諮問庁 | : | 内閣法制局長官 |
諮問日 | : | 平成28年10月31日(平成28年(行情)諮問第657号) |
答申日 | : | 平成29年 2月 9日(平成28年度(行情)答申第722号) |
事件名 | : | 「集団的自衛権」に関する閣議決定に至るまでの内閣法制局長官と国会議員との間の調整等の内容が分かる文書等の不開示決定(不存在)に関する件 |
第1 | 審査会の結論 |
「いわゆる「集団的自衛権」に関する閣議決定に至るまでの,内閣法制局長官と国会議員との間の調整,協議,説明,連絡,打ち合わせないしこれに類するものの内容のわかるものとその際の資料」(以下「本件対象文書」という。)につき,これを保有していないとして不開示とした決定は,妥当である。
第2 | 審査請求人の主張の要旨 |
1 審査請求の趣旨
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成28年8月15日付け内閣法制局一第29号により内閣法制局長官(以下「処分庁」,「諮問庁」又は「長官」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。
2 審査請求の理由
(1)審査請求書
ア 審査請求人は,2016年7月22付けで,処分庁に対し法に基づき「いわゆる「集団的自衛権」に関する閣議決定に至るまでの,内閣法制局長官と国会議員との間の調整,協議,説明,連絡,打ち合わせないしこれに類するものの内容のわかるものとその際の資料」の開示を請求した。
イ 処分庁は,2016年8月15日付けで,「いわゆる「集団的自衛権」に関する閣議決定に至るまでの,内閣法制局長官と国会議員との間の調整,協議,説明,連絡,打ち合わせないしこれに類するものの内容のわかるものとその際の資料」を不開示とする決定(原処分)を行った。
ウ 原処分の理由として,以下の記載があった。
「開示請求に係る行政文書を保有していないため。」
エ これは,以下のことから原処分は妥当ではない。
報道等によると,いわゆる「集団的自衛権」に関する閣議決定に至るまでに,長官が与党国会議員と会い協議をしているとされている。報道では非公式協議ともされているが,会合として非公式であったとしてもそこで話し合われた事項,決められた方針等について何ら記録が残されていないというのは,極めて不自然である。また,会合を受けて内閣法制局内部で何らかの指示などが行われていなければ,組織的対応ができないため,少なくともその会合の内容の一部については,「議事録」や「議事の記録」ではなくとも,何らかの記録が残されているべきものなのである。本開示請求は,「議事録」や「議事の記録」を求めているのではなく,会合等の内容のわかるものを求めているものであり,その一部が記録されているものが特定されるべきであるから,処分庁の不存在との決定は,文書の特定を十分に行ったものとは言えない。
オ 以上のとおり,原処分は情報公開法の解釈,運用を誤ったものである。よって,その取消しを求めるため,平成28年10月5日付けで審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った。
(2)意見書
本件開示請求は「いわゆる「集団的自衛権」に関する閣議決定に至るまでの,内閣法制局長官と国会議員との間の調整,協議,説明,連絡,打ち合わせないしこれに類するものの内容のわかるものとその際の資料」を請求対象情報と特定して行ったものである。
2014年7月1日の閣議決定「国の存立を全うし,国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」は,憲法解釈の変更をめぐる問題として様々な議論を呼び,閣議決定がなされるまでには,従来の憲法解釈との関係が政府内のみならず政権与党もまみえて検討がされている。
新聞では,「与党関係者によると横畠裕介長官は高村正彦・自民党副総裁らと事前に非公式に面会し,憲法解釈の変更に合意していたという。」(特定新聞A2015年10月16日記事),「閣議決定の内容は,安倍晋三首相が設置した有識者懇談会が昨年5月に行使容認の報告書を提出した後,与党協議会で練り上げられた。与党関係者は,横畠裕介長官の役割について「閣議決定の原案作成を主導した一人だ」と指摘する。横畠氏は,与党協議会座長の高村正彦自民党副総裁と座長代理の北側一雄公明党副代表らと非公式協議を重ねていた。」(特定新聞B2015年9月29日記事)と報道された。
集団的自衛権の容認という重大な政策判断については,どのような経緯を経て閣議決定に至ったのかについては,内閣法制局内部での協議検討だけでなく,内閣法制局も含む各行政機関,高度な政治的な協議・検討・判断が必要であり,長官はその過程に関与する立場である。報道されているように,与党政治家との面会があり,行政機関の長として一定の見解等を示す,何らかの説明を行っているならば,その状況,内容についてはその後の対応に備えるなどの必要性から,何等か記録が作成されていると考えるのが自然である。
また,公文書等の管理に関する法律4条は,「行政機関の職員は,第1条の目的の達成に資するため,当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け,又は検証することができるよう,処理に係る事案が軽微なものである場合を除き,次に掲げる事項その他の事項について,文書を作成しなければならない。」と定めており,集団的自衛権の容認という重大な事項については,内閣法制局内のみならず,それも含めた経緯を意思決定に至る過程についての文書の作成を義務付けられ,長官もその義務の例外ではない。
諮問庁は,「長官は,国会議員からの求めに応じて,参考のために憲法についての従来の考え方について口頭で説明を行ったことはあるものの,与党間の協議内容について記録すべき立場になかったものであり,私的なメモも含めて記録は作成していない」と主張している。しかしながら,最終的には,与党の決定ではなく内閣による閣議決定を行う案件であるものであり,その過程で与党の理解を得ることが閣議決定を行うために必要なものとして説明等を行ったというべきものであり,与党間の協議内容についても意思決定過程として文書を作成する義務があるのは明らかである。
