諮問庁 国税庁長官
諮問日 令和 元年 9月 9日(令和元年(行情)諮問第238号)
答申日 令和 2年 3月 6日(令和元年度(行情)答申第583号)
事件名 特定事件番号の訴訟の判決に対する上告受理申立書等の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙の1に掲げる3文書(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした決定について,審査請求人が開示すべきとし,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分については,別紙の3に掲げる部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,令和元年6月3日付け仙局課訟第23号により仙台国税局長(以下「処分庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,「相手方の郵便番号及び住所地」を除く部分の取消しを求める。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書の記載によると,おおむね以下のとおりである(なお,意見書及び資料の内容は省略する。)。

(1)裁判所ホームページに掲載されている東京高裁特定日判決を読めば,相手方が平成16年度特定弁護士会会長であり,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)副会長であることが分かる。

そして,特定弁護士会ホームページ及び日弁連ホームページを見れば,該当する弁護士は特定弁護士であることが分かるし,特定新聞ホームページのニュース記事によってこのことを確かめることができる。

そのため,相手方の氏名,相手方の所属する弁護士会の名称(相手方の所属する弁護士会が加入する弁護士会連合会の名称を含む。)は慣行として公にされている情報であるといえる(平成26年度(行情)答申第165号参照)。


(2)控訴審の事件番号が裁判所ホームページに掲載されている以上,上告受理申立事件番号及び上告不受理決定調書における事件番号は慣行として公にされている情報であるといえる(平成27年度(行情)答申第519号及び平成27年度(行情)答申第520号参照)。


第3  諮問庁の説明の要旨

1 本件審査請求について

令和元年6月3日付け仙局課訟第23号により処分庁が行った一部開示決定(原処分)のうち,相手方の郵便番号及び住所地を除く部分の開示を求めるものである。


2 本件対象文書について

本件対象文書は,別紙の1に掲げる3文書である。


3 不開示情報該当性について

以下,原処分において不開示とされた,「相手方」欄の氏名,相手方の所属する弁護士会の名称(相手方の所属する弁護士会が加入する弁護士連合会の名称を含む。以下同様。)及び事件番号の不開示情報該当性について検討する。

(1)本件対象文書に記載されている「相手方」欄の氏名

文書1の2頁目21行目,文書2の1頁目3行目及び文書3の「相手方」欄には,特定の個人の氏名が記載されており,これらは,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当する。

次に法5条1号ただし書該当性について検討する。

審査請求人は,裁判所ホームページに掲載されている東京高裁特定日判決(以下「本件東京高裁判決」という。),特定弁護士会(ホームページ,日弁連ホームページ及び日経新聞ホームページのニュース記事を読み合わせれば,相手方の氏名は確認できるのであるから,慣行として公にされている情報として不開示情報から除外される旨主張する。

しかしながら,裁判所ホームページに掲載されている本件東京高裁判決の要旨及び全文に氏名は掲載されておらず,特定弁護士会ホームページや日弁連ホームページにも本件東京高裁判決に係る訴訟に関する情報は掲載されていない。また,訴訟の当事者である個人の氏名が報道されることがあるとしても,それは当該報道機関が,独自の取材に基づき,その報道に関する方針等に従って,報道することが適切と思われるものを選択して報道しているにすぎず,訴訟の当事者である個人の氏名一般について,これが慣行として公にされ,又は公にすることが予定されているということはできないこととされている(東京地裁平成22年12月22日判決参照)。

したがって,相手方欄に記載されている氏名は,法5条1号ただし書イに該当せず,また,同号ただし書ロ及びハに該当しない。

また,相手方欄に記載されている氏名は個人識別部分であるから,法6条2項の部分開示の余地はなく,不開示とするのが相当である。


(2)文書2に記載されている相手方の所属する弁護士会の名称

審査請求人は,上記(1)と同じ理由で,相手方の所属する弁護士会の名称は,慣行として公にされている情報として不開示情報から除外される旨主張する。

相手方の所属する弁護士会の名称を含む役職名(弁護士会会長)は,法5条1号本文前段に規定する個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当する。

