案)に係る疑念(案文の修正が財審の調査・審議を経たものでなく,事務方である財務省の手によるのではないか)に答えることにもなる。以上のことから,開示のもたらす支障と開示のもたらす利益を比較衡量すると,後者の方が大きく,法5条6号柱書に該当するために非開示とした処分庁の判断は妥当ではない。原処分を取り消し,本件対象文書を全面的に開示すべきである。


c 部分開示(法6条)の可能性について

法6条では,開示請求の対象になった行政文書は,その一部に不開示情報が含まれていることを理由として,当然に全体を不開示にするべきではなく,原則として,開示可能な部分は開示すべきである旨が定められている。

仮に,諮問庁が理由説明書で述べているように本建議(案)が法5条5号及び6号柱書に相当し,不開示とすべき部分が認められた場合であっても,法6条の趣旨を踏まえれば,少なくとも当該部分以外は開示されなければならない。

本建議(案)については,上記a(b)ⅱで抜粋したように,委員の発言で言及された部分は既に公開されているうえに,一般的な内容(末澤委員の2025年度に関する発言等)や事実関係の整理(土居委員の消費税率引上げの発言等)が含まれていると考えられる。このような部分は公開しても支障がなく,理由なく非開示とするのは妥当ではない。

また,貴会の「平成18年度(行情)答申第454号・455号」(添付資料⑦)では,公正取引委員会の議事録について情報公開請求がなされた際,当該会議で配付された資料が議事録に添付されていたことから,配付資料についても開示の有無が争われた。ここでは,「議事録のうち,委員長・委員の率直かつ忌たんのない意見や考えが示されている部分は,法5条5号に該当し不開示とすべきである」として一部不開示となったが,配付資料についても,個別的に検討し,開示できる部分については開示するべきだと判断している。具体的には,配付資料について,「公表用資料については,・・・国民各層にも両様の議論・意見が存在している等の本件特有の事情を踏まえて,一定の政策効果の企図・実現を目指し,言葉尻のみが一方的に取り上げられて批判を受けるなどのことがないように,細心の注意を払い慎重に文言を選択し,表現を練った上で当該公表用資料を作成しているものと思われるから,そのような公表用資料の原案が資料として添付されている場合は,実際に公表された資料と対比した場合に委員長・委員の率直かつ忌たんのない意見や考え方が判明する,あるいはそれを推測し得るものかどうかについて,慎重に判断すべきものであると思料される。したがって,添付資料については,議事録の審議内容と直結し,委員長・委員の率直かつ忌たんのない意見や考え方が示されているかどうかのみならず,あるいは,これを推測し得るものかどうかについても慎重に判断した上で,これらのことが認められないものについては,開示すべきものと言える」とし,資料について個別的に検討のうえ,①一般的な内容が記載されているにすぎないもの②既に対外的に明らかにされていると認められるもの③一定の事実関係を整理したもの(部分)などについては開示すべしとしている。この事件のように,議事録の一部が法5条5号に該当するとされ一部不開示となった会議における配付資料でさえ,一部開示をするべきという答申がなされたのである。本件のように,委員長や委員の率直かつ忌たんのない意見や考え方が示された議事録がすべて公開された会議で配付された資料については,なお一層の開示が求められることはいうまでもない。

以上のことを踏まえると,本建議(案)に仮に不開示部分が含まれていたとしても,既に公になっている部分や,一般的な内容・事実関係の整理など不開示部分にはあたらないものについてまで,理由なく非開示とした処分庁の非開示決定は妥当ではなく,また,部分開示を行わない理由が示されていないことも不適当である。法6条の趣旨を鑑みれば,開示可能な部分はできる限り開示するべきであり,また,開示できない部分がある場合には,非開示の理由を明確かつ具体的に示すべきである。


d 財務省の情報公開に対する姿勢について

審査請求人が平成30年に行った特定法人に係る国有地の貸し付け及び売払いに関する公文書の情報公開請求に対し,財務省が非開示とした処分につき,貴会から,原処分は理由の提示に不備がある違法なものであり取り消すべきとする答申(令和元年度(行情)答申第65号)が令和元年6月になされた。

