令和2年6月25日判決言渡
情報公開等請求事件

判      決

主      文
 被告は,原告に対し,33万円及びこれに平成29年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 原告のその余の請求を棄却する。
 訴訟費用中,令和元年7月8日付け訴えの変更申立書に係る手数料4万円は原告の負担とし,その余は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1  請求
 被告は,原告に対し,1100万円及びこれに対する平成29年5月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2  事案の概要
 本件訴えの概要
 近畿財務局長は,原告が,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)4条1項に基づき,請求する行政文書の名称等を別紙2記載のとおりとする行政文書開示請求(以下「本件開示請求」という。)をしたのに対し,平成29年5月2日付けで,行政文書の一部開示決定(以下「本件処分」という。)をしたところ,本件処分に基づき原告に開示された文書に,別紙3記載の217件の応接録(以下「本件217件の文書」という。)は含まれていなかった。
 本件は,原告が,本件217件の文書は本件開示請求に係る行政文書のうち別紙2記載(6)の「当該土地の賃貸,売払いに関する特定学校法人Aとの面談・交渉記録」又は同(7)の「当該土地の賃貸,売払いに関する特定学校法人A以外の者との面談・交渉記録」(以下,併せて「本件面談・交渉記録」という。)に該当するにもかかわらず,近畿財務局長は本件開示請求のうち本件面談・交渉記録に係る部分を漫然と放置し,あるいは,本件処分において本件217件の文書につき違法に不開示としたなどと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,被告に対し,損害賠償として1100万及びこれに対する本件処分の日である平成29年5月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

 前提事実
 以下の事実は,当事者間に争いがないか,掲記の各証拠(枝番のあるものは特記しない限り全枝番を含む。以下同じ。)等により容易に認めることができる。
(1)  特定学校法人Aに対する国有地の売払いの経緯等
 近畿財務局長は,国の契約担当官として,特定学校法人A(以下「A」という。)との間で,特定土地所在の国有地(以下「本件土地」という。)について,平成27年5月29日付け「国有財産有償貸付合意書」を取り交わし,同年6月8日から平成37年6月7日までを貸付期間とする借地契約を締結した(甲2)。
 その後,近畿財務局長は,国の契約担当官として,本件土地について,Aとの間で,平成28年6月20日付け「国有財産売買契約書」を取り交わし,売買契約を締結した(甲3)。

(2)  本件処分に至る経緯等
 原告は,平成29年3月2日付けで,近畿財務局長に対し,情報公開法4条1項に基づく行政文書開示請求(本件開示請求)をしたところ,同請求の対象とする行政文書は,別紙2記載のとおりであり,本件面談・交渉・記録(同別紙記載(6)及び(7))を含むものであった(甲20,乙2)。

 近畿財務局長は,平成29年5月2日付けで,原告に対し,本件開示請求につき一部開示決定(本件処分)をした。本件処分に係る行政文書開示決定通知書の「開示する行政文書の名称」の項には,本件開示請求に係る開示請求書の記載(別紙2の記載)がそのまま転記されており,また,「不開示とした部分とその理由」の項には「別紙のとおり」と記載され,同通知書別紙に一部不開示とした対象文書名及び内容,不開示部分,不開示とした理由等が一覧表で記載されていた。(甲1,20,乙1,2)

 近畿財務局長は,平成29年5月15日,原告に対し,本件処分に基づく行政文書の開示として,スキャナにより読み取ってできた電磁的記録を光ディスクに複写して交付した。これにより原告に開示された文書(乙4)に,本件217件の文書を含め本件面談・交渉記録に該当する文書は含まれていなかった。

(3)  本件訴えの提起
 原告は,平成29年6月6日,被告に対し,本件開示請求について別紙4別紙開示対象文書目録記載の文書を開示しないことが違法であることの確認等を求めて,本件訴えを提起した(顕著な事実)。

