諮問庁 | : | 警察庁長官 |
諮問日 | : | 平成29年 1月 4日(平成29年(行情)諮問第1号) |
答申日 | : | 平成29年 9月 5日(平成29年度(行情)答申第206号) |
事件名 | : | 保有個人情報管理簿の一部開示決定に関する件 |
第1 | 審査会の結論 |
保有個人情報管理簿(以下「本件対象文書」又は「管理簿」という。)につき,その一部を不開示とした決定は,妥当である。
第2 | 審査請求人の主張の要旨 |
1 審査請求の趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成28年7月15日付け平28警察庁甲情公発第81-2号により警察庁長官(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った一部開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。
2 審査請求の理由
(1)審査請求書
これは,以下のことから原処分は妥当ではない。
不開示とされた管理簿の各記載欄は,①名称,②利用に供される事務をつかさどる係の名称,③利用の目的,④記録される項目,⑤本人として記録される個人の範囲,⑥記録される個人情報の収集方法,⑦記録される個人情報の経常的提供先,⑧保有開始年月日,⑨保存場所,⑩備考がある。このうち,①名称,④記録される項目,⑧保有開始年月日は少なくとも,これらを明らかにしたとしても個人情報を収集していること以上のことは明らかにならず,警察活動の実際を明らかにすることにはならず,処分庁が主張する法5条3号又は4号に該当するような支障は生じない。
③利用の目的,⑤本人として記録される個人情報の範囲,⑥記録される個人情報の収集方法,⑦記録される個人情報の経常的提供先,⑨保存場所は,記載されている情報の性質・内容によっては処分庁が主張する法5条3号又は4号に該当するものがある可能性があるが,処分庁は一律に不開示としており,判断として妥当とは言えない。
⑩備考は,記載されている情報の性質が明らかではなく法5条3号又は4号に該当する情報か否かの判断ができず,処分として妥当ではない。
(2)意見書
ア 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行個法」という。)について
行個法10条2項1号及び2号は,「国の安全,外交上の秘密その他の重大な利益に関する事項を記録する個人情報ファイル」,「犯罪の捜査,租税に関する法律の規定に基づく犯則事件の調査又は公訴の提起若しくは維持のために作成し,又は取得する個人情報ファイル」については事前通知の例外とし,同11条2項で個人情報ファイル簿の作成及び公表の例外ともしている。
行個法10条2項の規定の趣旨として,1号については「その存在自体及びその内容について知り得る関係者をできるだけ少なくする必要があり,その性質上,本来的に事前通知になじまないものである」とし,2号については,「犯罪の捜査,公訴の提起等の刑事司法手続に係る職務を適正に遂行するためには,関連する情報の秘匿性が要求されるところである」とされる(総務省行政管理局監修,社団法人行政情報システム研究所編集「行政機関等の個人情報保護法の解説(増補版)」ぎょうせい)。
一方で,法3条1項は行政機関に対して「法令の定める所掌事務の達成に必要な範囲を超えて,個人情報を保有してはならない」と定めており,本件で不開示とされている管理簿に記載されている個人情報ファイルも,法令の定める所掌事務の範囲で取得された個人情報に関するものである。
イ 管理簿(本件対象文書)の不開示情報該当性について
(ア)行個法との関係
行個法10条2項1号及び2号は,確かに保有個人情報ファイルの事前通知の例外として規定されており,これらの個人情報ファイルは,保有個人情報ファイル簿の作成及び公表の例外となっている。行個法10条2項1号及び2号は,保有個人情報ファイルに記載される個人情報そのものについて,「国の安全,外交上の秘密その他の重大な利益に関する事項」,「犯罪の捜査,租税に関する法律の規定に基づく犯則事件の調査又は公訴の提起若しくは維持のために作成し,又は取得」であると規定し,個人情報ファイルの存在が明らかになることによる実質的な支障ではなく,形式的にこれらの要件に該当すると思料されるものを,事前通知等の例外とするものとなっている。
規定趣旨では,保有個人情報ファイルの存在そのものの保護性に言及しているとも言えるが,行個法の規定そのものは実質的な支障ではなく,形式的な当てはめで運用を可能としていることから,行個法10条2項1号及び2号は,法の規定する不開示規定と同様の要件を定めているとは言えない。