この答申がなされたにもかかわらず,処分庁は今回も,審査請求人の要求に対して,文言上は確かに法の規定そのままではなくなったが,形式的で根拠のない理由を提示して不開示決定を行っており,情報公開に対する姿勢が何ら改善されていない。

これは法1条の「行政機関の保有する情報の一層の公開を図り,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資すること」という目的に反するものである。財務省は,公文書の開示にできる限り消極的に対応しようとする姿勢を直ちに改め,本件対象文書を開示するべきである。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 経緯

令和元年6月27日付(受付:同日)で,法3条に基づき,審査請求人から処分庁に対し,本件対象文書について開示請求が行われた。

これに対し,処分庁は,法9条2項の規定に基づき,令和元年8月23日付財計第3375号により,不開示決定(原処分)を行った。

この原処分に対し,令和元年9月19日付(受付:同日)で,行政不服審査法2条に基づき,審査請求が行われたものである。


2 審査請求人の主張

審査請求書によれば,審査請求人の主張は上記第2の2(1)のとおりである。


3 諮問庁としての考え方

(1)本件審査請求の趣旨について

審査請求人が令和元年6月27日付で請求した本件対象文書の開示請求に対して,処分庁において,法5条5号及び6号柱書に該当することを理由に不開示とする原処分を行ったところ,本件審査請求が提起されたものである。


(2)本件対象文書について

本件対象文書は,財務省設置法6条に基づき設置された財審が,同法7条1項1号イにより定められた国の予算等の制度に関する重要事項について,同項2号に基づき,財務大臣に意見を述べるために作成する建議の案文である。


(3)原処分について

本件対象文書については,「単年度の予算にとどまらず中長期の財政運営の提言を含む情報であり,公にすることにより,今後そうした検討・協議の場において本来行われるべき自由闊達な議論を萎縮させ業務に支障を来すなど,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ及び事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」ことから,処分庁は法5条5号及び6号柱書に基づき令和元年8月23日付で不開示決定(原処分)を行った。


(4)原処分の妥当性について

本件対象文書の開示請求に対して,法5条5号及び6号柱書に基づき不開示とした原処分の判断は,次のとおり,妥当である。

ア 「単年度の予算にとどまらず中長期の財政運営の提言を含む情報であり,公にすることにより,今後そうした検討・協議の場において本来行われるべき自由闊達な議論を萎縮させ業務に支障を来すなど,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」について

建議は予算に関する提言を含んでいるが,予算は,国の資金の使途等を定めるというその性格上,国民の様々な層の利害に深く影響を及ぼすものである。

他方,有識者たる委員で構成される財審が策定する建議は,国民の様々な層の利害は踏まえつつも,財政の現状・見通しを総体として俯瞰し,中立の立場から,歳出減等,一層の国民負担を含む財政政策の必要性を指摘する提言であり,委員間の率直な議論を通じたコンセンサスに基づくものである。

そのような中,建議の案文段階における文言やその変遷が詳らかになれば,率直な議論を通じたコンセンサスが形成される前の段階で,それらの文言と国民各層の利害の関係にのみ関心が集まるおそれがあり,そのような状況では,個々の委員が発言を行うに際して,外部からの圧力や干渉等の影響を受ける事態が生じる可能性がある。

このような事態においては,委員間の率直な意見交換や審議を行うための最低限の環境を確保することは困難であり,また,適切なコンセンサス形成の必要条件ともいえる率直な意見交換が確保できない以上,建議の中立性も維持できないと言わざるを得ない。

また,例えば,本建議において,社会保障に関して,「2040年以降も社会保障給付が経済成長を超えて増加し,また,公費負担も一層増加していくことが見込まれるため,中長期の視点からも,社会保障改革の手綱を緩めてはならない。」と指摘されているように,建議は,単年度の予算にとどまらず中長期の財政運営の提言を含む形で毎年出され,しばしば同一のテーマ・問題意識の下,連綿と議論が継続しているという事実に鑑みれば,ある年度の建議が提出された後であっても,その案文段階における文言やその変遷が詳らかになれば,翌年度以降の建議に向けた検討・協議を行う際に,同様の問題が生じ得る。