(4)  本件217件の文書の開示等
 財務省は,平成30年3月以降,本件土地のAへの売払い(以下「A案件」という。)に関する財務省職員による決裁文書の改ざんや応接録の廃棄の経緯等についての調査を行い,同年5月23日,財務省及び近畿財務局の職員が手控えとして保有し,廃棄されずに残っていることが確認された応接録や,財務省及び近畿財務局のサーバ及び職員のコンピュータ上に残された電子ファイルの探索等により確認できた応接録であるとして,本件217件の文書を公表するとともに,同年6月4日付け「A案件に係る決裁文書の改ざん等に関する調査報告書」(以下「本件調査報告書」という。)を公表した(甲25,26)。本件217件の文書は,本件開示請求の対象となる行政文書のうち本件面談・交渉記録に該当するものである(別紙3の「開示請求書の該当項目」欄参照)。
 近畿財務局長は,平成31年4月2日付けで,本件処分について,本件217件の文書のうち本件処分当時に行政文書として近畿財務局が保有していたものに関して不開示とした部分を取り消し,本件217件の文書を不開示情報が記録されている部分を除き開示する旨の決定(以下「本件再処分」という。)をした(乙7,8)。

(5)  訴えの変更
 原告は,令和元年7月8日,上記1のとおりの損害賠償請求に訴えを変更する旨の申立てをし,当裁判所は,同月30日付けで,行政事件訴訟法21条1項に基づき,これを許可する旨の決定をした(顕著な事実)。

 争点
(1)  国家賠償法上の違法性及び故意の有無

(2)  損害の有無及びその額

 当事者の主張
(1)  争点(1)(国家賠償法上の違法性及び故意の有無)について
(原告の主張)
 近畿財務局長は,本件217件の文書が本件開示請求に係る行政文書(本件面談・交渉記録)に該当するにもかかわらず,これら文書について開示とも不開示とも決定することなく,本件開示請求のうち本件面談・交渉記録に係る部分を漫然と放置し,その後,本件訴訟において原告及び裁判長から厳しく追及されたため,本件開示請求から2年以上も経過した後になって,ようやく本件再処分をして,本件217件の文書を開示した。

 仮に,被告が主張するとおり,本件217件の文書については本件処分において不開示とされたものであるとしても,本件217件の文書のうち,少なくとも本件再処分で不開示とされた部分を除く部分については,情報公開法上,不開示とすべき理由がなかった。

 以上のとおり,近畿財務局長は,本件217件の文書が本件開示請求に係る行政文書に該当するにもかかわらず,これら文書について開示とも不開示とも決定することなく,本件開示請求のうち本件面談・交渉記録に係る部分を漫然と放置し,あるいは,本件217件の文書につき理由なく不開示としたものであるところ,これは,財務省理財局長が国会審議においてA側との応接録は既に廃棄した旨の答弁をしていたことなどから,意図的に本件2.17件の文書を隠蔽・隠匿したものであり,これらの近畿財務局長の行為が,国家賠償法上,故意の違法行為に該当することは明らかである。

(被告の主張)
 近畿財務局長は,情報公開法が定めるところに従い,本件開示請求に対する終局的な応答として本件処分を遅滞なく行ったものである。現時点において,本件217件の文書のうち本件処分時に近畿財務局が行政文書として保有していたものと保有していなかったものとを特定して区別することはできないが,保有していたものについては,本件処分において不開示とされたものと解される。他方で,本件処分時に保有していなかった文書については,近畿財務局長に開示義務がなかったということとなる。
 したがって,近畿財務局長が,職務上の法的義務に違反して本件開示請求のうち本件面談・交渉記録に係る部分を漫然と放置し,開示を遅らせたことはない。

 上記のとおり,近畿財務局長は,本件217件の文書のうち本件処分時に近畿財務局が行政文書として保有していたものについて,不開示とする本件処分をしたものであるが,この行為が国家賠償法上違法であることについては,争う。
 ただし,近畿財務局が,本件処分時において,本件217件の文書の全部又は一部を行政文書として保有していた可能性はある。したがって,近畿財務局長が本件217件の文書のうち本件処分時に近畿財務局が行政文書として保有していたものについて全部不開示としたことが,情報公開法に違反するものであることは,積極的には争わない。

