答申本文
諮問庁 | : | 国税庁長官 |
諮問日 | : | 平成15年 9月 8日 (平成15年(行情)諮問第744号) |
答申日 | : | 平成16年 2月27日 (平成15年度(行情)答申第641号) |
事件名 | : | 税務署で収入印紙を取り扱わないことを説明するために特定職員が見せた文書の不開示決定(行政文書非該当)に関する件 |
答 申 書
神奈川税務署の特定職員が収入印紙を税務署で取り扱わないことを説明するために見せた文書(以下「本件対象文書」という。)について,行政文書に該当しないため不存在を理由に不開示とした決定は,妥当である。
本件審査請求の趣旨は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく,本件対象文書の開示請求に対し,平成14年10月4日付け神奈総総第240号により神奈川税務署長(以下「処分庁」という。)が行った不開示決定について,これを取り消し,本件対象文書の開示を求めるというものである。
審査請求人の主張する審査請求の理由は,審査請求書及び意見書の記載によると,おおむね以下のとおりである。
審査請求人は,神奈川税務署で納税証明書の発行を求めた。そのために収入印紙が必要であるが,税務署では取り扱っておらず,150メートル離れたコンビニエンスストアに買いに行くように言われた。
税務署で「収入印紙を扱えない」ということを特定職員は,文書を見ながら説明した。審査請求人は,もっと詳しく知りたく,同職員に文書のコピーを提供することを要望したところ,拒否されたので開示請求をした。同職員が説明に使った文書は,単独で作成したものかどうかは,いざ知らず,専ら自己の職務の遂行ために利用されている公文書(いわゆる「組織共用文書」)と考えざるを得ない。にもかかわらず「行政文書」に該当しないとして不開示としたのは違法行為である。よって不開示処分を取り消し,開示を求めるものである。
なお,諮問庁は「本件開示請求がなされるまで,当該職員の上司及び部下職員も本件メモがあることすら知らなかった。」とするが信用することはできない。受付の職員二人は少なくとも知っており,当該職員が国税庁の指導を受けて作成したものと推察される。
諮問庁の理由説明書によれば,「納税者から質問を受ける機会が多かったことから」とあり,神奈川税務署のみならず,収入印紙を取り扱っていない税務署においては,同じような質問が多くの納税者から出されていることが推察される。つまり,神奈川税務署の特定職員だけではなく,他の税務署の職員も同趣旨の「メモ」を作成しているであろうことがうかがわれるのである。
以上から,当該職員が作成した「メモ」は自己研鑽のための研究資料,備忘録等ではなく公務(職務)遂行上,必要があって作成したものであり,公文書に該当する。
法27条3項に基づき,諮問庁に対し「開示決定等に記録されている情報の内容を審査会の指定する方法により分類又は整理した資料を作成し審査会に提出する」よう求めていただきたい。
「審査会の指定する方法」を決定する際,神奈川税務署以外で,同様の文書を作成していないかどうか確かめるようにしていただきたい。
本件開示請求は,税務署の特定の職員が,収入印紙に関して税務署で扱えないことを説明した際に,開示請求者に見せた文書の開示を求めるものである。
処分庁において,請求された文書は,法2条2項にいう「行政文書」に該当しないものとして不開示決定を行っている。
法2条2項において「行政文書」とは,行政機関の職員が作成し,又は取得した文書,図面及び電磁的記録であって,当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして,当該行政機関が保有しているものとされている。
ここで「組織的に用いる」とは,作成又は取得に関与した職員個人段階のものではなく,組織としての共用文書の実質を備えた状態,すなわち,当該行政機関において,業務上必要なものとして利用又は保存されている状態のものを意味するとされている。
したがって,職員が単独で作成し,又は取得した文書であって,専ら自己の職務の遂行の便宜のためにのみ使用し,組織としての利用を予定していないもの(自己研鑽のための研究資料,備忘録等)などは,組織的に用いるものには該当しない。
