諮問庁 厚生労働大臣
諮問日 平成31年 3月 4日(平成31年(行情)諮問第176号)
答申日 令和 元年12月13日(令和元年度(行情)答申第386号)
事件名 「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」の一部開示決定に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

別紙に掲げる文書1ないし文書9(以下,併せて「本件対象文書」という。)につき,その一部を不開示とした各決定については,不開示とされた部分を開示すべきである。


第2  審査請求人の主張の要旨

1 審査請求の趣旨

本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号。以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成30年11月28日付け厚生労働省発基1128第17号ないし1128第25号により厚生労働大臣(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った計9件の各一部開示決定(以下,併せて「原処分」という。)について,その取消しを求めるというものである。


2 審査請求の理由

審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。

(1)審査請求書

原処分における不開示の理由として,「公にすることにより,犯罪の予防に支障を及ぼすおそれ」(法5条4号)及び「公にすることにより,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法な行為の発見を困難にするおそれ」(同条6号イ)が挙げられている。

本件請求文書は毎年発せられる通達であり,審査請求人はその過去の年度のものを開示請求したに過ぎない。過去の年度に係る文書の開示が,今後の業務遂行に支障をきたすとはいえない。

平成30年度の「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」(平成30年2月13日付け基発0213第1号)については,全国労働安全衛生センター連絡会議発行の「安全センター情報」誌2018年6月号(通巻460号)において,その全部が明らかになっており,一般に知ることができる。

したがって,審査請求人が開示請求した文書は“最新年度分について既に全文が公になっている文書”の過去分であり,これを公にすることによって何らかの支障が生じるとは考えられないはずである。


(2)意見書

ア 不開示が不適当と考える理由

非現用文書であるということ。通達は毎年度発出されているものであり,本件請求対象文書は過年度の通達であるから,非現用文書である。過年度の通達の情報を開示しても,現在の事務の遂行に「支障を及ぼすおそれ」は生じないのではないか。

最新年度の通達がすでに公になっていること。平成30年度の通達についてはすでに公になっている(資料)。これは,全国労働安全衛生センター連絡会議が実施した開示請求によるものである。そのため,過年度の通達を「公にすること」によって新たに「支障を及ぼすおそれ」が生じるとはいえないのではないか。


イ 法の下の平等について

全国労働安全衛生センター連絡会議の開示請求に対しては,平成30年度の通達が全面的に開示されている。にもかかわらず,類似の文書を開示請求した者に対して一部開示の処分をすることは,法の下の平等を定めた日本国憲法14条に反するのではないか。


ウ 理由の教示について

一部開示決定について,単に法の条項を示すのみで,審査基準に則って判断したかどうかを教示しないのは不親切なものと考える。

不開示の理由について抽象的な理由を示すだけでは不十分である。なぜ非現用文書であるにもかかわらず支障があるのか,なぜ最新年度の通達が既に公になっているのに過年度の通達の開示ができないのか,ほかの開示請求者と異なる処分をしているのではないかとの疑問に対し,具体的に理由を説明すべきである。

(資料 略)


第3  諮問庁の説明の要旨

1 本件審査請求の経緯

(1)審査請求人は,平成30年10月29日付けで厚生労働大臣に対し,法の規定に基づき,「「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」と題して発出されている毎年度の基発。保存されている年度分すべて。ただし最新の平成30年度分のものについては除く。」の開示請求を行った。


(2)これに対して,処分庁が一部開示の原処分を行ったところ,審査請求人はこれを不服として,平成30年11月29日付け(同年12月3日受付)で本件審査請求を提起したものである。


2 諮問庁としての考え方

本件審査請求について,本件対象文書を特定し,その一部を不開示とした原処分は妥当であると考える。


3 理由

(1)本件対象行政文書について

本件開示請求に対し,処分庁は,別紙に掲げる文書1ないし文書9を本件対象文書として特定した。


(2)不開示情報該当性について

本件対象文書には,監督対象事業場の選定方法,措置要領など,監督指導事務に係る実施内容に関する情報が含まれており,これらが公にされた場合には,監督対象とした事業場や業種等において労働関係法令違反の隠蔽を行うようになるなど,犯罪の予防に支障を及ぼすおそれがあり,かつ,労働基準行政機関が行う事務に関する情報であって,検査事務という性格を持つ臨検監督指導業務に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法な行為の発見を困難にするおそれがある。