(2)  争点(2)(損害の有無及びその額)について
(原告の主張)
 原告は,近畿財務局長による上記のとおりの違法行為により,本件217件の文書の開示を適時に受ける権利を侵害された。
 近畿財務局長が,故意に上記違法行為を行ったことは,民主主義国家の根幹を揺るがし,情報公開法の趣旨を全く無視するものであって,被告が本件訴訟において,本件処分時に本件217件の文書がどの行政機関においてどのように保管されていたのかに関して現在のみならず今後も特定できないなどという不合理な答弁に終始することからも,その違法性は極めて高いといわざるを得ない。これにより原告が被った精神的苦痛は甚大であり,金銭に換算するとすれば1085万円(大阪地方裁判所損害賠償請求事件で認容された一文書当たり5万円を参考に換算。)を下らないが,本件訴訟においては,そのうち1000万円を請求する。
 また,本件訴訟に係る弁護士費用としては,100万円が相当である。

(被告の主張)
 争う。
 原告は,既に,本件再処分に基づき,本件217件の文書の開示を受けている。本件217件の文書が本件再処分まで開示がされなかったことによって,原告にどのような精神的苦痛が生じたのか明らかではなく,原告に,金銭をもって慰謝すべき精神的苦痛が生じたとは認められない。仮に,原告に何らかの精神的苦痛が生じたとしても,その精神的苦痛とは,本件処分から本件再処分までの約2年弱の間,本件217件の文書の開示が受けられず,これらに記載された情報に触れられなかったことによるものをいうと解されるところ,1000万円もの多額な金銭によって慰謝されるべき精神的苦痛が生じたものでないことは明らかである。

第3  当裁判所の判断
 争点(1)(国家賠償法上の違法性及び故意の有無)について
(1)  認定事実
 前記前提事実に加え,甲第26号証(本件調査報告書)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実を認めることができる(本件調査報告書は,A案件に関する決裁文書の改ざん等について,財務省自らの調査によって明らかになった事項をまとめて公表されたものであり,相応の信用性が認められる。)。
 A案件に関する問題の概要等
 前記前提事実(1)の売買契約において,本件土地の売買代金は不動産鑑定評価による更地価格から地下埋設物の撤去費用を差し引いた金額とされていたところ,平成29年2月9日,本件土地のAへの売払いに関し,内閣総理大臣及び同夫人の関与や価格算定手続の妥当性について疑問を呈する内容の報道がされた。
 同月15日以降,A案件の問題が国会審議で取り上げられ,同月17日には,内閣総理大臣から,本人や同夫人のほか,事務所も,A案件に一切関わっていない旨の答弁があった。
 その後も国会審議においては,地下埋設物の撤去費用に関する質問が相次いだほか,この点も含めた詳細な経緯や,政治家関係者からの働き掛けの状況について質問があり,また,A案件に関する応接録の有無等も論点として浮上することとなった。

 A案件に関する応接録の元々の保管状況
(ア)  A案件に関する応接録は,財務省行政文書管理規則細則に基づき,作成時点でその保存期間を「1年未満保存(事案終了まで)」と定めていたが,その具体的な終期については,関係職員らの認識が必ずしもの統一されておらず,Aとの間で売買契約が締結された平成28年6月20日をもって事案が終了したと考えていた職員がいた一方で,当面は保存し続けるのだろうと考えていた職員もいた。

(イ)  国有財産の管理・処分に関する事務に従事する職員は,一般に,当該国有財産について外部から照会等を受ける場合に備えて,過去に照会等があった際の応接録のうち後日必要になるかもしれないと考えたものを手元に保存しておくことが多く,A案件を担当する近畿財務局の職員も,紙媒体の応接録を保管していたほか,その電子ファイルをサーバ上に保存していた。
 また,近畿財務局において作成された応接録の一部は,随時,財務省理財局国有財産審理室にも共有されていた。同室の職員は,そうした応接録を紙媒体の形で保存していたほか,サーバ上の共有フォルダや各職員が使用するコンピュータ上に電子ファイルの形で保存していた。