また,行政機関は法令の定めた所掌事務の範囲内でその諸活動を行うものであり,個人情報の保有についても同様の範囲で行われていることは,行個法も明示的に求めている。そのため,誰の個人情報を収集しているか,その個人情報は具体的に何かを明らかにすることはできないとしても,少なくとも管理簿が作成されるレベルである,保有個人情報ファイルという一つの業務の単位としては,法令に定めた所掌事務の範囲であることからしても,存在そのものをすべからく明らかにできないというものではない。
(イ)不開示情報に該当しないこと
管理簿には審査請求書で述べたとおり,①名称,②利用に供される事務をつかさどる係の名称,③利用の目的,④記録される項目,⑤本人として記録される個人の範囲,⑥記録される個人情報の収集方法,⑦記録される個人情報の経常的提供先,⑧保有開始年月日,⑨保存場所,⑩備考の各記載欄で構成されていることが,一部開示された管理簿から確認できる。
諮問庁は,「行個法10条2項1号又は2号に係るものの各記載欄については,法5条3号又は4号に該当することから,これを不開示とした」と主張している。しかしながら,前述のとおり,行個法10条2項1号及び2号は,形式的な要件を定め,その実質的な秘匿性まで要件としていないため,これを理由に法5条3号又は4号の該当性を主張することは誤りである。
また,諮問庁は,本件不開示部分には「警察庁が国の安全や犯罪捜査等のために,どのような個人情報をいつからどのように収集しているか等が明らかとなれば,国の安全が害され,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある」と主張している。例えば,誰の情報を収集しているかを,本件不開示情報を公にすることで明らかになるならば,諮問庁が主張するような支障を招くおそれがあることは否定しない。しかし,管理簿はそのような情報を記載するものではなく,収集している個人情報の項目・範囲・収集方法・経常的提供先についてもすべからく明らかにできないものではない。また,保有開始年月日も,事務としての保有開始年月日であり,そこに含まれている各個人情報の保有開始年月日ではない。特に管理簿記載の名称は,法令の定める所掌事務の遂行に範囲で保有されている個人情報ファイルであるため,すべからく明らかにできないものではなく,諮問庁の主張するような支障は生じない。
第3 | 諮問庁の説明の要旨 |
1 経緯
本件開示請求は,「行政機関個人情報保護法10条2項1号,2号,11号に該当するとして個人情報ファイルの作成義務の例外とされている個人情報ファイルの数,個人情報ファイルのファイルの名称,含まれる個人情報の概要のわかるもの」(以下「本件請求文書」という。)の開示を求めるものであり,本件対象文書を特定し,原処分を行った。
2 原処分について
管理簿は,警察庁における個人情報の管理に関する訓令(平成17年警察庁訓令第2号)の規定に基づき,警察庁の各課において,当該課の保有する個人情報ファイルごとに作成し,保管しているものである。
管理簿には,個人情報ファイルの名称,利用に供される事務をつかさどる係の名称,利用の目的,記録される項目,本人として記録される個人の範囲,記録される個人情報の収集方法,記録される個人情報の経常的提供先,保有開始の年月日,保存場所等が記載されていることから,本件請求文書に該当する文書として特定した。
また,管理簿のうち,行個法10条2項1号又は2号に係るものの各記載欄については,法5条3号又は4号に該当することから,これを不開示とした。
3 審査請求人の主張について
審査請求人は,個人情報ファイルの名称,記録される項目及び保有開始年月日については,これを明らかにしたとしても個人情報を収集していること以上のことは明らかにならないことから,法5条3号又は4号に規定する不開示理由に該当しないなどとして,原処分は法の解釈,運用を誤ったものであると主張する。
4 原処分の妥当性について
法5条3号は,「公にすることにより,国の安全が害されるおそれ,他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報とし,同条4号は,「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報として規定している。
原処分においてその一部を不開示とした管理簿の不開示部分の内容について,個人情報ファイルの名称,記録される項目,保有開始年月日その他の各記載事項を公にし,警察庁が国の安全や犯罪捜査等のために,どのような個人情報をいつからどのようにして収集しているか等が明らかとなれば,国の安全が害され,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある。
