諮問庁 公安調査庁長官
諮問日 平成28年 2月10日(平成28年(行情)諮問第131号)
答申日 平成28年 9月14日(平成28年度(行情)答申第318号)
事件名 特定月に特定国に出張した記録等の不開示決定(存否応答拒否)に関する件

答 申 書

第1  審査会の結論

「2012年4月・5月に特定国A・特定国B・特定国Cに出張した記録,現地で活動した記録」(以下「本件対象文書」という。)につき,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は,妥当である。


第2  異議申立人の主張の要旨

1 異議申立ての趣旨

行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という。)3条の規定に基づく開示請求に対し,平成27年11月20日付け公調総発第377号により公安調査庁長官(以下「処分庁」又は「諮問庁」という。)が行った不開示決定(以下「原処分」という。)について,その取消しを求める。


2 異議申立ての理由

(1)異議申立書

本開示請求は2015年10月の時点で,3年以上も前の2012年4月・5月に海外出張が行われたかどうかをチェックするものである。この種の情報は時間の経過とともに価値が低減しているはずで,なぜ3年以上も前に特定国A・特定国B・特定国Cに出張したか否かを答えるだけで,国の安全が害されたり,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼしたり,国の事業に支障を及ぼすおそれがあると処分庁が考えているのか理解不能である。

処分庁が主張する法5条3号,4号及び6号柱書きの該当性はいずれも認められず,法8条を適用することはできない。

添付の参考資料(略)A1からA6のとおり,異議申立人は全く同じ内容の開示請求を厚生労働省,警察庁,法務省,文部科学省,国立精神・神経医療研究センター,国立国際医療研究センターにしている。いずれも外国とのやりとりをしている省庁及び独立行政法人であるが,すべて存否応答拒否ではなく,文章の不存在を理由とした不開示決定がされていることから,法5条のいずれの号にも該当しておらず,対象文章の存否を応答するだけでは不開示情報を開示することになるとは考えられないのである。

例えば警察庁も処分庁と同じように公共の安全を確保するため外国との情報交換も含めた様々な調査活動を行っており,その調査対象は同庁の活動に対して種々の対抗措置を講じているものと推測されるが,警察庁ホームページからダウンロードした添付資料B(略)全体に,海外とのやり取りがあることや,いつ・どこで・何をしたかが詳細に記述されている。外国と秘密にする約束の下で行われた,添付資料B(略)に記載されていない活動があるかもしれないが,ある場合でも,ない場合でも,異議申立人が行った開示請求は適正に処理されており,処分庁のみが特別に存否応答拒否をすることは許されない。

添付資料C(略)は,防衛大臣が行った「外国政府に対する秘密の提供に係る受領書等の不開示決定に関する件」に対して行われた異議申立てへの答申書である。この件においても,法8条の適応はせずに,外国との秘密の交換をした旨が記載された文章が存在することを明らかにしている。また,秘密の内容や時期,相手方の国名,防衛省職員の氏名を明らかにしなければ,外国との信頼関係は損なわれないし,防衛省の効果的な任務の遂行に支障は生じず,国の安全が害されることはないものとして,文章が取り扱われている。繰り返しになるが,処分庁の文章のみが特別に法8条を根拠に保護されるという主張は認められない。

異議申立人が信じられないのは,処分庁が海外出張に行くこと自体を秘密にしようと考えていることである。処分庁のホームページには,海外出張を伴う業務があることを前提に職員を募集している箇所があることや,外務省発表の旅券統計上,平成22年1月から12月までの間に,28,124冊の公用旅券が発行されており,この中に処分庁が使うために発行された旅券が1冊も無いとは到底考えられないことから,処分庁が海外出張をする組織であることは公知の情報ということができる。本開示請求に対して法8条の適用をすることは,その公知の部分を含めて秘密にしようとするものである。また,もしも海外出張をしたのであれば,航空券はエコノミークラスかファーストクラスか,ホテル代にいくらかかったかなど,税金の無駄遣いがないか,国民の的確な理解と批判の下に晒されるべき情報までが隠れてしまうことになる。