 政治家関係者との応接録の廃棄等の経緯
 財務省理財局は,A案件の問題が国会審議で取り上げられた平成29年2月以降,A案件に関する応接録の保存期間について,Aとの間で売買契約が締結された平成28年6月20日をもって「事案終了」に当たるものと整理し,国有財産審理室長から理財局長まで報告した上で,近畿財務局にもその内容が伝えられた。
 近畿財務局の職員は,平成29年2月21日,A案件の問題を追及する国会議員団との間で面会を行った。財務省理財局と近畿財務局は,この面会に先立ち,あらかじめ相談をし,政治家関係者からの不当な働き掛けはなかったことなどのほか,政治家関係者から照会を受けた際の応接録は残されていない旨を回答することを決めた。
 財務省理財局総務課長は,同日頃,A案件に関する政治家関係者からの各種照会状況について理財局長に報告をした際,理財局長から,応接録の取扱いは文書管理のルールに従って適切に行われるものであるとの考えを示されたことから,政治家関係者との応接録を廃棄するよう指示されたものと受け止め,その旨を国有財産審理室長,更に近畿財務局管財部長に伝えた。この内容は,理財局次長らにも共有された。
 近畿財務局は,財務省理財局からの指示を受けて,政治家関係者との応接録として存在が確認されたもの(紙媒体及び電子ファイル)を廃棄した。財務省理財局内においても,保存されていた政治家関係者との応接録の廃棄を進めたが,サーバ上の共有フォルダに保存されていた電子ファイルについては,廃棄されずに残っているものも存在した。

 A側との応接録の廃棄等の経緯
 財務省理財局は,平成29年2月22日,国会議員から,A案件におけるA側との応接録の存否についての確認を受けた。また,財務省理財局は,同月23日,一部政党より,平成25年から平成26年にかけての財務省及び近畿財務局職員とA関係者との接触記録の存否について,ないならばない旨を書面で提出するよう要求された。上記ウのとおり,財務省理財局は,A案件に関する応接録の保存期間は,平成28年6月20日をもって「事案終了」に当たるものと整理していたことから,そのような記録はないものと整理し,上記要求に対し,平成29年2月24日,その旨を記載した書面を提出した。
 理財局長は,同日の衆議院予算委員会において,「昨年6月の売買契約に至るまでの財務局とA側の交渉記録につきまして,委員からのご依頼を受けまして確認しましたところ,近畿財務局とAとの交渉記録というのはございませんでした。」,「面会等の記録につきましては,財務省の行政文書管理規則に基づきまして保存期間1年未満とされておりまして,具体的な廃棄時期につきましては,事案の終了ということで取り扱いをさせていただいております。したがいまして,本件につきましては,平成28年6月の売買契約締結をもちまして既に事案が終了してございますので,記録が残っていないということでございます。」等と答弁した。
 理財局長が上記答弁をした後,理財局総務課長から近畿財務局管財部長に対し,文書管理を徹底すべきとの指示がされた。管財部長は,部内の職員に対し,A案件に関する応接録について,適切な文書管理を行うべき旨を繰り返し周知した。これを受け,保存期間が終了した応接録について,紙媒体で保存されていたもののほか,サーバ上に電子ファイルの形で保存されていたものについても廃棄が進められた。他方で,個々の職員の判断により,廃棄されずに当該職員の手控えとして手元に残っていた応接録もあった。
 また,理財局国有財産審理室においても,保存期間が終了した応接録のうち紙媒体で保存されていたものについて廃棄が進められたが,サーバ上の共有フォルダに保存されていた電子ファイルは,引き続き保存されたままであった。
 このように,財務省理財局及び近畿財務局の一部職員は,保存期間が終了した応接録が必ずしも全て廃棄されず,保存されたままとなっている状況を認識していたが,廃棄を徹底すべきとの認識が必ずしも共有されていなかったことに加え,平成29年3月以降には財務省職員を刑事告発する動きが報道され,同年5月には東京地方裁判所に対し証拠保全の申立てが行われるに至り,それ以上の廃棄は行われなかった。
 これら一連の応接録の廃棄は,国会審議においてA案件が大きく取り上げられる中で,更なる質問につながり得る材料を極力少なくすることを主たる目的とするものであった。