また,作成又は取得された文書が,どのような状態にあれば組織的に用いるものと言えるかについては,①文書の作成又は取得の状況(職員の個人の便宜のためにのみ取得するものであるかどうか,直接的又は間接的に当該行政機関の長等の管理監督者の指示等の関与があったものであるかどうか),②当該文書の利用の状況(業務上必要として他の職員又は部外に配布されたものであるかどうか,他の職員がその職務上利用しているものであるかどうか),③保存又は廃棄の状況(専ら当該職員の判断で処理できる性質の文書であるかどうか,組織として管理している職員共有の保存場所で保存されているものであるかどうか)などを総合的に考慮して実質的な判断を行うこととなるとされている(詳解情報公開法参照)。
開示請求の対象となる行政文書については,以上のようなものであるところ,本件対象文書の行政文書該当性について検討する。
当該職員は,税務署総務課に勤務しており,窓口における納税者への対応も行っていたところ,税務署が納税証明の交付申請等に必要な収入印紙を取り扱っていないことについては,納税者から質問を受ける機会が多かったことから,当該職員は,質問に回答する際に備え,法律上の根拠などを失念しないように,「印紙をもってする歳入金納付に関する法律」の名称などを簡単に手書きしたメモを作成していたものと認められる。
なお,当該職員は,窓口対応時において,常に本件メモを携行・使用していたものではなく,納税者からの質問の内容等に応じ,適宜利用していたものと認められる。
本件メモは,罫紙1枚に手書きで記載されており,当該職員が単独で作成したものと認められ,また,上記のような利用状況から,専ら当該職員の職務の遂行の便宜のために適宜使用している備忘的なものと認められる。
また,本件対象文書は,当該職員の事務机の下に置かれている机下収蔵箱の中に保管されており,他の職員又は部外に配布されるものでもなく,当該職員だけが利用しているものであり,また,他の職員が職務上利用するものでもないものと認められる。
さらには,本件開示請求がなされるまで,当該職員の上司及び部下職員も本件メモがあることすら知らなかったものと認められる。
このように本件メモの作成,利用,保管状況等を判断するに,本件メモが,法2条2項に規定する行政文書に該当しないことは明らかである。
当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。
④ |
平成16年2月12日
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諮問庁の職員(国税庁長官官房総務課情報公開室長ほか)から口頭説明の聴取
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本件開示請求は,神奈川税務署の特定職員が収入印紙を税務署で取り扱わないことを説明するために審査請求人に見せたとされる文書の開示を求めるものであり,処分庁は,当該文書を行政文書に該当しないものとして,不存在を理由に不開示決定を行ったものである。
本件対象文書は,当該職員が所持していた文書であるが,当審査会において,諮問庁より,同庁が本件審査請求を受けた際に,当該職員より入手した当該文書の写しの提示を受け,これを確認したところによれば,本件対象文書は,1枚の罫紙に「印紙をもってする歳入金納付に関する法律」の名称とともに,数行の語句が手書きで記載されているが,その記載の趣旨とするところは,それらのみでは必ずしも明らかではなく,作成者本人が自らの知識や記憶と合わせてはじめて用をなすものであると認められる。
諮問庁は,本件対象文書は,特定職員が単独で当該職員のみが使用するメモとして作成したものであり,当該職員個人が管理する机下収蔵箱に保管し,苦情の内容に応じて,窓口に適宜携行していたと説明しているが,本件対象文書の記載内容からすると,諮問庁の本件対象文書の取扱いについての説明が不自然と言うことはできず,本件対象文書は,これを作成した当該職員が自ら使用する場合にのみ意味を持つ性質の文書であると認められ,また,他の職員が使用していたものと認めることはできない。
このような本件対象文書の内容及び使用等の状況からすると,本件対象文書は,メモとして作成された個人の資料であって,これを組織として用いるために作成され,組織的に共用している文書と言うことはできず,神奈川税務署における行政文書に該当すると認めることはできない。
審査請求人は,当審査会が法27条3項に基づく資料の提出を求めるべきである等の主張をしているが,いずれも採用できないものである。
本件対象文書につき,行政文書に該当しないため不存在を理由に不開示とした決定は,妥当である。
清水湛,饗庭孝典,小早川光郎