諮問庁 | : | 国税庁長官 |
諮問日 | : | 平成29年 8月 2日(平成29年(行個)諮問第119号) |
答申日 | : | 平成29年12月18日(平成29年度(行個)答申第164号) |
事件名 | : | 本人に係る平成28年度税理士試験採点前解答用紙(相続税法)の不開示決定(不存在)に関する件 |
第1 | 審査会の結論 |
「平成28年度第66回税理士試験(相続税法)における本人の採点前答案用紙」に記録された保有個人情報(以下「本件対象保有個人情報」という。)につき,これを保有していないとして不開示とした決定は,妥当である。
第2 | 審査請求人の主張の要旨 |
1 審査請求の趣旨
行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「法」という。)12条1項の規定に基づく開示請求に対し,平成29年2月15日付け官人6-19により国税庁長官(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。
2 審査請求の理由
審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書の記載によると,以下のとおりである(意見書は省略。)。
本件審査請求は,審査請求人が「平成28年度第66回税理士試験(相続税法)における本人の採点前解答用紙」の開示を求めたのに対し,処分庁が「開示請求に係る保有個人情報を保有していないため,不開示とした。」という処分を下したものに対するものである。
決定通知書に記載された理由では,これ以上の詳しい説明がなされていないため,保有していないこととなった理由及び経緯が不明である。しかし,審査請求人が別途行った「採点済み解答用紙」の開示請求においては,当該行政文書が部分開示されたことから,「当該行政文書(採点前解答用紙)を処分庁が破棄したことにより保有していない」のではなく,「当該行政文書(採点前解答用紙)に試験委員が採点等の書き込みを行ったことにより当該行政文書(採点前解答用紙)が物理的に存在しなくなったことから保有していない」としたものである,と理解する。
この前提によれば,既に存在しないものは開示できないという理屈は納得せざるを得ないものである。しかし,審査請求人は,本件保有個人情報が依然として存在しているのではないかと考えている。
ここで,平成29年3月24日答申(平成28年度(行個)答申第211号及び同第212号)を参照する。当該事件は,司法試験を受験した当該審査請求人が本人の答案用紙の開示を求めたものであるが,この審議において,答案用紙とは別に,答案の画像データが存在したことが確認されている。この画像データは,「法務省が業者に委託作成させ,その成果物として,当該試験の実施記録として同省において保存していた」ものであり,「受験した司法試験の答案用紙に本人が記載した解答であって,当該解答に対する配点・減点などの採点情報や,採点を行った考査委員によるコメントなどの書き込み等は記録されていないことが認められる。」とある。この画像データが,開示請求の対象となる保有個人情報である旨も認定されている。
税理士試験においても,司法試験と同様に,答案の画像データが,記録又はバックアップの目的として作成されているのではないかと,審査請求人は思料する。答案用紙は全国の試験会場から回収された後,採点を委託された外部の試験委員に渡される。答案は代替の効かない唯一のものであり,紛失は絶対にあってはならないが,万が一のために処分庁が回収した時点であらかじめコピーを取っていることが考えられる。また,採点は,全受験者の答案の統一的な配点水準を保つ必要性から,一部は複数回行っていることが想定され,答案の原本以外にそのものが存在しないと考えるのは不自然である。
よって,審査請求人は,上記の前提を基に,原処分を取り消し,保有個人情報の全部開示をするよう求める。
ここで処分庁が,上記前提が事実と異なるというのであれば,「保有個人情報を保有していない」とした理由及び経緯について詳細に説明するよう求める。単に保有していない,というだけでなく,保有していなくても答案の採点等の試験実施事務を適正に行うことができる合理的な理由があることを根拠とともに示されたい。
第3 | 諮問庁の説明の要旨 |
1 本件開示請求等について
本件開示請求は,処分庁に対して「平成28年度(第66回)税理士試験の本人の採点前答案用紙(相続税法)」(以下,第3において「本件文書」という。)に記録された保有個人情報(本件対象保有個人情報)の開示を求めるものである。
処分庁は,平成29年2月15日付け官人6-19により,開示請求に係る保有個人情報を保有していないとして,法18条2項に基づき不開示決定(原処分)を行った。
これに対し,審査請求人は,審査請求書において,本件対象保有個人情報が依然として存在していることを前提に,原処分を取り消し,保有個人情報の全部開示を求めていることから,以下,原処分の妥当性について検討する。
2 原処分の妥当性について
(1)税理士試験制度等について
税理士試験は,税理士となるのに必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的として,会計学(簿記論及び財務諸表論)と税法(所得税法,法人税法,相続税法,消費税法又は酒税法,国税徴収法,地方税法のうち住民税又は事業税に係る部分並びに地方税法のうち固定資産税に係る部分)に属する11科目について行われており(税理士法6条),第66回税理士試験については,平成28年8月9日から11日に実施されている。
そして,税理士試験は,国税審議会が行うこととなっており(税理士法12条),このため国税審議会には税理士試験の問題の作成若しくは採点を行う,試験委員が置かれている(国税審議会令2条3項)。
