特定団体又は個人に対する視察結果報告書等(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を答えるだけで不開示情報を開示することとなるとして,開示請求を拒否した本件不開示決定は,妥当である。
本件異議申立ての趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条に基づく本件対象文書の開示請求に対し,平成13年6月21日付け警察庁甲情公発第166―1号により警察庁長官が行った不開示決定について,その取消しを求めるというものである。
異議申立人の主張する異議申立ての主たる理由は,異議申立書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。
本件開示請求をしたのは,もともと異議申立人に対する視察そのものに正当性がないと判断したことによるものである。本件特定団体は,危険性の全くない団体であり,当該団体の中心人物でもない単なる末端会員である異議申立人は,過去,現在,将来において危険性等一つもなく,視察される理由はどこにもないはずである。
異議申立人の受けている視察は,正当な理由のある視察ではなく,近所トラブルから派生した私的な怨恨,すなわち私怨を晴らすためのねつ造視察の不正行為の可能性がある。本件視察の実態は,報復と言うにふさわしい脅しと嫌がらせがすべてであり,上記のとおりの疑惑の念は打ち消し難く,不正か否かの確認をとるため本件開示請求に及んだ。
本件のような人権侵害かつ危険である視察行為の停止を依頼し,生命,健康,生活又は財産を保護するための公開要請であり,法5条1号ただし書ロに該当すると考える。また,公開による異議申立人の権利,利益の損害はなく,むしろ,公開されないことによる権利侵害の方がはるかに大きいと考える。
本件対象文書は,特定の団体又は個人に対する警察の情報収集活動に係る行政文書と言うことができる。このような行政文書には,当然のこととして,特定の団体名や個人名に関する情報が含まれているほか,警察の情報収集の着眼点や手法等に関する情報も記載されていることとなる。
特定の団体が警察の情報収集活動の対象とされているか否かは,当該団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報である上に,法5条2号ただし書にも該当しないことから,同号の不開示情報に該当することは明らかである。
また,特定の個人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かは,個人の名誉や信用に直接かかわる個人に関する情報であり,当該個人を識別することができる情報である上に,法5条1号ただし書のいずれにも該当しないことから,同号の不開示情報に該当することは明らかである。
特定の団体又は個人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かは,警察の情報収集活動の方針,対象,関心事項等に関する情報であり,これが明らかになることによって,警察の情報収集活動の実態が露呈されることとなり,犯罪行為を企図している者等において各種活動を潜在化,巧妙化させるなど防衛措置を講じられ,犯罪の予防,鎮圧又は捜査等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報と認められることから,法5条4号に該当すると判断したものである。
本件開示請求のように団体又は個人を特定して,警察の情報収集活動に係る行政文書について開示請求が行なわれた場合は,本件対象文書の存否を答えるだけで,特定の団体又は個人に対して警察が情報収集活動を行なっているか否かの事実が明らかとなり,法5条1号又は2号に規定する不開示情報を開示することとなる。
また,本件対象文書の存否を答えるだけで,特定の団体又は個人が警察の情報収集活動の対象となっているか否かの事実が明らかとなり,警察の情報収集活動の実態が露呈されることとなり,犯罪の予防,鎮圧又は捜査等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条4号に規定する不開示情報をも開示することとなる。
さらに,公益上特に必要があると認められる場合など当該情報を開示すべき他の理由は存しないと考えられることから,本件開示請求に対しては,法8条の規定に基づいて行った本件不開示決定(存否応答拒否)は妥当である。
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
① | 平成14年2月8日 | 諮問の受理
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② | 同日 | 諮問庁から理由説明書を収受
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③ | 同年3月5日 | 異議申立人から意見書を収受
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④ | 同月15日 | 審議
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本件対象文書は,もし仮に存在するとすれば,特定の団体又は個人に対する警察の情報収集活動に係る行政文書であり,その内容は,一般的に,特定の団体名や個人名に関する情報が含まれているほか,警察の情報収集活動の方針,対象,関心事項,着眼点及び手法等に関する情報が記載されているものと思われる。
したがって,本件対象文書の存否を明らかにするだけで,特定の団体又は個人が警察の情報収集活動の対象となっているか否かの事実が明らかとなるのみならず,警察の情報収集活動の実態が明らかになると認められる。
法5条2号は,法人その他の団体に関する情報であって,公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの,また,同条1号は,個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるものをそれぞれ不開示情報として規定している。
ところで,特定の団体が警察の情報収集活動の対象とされているか否かは,当該団体の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報である上に,法5条2号ただし書にも該当しないことから,同号の不開示情報に該当すると認められる。
また,特定の個人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かは,個人の名誉や信用に直接かかわる個人に関する情報であり,当該個人を識別することができる情報である上に,法5条1号ただし書のいずれにも該当しないことから,同号の不開示情報に該当すると認められる。
法5条4号は,公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報については不開示情報として規定している。
特定の団体又は個人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かは,警察の情報収集活動の方針,対象,関心事項等に関する情報であり,これが明らかになることによって,警察の情報収集活動の実態が露呈されることとなり,犯罪行為を企図している者等において各種活動を潜在化,巧妙化させるなど防衛措置を講じられ,犯罪の予防,鎮圧又は捜査等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報と認められることから,法5条4号に該当すると認められる。
法8条は,開示請求に対し,当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで,法5条各号の不開示情報を開示することとなるときは,行政機関の長は,当該行政文書の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否することができる旨規定している。
本件開示請求のように団体又は個人を特定して,警察の情報収集活動に係る行政文書について開示請求が行なわれた場合は,本件対象文書の存否を答えるだけで,特定の団体又は個人に対して警察が情報収集活動を行なっているか否かの事実が明らかとなり,法5条1号又は2号に規定する不開示情報を開示することとなると認められる。
また,本件対象文書の存否を答えるだけで,特定の団体又は個人が警察の情報収集活動の対象となっているか否かの事実が明らかとなるのみならず,警察の情報収集活動の実態が露呈されることとなり,犯罪の予防,鎮圧又は捜査等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあることから,法5条4号に規定する不開示情報も開示することとなると認められる。
さらに,公益上特に必要があると認められる場合など当該情報を開示すべき他の理由は存しないと考えられることから,本件開示請求に対しては,法8条の規定に基づいて行った本件不開示決定(存否応答拒否)処分は妥当であると認められる。
以上のことから,本件対象文書の存否を答えるだけで,法5条1号,2号及び4号に規定する不開示情報を開示することとなり,また,他に当該情報を開示すべき理由は存しないので,法8条の規定に基づいて行った本件不開示決定は妥当であると認められる。よって,上記第1記載の審査会の結論のとおり判断した。
吉村德則,住田裕子,戸松秀典