裁判所ホームページに現に掲載されている情報については,その掲載の趣旨・目的や個人情報に対する配慮の状況等が情報公開制度と相容れないなど特別な事情がある場合を除き,当該情報には公表慣行があると解するべきであるところ(平成27年度(行情)答申第519号等),裁判所ホームページに掲載されている本件東京高裁判決の全文には,相手方の所属する弁護士会の名称は英字表記にした上で掲載されている。

以上から,「弁護士会会長」といった部分は法5条1号ただし書イに規定する慣行として公にする情報に該当するが,相手方の所属する弁護士会の名称については,同号ただし書イないしハに該当しないことから,不開示情報に該当する。


(3)文書2及び文書3に記載されている事件番号

文書2には本件東京高裁判決に係る上告受理申立事件番号が,文書3には本件東京高裁判決に係る上告審の事件番号が,それぞれ記載されている。

民事訴訟事件における記録については,「何人も」閲覧請求をすることができることとされているため(民事訴訟法91条1項),事件番号を知ることにより,当該閲覧制度を利用して当該事件の訴訟記録を閲覧することが可能となり,当該訴訟記録に記載された訴訟当事者である個人を特定することができることから,民事訴訟事件の事件番号は,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,個人を識別することができるものに該当する。

民事訴訟事件の事件番号は,それが国等の設置に係るウェブサイト等に現に掲載されている場合には,その掲載の趣旨,目的等が情報公開制度と相容れないなど特別な事情がある場合を除き,当該事件番号には公表慣行が認められるものと解することができる。

そして,一連の訴訟事件において,事件の審級や種類ごとに複数の事件番号が付されている場合に,その一部の事件番号が分かっていれば,当該事件を特定することは可能であると考えられ,裁判所ホームページに掲載されている事件番号に公表慣行が認められる場合には,他の審級等に関する事件番号についても,公表慣行があるとされている(平成19年度(行情)答申第542号,審査請求人が指摘する平成27年度(行情)答申第519号及び同第520号も同旨)。

そして,本件東京高裁判決及びその第一審である東京地裁判決の事件番号は裁判所のホームページに掲載されていることから,本件上告審に関する事件番号についても公表慣行があると認められる。

以上より,文書2及び文書3に記載されている事件番号は,法5条1号ただし書イに該当するため,開示すべきである。


4 結論

以上のとおり,原処分において不開示とした部分のうち,文書2及び文書3に記載されている事件番号については,開示すべきであるが,その他の部分については,法5条1号の不開示情報に該当する。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 令和元年9月9日   諮問の受理

② 同日         諮問庁から理由説明書を収受

③ 同月18日      審議

④ 同月20日      審査請求人から意見書及び資料を収受

⑤ 令和2年2月25日  本件対象文書の見分及び審議

⑥ 同年3月4日     審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件対象文書について

本件開示請求は,本件対象文書の開示を求めるものであり,処分庁は,その一部を法5条1号に該当するとして不開示とする原処分を行った。

これに対し,審査請求人は,「相手方の郵便番号及び住所地」を除く部分の取消しを求めているところ,諮問庁は,別紙の2に掲げる部分は開示することが相当であるとし,その余の部分(以下「本件不開示維持部分」という。)をなお不開示とすべきとしている。

そこで,以下,本件対象文書の見分結果を踏まえ,本件不開示維持部分の不開示情報該当性について検討する。


2 本件不開示維持部分の不開示情報該当性について

(1)本件不開示維持部分

本件上告受理申立の相手方である特定個人の氏名並びに相手方が役員を務める弁護士会及び弁護士会連合会の名称が記載されており,これらは,一体として,法5条1号本文前段の個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるものに該当する。