試験委員は,豊富な実務経験や学識経験を有した者が任命されており,採点に当たっては,自己の専門的知見に基づき,個々の答案について,単に結果のみでなく,解答を導き出す思考過程や計算過程なども十分に考慮することによって,税理士になるために必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定しており,その公平性及び妥当性が確保されるよう十分注意しながら行っている。
国税審議会には,税理士法の規定により国税審議会の権限に属せられた事項を処理する分科会として,税理士分科会が置かれ(国税審議会令6条),税理士分科会の税理士試験に関する庶務は,国税庁長官官房人事課試験係(以下,第3において「事務局」という。)がつかさどる(国税庁事務分掌規則30条)。
(2)本件文書について
本件文書は,平成28年度(第66回)税理士試験において,審査請求人自身が解答した相続税法に関する答案用紙(試験委員採点前)である。
税理士試験の答案用紙は,上記(1)のとおり,試験委員により税理士になるために必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定し,その公平性及び妥当性が確保されるよう十分注意して採点が行われ,その採点内容は,答案用紙の評点欄等に書き込まれる。
そのため,処分庁が保有個人情報開示請求のあった時点で保有しているのは,試験委員による採点内容が書き込まれた採点後の答案用紙であり,本件文書(採点前の答案用紙)は保有していない。
したがって,本件対象保有個人情報について,保有していないことを理由に不開示とした原処分は妥当である。
なお,処分庁では,災害等の不測の事態に備えて,採点前の答案用紙の画像データの作成を業者に委託し,業者から納入されたDVD(当該画像データが記録されたもの。以下「本件DVD」という。)については,事務局にて施錠が可能なキャビネットで保管し,答案の採点後,全ての受験生の答案用紙がそろっていることを確認するとともに,事務局において試験結果を登録した上で,廃棄することとしている。
本件開示請求に当たり,本件DVDを保管していた上記キャビネットを確認したが,本件DVDはなく,本件開示請求時点においては既に廃棄されている。
3 結論
以上のことから,本件対象保有個人情報について,保有していないことを理由に不開示とした原処分は妥当であると判断する。
第4 | 調査審議の経過 |
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成29年8月2日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年9月19日 審査請求人から意見書を収受
④ 同年12月6日 審議
⑤ 同月14日 審議
第5 | 審査会の判断の理由 |
1 本件対象保有個人情報について
本件開示請求は,本件対象保有個人情報の開示を求めるものであり,処分庁は,本件対象保有個人情報については,これを保有していないとして不開示とする決定(原処分)を行った。
これに対し,審査請求人は,原処分の取消しを求め,諮問庁は,原処分を維持することが適当であるとしていることから,以下,本件対象保有個人情報の保有の有無について検討する。
2 本件対象保有個人情報の保有の有無について
(1)本件対象保有個人情報の保有の有無等について,当審査会事務局職員をして諮問庁に改めて確認させたところ,諮問庁は次のとおり説明する。
ア 税理士試験の採点は,各試験委員が,税理士試験の答案用紙の原本を用いて行うことから,採点前の答案用紙については,画像データを作成し,当該データを記録したDVD(本件DVD)を保管する。
本件DVDは,試験結果の登録を了し必要がなくなった時点で廃棄することとしており,平成28年度第66回税理士試験の合格発表は平成28年12月16日に実施されたため,本件開示請求時点においては既に廃棄されていた。
イ 原処分に当たっては,上記第3の2のとおり探索を行ったところであるが,本件対象保有個人情報は発見されなかった。
(2)本件対象保有個人情報を保有していないとする諮問庁の上記(1)及び第3の説明に不自然な点はなく,処分庁が行ったとする探索の方法・範囲も不十分とはいえない。また,本件対象保有個人情報を保有していないとする諮問庁の説明を否定するに足りる事情は存しない。
以上によれば,国税庁において本件対象保有個人情報を保有しているとは認められない。
3 審査請求人のその他の主張について
審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。
4 付言
本件不開示決定通知書には,不開示とした理由について,「開示請求に係る保有個人情報を保有していないため」と記載されているところ,一般に,保有個人情報の不存在を理由とする不開示決定に際しては,単に保有個人情報を保有していないという事実を示すだけでは足りず,保有個人情報が記録された行政文書を作成又は取得していないのか,あるいは作成又は取得した後に廃棄又は亡失したのかなど,なぜ当該保有個人情報が存在しないかについても理由として付記することが求められる。
したがって,原処分における理由付記は,行政手続法8条の趣旨に照らし,適切さを欠くものであり,処分庁においては,今後の対応において,上記の点に留意すべきである。
5 本件不開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象保有個人情報につき,これを保有していないとして不開示とした決定については,国税庁において本件対象保有個人情報を保有しているとは認められず,妥当であると判断した。
(第4部会) |
委員 山名 学,委員 常岡孝好,委員 中曽根玲子