加えて,NSAやBNDが他人のメールを読む,電話を盗聴する,CIAが外国のブラックサイトで拷問をするといった,ナショナルセキュリティーを理由に権力が暴走するケースを幾度となく見てきた。他にも,どこかの職員が会社の金を私的に流用して海外旅行をしたり,ODA関連の贈賄などといった事件も特に珍しい話ではない。これは一般的に,海外での活動は国民の目が届きにくいことに起因するものであると考えられる。上記の例のような不法行為を行った旨が記載された文章も当然に存在しうるが,仮にその文章が開示請求の対象となった場合は,法5条及び8条は関係なくなり,明るみに出るのであるから,情報開示請求にはこうした不法行為が隠蔽されることの無いようにしたり,行政が適正に運営されているかを監視する役割もあるのである。

以上のことから,本件に対する不開示決定を取り消すよう求める。


(2)意見書

異議申立人は異議申立書(上記(1))において,法の役割,すなわち,税金の無駄遣いや不法行為を行った旨が記載された文章が隠蔽されることのないようにする機能について主張したが,その点を処分庁がどのように考えているか説明がなされていない。


第3  諮問庁の説明の要旨

処分庁による法に基づく不開示決定処分(原処分)に対する異議申立て(平成28年1月18日受付。以下「本件異議申立て」という。)については,下記の理由により,原処分維持が適当であると考える。

1 本件異議申立てに至るまでの経緯について

平成27年10月23日,異議申立人から,処分庁に対し,本件対象文書について,行政文書の開示請求が行われた(10月26日受付。以下「本件開示請求」という。)。

本件開示請求を受け,処分庁は,開示・不開示の検討を進めた結果,法8条に基づき,11月20日,同文書の存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否する原処分を行い,同日付け「行政文書不開示決定通知書」により,異議申立人に通知した。

これに対して異議申立人は,処分庁に対し,平成28年1月17日付け異議申立書を提出(1月18日受付)し,原処分の取消しを求める本件異議申立てを提起したものである。


2 本件開示請求に係る行政文書の不開示(存否応答拒否)理由について

(1)本件開示請求に係る行政文書の性質について

開示請求書に記載された請求する行政文書の名称等には,「2012年4月・5月に特定国A・特定国B・特定国Cに出張した記録,現地で活動した記録」と記載されており,その趣旨を合理的に解釈すれば,公安調査庁が作成・取得した行政文書であって,同庁の職員が2012(平成24)年4月及び5月に特定国A,特定国B,特定国Cへ出張した事実が記載されている行政文書一切及びこれらの国における同庁の職員の活動内容が記載されている行政文書一切であるものと解される。したがって,本件開示請求に係る行政文書は,公安調査庁の職員が,特定時期に特定国へ出張し,当該国において活動しなければ存在しないものであることから,その存否について答えることは,同庁の職員が特定時期に特定国へ出張し,当該国において活動した事実の存否を明らかにする情報といえる。


(2)本件不開示(存否応答拒否)理由について

本件異議申立てに係る原処分における不開示(存否応答拒否)理由は,「当庁は,公共の安全を確保するため,外国との情報交換も含めた様々な調査活動を行っており,そのような外国との情報交換は,その実施の有無及び内容を明らかにしないとの約束の下で行っているところ,本件開示請求に係る行政文書の存否について答えれば,特定の外国との情報交換の実施の有無が明らかとなり,外国との信頼関係が損なわれ,当庁の今後の外国との情報交換の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるほか,当庁の調査対象団体及びその関係者は,当庁による調査活動に対して種々の対抗措置を講ずべく活動しているところ,当該行政文書の存否について答えれば,当庁の調査の関心事項等を推測され,それら団体等において,その活動を潜在化・巧妙化させるなどの対抗措置を講じるなどし,当庁の調査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあり,ひいては公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある。したがって,当該行政文書の存否について答えるだけで,法5条3号,4号及び6号柱書きに該当する不開示情報を開示することとなるので,法8条により,その存否を明らかにしないで,当該開示請求を拒否する。」というものである。


(3)本件存否応答拒否の妥当性について

ア 外国出張等の業務について

公安調査庁は,破壊活動防止法(以下「破防法」という。)及び無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(以下「団体規制法」という。)に基づき,①破壊的団体及び無差別大量殺人行為を行った団体(以下「破壊的団体等」という。)の規制に関する調査を行うこと,②破壊的団体等に対する処分の請求を行うこと及び③無差別大量殺人行為を行った団体に対する規制措置を実施することにより,もって公共の安全の確保を図ることをその任務としている。