以上のことから,本件対象文書について,「単年度の予算にとどまらず中長期の財政運営の提言を含む情報であり,公にすることにより,今後そうした検討・協議の場において本来行われるべき自由闊達な議論を萎縮させ業務に支障を来すなど,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ」があるとした原処分の評価は妥当である。


イ 「事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」について

上記アのとおり,率直な議論が難しく,建議の中立性も損なわれる状況においては,国の予算等の制度に関する重要事項について調査審議及び提言を行うという財審の役割が適切に果たせなくなる。このため,本件対象文書を公にすることにより,「事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」があるとした原処分の評価は妥当である。


(5)審査請求人の主張について

ア 他の審議会等による答申・建議等の案文の公表状況との対比について

審査請求人は,「我が国の審議会等による答申・建議等は案文の段階で公表されるのが一般的」であり,これを踏まえれば,「本件対象文書を不開示に処する理由がない」としているが,この主張は次のとおり妥当ではない。

(ア)審査請求人の主張には根拠がないことについて

処分庁は,本件対象文書を公にすることにより,率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損なわれるおそれ及び事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条5号及び6号柱書に基づき不開示決定を行ったところであるが,他の審議会等による答申等が案文の段階で公表されているからといって,この「おそれ」が減退し又は消滅するわけではない。

つまり,審査請求人は,単に他の一部の審議会等における答申・建議等の案文の公表・非公表の状況を紹介しているだけであって,原処分の妥当性を覆すような実質的な論拠を提示していない。このため,「本件対象文書を不開示に処する理由がない」という審査請求人の主張には根拠がない。


(イ)補足的な説明その1(財審と利害関係者との緊張関係について)

繰り返しになるが,予算は,国の資金の使途を定めるというその性格上,国民の様々な層の利害に深く影響を及ぼすものであるので,例えば,建議において,財政健全化に向けて,特定分野の歳出予算の抑制策を提言すれば,当該分野の利害関係者から反発・抵抗を受けることが想定される。こうした利害関係者との緊張関係について,財審は,平成30年11月20日にとりまとめられた「平成31年度予算編成等に関する建議」(以下「30秋建議」という。)の中で,「誰しも,受け取る便益はできるだけ大きく,被る負担はできるだけ小さくしたいと考えるがゆえに,税財政運営は常に受益の拡大と負担の軽減・先送りを求めるフリーライダーの圧力に晒される。平成という時代は,人口・社会構造が大きく変化する中で,国・地方を通じ,受益と負担の乖離が徒に拡大し,税財政運営がこうした歪んだ圧力に抗いきれなかった時代と評価せざるを得ない」と評価している。

このように,財審及びその委員は,建議の内容次第で,あらゆる予算分野の利害関係者から圧力や干渉等の影響を受けるリスクを負っていることから,上述の「おそれ」があるとした原処分の評価は妥当である。


(ウ)補足的な説明その2(本建議及び財審の性格及び位置づけについて)

上述の「おそれ」があるとした原処分の判断は妥当であるが,一方で,そのような「おそれ」を過度に重視すれば,政府の諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするという法の目的が達成できなくなる懸念があり得る。そのため,開示・不開示の判断にあたっては,開示することの利益と開示しないことの利益を適切に比較衡量する必要があるが,こうした比較衡量にあたっては,本建議及びその作成主体である財審の性格及び位置づけに留意する必要がある。