 応接録の開示請求に対する財務省理財局等の対応
 財務省理財局は,平成29年3月以降,会計検査院から,A案件に関する応接録等を提示するように再三にわたり要求を受けていたが,国会審議等において存在を認めていない文書の提出に応じることは妥当ではないと考え,存在しない旨の回答に終始した。
 また,A案件に関する応接録についての開示請求が相次いだが,その都度,「文書不存在」を理由に不開示決定がされた。

 そのような中で,原告から本件開示請求がされた。本件開示請求に至る経緯等は,前記前提事実(2)のとおりであり,近畿財務局長は,原告が本件面談・交渉記録を含む別紙2記載の行政文書につき本件開示請求をしたのに対し,「開示する行政文書の名称」を別紙2記載のとおりとして本件処分をしたが,本件処分に基づき原告に開示された文書に,本件面談・交渉記録に該当するはずの本件217件の文書は含まれていなかった。

 前記前提事実(4)のとおり,財務省は,平成30年5月23日,調査により,財務省及び近畿財務局の職員が手控えとして保有し,廃棄されずに残っていることが確認された応接録や,財務省及び近畿財務局のサーバ及び職員のコンピュータ上に残された電子ファイルの探索等により確認できた応接録であるとして本件217件の文書を公表し,その後,近畿財務局長は,平成31年4月2日付けで本件再処分をして原告に本件217件の文書(ただし,不開示情報が記録されている部分を除く。)を開示した。

(2)  本件処分の内容等について
 上記認定事実によれば,A案件に関する応接録についての開示請求に対しては,その都度,「文書不存在」を理由に不開示決定がされていたというのであり,また,本件処分においても,本件開示請求において開示請求の対象として特定された文書と同一の範囲の文書が「開示する行政文書の名称」として特定され,本件処分に基づき開示された文書には本件217件の文書を含め本件面談・交渉記録に該当する文書は含まれていなかったというのである。これらの事情からすれば,本件処分は,本件開示請求に対する終局的な応答としてされたものであり,本件開示請求のうち本件面談・交渉記録に係る部分に対しては,本件処分において「文書不存在」を理由に不開示とされたものとみるのが自然かつ合理的である。
 そうすると,近畿財務局長が,本件開示請求のうち本件面談・交渉記録に係る部分を漫然と放置したということはできない。
 もっとも,上記認定事実によれば,本件217件の文書は,財務省による調査の過程において,財務省及び近畿財務局の職員が手控えとして保有し,廃棄されずに残っていることが確認された応接録のほか,財務省及び近畿財務局のサーバ及び職員のコンピュータ上に残された電子ファイルの探索等により確認できた応接録であるところ,前者は,元来,組織的に用いるものとして作成されたものであって,廃棄の経緯等によっては,純粋な職員個人の手控えとして保有されていたものとは認め難く,また,後者は組織的に用いるものとして保有されていたことが認められるから,近畿財務局が,本件処分時に,本件217件の文書の少なくとも一部を行政文書として保有していたことは明らかというべきである。したがって,近畿財務局長が本件処分において本件217件の文書について「文書不存在」を理由として不開示としたことは,情報公開法上,明らかに違法である。

(3)  国家賠償法上の違法性及び故意の有無について
 上記認定事実によれば,財務省理財局及び近畿財務局における応接録の廃棄は,国会審議においてA案件についての更なる質問につながり得る材料を極力少なくすることを主たる目的として,組織的に行われたものであり,また,理財局長の国会答弁や財務省理財局の会計検査院への回答と矛盾しないようにするために,応接録についての開示請求に対して,その都度,「文書不存在」を理由に不開示決定がされていた中で,原告に対しても,上記認定のとおりの内容の本件処分が行われたというのである。このようなA案件をめぐる問題の事案としての性質や本件処分に至る経緯に加え,近畿財務局の職員は,保存期間が終了した応接録が必ずしも全て廃棄されず,保存されたままとなっている状況を認識していたことも踏まえると,当該行政機関の長である近畿財務局長が,本件面談・交渉記録に該当する行政文書として少なくとも本件217件の文書の一部が存在していることを認識していなかったなどとは到底考えられない。
 そうすると,近畿財務局長は,近畿財務局が保有していた行政文書を意図的に存在しないものとして扱い,本件処分を行ったというほかなく,このような近畿財務局長の行為が,国家賠償法上,故意の違法行為に該当することは明らかというべきである。