そして,破防法27条又は団体規制法29条では,公安調査庁の職員である公安調査官が,これらの法律による規制に関し,必要な調査を行うことができる旨規定されており,その調査のために必要がある場合には外国の関係機関と情報交換を行うこともできるところ,各方面において国際化・グローバル化が進展している昨今の状況下においては,国内において破壊的団体等に関する調査を行うことはもちろんのこと,当該団体の国外諸勢力との連携の有無等の国外における活動状況や当該団体の活動に影響を与える可能性のある国際情勢等についても的確に把握する必要があり,そのためには,外国の関係機関との緊密な連携を図り,情報交換を行うことが必要不可欠である。

したがって,公安調査庁においては,外国の関係機関との情報交換を行っており,同庁の職員が,外国へ出張し,当該国の関係機関と接触して必要な情報交換を行っているものである。


イ 本件開示請求に係る行政文書の存否を明らかにすることによる不開示情報該当性について

公安調査庁が外国の関係機関との問で行っている情報交換においては,当該国及び我が国の公共の安全の確保に関する重要かつ機微な内容の情報交換が行われており,交換した情報の内容はもちろんのこと,当該情報交換の実施の有無も含めてこれを公にしないとの信頼関係を前提として行われるものである。

そして,本件開示請求に係る行政文書の存否について答えれば,公安調査庁の職員が特定時期に特定国へ出張して活動した事実の有無,すなわち同庁と当該国との特定時期における情報交換の実施の有無が明らかとなるものであり,これを公にするだけでも,同庁と情報交換を行っている外国との信頼関係を損なわせるおそれがあり,法5条3号に該当する。

また,そのように公安調査庁と外国との信頼関係が損なわれれば,同庁の今後の外国の関係機関との情報交換の事務の遂行に支障を来すおそれがあるほか,同庁の調査対象団体は破壊的団体等であり,当該団体やその関係者は,同庁の動向を注視するとともに種々の対抗・妨害措置を講じているところ,前記のとおり,本件開示請求に係る行政文書の存否を答えれば,特定時期における同庁と特定国との情報交換の実施の有無が明らかになり,調査対象団体等に,同庁における調査の関心事項やその進捗状況等を把握され,これに対する対抗・妨害措置を講じられることにより,同庁の適正な調査事務の遂行に支障を来すおそれがあり,ひいては公共の安全と秩序の維持にも支障を及ぼすおそれがあることから,法5条4号及び6号柱書きに該当する。

このように,本件開示請求に係る行政文書の存否について答えるだけで,法5条3号,4号及び6号柱書きに該当する不開示情報を開示することとなるので,法8条により,その存否を明らかにしないで,本件開示請求を拒否したものである。


3 異様申立人の主張について

異議申立人は,2016年1月17付け異議申立書(上記第2の2(1)。以下「異議申立書」という。)において,大要,以下のとおり主張するが,いずれにも理由がない。

(1)時間の経過に伴う原処分への影響について

異議申立人は,「本開示請求は2015年10月の時点で,3年以上も前の2012年4月,5月に海外出張が行われたかどうかをチェックするものである。この種の情報は時間の経過とともに価値が低減しているはずで,なぜ3年以上も前に特定国A・特定国B・特定国Cに出張したか否かを答えるだけで,国の安全が害されたり,公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼしたり,国の事業に支障を及ぼすおそれがあると処分庁が考えているのか理解不能である」として,時間の経過により,本件開示請求に係る行政文書の存否が不開示情報に該当することはなくなるがごとき旨主張する。

ア 時間の経過によっても不開示情報であることに変わりがないこと

しかしながら,以下に述べるとおり,本件開示請求に係る行政文書の存否が不開示情報であることは,時間の経過によって変わるものではない。

すなわち,公安調査庁が外国の関係機関との間で行っている情報交換においては,前記のとおり,当該国及び我が国の公共の安全の確保に関する重要かつ機微な内容の情報交換が行われており,交換した情報の内容はもちろんのこと,当該情報交換の実施の有無も含めてこれを公にしないとの信頼関係を前提として行われているものであって,その情報交換の時期如何によらず,その情報交換の実施の有無を含めて公にしないことが原則とされているものであり,相手国の意向を踏まえることなく,特定時期における特定国との情報交換の実施の有無を明らかにすれば,同庁と情報交換を行っている外国との信頼関係が損なわれるおそれがあり,その結果,同庁の今後の外国との情報交換事務の適正な遂行に支障を来すおそれがある。