(2)相手方の氏名

ア 当審査会において,裁判所ウェブサイト,特定弁護士会ウェブサイト及び日弁連ウェブサイトを確認したところ,以下の状況であった。

(ア)裁判所ウェブサイトの「裁判判例情報」には,本件東京高裁判決に係る「事件番号」,「事件名」,「裁判年月日」,「裁判所名」,「判示事項」,「裁判要旨」及び「全文」に係る情報が掲載されている。


(イ)上記(ア)の「裁判判例情報」の「全文」において,特定個人は単に「控訴人」と記載されているのみであり,「裁判判例情報」において他にその氏名が明らかとされた記載は認められなかった。


(ウ)特定弁護士会ウェブサイト及び日弁連ウェブサイトにおいて,本件東京高裁判決に関する情報は確認できなかった。


イ 審査請求人は,本件東京高裁判決,特定弁護士会ウェブサイト,日弁連ウェブサイト及び特定新聞のニュース記事を読み合わせれば,控訴人の氏名は確認できるのであるから,慣行として公にされている情報である旨主張している。

しかし,控訴人の氏名を含む情報が新聞等で報道され,そのことにより,控訴人の氏名が一時的に公衆の知り得る状態に置かれたとしても,本件開示請求の時点において公知の事実といい得るかどうか疑問である上,控訴人の氏名を含む情報は,あくまで報道機関の独自の取材に基づき報道されたものである。

さらに,控訴人の氏名を諮問庁自らが公表しているものでもなく,上記ア(イ)及び(ウ)のとおり,審査請求人の主張するウェブサイトにおいても,本件東京高裁判決の控訴人の氏名は確認できないのであるから,審査請求人の主張は採用できない。

したがって,相手方の氏名は,法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報には当たらないものと認められ,法5条1号ただし書イに該当するとは認められない。


ウ また,法5条1号ただし書ロ及びハに該当する事情も認められない。


エ そして,当該部分は,個人識別部分に該当し,法6条2項による部分開示の余地はない。


オ したがって,当該部分は,法5条1号に該当し,不開示とすることが妥当である。


(3)相手方が役員を務める弁護士会及び弁護士会連合会の名称(別紙の3に掲げる部分)

ア 裁判所ウェブサイトの「裁判判例情報」の「全文」においては,相手方が役員を務める弁護士会等の名称は英字表記で匿名化した措置が講じられている一方,「判示事項」及び「裁判要旨」においては,当該弁護士会の名称が記載されていることが認められる。

そうすると,相手方が役員を務める弁護士会の名称については,慣行として公にされている情報と認められ,法5条1号ただし書イに該当する。


イ また,日弁連ウェブサイトにおいて,単位会たる弁護士会から構成される地区の組織である弁護士会連合会に係る情報が掲載されており,相手方が役員を務める弁護士会は,特定弁護士会連合会の構成員であることは明らかであることから,相手方が役員を務める弁護士会連合会の名称についても,慣行として公にされている情報と認められ,法5条1号ただし書イに該当する。


ウ したがって,当該部分は,法5条1号に該当せず,開示すべきである。


3 審査請求人のその他の主張について

審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。


4 本件一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条1号に該当するとして不開示とした決定については,審査請求人が開示すべきとし,諮問庁がなお不開示とすべきとしている部分のうち,別紙の3に掲げる部分を除く部分は,同号に該当すると認められるので,不開示とすることが妥当であるが,別紙の3に掲げる部分は,同号に該当せず,開示すべきであると判断した。


(第4部会)

委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子





別紙


1 本件対象文書

文書1 東京高裁特定日判決(特定事件番号に対する上告受理申立書の写し

文書2 東京高裁特定日判決(特定事件番号)に対する上告受理申立て理由書の写し

文書3 東京高裁特定日判決(特定事件番号)に対する上告不受理決定調書の写し


2 諮問庁が開示することが相当とする部分

文書2の1頁目1行目の上告受理申立事件番号

文書3の1頁目の「事件の表示」の事件番号


3 開示すべき部分

文書2の5頁目,18頁目及び25頁目の不開示部分