 争点(2)(損害の有無及びその額)について
(1)  精神的損害について
 上記1で認定・説示したとおり,近畿財務局長は,本件処分において本件217件の文書のうち近畿財務局が行政文書として保有していたものを違法に不開示としたものであるところ,これにより,原告は,上記文書につき適時に適正かつ適式な開示決定を受けるという人格的な利益を侵害され,精神的苦痛を被ったものと認められる。
 本件217件の文書は,内閣総理大臣の関与や価格算定手続の妥当性について疑問が呈され,国会審議の対象となるなど政治的ないし公益的な関心が高かったA案件に関する情報が記録された文書であり,原告も,同様の関心から本件開示請求をしたものと合理的に推認される。これに対し,近畿財務局長は,上記1で認定したとおり,国会審議において更なる質問につながり得る材料を極力少なくするという,国民主権の理念に反するともいうべき極めて不適切な動機の下でA案件に関する応接録が廃棄されていた中で,国の有するその諸活動を国民に説明する責務を全うされるようにするといった情報公開法の目的に反して意図的にこれら文書を不開示としたのであり,その違法行為の内容・態様は,相当に悪質であるといわざるを得ない。
 本件217件の文書については,本件処分後に,本件再処分により原告に開示されているが,本件再処分がされたのは,本件開示請求から2年以上も経過した後であって,上記事情があるからといって,違法性の程度や原告の受けた精神的苦痛の程度が軽微であるということはできない。むしろ,本件処分後に財務省自らが平成30年6月4日付けで本件調査報告書を公表して応接録が廃棄された実態等を明らかにし,本件調査報告書で明らかにされた事実関係からしても,本件217件の文書のうちの少なくとも一部については,近畿財務局が本件処分時に保有していたと考えられるのであるから,近畿財務局長としては,本件調査報告書の公表後,速やかに,原告に対し本件217件の文書を開示するなどの対応をしてしかるべきであったということができる。しかしながら,近畿財務局長が本件再処分をして原告に本件217件の文書を開示したのは,本件調査報告書の公表から約10か月が経過した後であり,その間,本件訴訟において,被告は,原告が不作為の違法確認等を求めていることを捉えて,本件訴えは不適法であるから却下されるべき旨の答弁を繰り返すなどしていたのであり,このような近畿財務局長の対応や被告の応訴態度については,甚だ不誠実であったとの批判を免れない。
 他方で,原告に対しては遅ればせながらも既に本件217件の文書が開示されていることなどのほか,開示請求権が情報公開法に基づき公益的見地から付与されているものであることなどにも鑑みれば,原告が主張するほどの多額の金銭をもってしなければ,原告の精神的苦痛を慰謝するに足りないとは到底いえない。
 以上で認定・説示した,本件開示請求の目的,本件217件の文書の内容及び性質,本件処分後の経緯,本件訴訟の審理経過等,本件において認められる一切の事情に鑑みれば,違法な本件処分により原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金銭としては30万円が相当というべきである。

(2)  本件訴訟に係る弁護士費用相当額の損害について
 本件事案の内容,審理の経過及び上記(1)の認容額等を総合考慮すると,3万円をもって,本件訴訟に係る弁護士費用相当額の損害と認めるのが相当である。

 結論
 以上によれば,原告の請求は,33万円及びこれに対する本件処分の日である平成29年5月2日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用については,上記のとおりの審理の経過等に鑑み,令和元年7月8日付け訴えの変更申立てに係る手数料4万円を原告の負担とし,その余を被告の負担とすることとし,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第7民事部