また,前記のとおり,本件開示請求に係る行政文書の存否を答えれば,特定時期における公安調査庁と特定国の情報交換の実施の有無が明らかとなり,同庁における調査の関心事項等を把握され,これに対する対抗・妨害措置を講じられることにより,同庁の今後の調査事務の適正な遂行に支障を来すおそれがあるものであって,やはり情報交換の時期如何によらず,その実施の有無を含めて明らかにすべきではない。

したがって,時間の経過によっても,本件開示請求に係る行政文書の存否が不開示情報であることに何ら変わりがない。


イ 仮に時間の経過が不開示情報該当性に影響を及ぼし得るとしても,本件関示請求に係る行政文書の存否は,依然として不開示情報であること

仮に時間の経過が不開示情報該当性に影響を及ぼし得るとしても,以下に述べるとおり,本件開示請求に係る行政文書の存否が不開示情報に該当することは明らかである。

すなわち,本件開示請求に係る行政文書の存否を答えることにより,その請求時点である平成27年10月からわずか約3年半前における特定国との情報交換の実施の有無を明らかにすることとなり,そのような比較的近時における特定国との情報交換の実施の有無を公にすれば,公安調査庁と情報交換を行っている外国との信頼関係が損なわれるおそれが十分にあり,その結果,同庁の今後の外国との情報交換の事務の適正な遂行に支障を来すおそれがあることもまた明らかである。

また,本件開示請求時点である平成27年10月からわずか3年半前という比較的近時における特定国との情報交換の実施の有無を明らかにすれば,公安調査庁の調査対象団体等において,比較的近時における同庁と外国との情報交換の有無が把握できることとなり,これに基づき,対抗・妨害措置を講ずることが容易となり,同庁の今後の調査の事務の適正な遂行に支障を来すおそれが十分に認められる。

したがって,仮に時間の経過が不開示情報該当性に影響を及ぼし得るとしても,本件開示請求に係る行政文書の存否は,依然として不開示情報に該当する。


(2)他の行政機関等が本件開示請求と同内容の開示請求について,行政文書の不存在をその不開示理由としていることについて

異議申立人は,厚生労働省等の行政機関及び独立行政法人に対して,本件開示請求と同内容の開示請求を行ったところ,行政文書の不存在を理由として不開示とされており,処分庁においても,同様に本件開示請求に係る行政文書の存否を明らかにすべきである旨主張するが,各行政機関等においては,それぞれその任務を異にしており,したがって,同内容の行政文書の開示請求であっても,当該行政文書の存否を明らかにすることによる影響がいかなるものであるかは,各行政機関等の任務や実務等に応じて決すべきであって,各行政機関等の任務や実務等を踏まえることなく,一律に同様の判断をすべきであるとの異議申立人の主張に理由はない。


(3)防衛大臣が行った「外国政府に対する秘密の提供に係る受領書等の不開示決定に対する件」について

異議申立人は,「防衛大臣が行った「外国政府に対する秘密の提供に係る受領書等の不開示決定に関する件」に対して行われた異議申立てへの答申」において,「法8条の適応はせずに,外国との秘密の交換をした旨が記載された文章が存在することは明らかにしている」として,本件開示請求に係る行政文書についても,その存否を明らかにすべきである旨主張する。

しかしながら,異議申立人が引用する前記案件(以下「引用案件」という。)における答申は,以下に述べるとおり,むしろ処分庁の主張に沿うものであって,異議申立人の主張に沿うものではなく,同答申を前提に本件開示請求に係る行政文書の存否を明らかにすべきとする異議申立人の主張には理由がない。

引用案件は,その答申書によれば,その開示請求の内容が,防衛大臣に対して,「外国政府に対する秘密の提供に係る受領書等(期間は平成15年3月24日から同21年12月末まで。)」の開示を請求したものであり,その対象となる行政文書が,防衛省・自衛隊が秘密に指定した文書等を外国政府に提供する際に,当該外国政府が受領したことを確認するために使用した書類及び簿冊であって,提供した文書の件名,受領者の氏名・国名等や提供者の氏名等を記載した文書であった。