よって,原処分に係る不開示情報は,法5条3号又は4号に該当すると判断される。
5 結語
以上のとおり,原処分は妥当なものであると認められることから,諮問庁としては,本件について原処分維持が適当と考える。
第4 | 調査審議の経過 |
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成29年1月4日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同月20日 審議
④ 同年2月9日 審査請求人から意見書を収受
⑤ 同年6月20日 本件対象文書の見分及び審議
⑥ 同年7月26日 審議
⑦ 同年9月1日 審議
第5 | 審査会の判断の理由 |
1 本件対象文書について
本件対象文書は,行個法10条2項1号,2号及び11号に該当するとして,総務大臣への事前通知の例外とされている個人情報ファイルの管理簿である。管理簿は,警察庁における個人情報の管理に関する訓令(平成17年3月25日付け警察庁訓令第2号)の規定に基づき,警察庁の各課において,個人情報ファイルごとに作成し,保管しているものである。
審査請求人は,原処分の取消しを求めており,諮問庁は,管理簿(本件対象文書)の一部が法5条3号及び4号に該当するとして不開示とした原処分を妥当としている。
以下,本件対象文書の見分結果に基づき,本件対象文書の不開示情報該当性について検討する。
2 不開示情報該当性について
(1)管理簿は,いずれも,①名称,②利用に供される事務をつかさどる係の名称,③利用の目的,④記録される項目,⑤本人として記録される個人の範囲,⑥記録される個人情報の収集方法,⑦記録される個人情報の経常的提供先,⑧保有開始の年月日,⑨保存場所及び⑩備考の記載項目から構成されている。
(2)管理簿のうち,行個法10条2項1号又は2号に該当する個人情報ファイルの管理簿(以下「本件管理簿」という。)には,「国の安全,外交上の秘密その他の国の重大な利益に関する事項を記録する個人情報ファイル」及び「犯罪の捜査,租税に関する法律の規定に基づく犯則事件の調査又は公訴の提起若しくは維持のために作成し,又は取得する個人情報ファイル」の内容に関する情報が記載されており,各記載項目の全ての記載内容が不開示とされている。
(3)当該部分の不開示情報該当性について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,以下のとおりであった。
ア 処分庁において,行個法10条2項1号又は2号に該当するいかなる個人情報ファイルを作成するかについての判断は,治安情勢や犯罪情勢等を反映して,警察の捜査手法や情報関心に基づいて行われるものである。
イ 本件管理簿は,各項目の記載内容を一部でも公にすれば,警察庁において,いつ,どの部署が,どのような個人情報を,どのようなカテゴリーに分けて,収集・保有・活用しているかを推察し,今後の警察の捜査方針,捜査手法及び警察活動の実態等を推し量ることが可能となり,犯罪行為を意図する者あるいは反社会的勢力が,身分を偽装したり,犯罪の手口を変更し,又は警察の情報収集活動を妨害するなどの対抗措置を講じることを容易ならしめるなど,警察業務に支障を及ぼすおそれがある。
ウ したがって,当該部分は,これを公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認められる。
(4)諮問庁の上記説明を踏まえると,本件管理簿の各項目の記載内容を一部でも公にすれば,公表されている他の情報と併せてその他の記載内容が容易に推察されることとなり,犯罪の予防,鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由があると認められるので,法5条4号に該当し,同条3号について判断するまでもなく,本件管理簿の全ての項目の記載内容を不開示としたことは妥当である。
3 審査請求人のその他の主張について
審査請求人のその他の主張は,当審査会の上記判断を左右するものではない。
4 本件一部開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,その一部を法5条3号及び4号に該当するとして不開示とした決定については,不開示とされた部分は,同号に該当すると認められるので,同条3号について判断するまでもなく,妥当であると判断した。
(第2部会) |
委員 白井玲子,委員 池田綾子,委員 中川丈久