例えば,各行政機関の責任者が出席して,政府の政策の基本方針を規定する文書を審議する会議であれば,文書を案文段階から公にしたうえで,各出席者が何を発言し,その結果,文書がどのように変遷して最終版に至ったかを詳らかにすることが,政府の意思決定過程を明らかにし国民に対する説明責任を果たす観点から,適当な場合があると考えられる。一方で,各分野の有識者が,国民各層の利害は踏まえつつも全体を俯瞰したうえで中立の立場から調査・審議を行い,有識者のコンセンサスとして政府に対して提言を行う会議であれば,未成熟な案文段階の文書を非公表の前提で出席者の間で共有したうえで率直な意見交換を行うことにより,より優れた内容の提言が作成され,結果として,国民全体の利益に資する場合があると考えられる。

こうした観点を踏まえれば,審査請求人が例示する経済財政諮問会議については,議長である内閣総理大臣をはじめとして構成員の過半が行政の責任者たる国務大臣であり,同会議が作成するいわゆる「骨太の方針」は政府の基本方針として閣議決定される文書である一方で,財審は研究者や実務家等の有識者のみで構成され,その建議は財審のコンセンサスとして財務大臣に対してなされる提言であるなど,両者の性格や位置づけが大きく異なっていることは明らかである。このため,案文段階の文書の公表にかかる取扱いについて,両者の間で違いがあったとしても,それのみをもって不当と判断することはできない。


イ 議事録が公になっているのだから建議の案文も開示すべきとの主張について

審査請求人は,「例えば,平成30年11月8日に開催された財審・財政制度分科会の議事録等を確認してみると,同月20日の建議の取りまとめ等に向けて,正に「自由闊達な議論」の下,各構成員から建議内容に踏み込んだ指摘がなされていたことが分かる」と指摘したうえで,「建議の案文をめぐる議事録等が支障なく公になっている現在,案文そのものが公表されることで突如として「自由闊達な議論」等が阻害されるとは認められず,提示された不開示の理由は適当ではない」と主張する。

しかしながら,審査請求人が例示する平成30年11月8日及び同月20日の財審は,30秋建議の取りまとめに向けた審議が行われた回であり,これらの回では本建議にかかる審議は行われていない。このため審査請求人の例示は,「建議の案文をめぐる議事録等が支障なく公になっている」との主張の根拠になり得ない。

また,開示請求における不開示情報該当性の判断の時点は,開示又は不開示の決定の時点である(詳解 情報公開法(総務省行政管理局))ところ,原処分が行われた令和元年8月23日時点では,本建議の取りまとめに向けた審議が行われた財審(同年6月6日及び同月19日に開催された計2回)の議事録は,いずれも公表されていない。

したがって,「建議の案文をめぐる議事録等が支障なく公になっている」という審査請求人の主張は事実誤認であり,審査請求人の立論は成立しない。

なお,仮に原処分の時点でこれらの議事録が公開されていたとしても,本件対象文書の開示により,建議の案文段階における文言やその変遷が詳らかになれば,上記(4)及び上記アで述べたとおり,結果として,委員間の率直な意見交換や建議の中立性を確保することが困難になるおそれがあることから,いずれにしても原処分の判断は妥当である。


4 結論

以上のことから,処分庁が法9条2項に基づき行った原処分は妥当であり,本件審査請求は棄却すべきものと考える。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和元年12月17日  諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 令和2年1月22日   審議

④ 同年2月3日      審査請求人から意見書及び資料を収受

⑤ 同年6月18日     本件対象文書の見分及び審議

⑥ 同年9月3日      審議

⑦ 同月24日       審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象文書の全部を法5条5号及び6号柱書きに該当するとして不開示とする決定(原処分)を行った。

これに対し,審査請求人は,本件対象文書の全部を開示するよう求め,諮問庁は原処分を妥当としていることから,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,不開示情報該当性について検討する。


2 不開示情報該当性について

(1)当審査会において本件対象文書を見分したところ,本件対象文書は,本建議について令和元年6月6日に財審財政制度分科会(以下「分科会」という。)において審議された際の案文であり,表紙,財務大臣宛て公文書(案),委員名簿,審議経過,目次及び本文で構成されている。


(2)諮問庁は,本件対象文書の不開示情報該当性について上記第3の3(4)ア及びイのとおり説明するところ,当審査会事務局職員をして更に確認させたところ,以下のとおり補足して説明する。