このため,これらの情報は,法5条4号及び6号イの不開示情報に該当し,不開示とすることが妥当である。


(3)審査請求人の主張について

審査請求人は,審査請求書(上記第2の2)の中で「過去の年度に係る文書の開示が,今後の業務遂行に支障をきたすとはいえない」として原処分の取消しを求めるが,不開示情報該当性については,上記(2)で示したとおりであり,審査請求人の主張は認められない。


4 結論

以上のとおり,原処分は妥当であり,本件審査請求は棄却すべきものと考える。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成31年3月4日  諮問の受理

② 同日         諮問庁から理由説明書を収受

③ 同月15日      審議

④ 同月18日      審査請求人から意見書及び資料を収受

⑤ 令和元年12月3日  委員の交代に伴う所要の手続の実施,本件対象文書の見分及び審議

⑥ 同月11日      審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求に対し,処分庁は,本件対象文書の一部について,法5条4号及び6号イに該当するとして不開示とする原処分を行ったところ,審査請求人は不開示部分の開示を求めている。

これに対して,諮問庁は原処分を妥当としていることから,本件対象文書を見分した結果を踏まえ,以下,不開示とされた部分の不開示情報該当性について検討する。


2 不開示情報該当性について

本件対象文書は,別紙に掲げる文書1ないし文書9であり,平成21年度ないし平成29年度の各年度における監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について,当該各年度に先立ち厚生労働省労働基準局長から都道府県労働局長に対して通知した文書である。

(1)諮問庁は,不開示部分の不開示情報該当性について,理由説明書(上記第3の3(2))のとおり説明する。


(2)当審査会において本件対象文書を見分したところ,別紙に掲げる各文書には,それぞれ平成21年度ないし平成29年度の当該各年度における監督指導業務に当たっての留意点等が記載されていると認められる。

また,各文書は,冒頭に各年度の「監督指導業務の運営に当たっての基本的考え方」の認識が述べられた後,年度により14ないし18項目の柱が立てられ,監督指導各業務についての各年度の重点課題や業務運営の際の留意点が記載されているものと認められる。また,その記載内容は,各年度の「基本的考え方」を踏まえ,柱立てを含めて毎年度見直し・変更が行われているものと認められる。

したがって,審査請求人が審査請求書及び意見書(上記第2の2(1)及び(2))において主張しているとおり,本件対象文書である各文書に記載されている内容は,平成21年度ないし平成29年度の各年度において完結しており,毎年度の変更・見直しの中で再び過去の通知と同様の内容が記載されることが仮にあったとしても,原処分の時点においては,それぞれ過去のものであると認められる。


(3)さらに,不開示部分には,原処分において開示されている情報又は労働基準法,労働安全衛生法,最低賃金法等関係法令の規定から推認できる内容が多く記載されているほか,いずれも個別具体の事案に関することは記載されておらず,かつ,業務運営上の一般的な方針・指示の記載にとどまっており,監督指導業務において秘匿すべき調査手法,ノウハウ等が記載されているとは認められない。


(4)以上により,不開示部分は,これを公にしても,労働基準監督機関が行う検査等に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるとは認められず,犯罪の予防に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があるとも認められない。

したがって,当該部分は,法5条4号及び6号イのいずれにも該当せず,開示すべきである。


3 本件各一部開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条4号及び6号イに該当するとして不開示とした各決定については,不開示とされた部分は,同条4号及び6号イのいずれにも該当せず,開示すべきであると判断した。


(第3部会)

委員 髙野修一,委員 久末弥生,委員 葭葉裕子





別紙 本件対象行政文書

文書1 平成21年2月16日付け基発0216001号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」

文書2 平成22年2月17日付け基発0217第2号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」

文書3 平成23年2月16日付け基発0216第6号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」

文書4 平成24年2月14日付け基発0214第1号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」

文書5 平成25年2月13日付け基発0213第1号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」

文書6 平成26年2月18日付け基発0218第1号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」

文書7 平成27年2月16日付け基発0216第1号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」

文書8 平成28年2月16日付け基発0216第1号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」

文書9 平成29年2月13日付け基発0213第1号「監督指導業務の運営に当たって留意すべき事項について」