そして,引用案件の答申は,当該文書における外国政府の受領者の氏名,国名等及び受領年月日を不開示とした点につき,「諮問庁は,外国政府との秘密情報に係る情報交換は,一般に,交換情報の内容や情報交換の相手方・交換時期を公にしないとの信頼関係を前提として行われるものであることから,本件対象文書のうち,外国政府の受領者の氏名,国名等及び受領年月日を公にした場合,我が国と他国との信頼関係が損なわれるおそれがあると説明する。諮問庁の上記説明は理解できるものであり,また,本件対象文書を見分した結果にかんがみても,本件通達に基づいて外国政府に対し秘密情報を提供するという業務は,通常,相互の信頼関係に基づき秘匿を前提に行われるものであって,当該情報を明らかにすることは,外国政府の意思に一方的に反するものであり,他国との相互の信頼に基づき保たれている正常な関係に悪影響を及ぼすおそれがあると認められる。」として,諮問庁の行った不開示の判断を妥当とした。

以上によれば,引用案件の答申は,情報交換を行っている外国名,交換する情報の内容及びその交換の実施時期を明らかにすると,外国との信頼関係を損なわせるおそれがあることを肯定しているものであり,むしろ処分庁の主張に沿うものではあって,異議申立人の主張に沿うものではないところ,引用案件における開示請求は,前記のとおり,「外国政府に対する秘密の提供に係る受領書等」とされていたことから,当該開示請求に係る行政文書の存在自体は認めた上で,秘密を受領した外国政府の受領者の氏名,国名等及び受領年月日を不開示としたのであって,本件開示請求のように,開示請求に係る行政文書の存否を答えれば,特定時期における特定国との情報交換の実施の有無を明らかにするとの関係にないことに留意すべきであり,引用案件を基に,本件開示請求に係る行政文書の存否を答えるべきだとする異議申立人の主張にも理由がないことは明らかである。


(4)外国出張業務と原処分との関係について

異議申立人は,「信じられないのは,処分庁が海外出張に行くこと自体を秘密にしようと考えていることである。処分庁のホームページには,海外出張を伴う業務があることを前提に職員を募集している箇所があることや,外務省発表の旅券統計上,平成22年1月から12月までの間に,28,124冊の公用旅券が発行されており,この中に処分庁が使うために発行された旅券が1冊も無いというのは到底考えられないことから,処分庁が海外出張をする組織であることは公知の情報ということができる。」などとして,公安調査庁の職員が外国へ出張することが公知の事実であることを理由に,本件開示請求に係る行政文書の存否を明らかにすべきである旨主張する。

しかしながら,本件開示請求に対する不開示決定は,そもそも公安調査庁が外国との情報交換を行っており,同庁の職員が外国に出張していることを前提とした上で,本件開示請求に係る行政文書の存否を答えれば,特定時期における特定国との情報交換の実施の有無が明らかになることから,その存否を答えなかったものである。

公安調査庁のホームページにおいても,職員が外国に出張する業務があること及びその出張先についておおまかな地域は記載しているが,当然,同庁がいかなる外国と情報交換を行っているのかはもちろんのこと,その具体的な実施時期等についても一切明らかにしていない。

このように,公安調査庁は,外国との情報交換を行っており,その職員が外国へ出張していることを前提に,本件開示請求に係る行政文書の存否について答えれば,特定時期における特定国との情報交換の実施の有無が明らかになることをもって,その存否を明らかにせず本件開示請求を拒否したのであって,同庁の職員が外国に出張していることは公知の事実であることから,本件開示請求に係る行政文書の存否を明らかとすべきであるとする異議申立人の主張には理由がない。


4 結論

本件については,以上のことから,当庁による本件開示請求に係る行政文書の存否は,法5条3号,4号及び6号の不開示情報に該当すると認められることから,本件異議申立人の請求に係る行政文書は,法8条に基づき不開示決定を行ったものであり,本件異議申立てを棄却すべきである。


第4  調査審議の経過

当審査会は,本件諮問事件について,以下のとおり,調査審議を行った。

① 平成28年2月10日  諮問の受理

② 同日          諮問庁から理由説明書を収受

③ 同年3月14日     異議申立人から意見書を収受

④ 同年8月4日      審議

⑤ 同年9月12日     審議


第5  審査会の判断の理由

1 本件開示請求について

本件開示請求は,行政文書開示請求書の記載によれば,「2012年4月・5月に特定国A・特定国B・特定国Cに出張した記録,現地で活動した記録」(本件対象文書)の開示を求めるものである。

本件開示請求に対し,処分庁は,本件対象文書の存否について答えるだけで,法5条3号,4号及び6号柱書きに該当する不開示情報を開示することとなるので,法8条により,その存否を明らかにしないで,本件開示請求を拒否するとして,不開示とする原処分を行った。