本件対象文書については,会長代理に指名された6名の起草委員による起草により,その後の分科会での有識者たる委員の審議を経るべきものとして作成されたものである。このように,本件対象文書は,分科会の一部の委員である起草委員によって作成された,委員全員(当時45名)が分科会で議論を行うためのいわばたたき台であり,分科会としてのコンセンサスを経たものではないことから,未成熟な案文段階の文書である。

その上で,起草委員6名の具体的な氏名については議事録等において明らかにされているところ,一般論として,既に建議素案の段階から,我が国の財政状況を踏まえた歳出減等,一層の国民負担を含む財政政策の必要性やそれに向けた個別予算分野の具体策が示されるのが常であり,未成熟な案文段階の文書にすぎない本件対象文書を公にすれば,その現物を目の前にして,これを起草した起草委員6名に対し,特に集中して外部から厳しい圧力が掛かり,あるいは不当な干渉がなされるおそれもある。これにより,翌年度以降の分科会において,活発な審議の前提となるべき自由かっ達な意見に基づく建議の起草が妨げられるおそれがあることに加え,ただでさえ負担の重い起草委員のなり手がいなくなるような事態も想定され,ひいては,分科会における今後の建議の審議に重大な影響が及び得るものと考える。


(3)諮問庁の上記(2)の説明は否定し難く,本件対象文書のうち,別紙に掲げる部分を除く部分を公にすると,財審の委員,取り分け起草委員に対し外部から厳しい圧力が掛かり,あるいは不当な干渉がなされ,これにより将来にわたって活発な審議の前提となるべき自由かっ達な意見に基づく建議の起草が妨げられるおそれがあるほか,起草委員のなり手がいなくなるような事態も想定され,ひいては,分科会における今後の建議の審議に影響が及ぶなど,財審の事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。

したがって,本件対象文書のうち,別紙に掲げる部分を除く部分は,法5条6号柱書きに該当し,同条5号について判断するまでもなく,不開示としたことは妥当である。


(4)他方,本件対象文書のうち,別紙に掲げる部分については,これを公にしても上記第3の3(4)ア及びイ並びに上記(2)で諮問庁が説明するおそれがあるとは認められないので,法5条5号及び6号柱書きのいずれにも該当せず,開示すべきである。

なお,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,諮問庁は,法6条1項において,「行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りでない。」と規定されており,有意性の判定に関して,不開示情報に該当する部分を除いたその余の部分に,既に開示されている文書に記載された部分と同様のものしか残らない場合には,有意性は認められないとする答申例(平成29年度(行情)答申第554号)を踏まえ,本件に係る行政文書開示請求書が接到した令和元年6月27日時点において既に本建議が公表されており,その中で同じ内容が記載されていること,また,委員名簿や審議経過は,本建議公表以前から財務省ウェブサイトにて公表されていることから,本件については,別紙に掲げる部分のみを開示することに有意性はないと認められるため,同項ただし書に基づき,不開示とした旨説明する。

しかしながら,上記答申はそもそも不開示とすべきと判断された部分と他の部分とを区分することが困難であるという前提で判断したものであって,別紙に掲げる部分が上記(3)で不開示とすべきと判断した部分と容易に区分することができる本件とは前提が異なり,また,諮問庁の上記説明のとおり本建議が公表されていることを踏まえても,当該部分に有意性がないとは認められないから,諮問庁の当該説明は採用できない。


3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人はその他種々主張するが,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その全部を法5条5号及び6号柱書きに該当するとして不開示とした決定については,別紙に掲げる部分を除く部分は,同号柱書きに該当すると認められるので,同条5号について判断するまでもなく,不開示としたことは妥当であるが,別紙に掲げる部分は,同条5号及び6号柱書きのいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。


(第4部会)

委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子





別紙(開示すべき部分)


1 表紙

2 財務大臣宛て公文書(案)

3 委員名簿

4 審議経過