したがって,法令を遵守していたのであれば,何等かの記録が作成されているべきであり,諮問庁の本件請求対象情報を不存在とする判断は誤っており,取り消されるべきである。
なお,諮問庁は,「長官は,国会議員からの求めに応じて,参考のために憲法についての従来の考え方について口頭で説明を行ったことはある」としているが,この主張を裏付ける事実が何もなく,「自称」あるいは「そういうことになっている」という以上に根拠のないものである。説明等を行っただけであることが,どのように内閣法制局において確認をされ,根拠づけられているのかの説明は立証もなく,漫然とそうであったとするだけでは,不十分なのは言うまでもない。十分な根拠の提示を求める。
第3 | 諮問庁の説明の要旨 |
審査請求人は,本件審査請求を行い,原処分の取消しを求めている。審査請求人は,「報道等によると,いわゆる「集団的自衛権」に関する閣議決定に至るまでに,長官が与党国会議員と会い協議をしているとされている。」とした上で,「会合として非公式であったとしてもそこで話し合われた事項,決められた方針等について何ら記録が残されていないというのは,極めて不自然」,「「議事録」や「議事の記録」ではなくとも,何らかの記録が残されているべきもの」等と主張するが,審査請求人が主張する「協議」の実質はあくまでも与党間で行われた協議であって,長官は,国会議員からの求めに応じて,参考のために憲法についての従来の考え方について口頭で説明を行ったことはあるものの,与党間の協議の内容について記録すべき立場にはなかったものであり,私的なメモを含めて記録は作成していない。したがって,内閣法制局においては,同年7月22日付けの審査請求人による開示請求に係る行政文書を保有しておらず,本件審査請求には理由がない。【参考】(略)
第4 | 調査審議の経過 |
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① 平成28年10月31日 諮問の受理
② 同日 諮問庁から理由説明書を収受
③ 同年12月2日 審査請求人から意見書を収受
④ 平成29年1月13日 審議
⑤ 同月30日 審議
⑥ 同年2月7日 審議
第5 | 審査会の判断の理由 |
1 本件対象文書について
本件対象文書は,「いわゆる「集団的自衛権」に関する閣議決定に至るまでの,内閣法制局長官と国会議員との間の調整,協議,説明,連絡,打ち合わせないしこれらに類するものの内容のわかるものとその際の資料」である。
処分庁は,本件対象文書を保有していないとして不開示とする原処分を行った。
これに対し,審査請求人は,原処分の取消しを求めているが,諮問庁は,原処分を妥当であるとしていることから,以下,原処分の妥当性について検討する。
2 原処分の妥当性について
(1)本件対象文書の保有の有無について,理由説明書(上記第3)及び当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させた結果によれば,諮問庁は以下のとおり説明する。
ア 「いわゆる「集団的自衛権」に関する閣議決定に至るまでの,内閣法制局長官と国会議員との間の調整,協議,説明,連絡,打ち合わせないしこれに類するもの」に該当するものとしては,審査請求人が審査請求書等において言及している自民党副総裁,公明党副代表等の非公式会合に長官が要請を受けて出席(長官一人が出席)したもののみであるところ,当該非公式会合は,平成26年5月20日に開始された安全保障法制整備に関する与党協議会における協議の一環として行われたものである。
イ 長官は,この会合に出席した際,求めに応じて,参考のために憲法についての従来の考え方について口頭で説明を行ったことはあるが,当該説明内容も含め,与党の議員間で行われている協議の内容について記録を残す立場にないと判断し,私的なメモを含めて記録を作成しなかったものである。
その外,当該会合の記録,配布資料等,審査請求人が開示を求めている当該会合の「内容のわかるものとその際の資料」に該当する文書は,内閣法制局において作成等していない。
(2)上記(1)の諮問庁の説明のうち,本件対象文書に係る会合の特定と当該会合の性格が上記(1)アのようなものであったことについては,これを覆すに足りる事情はないところ,審査請求人は,上記の会合に係る新聞記事を引用した上で,長官が行政機関の長として一定の見解等を示す,何らかの説明を行っているならば,その状況,内容についてはその後の対応に備えるなどの必要性から,何らか記録が作成されていると考えるのが自然であり,また,最終的には,内閣による閣議決定を行う案件であり,その過程で与党の理解を得ることが閣議決定を行うために必要なものとして説明等を行ったというべきものであり,与党間の協議内容についても意思決定過程として文書を作成する義務があるなどと主張する。
しかしながら,一般的には,行政機関において,閣議決定に関連した国会議員との間の調整,協議,説明,連絡,打合せ等について記録が作成されることはあり得ると考えられるとはいえ,本件において,長官が出席した上記の非公式会合が与党の議員間で行われている協議であったこと等を考慮すると,長官が私的なメモを含めてその記録を作成しなかったことが,不自然,不合理であるとまではいえない。
その外,審査請求人が開示を求めている当該会合の「内容のわかるものとその際の資料」に該当する文書を内閣法制局において作成等したと認めるに足りる事情も見当たらない。
(3)また,本件対象文書の探索の方法及び範囲について,当審査会事務局職員をして諮問庁に確認させたところ,長官本人に確認するとともに,内閣法制局の書庫,事務室及びパソコンの共用フォルダ内を探索したとのことであり,探索の方法及び範囲に特段問題があるとは認められない。
(4)その外,審査請求人からも,本件対象文書が存在することについての具体的な根拠は示されていないことから,上記(1)イの諮問庁の説明は首肯せざるを得ない。
3 審査請求人のその他の主張について
審査請求人は,その他種々主張するが,いずれも当審査会の上記判断を左右するものではない。
4 本件不開示決定の妥当性について
以上のことから,本件対象文書につき,これを保有していないとして不開示とした決定については,内閣法制局において本件対象文書を保有しているとは認められず,妥当であると判断した。
(第1部会) |
委員 岡田雄一,委員 池田陽子,委員 下井康史