これに対し,異議申立人は,原処分の取消しを求めるが,諮問庁は原処分維持が適当としていることから,以下,本件対象文書の存否応答拒否の適否について検討する。


2 本件対象文書の存否応答拒否の適否について

(1)諮問庁は,本件対象文書は,公安調査庁の職員が特定時期に特定国へ出張し,当該国において活動しなければ存在しないものであることから,その存否について答えることは,同庁の職員が特定時期に特定国へ出張し,当該国において活動した事実の存否を明らかにする情報といえると説明するところ,本件開示請求書には,開示を求める文書として,特定月及び特定国を明示した上で,「当該国に出張した記録,現地で活動した記録」と記載されていることから,諮問庁の上記説明は是認できる。


(2)そこで,公安調査庁の職員が特定時期に特定国へ出張し,当該国において活動した事実の存否を明らかにする情報の不開示情報該当性について検討する。


(3)諮問庁は,公安調査庁は,外国の関係機関との間で,当該国及び我が国の公共の安全の確保に関する重要かつ機微な内容の情報交換を行っており,当該情報交換は,交換した情報の内容はもちろんのこと,当該情報交換の実施の有無も含めてこれを公にしないとの信頼関係を前提として行われており,相手国の意向を踏まえることなく,特定時期における特定国との情報交換の実施の有無を明らかにすれば,公安調査庁と情報交換を行っている外国との信頼関係が損なわれるおそれがあり,その結果,同庁の今後の外国との情報交換事務の適正な遂行に支障を来すおそれがあり,また,公安調査庁の調査対象団体等に公安調査庁における調査の関心事項等を把握され,これに対する対抗・妨害措置を講じられることにより,同庁の今後の調査事務の適正な遂行に支障を来すおそれがあり,ひいては公共の安全と秩序の維持にも支障を及ぼすおそれがあると説明する。


(4)公安調査庁設置法によれば,公安調査庁は,破防法の規定による破壊的団体の規制に関する調査及び処分の請求並びに団体規制法の規定による無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する調査,処分の請求及び規制措置を行い,もって,公共の安全の確保を図ることを任務とするものとされており(公安調査庁設置法3条),その任務を達成するため,①破壊的団体の規制に関する調査に関すること,②無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する調査に関すること,③破壊的団体に対する処分の請求に関すること,④無差別大量殺人行為を行った団体に対する処分の請求に関すること,⑤無差別大量殺人行為を行った団体に対する規制措置に関することなどが所掌事務として定められ(同法4条),破防法27条又は団体規制法29条により,公安調査官は,当該各規制に関し,これらの法律の各3条に規定する基準の範囲内において,必要な調査をすることができるとされている。


(5)上記各規定から明らかなとおり,公安調査庁は,破防法及び団体規制法に基づき,公共の安全の確保を図るため,様々な調査活動を行っているものと認められるところ,その活動の内容,性質等に鑑みると,外国の関係機関との間で行った当該国及び我が国の公共の安全の確保に関する重要かつ機微な内容の情報交換について,これらの情報が明らかになると,公安調査庁の調査対象団体等に公安調査庁における調査の関心事項等を把握され,これに対する対抗・妨害措置を講じられることにより,同庁の適正な調査事務の遂行に支障を来すおそれがあり,ひいては公共の安全と秩序の維持にも支障を及ぼすおそれあるとする諮問庁の説明は首肯できる。


(6)そうすると,公安調査庁の職員が特定時期に特定国へ出張し,当該国において活動した事実が明らかになる本件対象文書の存否は,法5条4号の不開示情報に該当すると認められる。


(7)したがって,本件対象文書について,その存否を答えるだけで法5条4号の不開示情報を開示することとなるため,同条3号及び6号柱書きについて判断するまでもなく,法8条の規定により,その存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否したことは,妥当である。


3 異議申立人のその他の主張について

異議申立人は,その他種々主張するが,当審査会の判断を左右するものではない。


4 本件不開示決定の妥当性について

以上のことから,本件対象文書につき,その存否を答えるだけで開示することとなる情報は法5条3号,4号及び6号柱書きに該当するとして,その存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定については,当該情報は同条4号に該当すると認められるので,同条3号及び6号柱書きについて判断するまでもなく,妥当であると判断した。


(第1部会)

委員 岡田雄一,委員 池田陽子,委員 下井康史